(仮題)とある転生者の異文化体験   作:ピッピの助

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たくさんの感想ありがとうございます。全て拝見させていただいています。
「作者に毎回大量の予防線張らせてるのがちょっと申し訳ない感じ」 そんなことないですよ。自分が勉強不足なのは理解してますので。むしろ逃げ道を用意してるのを許してくれてることに感謝したいです。それと、温かいメッセージもありがとうございます。
「この小説を含めたこういう男尊女卑というか男女比系のジャンルは好きなのでよく読むのですが、こう細かい設定まで考えると行きたいとは到底思えない世界ですね。」 作者も全く同意見です。好きなキャラがいなければ絶対に行きたくないです。
他にも、たくさんの愛のある感想をありがとうございます。いつも励まされてます。個別にお返しできなくて申し訳ありません。


15話

どちらかと言えば甘党の自分だが、ブラックコーヒーは嫌いじゃない。

 

甘いものを食べ続けると舌が甘さに慣れてしまうし、違うものを食べるときだって、舌に甘さが残って、なんだか味がごちゃごちゃしてしまう。

 

そんなときにブラックコーヒーを飲めば、舌がある程度リセットされるという寸法だ。

 

これをやり始めて、ずいぶん経つ。今では、ブラックコーヒー自体の味も気にするようになってしまった。フッ、味のわかる大人というヤツだろうか。

 

喫茶店に1人、メモ帳とペンを机に置いて、優雅にコーヒーを口にする。

 

まさに絵になる光景ではないだろうか。

 

たまの一人も捨てたものではない、そんなことを思いながら、自分に浸っていた。

 

「相席、いいかしら?」

 

そして、そんな理想郷は、いとも容易く外圧(白鷺先輩)によって崩壊する。

 

「……どうぞ」

 

自己陶酔しまくっていたので、急に現実に戻されて、少し憮然として答えてしまう。

 

「珍しいわね、花音はこれから来るの?」

 

「花音と行くなら、絶対に迎えに行きますって」

 

花音は重度の方向音痴だ。知ってるはずの道だって、油断すると迷う。

 

花音が迷子になっても、俺は気にしないんだけど、当の花音が一番落ち込んでしまう。なんとなく引きずってしまい、その後のカフェを楽しむ空気じゃなくなってしまうので、必ず迎えに行くことにしてる。

 

迎えに行けば、俺は花音と長く一緒にいられて嬉しいし、花音は大好きなカフェを楽しめる。良いことづくしだ。

 

「今日はたまたまコーヒを飲みに来たんです」

 

「そうなのね。ここはケーキも美味しいから、良い選択だと思うわ」

 

「イヴから甘いもののお土産をもらうんで、その辺も期待してます」

 

弟子であるイヴは、ピアノの特訓がある日は毎回お土産を持ってきてくれる。

 

留学生なんだし、もっと別のところに金を使えって言ってるんだけど、わざわざ俺の時間を割いてまでピアノの特訓に付き合ってもらっているのに、手土産の一つも渡さないなんて不義理に過ぎるとのことだ。

 

まあ、最近はパスパレの仕事も順調だから、そのぐらいの出費はあまり大きくないらしい。そう言われたら仕方ないので、とりあえず納得しておいた。

 

「なるほど。たしか今日はイヴちゃん、モデルの仕事が入ってるって言ってたわよ」

 

「そうみたいですね。たまには来てくれって言われてたから、ちょうどいいと思ったんですが、タイミング悪かったですね」

 

「それは残念ね。イヴちゃんはアイドルの仕事がないときも部活だったり、バンド練習してたりするから、事前に連絡しておいたほうがいいわよ」

 

「急に行って驚かせたかったんですが、そのほうが良さそうですね」

 

「驚かせたいって、子どもみたいね」

 

白鷺先輩は、ふふっと上品に笑った。

 

「イヴは素直に驚いてくれますから、ドッキリの仕掛けがいがありますよ」

 

きっと初めは驚いて、すぐに嬉しいですって駆け寄ってくれるだろう。

 

あんな可愛い子に嬉しそうな顔されたら、こっちだって嬉しくなる。

 

「そうね。私たちも前に怪談話でドッキリをしたことがあったけど、イヴちゃんの反応はおもしろかったわ」

 

「白鷺先輩も子どもじゃないですか」

 

「あら、あなたと一緒は心外ね。でも、そうかもしれないわ」

 

ずけずけと鋭い言葉を放つのに、彼女のゆったりとした楽しそうな表情、口調が、俺に不快感を感じさせない。

 

幼いころから演劇をやっているせいだろうか、やっぱり他のパスパレメンバーとは雰囲気が違う。

 

俺は白鷺先輩に嫌われてるはずなのに、話している限りだと、そんな風には思えない。すごい技術だと思った。

 

俺が感心していると、新たな来訪者がやってきた。

 

「お二人とも、なんか楽しそうですねー」

 

「あら、モカちゃん。それに蘭ちゃんも。こんにちは」

 

「どうも」

 

近づいて来たのは青葉さんと美竹さん。

 

青葉さんは楽しげに、美竹さんは青葉さんに無理矢理つれて来られたのか、なんだか居心地が悪そうに挨拶をしてくれた。

 

「2人とも来てたのね」

 

「はい。トモちんを待ってるんですー」

 

「そうなの。あなたは気づいてたの?」

 

「そうですね。店に入ったとき会釈しましたよ」

 

どーもって感じで2人にキチンと挨拶しましたさ。

 

「そうそう。こっちに来てくれるかなーって思ったのに、すぐに窓際の席に座っちゃったから寂しかったよー」

 

「いやいや、俺が、元気してるー? って言いながら2人のとこに行くのも変だろ」

 

「たしかに、そんな風に近づいて来られたら、少し怖いね」

 

「蘭までそんなこと言うー。ダメだよ。ガルパのよしみがあるじゃないの。みんな仲良く、だよー」

 

「ふふ、そうね。モカちゃんの言うとおりだわ。せっかく知り合えたご縁だもの。大切にしないといけないわね」

 

「別にあたしは慣れ合うつもりないから」

 

「蘭ー、ダメだよー」

 

「まあ、俺もそう思うかな。気が合うやつで絡めばいいし、全員、仲良くしないとって気持ちはないな」

 

みんなで仲良くできればいいけど、人間だもの、そう簡単にはいかないと思う。孤立してる人がいるなら別だけど、各々、バンドの垣根を越えて交流できてるんだから、それ以上は望み過ぎかな? って思う。

 

その上で、みんな仲良くできたら嬉しいけどね。

 

「海堂くんまでー。千聖さん、なんとか言ってくださいよー」

 

「さすが、人を外見だけで判断する男ね。好き嫌いが徹底してるわ」

 

いつもの笑顔を崩さず、白鷺先輩は青葉さんの期待に答えた。

 

「えー、それはちょっと言いすぎじゃー……」

 

「外見だけで判断するなら、白鷺先輩と同席なんてしませんって。好みと正反対でも、会話を楽しんでるって、今まさに証明してるじゃないですか」

 

俺もさっきまでの自己陶酔モードをオンにして、めっちゃ優雅(と思ってる)な笑みを浮かべて、白鷺先輩に返す。

 

「ちょっと2人とも、落ち着いてー」

 

「あら、奇遇ね。私もあなたの厳つい顔って好きじゃないの。花音も甘いマスクの男性が好きなのに、よくあなたと付き合えたなって不思議に思ってるのよ」

 

「ええー、そこまで言っちゃうー?」

 

「……すごい。モカちゃんがフォローに回ってる」

 

仕事中なので、少し離れたところで様子を伺っていた羽沢さんが言葉を漏らした。

 

「つぐー、見てないで助けてよー。この3人、仲良くする気が全然ないんだよー」

 

「む、無理だって! どっちか1人でも無理なのに、2人の間に入るなんてできないよー!」

 

「モカ、巴から連絡が入ってる。ちょっと用事ができたから、ショッピングセンターで合流しようって」

 

「……蘭ちゃん、マイペースだね」

 

「仕方ないかー。せっかく仲良くなれるチャンスだと思ったのになー」

 

「2人とも悪かったな。なんか気を使わせたみたいで」

 

純粋な気持ちで声をかけてきてくれたのに、俺と白鷺先輩のバチバチに巻き込んでしまった。

 

「ううん、いいよー。でも、次はもうちょっと仲良くしてくれると嬉しいかもー」

 

「善処する」

 

「そこは約束しないのね」

 

「相性の問題があるから、折り合いがつかなきゃ無理だと思います」

 

「そうね。できないことは卒なく断る。花音が言ってた、あなたのいいところね」

 

「いいところチョイス、そこ?」

 

もっとあるでしょ。こう……優しいところとか?

 

「なんか全然、仲良くする気ないって聞こえるんだけどー」

 

「悪い悪い。そんな気はなかったんだけど……」

 

ちょっと裏目に出たな。

 

千聖先輩との会話が楽しくて、つい、いつもの調子で話してしまった。

 

青葉さんの悲しそうな顔に、申し訳なく思ってしまう。

 

「そうだ。気を使わせたお詫びに、2人の分おごるよ」

 

彼女たちも学生だし、これからショッピングセンターに行くなら、小銭は多いほうがいいだろ。

 

我ながら、大人な申し出だと感心してしまう。

 

「ほんとう? やったー」

 

「この男、唐突に金で解決しにきたわ……」

 

この人は、本当に痛いところを突いてくる。

 

ちょっと引き気味な顔は止めてください。あなたは笑顔が売りでしょうが。

 

「いや、何であんたにおごられるわけ?」

 

「「「……」」」

 

美竹さんからの冷たい言葉。場が一瞬、シーンとなった。

 

「ちょっとー、蘭ー」

 

慌てて青葉さんが止めに入る。

 

「わかってるって。俺におごってもらう理由がないってことだろ」

 

付き合いが長いわけじゃないけど、美竹さんは読みやすい性格をしてるからわかる。

 

ちょっと引っかかる言い方なのは確かだが、どうして、そう言ったのかを考えれば、別に怒ることもない。

 

「ああ、そういうことなのね」

 

「おおー、海堂くん、わかってるねー」

 

「良かったね、蘭ちゃん」

 

さすが幼馴染たちは、当然のように理解してるようだ。

 

「だって、別に気を使ったつもりはないし……話しかけたのだって、こっちからだし……」

 

「照れてる照れてるー」

 

「うるさい。ほら、もう行くよ、巴と待ち合わせなんだから」

 

「はいはいー。じゃあね、つぐ、千聖さん、海堂くん」

 

「またね、モカちゃん、蘭ちゃん」

 

「2人とも、気をつけてね」

 

「青葉さん、美竹さん。また、そのうち」

 

「うん、じゃあ、行くから」

 

そう言って、青葉さんと、少しだけ顔を赤くした美竹さんの2人はショッピングセンターへと向かった。

 

 

 

 

改めて、2人に戻った。

 

だからと言って、別に話したいこともなかったので、羽沢さんにコーヒーのおかわりをもらう。

 

淹れたては熱すぎるので、温度が下がるのをのんびり待つ。

 

今のうちにメモ帳に歌詞でも書きなぐろうか、それとも甘いものでも注文しようか。どうしようか迷っていたときだ。

 

白鷺先輩がフと話しかけてきた。

 

「次の歌はまだかしら?」

 

「ド直球っすね」

 

こんな要求のされ方、漫画でしか見たことない。

 

「ごめんなさいね。こんな聞き方をするのは良くないのはわかるけど、もういちどルミナスが本当にいい歌だから……。あんな歌が増えたらと思ってしまうのよ」

 

「まあ、あの歌が褒められるのは素直に嬉しいです。でも次は未定です。パスパレから何かを感じれば作れるだろうけど、無理に作りだそうとしたら、つまらない曲になるだろうし」

 

「パスパレから感じることね。具体的にはどんな話が聞きたいの?」

 

「それはわかりません。でも、あのときと同じような話を聞いても、たぶん新作は出ないと思います」

 

イヴから話を聞いたときだって、理由はわからないけど、歌にしたいと思ったから、あの歌が作れた。

 

たぶんパスパレの話を聞いて、共感できる何かがあったから、そう思ったんだろう。でも、何で共感したかはわからない。あれからもう一度イヴに話を聞いたけど、やっぱりそこまで話に入り込むことはなかった。

 

「やっぱり作曲は難しいのね」

 

「特定のバンドの歌を作るとなると、やっぱり簡単にはいかないですね。自分が好きに歌う分には別なんですけどね」

 

「あら、そういうのでも歓迎よ」

 

「そういうのって、パスパレの歌じゃなくてもってことですか?」

 

「ええ。もういちどルミナスは本当に良い曲だと思うの。私もあの歌で、あなたのことを見直したもの」

 

「ああ、そりゃどうも」

 

歌が褒められるのは嬉しいけど、俺を見直されてもなー、なんて思い、素っ気ない返事が出てしまう。

 

「気のない返事ね。……ただ、すごい曲だと思うのと同時に、私たちの経験不足も実感したわ。練習不足だけじゃなくて、圧倒的に演奏する時間が足りてない。ロゼリアを見ると特にそう思うの」

 

「ロゼリアと比べたらダメですよ。あのバンドはパスパレの3倍くらい練習してますよ。パスパレがバンド以外に使ってる時間を、全て練習やライブに注ぎ込んでますから」

 

リサ先輩にメールを送ると、バンドで練習をしてるか、ライブ中か、自主練してるか、料理を作ってるかのいずれかだ。まあ、もっと休んでると思うけど、それだけ音楽に費やす時間が多いのがわかる。

 

「そうよね。……ロゼリアは、作詞作曲も自分たちでやってるのよね?」

 

「ですね。最近はリサ先輩も作詞の勉強してますけど、今のところ、どちらも湊先輩がやってると思います。本当にすごいですよ、彼女」

 

もし俺にチートがなかったら、湊先輩の足元にも及ばなかったと思う。ピアノは好きだから続けてただろうけど、燐子先輩にも勝てなかっただろうな。

 

昔、ピアノをやってたときにライバルがいたけど、あの人と競い合うことも出来なかったと思う。俺よりも10歳くらい年上だったけど、今も頑張ってるんだろうか。

 

「ううん。やっぱりダメね。ごめんなさい。聞かなかったことにしてくれるかしら。いつも花音から、あなたのことを聞いてるから、けっこう慣れ慣れしくなってしまったわね。ごめんなさい」

 

「いえ、ストックが山のようにあるのは事実なので、別に気にしなくていいですよ」

 

「……ストック、あるの?」

 

「そりゃあ、ありますよ。白鷺先輩は知らないかもですけど、俺は2週に1度は新曲出してますから。しかも最低1曲、です」

 

少し前に海外曲の寄付を止めたというのに、今度はそれ以外の目標金額達成スピードが上がってる。1月に3曲ペースだ。やりたいことが一杯あるんだから、勘弁してほしい。

 

「私の周りはあなたの大ファンが多いから、耳にタコができるくらい聞いてるわよ。……ちなみにどんな曲なの?」

 

「バラエティに富んでますよ。でも、これから発表する曲もあるから、どれでもパスパレに提供できるってわけじゃないですけど。パスパレに提供できるのは……かわいい系の曲かなー。もういちどルミナスみたいなバラードでパスパレに合いそうなものはちょっと……」

 

バラード系は俺が歌えるのも多いから、今後の公開候補だ。

 

かわいい曲は俺じゃあ歌えないと断念した曲なので、いくらでも提供しよう。なんなら、諦めてた電波ソングだって即行で仕上げてもいい。

 

「かわいい曲でいいじゃない。まさにパスパレの曲じゃないの」

 

「パスパレの曲っていうか……うん、まあ、そうですね」

 

俺も我が物顔で使ってるので、文句は言えない。

 

「どんな曲か聞いてみたいわ」

 

「いいですよ。今度イヴにデータ渡しておきます」

 

「今は?」

 

「は?」

 

「今から聞きに行けないかしら?」

 

「いや、データがあるの俺の家ですよ」

 

「ええ。だから、これからあなたの家に行って、聞くことはできないの?」

 

「あんた、日頃から俺のことを、すぐ女を連れ込むケダモノとか言ってたろ!?」

 

「これは私の意思で行くから大丈夫よ。それと、敬語を使いなさい」

 

「くっ……なんて自分勝手な女だ」

 

「あなたに言われたくないわよ」

 

「いいんですか? 俺、男ですよ。男の家に押しかけたなんて知られたら、芸能界的にヤバいんじゃないですか?」

 

へへ、と笑ってみせる。

 

「確かに大変なことになるわね。バレたら確実に干されるわ。たぶん、二度と舞台に立てなくなるわね」

 

「そうですよね。なら、そんな横柄な態度は控えたほうがいいんじゃないですか?」

 

別に見られたらマズいものがあるわけじゃないが、白鷺先輩に主導権を握られるのはおもしろくない。

 

例え、口では若干、分が悪かったとしても、俺には生まれ持ってのアドバンテージがある。

 

元々、君に勝ち目はないのだよ、白鷺くん。

 

「普通ならそうするわ。でも、あなたはそうしないでしょ?」

 

「は?」

 

「言ったでしょ。花音からあなたのことは、よーく聞いてるわ。それだけじゃない。イヴちゃんや美咲ちゃん、薫からだって聞いてるわよ」

 

「白鷺先輩、俺のファンですか?」

 

「求めてないのに、みんな、あなたの話をするのよ……! でも、そのおかげで、あなたの人柄は理解出来てるつもりよ。そうじゃなかったら、あんな風に曲の催促なんてできないわ」

 

「た、たしかに……」

 

ずいぶん強気だなと思った。

 

あれが読まれたうえでの行動だった?

 

それじゃあ、俺は初めっから、この人の手のひらで踊らされてたってことじゃ……。

 

「有咲ちゃんは、あまり話さないのよね。口止めでもしてるの?」

 

「……いや、たぶん有咲は初期の癖っていうか、俺の情報を外に出さないルールを徹底してるっていうか……」

 

「なによそれ。まあいいけど。ちなみに、あなたが私のことを、胸平たい族って呼んでるのも知ってるわ」

 

「美咲……!」

 

前に美咲から、白鷺先輩ってあんた好みの金髪だけど、どうなの? と聞かれたことがあって、胸平たい族には興味ないって返したことがあった。

 

あのときちゃんと、美咲だけは別だからとフォローしたのに……!

 

俺の知らないところで、俺の包囲網が築きあげられている気がする。

 

「なんでかしらね。演じる者としては、胸は小さいほうが衣装の調整ができて映えるし、それだけ観客を劇の中に引き込めるから、好ましいと思っているのよ。なのに、あなたにバカにされると、すっごく腹が立つのよね」

 

「羽沢さん、もし俺が行方不明だって花音から連絡があったら、今日の出来事を伝えてほしい。そうすればきっと、事件は解決するから……!」

 

「え、私ですか!?」

 

「なにそれ、ドラマのセリフかしら? ちょっと格好付け過ぎじゃない?」

 

「うるさいですよ。そんなこと言ってると、それ相応の曲しか提供しませんよ」

 

「それをされるのが嫌だから、あなたの家に行ってまで曲を聞きたいと言ってるのよ。いいからサッサと行くわよ」

 

苦し紛れの抵抗も、一瞬で打ち砕かれる。

 

まさか、これも読まれてた?

 

笑顔の少女が大きく見える。先ほどまで対等だったのに、なんだか、俺よりも大きく見える。

 

これが芸能人。これが白鷺千聖……!

 

「だんだん本性を現してきたな……」

 

「なにか、言ったかしら?」

 

「いえ、なにも」

 

結局、適温になったコーヒーを楽しんだ後に、白鷺先輩と俺の家に行くことになった。

 

 

 

無事、曲を聞かせたあと、ここから駅まで送ってくれない、というご要望にお答えして、駅までの道を2人で歩く。

 

「気がつけば、すごい時間が経ってたのね」

 

「それだけ白鷺先輩が真剣だったことですよ」

 

「そうかしら?」

 

「はい。途中で休憩しないかと声をかけようと思いましたが、止めたくらいです」

 

コーヒーと紅茶、どっちがいいか聞こうとしたのだが、あまりにも真剣に曲を吟味しているので、そっとした置いたのだ。

 

「気を使わせちゃったのね。ありがとう」

 

「いえいえ、それより提供した曲、大切に扱ってくださいね」

 

「ええ、もちろん。Letter……良い曲よね」

 

「最高の曲ですよ。今日、聞いてもらった曲は全て名曲です」

 

今のところ、もういちどルミナス以外は前世から貰ったものなので、全てが名曲である。

 

「充分、わかってるわ。あなたがどれだけ一曲一曲に愛情を持ってるのかもね」

 

「そうですか?」

 

「そうよ。でなけば、あんな歌詞よりも何倍も長い解釈メモが一曲ごとに用意されてないわよ」

 

「……普通がどうかはわからないですけど、俺にとっては、かけがえのない思い出ですから。少しでも記憶が風化する前に、覚えてることとか、連想できることを書きなぐってるだけですよ」

 

当たり前だけど、前世の記憶もどんどん薄れていってる。あの曲を聞いたときにどんなことを思ったのか。どういう切っ掛けで曲を聞いたのか。それがなくなってしまえば、思い出に浸ることすら難しくなってしまう。

 

「あなたって、本当に音楽に関してだけは誠実なのよね」

 

「だけってなんですか。俺は彼女にも誠実なつもりです」

 

付き合った子たちには精一杯、優しくしてるつもりだ。手癖の悪さはアレだけど。

 

「どの口がそんなこと言ってるのよ。……でも、見直したわ。花音から聞いてたけど、いやらしいことは一切しなかったわね」

 

「気がない女性に手を出すとか、なにがおもしろいんですか? 俺が今まで手を出してきた人は、消極的であっても、俺とそういう関係になってもいいと思ってくれてる子だけですよ」

 

最近はむしろ、そういった子たちでも遠慮してる。イヴに日菜先輩なんかは、たぶんいけると思うけど、手は出してない。けっこう付き合ってる子が増えてるっていうのもあるけど、そういう雰囲気じゃあなかったし、何より手を出したら激怒しそうな人が目の前にいるし。

 

「……きっと、そうなんでしょうね。そうじゃなかったら、あなたの周りにいる子たちが、あんなに笑顔を見せるわけないわよね」

 

「無理矢理で許されるのはプレイだからですよ。有咲のイヤイヤは誘い受けですけど、美咲のヤメロはやり過ぎるとマズいことになるのと同じです」

 

「あなた、有咲ちゃんになにをしたのよ……」

 

「この前ちょっと、夜にお散歩しただけです。人前だと恥ずかしいって言ってた有咲を、好き好き攻撃で突破しました」

 

有咲はなんだかんだ言いながら最後は、仕方ねーな、で受け入れてくれる。

 

本当にチョロすぎて心配になるときもある。普段はあんなに警戒心が強い子なんだけど、内に入ると甘くなるんだよ。有咲といるときは、俺がしっかりしないと、なんて思ったりもする。

 

「そ、そう。深くは聞かないでおくわ……」

 

「それがいいかもしれません。あとは、体操服でスクワットをしてもらって、それを色んな角度から眺めさせてもら――」

 

「もういいわよ! あなた、花音にも同じこと、させてるんじゃないでしょうね!」

 

「……白鷺先輩」

 

「なによ。言い訳は聞かないわよ」

 

「花音は、自分からやりますよ」

 

「……」

 

白鷺先輩がポカンと口を開けた。珍しい。この先輩は防御力が高いので、よっぽどショックだったんだろう。

 

「花音は進んで俺の性癖をダイレクト攻撃してくるんですよ。この前も2人で動物カフェに行って、俺がやたらウサギを気に入ったからって、花音がバニースーツを持参してきて――」

 

「わかった。わかったから、もういいわ。ごめんなさい。きっと聞いちゃいけないことだったのよ。話を戻しましょう」

 

「そうしましょうか。……えっと、俺が女性を無理に襲うことはないって話でしたよね」

 

「そうね。私も少し考えを改めるわ。初めの印象が悪すぎたから、ずっとあなたに偏見を持ってたけど、そろそろ切り替えないとダメよね。海堂くん、改めて、ごめんなさい。あなたには失礼なことをたくさん言ってきたわ」

 

「いいですよ。花音のためだったんですよね」

 

「ええ。花音が悪い男に騙されてるなら、私が助けてあげないとって思ったのよ。私は芸能界でたくさんの男を見てきたし、接してきたから、花音がマズい状況になっていたら、私がなんとかしないといけないって思ったの」

 

「俺の彼女を思ってくれての行動だから、むしろ感謝したいくらいです。それに、俺も白鷺先輩とのやり取りは新鮮で、楽しかったですから」

 

これは本当だ。今世の男事情を考えると仕方ないが、俺が気安く話せる人ってかなり少ない。家族と彼女と初期勢とガルパの一部メンバーくらいだろうか。面識のない人は当然だけど、学校でさえ俺は腫れ物扱いされてる。こんな巨体だから、当然って言えば当然だけど。

 

特に、白鷺先輩みたいに喧嘩上等で突っかかってくる人は貴重なのだ。

 

「そうかしら? それなら、今後もあんな感じでもいいの?」

 

「もちろん。お互い、あんな感じの方が気が楽じゃないですか」

 

「ええ、そうね。……それなら、今後もよろしくね。海堂くん」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。白鷺先輩」

 

いつもどおりだけど、いつもと違う。ちょっとだけ昨日とは違う関係。それもまた、新鮮でおもしろい。

 

「ふふ、なんだか不思議ね。私があんなに嫌ってた人と、しかも男のあなたと、こうして仲直りするなんて」

 

「誤解が解けただけですよ。仲直りついでに、一つ聞いてもいいですか?」

 

「なにかしら?」

 

「白鷺先輩、一夫多妻ってどう思ってますか?」

 

機嫌も良さそうだし、前から聞いてみたかったことを聞いてみる。

 

「唐突ね。でも、そうね、私は悪くないと思ってるわよ。確かに、男性と女性が対等に愛し合えるのが一番だけど、実際問題として、それは難しいと思うの」

 

「……へえ」

 

「男性ってみんな身勝手で、いい年して、子どものようなワガママを言うでしょ? 結婚した女性は、家事や仕事、育児をする上に、夫の面倒まで見なくちゃいけない。これって、すごく大変だと思うわ」

 

男性は遺伝子提供により、多額の補助金を手にできる。1人なら仕事をしなくても食べていけるだけの金だ。でも、豪遊なんかできない程度だ。基本的には女性と結婚し、女性が働いて男性の生活を豊かにしていく。

 

あまり多くあげすぎると、結婚に消極的になる人がいるからって理由らしい。

 

「でも、妻が複数いれば、その苦労は分散できるはず。単純に考えて、夫の面倒を見る時間は半分以下になるし、家事を妻同士で分担すれば、空いた時間も生まれる。妻は複数いればいるほど、結婚生活が楽になるって思ってるわ」

 

なんとなく、前世で見た漫画を思い出した。子どもは村全体で育てる。だから母親の負担は少なくなるって話だ。白鷺先輩の話は、村ではなく、家庭のなかでそれを起こすというものだ。

 

「ゆとりは大切よ。いつもなにかに追われているようじゃあ、日々を楽しむことだって、ままならなくなる。だから一夫多妻制は悪いことじゃないと思ってるの。もちろん、相性っていう一番大きな問題があるんだけれどね」

 

「そっか、そういうことだったんですね……」

 

この人だったか……。

 

「なにか気になることでもあるのかしら?」

 

「いや、なんでもないです。そのわりには、俺に突っかかってきたなって思っただけです」

 

思い起こせば、俺が花音以外の女の子に手を出してることに怒ってた気がする。

 

「私が警戒してたのは、あなたが花音に遊び半分で手を出したんじゃないかってことよ。正直に言って、花音からあなたのことを聞いてる限りだと、花音の体を弄んで捨てるような男としか思えなかったわ。それと、別の子に手を出すのが早過ぎる。花音が全然、大事にされてないじゃない」

 

「いやいや、大切にしてますって」

 

「それも今だから、わかることよ。あなたの人柄がわかるまでは、あなたの主張がどこまで本当なのか、わからないでしょう」

 

「まあ、それは確かに。……意外と男性について考えてるようで驚きました。てっきり、男なんて消えればいいとか思ってるんだろうなって偏見を持ってました」

 

「フェミニストでもないのに、そんな短絡的な考えをするわけないでしょ。男性と付き合って、潰れていく女優を見て思ったのよ。ああ、これは一人じゃダメだって。あのとき、他にも付き合ってる女性がいれば、あの男の衝動は分散されたはずだし、もしかしたらコントロールするやり方も女性同士で見つけられたかもしれない。でも、一人だと耐えることしかできないわ」

 

「やっぱり、芸能界は闇が深いですね」

 

「男がたくさんいる、それだけで闇は深くなるわよ。それにつられて、同じように芸能界にいる女だって汚れていくけど」

 

「千聖先輩はそうならないと思います。汚れる可能性を自覚してるなら、それを回避することだってできます。きっと輝き続けるって思ってます。……勘ですけど」

 

「あら、今度は私を狙うつもりなの? 仲直りしたけど、そう簡単にはいかないわよ?」

 

「貧乳は対象外ですって。鏡を見てから出直して来てください」

 

「本当にあなたは口が減らないわね。……そうね、私からも一ついいかしら?」

 

一瞬だけ笑顔が消えた白鷺先輩が聞いてきた。

 

「どうぞ」

 

なんだろう? と思いつつ、白鷺先輩がいつもの笑顔に戻って続けた。

 

「あなたが初めて花音と出会ったときのことだけど、喫茶店に行ったのよね……3人で」

 

「えーと、確かそうですね。俺と花音、こころの3人で近くの喫茶店に行きましたよ。周りに人集りができてて、そのまま話すのも落ち着かないって思ったので。それがどうかしました?」

 

興奮を抑えきれない様子のこころが、怒涛の勢いではしゃいでいたのを思い出す。

 

俺も完全に一目惚れしてたから、その様子が可愛くて可愛くて仕方なかったんだけど、少しだけ周りの視線が気になった(周りを取り囲むような人だかりがあった)ので、近くの喫茶店で休むことにしたのだ。

 

「いえ、大したことじゃないわ。花音がそのときのことをあまり話してくれなくて、気になったのよ」

 

「……へー、そうなんですか」

 

白鷺先輩の目つきが変わった。

 

少し、返しを間違えた。たぶん、あの回答はマズかった。

 

「……」

 

白鷺先輩は無言だ。でもその視線は俺に次の言葉を促していた。

 

まあ、いいか。

 

「……まあ……よくわからないですけど、何か理由があったんじゃないですか? 今、聞いてみれば、あっさり事情を話してくれるかもしれませんよ」

 

「……なにか、あったのね」

 

疑いが確信に変わったように、ジロリと睨み付けられる。

 

「さあ、どうですかね。ただ、あの時と事情が変わった、ていうのはあると思います」

 

全貌が見えない巨大な相手に、どう立ち向かったらいいのか。そんな周りを警戒してた頃だ。花音にはもう黒服の人は付いてないみたいだし、前とは違うんじゃないかと思う。

 

「あなたはこのことを聞いて、どう思ったの?」

 

「花音は本気だったんだなって思いました。そんな強く思ってくれてたなんて! って感動してるくらいです。それだけですよ。危険なことなんてないんじゃないですか? そもそも……」

 

「……なにかしら?」

 

そんな昔の話、花音に聞いてみないと本当のところはわからない。でも白鷺先輩の思ってるような危険はない。あるのは俺たちの約束だけだ。

 

「白鷺先輩に睨まれたら、誰だって口をつぐみますって。どうせ、あの男は! とか言って、キレ散らかしてたんじゃないですか?」

 

だから、この話はお終い。少なくとも、俺から話すものじゃない。あとは花音から聞いてください。

 

そんな気持ちを込めて、白鷺先輩を見る。

 

白鷺先輩が俺の目をジッと見つめる。圧がすごい。でも絶対に逸らすわけにはいかない。

 

やがて、諦めたように白鷺先輩が一つため息をついた。

 

そして、いつもの笑みを浮かべた。

 

「怒られる心当たりがあるのに、ずいぶんと余裕ね? なんだったら、今からあなたに、日頃の行いについてお話してもいいのだけれど?」

 

そう言った白鷺先輩は、すぐ近くにある喫茶店へ視線をやった。

 

「白鷺先輩って本当に笑顔が素敵ですよね。優しく微笑んでるところとか、マジで天使だと思いますよ」

 

「気持ち悪いから、その見え透いたお世辞は止めてくれないかしら? ……まあいいわ。今日は許してあげる。でも勘違いしないで。あなたがこれから私たちの期待を裏切るようなことをするなら、いつだって私はあなたを嫌いになるわよ」

 

呆れた顔から、真面目な顔へ。いつもの笑みは洗練された表情だけど、こういう顔も様になる。

 

「例えば?」

 

「花音を傷つけることよ。他にも、彩ちゃん、イヴちゃん、日菜ちゃん、麻弥ちゃんを傷つけるなら、また話をつけにくるから」

 

「花音については安心してください。俺が全力で守ります。パスパレメンバーは……麻弥先輩は守りたいです」

 

「他の子も守りなさい。あとは、そうね……まさかホイホイ女性の家についていくことなんて、ないと思うけど、もし、そんなことをするなら幻滅するかしら。まあ、そんなことはないと思うけど」

 

「はは、なんですか、それ。俺だって警戒心くらい持ってますよ」

 

「そういうことじゃないけど……まあ、いいわ。そんなことないと思うしね。あら?」

 

白鷺先輩の視線の先に意識をやると、制服姿の花園さんが歩いてくるのが見えた。

 

「千聖先輩と幹彦だ。こんにちは」

 

「お、おたえちゃん。こんにちは」

 

「花園さん、こんにちは。奇遇だね」

 

「偶然だね。私は買い物の用事が済んだから、軽く散歩してたんだ」

 

花園さんがぶら下げていた買い物袋を少し上に上げる。江戸川楽器店と書いてあった。小さい袋だ。ギターの弦でも買ったのかな。

 

「2人が一緒って珍しいね。どこか行くの?」

 

「いや、用事が終わって帰るところ。白鷺先輩があまりこの辺には来ないらしいから、駅まで送ってるんだよ」

 

「そうね。……あ、ここまででいいわよ。ここからなら駅までの道もわかるから、もう大丈夫。海堂くん、送ってくれて、ありがとう」

 

ずいぶんと、まくし立てるじゃないか。さっきまでの余裕はどこにいったんだ?

 

「千聖先輩、駅に用事だったんですね。それなら、この先まっすぐ行けば2分ほどで見えてきますよ」

 

「ええ、ありがとう。それじゃあ、おたえちゃん、海堂くん、また今度ね」

 

「千聖先輩、さようなら」

 

挨拶をしながら、既に体が駅へ向かおうとしてる白鷺先輩。

 

「……逃げた?」

 

「幹彦、ダメだよ。ちゃんと挨拶しないと」

 

「あ、ああ、そうだな。白鷺先輩、また」

 

「ええ。よけいなことは口に出さないことを、おすすめするわ」

 

にっこりと、今日一の笑顔を見せて、白鷺先輩は駅へと歩いて行った。

 

「……」

 

「幹彦、なんか言ったの?」

 

「……なにも言ってない」

 

なんか気になる動きをしてた。

 

まあ、白鷺先輩とは仲直りできたので、これで良しとしよう。白鷺先輩は花音の親友だ。きっと仲がいいに越したことはないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有咲視点

 

 

突然だけど、クリスマスライブをやることになった。

 

今回ばかりは香澄の思いつきってわけじゃなくて、いや、ライブは香澄の思いつきなんだけど……とにかく、ポピパで急きょクリスマスライブを行うことになったんだ。

 

Circleのまりなさんに相談して、夕方からは予約で埋まっているけど、昼間の空いてる時間ならミニライブを開くくらいはできそうなので、場所も確保できた。

 

あとは参加者を集めるんだけど、これは香澄がガルパの参加バンドのみんなにライブのお誘いメールを送ってくれた。

 

後はライブや、クリスマスライブの後にやる予定のクリスマスパーティーに向けて準備を進めるだけだ。

 

「ライブで新しい曲やるの?」

 

幹彦がそう言った。

 

「そのつもり。今、絶賛作成中」

 

「時間ないのに頑張るよなー。アレだったら俺の曲、使っていいぞ。この前ちょうどクリスマスにピッタリの曲を聞かせただろ」

 

「それはもしかして、クリスマス? なにそれ? 美味しいの? のことじゃないだろうな」

 

「逆にお前らに聞かせた曲で、それ以外のクリスマスの歌はないと思うぞ。一般には公開してないし、ちょうどいいじゃん」

 

「よくねえよ! あんな歌をクリスマスに歌えるか! しかも私、彼氏いるんだぞ! パーティなのに空気が一瞬で凍るぞ!」

 

メン限動画で公開したとき、コメント欄が一気に殺伐とした空気に変わったのを忘れたのか?

 

「まあ、独り身のための歌だから、その辺は、ねえ?」

 

「ねえ? じゃねえから。……で、お前はどうするんだよ? 参加するのか?」

 

「俺? もちろん参加するって。ハロハピは全員参加するんじゃないかな?」

 

「クリスマスだけど、大丈夫か? ほら、花音さんとか奥沢さんとか弦巻さんとデートとかは?」

 

「前に言ったろ。クリスマスはみんなで祝うって。クリスマスデートは数日ずらして、個別でやるさ」

 

「確かに聞いてたけど、本当にそれでいいのか?」

 

ハロハピの3人の方が私よりも前から付き合ってたんだから、別にクリスマス当日にデートしたっていいんだぞ。私だってそれくらい我慢できるし。

 

「いいんだって。それより有咲ともデートするからな」

 

「し、仕方ねえな。クリスマスまではライブの準備で忙しくなるから、その後だったら予定を空けてやるよ。決まったら言えよ」

 

年末の棚卸しがあるけど、たぶん1日、2日ならなんとかなる。婆ちゃんに頼んでどうにかする。絶対にする。

 

「了解。てか、今もデートなんだけどな、一応」

 

「お家デートだけどな。しかも、いつもと変わらないし」

 

「どっか行きたい? 俺たちでも入れそうなレストラン予約しておこうか?」

 

「雰囲気を味わいに行くから、落ち着かないのはしょうがない。オシャレしてその空気に酔えれば最高の思い出になるぞ」

 

「雰囲気を味わいに行くから、落ち着かないはしょうがない。オシャレしてその空気に酔えれば最高の思い出になるぞ」

 

ドレスを着て、幹彦とオシャレなレストランでディナー……たしかに憧れる。でも、オシャレなレストランに似合うドレスなんて持ってないんだよな。

 

これから買いに行くとしても、これからライブの準備で忙しくなるだろうし……。

 

「……やっぱパス。オシャレなレストランはもっと大きくなってからが良い!」

 

「OK。じゃあ、ちょっと豪華な物を出前でも頼もうか」

 

「あ、でも、デートはしたい!」

 

まるっきり、いつもと一緒は少し寂しい。

 

ちょっとだけでいいから、なんか特別感を味わいたい。

 

「はいはい。じゃあ昼間はデートで、夜は家でご飯な。夜は寝かせないぜ」

 

「いつものことだろ」

 

「はは、たしかに。どっか行きたいところはある?」

 

「任せるわ。いつもとちょっと違うところに行きたい」

 

「OK、探しとく。花音たちと行く場所が被っても文句言うなよ」

 

「言わねーよ。でも、デート当日に花音さん達との思い出話しをしたら怒るかも」

 

「いや、俺、そんなバカな事したことないだろ」

 

「忠告です。あしからず」

 

プイッと顔をそむける。

 

「こいつめ」

 

そう言って幹彦が覆いかぶさってくる。

 

こいつ、あれだけして、まだヤリ足りないのか?

 

いや、いつものことか。

 

疲れた体で、払いのける力も残ってない私は(払いのけるつもりもないが)、そのまま幹彦を受け入れた。

 

あ、ちょっと待って。

 

「そう言えば、あれから、おたえは何かしてきたか?」

 

「花園さん? いや、特に連絡も来てないかな」

 

「ふーん、そっか」

 

不思議そうな顔する幹彦。

 

「悪い。ちょっと気になっただけ」

 

「いいよ」

 

ちょっと待ってくれた感謝の印に、疲れで震える両腕を伸ばし、幹彦の顔を抱き寄せてやった。

 

 

 

数日前、ちょうどポピパの中で、クリスマスライブをしないかと話が上がってくる直前のことだ。

 

おたえがウサギを餌に、幹彦を自宅に連れ込んだことがわかった。

 

男に興味ある素振りなんて一切なかったから、幹彦から報告を受けたときも、まさか、おたえが!? と困惑してしまったのを覚えてる。

 

幹彦だって、こんな性欲の塊だけど、誰かれ構わず手を出すヤツじゃないので、このことを本人以外から聞いたら信じられなかったかもしれない。

 

なんでも、少し前に花音先輩と動物カフェに行って、ウサギとチンチラの触り心地に感動したらしい。そんで、おたえに、うちの家にはウサギが20羽もいるよ、と言われ、フラフラ~とついて行ってしまったらしい。

 

いや、ついて行くなよ! おたえが私のバンドメンバーだからって、何されるかわかんないだろ!

 

おたえは、そんなバカなことしないけど、今後、そういうヤツに出会わないとは限らないだろ!

 

……まったく、わかればいいんだよ。

 

まあ、こいつの不注意は今に始まったことじゃない。

 

奥沢さんだって、こいつは常識人ぶってるけど、目が離せないって言ってたし。

 

ネット上だと他の仲間も目を光らせてくれるけど、一人だとやっぱり大変だ。

 

リサさん……来てくれねーかな?

 

いやいや、今はおたえの話だ。

 

幹彦に話を聞いて、一応、おたえにも本当か確認してみたが、どうやら事実らしい。

 

おたえ、男に興味あったんだな、と聞いたら、メスがオスに興味を持つのは普通だよ、とのこと。

 

とりあえず人をオス、メスで表現するのは止めろ。ウサギと一緒にすんな。

 

おたえはスラリとした体型に、艶やかな黒髪、綺麗な顔立ちをしていて、そこらのモデルじゃ太刀打ちできないほど容姿に優れている。前にイヴから、一緒にモデルの仕事をしてみないかと誘われていた程だ。

 

おたえはバンドが忙しいからと断っていたが、何でもないように断る様子も格好良いなと思った。

 

でも、幹彦の好みじゃなかった。

 

家に行ってウサギを可愛がっているときに、おたえも近くで一緒にウサギを撫でていたらしい。肩がくっつく程の距離で、彼女が動くときに、その黒髪が幹彦の腕をくすぐることが何度もあったとか。

 

幹彦に、おたえの感触はどうだったよ、と聞いてみた。

 

……距離はすごい近かったけど、ララちゃんの方が可愛かった?

 

お前、さすがにそれは、おたえが可哀想だろ……! 絶対に外では言うなよ!

 

でも、まあ、いくら好みじゃないとはいえ、美人の同級生と2人きりになっても手を出さなかったのは偉い。

 

やるじゃん、と褒めてやった。

 

……俺には有咲たちがいるから?

 

ふ、ふーん……まあ彼女優先は当然だし、別に嬉しくないから。

 

今度また行為を撮影することになったけど、別に今回のご褒美ってわけじゃない。本当だ。

 

「有咲……チョロすぎ……」

 

「あん? なんか言ったか?」

 

「いえ、なにも」

 

なんか、ミニスカサンタ衣装は持ってこないほうが良い気がしてきた。

 

いや、そもそもポピパのみんなでこの衣装を着るのは危険かもしれない。

 

ええっ!? じゃないから。

 

……おたえに反応しなかったら大丈夫?

 

でも、お前、同じ状況で香澄とか沙綾と2人になったら襲ってただろ。この前、ポピパの焼き芋パーティーにお前が乱入してきたときに、沙綾をチラチラ見てたことはわかってんだからな。

 

……香澄は見てない?

 

お前! 香澄みたいな子、大好きじゃねえか!

 

おい、こっち見ろ。目を逸らすな!

 

胸は見なくていいんだって! もう飽きるくらい見ただろ!

 

……え、何度見ても綺麗?

 

う、うるせーな。……もういいから、好きに見ろよ。も、もう別に恥ずかしくないしさ。

 

「有咲、本当に可愛い」

 

だから、うるせーって!

 

え、まだヤんの!? もう無理だって!

 

奥沢さん、花音さん、助けて!! この際、おたえでも許すから!!




イメージ曲
Letter(SILENT SIREN)
クリスマス?なにそれ?美味しいの?(ヒャダイン)

前者については、確かFM横浜で「恋のエスパー」が流れてたのがきっかけで知りました。それでアルバムを買ってみたら、この曲に一目惚れしました。その後、バンドリとコラボをすることになったんですけど、このバンドのボーカルって丸山と声質が似てる気がします。だからピッタリかなって思いました。超名曲です。
後者は、うん、ネタ曲ですね。そのくせ、クオリティがすっごく高いっていうね……。たぶん、もうヒャダインとしてアレンジ曲を作ることはないんだろうけど、本当に楽しませてもらいました。一番好きだったのは「さぁ 歩き出せ!」です。
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