(仮題)とある転生者の異文化体験   作:ピッピの助

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この物語はフィクションであり、実際のアニメ作品等の登場人物とは一切関係ございません。なんか似ている名前だなと思っても、それは他人の空似です。そういうもんだと思ってください。

前半ドシリアス、後半コメディ……かな?
過去一の長編です。


9.7話(丸山彩視点)

アイドルは女の子の憧れ。

 

テレビでは、たくさんの輝いている女性がいる。

 

楽しく会話をする人、料理の上手い人、スポーツ選手、歌手、女優などなど。

 

女の子はいろんな人に憧れを抱くけど、誰が一番、輝いているかと聞かれたら、アイドルを上げる子がすごく多い。

 

自分たちと同じか、少しだけ上の女の子が楽しく踊って、上手な歌を歌って、迫真の演技をして、バラエティ番組で面白い出来事を話してくれる。みんな、あんな楽しく輝ける子になりたいと思って、アイドルを目指す。

 

私が産まれるずっと前、もう何十年も前にアイドルに必要な歌や演技、ダンスなどを科目に取り入れた私立中学校が出来て、アイドル熱は更にヒートアップしたみたい。

 

似たような学校が各地にできて、地元に根づいた独特なアイドル活動を行ってたりもしてる。学校を盛り上げようと活動するスクールアイドルなんて人や、地元を応援するロコドルなんて人もいる。

 

何個もアイドル学校ができると、その中に名門校と呼ばれる学校も出てきて、それでまた学校同士の競争が生まれて、どんどんアイドルは力をつけてきた。十年くらい前は、いくらアイドルが人気だからって番組を任せられるほどの力はないと言われ、番組内の小さな枠を貰ったり、可愛らしい子役で映画デビューをしてた。

 

今では、アイドルがMCを務める番組が全国放送で流れ、映画の主役に選ばれるのも珍しくはない。歌は週間、月間、年間で一位を取り、アイドルが主催する歌やダンスのイベントが開かれたりもしてる。

 

そして、そんなふうに輝くからこそ、影もある。どのアイドル学校も学年の人数は50人から100人くらいと言われるけど、活躍できる人はその1割にも満たない。実力社会だから当たり前だけど、残りの9割は中学を卒業とともに、普通の高校生に戻っていく。こうした生徒は皮肉を込めて、自分たちのことを“出戻り”と呼んでいる。

 

私、丸山彩も実は出戻りだ。

 

これでも、超名門校と呼ばれるフォースター学園に通ってた。なんと、あの白鳥ひめちゃんと同期なんです!

 

ひめちゃんとは一緒に歌の練習をしたこともあるし、遊んだりもしてたんですよ!

 

……まあ、向こうからすると私は大勢の内の一人だったかもしれないけど。

 

私は花の歌組と呼ばれる、歌を重点的に学ぶ学科にいた。アイドルといえば歌とダンス! という気持ちが強かったので、得意だった歌を選んだ。ダンスだってもちろん練習した。放課後は別の学科の先生がそれぞれの練習場にいて、希望する学生は積極的にレッスンを受けることを推奨されてた。だから、ダンスも毎日練習に行った。怒られてばかりだったけど。

 

肝心の歌も、みんなすごく上手かった。私の成績は下から5番目くらいだけど、下から10位くらいはほぼ同じラインなので、最下位と同じだった。

 

いやあ、流石は名門校だなぁって思いました!

 

あのときは辛かったなあ。たくさん練習して自分が上手くなってる感じはするんだけど、もっと上手な人が同じように成長していたり、私よりも劇的に上手くなっていく人もいて……。

 

ひめちゃんは1年の頃から別格だった。初めてみんなで練習したときのひめちゃんの歌で、みんなが泣き出してしまうって事件も起きたくらい。

 

フォースター学園始まって以来の超逸材! って呼ばれて、1年にして学科の全学年で一番歌が上手いと言われたひめちゃんは、2年に上がるころには全学年中の学科代表生になった。

 

私は卒業のころでも、最初に聞いたひめちゃんの歌声に勝てる気がしなかった。そのくらい、別格の人だった。

 

学園を卒業すると生徒はそれぞれの進路に進む。芸能界で活躍している人は、芸能活動に集中するし、海外留学をして自分を更に磨く人もいる。有名な歌劇団に入る人もいれば、就職して企業付きのダンサーになる人もいる。

 

花を咲かせられなかった人は、普通の高校生に戻る。夢から覚めて、別の道を歩き始めるのだ。

 

そして、諦めの悪い人は、高校に通いながら、企業が運営するアイドル養成所に通う。

 

私も、その諦めの悪い人だった。

 

ひめちゃんや他の代表生を見るたびに、自分に才能がないことはわかっていた。私は思わず人が涙するような歌唱力はないし、人を魅了するダンスもできない。思わず感情移入してしまうような演技もできないし、胸が大きいほうなのでモデルにも向いてない。

 

でも、フォースター学園に通っていて、私は成長していたんです! 少しずつだけど、間違いなく歌が上手くなっていたんです! だから、諦めずに練習していたら、いつかはなれるかもって。

 

憧れてたあの人みたいにキラキラできるんじゃないかって……。そう思ったら、どうしても諦めることが出来なかった。

 

アイドル養成所には、初めは私みたいに出戻り組の仲間がいた。同じ組だった人や、別の組の人もいた。みんなできっといつか夢を叶えよう! って励まし合っていた。

 

でも、気づけばアイドル養成所に通うのは私だけになっていた。

 

考えてみれば当たり前だ。同じ出戻り組っていっても、私より成績がいい人しかいなくて、なかには上から10番目の成績だった人もいた。

 

アイドルは実力社会。チャンスが降ってきたら、より力がある人が掴み取っていく。

 

そうして何人か抜けて、だんだんとアイドル養成所に声がかかることがなくなってきた。その頃にはアイドル養成所を辞める人も出てきた。もう充分、理解できたから辞める、と言って……。

 

それでも私は諦められなかったんです。だってアイドル練習場に通っている間も上手くなってました!

 

でも、やっぱり疑う気持ちも芽生えてた。少し前に辞めた仲間は私よりずっとずっと歌が上手かったから。それこそ、初めて聞いたひめちゃんの歌と同じくらい上手かったかもしれない。

 

スカウトの人は来てくれないけど、私たちは自分たちの歌や踊りをDVDに焼いて送っていた。でも、声がかかることはなかった……。

 

私は成長している……。でも、あのときのひめちゃんに勝てるほど上手くない……。そして……もうじき、学園の卒業式が行われる。

 

そうしたら、たくさんの仲間が入ってくる。私より歌もダンスも上手い仲間が……。

 

また1年。友だちの誘いを断って、好きなテレビを見るのも止めて、どんなに暑い日も寒い日も体力作りのために走った1年をまた繰り返すのか。目の前が暗くなっていく。

 

また一人一人といなくなるのを見送るのか。悔しい思いをしながら、いつかは自分もと、自分を慰めなきゃいけないのか。またこんな孤独を味わうのか。そんな考えがぐるぐると頭をめぐり、練習に集中できなくなり、ついには足がもつれて倒れこんでしまった。

 

でも、心配してくれる人はいない。だって、この練習場には私しかいないから……。

 

もう限界だった。自分を信じるのも、自分を励ますのも、自分を誤魔化すのも。

 

本当はわかってた。今のネット社会では、動画サイトで自分の歌やダンスを投稿する人がいる。そういう人たちは専門的なレッスンを受けたことがない、趣味で投稿している人が多い。……でも、自分より上手い。

 

何十人どころか何百っていう人が動画を投稿している。それより下手な私がアイドルになれるのはいつ? 何百人がスカウトされたあと?

 

「……も、もう……無理……」

 

気がつけば目が熱くなって、涙が止まらない。まぶたに力が入り、流れ続ける涙を感じて、よけいに我慢ができなくなる。

 

顔に床の痕が付くと思ったが、どうしても体を起こすことができなかった。

 

何分、何十分経ったかはわからないけど、ようやく涙が引いたあと、のそりと体を起こす。

 

もう夕焼けの時間だった。オレンジ色の光が養成所を照らして、なんだか不思議な感じだった。

 

ボーっとした頭で、立ち上がって、練習していたステップを踏む。鏡に映る自分の顔は酷いものだったけど、体に染み込んだステップが私の体を動かしていた。

 

サイドステップ、後ろに下がって、くるっとターン。

 

キュッキュッとシューズが鳴る。

 

夕焼け色に私のステップの音だけが響く。

 

辞めたあとはどうしようかな、って考えてた。

 

まず、友だちと遊びに行きたい。美味しいって言ってたクレープを食べに行って、人気の映画も見たい。ケーキを作ってホールを全部食べてみたいし、旅行にも行きたい。休日は昼までずっと寝てたい。

 

そんなことを考えると、鏡に映る私の顔が笑顔になっていた。何度も練習した素敵な笑顔。角度もOK、口角もいい、息切れもセーフ。……でも、目だけは笑っていなかった。

 

クレープは半分サイズならセーフだよねとか。映画も何本も見れないから厳選しないととか。ホールケーキはさすがにマズいから、せめて2切れにしないととか。旅行は2泊以上は体がなまっちゃうかもしれないから1泊でいいところないかなとか。昼まで寝たら、午後は練習で一日が潰れちゃうとか。

 

いつものように自制の言葉が頭を巡ってしまった。

 

キュッという音で最後のステップを踏み終えて、休憩しようと部屋の隅の荷物が置いてある場所まで移動した。

 

スマホにメッセージが入っていたので、水を飲みながら確認すると、お母さんからだった。

 

今日は私の好きなオムライスにしてくれるようだ。これは早く帰らないとと思ってペットボトルに蓋をして立ちあがる。

 

ふと、いつもの癖でツイッターを起動すると、お気に入りの人たちのツイートを見ていく。

 

あ、ひめちゃんが更新してる。ひめちゃんは今でこそ、直接やり取りすることはないけど、大切な友だちだ。陰ながら応援していて、ときどき、そのツイートを確認している。

 

内容は『最近、勉強や部活が上手くいかなくて落ち込んでる、という悩みをよく聞きます。そんな人にはセントー君の曲とかおすすめです。少し前の歌ですが、とても良い歌です。たぶん中学生高校生に向けた歌だと思います。気持ちが沈みがちな人はぜひ聞いてみて! https://~』というもの。

 

セントー君? たしかVtuberだったかな。すごい歌が上手い人って聞いたことがある。まあ、片付けのBGMに流そうかな。

 

そんな気持ちで音量を最大にして、リンクをクリックして、モップの方へと歩き始めた。

 

モップを取り、慣れた手つきで掃除を始める。

 

丁度、広告動画が終わり、曲が流れ始めた。

 

足が止まった。

 

男性の声、すごい声の存在感、耳に自然と入ってくるテンポのいい楽器の音、なによりも、その言葉。

 

それは夢について歌った歌。

 

夢を目指した子の歌。

 

夢を諦められなかった子の歌。

 

やめてほしい。

 

ようやく諦めようとしていたのに。

 

これで終わりにできると思ったのに。

 

だって、無理だ。私の才能じゃ勝てっこない。

 

勝ち目のない戦いに一人で頑張ってどうなるのか。

 

どうせ諦めたって誰かの迷惑になることもないんだ。

 

……でも

 

「やめたくないなぁ……」

 

枯れ果てたと思っていた涙がまた流れる。

 

だって私は上手くなっているんだ。

 

1年経っても中学1年生の頃の彼女に勝てないけど。ゆっくりだけど、確かに上手くなっているんだ。

 

いつかは自分だって、と夢を見てるんだ。

 

縋り付いたモップがバランスを崩して倒れた。自分の体も同じように倒れこむ。

 

さっきと同じ。私に声をかけてくれる人なんていない。ただ、彼の歌が響き渡る。

 

焦る気持ち、悔しい気持ち、後悔する気持ち、怒りの気持ち、優しい気持ち、そして希望を抱く気持ち。声から感情が伝わってくる。自分のことを歌い、そして頑張れなくなった人を励ます気持ち。

 

私にはできない表現力。いつもなら、すごいと思う気持ちと嫉妬を抱いていたと思う。

 

でも、彼の歌は語りかけてくれる。自分を歌うのではなく、私に語りかけてくれる。

 

歌が終わって、少し余韻を味わったあと、立ち上がって掃除を再開する。

 

モップを持つ力はさっきよりも強い。

 

……まだ、私は悔しいと思ってしまう。しょうがないなんて思えない。きっとここで止めたら、私は何をしてても夢を思い出してしまう。そのとき、私は笑えないと思う。

 

だから、また明日から頑張ろう。

 

だって、私はまだ理解できてない。納得できてないから。

 

 

 

 

 

 

 

ガルパのお誘いは願ったり叶ったりだった。

 

念願のアイドルデビューを果たした私たちが初ライブでやってしまった事件はとても重く、そこから奇跡的な持ち直しをしたものの、バンドなのに音楽ファンがいない、なんていう歪な状況にいる。

 

全部、自業自得だって言われればそのとおりで、ひたすら謝ることしか出来ない。

 

事務所だって、ここから私たちが人気が出るのか疑っていて、積極的に売り出すことはしていない。

 

だから香澄ちゃんが事務所に急に来たときだって、私たちが直に対応出来たし、ギャラ無しのライブだって、まあいいんじゃないですか? の言葉で許可が出た。

 

私はライブに出れるから嬉しいけど、千聖ちゃんの圧が怖かった。マネージャーさんは千聖ちゃんの逆鱗に触れないように注意したほうがいいと思う。

 

千聖ちゃんは相当怒っていて、「アイドルとは関係ないバンドと一緒に成長していくのは、パスパレのバンドとしての成長を示すので、やらせていただきます。では、彼女たちとのバンド活動は今後、私たちの裁量で受けるということでよろしいですね?」とマネージャーさんに圧をかけていた。

 

マネージャーさんも、ようやく地雷に触れたことを理解して、慌てて、もちろんです! なんて言っていた。

 

千聖ちゃんは頼りになるなー。

 

ガルパに参加することになった私たちだが、顔合わせのときに急きょミニライブが決まった。本来ならマネージャーさんと相談して予定や契約書などを交わしたりするんだけど、千聖ちゃんのおかげでそんな必要もなかった。

 

さすが千聖ちゃん。こうなることが、わかっていたのかな?

 

ミニライブの他にも合同練習をすることになった。

 

私たちはハロハピと練習することになった。

 

ハロハピはすごい。みんな演奏がすごく上手くて、なんというか日菜ちゃんがたくさんいる感じがした。ボーカルのこころちゃんは歌が上手いのに、ダンスもすごく上手。フォースター学園で同期だった、ダンスを専門とする学科の代表生と同じか、もしかしたらそれ以上かもしれない。

 

なんというか……私よりも上手い感じがした。いや、絶対に上手いと思う。

 

で、でも大丈夫。一緒に練習して、こころちゃんのすごいところを教えてもらおう。

 

「練習? 好きなように歌って、好きなように踊るだけよっ! 楽しいって思って歌えば、みんなも楽しいって思ってくれるわ!」

 

こころちゃんは日菜ちゃんタイプだった。

 

ハロハピにはもう一つ特徴があって、なんとメンバーに男の子がいます。

 

名前は海堂幹彦くん。

 

初めて見たときは、あまりの大きさにポカンと口を開けちゃったのを覚えてる。

 

芸能界ってけっこう男性がいるんだけど、こんなに大きな人は初めてだった。スラリと高身長の女性モデルだって彼より低い。

 

モデルと違うところはもう一つあって、彼は横にも大きい。太ってるわけじゃなくて、がっしりしてるって言うのかな? ぽっちゃりじゃなくて、ムキムキっとしてる。すごい力持ちで、ライブ会場のアンプを片手でつまみ上げるように持ち上げてた。

 

アレって普通は2人でやっと持てる重さのはずなんだけどな。

 

彼には悪いけど、気安くミッキーなんてアダ名では呼べない。たぶん、みんなもそう思ってるんじゃないかな? 誰もそう呼んでないし。

 

海堂くん(名前で呼ぶのは勇気がいる)にはもう1つすごいところがあって、女の子にすごく優しいんです。

 

私がフォースター学園にいたころ、在籍していた男性アイドルと、活動を始めたばかりの1年生の女性アイドルが恋人どうしになったけど、男性の暴力で、女の子がアイドルを辞めた事件があった。

 

ニュースにもなったし、学園ではけっこう騒ぎになった。

 

女の子は歌がすごい上手い子で、ひめちゃんが自分が卒業したあとの代表生候補だって言って、すごく可愛がっていた。その子がひどい目にあったので、ひめちゃんはすごく怒って、男性に怒鳴りこみに行った。

 

これには学園が大騒ぎになった。

 

男性という価値があるので、歌やダンスの上手さは置いといて、男性アイドルは芸能界でも一目を置かれる存在だった。だからこそ先生たちも機嫌を損ねたくないから本気で怒れなかった。

 

でも、そういう意味じゃあ、ひめちゃんだって負けてない。なにせ現役最強アイドルとも呼ばれる彼女だ。その頃は、在学中ながら既にレギュラー番組だって持ってたし、彼女のCDがオリコン1位なんて、お祝いされるけど珍しくはないってくらいの人気歌手でもある。

 

しかもほかの3学科の代表生もひめちゃんに賛同して、フォースター学園の学科代表生4人が男性を取り囲む事態になった。要求は怪我をさせた女の子に謝ること。

 

これには男性もたじろいだ。でも、意地になっているのか、4人を大きく怒鳴りつけた。

 

でも、代表生たちは一歩も退かない。

 

固唾を呑んで見守っていると、男性は近くにあったペンを手に取った。

 

いくらなんでも、それはマズい。そう思ったとき先生が間に入って、なんとかその場が収まった。

 

結局、男性は謝らずじまい。なんだかホッとした顔の男性がその場を後にした。

 

代表生たちも気が緩んでいくなかで、ひめちゃんだけが険しい顔のまま男性の背中を見つめていたのを覚えてる。

 

でも、芸能界ではこういう男性は珍しくない。

 

こんなふうに女性が怒って取り囲む事態がないだけで、女優さんが暴力を振るわれて入院することもある。

 

芸能界に長くいる人ほど、男性との接触を避ける、なんて言われてたりもする。

 

そんな事情を知ってることもあって、私も男性って苦手だった。

 

唯一、Vtuberのセントー君は例外だ。

 

あの人もかなり荒っぽくて厳しいけど、あれはバカなことを言ってる人を叱ってるだけ。たくさん怒られてきた私だから、わかる。普通の男性と同じにしないでほしい。普通の男性がどうしたら、あんな歌が歌えるというのか考えてほしいと思ってる。

 

だから初めて男性である海堂くんと顔を合わせたとき、ちょっとだけガルパの参加はマズかったかなって思った。

 

でも、自己紹介で、言葉は少ないけど理性的な人ってわかったし、同じ学校の花音ちゃんも親しげにしてるし、何より有咲ちゃんが急に彼の腕を引っ張って連れてったときも、驚きながらも怒っていた様子は見えなかった。どちらかと言えば、ちょっと嬉しそうな顔をしてたから、なんだか大丈夫かも? って思った。

 

なんだか千聖ちゃんは怒ってたけど。花音以外にも付き合ってる人がいるのに、まだ手を出すつもりなの……!? って。

 

私は花音ちゃんが付き合ってるって言葉に驚いて、花音ちゃんの方を見た。花音ちゃんは有咲ちゃんの行動に少し驚いていたけど、なんでもないように笑ってた。

 

なんか余裕あるなーって珍しく思ったのは覚えてる。

 

 

 

そんな彼は、今、麻弥ちゃんと話してる。

 

私たちパスパレとハロハピが練習を開始して、すぐに彼は麻弥ちゃんと話し始めた。なんだか機材の話で盛り上がってる。麻弥ちゃんは元スタジオミュージシャンで、いろんなバンドのドラムをやっていた人だ。実は男性歌手のドラムを務めたこともある。

 

そのことを聞いてみたことがあるんだけど、「コツは、男性と極力話さないことっすかね」て言ってた。千聖ちゃんが頷いていた。

 

男性のことを知ってる麻弥ちゃんだから、初めは彼のことを警戒してるようだったんだけど、話し始めて1分も経たない内にヒートアップしちゃってた。

 

お互いの挨拶が終わったけど、千聖ちゃんが仕事で遅れてるから、どうしようかと思っていたら、スッと麻弥ちゃんと話始めたので、麻弥ちゃん大丈夫かなって見守っていたけど……大丈夫そうだ。

 

「幹彦は博識だね」

 

モデルとしても通用するほどスタイルが良い薫さんが言った。一言だけなのにすごく絵になる人だ。

 

「いや、昨日、必死に機材の勉強してましたよ」

 

同じ学校の後輩の美咲ちゃん。美咲ちゃんも海堂くんの彼女らしい。

 

「うん。明日のメインイベントだー、って言ってたね」

 

呆れた顔をしている美咲ちゃんに対して、花音ちゃんは下の姉弟を見るような優しい顔をしてる。私にも妹がいるから、なんとなく花音ちゃんにシンパシーを感じる。

 

「付け焼き刃がどこまで持つか見ものですね」

 

「だめだよ、美咲ちゃん。あんなに頑張ってたんだから、応援してあげないと。パスパレのみなさんもごめんなさい。少しだけ放っておいてあげてください」

 

「う、うん。大丈夫だよ」

 

なんだか彼女たちの関係がよくわからないけど、言われたとおり、見守ることにしよう。

 

「それよりどうするの? 千聖ちゃん遅れてるけど、練習始める?」

 

日菜ちゃんが麻弥ちゃんたちを気にしながら言った。日菜ちゃんでも男の子が気になるんだ(失礼)。

 

「あたし、あなた達のダンスが見たいわ!」

 

「私たちの?」

 

「ええ。前に歌いながら踊ってたでしょ? もう一度、見たいわ」

 

「それは顔合わせのときのことですか?」

 

イヴちゃんが首を傾げながら言った。

 

「ええ、そうよ。あたし、あなた達の演奏ですごくハッピーな気持ちになったから、また見たいの!」

 

「もちろん、いいよ。でもこころちゃんも踊ってたよね? 私たちも参考にしたいから、後で見せてくれる?」

 

「あの丸山先輩、こころたちは気分で踊ってるので、振り付けとか考えてないですよ。たぶん同じダンスは見れないんじゃないかなって思います」

 

「え、うそ」

 

「美咲の言うとおり、あれは踊りたいように踊っただけよ? 考えてたわけじゃないわ」

 

「はぐみも!」

 

「私もそうだね。可憐な妖精たちに合わせるように舞っていただけさ」

 

「それなのに、あんな息があってたんだ……すごい」

 

「あの……3人が特別なだけで、私と花音さんは普通ですからね。ミッシェルが動きを合わせるところは事前に打ち合わせしてますから」

 

「美咲、俺が入ってない」

 

「入れてないんだよ。あんたもそろそろこっちに来な」

 

「わかってるよ。……じゃあ麻弥先輩、また今度お話しましょう」

 

「はい! ぜひ!」

 

「……麻弥ちゃん、すごい馴染んでる」

 

「ね。麻弥ちゃん緊張しいなのに、自然体だね。こりゃあ千聖ちゃんが言うとおり警戒する必要があるかもよ~」

 

小さく呟いた言葉に日菜ちゃんが応えてくれた。

 

たしかに麻弥ちゃんの警戒が完全に解かれてる感じはする。

 

「パスパレの演奏見るのは俺も賛成。うちはミッシェルもいるから、パフォーマンスはけっこう大事。子どもはミッシェルがいるから喜んでるところもあるから」

 

「保育園でミッシェルはいつも大人気だもんね! はぐみもミッシェル大好きだよ!」

 

「老人ホームに行ったときも、ミッシェルはいつも人に囲まれているね。誰もが魅了されてしまう姿。ああ、儚い……」

 

「俺もそう思います。丸山先輩の踊りは一見コミカルに見えるけど、その実、女子学生が好む可愛らしさが取り込まれてる。こころもそうだけど、ミッシェルにも参考にするところがあると思うんです」

 

「こ、コミカルなんだ……」

 

自分では可愛く踊っていたつもりだったので、少しだけショック。

 

「たしかに。ミッシェルとは動きの理想が違うかもしれないけど、人の演技は一様じゃないからね。何事も挑戦だよ。結果として、より素晴らしいものが出来上がるかもしれない」

 

「さすが薫先輩。そのとおりだと思います。ついでに言うと、子どもとお年寄りの間の層にも受けるパフォーマンスは学んでおきたいですね」

 

「若い人……。これまでのハロハピのお客さんには、なかなかいなかったよね……。ライブ来るのは若い人がほとんどだと思うし、私も良いと思うな」

 

「みんなが笑顔になるなら、それが一番だわ!」

 

「う、うん。じゃあ、ベースの千聖ちゃんがまだだけど、一曲やってみるね」

 

 

 

「こんな感じなんだけど、どうかな?」

 

「すごいすごーい!」

 

「やっぱり、あなた達のダンスは素敵ね!」

 

はぐみちゃんとこころちゃんが真っ先に喜んでくれた。

 

反応は上々だ。やっぱり女の子にも喜ばれる可愛いダンスだよね。コミカルではないと思う。

 

「儚い演奏だ。みんな可憐で素敵なダンスだったよ」

 

「みんな可愛かったなあ」

 

「なるほど。意識してみるとミッシェルとは動き方が全然違いますね。これが若い人が喜ぶ感じか……」

 

薫さん、花音ちゃんもほめてくれた。美咲ちゃんは真剣にダンスを観察していたらしい。真面目だね。

 

「うんうん。前のと違って、練習着は服の締め付けが弱いね。体の揺れが感じられてすごくいい。フワッとしたミニスカートで足のチラ見せをしてくれれば完璧だったんじゃないかな」

 

海堂くんもほめてくれた……のかな? 歌でもなくダンスでもなく、服の感想?

 

「いや、幹彦、その感想はどうなの」

 

「幹彦くん……男の子をエッチな目で見るおばさんみたいな感想だったね」

 

「俺にとっちゃあ、おじさんじゃなくて、おばさんってところが闇だよ……」

 

この3人はお互いに遠慮がない。初めは男性にそんなこと言うの? ってビクッとしてしまったけど、今はなんだか気持ちのいいやり取りとも思える。

 

そんなことを考えていると、麻弥ちゃんが一歩前に出た。

 

「あ、あの! 音はどうっスか!」

 

「音? パスパレの曲ってことですか?」

 

「そうっす! 海堂さんが聞いて、曲はどうでしたか?」

 

「……へー」

 

日菜ちゃんが考えこんだ。

 

「良いと思いますよ。始めて数カ月ですよね。伸びしろもあると思いますよ」

 

「そ、そう……すか」

 

わりと好評価だったが、麻弥ちゃんの顔は晴れない。

 

聞きたいことが他にもありそうだけど、聞く勇気がでない。そんな表情をしている。

 

「うーん、麻弥ちゃんは本当のことを聞きたいんだと思うよ」

 

まるで、これで良かった、と自分を納得させるような表情で黙ってしまった麻弥ちゃんの代わりに、なんでもない感じで日菜ちゃんが続けた。

 

「本当のこと……ですか?」

 

「うん。麻弥ちゃんはバンドとしてどうかを聞きたいんだと思うよ。ね。麻弥ちゃん」

 

「……そうっす。始めて数カ月ですけど、ジブンたちの将来性をどう思うか……聞きたいっす」

 

「さっきのは嘘じゃないんだけどな。……でも、それを話すとなるとキツい話になりますよ?」

 

海堂くんが確認するようにこちらを見てくる。

 

厳しい忠告? そんなのに怖気づく人はアイドル学校を卒業することなんてできないよ!

 

「私からもお願いします。アイドルとしての頑張り方はわかってるけど、バンドとしてはわからないから、海堂くんからどう見えるか教えてください!」

 

「私も賛成です。己の実力がわからなければ戦はできません!」

 

ガバッと頭を下げた私に、イヴちゃんも続いてくれた。

 

「まあ、言うことは変わらないですよ。始めて数カ月にしては程よくまとまった演奏をしてると思います。麻弥先輩の力で、なんとかまとめ上げてる感じですね」

 

麻弥ちゃんに頼っていることは自覚してる。だからこそ、アイドルになるなんて考えたことがなかった麻弥ちゃんがパスパレ結成当初から呼ばれていたのだ。

 

麻弥ちゃんがメンバーになってくれて本当に感謝してる。

 

「ベースもキーボードも経験が浅いから、続けていけば安定した音がでると思います。……まあ、ベースは今回なかったですけど」

 

千聖ちゃんもイヴちゃんもすごく頑張っている。他の人たちに比べて楽器に専念する時間が少ない私たちだけど、これからも頑張れば、演奏はもっと良くなる自信がある。

 

海堂くんもやっぱりそう思ってくれたんだ。私たちは良い方向に向かっているんだと思った。

 

「ただ、それだけです」

 

その冷たい言葉を聞くまでは。

 

麻弥ちゃんが息を飲んだ。日菜ちゃんが真剣な顔で海堂くんを見つめている。イヴちゃんは覚悟してる面持ちだけど、不安が見え隠れしている。

 

「パスパレがどんな演奏をしたいか、わかりませんでした」

 

麻弥ちゃんが下を向いた。

 

「ポピパみたいに歌いたい、伝えたいって気持ちが溢れてるわけじゃなければ、アフターグロウみたいに格好良く演奏したいってわけでもない、ロゼリアみたいに音楽を極めたいってわけでもないし、うちみたいに聞く人を笑顔にしたいってわけでもない。パスパレの曲からは何も感じませんでした」

 

日菜ちゃんの顔は動かない。彼の言葉に全神経を集中させているようだ。

 

「演奏に必死なだけで、演奏が楽しいわけではなくて、何かを伝えたいわけでもない。ただ、失敗しないよう、無難に曲をまとめ上げてる。そんな感じがしました」

 

イヴちゃんの瞳が揺れる。

 

はっきりとした否定の言葉だったが、彼の言葉に納得している自分がいる。たしかに私たちにそんな余裕はない。ただ、ミスをしないように必死なだけ。パフォーマンスだって何度も繰り返してきた動作をミスしないように行っているだけだ。そんな失敗しないことだけを意識した演技では、何も伝えられないのだろう。

 

落ち込む私たち。日菜ちゃんだけは、なるほどー、って感心してたけど……。

 

私たち3人が落ち込む姿を見て、彼が少しだけ困ったように続けた。

 

「俺にこんなことを聞いてきたってことは、あるんですよね? パスパレの理想像」

 

「パスパレの……理想」

 

「……そんなに難しく考えないでください。彩先輩はなんで歌ってるんですか? アイドルだから、以外でお願いします」

 

「それ以外なんて……考えたこと無いよ」

 

「聞き方を変えます。なんでアイドルになりたかったんですか?」

 

「キラキラしたかったから」

 

これなら迷わず言える。何年も練習を続けてこれた理由だ。

 

これだけはブレない自信がある。

 

「……いい顔ですね。それなら歌はアイドルにとってなんですか?」

 

「輝くために歌う……?」

 

……違う、私がアイドルを目指すことを決めた、憧れのあの人は歌う姿が輝いてた。だから……

 

「輝きを見せるために歌うよ!」

 

「アイドルであるパスパレの曲は、輝きを見せるための曲ですか?」

 

「……うん、そう、そうだよ! 私は歌って、踊って、キラキラしたい!」

 

「じゃあ、それがパスパレの歌に足りないものです」

 

技術とは別に足りないもの。いや、技術も表現のために必要なものだけど、彼が言っているのはそうじゃない。

 

「俺はさっきの歌で、それを感じられなかった。だから練習して上手くなるのは当たり前だけど、自分達の輝きが見せられるように演奏するのが良いんじゃないですか?」

 

このまま、技術を高めていけば、私たちの演奏は一端のものになるだろう。でも、なんとなく、そうなっても彼は同じように言うだろう、って確信できた。

 

「メンバー全体がそれを共有して、それを伝えるために演奏するのなら。パスパレの演奏を聞いた人が、彩先輩たちの輝きに憧れるようになると思います」

 

技術の前に、歌詞の意味の前に、そもそもなんでバンドを組んで演奏するのか、演奏してなにを聞かせたいのか。その一番、大切なところ。その在処が大切だと彼は言った。

 

「それと彩先輩は自信なさげに歌ってますけど、もっと自信持ったほうがいいと思いますよ」

 

「え、私、そんな感じ?」

 

「はい。自分の歌に自信が持てなくて、サビの部分で歌よりもダンスに力を入れてますよね。アイドルとしては知りませんが、曲を聞かせるって点では見せ場で逃げ腰を晒してるようなものですよ」

 

「う、うそ……」

 

「マジです。サビの部分は特に体に力が入ってますよ。よく見ればわかります」

 

「そんなにしっかり見ててくれたんだ……」

 

「いや、胸揺れ見るついででしょ」

 

「美咲ちゃん、シー……! そうだと思うけど、言っちゃダメだよ」

 

「なんか外野がうるさいですけど。パスパレは麻弥先輩、それに日菜先輩がいますから化ける可能性はあります」

 

「あたしも?」

 

「はい。華になる演奏ができるのは日菜先輩だけです。麻弥先輩は曲を安定させる役がありますし、アイドル曲はドラム控えめでしょうから」

 

「演奏は私と千聖さん次第。そういうことでしょうか」

 

イヴちゃんが緊張した面持ちで確認した。

 

「そうだと思ってる。そこに彩先輩の歌とダンスが乗っかって、パスパレの曲が出来上がると思う」

 

「パスパレの曲……」

 

「彩先輩の歌だって悪くないって思いますし」

 

「私? でも、私ってアイドルの学校に通ってたときは落ちこぼれだったよ? 白鳥ひめちゃんが中学1年生のころだって私より上手かったし」

 

「白鳥ひめ? あの歌姫って呼ばれてるアイドルのことですか?」

 

「うん。実は同期なんだ。だからひめちゃんの歌はたくさん聞いてて、私との実力差はわかってるよ」

 

「それは比較対象が違いますよ」

 

「え?」

 

「白鳥ひめって、純粋無垢な透き通った声です。彩先輩の声質は可愛らしさ、女の子らしさ、そういう感情がたくさん含まれた声です。白鳥ひめと比べたら一生咬み合わないですよ」

 

「えっと……それはどういう……」

 

「ずばり言ってしまえば、彩先輩は白鳥ひめにはなれないってことです。でも代わりに、丸山彩にはなれます。彩先輩の輝きはどういう輝きですか?」

 

「私の……輝き……」

 

「白鳥ひめのような透き通った純白性を魅せつける輝きですか? それとも丸山彩という、あなた自身が持つ輝きですか?」

 

ひめちゃんのように歌が上手くなりたいと思ってた。いつかは輝きたいと思ってた。でも、その輝き方なんて考えたこともない。まずは輝くこと、それに必死だった。

 

「俺は丸山彩としてなら、人を惹きつけてやまない歌が歌えるようになると思ってます」

 

「私の歌が人を……」

 

「なるというより、もう素質は見えてるんですけどね」

 

そう言って彼は私たちの方へと歩いてくる

 

「彩先輩って、ずっと練習を続けてきたでしょ? 自信が無いくせに、声が安定してるんですよね。高音もいい音ですし」

 

彼は私を通りすぎてイヴちゃんの元へ行く。

 

「でも、ひめちゃんとか、他のアイドル研修生はもっと高い音出てたよ」

 

「高けりゃ良いってわけじゃないですよ。高い音はみんなが共通してわかる上手さの基準ってだけです。声域が広がるのはいいことですけど、大事なのは、人を魅了する声が彩先輩ならどの音程かってことです」

 

イヴちゃんに場所を変わってもらうようお願いすると、自分のキーボードを用意し始めた。

 

「しゅわりんどりーみん、でしたっけ? 練習はたくさんしてますよね」

 

「もちろん」

 

「歌詞の意味もわかってますよね」

 

「何度も読んだよ」

 

「それなら一度やってみましょう。俺がキーボードをやるんで、麻弥先輩と日菜先輩お願いします」

 

「えっと、ベースがないけどいいの?」

 

「さっきの演奏もそうでしたよ。まあ、必要なところはキーボードでカバーするから大丈夫です。あ、日菜先輩は隙があったらガンガン音入れていいですよ」

 

え、ちょっと待って。日菜ちゃんが自由に演奏し始めたら、みんな音が取れなくなって無茶苦茶になっちゃうよ!?

 

「ホント!?」

 

日菜ちゃんはすごい嬉しそう。

 

最近、何度も同じ練習をしていて飽きたー、って言ってたから、よけいに嬉しいのかな。

 

「はい。演奏を壊さなければ好きにしていいですよ。麻弥先輩もいけると思ったらいいですよ」

 

「い、いや、そんなことしたら演奏が……」

 

「なんとかなりますって。彩先輩、準備はいいですか?」

 

「う、うん」

 

「彩先輩は音をいくら外してもいいんで、思いっきり歌ってください」

 

「い、いいの?」

 

「どんなに外したって、次に歌い始めるころには元の音程に戻しますよ。それがリズム隊の役目です。たぶんギターがぶっ込んでくると思うんで、それに負けない気持ちでお願いします」

 

チラッと日菜ちゃんを見ると、目を輝かせて、まだ始まらないかとこちらを見ている。

 

うん。たぶんすごいことになる。

 

「じゃあ麻弥先輩、合図お願いします」

 

「わ、わかりました」

 

そして、曲が始まった。

 

彼にはああ言われたけど、私はアドリブに弱い。

 

いきなり言われたって応えられるわけがなくて、ついつい、いつものように音を外さないような丁寧な歌い出しをしてしまう。

 

けど、最初のワンフレーズが終わり、みんなの楽器が入ってくると、世界が一転した。

 

日菜ちゃんのギターがすごい。

 

ギター担当のリズムを刻みながら、どんどん音を加えていく。リズムも一定ではなく、強弱がくっきりしていて、テンポすら緩急がある。

 

私に染み付いたアイドルの癖で、後ろを振り向くことはなかったけど、絶対に楽しそうに演奏してるって確信できた。

 

私が歌い始めると、ギターは存在を抑え始めた。

 

これならいける。

 

彼に言われた、思いっきり歌うことだけを意識する。

 

意外とできるものだ。音を外さないように考えなくていいから気持ちが楽なのか、日菜ちゃんが楽しそうな音を出してるから、それにつられて声が乗ってしまうのか。

 

それとも、まごついたら日菜ちゃんの音で、私の声がかき消されてしまうことをアイドルの本能で理解していたのか。

 

ギターが目立たくなったといっても、いつもより数が多くて、音も大きい。ギターの楽しそうなリズムは、彼女がメインかと思ってしまうくらい輝いている。

 

私は自分の輝きが消えていかないためにも、思いっきり歌うしかなかった。

 

音程に気をやれない。

 

ただ、彼から言われたように、歌詞を心から吐き出すように紡いでいく。

 

1番が終わり、2番も終わって間奏に入る。慣れた歌のはずなのに、振り付けはしてないのに息が切れっぱなしだ。

 

間奏中に目立たないように呼吸を繰り返す。

 

日菜ちゃんはここに来て最高潮になった。ギターの音が練習場に満ちていく。麻弥ちゃんのドラムが、日菜ちゃんのギターに引っ張られること無く、正確なリズムを刻む。

 

キーボードが入ってきた。

 

キーボードの音は日菜ちゃんほどの存在感は見せないが、曲のアクセントを作り、日菜ちゃんのギターがそれに寄ってきた。

 

3番目の歌い出しで、ようやくわかった。

 

彼が日菜ちゃんの演奏を抑えていたんだ。

 

日菜ちゃんに自由に演奏させつつ、行き過ぎたり、歌が壊れそうになるとキーボードの音で知らせていたんだ。

 

日菜ちゃんがキーボードの音に興味を持つと、その音に従って基本のリズムに寄ってくる。

 

そうやって私の歌をフォローしてくれてたんだ。

 

彼のキーボードが耳に入る。歌いやすい。日菜ちゃんに負けないように声を出さないといけないけど、自然と声が出る。

 

歌詞に込められた思いだけを胸に、声を張り上げる。

 

がむしゃらに3番を歌いきった。

 

「はあっ……、はあっ……!」

 

演奏が止むと同時に、荒い息が漏れだした。

 

体がどっしりと重い。でもやりきった。

 

思い返してみれば、歌い始め以外はリズムに合わせられないところが多かったし、音程を外してしまうこともあった。

 

でも、充実感がすごい。

 

「……!! るんっってきたーーっ!!」

 

日菜ちゃんが文字通り飛び跳ねている。

 

気持ちはすごいわかる。私だってこんな疲れきってなければ、日菜ちゃんたちに駆け寄って、はしゃぎたいくらい気分が良い。

 

「これがパスパレの理想……完成形……! すごいっす! 他のプロにだって引けを取らないですよ!」

 

スタジオ・ミュージシャンをしていて、プロの音楽をよく知ってる麻弥ちゃんも、興奮して顔が赤くなってる。

 

「完成形かはわからないです。彩先輩と日菜先輩の今の力を出したら、こんな演奏になるってだけですよ」

 

「それでも充分すごいよ! どうすごいかはアレだけど……とにかくすごかった!」

 

自分のボキャブラリーのなさが少し悔しい。

 

「はい! 私も感激しました! 今までのパスパレの歌も可愛らしくてすごかったです。でも、今のはアヤさんとヒナさんの音が感じられました!」

 

イヴちゃんが、ずずいと近づいてきた。

 

「私が演奏できなかったのは残念ですけど……みなさんの演奏はすごいと思います! ミキヒコさん、師匠と呼ばせてもらってもいいでしょうか!」

 

「イヴちゃん!?」

 

「残念ですが、未熟な今の私では、ミキヒコさんのような演奏をすることはできません。でも、パスパレの演奏を引き立たせる、あんな演奏がしたいんです!」

 

「イヴさん……」

 

イヴちゃんの顔には悔しさがにじみ出ている。

 

そうだ。今の会心の演奏には千聖ちゃんとイヴちゃんはいなかった。日菜ちゃんと麻弥ちゃんはいるけど、海堂くんがいないパスパレのメンバーに今の演奏ができるかと言われれば、正直、今のままでは難しいと思う。

 

普通なら、私がいなくても……と腐ってしまうかもしれないが、イヴちゃんはめげない。その目に悔しさはあっても、やる気に満ち溢れている。

 

「いや、アイドルの師匠とかファンに刺されそうだからヤダ」

 

でも、そんな私たちの感動は他所に、お願いはあっさりと断られてしまった。

 

「ああ……」

 

「そうっすよね……」

 

思わず落胆の声がでてしまう。

 

「お願いします! 何だってしますから!」

 

「何だってする、って言われてもなあ。俺も嫌だけど、パスパレだってファンに誤解されるよ?」

 

「ファンに誤解ですか? ファンはアイドルと男性が仲が良かったら喜ぶと思ってたんスけど、違いました?」

 

「うん、だいたいはそうだと思うよ。それだけ魅力的なアイドルってことだからね。むしろファンを増やすために男性のパートナーを探す人もいるくらいだし」

 

男性からDVを受けてたら、そのアイドルは男性を受け止めきれなかったとなり、ファンをガッカリさせることになるけど、それでも知名度は上がるし、全体で見ればファンもたくさん増える。

 

「……そうだったな、この世界」

 

「?」

 

みんな首を傾げる。

 

「ファンが問題ないなら、教えるくらい、いいんじゃない?」

 

美咲ちゃんが助け舟を出してくれた。

 

「いや、まあ、そうだけどさ……なんか気が乗らないっていうかな。結果はそうかもしれないけど、俺の思い込みが邪魔をしてるっていうか……」

 

「なにそれ。思い込みなら受けてもいい気はするけどね」

 

「美咲は賛成?」

 

「まあね。だって、あんたイヴみたいな子、好きでしょ? 純粋無垢で、ナチュラルな色気がある子」

 

「大好き。イヴちゃんは特に後ろ姿がいいよね。腰周りの肉付きが良くて、お尻についつい目がいく」

 

「でしょ。どうせ手を出すなら、接点は増えた方がいいかなって思う。特に私たちの接点がないと、どういう風に折り合いをつければいいか判断しにくいし」

 

「なるほど。そういう考えもあるのか……」

 

なんの話だろう、と考えていたら、同じように考え込んでいたイヴちゃんが一つ頷いた。

 

「お尻、ですか? ……わかりました。いつでもどうぞ!」

 

そう言ってイヴちゃんは近くの壁際に移動して、壁に手を付いてお尻を海堂くんに突き出した。

 

「は?」

 

「え?」

 

「イヴさん?」

 

全員、イヴちゃんの奇行にポカンと口を開けた。

 

「常在戦場です。武士は常に戦場にいる気持ちでものごとに当たります。私もそれにならい、いつそうなっても迷わないと覚悟を決めています。さあ!」

 

「いや、さあじゃないが」

 

「え、これって……そういうこと!? イヴちゃん、私たちアイドルだよ!?」

 

ようやく意味がわかってパニックになる。

 

これはマズい。健全な合同練習が、一気に18歳未満お断りのただれた集いになってしまう。

 

「アイドルじゃなくても、いきなりこんなことしちゃダメですよ! ああ、下着を脱がないでください!」

 

「あはは、イヴちゃん思い切りがいいねー。まあ、るんって来たら、仕方ないよねー」

 

「アヤさん、マヤさん、止めないでください! 私も女として生まれたからには、師に求められたら拒むわけにはいきません! さあ、どうぞ! 子どもは私が立派に育てますので安心してください!」

 

「だから師じゃないって」

 

「幹彦! あんた、女の子をやり捨てするなら、さすがにあたしも怒るよ!」

 

「美咲、これ、俺が悪いってのかよ!」

 

「間違いなく、あんたが言ったことが原因でしょ!」

 

「いや、それは少し……ほんの少しだけあるかもしれないけど、やり捨てなんて、俺がそんな薄情なことするかよ!」

 

「薄情でしょ! あんた、つい最近まで、あんなこと黙ってたじゃん!」

 

「黙ってたわけじゃない! 言うタイミングが無かったんだよ!」

 

「言うタイミングが無かったけど、市ヶ谷さんに言われたから重い腰を上げたって? あたしたちには随分、薄情だと思うけど!」

 

「そんなつもりじゃないってわかってるだろ! 確かに有咲は大切だけど、ハロハピも同じくらい大切だ! どっちが上なんて考えたこともない!」

 

海堂くんが美咲ちゃんの両肩をガシっとつかむ。

 

美咲ちゃんは海堂くんの迫力に少しだけ、たじろいだ。

 

二人は荒い呼吸をして、黙りこむ。

 

すごい。生の痴話喧嘩だ。ドラマで見るよりもすっごくリアル……!

 

「でも、市ヶ谷さんにも手をだすでしょ?」

 

「あの子に手を出さないって、それはもう病気のレベルだと思ってる」

 

「真面目な顔してバカなこと言うな! 昨日、あれだけ、へこへこ腰を振ってたのに、まだ足りないっての!?」

 

「美咲と花音が魅力的なのが悪い! そもそも今は師匠になるかどうかって話だろ!」

 

「じゃあ、なんでそんなに膨らんでるわけ?」

 

確かに海堂くんズボンの一部がテントを張っている。それも、とても大きなテントだ。

 

「……そりゃあ、あんな可愛い子に、なんでもする、って言われたら……ねえ?」

 

「ねえ? じゃないでしょ! もー、花音さんも言ってやってくださいよ!」

 

「うーん。今回はイヴちゃんが暴走してる気がするしなあ」

 

「花音……!」

 

「でも、そんなに大きくしてるのはギルティだからね。それじゃあ言い訳できないよ」

 

「花音……」

 

「そんなに落ち込まないで、ね? 幹彦くんがお猿さんってことくらい、私も美咲ちゃんもわかってるから。とりあえず、それをどうにかしないとね。ちょっとだけ3人で席外そうか?」

 

「花音……?」

 

「花音さん?」

 

「イヴさん! もう隠れてないですから! 言い訳できない格好してますから! 落ち着いてください!」

 

もう大混乱だった。

 

ハロハピのストッパーである3人はあの調子だし、パスパレの頼みの綱の千聖ちゃんはまだ来ない。私がこんな状況を止められるわけもない。

 

そんな絶望的な状況で、ただ慌ててた私に、救いの手が差し伸べられた。

 

「あなたたち、ちょっとはしゃぎ過ぎじゃないかしら」

 

バタバタとした熱気を持った空気が一瞬で凍った。

 

声の元を見ると、そこにいたのはこころちゃん。

 

俯いた顔が、綺麗な金髪で隠れていて表情は伺えないが、その冷たい声からは尋常じゃない様子だとわかった。

 

「……ヤバい。こころが怒った……」

 

「ふぇぇ……」

 

「これはマズいね。止めるのが少し遅かったかな」

 

「幹彦くん。大変だよ、早くなんとかしないと!」

 

ハロハピは全員、顔が引きつっている。

 

イヴちゃんの動きも止まっている。

 

「ヒエッ」

 

こころちゃんを見ていた麻弥ちゃんから小さい悲鳴が上がった。

 

あの位置からだと、こころちゃんの顔が見えたのかな?

 

麻弥ちゃんの顔が青くなってるんだけど、大丈夫かな。

 

「こころ」

 

海堂くんがこころちゃんに近づく。

 

「こころ、ごめんな。みんなを置いて、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったな」

 

海堂くんが屈んで、こころちゃんと目線を合わす。

 

こころちゃんはすぐに顔を海堂くんの胸に押し付けた。

 

そのまま、額をぐりぐりと擦りつける。ときどき、ドンっと額を打ち付けたりもしてる。

 

どうでもいいんだけど、その衝撃で練習場が少し揺れてる気がする。海堂くん、大丈夫なの?

 

海堂くんは、しばらくそのまま動かずにこころちゃんの好きにさせたあと、片手でこころちゃんの頭を抱え込んで、もう片方の手でこころちゃんの膝裏を優しく抱えた。

 

小さく「よっ」という声を出して、軽々とこころちゃんを持ち上げた。ちょうど、海堂くんが肘から直角に曲げた腕にこころちゃんが乗っかってる体勢だ。

 

海堂くんはそのまま部屋の端の方へ行くと、あぐらをかいて座り込んだ。

 

こころちゃんは彼の片方の膝に乗って向かい合うように座っている。

 

「……もう、これじゃあ周りが見えないわ」

 

こころちゃんが自分で向きを変えて、私たちを見渡す。

 

良かった。いつもの笑顔のこころちゃんだ。

 

こころちゃんは先程までの様子が嘘だったかのように、嬉しそうに彼に寄りかかったり体を起こしたりを繰り返している。

 

「こころん、いいなあ」

 

「もう片方が空いてるわ。はぐみも一緒に座りましょう」

 

「本当? 幹彦くんもいい?」

 

「はぐみなら、いつでもいいよ。おいで」

 

「わーい!」

 

はぐみちゃんが飛び込んでいった。

 

それぞれの膝に、こころちゃんとはぐみちゃんを乗せ、それぞれの腕を彼女たちの肩から足の間に垂らした彼は、満ち足りたような顔をしている。

 

2人にとって、彼は頼りになるお兄ちゃんみたいな感じなのかな? 2人ともくっつくことが嬉しそうだ。

 

まあ、こころちゃんからは尋常じゃない圧を感じたけど……。

 

こころちゃんが前と後ろを海堂くんに挟まれて落ち着くと、イヴちゃんが静々と前に出た。

 

「みなさん、すいませんでした。私、早とちりをしてしまいました」

 

「あれは、早とちりっていうんスかね。でも、パスパレが急に変なことをしてしまって申し訳ないっす」

 

「私からもごめんなさい。イヴちゃんは絶対に悪気があったんじゃないんです」

 

みんなで謝る。芸能界の一員として活動している以上、けじめは大事だ。

 

「気にしないでいいよ」

 

良かった。なんとなく大丈夫かなと思ってたけど、海堂くんは許してくれた。

 

女性が男性にエッチなことを強要するなんて、もしかしなくてもアウトだ。アイドル人生終わりどころか、逮捕されたっておかしくない。

 

イヴちゃんは求められたと思って反応したみたいだけど、傍から見れば誘ってるようにも見えた。相手が男性である以上、それだけで逃れようのないことになる。

 

イヴちゃんみたいな良い子が、自国に強制送還された、なんてことにならなくて本当によかった。

 

「ありがとうございます。でも、ミキヒコさんのキーボードに感動したのは本当なんです。私にキーボードの極意を指南してもらいたいんです!」

 

「極意って言っても、イヴちゃんがそんなに上手くなる必要ないと思うよ。本来ならここにベースも入るから、それだけで演奏は安定するもんだし」

 

「でも、私もあんなふうに弾きたいです!」

 

「褒めてくれるのは嬉しいけど、けっこう大変だよ。俺、こう見えてもプロ顔負けのピアニストだったりするから。イヴちゃんモデルやってたよね。アイドルにモデルにバンド、そこにキーボードの練習をこれまで以上に増やしてくってことだよ?」

 

「イヴは茶道部、華道部、剣道部にも入ってるよ」

 

「あと、喫茶店でアルバイトをしてるよね。ほら、幹彦くんとこの前行ったお店。外人さんがいるねーって話してたでしょ?」

 

様子を伺っていた美咲と花音が補足してくれた。

 

「そんなやってんの!? え、それなのに、そんな日本語上手くて、アイドルもやってんの? はあー……多才だねぇ」

 

「そんな、私なんてまだまだです」

 

「2足どころか、何本の足があるかわからないな。わらじは足りてるの?」

 

「えっと……人様にお見せできるものではありませんが、どれも全力で取り組んでいます!」

 

「はー、やっぱり外国の人はバイタリティが違うねー。俺なんかもういっぱいいっぱいだよ」

 

「アヤさんから教えてもらいました。アイドルは自分がやりたいこと、楽しいことを思いっきり楽しまないといけないって。結果として大失敗するかもしれないけど、それも自分の糧になって、そういう経験をしたアイドルが輝きを放つようになるんです!」

 

「イヴちゃーん……恥ずかしいよー……」

 

確かに言った。でも大部分が私のお気に入りのVtuberの言葉だから、あまり広めないでほしい。

 

アイドルになりたいけど、やっぱり友だちとも遊びたいと迷っていた時に、思い切ってセントー君の雑談動画で質問を投げてみたことがある。そのときに彼が『この世界のアイドルは、女の子の憧れって存在だから。自分がやりたいとか楽しそうって思ったらバンバンやるべきだと思う。それを全力でやって、人一倍楽しめる人が、他の子から憧れる存在になるんじゃないかな? 失敗もするだろうけど、それでも懲りずに全力で突っ込んでくくらいが丁度いいと思う』と言ってくれた。

 

その言葉が深く胸に突き刺さって、心のなかで何度も何度もセリフを繰り返して、そらんじることができるほどになった。

 

そんなときにイヴちゃんに言ってしまったのだ。イヴちゃんも感動してくれたけど、貰ってきた言葉だし、私もそれを意識するようになって数ヶ月だから、やっぱり恥ずかしい。

 

ちなみにその動画は、そのあとの『まあ深くは知らないし、スレンダー(笑)なアイドルとか興味ないけど』という言葉で炎上してた。[ひめちゃんに何てこと言うんだ]とか[草でも食ってろよ]とか[ひめちゃんがせっかくコメントしてくれたのに]とか[致命的に鹿の好みじゃないアイドル]なんてコメントが流れてた。なんだか私がひめちゃんに間違えられていて、[ひめちゃんじゃないよ]ってコメントを打ったんだけど、スルーされた。

 

こういうときは反論しても無駄って学んだ。

 

ひめちゃんとはアイドルになって、すぐに再会した。時期的には初ライブが大失敗に終わって、いつパスパレの解散を伝えられるかわからないといった時期だ。普通なら大炎上しているアイドルなんて飛び火するだけだから近づかない方がいいのに、ひめちゃんは私を心配して会いに来てくれたのだ。

 

事務所の近くに寄ったからって言っていたけど、学校卒業して1年間も連絡してなかったのに、こうして駆けつけてくれたのは嬉しかった。他にも芸能界で活躍しているアイドル学校時代の同級生が連絡をくれたりして、暖かいなあって思った。

 

今になって考えると、事務所がパスパレの解散をギリギリで踏みとどまったのは、そういった人たちが注目してくれてる、ってところもあったのかもしれない。みんなには感謝してもしたりない。

 

「なんかあたし、聞いたことがある言葉のよう気がする……」

 

「そうか? まあ同じような言葉もあるんだろ? よく使われてそう」

 

「いや、最近どこかで聞いたような……どこだっけ?」

 

考え始めた美咲ちゃん。あれはセントー君のオリジナルだから、もしかしたら美咲ちゃんもセントー君のファンなのかもしれない。

 

どこかの名言を使ったのかな? って調べたけど、どこにもなかったから、そうじゃないかな。それならあの動画を美咲ちゃんは最近見たのかな? あとで話しかけてみよう。

 

「イヴちゃんの考えは俺も好きな考え方だな。限られた時間で、いろんなことを楽しみたいなら全力じゃないと中途半端に終わると思うし。気になったら、とりあえず全力で取り組むっていうのは誇るべき点だと思うよ」

 

「では……!」

 

「まあ、アドバイスくらいなら引き受けるよ。定期的に指導するってのは俺も時間が作れるか分からないから難しいけど、月1か月2くらいで、お互いに時間があったときに、とかどう?」

 

「ぜひお願いします!」

 

緊張で顔がこわばっていたイヴちゃんが、勢いよく頭を下げた。少しして頭を上げて、彼と今後のことを話し始めた。少ししたころには、二人の顔には笑みが浮かんでいた。

 

イヴちゃんすごい。なんだかんだで男の人に約束を取り付けてる。しかも、あの様子だと仲良くなっていると思う。

 

イヴちゃんはアイドルだし、モデルもやっているから、表情や雰囲気を作るのが上手い。もちろん、本人の性格というのは大きいと思うけど、イヴちゃんはどんな人にも朗らかな笑顔で接する。たとえ、傷害事件を起こしても男性という理由で無罪放免となり、今も変わらず芸能界で活動している人とでもだ。

 

一見すれば彼と接するイヴちゃんは、その男と接するときのように笑顔だけど、一緒にアイドルバンドを組んでいる私ならわかる。

 

イヴちゃんは海堂くんを心から尊敬していて、仲良くなろうとしてる。

 

そして思ったとおり、仲良くなった。

 

私だったら、そんなお願いは怖くてできないよ。

 

いや、私だけじゃなくて、世の中のほとんどの女性がそうじゃないかな。

 

外国の文化は違うのかなあ、って思うけど、これはアイドル丸山彩に必要なことだ。行動しなきゃ何も始まらない。行動し続けたから、丸山彩はアイドルになれたんだ。

 

私が憧れる自分になるためには、まだまだ頑張らないといけない。

 

 

 

そんなわけでイヴちゃんは無事、弟子入りした。

 

唯一、問題といえば、千聖ちゃんが海堂くんをものすごく警戒していることだ。

 

あの男は危険だから、みんな近づいちゃダメよ! と言ってた。

 

お友だちの花音ちゃんが知らないうちに手を出されていて、しかも既に美咲ちゃんという二人目の彼女まで作っていたから警戒しているらしい。

 

でも、二人とも幸せそうだけどなあ。

 

そんなことを言ったら、彩ちゃん、ちょっと向こうでお話があるわ、って言われてお説教コースだから言わない。私は最近、勉強したのだ。

 

とにかく千聖ちゃんにこの状況をどう説明したらいいかが悩みだ。タイムリミットは千聖ちゃん到着まで、なんとか当り障りのない説明で、千聖ちゃんを納得させる。パスパレリーダーの腕の見せどころだ!

 

「あ、千聖さん、あと5分くらいで到着するみたいっす。メッセージが来ました」

 

「え、もう!?」

 

「はい。さすが千聖さんっす。スケジュールを調整して、こっちに急いで来てくれてるみたいですね」

 

「そうなんだ。……はは、さすが千聖ちゃん……」

 

「じゃあ、練習再開しようよ! 私、今すっごい、るんっとしてるから早く弾きたいんだ!」

 

「そうですね。とりあえず始めましょうか。ほら幹彦、こころ、はぐみ。そろそろ立ちな」

 

「わかったわ!」

 

「……」

 

「はぐみ?」

 

ピョンっと立ち上がったこころちゃん。はぐみちゃんは何も言わずに座ったまま。美咲ちゃんが声をかけても動かない。

見てみると、目を瞑って船を漕いでいる。

 

「え、寝てる!?」

 

間違いない。海堂くんの腕を両手で抱きしめながら、静かな呼吸を繰り返している。

 

「はぐみ……嘘でしょ……!?」

 

「あら、疲れていたのかしら?」

 

「今日はソフトボール部のミーティングが終わって走ってきたらしいからな。仕方ない」

 

「幹彦、あんた気づいてたなら起こしなさいよ」

 

「いや、腕がすごくいい位置にあるから動きたくないんだ」

 

はぐみちゃんが身じろぎをして、海堂くんの腕を更に胸にギュッと引きつけた。

 

「ああ、いま最高」

 

「また胸か」

 

「幹彦は本当にエッチね」

 

「こころに言われると背徳感がすごいな」

 

「まったく……幹彦は仕方がない子だ」

 

「はぐみちゃんのために動けないところもあるから……」

 

「花音さん、甘い」

 

「花音、最高。愛してる」

 

「ふふ、私も愛してるよ」

 

ハロハピは本当に賑やかだ。

 

ポピパも賑やかだけど、ハロハピの方が元気な子が多いから、美咲ちゃん(ストッパー)だけじゃ止まらないんだろうなあ。

 

「師匠! やはり胸ですか! 私ももっと薄着にしたほうがいいでしょうか!」

 

「イヴさん、だからダメですって! アイドル! ジブンたちアイドルっすから!」

 

「幹彦くん、大きい胸が好きって変わってるよねー。あたしも胸はそこそこあるけど……触ってみる?」

 

「マジっすか日菜先輩!」

 

「幹彦くんならいいよー」

 

「いやいやダメですよ! 日菜さんまで変なこと言うのやめてください!」

 

ごめんなさい。私たちも同じくらい賑やかです。

 

でも、もう間もなく千聖ちゃん(保護者)が到着するから。千聖ちゃんが来たら、こんな状況もすぐに収まるよ。

 

あ、イヴちゃんの弟子入りの件、どうしよう……。




イメージ曲
だけどユメ見る(ロッカジャポニカ)

4話に続いて再登場です。正直に言うとロッカジャポニカは見たこともないんですが、この曲だけは気に入ってるので何度も聞いてます。なにも知らなくても惹きこまれる歌。まさに名曲だと思います。


原作とは異なる点:
① アイドルは多くの女性が憧れていて、なりたいと思う人も多い
② 丸山彩の中学校はオリジナルのアイドル学校
③ 丸山彩はアイドル業界に知り合いがいる
④ アイドル戦国時代なので、原作以上にスタッフとの関係がアレ
⑤ 若宮イヴ、ワールドワイドなヤバさを理解してるので、男性の価値を一番理解してる
⑥ 弦巻こころがほんのちょっとだけ嫉妬する(原作はガチ天使)


独白では、感情が高ぶると本来の口調がでてくるように書いたつもりです。見直すたびに誤字に見えて、やり辛い……
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