(仮題)とある転生者の異文化体験   作:ピッピの助

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たくさんの感想ありがとうございます。全て拝見させていただいています
「win-win-winでは?」  思わず吹き出しました。好きなキャラを独り占めは男の夢ですよね!
ダークな世界観って想像が捗っていいですよね。でも、引っ張られ過ぎると話が暗くなるので注意してます。
「たぶん日常的に使われてる楽曲はほぼ女性の作詞家・作曲家の上に女性向けの曲調だろうから所謂"男が好きそう"な曲ってほぼないんじゃないか?」  間違いなく無いでしょうね。ノリのいい曲はあると思いますが、熱い曲は……でも、ロゼリアがいるから……。
仕事についてですが、1月から少しずつ忙しくなって、繁忙期になると月80~100時間残業上等の、週休0~1日タイムに突入します。もう、デイリークエストこなしたら寝る時間ですよ。今年のGWは休み0でした(平日は諦めるけどGWの土日ぐらい休ませて)。さすがに半年も経てば熱が引いてしまうと思うので、一度、閉じないといけないと考えています。
「つまり年内に(仮題)とある転生者の異文化体験 1st Seasonが終わり2nd Seasonが来年中頃に始まるという理解でよろしいか?」  その発想はなかったw



ガルパも今週で一段落つきます。正直に言えば、まだまだ書き足りないエピソードがあるんですが、さすがにこれ以上、同じイベントを続けるのはアレなんで進めます。

各バンドのイメージは個人的な考えです(保身)。


11話

ガルパ ライブ本番

 

長きに渡って準備をしていたガルパがようやく本番を迎えた。

 

本番前に、開場したホールを見に行くと客で埋まっていた。

 

ありがたいことに、ライブは満員御礼だ。

 

ミニライブのおかげか、その直後に販売開始されたチケットは購入制限をかけたにも拘らず、30分ほどで売り切れたらしい。

 

幸い、ミニライブを見に来た人で買えなかった人はいなかったらしいけど、かなりギリギリだったようだ。

 

ミニライブを見て、すぐに購入制限をかけると決めたCircleスタッフのまりなさんがいなければ、もっと混乱していたかもしれない。若いのに頼りになる人だ。

 

その後もチケットの問い合わせがかなりあったらしいけど、全てCircle側で処理してくれて、俺たちがそれに慌てることはなかった。他のスタッフさんもありがとうございます。

 

まあ、俺たちは俺たちで、ミニライブ以上のライブをするための打ち合わせで、揉めに揉めたあげく、危うく空中分解しかけたりしたんだけど……。でも、ポピパの香澄ちゃんのおかげで、なんとか軌道修正し、仲良く本番を迎えることができた。

 

そんなライブ開始30分ほど前に俺が何をしているかというと、会場の偵察に来ているのだ。

 

ピアノの演奏会からの癖なのだが、俺は本番前に、どんな人が来てるか見るのが好きだ。

 

演奏が始まってしまえば、客が多かろうが少なかろうが、どんな格好をしてようが目に入らなくなってしまう。

 

ただ全力でピアノと向き合い、全神経をそれに集中してしまう。

 

ハロハピに入ってからは、メンバーが出す他の音にも集中するようになったし、観客が笑顔かどうかとか、盛り上がり具合はどんな感じかを気にするようになったから、以前よりは観客に意識を向けている。

 

でも、演奏中はじっくりと観察することはできないし、それよりも音が気になってしまうので、今もなお、こうして開演前の会場に来ているのだ。

 

会場の隅っこ。壁に寄りかかる。

 

俺の体格は目立つけど、わざわざ隅にいる男に話しかけるようなやつはこの世界にはいない。男に不用意に近づくことの危険さは、普通の人なら理解している。チラッと遠巻きに見て、それまでだ。

 

シレッと黒服さんが一人ついてきてくれたから、それも関わりたくない雰囲気作りに一役買ってくれてるんだろう。

 

だから、俺と同じく目立たないように壁際に立つ子が、やたらと俺を凝視しているように思えるのだって気のせいだ。慣れたように周囲に溶け込んでるけど、よく見ると白鷺千聖みたいに芸能人オーラを出しているのも気のせいだし、サングラス越しに水色の綺麗な目が見えるのも気のせいだ。そもそもパスパレ以外の芸能人と接点はなかったはずだしね。

 

意識してお忍びさんを視界から外して、会場を見渡す。

 

まだホールで時間を潰している人がいるのに、会場内にも人が多い。仲間と話す人や、最前列に陣取って、ライブの開始を今か今かと待ってる人、何やらスマホをもの凄い勢いで操作している人、落ち着かなさそうに辺りを見渡している人。

 

ピアノのコンクールと違ってスタンディング席だからか、そわそわとした感じがする。いかにも楽しみな気持ちが抑えられないように見えて、俺もテンションが上がってくる。

 

ゴスロリ服の子、パンクな格好の子、サイリウムを持ってる子、オシャレな格好をしている子、ラフな格好をしている子、ビジカジっぽい格好の女性など、服装もさまざまだ。

 

パンクな格好の子は露出が高めでいいね。サイリウムを持ってる子(たぶんパスパレのファン?)は良い服着てるのだが、着こなし方が甘い。そんな甘い着方だと胸が強調されてしまうぞ。もっとやれ。

 

お、ミッシェルのキーホルダー付けてる子がいる。あの子はうちのファンだな。

 

ていうかミッシェルのキーホルダーってあるんだ。あいつドマイナーな地方マスコットキャラじゃなかったけ?

 

「頑張りました」

 

え、黒服さん? 黒服さんが作ったの? はあ、すっごく完成度高いっすね。

 

……とにかく、こうしてハロハピのファンができたのはいいことだ。

 

どこで販売したかは知らないけど、気をつけて見るとミッシェルキーホルダーを付けてる子が何人かいる。少ないように見えるが、あのミニライブ1回でファンになってくれたと考えると、とてもすごい。

 

ミニライブはやっぱり成功だったと実感できる。

 

まあ、魅力的なバンドを5つも集めたのだから、当たり前といえば当たり前だ。

 

音楽チートを持っているおかげで、俺はどんな曲でも1回聞けば耳コピできるし、上手い下手だって直感で理解できる。

 

そんな俺から見ても、ガルパのバンドはどれも個性があって、魅力的だとわかる。

 

Afterglow(アフターグロウ)。

 

幼馴染5人のバンドで、中学からバンドを組んでいる高校生のバンドとして、全体が高いレベルでまとまっている。メンバーの息もピッタリと合っていて、全員が曲の理解が深く、完成度の高い演奏をする良いバンドだ。あと、ひまりちゃんが胸が大きくて可愛い。

 

Roselia(ロゼリア)。

 

演奏技術で言えばハロハピを含めた4バンドを軽く凌駕している。ボーカルの湊友希那の圧巻の声量と声域が生み出す独特な世界観で、耳をぶっ叩かれる。

 

特にギターとキーボードの完成度が高い。燐子先輩が可愛くて胸が大きくて演奏が上手いのは言うまでもないが、ギターの氷川先輩の安定感がヤバい。難しいフレーズに入っても、一切ブレる様子がない演奏。このバンドは彼女のギターが土台にある。

 

湊先輩があんなに自己表現ができるのも間違いなくギターがあってこそ。ベースが補完して、ドラムが演奏に勢いを付け、燐子先輩のキーボードが花を添える。ただでさえ高い完成度の曲に聞き惚れるのに、さらにボーカルが畳み込みにいく。

 

まりなさんがプロも注目してると言っていたが、納得だ。明らかに完成度が違うバンドだ。

 

Pastel*Palette(パスパレ)。

 

一番歪なバンドだ。ベースとキーボードはまだまだ発展途上。麻弥先輩のドラムが要のバンド。

 

全体的にまとまった形で仕上げているが、やはり他のバンドには劣る。だけど彼女たちの魅力を演奏だけで判断するのは間違っている。彼女たちはアイドルだ。演奏を聞くだけじゃわからないが、パフォーマンスに力を入れているのだ。

 

ギターやベースはもちろんのこと、キーボードも可愛らしさを演出するためにショルダーキーボードを使い、ふりふりとスカートを揺らしながら可愛らしく演奏している。流石にドラムは据え置き型で、麻弥先輩が歌に合わせて手を上げるくらいだが、麻弥先輩はそれ以上に重要な曲の要だ。他のメンバーじゃあ代わりはできない。

 

あと、パスパレの短いスカートでドラムはけっこう勇気がいるんじゃないだろうか。いや、別に嫌いじゃないけどね。

 

え? 白の目立たない短パン履いてる? あ、そうなんですね。……黒服さん、物知りっすね。

 

ボーカルの彩先輩が一番キツいポジションで、踊りながら歌うのだ。こころが難なくやってるので、なんだそんなことかと思うかもしれないが、こころはフィジカルエリートだ。軽い散歩のノリで激しいステップを軽々と踏む。

 

彩先輩に備わっているのは、残念ながら並の運動神経なので、かなりダンスには意識を取られているだろう。そう考えると声がぶれたり、歌詞を間違えたりするのも仕方ない。個人的にはいい声してるんだから歌に専念してほしいのだが、彩先輩はアイドルにこだわりがあるので、これからもダンスを続けるのだろう。まあ、合同練習後のミニライブで歌の質が激変してたから、もしかしたら化けるかもしれない。楽しみな人ではある。

 

そして、一番の問題児、ギターだ。なんとギターの日菜先輩はロゼリアのギターである氷川先輩の双子の妹らしい。この二人はおもしろいほど性格が真逆で、方や堅物クールな女性で、方や無邪気パッションな女性って感じだ。残念ながらキュート要素はどちらにもない。

 

演奏も2人は全く異なる。ロゼリアの氷川先輩は正確な演奏により、ボーカルの湊先輩を初め、バンド全体の演奏を支える要としてギターを弾く。一方でパスパレの日菜先輩は天才的な感覚による演奏により、パスパレの音を一番盛りたてる。姉である氷川先輩とは大きく違う点は、彼女はリズムキープに向かないという点。

 

氷川先輩はその性格もあり、リズムを崩さずに整然とした力のある演奏ができ、また得意としている。日菜先輩も実力的に同じことができるのだが、その演奏は魅力に欠ける。これも彼女の性格によるものだが、日菜先輩は自由にやることが好きで、その状況下でパフォーマンスが跳ね上がる。彼女の演奏が走り始めると、メンバーがついていけない代わりに、ギターがどんどん輝いていく。俺も彼女が好きに演奏している方が何十倍も魅力的だと思ってる。

 

これでわかるとおり、このパスパレというバンド、演奏をまとめられる人が麻弥先輩しかいないのだ。ベースとキーボードは自分のことで手一杯、ギターは難しい演奏も卒なくこなすが、油断すると飛び出して行きそうになる。ドラムが唯一、安定した正確なリズムを取り続ける。

 

なんとかドラムがリズムをキープしてるなかに、忙しい彩先輩のボーカルが乗っかる。

 

正直、顔合わせをしたときの実力では、5バンドで一番下だと思ってた。

 

でもミニライブの出来は本当によかった。

 

口パクバンドという不名誉な名前が付けられていることもあり、ミニライブの始めはパスパレを鼻で笑ってる人がいたが、ミニライブ終了後はそんな人はいなくなってた。それどころか、予想以上だったとか、ダンスが可愛かった、なんて声が聞こえた。

 

……ダンス可愛かった? 胸が弾んでるのは眼福だったけど、コミカルじゃね?

 

ガルパで一番進化を遂げたのはパスパレなのかもしれない。

 

あと、今世ではアイドルの人気がすごいことになってるけど、俺としてはなんだかなあって感じ。人気のアイドルって、みんな女の子が憧れる理想像なんだよ。前世と違って男受けするっていうより、女受けする女性アイドルって感じ。

 

だからこそ成り手がたくさんいるんだろうけど、俺としては、へー頑張ってね、みたいな気持ちだ。

 

Poppin’Party(ポピパ)。

 

とにかく楽しい、キラキラなバンド。

 

いや、バカにしてるわけじゃない。それどころか、個人的に最も気に入っている。有咲がすごく胸が大きく可愛いってのはあるけど、それ以上に香澄ちゃんがヤバい。ギターの腕はお世辞にも上手いとは言えないし、声域、声量も湊先輩には及ばない。でも、表現力がすごい。

 

正直、表現力はプロの世界を含めても、こころが日本一だと思ってた(ただし特化型)けど、香澄ちゃんはこころに並ぶ。

 

こころ=香澄ちゃん>>越えられない壁>>その他

主観だが、そう思ってる。

 

曲と歌詞は他のバンドメンバーが作っているらしいが、その曲もポピパに合った曲で、香澄ちゃんが曲の良さを見事に歌い上げる。

 

演奏面でも一体感の強いバンドで、どの楽器も走ること無く正確に、でも、とても楽しそうに演奏する。彼女たちが演奏を如何に楽しんでいるかは音でわかるし、香澄ちゃんもその音を聞いて、楽しくて仕方ないと笑顔になる。

 

しかも、このバンドはまだまだ発展途上である。

 

アフターグロウみたいに自己完結してるわけでもなければ、ロゼリアみたいに高いレベルから更に+αを求める、伸び悩みの段階でもない。まさに今、急成長しているバンドだ。

 

まだ自分たちのバンドっていうのを探している最中で、ところどころで見つかる粗は、聞く人の耳に残ってしまうこともある。でも、それが無くなったとき、飛躍的に人気が出るバンドだと確信している。

 

演奏だって顔合わせの時より、明らかに厚みが増している。たぶん合同練習を通して彼女たちの意識にも変化があったのだろう。ロゼリア先輩にはずいぶんと可愛がられていたし(相撲的な意味で)、この合同練習で一番成長したのはポピパだろう。

 

パスパレが姿を変えようとしているのなら、ポピパはすくすくと育ってるイメージかな。

 

悪いバンドマンに騙されて、たばこスパスパお酒上等、乱交パーティーいえーい、みたいな育成ミスがありえないのは、この世界の美点だ。異性がいないことが良い結果になった面でもある。

 

それに香澄ちゃんも結構大きい。花音ほど大きくないのだが、香澄ちゃんは、この世界でありがちな胸の大きさを誤魔かす服は着ていない。有咲の影響だろうか。大きめのものが彼女の動きに合わせてふよんふよんと揺れるのは見ていて心地いい。まあ、あんまり見てると有咲が睨んでくるから、ほどほどに楽しんでる。

 

たぶんドラムの沙綾ちゃんも香澄ちゃんと同じか、それ以上のものを持ってると思うのだが、残念ながら彼女は見た目を気にしている。たぶんブラで抑えてるな。なんてもったいない……。

 

聞いて楽しい、見て楽しい、話しかけるとなお楽しい。俺もファンになった。マジで応援してます。

 

そんな個性的な5バンドが揃っているが、どのバンドが一番かと言われたら、間違いなく俺たちハロハピだ。

 

演奏面での好敵手はロゼリア。

 

個々の楽器で見れば、ロゼリアの技術に負けているところはあるけど、ハロハピは表現力特化だ。演奏は俺がまとめあげればいい。幸い、花音がリズムキープを好んでいるから、花音の音を目印にすれば難しいことではない。花音様々である。

 

ただ、そうはいってもロゼリアの技術力は素晴らしい。彼女らが言うように音楽には好き嫌いがあるから、ハロハピよりもロゼリアが好きっていう人は少なくないと思う。

 

まあ、ハロハピが一番ってことには変わりないけど。

 

曲調の面ではポピパが同じ位置にいるが、これはなんとも言えない。

 

ハロハピが笑顔系(新ジャンル)特化なのに対して、ポピパはロック調でもバラード調でも歌うから、厳密には同じでない。笑顔系ならハロハピが勝つし、それ以外はハロハピは歌わないから、別と言ってもいい。

 

ただ、個人的に応援しているので、お互いに刺激を与え合える関係になれれば嬉しい。

 

見ていて楽しい、という点ではパスパレと被るのだが、恐るるに足らず。

 

うちにはナチュラルパフォーマーである前衛3人がいる。いくら彩先輩が頑張ったとしても勝ち目はない。こころの無限の体力と、天性の感性は群を抜いているし、あの歌って踊っているだけなのに人の股間をダイレクトアタックするような魔性の体付きは真似できるものじゃない。こころ1人だけでも圧勝できる。

 

本当、何であんなにエロいんだろうね? まあ、俺がこころに惚れてるからだと思うけどさ。

 

とにかく、パスパレも敵じゃない。

 

満足度で言えば、

 

ハロハピ:ロゼリア:パスパレ:ポピパ:アフターグロウ=

3 : 2.5 : 2.5 : 1 : 1

 

くらいになると思う。

 

まあ、今の段階では、て話なので、この先どうなるかはわからない。1年後にはロゼリアのファンはもっともっと増えてるだろうし、パスパレとポピパの演奏はぐっと安定しているだろう。アフターグロウはよくわからないけど、彼女たちも良い感じにやっていくだろう。

 

若ければ若い分だけ成長は速い。彼女たちがこれからどんな曲を作って、どんな歌詞を歌うようになるのか楽しみだ。

 

前世では聞いたことのない曲が、希望に満ちた彼女たちから作り出される。バンドの1メンバーとして、それに関われることが、どんなに嬉しくて、かけがえのないものであるかくらい、理解出来てる。2度目の人生だ。何が大切かくらいはわかってる。

 

閑話休題。

 

 

 

改めて会場を見る。観客たちはみんなキラキラした顔をしている。ネットでは見れない光景だ。自分も主催者側として、彼女たちが楽しんでくれる演奏をしたい。そう思った。

 

考える時間が長かったせいか、ホールにいた人が徐々に会場入りしてきて、更に密集度が上がってきた。

 

どこかで時間を潰してきたのか、どことなくイベント慣れしていたり、大学生以上の人が多く入ってきた。

 

大学生といえば、年齢層が思っていたより広い。下は中学生くらいから、上は30前半くらいかな?

 

今世ではアンチエイジングが進んでいるので、俺の予想より10歳上だったなんてこともありうる。雰囲気もドシッとしているので、たぶんもっと年上なんだろうな。

 

なんで雰囲気がわかるかって?

 

ジッとこっち見てるからだよ。

 

俺が偵察に来たときから既に会場入りしてて、俺が観客の品評をしているとき、その女性は連れの女性と話しながらこちらを伺ってた。その連れの女性も同じように俺をずっと見てくるからわかったんだよ。

 

まあ、なんとなくわかるけどね。こないだ有咲と報告したから、ハロハピってバンドの一員ってことと、Circleってライブハウスで活動してることは、あいつら全員知ってるからね。

 

きっとあいつらも有咲と同じなんだろうってことは理解出来てる。

 

でもほら、俺Vtuberだからさ。中の人なんていないからさ。

 

有咲は特別だから仕方ないけど、いくら初期勢だからってホイホイ挨拶するわけにもいかないだろ?

 

「ありさにゃんZは?」

 

「……」

 

だから話しかけてくるな。ほら、隣のお忍びさんも興味深そうに観察してるぞ。

 

「いないの?」

 

「……ポピパはトップバッターだから控室」

 

短く返す。ああ、ほら、視線が集まってきてる!

 

「まあそうよね。挨拶したかったけど仕方ないか」

 

「有咲にちょっかい出すなよ」

 

「出すわけないでしょ。あの子はうちのNO.1よ。ただ話してみたいだけ。打ち合わせしておきたいこともあるしね」

 

いつからNO.1とかできたんすか?

 

まあ、手を出すなとは言ったが、有咲が初期勢でも一目置かれてるのは知ってたから心配はしてない。でも有咲は高校1年生の女の子だから、こんな推定アラフォーの女の古と接したら、本人に悪意がなくても圧を感じてしまうだろう。

 

「圧なんかかけないから安心しなさいって。ほかのファンは知らないけど、私たちは仲間よ。手のかかる畜生の飼育係を務めてきた仲間なのに、攻撃するバカがどこにいんのよ」

 

畜生でもないし、世話された覚えもないけど、含むところがないのはわかった。

 

「俺なにも言ってないけど」

 

「あんたの顔、わかりやすいわよ。隠す気なさそうだし。……でも」

 

「でも?」

 

「女性に年の話をするときは覚悟しときなさい。私はやると決めたらやるタチよ」

 

圧巻の迫力で凄んできた。俺の母(今世)も相当な迫力がある女社長なんだけど、この人の圧はそれ以上だ。

 

俺だって思わずたじろいでしまう。この人が初期勢じゃなければ。

 

「いや、してないし」

 

なんか怒ってるしー、超うけるんだけどー。なんて心持ちで答えた。

 

「心に思っただけで罪よ」

 

「キリスト教じゃないんで」

 

情欲をいだいて女を見る者は、心の中ですでに姦淫をしたのである。

 

なんだよそれ。彼らの中にいたら、あまりの生きづらさに絶望する自信がある。

 

「いいわ。今回は許してあげる。……そろそろ行くわ。少し目立ってしまったみたい」

 

「まあそりゃあね。男が女に絡まれてたら普通は警察沙汰だ」

 

「あんたのガタイじゃ、逆に私たちがいじめられるわよ。顔も怖いしね」

 

「うるせー」

 

じゃあ、また。そういって彼女はステージ方面へと歩いて行った。

 

一方で、彼女の連れの女性がスッと俺の前に来た。

 

その女は、その拳を俺の胸に押し付けた。

 

「気張れよ、鹿」

 

「人間です。……まあでも、退屈はさせないって約束する」

 

その女は俺の言葉を聞いて勝気そうな笑みを浮かべると、ステージの方へ向かい、やがて人混みに消えていった。

 

残ったのは周囲の好奇の視線だけ。

 

会場内の喧騒もあるし、さっきの会話は聞こえてないだろうけど、男に拳を当てたことが衝撃だったのだろう。傍から見れば殴りかかったようにも見えたのだろうか。

 

てか、黒服さん。あいつら、すごい近づいてたけど無警戒でしたね。

 

「いえ、あの方は…………なんでもないです」

 

え、なんですか、すっごい気になるんですけど。

 

「それよりも海堂様、周りの視線が少し……」

 

もう偵察って雰囲気じゃないな。

 

気がつけばお忍びさんも少し距離を取ったところにいる。さっきまでそこにいたのに。動きが早いな。

 

最後は締まらなかったけど、やっぱり偵察はおもしろい。

 

自分のテンションが上がっていくのを感じながら、俺は控室に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、せーの……」

 

『かんぱーい!!!』

 

香澄の音頭で、Circleの一室を使った打ち上げが開かれた。

 

ガルパは大盛況のもと、無事、成功した。

 

最後のアンコール用に、5バンドから楽器1名とボーカルを出し合ったクインティプルスマイルという曲を演奏した。みんなそれぞれ自分のバンド練習があるから、そろって合わせる時間が少なかったんだろうけど、本番の演奏はみんな息が合っていて、観客の反応はとても良かった。

 

言うことなしのライブだった。

 

みんな、興奮冷めやらぬ様子で打ち上げ会場に乗りこみ、今に至る。

 

流石に27人を1つのテーブルに座らせると会議みたいになるから、5~6人ずつバンドから1名ずつ組み合うように座っている。

 

私の席は、奥沢さん、リサさん、彩先輩、巴さんが相席だ。

 

お互いを労って、ピザやポテト、エビフライなどのジャンクフードを囲んで、みんなでつつき合う。話題になるのはライブの感想だ。

 

「いやー、クインティプル☆すまいるはやっぱりアタシには荷が重かったよー」

 

「そんなことないよ。リサちゃんのベース、音がしっかり取れてたよ」

 

「ありがとね、彩。でも、いつものメンバーと違うから、勝手が違ってキツかったー」

 

「ベースがリサさん、ギターが日菜先輩とおたえ、ドラムが巴さんでキーボードが幹彦でしたね。うーん……お疲れ様です」

 

ボーカルは各バンドのボーカル全員で歌うというカオスっぷり。私がキーボードじゃなくて心底ほっとする。

 

「ほんとだよ! お客さんに影響されたのか、みんなリハとノリが違ってたし。巴もどんどん激しく叩き始めちゃうし」

 

「はは、すいません、リサさん。慣れないメンバーだったし、始めはリズム取ることを考えたんですけど、日菜先輩がノリノリで演奏している音と姿を見てたら……つい」

 

「日菜ちゃんすごかったね。歌が入るところは抑えてくれたけど、間奏は独壇場だったよ」

 

「いやー、紗夜と全然違ったね。ずっと紗夜と合わせてたから日菜とだって、なんとかなるって思ってたけど、付いていけなかったよー」

 

「ついテンション上がった私が言うのもアレですけど、ちゃんとリズムを取り続けたリサさんはすごいと思いますよ」

 

思わず、巴さんの言葉に頷く。

 

「実はあれ、何度か音に迷ったんだよね」

 

「え、そうなんですか?」

 

「うん。そのたびに幹彦の音を聞いて、なんとか持ちこたえてた」

 

「ああ、なるほど」

 

「あいつも少しはリサさんの役に立てたみたいですね」

 

日菜先輩も巴さんも走って、おたえも走りかねない状況だったのだ。最後の砦であるリサさんを助けられたのはナイスだ。

 

「少しなんてもんじゃないって。演奏前に、フォロー入れるから危なくなったらキーボードの音を聞いてくれって言われたけど、あんなに助けてくれるとは思わなかったよ。感謝してる」

 

「そうなんですか。って、奥沢さん、ごめん。奥沢さんの前なのに口が悪かった」

 

本人が気安いから油断してしまう。

 

いくら何年も付き合ってるやつでも、奥沢さんの前で彼氏の悪口は良くない。

 

「いいよ、気にしないで。市ヶ谷さんはもう、あたしたちと同じなんだからいいんだよ」

 

「え? いやいや! 私とあいつはそんなんじゃねえから!」

 

突然なにを言ってるんだ!

 

「恥ずかしがらなくてもいいって。市ヶ谷さんだって幹彦のこと嫌いじゃないでしょ?」

 

「そりゃあ嫌いなわけないけど……ほら、あいつの気持ちだってあるからさ」

 

確かに私は、この中じゃ一番付き合いが長いけど、私にも、いや、私たちにも譲れないところがある。あいつの行動は(いさ)めるけど、あいつの負担にはならないようにって決めてるんだ。

 

奥沢さんと花音先輩がいるのに、更に女性を増やすのは負担につながる。慎重になるべきだ。

 

たとえ私があいつの好みのスタイルをしてるからって、それだけで彼女面なんてできるわけがない。

 

「いや、絶対に市ヶ谷さんのこと狙ってるよ」

 

「……マジ?」

 

奥沢さんは至って真面目な顔だ。

 

「マジ。油断すると一瞬だから気をつけてね」

 

「なにをだよ!」

 

「そりゃあナニをだよ」

 

「ナニって……!」

 

ふいにベッドに押し倒される場面が浮かんだ。

 

顔が熱くなる。

 

「うわぁ……二人ともすごい会話してる」

 

「彼氏に新しい彼女ができるときって、こういう感じなんだ……」

 

彩先輩とリサさんが少し顔を赤くさせて、こちらを観察してくる。

 

それに気づくと、よけいに顔が熱くなる。

 

こんな話は終わらせたい。……でも、どうしても確認したい。

 

「奥沢さんはいいの? その……私がいることは気になったりしない?」

 

あいつが本気で私のこと狙ってたとしても、もう彼女がいるんだ。傍から見ても奥沢さんと花音先輩はあいつに愛されてて、良好な関係だってわかる。

 

そこに、実は昔からの知り合いですって割り込む?

 

そんなの気まず過ぎてできるわけがない。

 

……できるわけがないのに、もしかしたらと考える自分もいる。

 

最近の私は何だかおかしい。

 

「市ヶ谷さんはこっち(ツッコミ)側でしょ。もちろん、大歓迎だよ」

 

「え、なにそれ」

 

理由、それ?

 

そもそも、そんな役割必要か?

 

あいつはボケるってより、バカなこと言ってるやつらを叱る側じゃないか?

 

そう思って、幹彦に視線をやる。

 

幹彦は膝に弦巻さんを乗せて、その隣に座ってる白金先輩に話しかけてる。やたらと距離が近い。

 

ん? なんか弦巻さんが後頭部を幹彦の胸にガンガンぶつけてる気がするんだけど……。テーブルのコップ、振動ですっげー揺れてね?

 

それに気づいた幹彦が、弦巻さんの頭を撫でた。すると弦巻さんが大人しくなる。

 

幹彦はその間も燐子先輩と会話を続けてる。ときどき視線を下ろす。胸を見てるな。

 

燐子先輩もそれに気づいて、顔を赤くさせてるんだけど、あいつはそれが逆に良いらしく、さらに上機嫌な顔になって話してる。

 

燐子先輩に夢中になって幹彦の手が止まったので、弦巻さんがまた後頭部をぶつけ始めた。

 

これは……うん……。

 

「……ツッコミ、要るな」

 

「わかってくれて嬉しいよ。あいつ、常識人ぶっといて、あんな感じだからね。目が離せないんだよ。花音さんは一線を超えないかぎり、笑って許しちゃうし」

 

「う……なんとなくわかるかも」

 

「こないだのアフターグロウとの合同練習だって、ずっと上原さんに絡んでたし」

 

「ああ、あったな。ひまりも少し居心地悪そうだったよ」

 

「やっぱり? ごめんね、あいつには後で言っておくから」

 

「いや、そこまでしなくていいって。ひまりだって、合同練習のあと、男の子と仲良くなれたーって喜んでたから」

 

「マジ? 上原さんって意外と強いんだな」

 

上原さんも胸がすごく大きい。服で隠してるから、それがコンプレックスなんだろうなって思う。そういう人は大概、他人と接するのを嫌がるから、上原さんもそうだと思ってた。

 

「ああ見えて、ものすごい社交的なやつなんだよ。少し前までいろいろ悩みもあったけど、今は昔みたいに戻ってきてるんだ」

 

「へー。じゃあ、脈はありそう?」

 

奥沢さんって、意外と攻めるよな。

 

「どうだろう。ひまりは憧れてるアイドルがいるからな」

 

「そうなんだ。じゃあ、それは幹彦に伝えておこうかな」

 

……それはいい。

 

「なんか嬉しそうだな」

 

「そんなことないよ。彼氏に残念だね、て伝えなきゃいけないから、内心は気が重いよ」

 

「ぜってー嘘。奥沢さん、あいつが悔しがるのが見たいだけだろ」

 

「バレた?」

 

「わかるって。なんだったら私が言いたいくらいだよ」

 

あんなエロそうな目で燐子先輩を見てる顔を悔しがらせたい。やっぱり普通はそう思うよな。

 

「じゃあ、花音さんと3人で言いにいこうか。上原さん良い人だねーって切り出して……」

 

「途中で、でも好きな人いるんだって、だろ?」

 

「そう!」

 

え、なにそれ聞いてない。そんな顔で唖然とする幹彦の顔が思い浮かぶ。

 

楽しみだ。普段、調子にのって私のことをからかってるんだから、少しくらいやり返さないとな。

 

「やっぱり市ヶ谷さんとは気が合うな」

 

奥沢さんと笑い合う。私だって奥沢さんには共感してる。でも、だからこそ不思議なのだ。私がもし、もし幹彦と付き合うことになったらだ。奥沢さんみたいに新しく彼女になりそうな人を歓迎できるのかなって。

 

「……さっきの話だけど、本当にいいのか? 私が……そのあいつと付き合うっての」

 

「幹彦が完全にその気だから、あたしから言うことはないよ。それに市ヶ谷さんは常識あるし、話が合うから、むしろ市ヶ谷さんで良かったと思ってる」

 

「そっか……ありがとな」

 

納得はできてない。でも、奥沢さんが嘘を言ってるようにも見えない。

 

私も本心を言えば、あいつとそういう仲になりたいと思っているのだ。断る理由なんてない。

 

「どういたしまして。あ、でも一つだけお願いがあるかも」

 

「うん?」

 

「前だ後ろだって順番はないし、今後も作らないようにしようと思ってるんだけど……あの子は別だから」

 

あの子、と言われて思い当たるのは一人だけだ。

 

チラッと離れたテーブルに座る弦巻さんを見る。幹彦の膝の上に座って、楽しそうに話している。

 

「1番はあの子。それだけわかってくれれば、あたしはなにも言わないよ。たぶん花音さんもそう」

 

いつも弦巻さんたちに振り回されているのに、奥沢さんの顔からは彼女への信頼が見えた。

 

「やっぱり男の子と付き合うって大変なんだね」

 

しみじみとした声で彩先輩が言った。

 

「確かに大変な面はありますけど、実際はそんな気にならないですよ。あいつは好き放題してますけど、あたしだって買い物に付きあわせたり、花音さんもカフェ巡りに付きあわせたりで、やりたいことやってますからね」

 

「買い物に、カフェでおしゃべりか。いいね、まさに理想のカップルって感じがするなー」

 

「はは。まあ、あいつは特殊な人間なんで、みんなの理想と同じかはわかりませんが、あたしたちは満足してますよ。市ヶ谷さんはあいつと何がしたいの?」

 

急に話題を振られてびっくりする。

 

「……まあ、別にこれがしたいってのはないよ。家でだらだら話したり、少し遊びに行ければそれでいいかな」

 

2人でまったり動画でも見たいな、と思うけど、本人と一緒に本人の動画を見るのもなんだかなって気がする。ショッピングだって1日中、出歩くのは疲れるから、半日は家でまったりしてたい。

 

「有咲はインドアだなー」

 

巴さんは、まさにアウトドアって感じだから、私とは真逆だろうな。

 

「でも、高望みしないところが有咲って感じ」

 

「い、いいんですよ。外に出ると疲れるし、これまでは、あいつとの接点はインターネットを通してだったから、どうしても家の中で話すって感じがするんですよ。リサさんたちはどうなんですか。男と付き合ったら、やりたいことはあるんですか?」

 

「やりたいことかー。美咲や花音みたいに普通のデートができればそれでいいかなー。普通の男性だと、それも叶わないかもだけどね」

 

「アタシは考えたことなかったから、よくわからないです。リサさんが言うように普通のデートできればいいかな」

 

「私も2人と同じかな。普通のデートって憧れるよね。あ、でも、一緒に旅行とかしてみたい!」

 

「それいいじゃん。海外は無理だけど、沖縄とか北海道とか行きたいよね」

 

「いいですね。あと、祭りに来てもらいたいな」

 

「浴衣で待ち合わせとかドラマみたいだよね!」

 

3人はキャッキャとはしゃぎ始めた。

 

「……盛り上がってるね」

 

「まあ、男性と付き合うってのは憧れではあるからな。……あいつはやってくれそう?」

 

「全部、喜んでやってくれると思う。ただ……」

 

「ただ?」

 

「そのあと、絶対ベッドインが待ってる」

 

「……!」

 

「デートを楽しんだあと、さあメインディッシュとばかりに家に連れて行かれる未来が見えるよ」

 

遠い目をする奥沢さん。たぶん、同じ目に遭ったんだろう。

 

「そ、そっか」

 

「あれ? 市ヶ谷さん、もしかしてそういう話、弱い?」

 

「いや、別に弱くねーけど! ……ただ、あんまり慣れてないだけ」

 

誰だって急にそんな話を振られたらこうなる。

 

「そっかそっか」

 

奥沢さんは、わかってるから、といった感じで頷く。

 

「その顔やめてくんね?」

 

「ごめんごめん。なんなら初めてアレするとき、あたしか花音さんも付きあおうか?」

 

「よけい恥ずかしいだろ!」

 

初めてが複数プレイとかどんな罰ゲームだ。

 

「まあ、そうだよね。でも覚えといてね」

 

「な、なにを?」

 

「あいつが胸が大きい人が好きなのはわかってると思うけど、市ヶ谷さんとするとき、それがどれだけ影響するかわからないから。市ヶ谷さんのこと気づかうと思うけど、抑えが利かなくなる可能性もあるんだよね」

 

「……抑えが利かないとどうなるんだ?」

 

「まあ、朝までコース?」

 

「朝まで!?」

 

「むしろ朝までで終わればいいけどね。延長戦も覚悟しといたほうがいいかも」

 

「え、死ぬぞ?」

 

引きこもりを舐めんなよ。こっちは学校の登下校でさえ、しんどいんだぞ。

 

それに聞いた話だと、その、アレってすごい疲れるって言うじゃん。どんなに頑張っても1時間持たない自信がある。

 

「大丈夫だって。途中からわけわかんなくなって、意識が戻るころには終わってるから。……知らない間に、悶絶級の恥ずかしいセリフ言ってるかもしれないけど」

 

「大丈夫な要素が一つもない! え、マジで? そんな感じになんの?」

 

「なるなる。あいつ、意識が朦朧としてるアタシたちに恥ずかしいこと言わせて、それを撮ってるんだよね。で、時々それを見させられて真似させられる」

 

「嘘だろ。尋常じゃないくらい変態じゃん……」

 

恥ずかしいセリフを知らない間に言わされるって、もしかしなくてもヤバい。

 

顔から血の気が引いていく。

 

「なにごとも完璧な人なんていないんだよ。あたしたちが新しい女の子を歓迎してるのって、あたしと花音さんだけじゃあ抑えられないってのも大きいんだよね。こころが入れば形勢逆転するって思ってるけど、いつになるかわからないし」

 

「マジか……くそ、どうしよう。そこまでエロいとは聞いてねーぞ。なんか対策はないの?」

 

別にエロいことするのはいい。昔から女の体に興味があると言ってたあいつだ。付き合う以上は覚悟してる。でも、恥ずかしい動画を見せられるプレイは絶対に避けたい。

 

「これを聞いても逃げない市ヶ谷さんも素質あると思うけどね。まあ、3人で挑めばもしかしたら……」

 

「勝てる?」

 

「ギリギリ気絶くらいで終わらせられるかも?」

 

「3人でもそれ!?」

 

それ勝ってんの?

 

「いやあ基礎体力が違い過ぎるからね。あたしたちも体力ついてきてると思うんだけど、なんだかんだで、あたしたちも開発されちゃったから、ダウンするまでの時間が伸びないんだよね」

 

「わ、私も気持ちいいーとか、死ぬーとか言うの?」

 

ずっと前に見た漫画で、フットーしそうだよおっっ、なんてセリフを見たことがある。

 

いや、もう頭湧いてるだろ、お前。とか思ってたけど、まさか自分がそんなことを言うとか?

 

「それは相づちレベルだよ。恥ずかしいセリフには掠りもしないって」

 

「……」

 

「? おーい、市ヶ谷さーん?」

 

「悪い、ちょっと意識が」

 

「さっそく予行練習?」

 

「違うから。……人数、増やす気はない?」

 

付き合う前からこんな話をするのはどうかと思うが、自分が醜態さらすかもしれないなら止むを得ない。

 

なんだか、さっき奥沢さんに抱いてた疑問が一気に解消された気分だ。

 

「あたしたちが動くと面倒だからしないけど、あいつが増やす分には文句は言わない。あたしたちと合わない人は止めてもらいたいけど、喉から手がでるほどほしい援軍だからね、歓迎するよ」

 

「薫さんと北沢さんは?」

 

あいつは薫さんのことを尊敬しているようだし、北沢さんは弦巻さんみたいに、よくあいつに抱きついている。実は付き合ってるんですって言われても、まあ納得する。

 

「あの二人は今のところ、そんな関係じゃないよ。たぶん、いつかはそうなるけど、今じゃない。はぐみなんて兄みたいに思ってるんじゃないかな?」

 

「燐子先輩と上原さんは?」

 

「燐子先輩は人が苦手みたいだから攻めあぐねてる。上原さんは好きな人いるって宇田川さんが言ってたから……」

 

そうだった。

 

あと仲がいいのは香澄と……沙綾もいけるか?

 

いや、ダメだ。2人が望んでるならともかく、ポピパのメンバーを生け贄に選ぶわけにはいかない。

 

パスパレとも仲がいいはずだけど、あいつは何故かアイドルとの恋愛は御法度って思ってるから無理だ。

 

「……覚悟、決めるしかないか」

 

「そうだねー。まあ、なんとかなるよ」

 

「軽くね?」

 

「今だってあたしと花音さんでなんとかなってるからね。あいつは無理してるだろうけど、あたしたちを傷つけることはしないだろうから、楽しんだもの勝ちだよ」

 

「奥沢さん……」

 

そうだ。あいつは敵じゃない。私のことが、その、好きだから、そういう行為がしたいだけで、傷つけたいわけじゃないんだ。幸いなことに、先達は気が合う奥沢さんに、常識人の花音先輩だ。そう考えれば私は恵まれてる。

 

なんだか、いける気がしてきた。

 

「……いろいろ失うものはあるけどね」

 

「最後ので台無し!」

 

わざわざ思い出させんなよ!

 

少し大きな声を出してしまった。ハッとして3人を見れば、興味深そうにこちらを見ている。

 

「二人とも大人だなー。アタシ、恋愛面で二人に勝てる気がしないよ」

 

「私も。彼氏がいる女の子の話って、こんなエグい感じなんだね。ドラマとはちょっと違う……」

 

「アフターグロウにも彼氏がいる子はいないから、すごく新鮮です」

 

この流れはマズい。

 

「ああ、もう止め! ライブ、ライブの話をしましょう!」

 

「そうだね。あたしたちだけで盛り上がるのも寂しいしね」

 

「アタシは二人の話、もっと聞きたいけどな。有咲が嫌がるなら仕方ないか」

 

「リサさん、ありがとうございます」

 

無理やりの話題切り替えだったがリサさんが乗ってくれた。

 

長い時間を過ごしたわけじゃないけど、リサさんはこういう気の使い方ができる大人の女性だ。見た目のギャルっぽさに反した落ち着きは、少し憧れてしまう。

 

「いいよ。ライブの話もしたかったしね。実はさっきライブ見に来てくれた友だちからメールが届いたんだ。すごい良かったって!」

 

「それは嬉しいですね。あたしはハロハピが特殊だから、あまり友だちにバンドしてるって言えなくて、感想聞くことないんですよね。羨ましいです」

 

ポピパは香澄や沙綾に届いてるかもしれないけど、二人とも今はメールのチェックなんて出来ないだろうな。

 

「それなら、さっきエゴサしたら感想がたくさんあったよ!」

 

エゴサ?

 

彩先輩、エゴサしてんの?

 

「おお、本当ですか!」

 

「うん。……ほら、こんなに呟いてくれてる人がいる」

 

彩先輩が見せてくれたスマホには、ガルパでハッシュタグが付いてるツイートがずらっと並んでいる。

 

「おお……!」

 

「すごいじゃん! お客さん500人くらいだったのに、半分近くも呟いてくれてる」

 

「どんなこと呟いてるんですか?」

 

「えっとね……[ガルパ最高!][ハロハピガチヤバい][なんで熊がいるのって思ったら、すっごいダンスが切れてた][あの仮面の人、マジで男?]」

 

「あ、うちのだ。わりと好評かな? いやあ、あんな重いの着て踊った甲斐があったよ」

 

「お疲れさん」

 

「ありがと。市ヶ谷さんもお疲れ様」

 

今更だけど、なんか一緒にやった感があって嬉しい。

 

「あとは[パスパレ思ったより良かった][後半、マジでヤバかった][日菜ちゃんがすっごい楽しそうに弾いてて、パスパレって本当に音楽好きなんじゃないかって思えてきた][彩ちゃんどうした? 歌がめっちゃ上手くなってるよ?]だって。へへ、照れるなあ」

 

いや、彩先輩、煽られてね?

 

それとも、これが普通なのか?

 

呟いてる人は動画のコメ欄とか、掲示板とは無縁の人もいるから、わからない。

 

「彩先輩、歌に気持ちが入ってすごく良かったですよ。うちの蘭も聞き入ってました」

 

「彩だけじゃなくて、パスパレのみんながすごく上手くなってたよね。紗夜が日菜を見て、怖い顔してたよ」

 

氷川姉妹不仲説。あれマジだったのか。

 

「えへへ、あとでまた調べよ。ほかにも[ロゼリアはいつプロになるんだ?][相変わらず正確。圧のある曲。素敵でした][参加バンドに乗せられたのか、友希那の声がいつも以上に熱が入ってたな。やっぱり同年代のコラボは良い][初めはロゼリア一強だろって思ってたけど、みんなすごかった。でもロゼリア最高!]」

 

「いいねいいね。好評だよ。私ももっと頑張らないと」

 

「リサさんも充分、上手いと思います。やっぱりロゼリアの人は目標が高いですね」

 

巴さんたちアフターグロウとロゼリアは合同練習してるからか、2人はけっこう仲がいい。

 

「まあね。でも、楽しいよ。やりがいがあって、夢中になれる。彩、他にはなんて書いてあるの?」

 

「えっとね、これはポピパだね[ポピパが思ってた以上にいい][ギターの子、技術力あるし、スタイルいいし、綺麗な顔してるし、完璧すぎん?][1番手として文句なしの出来。次のライブも行けたら応援するから][ボーカルの子、楽しそうに歌うよね]」

 

「やべー……けっこう嬉しいかも」

 

ストレートな感想はくるものがある。

 

こうやって純粋な観客から感想を聞いたのは初めてだったけど、なるほど、彩先輩がエゴサする理由が少しわかった。

 

「だよね。こうしてみんなの反応に応えられたと思うと気持ちいいよね」

 

「ギターの子……花園さんだよね。確かにギター弾いてるところは格好良いよね」

 

「ああ、演奏中は頼りになるやつだよ。日菜先輩にも負けないくらい、いい音出してた」

 

私も音楽に関してはすっげー信頼してる。りみも沙綾も知識はあるけど、一番バンドの業界に詳しいのはおたえだ。

 

「うんうん。たえちゃんはモデルでも通用すると思うな。あとは[アフターグロウ格好良かった][アフターグロウ完成度高すぎ][ボーカルの子、迫力あったな][ベースとキーボードの位置、逆じゃないの? あんなに上手いのになんでベースが一歩下がってるんだ?]」

 

「……!」

 

「アフターグロウも感触バッチリだね」

 

「美竹さん、確かに迫力あったよね。ロゼリアとのバチバチがこっちまで伝わってきたよ」

 

私も思った。

 

合同練習で仲良くなったかなと思ったけど、そんなことはなかったようだ。いや、周りは仲良くなってるんだけどな。

 

「友希那もだけど、蘭も負けず嫌いなところありそうだよね。ね、巴」

 

「……」

 

「巴?」

 

巴さんは彩先輩のスマホを見たまま黙っている。

 

「すいません! ちょっとみんなに伝えてきます!」

 

「巴!?」

 

巴さんはそう言うと、少し離れたテーブルに早足で移動した。そして、そこに座っていた上原さんに自分のスマホを見せて何か言っていた。

 

「なんか真剣でしたね」

 

「美咲もそう思った? まあ、アフターグロウにもいろいろあるんだよ」

 

「合同練習で何かあったんですか?」

 

「友希那と蘭が少しぶつかったけど、それは関係ないかな。……私が軽く聞いただけ」

 

リサさんは私たちから視線を逸らして言った。

 

なんともいえない空気が流れる。

 

「……上手くいくといいですね」

 

「……美咲はいい女だねー」

 

うん。私もそう思う。

 

奥沢さんは、私と奥沢さんは似てるって言ってくれたけど、私にはこんな気づかいはできない。

 

幹彦が、美咲はちょっとスれてるって言ってたのはこのことか。でも悪い意味じゃないんだろうな。

 

「え、なんですか、急にからかわないでくださいよ」

 

「ここで慌てないところが美咲らしいね。有咲みたいに可愛く慌ててくれていいのに」

 

「私を巻き込まないでください」

 

「あたしは市ヶ谷さんみたいな可愛い女じゃないですから。それより彩さん、もうツイートはないんですか?」

 

「あ、うん。あとは[最後の歌よかった。それぞれのバンドから1名ずつ出して演奏するってエモすぎ!][クインティプル☆すまいるの日菜ちゃんヤバかった][日菜ちゃん、あれだけ好き放題やって、よく演奏が壊れなかったな][ポピパのギターの子もすごい技術高いんだけど、日菜ちゃんがガチ][パスパレって、もしかしてポテンシャル高い?]」

 

「日菜さんばっかだね」

 

「マジすごかったからな。おたえもずっと、すごいすごい言ってたし」

 

正直言うと、おたえが少し霞んでしまうくらいに目立ってた。でも、おたえは同じギタリストとして感じるものがあったらしく、ガルパが終わってから興奮しっぱなしだった。

 

「パスパレの仲間が褒められるのは嬉しいけど、日菜ちゃんが本気になったら音を取りきれるか不安だよ……。あとは……あ!」

 

「何かありました?」

 

「うん……[プライベートっぽいから名前は言わないけど、有名人も見に来てた。それだけ注目されてるってことか][あれ、ひめちゃんいた?][髪型変えて、サングラスもしてたけど、オーラが隠せてない子がいたな]」

 

「ひめちゃん?」

 

「もしかして、白鳥ひめ?」

 

ひめちゃんという名の有名人は彼女くらいしか思い浮かばないし、ステージからでも、やたら目につく女性がいたのは覚えてる。すごい綺麗な金髪してた。

 

「たぶんそうだと思う。私がチケットをあげたんだ」

 

「彩さん、白鳥ひめと知り合いなんですか!?」

 

「同じ学校の同級生だったんだ。最近はあんまり会えないけど、よく連絡取ってるよ」

 

「さすが彩だね。超有名人の名前がサラッと出てきたよ」

 

「えへへ。まだアイドルになったばかりだから、学校の同級生以外はそんなに仲良くなれてないんだけどね。でも、ひめちゃんがこうやってお願いごとしてくるのは珍しいんだよ。どうしたんだろう?」

 

そりゃあ、どうしてもガルパを見たかったからだと思う。具体的にはハロハピ。

 

「まあ、そういうこともあるんじゃないですか? 彩さんの歌を聞きたかったとか」

 

まさかそのまま伝えるわけにもいかないので、シレッと無難に答えた。

 

「そうだったら嬉しいけど、私のライブは前に見に来てくれたんだよね。そのときに、今度はもっと大きなライブをやってみせるから、次はそのとき来てって約束したんだ。だからちょっと早くてびっくりしちゃった。……まあ、今回は来てくれて本当に助かったけどね」

 

「へー、なんかいいね。友だちの約束って感じ。でも、パスパレが目的じゃなかったら他に気になるバンドがいたのかな?」

 

「そうかも! えっとポピパ、アフターグロウ、ロゼリア、ハロハピ。……ハロハピ?」

 

彩先輩が振り向いて、幹彦に視線をやった。

 

「海堂くん……ん?」

 

彩先輩が幹彦の方を向きながら、呟いている。

 

白鳥ひめがセントー君のファンってことは、ファンやツイッターを追っかけてる人なら知ってる話だ。彩先輩が知ってたっておかしくない。

 

むしろ、絶対に知ってると思う。

 

「……市ヶ谷さん、ヤバくない?」

 

「すっげえヤバいと思う」

 

「男の子で……体が大きくて……女の子に優しくて……音楽が上手……」

 

「なになに、二人とも何の話してんの?」

 

彩先輩を不思議そうに見ていたリサさんが、私たちがこそこそ話しているのに気がついた。

 

「いや、リサさん、ちょっと緊急事態っていうか……」

 

「えーなにそれー。有咲も急に落ち着かない感じでどうしたの?」

 

「え? ……いや、でも……え?」

 

「落ち着いてないわけないです。別に何か隠してるわけじゃないですし」

 

「市ヶ谷さん、全然落ち着いてないって」

 

「え、隠しごと? なになに? 私にも教えてよー」

 

「……ねえ、美咲ちゃん、有咲ちゃん」

 

「「はい……」」

 

彩先輩がこっちに向き直った。

 

「彩、どうかした?」

 

「海堂くんって、その……そうなの?」

 

はい、ダウト。

 

「そうなのか、と言われると、そのー……ね、市ヶ谷さん」

 

奥沢さんがどうしたものかと、こちらを見てくる。

 

「私に振るなよ。……まあ、そういうこともなくはないっていうかー」

 

どうする。別に隠してるわけじゃないけど、バラしていいのか?

 

いや、仮に隠すとしても、ここまで気づいて隠し通せるか。

 

無理だろ。

 

「生えてるの? 角」

 

「角!? いやいや、どう見たって生えてないでしょ。彩、どうしたの?」

 

リサさんがチラッと幹彦を見たあと言った。

 

「違うのリサちゃん。隠語? ていうやつだよ。直接言うのはどうかと思って……」

 

ほら、もうバレてる。しかも気を使ってくれてるし。

 

奥沢さんと目を合わせる。

 

もうバラそう。

 

「まあ、生えてるときもありますよ」

 

「ああ、たまに生えるな」

 

一般公開的には週一で生えたり抜けたりしてる。

 

「生えるの!? 角が!?」

 

「やっぱり……! うわあ! どうしよう、本当にいたんだ!」

 

失礼な。あいつは珍しい生き物だけど、幻じゃないですよ。

 

「そりゃあね、元気に生きてますよ」

 

「元気過ぎるくらいに人生楽しんでるよな」

 

「え、なに、話についていけないんだけど」

 

リサさんが困ったように私たちを見てくる。

 

「ああ、そうだよね。美咲ちゃん、有咲ちゃん、これって秘密にしてるの?」

 

「いや秘密ではないですよ。自分から言いふらしたりはしないだけ……だよね、市ヶ谷さん」

 

「まあ、うん。一応、中の人はいないことになってるし、公言して変なヤツが寄ってくるのが怖いから、私たちとしては隠すべきだと思ってるけど、本人はそのつもりないな」

 

普通のVtuberと違って、あいつは男だからストーカー被害でも警察がすぐに動く。警備だって付くだろうから、たぶん安全だ。

 

でも、世の中には絶対はない。悪意のあるなしに拘らず、目立つということは、それだけで不幸を呼び寄せることがある。

 

だから、私たち初期勢としては、あくまでもVtuberとしてだけ露出するべきだと主張している。

 

「私たち?」

 

「いや、あの、ファンの仲間内ってことです」

 

「美咲ちゃんと有咲ちゃん……もしかして初期の人?」

 

彩先輩、鋭くね?

 

いつももっと頼りない感じじゃなかったか?

 

「いや、あたしは違いますよ。市ヶ谷さんは……」

 

「……そんな感じです」

 

「うわあ! 本当にいたんだ!」

 

「彩先輩、声、落として」

 

「あ、ごめんね」

 

周りを見れば、幸いなことに、みんなライブの感想ツイートに夢中になっていて、こちらに気づいてない。

 

「そんなわけで、バンド仲間とかに言うのは問題ないんですけど、できれば他の人には言わないようにしてくれると嬉しいです」

 

「わ、わかったよ、約束する! ……でも、そっか、そうなんだ。お礼言いたいなー」

 

そわそわしながら彩先輩が言った。

 

「なにかあったんですか?」

 

「彼の歌で助けられたことがあったんだ。アイドル諦めようって思ったとき、偶然、彼の歌を聞いて、続けることにしたの」

 

「そんなことがあったんですか」

 

よく聞く話ではある。

 

あいつは気持ちを伝えるのを好んでる。綺麗に歌うよりも、より歌詞の思いが伝わる方が大事である。それがセントー君というVtuberだ。

 

雑談動画でもお悩み相談のコメをよく拾う。

 

だから、あいつの歌やアドバイスに共感して、お礼を言う人はよくいるのだ。

 

でも、珍しくないからといって、嬉しくないわけではない。

 

それどころか、あいつはそれを参考にして、次はどんな曲を公開するか決めてるところがある。

 

こういった悩みを持った人に刺さったのか。なら次はこういう悩みの人に刺さる歌にしようって具合だ。

 

そして何より、あいつもたぶん歌に救われた側の人間だから、同じような人の話を聞くだけで嬉しいんだと思う。

 

「それ、あいつに言ってやってください。喜びますから」

 

「本当? 言われ慣れてそうだし、迷惑じゃないかな?」

 

「おべっかならともかく、本当に彩先輩の助けになったなら、絶対に喜びます。人の気持を感じて、表現することが、あいつの好きなことですから」

 

しかもネットではなく、実際に人と向き合って感想を言われるのだ。喜ばないはずがない。

 

こういった刺激があるなら、あいつが言うとおり、中の人をバラすのもメリットがあるのかもしれない。今度みんなに聞いてみよう。

 

「さすが初期の人。信頼関係がすごい……」

 

「私はネットだけですよ。リアルは奥沢さんと花音さんの方が知ってます」

 

これはマジだ。あいつがどういう人間かはよく理解してるけど、あいつがどんな仕草をしているかとか、どんな癖があるのかなんてのは知らない。あんなに視線が素直だってことも知らなかった。

 

数ヶ月だけとはいえ、リアルのあいつと密接に関わってきたのは2人だ。

 

別に悔しくなんてない。本当だ。

 

「フォローありがとね。悔しいけど、あたしも花音さんもあいつの活動は市ヶ谷さんの方が詳しいことはわかってるから大丈夫だよ」

 

フォローって言わないでほしい。なんか恥ずい。

 

「ねえ、そろそろ教えてよー。なんの話? 幹彦と角って? 歌とか歌ってるの?」

 

アタシも仲間に入れてよー、とリサさんが少し困った顔をする。可愛い。

 

「リサちゃん、Vtuberって知ってる?」

 

「知ってるよ。YouTuberとかでアニメの画像を使って喋る人でしょ」

 

「そうそう。その中で歌がすごい上手い男性がいるのは聞いたことある?」

 

「あるよ。友希那と紗夜がこの前話してた。ネットの音声はすごい悪いのに、歌も曲もずば抜けてるって。アタシも今度、動画を見てみようかなって思ってた」

 

げっ、あの2人知ってるのか。

 

でも、考えてみれば当たり前か。上手い人の音楽を参考にしようとYouTubeで探したら、あいつの動画もおすすめで出てくるだろうからな。

 

「そのVtuberってね、鹿の角を生やした姿で、歌もなんだけど、ピアノがすごく得意なの。小さい頃から倒れるまでピアノを弾き続けてたらしいよ」

 

彩先輩、けっこう詳しいな。ピアノエピソードって一般公開してたっけ?

 

「……え? それって、え? そういうこと?」

 

リサさんも振り向いて、あいつに視線をやる。

 

呑気に弦巻さんと体を揺らしながら歌ってるあいつは、私たちの視線には気づかない。

 

でも、あいつの腕がさり気なく燐子先輩の肩に触れてるのに私は気づいてる。逆の立場ならセクハラだぞ。自重しろ。

 

そんなことを思いながら、彩先輩の言葉を補足する。

 

「ちなみに、そのVtuberには身長2m計画ってのもありまして、ファンの中では月1の定期報告があります。先月は180cm後半にいきました」

 

「それ初耳。あいつまだ大きくなるつもりなの?」

 

まあ、いくら彼女とはいえ、そんな話になることは滅多にないだろうから仕方ない。

 

「確かにあんな大きな人、今まで見たことなかったけど。……ああいうVtuberって実際は女性が演じてるんじゃないの?」

 

「ほぼ全て女です。唯一の例外があいつと思ってください」

 

9割9分女性です。

 

「……彩たちだってアイドルだし、けっこう身近に有名人がいるもんだね。友希那と紗夜に教えたら驚くだろうなー」

 

「面倒なことになります?」

 

「ならないって。せいぜい、急に押しかけて歌えって言うくらい?」

 

それを面倒なことと呼ぶんです。

 

「言葉だけ聞くと警察沙汰、待ったなしなんですけど……」

 

「だね。ま、アタシが止めておくよ。もし何かするならアタシか美咲か有咲を通すように伝えとく」

 

余裕の顔で、リサさんは任せといてと言った。

 

「リサちゃん、頼りになるなー」

 

「ですね。ほんと大人って感じ」

 

これで私とは1つしか違わないというのが恐ろしい。

 

「リサさん、幹彦に興味ありません?」

 

「奥沢さん!?」

 

気持ちはわかるけど、このタイミングか!?

 

私、まだ初体験終わってないんだけど!

 

そりゃあ、さっきは増やせないかとか言ったけど、本当に言うか!?

 

「アタシ!? いやいや、幹彦はいいなって思うけど、そんなのみんなに悪いし……」

 

「脈ありそうですね。ぜひ、お願いします」

 

「奥沢さん、暴走しすぎ!」

 

どちらかと言えば、奥沢さんは私よりも幹彦に似てるところがあると思った。

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