(仮題)とある転生者の異文化体験   作:ピッピの助

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9.6話(宇田川巴視点)

「……なあ、なんか空気が悪くないか?」

 

「巴、私に振らないでよ……」

 

「宇田川さん、山吹さん、どうかしましたか?」

 

「なんでもないです! どうぞ、続けてください!」

 

「はい! 巴の言うとおりです!」

 

「? まあいいわ。それで、合同練習を申し込む際の手順だけど……」

 

氷川先輩があらかじめ想定してたのかってくらい、理路整然と話を詰めてくれた。なんだかんだで話がまとまらないアフターグロウとしては、やっぱり氷川先輩はすごいと思う。あこだって、ロゼリアのみんなは厳しいけど、みんなすごく格好良い先輩だって言ってた。こういうところも、あこが格好良いと思うところなんだろうなって思う。

 

そしてなにより、2人のやり取りを聞いても取り乱さないところがすごい。

 

氷川先輩の話を聞きながら、チラッと件の2人に目をやってみる。2人とも、なんでもないように氷川先輩の話を聞いている。

 

海堂(呼び捨てでいいと言われた)は、ボーっとした感じの顔で話を聞いてて、白鷺先輩は静かな微笑みを浮かべてる。

 

白鷺先輩は本当に綺麗な人だ。芸能人ってバイアスがかかってる気もするが、それにしたって絶世の美女ってやつだと思う。容姿やスタイルは言うまでもないんだけど、立ち居振る舞いが洗練されてるっていうのか? 一般人とは違うオーラが滲み出てて、思わず見とれてしまう。

 

ベースの腕はまだまだこれからだけど、それだって学校とたくさんの芸能活動をこなしているのにだ。しかも始めて数カ月でここまで弾けるんだから、白鷺先輩だってすごい努力をしてるんだと思う。

 

アイドルバンドなんて全然ロックじゃないなと思ってたけど、実際の彼女たちを見て、それが思い込みだっていうのは、よく理解できた。

 

たとえアイドル活動の一環だって、口パクライブを行ってたからって、今、本気でバンドに打ち込んでるんなら、アタシ達と同じバンドマンなんだ。

 

だいたい、それをいったら、アタシたちだってガルパが初めてのライブだ。メンバー全員で納得したことだけど、パスパレ以上にライブ経験が少ない。他のバンドを否定するほど活動してないんだ。

 

みんなに負けないように頑張って、ロゼリアにだって勝てるようになりたい。それだけでいいじゃないか。アタシだって姉の意地ってもんがあるからな。余計なことを考えてる暇はない。

 

そんなわけで、この顔合わせでパスパレの印象が180度変わったアタシだったが、ここに来て白鷺先輩と海堂のやり取りに戸惑ってしまった。

 

事の発端は氷川先輩の言葉だった。

 

みんなで今後の流れを確認しあってるとき、海堂の視線が所存なさ気に動き始めたのだ。集まったメンバーをそれとなく眺めては、また違うメンバーを見る。そんなことを繰り返してた。今、思えば沙綾に視線が行くことが多かったけど、そのときは話に集中できてなさそうだなって印象だった。

 

そこで氷川先輩が海堂に言った。大事な話をしているのだから、もっと集中してください、と。

 

海堂は急に話しかけられて驚いていたけど、それまでの会話はしっかり聞いていたみたいで、こういう流れでしたよね? とサラッと確認していた。

 

内容もバッチリ合ってたので、氷川先輩が勘違いでしたって謝ったんだけど、そこで奥沢さんの一言。

 

こいつ、みなさんの胸を見てただけなんで気にしないでください。

 

海堂が奥沢さんに、よけいなこと言うなよーって話しかけてたけど、アタシたちは胸がどうしたんだ? ってよくわからなかった。

 

海堂とじゃれ合ってた奥沢さんが、こいつは胸が大好きなんで、皆さんの胸を見てたんですよ、と言った。

 

どうやら海堂は、女性の胸に……やましい気持ちを抱くらしい。特に大きいのが好みらしく、このなかじゃあ沙綾の胸が一番好きらしい。

 

沙綾が納得した。たぶん、見られている意識があったのだろう。

 

だけど、その、胸に……やましい気持ちを抱くのか。中年女性が若い男の子を見て、息を荒げているようなものだろうか。いやさすがに、ああいう女性と一緒にするのは失礼か。

 

そんな風に考えていたところで、白鷺先輩が爆弾を投下した。

 

ひかえめに言って、最低ね。

 

さすがにこの一言にはドキッとした。

 

有咲の件もあって、海堂が他の男とは少し違うことはわかっていた。でも、いくら接しやすそうな男だからって、そこまで言うのか、と。

 

沙綾も信じられない顔をして白鷺先輩を見てた。

 

沙綾の家はパン屋をやってて、彼女も頻繁に店番をしてるから、男の厄介さをよく知っているんだとか。だから白鷺先輩の行動が正気とは思えなかったんだろう。

 

氷川先輩は表情を変えず、2人を見てる。氷川先輩がどう思っているのか全然わからなかった。

 

肝心の奥沢さんは、なぜか感心したような顔をしてる。普通、彼氏が貶されたら、彼女は怒るところじゃなかったっけ? なんで奥沢さんは、白鷺先輩よく言ってくれましたね、なんて言ってるんだろうか。

 

そして海堂はというと、少しだけ驚いた顔をして白鷺先輩を見ていた。

 

白鷺先輩はいつも微笑みを浮かべているが、目は小さく開いていて、海堂の様子をジッと伺っている。物怖じした様子はない。海堂の様子をつぶさに観察しようという目をしていた。圧もとんでもない。芸能人はやっぱり私たちと違うって思い知らされる。ひかえめに言って、メチャクチャ怖いです。

 

海堂は、そんな白鷺先輩の顔を見て、少しの間のあと、ニヤッと笑った。

 

さすがにこれはやり過ぎたか!? っと思ったところで、氷川先輩が話を再開した。

 

そして冒頭に至る。

 

 

 

「だいたい、こんな感じかしら。あとは各バンドで決めておきたいことがあったら、各とりまとめ役が他のとりまとめ役に連絡すること。必要ならどこかで打ち合わせの場を設けましょう。可能な限りロゼリアの練習を優先させていただきますが、なんとか調整できるかもしれませんので、早めに連絡を取り合いましょう」

 

「はい。ポピパは香澄たちの思いつきかもしれませんが、ライブを良くするアイデアが出たら連絡します」

 

「アフターグロウもライブは初めてなので、ちょこちょこ確認させてください」

 

「ハロハピも了解です。うちもポピパと同じで、突拍子もないことを考える子がいるんですが、奇跡的に前もってわかった場合は連絡します。当日に知らされた場合は許してください」

 

「演奏の順番とかも連絡させてもらうわ。パスパレはアイドルバンドだから、順番は選ぶと思うし。各バンドが演奏する曲の曲調は連絡してくれると助かるわ」

 

「曲順を考えるのは良いと思いますが、白鷺先輩がしっかり猫を被ってれば大丈夫じゃないですか?」

 

こいつ、仕掛けたぞ!?

 

「……どういうことかしら?」

 

白鷺先輩の笑顔が深くなった……。

 

「人を選ぶってことは癖があるってことですよね。いつものように猫被りを忘れなければ、万人受けするんじゃないかって思ったんですよ。コレ、名案じゃないですか?」

 

海堂は、ですよね? っと満面の笑みを浮かべた。

 

白鷺先輩の纏う空気がドンドン重くなっていく。

 

今度はこっちが危うい。止めたほうがいいか!? と思ったところで、奥沢さんが口を開く。

 

「幹彦、芸能人は日本中の人に見られてるんだよ。あんたの思い込みで無神経なこと言うのは止めなよ」

 

海堂が信じられないといった様子で奥沢さんを見る。

 

「美咲……お前、どっちの味方だよ……」

 

「少なくとも、他の子のことを彼女に黙ってるようなヤツの味方ではないかな」

 

「根に持ってるし!」

 

「待つとは言ったけど、不問にするって言った覚えはないよ」

 

市ヶ谷さんのことか? たしかにアレは驚いたけど、なんていうか、本当に2人の関係がわからないな。

 

ニコッと笑う奥沢さん。冷や汗を流す海堂。

 

海堂が小さく息を吐いた。

 

「……まあ、白鷺先輩、すいません。言い過ぎました」

 

「いいのよ。むしろ言葉が理解できてることに感心してるわ。海堂くんはとてもすごいのね」

 

「え、なんか、すっげえバカにされてない?」

 

一切、表情を変えない白鷺先輩から言われた言葉に、海堂がすぐさま反応する。

 

私も……バカにされてると思うぞ。

 

「気のせいだって」

 

「ええ、私もそんなつもりはないわ」

 

海堂の言葉に、なぜか奥沢さんがすぐに答え、白鷺先輩がゆっくりと頷いて、奥沢さんの言葉を肯定する。

 

どうやら2人の間で手が結ばれたようだ。

 

「そうかぁ? うーん……」

 

海堂もなにか言いたそうにしてるが、奥沢さんの笑顔を見るたび、唸って言葉を止めてしまう。

 

「どうやらバンドには関係なさそうですし、問題はありませんね。それでは今日は解散にしましょう。なにかあったら連絡をしてください」

 

さっすが氷川先輩! まったく動じる様子がないぜ!

 

未だに戸惑うアタシと沙綾を置いて、氷川先輩はサッと引き上げていった。

 

問題の3人をチラっと見る。

 

「だいたいさあ、いくら相手が気にしないからって、胸をジロジロ見るのはどうかと思うんだって」

 

「そうね。人の外見に惹かれる気持ちはわかるけど、それが露骨になりすぎるのはダメね。花音の彼氏として、それはどうなの?」

 

「いや、でもさ、やっぱ気になるものはつい見ちゃうっていうかさ……」

 

「じゃあ隣にいる彼女は気にならないってわけ?」

 

「花音がそばに居て、他の女に目がいく理由がそれだけって、どうなのかしら? 海堂くん、あなたは本当に花音のことが好きなの?」

 

「いや花音は好きだよ。でもそれとこれとは別っていうか……」

 

まだ言い合ってる。というか、2人による尋問になってる。

 

沙綾をチラッと見る。

 

沙綾もこちらを見ていた。

 

アタシたちは頷きあった。

 

「それじゃあ、アタシもこの辺で失礼するな」

 

「うん。私もポピパに合流するから、3人とも、また今度ね」

 

1人なら空気が読めないと言われるが、2人なら怖くない。

 

「待って、2人とも、このタイミングで帰らなくてもいいだろ?」

 

「幹彦は黙ってな。2人ともお疲れ様」

 

「沙綾ちゃんと巴ちゃん、また連絡させてね」

 

海堂が引き止める声が聞こえるが、あえて無視する。

 

お前の言葉が原因なんだから、きちんと責任もてよな。だいたい昼ドラみたいな痴話喧嘩は勘弁してくれ。そういうのは、ひまりみたいに恋に憧れてるヤツしか好まないんだから。

 

 

 

3人と離れたあと、アタシと沙綾はバンドメンバーの元へと向かっていた。

 

「なんか、すごかったね」

 

道中の会話はやっぱりさっきのこと。

 

「ああ、あんな男もいるんだな」

 

「ね。私もパン屋の店番をよくするけど、あんな人は来たことないなー」

 

「やっぱり大抵は怖いやつらだよな」

 

「そうそう。弟の純には絶対に見せたくない人ばっかり。海堂くんは体がすっごい大きくて強面だったけど、言葉のわかる人だったよね」

 

沙綾の家には、純という名の男の子がいる。紗南という名の妹とともに、沙綾が溺愛している姉弟だ。アタシもあこがいるから、下の子が可愛い気持ちはよくわかる。

 

「あと、元気だったよな。アタシも商店街の人と祭りでよく話すけど、商店街の男の人たちってすごく良い人なんだけど、大丈夫か? ってくらい大人しい人ばかりだから、あんな活発な男は初めてだったな」

 

「わかる! 商店街の人って良い人だよね。純もああいう人たちみたいになってくれると嬉しいなー」

 

商店街の人たちはみんな優しい。沙綾の気持ちもわかる。でも、アタシにもし弟がいたら、ああいう人になってもらいたいと思ってただろうか。

 

商店街の人たちは優しいんだけど、元気がなさすぎると思うんだ。祭りの準備とか本番に来てくれることがあるんだけど、いつも隣に奥さんとかがいて、奥さんの言うことに諾々と従っているイメージがある。

 

「海堂みたいなのは?」

 

もし弟がいたら、やっぱり海堂みたいに自分の好きなことを好きなようにやる子になってほしいと思う。それこそ、あこみたいに自由に生きてほしいとは思う。まあ、だからって好き勝手暴れるようなヤツには絶対になってほしくないけど。

 

「うーん、悪い人じゃないと思うけど、なに考えてるわからなくて少し怖いかな。それに体がすっごく大きいから、もし暴れるような人だったら、すっごく怖いし」

 

それもわかる。アタシは祭りに出てるから、他の人よりたくさんの大人と接することが多いけど、あんな大きな人は見たことない。なにもしてなくたって圧を感じた。

 

「たしかに。あの大きさじゃアタシたちが束になっても止められないよな。白鷺先輩はよくあんなこと言えたよな……」

 

「あれは怖かったよね。海堂くんが途中でニヤって笑ったときはマズいって思ったし」

 

「だよな! アタシもあのときは覚悟したよ。でも氷川先輩の動じなさはヤバかった」

 

「すごかったよね。ロゼリアの人たち、なんか高圧的だなって思ったけど、さっきの見てたら頼りになる人たちって思えてきたもん」

 

「わかる! ……バンド、楽しみだよな」

 

出会ってすぐに比べて、ロゼリアにもパスパレにも親近感が湧いてきた。

 

みんな、たぶん良い人だし、このバンドたちとならライブだって成功するように思える。

 

「そうだね。巴たちは初めてのライブなんだよね?」

 

「ああ、だからけっこう緊張してる」

 

「そうだよね。私もポピパで初めてライブしたときは緊張したなー」

 

「……怖くなかったか?」

 

「怖い、か。ちょっとはあったかな。でも、香澄が引っ張りあげてくれたからね」

 

「演奏したあとは? そのときは怖いって気持ちはもうなかったか?」

 

「え、演奏したあと? どうだったかな……あ、そうそう。友だちがみんな褒めてくれて嬉しかったな」

 

「初ライブは文化祭だったよな。友だちもたくさん見に来たんだろうな」

 

今度のミニライブは、アタシたちの友だちも誘ってみるつもりだ。だからその子たちからは感想が聞けると思う。

 

「そうそう。でも一番嬉しかったのは、それまで知らなかった人に良かったって言ってもらえたことかな」

 

「知らなかった人?」

 

「うん。上級生なんだけど、名前も知らない先輩に、文化祭の演奏良かったよって言われたのはすごく嬉しかったよ」

 

「……たしかに、アタシも祭りで太鼓を叩いたとき、知り合いに言われるのも嬉しかったけど、思いもよらない人に褒められるのは嬉しかったな。なんか、本当に自分は、人を楽しませる演奏ができたんだって気がするんだよな」

 

「そうそう! あれを聞いて、私はすぐに次のライブに出たいなーって思ったかな」

 

「……なんか、少し見えてきた気がするよ。ありがとな、沙綾!」

 

要は、友だちでもない人からも賞賛されるライブをすればいいんだ。

 

良いライブをして、観客みんなから褒められる。そうすれば、ひまりだって怖いって印象が薄まって、いい演奏するために頑張るぞって気持ちでいっぱいになるはずだ。

 

少し光明が見えてきた。これで全て解決ってわけにはいかないかもしれないけど、希望があるはずだ。

 

沙綾のおかげで、それが見えてきた。

 

「よくわからないけど、どういたしまして。これから、あの3人と一緒にやっていく仲同士、仲良くやってこうね」

 

「そ、そうだな! 2人なら今日みたいに上手くいくかもしれないしな!」

 

早速、気が重くなってしまう。

 

だけど、なんとかなるさ! あの3人もギスギスするのはよくないって思ってる(はず)だから、きっとなんとかなるだろ!

 

未だに追いかけてくる様子のない3人がいた方を見て、意識して不安を追いやるのだった。




原作とは異なる点:
① 沙綾が男性に少しうんざりしてる
② 沙綾の家庭が、弟の純がいることで補助金により家政婦に家事を手伝ってもらえてるから、原作よりも少し良い。ただ、厄介客が原作以上にいるので、結局どっこいどっこい
③ 氷川紗夜、男性である主人公に遠慮気味。本来の初期の彼女はこんなもんじゃないぜ!



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