(仮題)とある転生者の異文化体験   作:ピッピの助

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15.6話(今井リサ視点)

正月に、ガルパのみんなで新年会を開くことになった。

 

場所はCircle! まりなさんがオーナーに掛け合ってくれて、ホールに汚れや傷を残さないことを条件に、会場として使用することを許してくれた。

 

新年会では料理を持ち合って、みんなで楽しくお喋りをする他に、かくし芸大会が催された。

 

司会は香澄と彩の2人。なんだかドキドキする進行だったけど、みんな無事にかくし芸を成功することができた。

 

今はみんな、かくし芸大会の話題などを肴に、思い思いの人とお喋りをしている。

 

「リサさん、ダンスお疲れ様です」

 

「お、美咲じゃん。そっちこそジャグリングお疲れ様。すっごい格好良かったよ」

 

こころと美咲のジャグリングはすごかった。たくさんの数のお手玉するところも、曲に合わせてリズムを取るところもすごいけど、まさか一輪車に乗りながらするとは思わなかった。

 

「いやあ、あたしはこころに付き合わされただけですから。失敗しないようにするので精一杯でした」

 

「それをできるのが、すごいんだって。今度、どうやるのか教えてよ」

 

「ああ、はい。あたしで良ければ、いつでもどうぞ」

 

「ありがとね。代わりにダンス教えようか?」

 

「はは、それは遠慮しておきます。これ以上、新しいことやるのは厳しいかなって」

 

「そっかー。美咲はスタイル良いし、体力もあるからダンスもピッタリだと思ったんだけどな。残念」

 

友希那には、なんで誘ったんだ! って怒られるし、なかなか一緒に踊ってくれる人がいない。一緒に練習すればきっと楽しいと思うんだけどなー。

 

「あたしはそれよりも料理を教えてほしいかもです。リサさんが作った筑前煮、すっごく美味しいかったです。幹彦だって美味い美味いって、たくさん食べてましたし」

 

それはさっき見た。幹彦がたくさん食べることは知ってたけど、ああやって自分が作ったものをパクパク食べてくれるのは、なんだか新鮮だ。やっぱり嬉しくもある。

 

「もちろんいいよ! ふふ、彼氏のために料理を覚えたいなんて、美咲も女の子だねー」

 

「そういうわけじゃあ……まあ、ありますけど、将来のために覚えておきたいなって思ったんです」

 

確かにそうだ。こころとか幹彦くらいのお金持ちなら、きっと家政婦を雇うことになるんだろうけど、誰かのために料理をするっていうのは楽しい。

 

美咲が作れば、幹彦もきっと喜んでくれると思うから、良いこと尽くめだ。

 

「料理ができるに越したことはないからね。いい考えだと思うよ」

 

「そう言ってくれると気が楽になります」

 

「幹彦と言えば、バイオリン、すごかったねー。まりなさんとの息もピッタリで、あの演奏のときだけ空気が違くて、なんか別の場所に居るみたいだったよ」

 

まりなさんのギターもすごかった。あんなにギターが上手かったなんて知らなかったよ。

 

幹彦とのセッションは、かくし芸大会なんて緩い会場が、なんだかクラシックの演奏会みたいな熱を感じさせた。横で友希那と紗夜が息を飲んでたけど、きっと、このことについて幹彦と話に行くんだろうなーって思った。

 

「そうですね。かくし芸のために動いてたのは知ってましたけど、まりなさんとセッションするのは意外でした」

 

「美咲は、幹彦がバイオリン弾けるって知ってたの?」

 

「はい。演奏を聞いたのは今日が初めてですけどね。あいつの父親ってかなり有名なピアニストなんですけど、幹彦にピアノを教えるのに、ピアノだけじゃなくて色んな楽器に触れることが大切だって教育方針だったらしいです。あいつの家の練習場に行くと、色んな楽器が置いてあって、それ全部を弾けるらしいですよ。あいつの母親も小さい頃にピアノをやってたらしくて、理解があるって言ってました」

 

「すっご。音楽一家なんだね」

 

「みたいですね。普通の家で育ったあたしには、いまいちピンと来ないんですけどね」

 

「アタシも。でも友希那がちょうど、そんな感じなんだよね」

 

「湊さん、たしかお母さんが元ボーカルなんでしたっけ?」

 

「そうそう。幹彦とは父母逆になるけど、友希那も小さいころから歌の練習をしてたんだよね。やっぱり親が音楽をやってると、みんな、そうなるのかな」

 

友希那が子どもの頃から、将来はお母さんみたいになるって言っていたのを思い出す。そんな友希那にも子どもが出来て、その子どもが同じことを言うのかな? なんかちょっとおもしろい。

 

「どうでしょう。あたしは……DJですから、子どもに教えるっていうのは難しいかな」

 

「はは、たしかにね。でも子どもかー。美咲はどう? 彼氏がいると将来のことって意識する?」

 

「ええ? どうですかね。まあ、そういう行為はしてますから、意識しないってことはないですけど」

 

そういう行為……。美咲はサラッと口にするから、一瞬なんのことかな? って思ったけど……そういうことだよね。

 

「うわぁ、やっぱりそうだよね。なんだか、この話では美咲に勝てない気がするなー」

 

「勝ち負けじゃないですよ。……リサさんはどう思います?」

 

「どうってなにが?」

 

「幹彦のことです。ちょくちょく連絡取ってるんですよね?」

 

「そうだね。この前もロゼリアの歌詞を作ろうって頑張ってたことがあったんだけど、そのときに相談に乗ってもらったよ。彼、本当に優しいよね」

 

作詞の本は読んだけど、どうしても感覚? っていうのが掴めなくて、幹彦に相談したことがある。

 

幹彦は多くは語らなかった。ただ、アタシがなんで作詞したいのかとか、どんな曲を作りたいと思うのかとか、ロゼリアとかメンバーをどう思ってるのかとか、そういうことを聞いてきた。

 

幹彦の質問に答えてると、自然と自分の中のイメージが固まってきて、ぼんやりとだけど、道が見えてきたのを覚えている。

 

「まあ、優しいのは否定しないです。……リサさんは幹彦と付き合いたいって思いますか?」

 

「え、ええ!? なになに、急にどうしたの!?」

 

「ほら、リサさんと幹彦ってすっごく仲いいじゃないですか。幹彦もリサさんなら、まんざらでもないって思ってそうだから、リサさんはどう思ってるのかなって」

 

「どうって……そりゃあ、優しい男の子だし、話が通じるっていうのは、すごいところだと思うよ」

 

「うんうん。すっごいハードルが低い気がしますけど、わりとその時点で引っかかる男性は多いですからね」

 

「だね。あとは……顔が少し怖くて、体がすごく大きいけど、逆に言えば、すっごく頼りになるよね」

 

「そうですね。力仕事なんかは、とりあえず幹彦に投げとけばいいですからね」

 

「この前、演劇部の手伝いで幹彦が羽女に来たんだけど、けっこう大きな騒ぎになってたからね。薫のファンが勘違いして、薫様に酷いことしないで! って幹彦と薫の間に立ちふさがることもあったんだよ」

 

「それに関してはすみません。大和さんの負担になるとは思ったんですが、学校が違うと、あたしや市ヶ谷さんじゃあサポートできなくて……」

 

演劇で使う大道具を担いだ幹彦と、その道具をどこに置くか指示してる薫。そして、その間に立ちふさがる半泣きの女生徒が複数。幹彦の、えー……って顔は忘れられない。

 

「大丈夫だって。すぐに誤解も解けたし、幹彦が手伝いに来てくれて、演劇部はすごい助かったみたいだから、大したことないよ」

 

「あとで大和さんに改めて、あいさつしておきます」

 

「美咲も律儀だねー」

 

「もしかしたら、幹彦の彼女になるかもしれない人ですから」

 

「……ねえ、アタシに聞いてるのも、やっぱりそういうこと?」

 

うん。さすがにここまで聞かれたら気づく。

 

「はい。もう正直に言いますけど、あたしと市ヶ谷さんは、次に幹彦が手を出すならリサさんが有力だと思ってます」

 

「ええ!? アタシ!? なんで? 燐子は? ひまりや麻弥だっているでしょ?」

 

幹彦がこの3人を狙っていることは簡単にわかる。

 

まあ、あことか友希那とか紗夜とかは、本当にわかってるのかな? って思うときがあるけど……。あれ、ロゼリアってアタシ以外、鈍くない?

 

「外見だけ見ると、その3人が最有力候補なんですが、いろいろと理由がありまして……」

 

「なに? 話を持ってきたからには、アタシには教えてくれるんだよね?」

 

「もちろんです。まず上原さんですが、彼女はセントー君のファンなんです」

 

「うん。それはアタシも知ってるよ。でも、幹彦がセントー君なら、別に問題ないんじゃない?」

 

人の視線が苦手だったひまりが、意を決してライブに出ることを決めた切っ掛けが、セントー君の動画だったらしい。

 

それがなければ、アフターグロウはガルパに参加してなかったかもしれないと思うと、すごく不思議な感じがする。

 

「いえ、上原さんはセントー君のファンであって、幹彦が好きなんじゃないんです」

 

「えっと、つまり……どういうこと?」

 

「上原さんは幹彦が演じるVtuberが好きなんであって、幹彦のことが好きなわけじゃないんですよ」

 

「え、じゃあなに、セントー君じゃない幹彦には興味ないってこと?」

 

「興味がないってことはないと思いますけど、上原さんが求めてるのはセントー君としての幹彦だと思います。市ヶ谷さんが上原さんとファッションについて連絡を取ってますし、私も何度か上原さんと接触しましたが、2人とも同じ意見です」

 

「え、ええ、それってどうなの? 勘違いってことはないの?」

 

だって、ひまりと幹彦ってメールのやり取りしてるはずだよ。去年の夏に一緒に海に行って、すごく仲良くなったはずだし。

 

「勘違いの可能性はあります。勘違いじゃなくても、これから幹彦に惹かれていく可能性はあります。でも、肝心の幹彦が及び腰になってるんです」

 

「え、なんで? ひまりでしょ。幹彦は胸が大きい人が好みじゃなかった?」

 

「超がつくほど好みですよ。ただ、上原さんはあいつに、すっごく優しいセントー君って憧れを持っていて、あいつもそれがわかってるんですよ。でも一般公開動画のセントー君と違って、実際のあいつは好き放題やってる男です。近づき過ぎると幻滅されるって思ってるみたいなんですよね」

 

「意外とチキン?」

 

なんだか意外だ。幹彦は誰にだって我を出していって、相手が嫌がるようなら、あっさりと手を引くってイメージがある。だから、手を出す前から二の足を踏んでるっていうのは考えたこともなかった。

 

「基本的には図太いヤツですよ。でも、フと冷静になることがあって、そのときに、このままの戦略だとヤバくね? って思ったらしいです。上原さんには初めから良い格好しながら近づいてましたし。初めはリサさんが思ってるとおりに接して、あとになって方向性に迷いが生まれた感じです。まあ、私や市ヶ谷さん、花音さんはやっぱりねって感じで、予想はしていました」

 

「うーん、アタシは逆にわからなくなってきたよ。……麻弥は?」

 

「幹彦って何故かアイドルに手を出すのは御法度だ、とか言うんですよ。麻弥さんはアイドルだから、幹彦にしては接触を控えてた方なんですよ。でも最近、あいつがアイドルに手を出しても大丈夫だって心変わりしたんですよね。さあ、麻弥さんに手を出すぞと思ったら、もう陥落間近の人がいたんですよ」

 

「もしかして……イヴ?」

 

イヴが幹彦を師匠と呼んで、慕っているのは周知の事実だ。

 

幹彦も最初はやり辛そうにしてたけど、今ではイヴを弟子として可愛がっている。

 

イヴはああ見えて、けっこう強かなところがある子だから、いつかは、そういう関係になるんじゃないかなって思ってた。

 

「はい。それと日菜さんです」

 

「日菜!? いや、でも確かに、日菜っていつも幹彦くん幹彦くんって言ってたね。そっか、陥落間近なんだ……」

 

「けっこう頻繁に連絡が来るらしいですよ。返事が遅くなると自宅に直接来ることもあるそうです」

 

「マジ? けっこうまずくない?」

 

「幹彦が相手じゃなければ、警察沙汰もあったかもしれません」

 

「今度、それとなく注意しておくね」

 

幹彦ならそんなことはしないけど、それは幹彦だから許してることだ。たぶん大丈夫だと思うけど、他の男には同じことしないように伝えておいたほうが良い。

 

そんなことで友だちが警察のお世話になったなんて、聞きたくもない。

 

「ありがとうございます。……幹彦も同じグループのアイドル3人に手を出すのはマズいって考えてるんですよ。だから麻弥さんにも上手く接触できないようで、関係が進まないんです」

 

「そっかー。そんな状況だなんて夢にも思ってなかったよ。……でも、日菜なんだ」

 

「えっと、なにかありましたか?」

 

「いや、アタシ的には日菜よりも彩の方が、その陥落間近? のような気がするからさ。日菜のほうなんだって思ったんだよ」

 

彩だって、ひまりに負けないくらいセントー君の大ファンだ。彩もセントー君の歌に助けられたことがあるって言ってたし、幹彦だってガルパのときにパスパレに目をかけていた。

 

「彩先輩ですか? 考えたことなかったです。彩先輩にそんな素振りってありましたっけ?」

 

「うーん、あんまりコレっていうところはないけどね。……ほら、ちょうど今、見てみな」

 

さっきからチラチラと視界に入っていた彩を見る。

 

「花音さんと別れて……美竹さんと話し始めましたね。なにかありました?」

 

「花音と別れて、視線を巡らせたでしょ。目当ての人を見つけて、近くに行こうとしたところで蘭に会ったんだよ」

 

「目当て……あ、幹彦ですか?」

 

「うん。あの視線の先には幹彦と香澄が話し合ってるでしょ。香澄とはさっきまで話してたから、たぶん幹彦のところに行きたがってると思うんだよね」

 

ちょっと話したいなーって思って、幹彦の方へ行ったんじゃないかな?

 

ちょっとフラフラ~っとしながらだったから、もしかすると無意識に、かもしれないけど。

 

「うわぁ、リサさんすごいです。なんか、確かにそうかもって思えてきました」

 

「可能性があるってだけだよ。でも、そうするとパスパレ4人か……」

 

「さらに状況が悪いですね。幹彦も慎重になるだろうし、仮に手をだしたら白鷺先輩が怖いことになる気がしますね」

 

幹彦と千聖の関係は……アレだ。仲が悪いってわけじゃないと思うんだけど、顔を合わせると、お互いに憎まれ口が飛び出す。

 

でも、会話が終わった後はお互いにスッキリした顔をしてるんだよね。嫌な顔とか、腹が立つって顔はしてないから、嫌い合ってるわけじゃないと思う。……たぶん。

 

たえの話だと、前に見たときは仲良く話してたらしいんだけど……今日、2人を見た限りだと、そんな感じは全然しなかった。

 

それどころか、あなたってやっぱり最低ね、なんて言葉が千聖から出てた。なにかあったのかな?

 

とにかく、幹彦が千聖以外のパスパレ全員に手を出した、なんてことになったら、絶対に怒ると思う。それも、かつてないくらいの恐ろしい笑顔が見れるんじゃないかな。ちょっと恐いね……。

 

「……うん。パスパレに手を出すのは、まだ早いかな」

 

「ですね。一応、あとで幹彦にも伝えておきます」

 

「そうしたほうがいいよ。ガルパから悲劇を起こしたくないしね。あとは燐子だけど……燐子はなんか想像できるかなー」

 

「たぶん想像どおりです。燐子先輩は急いで距離を詰めると、本当にシャレにならないことになるって思ってます」

 

「うん、私も同意見かな。燐子と仲良くなりたいなら、焦っちゃダメだよ。特に男の人はゆっくり過ぎるぐらいがちょうどいいと思うよ」

 

燐子は幹彦に悪い印象は持ってないと思う。初めにガルパで顔合わせしたときだって、あのときのピアノの子だって言って、親近感を持ってた気がする。

 

でも、元々、内気な燐子だから、いくら同郷だとしても、男性と接するのは勇気がいるんだろう。

 

「はい。私たちもそう思ってます。でも、幹彦がきっかけが見当たらないって嘆いているんですよ」

 

「普通に話しかければいいんじゃないの? ゆっくりって言っても、話しかけなきゃ始まらないでしょ?」

 

「はい。幹彦もそう思って、なんどか声をかけようとしたみたいです。でも……」

 

「でも?」

 

「燐子先輩に近づこうとすると、必ず湊先輩か紗夜先輩に声をかけられるそうです」

 

「……あー」

 

「二人との話は100%音楽の話になるので、けっこう長引くみたいなんですよね。それで話が終わる頃には燐子先輩と話すって雰囲気じゃなくなるようで……」

 

「……うん。たぶん、2人とも悪気はないと思うよ。日頃から幹彦のことを褒めてるから、話したいことが一杯あるんだと思うよ」

 

たぶん、さっきのまりなさんとのセッションについても、話を聞きに行くと思うしね。

 

「幹彦も両先輩との話は嫌じゃないらしいです」

 

「あの2人もなんだかんだ言ってセントー君のファンだからね。曲の感想なんて直接的なことは言わないけど、投稿された曲のフレーズとかが気になるんだと思うな」

 

あの2人は音楽に全力をかけてるから、音楽が優秀な人っていうのは、それだけで興味の対象だ。幹彦はVtuberだから、ネットに繋げば新しい歌を聞くことができる。新しい歌を聞く度に感想とか、質問とかしたいって思うんだろう。

 

男性ってことで遠慮してるけど、本来はもっと、たくさん話したいって思ってるんじゃないかな?

 

「ネットリテラシーも守られた、良い対応だと思います。でも……」

 

「うん。燐子とは話せないね」

 

「そうなんです……」

 

「そっか、それでアタシかー」

 

「3人がダメだからリサさんにしたってわけじゃないですよ。3人と上手くいってたとしても、私と市ヶ谷さんは面倒見が良くて、頼りになるリサさんに来てほしいって思ってました。幹彦だってリサ先輩エロいって言ってたので、時間の問題だったと思います」

 

「そ、そうなんだ。エロいって思われてたんだね」

 

なんか、すっごい恥ずかしい。

 

「はい。歌詞作りのアドバイスのお礼にデートしてもらったときは、可愛いのに色気があってヤバかったって言ってましたよ」

 

「う、うん……そうなんだ。……まあ、それでアタシに声をかけてくれたんだよね」

 

そういう意図があって、あの服を選んでるから、ちゃんと見てくれたんだって嬉しく思う。……でも、やっぱり恥ずかしい。

 

「はい。距離を縮められる可能性や、幹彦を見守ってくれる点を考えてもリサさんが一番だと思いました」

 

「うん、ありがとね。でも面倒見がいい子なら他にもいるでしょ? つぐみとかすごく面倒見がいいよ」

 

沙綾とかは幹彦に苦手意識を持ってそうだけど、つぐみは普通に尊敬してるはず。同じキーボードだしね。羽沢珈琲店に花音と幹彦がよくデートに行くみたいだけど、あんなカップルに憧れるって言ってた。

 

千聖もしっかりしてるけど、あの子は……ほら、ね?

 

「羽沢さんは……ほら、幹彦も羽沢さんって呼んでるじゃないですか」

 

「え、うん……そう、だったかな?」

 

「あいつ、自分の好みじゃない子は基本的に名字呼びなんですよ」

 

「そうなの!?」

 

「はい。たぶん胸とか性格とかで判断してると思うんですけど、あまり付き合いたいと思わない相手には名前では呼ばないですね」

 

「えっと、友希那と紗夜は名字で呼んでたよね。あこは名前じゃなかったけ?」

 

「あこは子ども枠らしいです」

 

「そんな枠もあるんだね。……あれ、蘭も名字呼びじゃない? 蘭ってアタシより胸が大きいと思うんだけど」

 

「美竹さんとは反りが合わないと思うって言ってました」

 

「全然わからないんだけど」

 

美咲のこともあるから、口で言いながらも、たぶん胸だけで判断してないってのはわかる。でも、蘭がダメな理由はわからない。

 

あの子、すっごく良い子だと思うけどな。幹彦だって、蘭の良さに気づけると思ったんだけど……。

 

「そういうもんだと思ってください。あいつに言わせれば、人の好みを全て言葉で表そうとするのはナンセンスだ、とのことです」

 

「ちょっとイラッとくるね」

 

「そう思えるリサさんだからこそ、ぜひ来てもらいたいんです」

 

美咲も同じ気持ちのようだ。

 

「……んもう、新年早々、こんな話をされるとは思ってなかったなー」

 

「なんかすいません」

 

「いいよ。先に付き合ってる人から、こうして話を持ってきてもらうこと自体が嬉しいことだって、わかってるから」

 

「じゃあ……!」

 

一夫多妻が推奨されても、男性もノリ気じゃなければ、彼女だって独占欲を発揮して嫌がる。そんなのはワイドショーでたくさん聞いてる。

 

だから、こうして仲の良い美咲から勧められることが、どんなに恵まれているかは理解してる。でも……

 

「……うーん、ごめんね。もうちょっと考えさせて」

 

「ああ……」

 

「幹彦のことは良いヤツだと思ってるし、付き合うことだって気持ち的には全然OKだよ。でも、今はバンドがあるからね」

 

「……ロゼリア、本気ですもんね」

 

「うん。FUTURE WORLD FES.に絶対出る。うちのバンドの実力は美咲も知ってると思うけど、今の実力で絶対に出れるって保証はないんだよ。もっともっと成長しないといけない。しかもロゼリアで一番アタシが下手なんだよね」

 

「そんなことないと思います」

 

元々、友希那も紗夜も燐子もあこも、アタシ以上の実力者だ。でも、みんな、今でも練習を続けている。これでアタシが他のことに目移りしたら、この差はどんどん広がっていくと思う。

 

それだけは絶対にできない。一度、音楽を辞めたアタシが、友希那を支えたいと思って、もう一度はじめたんだ。途中で投げ出すなんて、もう、したくない。

 

「ありがとう。でも一番頑張らないといけないのは事実だよ。だから、美咲たちのお誘いは本当に嬉しいけど、今はダメなんだ」

 

「……そうですよね」

 

「ごめんね。もし私たちがFUTURE WORLD FES.に出演して、そのときでも誘ってもらえるようなら、こっちからお願いさせてもらうから」

 

アタシたちの目標。そこに出演した先になにがあるのかはわからないけど、今は何がなんでもFUTURE WORLD FES.に出演したい。

 

それが叶って、友希那もまた笑えるようになるんだったら、そのときはアタシの次を考えても良いのかもしれない。

 

「……その言葉、忘れないでくださいね」

 

「いつになるかわからないよー。30代の出演者だって少なくないらしいし」

 

「出るまで、ずっと続けるんですか?」

 

「わかんない。でも、今はそうするつもりだよ」

 

「……リサさんのそういうところ、すっごく格好いいです」

 

「ありがとね」

 

可愛い後輩に言われてしまった。これは一層、頑張らないといけない。

 

「あたしも市ヶ谷さんも全力で応援しますから」

 

「うん。頑張るよ」

 

美咲は曇りない顔でそう言ってくれた。

 

でも、1つ疑問がある。

 

「でもさ、美咲は本当にいいの? アタシが新しく、みんなの中に入るっていうのは」

 

「前も言ったじゃないですか。あたしは増えるのは大歓迎ですって。人が増えないと負担が大きいんですよ」

 

「それは聞いたけどさ。てか、あのときは自分からは動かないって言ってなかった?」

 

増えるのは大歓迎だけど、自分から動くのは面倒だからしないって言ってたと思う。

 

なのに今は、まさにその面倒事をしてる。

 

「そのつもりだったんですけど。市ヶ谷さんが入ってくれて負担が減ったんですよ」

 

「う、うん。ならいいんじゃないの?」

 

思い出すのはガルパの打ち上げ会だ。

 

確か、夜がもたないって話だったよね。

 

「はい。それで少しの間は、あたし好みの間隔で、そういう行為をしていたわけなんですが、あいつが更に回数を増やしてきたんですよ」

 

「え?」

 

「どうやら、それまでは本当にあたしと花音さんに気を使っていたみたいで、市ヶ谷さんが増えたことで、我慢するのを止めてきてるんですよね」

 

「そ、それは……大変だね」

 

すごく反応に困る。

 

「はい。市ヶ谷さんが来る前以上に激しくされると、さすがに体力が持たないっていうか。最近は花音さんも、意識を飛ばしながら奉仕するって荒業を身につけましたし」

 

「なにそれ!?」

 

「あたしも実はわからないんですよね。花音さんが最後まで頑張ってるから、どうやって体力をつけたんですか? って聞いたんですけど、途中から何も覚えてないよって言われまして……」

 

「え、こわっ。花音、大丈夫なの?」

 

「花音さんは幹彦と接すれば接するほど元気になっていく人なので、たぶん大丈夫です」

 

「そ、そうなんだ。なんか花音を見る目が変わりそうだよ」

 

アタシの中の、ほんわかした緩い笑顔の花音が崩れていく。代わりに現れるのは妖艶な笑みを浮かべ、扇情的に指を口元にやっている彼女だ。

 

「でも、花音さんは相変わらず優しくて、良い人ですよ」

 

「そこはわかってるよ。……でもさ、たとえばアタシがその中に入って、美咲たちの負担が軽くなるとするじゃん。そしたら美咲はムッとしないの?」

 

「嫉妬ってことですか?」

 

「まあ、ハッキリ言うと、そうだね」

 

もしかしたら、あのときも有咲が同じ質問をしたかもしれない。

 

でも、やっぱり確認せずにはいられない。幹彦は良い人だと思うけど、アタシにとっては美咲も大事な後輩なんだ。すれ違いで仲違いなんてしたくない。

 

「うーん、難しいですね。嫉妬するかってなると……そもそも、あたしが幹彦のことが好きかって話になりますからね」

 

「え、どういうこと? 幹彦のこと好きじゃないの?」

 

「それが難しいんですよねー。嫌いってことは絶対にないんですけどね」

 

よくわからない。嫌いじゃないけど、好きかどうかわからないってこと?

 

「でも、美咲、いつも幹彦と楽しそうにしてるじゃん」

 

「そりゃあ楽しいですから。でも、花音さんたちとは違うんですよ」

 

「花音たちって、花音と有咲のこと?」

 

「それと、こころですね。花音さんに市ヶ谷さん、こころはベタぼれなんです。もう、何をおいても幹彦! って感じです」

 

「うん、なんか想像つくかも」

 

「でも、あたしは3人とは違います。あいつがバカなことを言ってたら怒りますし、言うことだって聞いてやらないですから」

 

「それはわかるけど、有咲もそうじゃないの?」

 

有咲だって、よく幹彦を怒ってる。バカヤローって声は今日も聞いてるし。まあ、すぐにイチャイチャしてたけどね。

 

「市ヶ谷さんは、口ではいろいろ言ってますけど、幹彦に頼まれたら何でもOKしちゃいますよ」

 

「なんでも?」

 

「なんでもです。私だったら絶対に断る変態プレイをするのは、いつも市ヶ谷さんですから」

 

「ああヤバい、有咲を見る目も変わりそうだよ」

 

アタシの中の恥ずかしがり屋だけど頑張り屋の有咲が崩れていく。代わりに現れるのはいじらしくも蠱惑(こわく)的な仕草をする彼女だ。

 

「でも幹彦が関わらなければ、仲間思いの良い人ですよ。特にボケ役が多いガルパの中では貴重なツッコミ役です」

 

「うん、それもわかってるから。でもそっか、確かに美咲って、好き好き大好きオーラ出さないもんね」

 

「なんですか、そのオーラ? ……まあ、本当に嫌いなわけじゃないんですよ。あいつが世界で一番良い男だって思ってますし、あいつ以外の男なんて考えられませんし」

 

「それはわかるよ。変わってるところも多いけど、やっぱり幹彦はすごいって思う」

 

さっきも言ったけど、幹彦は欠点もあるけど、それ以上にたくさんの魅力的なところがある。

 

だからアタシだって、友希那だって、紗夜だって、幹彦に惹かれているんだ。

 

「あたしも、どんなに格好良い男がいたって、それが幹彦じゃなかったら近づくのを避けて、話をすることもないと思います。男は本当にどうしようもないですからね……」

 

「まあ、嫌な目に遭うことはあるよね」

 

アタシもけっこう外を出歩く方だから、男性絡みで嫌だなって思ったことはある。

 

「はい。こういうところは市ヶ谷さんも同じ気持じゃないかなーって思ってます。でも、それ以外のところは……」

 

「有咲とは違う?」

 

「そりゃあ違いますよ。あたしはあんなに胸、大きくないですし」

 

「あれはすごいよね。たぶん燐子のほうがすごいけど、有咲もこれまで相当、苦労してきたんだろうなって思っちゃうよ」

 

アタシだって大きい方だ。ファッションでいくらでも誤魔化せるけど、着れない服だってある。それ以上の燐子と有咲は誤魔化しができなさそうだから、かなり大変だろうなって思う。

 

「ですね。髪も綺麗です。こころの髪は太陽に当たると眩しいくらいに輝くんですけど、市ヶ谷さんの髪は優しく輝くんですよね。どっちも良いなって思います」

 

「わかる。2人ともほんと綺麗な髪をしてるよね」

 

「はい。素直なところもいいですよね。なんだかんだ言って、最後は素直に自分の気持ちを言うから、幹彦にもちゃんとそれが伝わりますし」

 

美咲が明るい声で続けた。

 

でも、なんだか違和感がある。

 

目が笑ってないんだ。

 

「……美咲?」

 

「放っておけない空気もありますよね。花音さんもそうなんですけど、何か助けたいとか、構ってあげたいって思いますよね。あたしもついつい2人を見ちゃいますし」

 

「美咲……」

 

「あとは――」

 

「美咲」

 

「っと……はい、なんですか?」

 

少しだけ強めの声をかけると、美咲は我に返ったように言葉を止めた。

 

悲しそうな目をしながら、楽しそうに振る舞う美咲を見ていられなかった。

 

「……羨ましいんだね」

 

「……はい、たぶん、そうです。市ヶ谷さんだけじゃなくて、花音さんも、こころも羨ましいです」

 

美咲は少しの沈黙のあと応えてくれた。

 

「あんなに夢中になれて、あんなに好きだって言えて、あんなに自分をさらけ出すことができて……。あたしだって、ほんの少し出会うのが遅かっただけなのに、なんだか違うところに立ってるような気がするんです」

 

「……そんなことないと思うよ」

 

端から見て、幹彦が美咲だけを別扱いしてるなんてことはないと思う。

 

他の子と接し方が違うかもしれないけど、それは良い意味での違いで、美咲に合わせた、美咲のことを考えた接し方だって思う。

 

美咲は弱々しい笑みを浮かべて、頷いてくれた。

 

「本当はわかってるんです。ただ甘えてるだけだって。冷めてて、飛び込むのに一歩引いているのは自分だって、わかってます。みんなのように飛び込んでみれば、あいつが嬉しそうに迎えてくれることだって。……でも、あいつは甘えさせてくれるんです。あたしがこんな面倒くさいことを考えてるのがわかってて、あたしがあいつを否定しても、なんでもないように側にいてくれるんです」

 

花音たちと同じようにすれば、同じように受け入れてもらえる。でも、それを、ためらってしまう美咲がいて、幹彦はそれを受け入れてくれている。

 

「もし、あたしの気持ちが花音さんたちと同じ好きって気持ちなら、あいつに飛び込んだら、あたしは変わっていくと思うんです。……でも、あたしはそれが怖いです。もし変わらなかったら、あたしは花音さんたちみたいに幹彦のことが好きじゃないってことになります。あたしが打算だけで幹彦のそばに居て、同じ条件なら幹彦以外でも大丈夫なんだってことになっちゃうかもしれません。……あたしは、それを確かめるのが怖いんです」

 

話し終えると、美咲はテーブルにあったジュースを飲んで、一息ついた。

 

アタシも黙って、その様子を伺う。

 

美咲の告白は臆病なものだったが、決して美咲の想いを否定するものではないと思う。

 

美咲が打算で幹彦を選んだかもしれないってことだって、仮にそうだとしても気にする必要はないと思う。

 

「……美咲、やっぱり幹彦のこと好きなんだね」

 

だって、こんなにもお互いを想い合ってるんだ。

 

たとえ、他の人と違う形だからって、それが好きって気持ちを否定することにはならないと思う。

 

美咲は、花音たちとは違う形で、幹彦が好き。それだけでいいと思った。

 

美咲はアタシの言葉に、少しだけ驚いた顔をしたあと、小さく笑ってくれた。

 

「そんなんじゃないですよ」

 

「あー、まだ言うかー」

 

なかなか頑固な後輩である。

 

「本当のことですから。あたしは花音さんたちとは違いますから。……でも、もし幹彦といることで不幸になるとしても、側にいたいとは思ってます。どんな不幸があったって、あいつが一緒に居てくれれば、きっと乗り越えられると思いますし」

 

「そっか」

 

「はい」

 

最近、セントー君と海外が揉めているらしい。きっかけは海外の人だけど、セントー君がそれに応戦して、今やアメリカではけっこうな騒ぎになっているらしい。

 

他国で、だ。

 

いったい、日本にいる美咲たちにどんな影響があるか想像もつかない。でも、このままいけば、良くないことが起こるのは想像できる。

 

もしかしたら美咲も、そんな状況を考えているのかもしれない。

 

そして、それがどんな結末になったって、きっと乗り越えられるって美咲は言った。

 

「やっぱりさ、幹彦の女はみんな重いよね」

 

「個人的にはこころが一番重くて、次に花音さんだと思います。市ヶ谷さんはそうでもないかな」

 

「美咲は?」

 

「あたしは一番軽いですよ。軽すぎて、どこかへ飛んでしまいそうなくらいです」

 

「えー、そうかなー?」

 

「でも、あいつが紐を持って、飛んでいかないようにしてくれてます。だから、どんな状況だって付いていきますよ」

 

自信を持って、誇らしげな顔の美咲。

 

心から幹彦を信頼して、付いていくと言った。

 

「……美咲も格好いいと思うよ」

 

「ええー、なんですか急に。からかわないでくださいよ」

 

「本心だって。あんなことを言えるって格好いいって思うし、憧れちゃうよ。さっきの話だけどさ……」

 

「はい」

 

真剣に幹彦を思う美咲を見て、そんな美咲の心の内を知っても優しく受け入れようとする幹彦を見て、羨ましいって思った。

 

こんな2人みたいに、アタシもなりたいって思った。

 

「頑張って、FUTURE WORLD FES.に出るからさ。そのときは……よろしくね」

 

「……! はいっ!」

 

もちろん、美咲の様になれるかはわからない。でも、先がわからないのなんて、なんでも同じだ。

 

音楽に全力を出して、その後、幹彦にも全力を出してみたい。

 

アタシだったら幹彦とどんな関係が築けるのか見てみたい。

 

そんな風に思った。




出典
デートリサ:「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」×「WEGO」コラボ 第1弾
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