(仮題)とある転生者の異文化体験   作:ピッピの助

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時系列としては、ガルパ本番 直前となります。

後半はシリアスです。


11.6話(丸山彩視点)

千聖ちゃんが、急なお仕事が入って、ライブに遅れそうだ。

 

その情報が入ってきたのは、ガルパ当日の最後の全体リハーサル前のことだった。

 

びっくりしたのと、千聖ちゃん大丈夫かなとか、ライブも大丈夫かなとか心配して、アワアワしてたのは覚えている。

 

これにより、本番のタイムテーブルも変更となった。

 

当初はポピパ、アフターグロウ、パスパレ、ロゼリア、ハロハピの順番で演奏する予定だったけど、ポピパ、アフターグロウ、ハロハピ、ロゼリア、パスパレの順番になった。ちょうど、パスパレとハロハピが入れ替わる形だ。

 

最初はパスパレを一番後ろに下げるだけの予定だったけど、海堂くんがハロハピと入れ替えることを提案したらしい。

 

理由はわからないけど、パスパレを最後に回してくれてよかった。

 

私たちはみんなに謝罪と感謝をしつつ、千聖ちゃんが早く到着することを祈った。

 

 

 

ポピパ、アフターグロウの演奏が終わり、今はハロハピが演奏している。次のロゼリアが終われば私たちの番だ。

 

千聖ちゃんなら、きっと間に合わせてくれるはず。そう信じながら、私たちは体を冷やさないように注意して、静かに待つ。

 

千聖ちゃんを待ってるなかで、それは突然、訪れた。

 

お客さんの歓声が、ドンッという振動となり、控室まで届いたのだ。

 

部屋全体が揺れたのを感じた。

 

歓声はそのあとも断続的に続いてる。

 

これがハロハピだ。

 

冷や汗が流れた。

 

海堂くんがあのとき順番を変えてくれたことに、今ほど感謝したことはない。

 

こんな割れんばかりの歓声のあとに、パスパレがお客さんを満足させる演奏ができるだろうか。

 

正直に言えば、ホッとしていた。

 

ふとロゼリアの方を見る。

 

ロゼリアはあまり動じていない

 

「やっぱ、ヤバいねー」

 

「いまさらですね。順番が変わった時点で予想できたことです」

 

「紗夜の言うとおりよ。みんなにも、こうなるから覚悟してって言ったわよね」

 

「そうだけどさー、実際、こうやって会場全体が震えてるのを感じると、うわあーって思わない?」

 

「あこもそう思うよ! あこたちもライブに何回かでたことがあるけど、こんな揺れを感じたのは初めてだよね!」

 

「……うん……そうだね、あこちゃん」

 

「燐子、なんか余裕ある?」

 

「そ、そんなことない、です。……ただ、海堂さんと同じコンクールに出たことがあるので……こういった状況に経験があるだけです……」

 

「彼はピアノも上手かったのよね」

 

「……はい。……圧倒的、でした。バンドのライブみたいな歓声は上がりませんが、拍手の音は控えてる人にも聞こえますから。……彼の次に演奏する子が……泣き出して帰ってしまうくらいでした……」

 

「ひえー、昔っからそんなにすごかったんだー。でも、その経験があるから燐子は落ち着いてるんだね」

 

「……はい。……それに、今は一人じゃありませんから。……友希那さん、氷川さん、今井さん、あこちゃん。……みんながいるから、あのときほど怖くありません……」

 

「りんりん……! あこも! あこだって、りんりんと一緒だから怖くないよ!」

 

「あのときは怖かったのね」

 

「今以上のプレッシャーがあったということですね」

 

「2人とも、そこは拾わないの」

 

びっくりした。この歓声を聞いても、まだそんな余裕があるのか。

 

私たちは初めのライブの事件があったから、他のアイドルとのコラボはなかったけど、もっと経験を積んでいたら、ロゼリアみたいに悠然と構えることができたのかな。

 

いや、たぶん落ち着かないだろうな。

 

ロゼリアはやっぱり、すごいって思った。

 

 

 

断続的に歓声が続いたあと、ハロハピの演奏が終わった。

 

私たちは戻ってきたハロハピに、お疲れ様と声をかけて、会場の様子を聞いてみた。

 

「とーっても楽しかったわ! まだまだ歌い足りないくらいよ!」

 

「はぐみもー! みんなが、わー! ってなって、すっごい楽しかったよ!」

 

「そうだね。みんな、とても良い演奏をしていて、儚い舞台だったよ……」

 

「お客さん……すごく盛り上がってたね」

 

「ですね。ミニライブのときよりも反応が大きかった気がします」

 

「客の人数も多かったけど、ミニライブよりも俺たちが良い演奏してたからだよ。不思議なことなんてないって」

 

「幹彦の言うとおりね! それより、ミッシェルはどこに行ったのかしら?」

 

あの大歓声の中にいたのに、ハロハピはいつもどおりだ。

 

すごく楽しそう。

 

いつもなら、みんなにつられて、私も楽しい気分になっちゃうのに、今日ばかりはそれがない。

 

落ち着こうと思うのに、落ち着かない心。千聖ちゃんが来てくれれば、どうにかなるはずという期待。

 

出番はまだなのに、気持ちばかり逸っていく。

 

軽く汗を拭きたい、と言うハロハピのメンバーに、海堂くんが控室から追い出されるのを横目に見ながら、私たちは千聖ちゃんを待った。

 

 

 

ロゼリアの演奏が終盤にさしかかった頃、千聖ちゃんが来てくれた。

 

千聖ちゃんはすぐに着替えて、私たちに合流した。

 

「みんな、ごめんなさい。準備は大丈夫?」

 

「うん。バッチリだよ。千聖ちゃんこそ大丈夫? 音を合わせる時間がないけど……」

 

「大丈夫よ。ここに向かう途中、車の中でベースの音を出させてもらったから、準備はできてるわ」

 

「さっすが千聖ちゃん! ただでは転ばないね!」

 

「でも、本当にごめんなさい。急だったんだけど、パスパレのためにも出た方が良いお仕事だったの」

 

「間に合ったんだから大丈夫ですよ。あとは落ち着いて演奏できれば、何事もなしっす!」

 

「はい。そのためにも全力でいきましょう!」

 

そのとき、再び大きな振動が来た。ロゼリアへの歓声だ。

 

「すごい歓声ね……」

 

「うん。ポピパとアフターグロウのときもすごかったけど、ハロハピからずっとこんな感じだよ……」

 

「武者震いがします!」

 

「会場の盛り上がりは最高潮っすね……」

 

「お姉ちゃんの演奏、会場で聞きたかったなー」

 

みんな(日菜ちゃんを除く)、この歓声を聞いて尻込みしてしまった。

 

もちろん、どんなに緊張したって、私たちの番が来れば全力を出す。でも、いつも以上に気持ちがついてこない。気持ちを高めないといけないのに、なかなか集中できない。

 

そんな私たちの元へ、海堂くんが近づいてきた。

 

「お、白鷺先輩、間に合いましたか」

 

「ええ、迷惑をかけてごめんなさい。もう準備はできてるわ」

 

千聖ちゃんの言葉を聞いて、彼はパスパレを見渡す。

 

怖気づいてる心情を見透かされそうで、思わずドキッとしてしまう。

 

「大丈夫ですか? みんな固くなってますけど。なんなら俺が特別ゲストで参加しましょうか?」

 

彼は笑みを浮かべながら、千聖ちゃんに言った。

 

「けっこうよ。あなたがいたら、ステージが暑苦しくなるもの」

 

「はは、それは間違いないですね。それじゃあ、健闘を祈ります」

 

千聖ちゃんの言葉も気にした様子はなく、もう一度、私たちを見た海堂くんは去っていった。

 

2人のハラハラするけど、いつも通りのやり取りに少しだけ気が軽くなった。

 

「……ねえ、もしかして、気を使ってくれたのかな?」

 

「たぶん、そうね。私たちがバタバタしてたから、問題ないか見に来たんでしょう」

 

「さすが師匠! その心遣い、ありがたいです!」

 

「男の人に気を使ってもらうなんて、今まで考えたこともなかったですけど、なんか照れくさいっすね」

 

「幹彦くんらしいねー。まあ、気を使われちゃったら仕方ない。あたしたちも覚悟を決めないとね」

 

「日菜ちゃんの言うとおりね。ロゼリアの歓声に怖気づいて実力を出せなかった、なんてなったら、あの男になんて言われるかわからないわよ。それは少し、おもしろくないわ」

 

「そーそー。失敗しちゃったとしても、思いっきりやった結果じゃないとダメだよ。ビクビクしながら演奏なんて、るんっとこないもん」

 

「そうですね。ジブンたちにできる精一杯をやりましょう!」

 

「はい! ブシドーの精神で、恐れず立ち向かいましょう!」

 

「みんな……そうだね。一生懸命、がんばろう!」

 

そして、私たちの出番がやってきた。

 

 

 

 

 

ミニライブのときを思い出す。

 

予想してたことだけど、ミニライブでパスパレが登場しても、沸き立つお客さんは少なかった。その前のアフターグロウで盛り上がってたお客さんも、心なしか冷めた顔をしていたような気がしたくらいだ。

 

でも、精一杯、全力で歌ったおかげで、思っていた以上の歓声をもらえた。パスパレだって悪くないじゃんって、そう感じてくれたと思う。

 

海堂くんのアドバイスもあったし、もっと練習して、次はこれより多くのお客さんを楽しませるぞ、って決意してた。

 

あれから数週間経った。

 

思っていた以上に厳しい形の再戦は、私の心を静かに攻め立てる。

 

ガルパ本番の私たちの演奏で、お客さんたちは確かに盛り上がってる。

 

ここにいる人たちは、他の4バンドのファンの方が多いって考えれば、充分すぎるほどだと思う。

 

でも、ロゼリアと比べたらどうか。

 

2曲目が終わり、会場の雰囲気に慣れてきたころ、そんなことを考えてしまった。

 

MCにもお客さんたちは耳を傾けてくれている。でも、ハロハピやロゼリアのときに感じた、会場を揺らすような歓声は聞こえてこない。

 

3曲目が始まった。

 

歌い出しは順調。今日は本当に声の出も良いし、体も軽くてダンスの失敗もない。

 

だというのに、お客さんは一定以上、盛り上がることがない。

 

全力の歌とダンスを披露できてると思うのに、お客さんには伝わらない。

 

やっぱり、ダメなのかもしれない。

 

私よりも友希那ちゃんの方が歌が上手いし、私よりもこころちゃんの方が人を魅了するダンスを踊れる。

 

その2人の後に演奏するなんて無理があったのかな。

 

そんなことを思ってしまった。

 

海堂くんに言われた、自信がなくて歌よりもダンスに力を入れてる、というのを繰り返してしまっている。

 

悪い考えが頭に残るなか、2番が終わった。曲は間奏に入る。

 

目立たない様に呼吸を整え、ダンスをこなす。

 

どんどん冷えていく心を隠して……。

 

そのときだった。

 

突然、日菜ちゃんのギターが弾けた。

 

あのときの合同練習の時みたいに、日菜ちゃんが全力で音を入れてきた。

 

やってはいけないのに、日菜ちゃんの方を向いてしまった。

 

日菜ちゃんと目が合う。

 

『そうじゃないよ、彩ちゃん』

 

そんな声が聞こえた気がした。

 

日菜ちゃんは切り良く見せ場を作った後、いつものペースに戻した。

 

間奏はもうすぐ終わる。

 

揺れる心の整理がつかないまま、顔を正面に戻した。

 

そのとき、目に入ってしまった。

 

白鳥ひめ。

 

天使の歌声を持つ、最強のアイドル。

 

中学校のときの大切なお友だちだ。

 

さすがに変装をしてるけど、千聖ちゃんと同じくらい、芸能人オーラが隠しきれてない。

 

ひめちゃんが、じっと私を見ている。

 

綺麗な水色の瞳が私を見てる。

 

頑張れって目。

 

アイドル学校にいた頃、偶然、放課後に一緒に練習したとき、なかなか上手く歌えなかった私に、優しく付き添ってくれた目。

 

あのときは嬉しかった。こんなすごい人と練習ができて嬉しいなと思った。

 

あのときの思い出が蘇り、嬉しいという気持ちがあふれ、元気が出てくる。

 

これなら、いけるかも。

 

一瞬そう思って、耳に入るパスパレみんなの音で、目が覚めた。

 

……今は、それじゃあダメなんだ。

 

すごい周回遅れをしたけど、私だって、ようやく同じ舞台に立てたんだ。

 

実力的に、背中を追ってる状況は変わらないかもしれないけど、私はもう、同じアイドルなんだ。

 

それに、ひめちゃんは私よりもたくさんの経験を積み重ねているけど、人との出会いなら、私だって負けてない。

 

自分が楽しいと思うことをすれば、みんなも楽しくなると言った、こころちゃん。

 

仲間を誰よりも大切にする蘭ちゃん。

 

何がなんでも頂点を目指そうとする友希那ちゃん。

 

音楽は楽しいって、私たちだって音楽を楽しんでるんだって教えてくれた香澄ちゃん。

 

パスパレの可能性を見せてくれた海堂くん。

 

そして、大切な仲間たち。

 

こんなにたくさんの素敵な人たちに出会って、みんなからヒントを貰ったのに、前のままではいられない。

 

私だって、昔のままの変わらない丸山彩なんて嫌だ。

 

私だって……パスパレだってすごいんだって、思ってほしい。

 

初めて会ってから、4年もかかったけど、ようやく立てたんだ。

 

あの子と同じところに!

 

だったら負けてられない。

 

お客さんは、ハロハピ、ロゼリアよりも完成度に劣る私の歌にがっかりしてるかもしれない。

 

でも、そこで負けちゃダメ!

 

確かにハロハピにも、ロゼリアにも実力は劣ってる。

 

だけど、そんなの慣れっこだ。

 

いつだって私はみんなよりも下手っぴだった。

 

でも今はそれだけじゃない。

 

ここは練習場じゃない。私は1人じゃない。

 

たくさんのお客さんが私を見てくれてる。

 

頼りになる大切な仲間が側にいてくれる。

 

尊敬してた友だちが私を見てくれる。

 

楽しくて仕方ない。

 

自然に笑みがこぼれる。

 

私がキラキラしていくのが感じられる。

 

もっと見てほしい。こんなに輝けるようになった私を見てほしい。

 

私を――私たち、パスパレを見て!

 

 

 

3番を歌いきった後、夢中になって呼吸を繰り返す私を正気に戻したのは、万雷の拍手だった。

 

まさに割れんばかりの拍手。

 

歓声も飛び交っている。

 

私や、メンバーみんなの名前を呼ぶ声が聞こえる。

 

ひめちゃんも拍手してくれてる。その少し離れたところには海堂くんがいる。そういえば海堂くん、控室から追い出されてたね。

 

海堂くんも頷いてくれてるから、上手くできたのかな?

 

肩を叩かれた。

 

日菜ちゃんだ。

 

「やればできるじゃん、彩ちゃん」

 

「うう、日菜ちゃ~ん……」

 

「彩ちゃん、本番中よ。泣かないで」

 

「千聖ちゃん。だって~……」

 

「アヤさん、素晴らしかったです!」

 

「イヴちゃん、ありがとう……」

 

「もう……ほら、涙を拭いて。最後の曲を始めるわよ。彩ちゃん、MCできる?」

 

「うん……大丈夫」

 

マイクに近づく。

 

途中でチラッと麻弥ちゃんの方を確認する。ハンカチで涙を拭いてた。

 

目元を拭いた麻弥ちゃんと目が合った。麻弥ちゃんが頷く。準備は大丈夫みたいだ。

 

「えっと、次が最後の曲です。最後は有名なVtuberの方から借りた曲です。時期が少し違うかもしれませんが、離れていく友だちを思った、すごい曲です。私が研修生の頃、辞めていく友だちから送られた曲でもあります」

 

私よりずっと歌が上手い子から送られた歌。すごくいい歌で、思わず泣いちゃって、でもこの歌があったから頑張ろうと思った歌。その子のオリジナルだと思ってたけど、後になって調べてみれば、セントー君の歌だった。彼を知る前から、彼に助けられてたなんて変な話だ。

 

「あのときは応援されてばかりでしたが、今度は私も友だちを応援したいと思って歌います。……聞いてください。……奏」

 

ひめちゃんが驚いた顔をしてる。

 

ひめちゃんは私以上にセントー君の大ファンだから、当然、知ってる歌だよね。

 

でも安心して。私だってファンなんだから、半端な歌じゃないつもりだよ。

 

歌詞はなんども読んでる。どんな気持ちを込めて歌うかも、みんなで決めた。

 

きっと、満足させてみせるから!




イメージ曲
奏(スキマスイッチ)

前も書いたかもしれませんが、パスパレの奏が一番好きです。高音の伸びがすっごく好きです。本家も、もちろん素晴らしいんですけどね。


もうちょい控室のくだりをシリアス目にしてもよかったかもですね。特にロゼリアは緊張感を増量すれば、丸山の心情とマッチしたのかも……。でもマッチさせ過ぎると、また暗い話になりかねない。
難しくて、おもしろいです。


そしてこの後、11話本編後半へと続く。
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