(仮題)とある転生者の異文化体験   作:ピッピの助

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たくさんの感想ありがとうございます。全て拝見させていただいています。
「この作品の若干苦労人モカちゃんホント健気で可愛い」 自由なモカちゃんも大好きです。でも、千聖とのバチバチには勝てなかった……。

当初、15話本編として書いたものでしたが、原作キャラの出番が少なかったので没になった話です。でも内容は気に入ってるので、閑話として投稿します。時期的には15話本編より少し前の話です。
有咲視点はありません。


15.5話

パスパレの歌を作ってから、あっという間に数カ月が経った。

 

気がつけば、もう12月だ。今年は例年以上に時間の流れが早い気がする。

 

この間も多くの出来事があった。

 

ハロウィンに、花女の体育祭(一番の見どころは跳び箱飛べなくて半べそかいてるアイドル)、こころが夏も終わるのでお気に入りワンピースを見せてくれたり(本当に天使だと思う)、有咲ん家で開催されたポピパの焼き芋パーティーに乗り込んだり、リサ先輩の歌詞作りのアドバイスをしたり(お礼にデートしてもらった)、羽女の文化祭に顔を出したり、美咲と遊園地に行ったり(袖口大きめのワンピース姿が清楚可愛かった)、花音とショッピングしたり(メガネを試着した花音もゆるふわ感が増していいね)、イヴのホームパーティーに招かれたり。

 

相変わらず順番は覚えてないけど、思いつく限りをあげたら、こんなところだろうか。

 

え、にゃんにゃんはどうしたって? 当然ヤッてるさ。一つの出来事の間に1~3回は入ってると思ってほしい。

 

これから1カ月だってクリスマスや正月、冬休みが待ってる。

 

昨年と違い、ハロハピのみんなや有咲がいるから、クリスマスや正月が楽しみでしょうがない

 

プレゼントは何にしようかとか、どこに行ったら喜ぶかとか、最近はそんなことばかり考えている。

 

とは言っても、別に日常を疎かにしてるわけでもない。

 

週末の今日は、いつものようにハロハピでライブをする。

 

場所は少しだけ遠い老人ホームだ。

 

この老人ホームは少し特殊で、入居者は全員、残り短い人生の方たちらしい。

 

ライブは老人ホーム側からのお誘いがあったらからなのだが、初めはハロハピには合わないかと思って、俺と美咲は否定的だった。だが、他の4人に押されて、結局ライブをすることになった。

 

黒服の人たちが、入居者の裏を確認したけど、不審な人はいないと報告してくれた。

 

嬉しいんだけど、そこじゃない。死を目前にした人間がどんな考えをしてるか想像できない。それが怖いんだ。

 

まあ、明らかにヤバかったら黒服の人も止めに入るだろうし、たぶん杞憂に終わるんだろうけど、全く読めない人というのは、それだけで警戒してしまう。

 

ちなみに美咲はこころ達が何かやらかすんじゃないかと思って反対してる。

 

そこはもう、諦めることをおすすめした。

 

あんたが言うな、と美咲に叩かれた。俺に八つ当たりするなって。

 

お返しに、こころ達に見えないように美咲を後ろから抱きしめて、体をまさぐってやった。

 

「あ、ちょっ、やめっ――」

 

と小さな声で美咲が抵抗する。

 

今度は殴られた。あ、ヤバい、花音に見つかった!

 

俺たち2人は何事もなかったかのように花音に笑顔を見せた。男女の関係だと、ヒエラルキーは花音>美咲なのだ。ちなみに言うと、こころ>花音だったりする。

 

花音は、仕方ないなあ、という顔で苦笑いして、こころ達に顔を戻してくれた。

 

俺と美咲は、危なかったと顔を見合わせて、一つ頷くと、こころ達の方へと歩いて行った。

 

 

 

老人ホームでの演奏は、決まって曲調が穏やかなものにしてる。

 

激しい歌は控えて、明るく楽しい歌で、老人たちを癒やすのが目的だ。

 

保育園や病院のように感動する人は少ないが、老人たちは俺たちの演奏に惜しみない拍手と笑顔をくれる。

 

音楽の歌詞や深みは伝わらないかもしれないけど、こうしてお互いに笑顔になるツールとなる。音楽は本当に素晴らしいと思う。

 

歌い終わった後は老人たちと触れ合う。

 

そんな長い時間ではないが、良かったよとか、どこから来たのとか、好きな食べ物はなんだとか、そんな当り障りのない話をする。

 

ハロハピはこの時間が大好きで、みんな楽しそうに老人たちとお喋りをしている。

 

いつもなら、俺もみんなに混ざって小洒落た話を披露するのだが(理解されてるかは不明)、その日はそうしなかった。

 

初めに聞いていた、この人達が残り短い人生、というのもあるかもしれないが、あの輪に入る気分じゃなかったのだ。

 

それよりも隅の席で、ずっと退屈そうに俺たちの演奏を聞いてた婆さんが気になったのだ。

 

俺のピアノ、ひいてはハロハピの演奏を聞いて、よくもまあ、つまらそうな顔ができたもんだな、という気持ちは少ししかない。

 

なんとなく気になったのだ。この婆さんが一体どんな考えをしているのか、少し興味がわいただけだ。

 

「私に気を使わなくてけっこうだよ、あっち行きな」

 

話しかけた俺に返ってきた言葉がそれだった。

 

「そんなこと言わないでください。あっちはもう人が一杯なんです」

 

明確な否定の言葉だったが、そんな言葉が響く俺ではない。

 

しれっと返してやった。

 

「……あんた、正直だね。でも私は男は大っ嫌いなんだよ、あっちへ行っとくれ」

 

わかった。

 

この人の雰囲気が初期勢に似てるんだ。

 

知的な思考をしてるけど、歯に衣着せぬ物言いで、平然とケンカを売っていくスタイル。

 

それなら扱い方はわかる。むしろ得意な方だよ。

 

「そんなこと言わないでください。せっかくこうして出会えたんだから、仲良くしましょうよ」

 

「全く心がこもってないね。それと、その気持ち悪い敬語は止めな。男に敬語を使われるなんて虫唾が走る」

 

「敬語くらい普通じゃないですか?」

 

「普通だね。常識だよ。でも、男がそれをやると気持ち悪い。止めな」

 

本当に嫌そうな顔をする婆さん。

 

まあ、そこまで言うなら俺だって気にしないことにする。

 

「……ふう。頑固な婆さんだな。人が気を使ってやってるのに」

 

「ああ、それがあんたの本当の顔か」

 

「本当の顔っていうか、婆さんにやれって言われたんだけど」

 

俺だって初めて会う目上の人に、敬意を持って接するくらいの常識はある。

 

もちろん、相手が白鷺先輩みたいに攻撃的なら、俺だって黙ってるわけにはいかないが。

 

「取り繕いが取れたって言ってんだよ。さっきの気持ち悪い、上っ面だけの言葉よりずっとマシだよ」

 

「変わってんねー。おだてられたら、適当に気分良くしておく方が楽じゃないか?」

 

自分でコントロールが効く範囲なら乗せられたっていいじゃんと思う。

 

「さっきの会話、あんた、おだててるつもりだったのかい? ……でも、この年でまた男と接する機会があるとは思わなかったよ」

 

「そういう時世だから仕方ないだろ」

 

落ち着いてきたとはいえ、この婆さんが若い頃より、世界で男性が少なくなっている。そりゃあ、前より接する機会もなくなるってもんよ。

 

「その冷めた態度。年寄りを舐め腐った態度も、何だか私の若いころに似ているねえ」

 

「止めてくれよ。俺はそんなに捻くれてないから」

 

「あたしだって、あんたら男に比べれば幾分かマシな人間だって自負してるよ」

 

「なに? 男になんか嫌な思い出でもあるのか?」

 

「人の心にずけずけと踏み入る子だねえ。……私の若いころは、年上だけど男はけっこういたんだよ。だから今以上に男と接する機会はあって、それだけみんな男の被害に遭ってるのさ」

 

「そういうもんか」

 

「そういうもんさ。ここにいる私以外の利用者だって、男の被害に遭ってない方が少ないくらいだよ」

 

「ふーん……そうは見えないけどな」

 

辺りを見渡せば、みんなハロハピを取り囲んでチヤホヤしてる。優しそうな笑顔を浮かべてて、男の俺がいるバンドだからって警戒してる様子もない。

 

「みんな、もう忘れてたり、許してるのさ。怒りを持ち続けるのが疲れるほど昔の話だからね」

 

「婆さんは違うんだろ?」

 

「違わないさ。私は嫌ってるだけ。もう怒りなんて湧かないよ」

 

確かに、この婆さんの顔からは憎しみは感じ取れない。俺に対する態度だって、ただ面倒くさいって気持ちだけだろう。

 

「何があったんだ」

 

「別に珍しいことじゃないよ。男の騒動に巻き込まれて、妹と娘を失っただけさ」

 

予想以上にヘビーだった。

 

「失ったって……」

 

「よくある話だろ。男が癇癪を起こして女が怪我したって話は。昔は今ほど医療技術が発達してなかったし、病院が少なかった時代だからね。たまたま悪い方に転がった。その結果だよ」

 

「……」

 

「ああ、気にするんじゃないよ。どうせ先のない老いぼれの戯れ言だ。あんたが気にする必要はない」

 

「……そうだな」

 

違いない。

 

別の男がやったことを俺が責任を感じるなんてバカげてる。可哀想だなって思うなら、せいぜい自分と親しい子たちだけでも幸せにしようって方が、よっぽど現実的だ。

 

少しだけ、昔を思い出させたようで、悪いことしたなって気持ちがあるだけだ。

 

「本当に図太い子だね。でも、それくらいじゃないと男だって生きづらい世界だから、いいことなのかもね」

 

「まあ、ふてぶてしいとは、よく言われる」

 

「だろうね。……とにかく、そういうことだから向こうに行きな。あっちの子たちは、あんたの大切な人なんだろ? そういう人は放っておいちゃダメだよ」

 

確かにそうだ。向こうは楽しそうに笑ってる。2人とも真顔のこちらとは大違いだ。

 

でも、俺はこの空気が嫌いじゃない。

 

婆さんは男を嫌ってるというけど、敵意は感じない。ただ、お互いに思ったことを気兼ねなく話してるだけだ。むしろ、楽しいとすら感じる。

 

「そうだけど……今回はここでもう少し話を聞くわ」

 

「は? あんた、私の話を聞いてたかい? 耳とか頭とか大丈夫かい?」

 

「大丈夫に決まってんだろ。ただ、ここのみんなは先が短いって聞いたから、婆さんの話を聞きたいって思ったんだよ」

 

ハロハピが同じ老人ホームでライブしたことはない。たぶん、この婆さんとも、また会うことはないだろう。

 

そう思ったら、この時間が惜しくなって、もう少しだけ話をしたいと思った。

 

「……やっぱりあんた、変わってるよ」

 

「俺は普通だ。変わってんのは世界の方だよ」

 

「変わってるやつは、みんなそう言うんだよ。でも話を聞いてもらっても、あんたにやれるもんもないしね」

 

「ここで物の話が出るあたり、やっぱり世界はおかしいと思う」

 

高校生と年寄りのふれあいの場だ。せいぜい菓子でもあげればいいんだよ。俺だって甘いものをつまみながら話せれば充分だ。

 

「男の時間を拘束するってのはそういうことだよ。常識だから覚えときな。……そうだね、どうせなら私の財産をくれてやろうか?」

 

「はあ? いらないよ。俺、金に困ってないから」

 

こんな提案されるくらいなら、お菓子をやろうって言われたほうが100倍嬉しい。

 

「いやいや、現金はほとんどないけど、けっこうな土地持ちなんだよ。上手くやれば10億だって下らないはずさ」

 

「ふーん、意外と持ってんね。でもいらね。10億なら1年あれば稼げるし」

 

最近はゲームに過剰投資してるけど、いつもどおりにしていれば金はどんどん溜まっていく。

 

あとが面倒くさそうな土地の譲渡なんてゴメンだ。

 

「あんた本当に何者だい?」

 

「ただのイケメンだよ」

 

「あんた、そんなにイケメンじゃないと思うよ」

 

「うるせー」

 

んなこと知ってるわ。

 

「金は便利だよ。10億あれば何だってできるさ。あんた、何かやりたいことはないのかい?」

 

「あるけどさ。もう自分の金で手をつけてるしな。一番欲しいのも、まだ時期じゃないし」

 

「何だい?」

 

「あいつらに俺の子を産んでほしい」

 

前世なら将来のことを考えて、なかなか踏み切れないことだが、今世では経済的にも問題ない。住む場所だって、うちの実家は彼女たち全員と暮らしても充分なくらい広いし、なんだったらこの前買い取った隣の家の敷地に、新しく家を建ててもいい。

 

一生をともにしたい彼女がいるんだから、子どもを産んでほしいと思ってしまう。

 

「子どもか……いいじゃないか。世のためになる真っ当な願いだ。みんながあんたを祝福してくれるよ」

 

「みんなそう言うけどさ、子どもができたら絶対に大変だろ? 学生で産むとか正気と思えないし」

 

「別におかしいことじゃないさ。私が若いころは学生で子どもができたら、よくやったって褒められたよ。子どもが産まれた後だって、親とか保育園に預ければ、学生に復帰もできるだろ?」

 

「でも、子どもと離れるのは可哀想だろ? 金銭的に余裕が有るのに保育園に預けるのも、子どもが大事じゃないのかって思われそうだしさ」

 

「変な考えだね。男の子ならともかく、女の子が産まれたなら、みんなで育てればいいじゃないか。保育士だって仕事でやってんだから、預ける理由なんて気にしなくていいんだよ」

 

「保育園は仕事と病気とかで、どうしても子どもが見れない人が、やむを得ず預けるところだろ?」

 

「違うよ。親が自由な時間を持つために作られたところだよ。考えてもみな。いくら自分の子だって、四六時中、自分の時間を拘束されたら、母親だって疲れちまうよ。子育てが大変で、辛いと思ったら子どもを産む人が減るだろ。そうなったら人口が減っちまうだろうさ」

 

「……確かに。世の中としては、とにかく子どもを産ませたいのか」

 

前世でも、子どもが4人は欲しいと言ってた人が、2人を産んで、もう限界だって言ってたのを思い出す。毎日が忙しくて、次の子なんて考えられないらしい。

 

「そうさ。どの政治家にとっても人口減は絶対に取り組まないといけない課題だ。とにかく自国民が子どもを産んで、子育ては無理なくサポートする。基本中の基本だよ。あんたが言うように仕事をするから子どもを預けるってなったら、仕事が終わったらどうするんだい。すぐに子育てに戻るってことかい? そんなことすれば、ほとんどの親が過労で倒れるよ。よしんば体力のある女が、それで乗り切れたとしても、次の子を作りたいとは思わないだろうね」

 

「ああ……父親がいる家庭が少ないから……」

 

要は産んで、預けて、即次の子を作る。それが推奨されてるってことか。

 

「今なんて、本当に少ないだろうね」

 

「俺も自分の家以外で父親がいる家庭を見たことなんて数えるくらしかないよ。……てことは、仕事が終わっても、しばらく子どもを預けてる人がいるってことか?」

 

「当たり前だろ。土日の休みに引き取りに来て、それ以外は保育園に預けっぱなしの人は多いよ。親の手助けが期待できる人は別だけどね」

 

「マジか……」

 

「男のあんたには家政婦が付くはずだから、あんたは家で見てもらったんだろ」

 

「そうそう。うちはけっこう裕福だから、それで保育園にも通わないんだって思ってた」

 

トメさん(50代)は、俺が赤ん坊の頃から面倒を見てくれている大ベテランの家政婦だ。海堂家の炊事、洗濯、掃除は全てこの人で成り立ってる。

 

……俺と有咲たちとの後始末も、トメさんがやってくれてる。マジで頭が上がらない人だ。

 

「男の子がいる家庭には家政婦用の補助金があるから、多分それだね」

 

「婆さん、詳しいな」

 

「昔、こういうのを専門にしてた学者だったからね。でも、これくらい常識だよ。むしろ、あんたは何で知らないんだい?」

 

「いや、それこそ知らないよ。どこで教わるんだって話」

 

少なくても、高校1年まででは教わってない。せいぜい、産めよ増やせよくらいだ。

 

「……まあ、女性が知ってれば、男が知る必要もないことか。男なんて勃てばそれでいいからね」

 

「うわあセクハラ」

 

「あんた、そんなこと気にするタチじゃないだろ」

 

「まあね。また言ってるよとしか思わない」

 

俺もセクハラの常習犯だから気にしてない。それ、おもしろいの? って不思議に思うくらいだ。

 

「だろうね。……ともかく、子育てがあんたの引っかかるところなら、気にしなくて大丈夫だよ。バンバン励みな」

 

「まだある」

 

「まだあるのかい」

 

「俺は今が楽しいんだよ。みんなもそうだって信じてる。子どもができたら、妊娠中は無理できないし、産んだ後だって、やっぱり休みは子どもに付きっきりになるだろ?」

 

「まあ、母親だって子どもが嫌いなわけじゃないからね。時間に余裕があるなら会いたいって思うさ」

 

「だろ。そうしたら今みたいにバンド活動ができなくなるんだよ」

 

「なるほどね」

 

「いつかは絶対に産んでほしいと思ってる。でも、それは今じゃない。だから時期じゃないんだ」

 

欲しいけど、焦ることじゃない。いつか必ず手にするんだ。

 

今はこころや花音、美咲に有咲と向き合えばいい。彼女たち自身と楽しむ時間だ。

 

「そうかい。……それなら良い案がある」

 

「マジ?」

 

「良い子、紹介してあげるよ」

 

「ふーん、興味ないけど、まあ、聞いてやるよ?」

 

興味ないけどね。お兄さん、良い子いるよ! って言われたら、え、どんな子? って気になるのと同じだ。馴れ馴れしいなあと思いつつ、どんな子が出てくるんだろうって楽しみな気持ちだ。

 

「もうちょっと隠す努力をしなよ」

 

「うるせー」

 

「あんたもアイドルくらい知ってるだろ? 現役最強アイドルって言われてる子さ。実はさっき話した妹の孫なんだよ。その子なんてどうだい?」

 

「いえ、けっこうです」

 

ドキドキが一瞬で冷めた。

 

「なんでだい!? トップアイドルだよ? いくら男でも、望んで出会える子でも、結婚したいと思ってもできる子じゃないよ?」

 

「いや、その子は、その……間に合ってます」

 

なんだろう。なんで老人ホームに来てまで、その子の話になるんだ?

 

ちょっと、え、怖くない?

 

「……あんた、無欲だねえ」

 

「初めて言われたわ。周りからは、やりたい放題やる男って言われてんだけど。てか、アイドルに手を出すのはマズい気がするんだよな」

 

「アイドルは嫌いかい?」

 

「そんなことはない。知り合いにアイドルいるし、何ならアイドルの弟子だっているし。でも、アイドルに手を出すって世間的にどうなのかなって思うんだよな」

 

「世間的? アイドルに男ができるのは、それだけ、その子が魅力的な証拠だろ。客観的な証明にもなって、言うことなしじゃないか」

 

「そうなんだけどさ。なんか、こう、それが原因で、アイドル活動に悪影響が出る気がしてさ。手を出した子が不幸になるって、なんか嫌だろ?」

 

やっぱり人の気持ちはなかなか切り替えれない。

 

そうじゃないって言われても、過去の知識が納得してくれない。

 

「あんたの言ってることが、よくわからないよ。でも、仮にあんたが言うように世間的に良くなくて、評判が落ちることになっても、その子が幸せなら良いと思うけどね」

 

「どういうこと?」

 

「アイドル活動よりも、女の幸せを選んだってことだよ。思いがけずアイドルの仕事に悪影響があるんじゃなくて、悪くなるかもしれないことを理解して、男と結ばれる。だったらそれは、その子が選んだことだ。世の中はアイドルだけが全てじゃあないよ」

 

「アイドルに手を出しても大丈夫?」

 

「だから、そう言ってるだろ。それに、その子に優しくしてやるんなら評判が落ちるなんてことはないから安心しな」

 

アイドルであるその子が好きなんじゃなくて、その子が偶然アイドルをしてただけなら、その子と幸せになった結果、アイドルを辞めることになっても問題ない。

 

確かにそうだ。男とのスキャンダルで今までの苦労が水の泡になるって考えてたけど、それでも俺を選んでくれたんだって考えれば、世間体なんて理由にならないんだ。

 

「それなら、実は気になってた子がいるんだよ。知り合いのバンドの子でさ。はにかむ笑顔がすっごく可愛い子!」

 

機材が大好きで、少し人に隠れがちの子だ。でも、俺は彼女の誠実さは知ってるし、そのバンドで、自分の好きなことを精一杯やろうとしてる姿が好きだ。

 

「あんた、私が紹介する子はどうしたんだい?」

 

「いや、その子はパス。スレンダー(笑)枠は埋まってるから。てか、親戚いるなら財産はそっちにあげればいいじゃん」

 

「あの子にはもう断られてるよ。本当に良い子なんだけどねえ。浮いた噂がないんだよ。最近の子はそうなのかい? あんたにしたって金にも興味ないし、トップアイドルにも興味ない。変わってる子だよ」

 

「金は持ってるし、いい女はもういるから」

 

「あの子たちかい?」

 

「そうそう。みんな本当に良い子。本来なら土下座してでもお付き合いさせてもらうってレベルだよ」

 

付き合って、深く知れば知るほど好きになる。

 

こんな幸せなことってないと思ってる。

 

「ふーん……でも、本命はあの金髪の子だろ?」

 

ドキッとした。

 

この老人ホームに来て、こころとイチャイチャした覚えはない。

 

「……なんでそう思った?」

 

「さあね。まともな恋もできなかった私にはわからないよ」

 

「よく言うわ」

 

体よく、はぐらかされた。

 

「みんな良い子たちじゃないか。幸せにしてやんなよ」

 

「言われなくてもそうするさ。……なあ、婆さん、この世界の幸せってなんだ?」

 

「なんだい、急に」

 

「いや、女性の幸せって、自分と子どもが幸せになることだと思ってたからさ。さっきの保育園の話を聞いて少しわからなくなった」

 

子どもとじっくり向き合って、でも夫である俺が妻も気づかうことが幸せになる思ってた。でも、この世界ではとにかく子どもを産むことが推奨されていて、たくさん子どもを作ることが褒められる。こころだって、子どもをたくさん作ることが望まれてる立場だ。

 

きっと、みんな、小さい頃から子どもを作ることが偉いことだと言われてきたんだろう。

 

俺からすれば、自分の好きなことができるのが一番だと思うが、この世界で育ってきた花音や美咲、有咲はどう思ってるんだろうか。

 

本人たちに聞くのが一番だが、このひねくれた婆さんがどんな答えを持っているのか。それが気になった。

 

「それはあんたと、あの子たちが見つけることだよ。私はあんたみたいな男がいる家庭は持てなかったし、持ってる人の話も聞いたことがないよ。あるのはせいぜいドラマの夢物語の中だけさ。それだって現実には存在しないような男を題材にした話だ。あんたに当てはめることはできないよ」

 

「まあ、ドラマを参考に家庭を作るのは俺だってヤダよ」

 

「価値観は世代を越えられないよ。若いあんたらの幸せは、若いあんたらが見つけ出しな」

 

「昔と今は違う……か。寂しい言葉だよな」

 

「それを希望の言葉にするんだよ。昔じゃ考えられないことだって、今の状況なら実現できる。そうやって幸せを探していかないとダメだ。昔の言葉を鵜呑みにするだけじゃ、必ずどこかに齟齬が生まれて、大きな矛盾になるよ。……あの子たちの幸せは、人に聞いたやり方で決めちゃダメだ」

 

「……そうだな。悪い、つまんないこと聞いた。許してくれ、婆さん」

 

「許してほしかったら。その口調を改めな」

 

「婆さんが敬語を止めろって言ったんだろ……」

 

痴呆症も入ってるのだろうか。

 

「ふんっ。あんただったらと思ったんだけど……やっぱり気持ち悪そうだね」

 

「なんなの、この婆さん……」

 

「白鳥先生って呼びな」

 

「急にマウント取ってきたし!」

 

たぶん、心を開いてくれたんだと思うけど、ノリがわからない。

 

婆さんもずっと真顔のままだ。表情筋、死んでるんじゃないか?

 

「幹彦ー! そろそろ行くわよー!」

 

こころの声が聞こえた。

 

どうやら次のライブ会場(病院)に向かう時間のようだ。

 

「……そろそろ行くわ」

 

「そうしな。大切な人を放っておくんじゃないよ。あんたが男でも、あの子たちの側にいなきゃ、別の男がなにをするか、わかったもんじゃないんだ」

 

「男の敵は男。数が減っても変わらないな」

 

「数じゃなくて、気の問題だよ。お互いに仲良くする気がなければ、ぶつかり合うだけさ」

 

「そうだな。……婆さん、参考になったわ。もう会うこともないけど、達者に暮らしてくれ」

 

「あんたもね」

 

「おう。……じゃあ、行くわ」

 

名残惜しいが、これでいい。

 

人なんて、どうせ毎日のように死んでるんだ。昨日まで知らなかった人の死なんて、いちいち引きずっていたら身がもたない。

 

「いや、待ちな」

 

「なんだよ」

 

「私ももう時期、迎えが来るだろうからやっぱり言っとくよ。最期にあんたに出会えて良かった」

 

「なんだよ、らしくないじゃん」

 

「ずっと考えてたさ。私や妹、娘の人生はずっと男に振り回されていた。一体、何のために生きて、私は頑張っているんだって。疑問だらけで、満足してるなんて到底、言えない人生だったよ」

 

嫌っていても、世界は男と女がいないと成り立たない。自分が世の中のために頑張るということは、男のためにも頑張るということ。

 

それは、この婆さんにとって、気分が良いことでは絶対になかっただろう。

 

「でも、私らが、あんたらみたいな子が生きる世の中の礎を築いたのなら、意外と悪くない人生だったんだろうね」

 

「婆さん……」

 

「せいぜい気張りなよ、男の子!」

 

初めて見る、ニカッとした笑顔を見て、俺は婆さんから背を向けた。

 

鼻が少しツーンとするが、平然とした顔で歩く。

 

振り向きはしない。婆さんがどんな顔をしてるかわからないけど、俺がこの先に思い出す婆さんの顔は、最後に見せたアレが一番いいのだ。

 

長い間、培ってきた自制心が、俺の決意を汚すことはなかった。




出典
ポピパの焼き芋?パーティー:電撃G’sマガジン 2017年12月号 イラストストーリー
メガネ花音:バンドリ! ガールズバンドパーティ!×JINS
ワンピース美咲:「富士急ハイランド」コラボ第2弾
ワンピースこころ:バンドリ! ガールズバンドパーティ!~2019 Summmer~

バンドリ! ガールズバンドパーティ! ビジュアルブック Vol.1~3 
好評発売中です。記念イラストやコラボ絵も載ってるので、ぜひ購入しましょう(ダイマ)。
惜しむらくは絵がちょい小さいのと、解像度が今一つ、という点です(特にVol.1)。もう少し、やる気を見せてほしかった。
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