(仮題)とある転生者の異文化体験   作:ピッピの助

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13.6話(瀬田薫視点)

夏休みが終わり、半袖では少し肌寒くなってきた頃の話だ。

 

こころの家の倉庫から宝地図を見つけた私たちは、宝地図が発見された場所であるハピハピ島という南の島へ旅だった。それが大冒険の始まりだった。

 

私たちは、その島で数々の困難に遭遇した。しかし、それに臆することは無く、私たちは助け合い、励まし合って、それを乗り越えて行った。そして、ついに私たちは宝を手に入れた。

 

……古代のロマンがつまった巨大な恐竜の化石をね。

 

今はその発掘をこころの家の黒服の人に任せて、プライベートジェットに乗って家に戻ってる最中さ。

 

本当は私たちの手で発掘をしたいとも思ったけど、明日は学校がある。

 

仕方ないことさ。

 

「ああ、本当に素晴らしい大冒険だった」

 

「薫さん、まだ言ってるよ」

 

「薫の言うとおり、楽しい大冒険だったわ。あんな体験ができたんだから喜んで当然よ!」

 

「うん。確かに大冒険だったね……」

 

「薫先輩の言うとおりだと思います。あれは大冒険です」

 

「幹彦、薫さんのイエスマンも程々にしなよ」

 

「失礼な。俺は心からそう思ってるから言っただけだ」

 

「呼んだかしら?」

 

幹彦の膝の上に乗ったこころが、首を後ろに逸らすように幹彦の顔を見上げる。

 

「いーや、こころ違いだよ」

 

幹彦がこころの額に自分の額をコツンとぶつけながら言った。

 

「そう? ならいいわ」

 

そう言って、こころは首を戻して、両足をリズムよく振る。

 

今日はハピハピ島の子どもたちとも遊べたから、いつも以上にご機嫌のようだ。

 

「真っ暗な洞窟、コウモリの襲撃、先が見えない迷路、お宝へ繋がる落とし穴。どれをとっても大冒険だろ?」

 

そのとおりだ。幹彦はこの冒険をよく理解している。

 

「それはそうだけど……でも、別荘から目と鼻の先だったじゃん」

 

「美咲、たとえ結果がそうであっても、私たちの冒険は変わらないよ。みんなで力を合わせて困難を乗り越えたのさ」

 

「薫先輩の言うとおりだと思います」

 

「あんたはbotか」

 

「で、でも、怖かったよね。いつもの生活じゃ体験できないことだったから、そういう意味では冒険だったかも……」

 

「花音は優しいなあ」

 

「あんた、どっちの意見なのよ」

 

「両方」

 

「適当か!」

 

「美咲、あまり大きい声を出すと、はぐみが起きてしまうよ」

 

3席ずつがテーブルを挟んで向かい合っているなかで、向かいの中央に座る幹彦にもたれかかるように、はぐみが寝ている。こころは、はぐみを起こさないように器用に幹彦の膝の上を陣取っている。

 

「あっと、すいません」

 

「はぐみちゃん、ぐっすりだね」

 

「ジェットに乗ったときは元気だったのに、いつの間にか寝てましたね」

 

「それだけハピハピ島が楽しかったんだろ。すっごく、はしゃいでいたからな」

 

「こころと一緒になって現地の子とトカゲを追っかけ回してるのを見たときは、巻き込まれないように必死に距離を取ったよ」

 

「あれは……すごかったね」

 

「ハピハピ島にいるトカゲさんはすっごく可愛いのよ! 美咲たちも一緒に来ればよかったのに」

 

「私はいいよ。ちゃんと幹彦を差し出したでしょ?」

 

「俺はトカゲよりも子どもにひっつかれてた思い出が多いな」

 

「幹彦くん、大人気だったもんね」

 

「幹彦みたいに大きな人は島にはいなかったからね。子どもたちが幹彦に目を奪われてしまうのも仕方ないさ」

 

「薫先輩も来てくれませんでしたね」

 

「私は遠くから見守るだけで充分だよ」

 

「……薫さん、トカゲが苦手なんじゃ?」

 

美咲が目を細めて私を見た。

 

「そ、そんなわけないじゃないか。私は大冒険に思いを馳せていたから、たぶん子どもたちに集中できないと思っただけさ」

 

「そういうことにしときますね」

 

「美咲は冗談が好きだね」

 

「……まあ、いいです。それにしても本当に海が綺麗でしたね」

 

「そうだね。珍しいクラゲも見れたしね」

 

「幹彦が捕まえて来たクラゲさんね。確かに綺麗だったわ!」

 

「黄色い不思議なクラゲだったね。あの色からは儚さを感じたよ……」

 

「儚さはわかんないですけど、あんた、あんまり無茶しないでよ。クラゲだって毒を持ってるのもいるらしいんだから」

 

「現地の人が大丈夫だって身振りをしてたから、行ったんだよ。怪我してまで捕まえたって、逆に花音が傷付くだけだってわかってるさ」

 

「うん。無茶はしないでほしいな……」

 

「わかってるよ。美咲も心配してくれてありがとうな」

 

「まあ、うん。体を大事にしなよ」

 

「おう」

 

「あの珍しいクラゲの絵が書かれてる食器があったけど……、あのクラゲはこの島特有のクラゲなのかな?」

 

「どうかしら? でも別の島で見たことはないわね!」

 

「宝が眠る島の近くにだけ生息するクラゲ。とてもロマンがあって儚いね……」

 

「薫先輩の言うとおりだと思います。これはマジで儚いと思います」

 

「あんた、ディスってない?」

 

「俺が薫先輩をディスるわけないだろ」

 

「あ、あはは……水族館で見れないのは残念だけど、そういうクラゲがいるのも、なんかいいよね」

 

「まあ、南国ならではって感じは、旅行してる気分が出ていいですよね」

 

「ええ、とても素敵な島よね!」

 

「ああ。誘ってくれてありがとな、こころ」

 

「いいのよ。また一緒に来ましょうね!」

 

幹彦の言葉を聞いて、こころがすぐ横の、はぐみとは逆側にある幹彦の腕をぎゅっと抱えながら言った。

 

「そうだな。また来年、遊びに来ようか」

 

幹彦は、こころに抱えられた腕を少し動かして、彼女を抱えるように自分の方へと引き寄せた。

 

「約束よ!」

 

一際、嬉しそうなこころの声が響いた。

 

「こころー、静かにしな。はぐみが起きちゃうでしょ」

 

「あら、ごめんなさい。大丈夫かしら?」

 

「うん……、寝てる、かな?」

 

「はぐみも起きてたら、もっと楽しかったのに。残念だわ」

 

「それはそうだけど、こうやって静かに思い出を語り合うのも悪くないものだよ。私はこういう時間も好きさ」

 

「薫先輩の言うとおりだと思います。緩急があるからこそ、冒険はその色を強くすると思います」

 

幹彦の言うとおりだ。こうして穏やかな時間があるから、あの大冒険は特別なものとして輝くんだ。

 

大冒険の終わりに仲間と静かに語り合う。これがないと、せっかくの大冒険が形無しだ。

 

「ただのイエスマンのようで、自分の意見をしっかり入れてきたな」

 

「伊達に社会で揉まれてないからな」

 

「ネットを社会って表現するのはどうなのよ」

 

「一度揉まれてみ? いかに攻撃されずに自分の意見を主張するか鍛えることができるぞ。逆に攻撃されるときは予想できるから、心の準備が間に合うようになる」

 

「そんな嫌なピンポイント練習はしたくないから」

 

「まあ、そんな練習しなくても、美咲は人の気持ちを考えて発言してくれるから大丈夫だけどな」

 

「……うるさいよ」

 

「照れんなって」

 

「うるさい」

 

相変わらず2人は仲が良い。もちろん、こころと花音、はぐみとだって幹彦は仲が良い。

 

でも、美咲と幹彦のような、お互いに言いたいことを言ってるのに、不思議と仲良く見える関係というのは珍しい。私も少なくない本を読んできたつもりだけど、こういう感じかと思う物語はなかったと思う。もちろん、ドラマは言うまでもない。

 

こころや花音との関係だって、信頼を感じさせる素晴らしいものだと思うけど、役者としての私からすると、幹彦と美咲の不思議な空気に興味が尽きない。

 

その活動やメンバーが素晴らしいハロハピだけど、こうした男性を含めた人間関係を実感できる点でも、かけがえのないバンドだと思っている。

 

「そういえば薫先輩、羽女はそろそろ文化祭でしたっけ?」

 

「ああ、そうだよ。文化祭に向けてみんなで頑張ってるよ」

 

「演劇部は文化祭の華ですよね。当日はあたしも見に行きますよ」

 

「それは、いいわね! ハロハピのみんなで薫の応援に行きましょう!」

 

「……うん。私も薫さんの劇、見たいなあ」

 

「本当かい。ありがとう、とても嬉しいよ。きっとみんなを満足させる劇になると思うから、期待していてくれ」

 

今回の公演は、千聖が客演として登場する。彼女の演技は本物だ。

 

見目麗しい彼女が演じるジュリエットは、それだけで観客を魅了し、物語の世界へと導いてくれるだろう。

 

私の演技と合わせれば、きっとどんな観客だって演劇の儚さに酔いしれることになるはずさ。

 

「薫先輩、演劇の準備で力仕事があるときは声かけてくださいね」

 

「いいのかい?」

 

「もちろんです。舞台道具を動かすくらい、なんともないですよ」

 

「そうか。それなら今度、連絡させてもらうよ。うちの演劇部はとても本格的な劇をするから、舞台道具もそれなりに大きくて、いつも移動に苦労していたんだ。幹彦が手伝ってくれるのは心強いよ」

 

「任せてください。普通の人の何倍も働く自信があります」

 

「まあ音楽以外だと、それくらいしか取り柄がないからね。薫さん、せいぜい、こき使ってください」

 

「美咲ちゃん、言い過ぎだよ……。でも、確かに幹彦くんは力持ちだから、きっと大活躍できるよね」

 

「あたしとはぐみとミッシェルを同時に持ち上げるくらいだもの。きっと、みんなから頼りにされるわ!」

 

「家に帰ったら早速、麻弥に話してみるよ」

 

私たちの関係は、他の人から不思議に思われる。今回の話だって、男性に力仕事を任せることを疑問に思う人がいるかもしれない。

 

でも、私たちにとっては不思議なことなんてない。

 

男性なんて関係なく、みんなハロハピのことが好きで、ハロハピとして活動するのが楽しいんだ。

 

だから協力し合うし、協力されることに違和感を覚えることもない。

 

私だって、ハロハピのメンバーが困っていることがあれば、何だって力になってやりたいと思う。メンバーがもし道に迷うようなら、私が先を明るくしてやりたいとも思う。

 

だから、幹彦が手伝いを申し出てくれた今だって、幹彦は力持ちだから助かるな、としか思わない。

 

性別によって、対応が変わるのは仕方ない。その数の少なさを考えれば、保護しないといけない、という考えも理解できる。

 

でも、それを理由に彼を縛ることには疑問がある。

 

私たちと同じように考えた彼が、そうしたいと思って行動するのを、否定する権利なんて女性にはないはずだ。

 

シェイクスピアもこう言ってる。『自然でない行いは、自然でない混乱を生む』と。

 

つまり……そういうことさ。

 

「手伝うのはいいと思いますけど、薫さん、学校に許可とれます?」

 

美咲はとても慎重だ。

 

ハロハピの活動でも、彼女がいろいろな裏方をしてくれている。演劇もそうだけど、裏方というのは非常に大切なんだ。彼女こそがハロハピを裏で支えてると言っても過言じゃない。

 

「それは……麻弥に聞いてみるさ」

 

「えっ……」

 

花音が可愛らしい声をあげた。

 

「ごめんなさい大和さん、羽女のことは、あたしじゃあ力になれません……!」

 

「あ、麻弥先輩、演劇部だっけ。やっべ、そっちも楽しみだわ」

 

「せめて、こいつだけは大人しくなるようにしておきますから……!」

 

「幹彦くん、羽女に行く前日の夜は空けておいてね。美咲ちゃんと一緒に、幹彦くんの家にお邪魔するから」

 

「え、ああ、いいよ。唐突だな。まあ、いつでも来いって」

 

本当に楽しいメンバーだ。




今回の連投で一番好きな話です。

長さ的にも、サクッと読めて好みです。
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