(仮題)とある転生者の異文化体験   作:ピッピの助

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またも原作キャラ不足により本編になれなかった作品です。
有咲視点はありません。


17.7話

最近、ラーメン作りにハマってる。

 

と言っても、インスタントラーメンにチキン足したり、具を追加したりなんてのじゃない。スープから作ってる。

 

だって仕方ないんだ。今世ではラーメンはあまり人気がないし、店を見つけたって、あっさり醤油か塩しかない。具だって小さいのが器の端にちょこんと載ってるだけ。ニンニクなんて当然、効いてない。

 

ラーメンっていうか、フォーなんだよ。もちろんニンニクなしの、チキン少なめのね。

 

これにいくら具を載せたところで、さっぱりした味から変化は少ない。

 

なら作るしかない。そういうことだ。

 

ラーメンの作り方は前世のYouTubeで見たことがあるので、何となく覚えてる。

 

出汁に必要な背ガラやげんこつは、はぐみの家に頼んで取り寄せてもらった。

 

けっこうびっくりされた。そんな部位は、普通は砕いて家畜の餌にされるらしいから、一体何に使うの? って聞かれた。

 

ラーメンだよって答えたら、意味がわからなそうに首をかしげられた。はぐみは今日も可愛い。

 

材料が揃えば、次は場所だ。

 

最初は家でやろうかなって思ったけど、意外とキッチンが狭い。まあ、肉も魚もあまり扱わないなら、そこまで大きなキッチンである必要もないしね。

 

うちは俺のリクエストで肉や魚を多く使ってるけど、キッチンが出来たのはその前の話だ。

 

だから他の家より広いらしいけど、いろんな材料を広げて試行錯誤できるほどのスペースはない。

 

できなくはないけど、やっぱり広い方がやりやすいだろう。うちで作るってのは、他にどうしようもない場合にしたい。

 

では、どこかいい場所があるのか。それが見つかったんだよ。

 

場所は都内のラーメン屋。店の名前は銀河。

 

メン限動画で、いい場所ない? って聞いたら、仕込みをしてる時間帯なら、うちの厨房の一角を貸してやるよと言われて、ホイホイ借りに行ったわけ。

 

そう。このラーメン屋、大将が初期勢だったのだ。

 

 

 

もう何度目になるだろうか。ラーメン銀河というラーメン屋の厨房を借りて、俺が覚えてるラーメンを作らせてもらっている。

 

「あたしの知り合いの子どもで、すっごく良い子がいるんだよ。昔、あたしがバンドをやってたときのメンバーの子でね。小さい頃から、よくうちのラーメン屋を手伝ってくれてたんだよ」

 

「へー」

 

この女性が大将。赤い髪のスレンダー(笑)な女性で、30代~40代くらい。すごくサバサバしてる性格で、こうやってお互いに、それぞれの準備をしてるときに、気軽に話しかけてくれる。

 

いつもの動画の延長みたいな感じだし、俺もそんな時間が嫌いじゃない。

 

「料理が上手くて、顔も良い、胸もギリギリあんたの基準に届いてるはずさ」

 

「続けて、どうぞ」

 

大繁盛してる、という程ではないが、ラーメン屋としては成功してる部類に入るらしい。本人もラーメンが大好きで、俺だから場所を貸してくれるってところもあるけど、新作の味が気になってる部分も大いにあるようだ。

 

「ドラムがすっごく上手い子でさ、スタジオミュージシャンやってるんだよ。音楽が大好きな子だから、あんたとも話が合うんじゃないか?」

 

「ふんふん」

 

初めこそ、背ガラやげんこつなど、大きなダンボール持参で現れた俺に驚いていたが、下手なりに形になっていくラーメンを見て、今では、2人で出来上がったラーメンの品評を行っている。

 

「しかも、恋愛マンガを愛読するくらいだから、男にだって興味を持ってるはずだよ」

 

「え、いや、ダメだろ。自分で言うのも何だけど、俺、女子が好きな男キャラとは正反対に位置してると思うぞ」

 

「……そうだったね」

 

なんだ、その反応は。表情に影が差してるぞ。ここは明るく笑い飛ばすところだろ。

 

「別にフォローしてくれても良かったんだけど?」

 

「いや、だってあんた、羽女に行ったときにガチで女子に悲鳴あげられたんだろ?」

 

「……嫌な事件だったね」

 

去年の秋だったか。あんなにガチで怖がられたのは初めてだった。

 

その後も男に絡まれることがあって、俺の体格にビビった男を守ろうとする健気な女の子がいたけど、死を覚悟した親のような顔をしてた。まあ、それも慣れっこだから悲しくなかったけどね。

 

本当だ。その後、有咲に慰められたりなんてしてないさ。

 

「あたしは羽女の子に同情するけどね。男に夢見る可愛い学生が、いきなりゴツい化物に遭遇して、これが本当の男だ、なんて言われたら、信じられなくて泣き出すって」

 

「俺が泣いてもいいくらいの言いっぷりだな」

 

「あんたがそんな軟弱かよ」

 

いつものように軽口を飛ばし合う。別に内容のない会話だ。でも、こうして料理の片手間に話すにはちょうどいい。

 

 

 

「こんにちはー」

 

「どもっす」

 

もうすぐ完成するかなってときに、一人の女性が入ってきた。見知った顔だったので、すぐに会釈する。

 

「お、藤原さん、こんにちは。例によって準備中なんで、注文は受けられないですよ?」

 

大将も、お客さんが相手となれば敬語を使う。

 

「わかってます。海堂くん、いますね。じゃあ、今日も新作ラーメン作っているんですよね?」

 

「そうですね。と言っても、今日は前に作ったラーメンの改良版ですけど。ほら、藤原さんが最初に来たときのラーメン、覚えてます?」

 

「あれですか! 私、すっごく好きだから嬉しいです! あんなラーメン、ここじゃなきゃ食べられないですから」

 

少し前のことだ。

 

このラーメン屋の準備中にラーメンを作らせてもらってるとき、この人が匂いに釣られてやってきたのだ。

 

準備中だと大将が伝えるが、匂いがどうしても気になると言って離れたがらず、大将も常連客である藤原さんに強く出ることもできなかったので、そのまま新作ラーメンを食べることになった。

 

そのときはお世辞に良い出来とは言えなかったけど、他のラーメンとは全く違う味に衝撃を受けた藤原さんは、こうして休みの日には近くに寄ってくれるようになったのだ。

 

ちなみになんと、代議士先生らしい。フットワーク軽いね。

 

俺の完成度が低いラーメンも美味い美味いと食べてくれる美女に、俺だって悪い気はしない。次はより高い完成度のラーメンを! と意気込んで作り続けている。

 

そして今日の出来は少し自信がある。

 

匂いが前世で嗅いだものに近いんだ。味見しても、それっぽい感じがしたので、たぶん上手くいってる気がする。

 

 

 

あの後すぐに完成したラーメンを3人で分けあって食べた。

 

「うーん。……前よりは良い」

 

味はするし、こってり感も出てる。……コレジャナイ感はあるけど。

 

「あたしは良いと思うよ。もう少し、量の調整とか、脂っこさの調整ができれば最高だね」

 

「私も良いと思います! 前から気に入ってた、こってり感がより洗練された感じがしますよ!」

 

2人からは合格点をもらった。うん、まあ、趣味だからね。このくらいでもいいか。

 

「ありがとうございます。まだ改良の余地はあると思うんですけどね。とりあえずは完成でいいかな? しばらくは手を付けられなくなるだろうし」

 

「え、新作作り、止めちゃうんですか?」

 

「あ、いえ、ちょっと他のことが忙しくなりそうなんですよ。俺、バンドやってるんですけど、今度、知り合いが主催するライブに出ることになったんです。だからバンドの練習で忙しくなるなって思って」

 

ポピパ主催のライブが6月最後の週末に決まった。これから、そのライブに向けて練習を頑張る必要がある。ハロハピの新曲も作りたいって言ってたから、そっちの準備もしないといけないしね。

 

「ば、バンドをやってるんですか!? ピアノじゃなくて!?」

 

「はい。ピアノはけっこう前に辞めてますよ。……藤原さん、ご存知だったんですか?」

 

「私もピアノをやっていたので。海堂くんという名字の男の子は有名でした。それこそ、あの事件が起きるまでは、ピアノ業界はあなたの話題で持ち切りだったじゃないですか」

 

「そうでしたっけ? もう覚えてないです」

 

3年? いや4年か? とにかく中学の初めの頃の話だ。

 

それにあの頃はピアノを弾くことが楽しかったから、評判なんて気にしたことがない。唯一、あの女性ピアニストと決着がつけられなかったことは気がかりだけど。

 

「ピアノを辞めたと聞いたときはショックでしたが……こうして、ラーメン屋で新作ラーメンを作ってることにもショックを受けましたね。もちろん、別の意味で、ですけど」

 

「あたしも、こいつがいきなりやってきたときは、なに考えてんだって不思議でならなかったですよ」

 

「事前に連絡しなかったっけ?」

 

「してないよ。突然来て、ラーメン食わせてって言ってきただろ? しかもその後、こんなの男が食うラーメンじゃない! とか言い出すし。正直、あんたじゃなかったら、たとえ男でも追い出してたよ」

 

「ちゃんと謝っただろ。それに、ラーメン作りたいって言ったら、準備中なら使っていいって言ったの、そっちだろ?」

 

「だから、まずは連絡しろって言ってんの! まったくお前は仕方ないんだから……」

 

「はいはい。悪かったよ」

 

「この反省しない態度。ほんっとふてぶてしいね……」

 

「今更だろ?」

 

「……まあ、違いない」

 

ラーメン作った後は、仕込みの手伝いだってしてるんだから、多少は大目に見て欲しい。

 

もちろん、こうして場所を使わせてもらえるのも感謝してる。

 

「ちなみに、なんていうバンドですか?」

 

「ハロー、ハッピーワールド! ってバンドです。病院とか保育園、老人ホームでゲリラライブをするのがメインだから、聞いたことない名前だと思いますよ。でも、演奏は超おもしろいです」

 

「そうなんですね。今度の参加するライブ、見に行こうかな……」

 

「ああ、すみません。たぶんチケットはもう売り切れてると思います」

 

「え、そうなんですか!?」

 

「はい。元々、参加バンドみんなが人気が高いんですけど、今回のライブ会場のキャパシティが少なくて、すぐに売り切れたみたいなんですよね」

 

チケットは一般購入用と香澄たちの学校の友だち用がある。前者はそのまんま。後者は香澄たちがチラシを配って宣伝した学生たち用だ。有咲の案で一般購入用に制限をかけたんだとか。

 

まあ、新規客が来ないとファンが増えないからね。それに友だちに聞いてもらいたいってのは、学生らしくていいよね。

 

「海堂くんの取り置きとかは……」

 

「取り置きなんて、よく知ってますね。でも、俺の取り置きは大将らに確保しとかないと、あとでチクチク言われるんですよね……」

 

割り当てられた分は全て献上済みだ。ちなみに有咲も、有咲の祖母に渡すもの以外は献上したらしい。それでもGalaxyのキャパが少ないので、数枚しか確保できなかった。

 

「ちなみに、今回はあたしは外れたよ。数が少ないし、1つはアメリカで大活躍したアイツのご褒美枠だったし、さすがに勝てなかった。今回は大人しく、みんなの感想を楽しみにしてるよ」

 

「へー、大将は普通に買わなかったんだ? 偉いじゃん」

 

「ポピパの子のライブを、あんたのファンで埋め尽くすなんて格好悪いマネ、あたし達がやるとでも思ってんのかい?」

 

「思ってないよ。だから俺が取り置きしたんだろ」

 

俺がファンだし、初期勢もポピパが好きなヤツらが多いから、普通に買うヤツらがいても、ポピパの主催ライブとして面子は保てたと思う。

 

でもやっぱり、ポピパが一番のファンって子が参加できた方がいい。

 

「大人気なんですね」

 

「まあ、どのバンドもレベルが高いですからね。音楽に興味がある人なら、絶対に退屈しないライブになると思います」

 

「あたし、ロゼリアも好きなんだよね。堅実な実力派って感じで痺れるよ」

 

へー、意外。

 

大将は昔、デス・ギャラクシーってバンドを組んでて、そこのギターだった。名前からしてデスメタル系かなって思ったけど、ロゼリアみたいなのも好きなんだ。

 

いや、ロックだから自然なのかな?

 

「この前、dubで主催ライブやったろ? 見に行った?」

 

少し前に、ロゼリアが主催ライブをやった。dubという1000人定員のライブハウスを埋め切るという大成功のライブだ。

 

俺も見に行ったよ。ポピパ目当てだったけど、ロゼリアの演奏も楽しかった。

 

「行った。熱が入ってて、いい演奏してたよ。若いファンの子たちにはちょっと馴染めなかったけど」

 

「ああ、あのゴスロリ隊のことだろ? あの子たちも気合入ってるよな。燐子先輩曰く、アレはたぶん自作なんだって」

 

「そうなのかい? いやー、若いってすごいねー。やっぱり勢いがあるよ」

 

ちなみに、気合の入ってるパスパレファンは髪を染めてくるし、アフターグロウのファンはパンクな服を着てくる。ポピパのファンはカジュアル服とかが多い。スカートとか短パンとかだな。ハロハピは……多種多様?

 

「だな。俺もポピパのファンだけど、さすがに格好をマネようとは思わないな」

 

「ま、まあ、あんたがマネしたら、男性で初の職務質問対象者になるんじゃないか?」

 

「否定はしない。そもそも彼女に引かれそうだから、絶対にやらない」

 

想像するだけでも吐き気がする。きっと醜悪な化物が誕生するんだろう。

 

まあ、絶対にやらないから、考えるだけ無駄だろうけど!

 

「そうしときな。さすがにありさにゃんZもドン引きすると思うよ」

 

「だな。俺がポピパの曲でガチ泣きしたときも引かれたから、さすがにマズいってわかる。……おっと、藤原さん、すいません。ちょっと身内ネタに走っちゃいましたね」

 

俺たちの様子を、ボーッと眺めていた藤原さんに気づいた。

 

「あ、いえいえ、気にしないでください。大将と海堂くんの会話って、なんかすっごい新鮮だから、聞いていて楽しいんです」

 

「そうですか?」

 

「はい。海堂くんみたいな人はなかなかいませんから」

 

「よく言われます。言われすぎて、もうバカみたいだと感じないくらいです」

 

初めて会う人には、ほとんど言われる気がする。

 

「おかしいと思いますか?」

 

「まあ、そうですね。え、こんなことで? ってところで珍しがられるのはビックリします」

 

わかってはいる。わかってはいるけど、そう言われると、なんか引っかかる。

 

「男性が少ないのはわかるし、政府がそれを保護しようとしてるのもわかります。女性がそんな状況を受け入れてるのもわかります。俺だって、今の状況を受け入れてます」

 

だから、ただの感傷だ。世間一般からすれば、俺が悩んでいる方がおかしいんだろう。

 

それこそが、少しだけ寂しさを感じさせる。俺がみんなと違う、そんなことを思い出させる。それだけだ。

 

「別に世の中に対して不満があるってわけじゃないですよ。俺の中では折り合いはついてますし。どちらかと言えば、藤原さんたちの方が男性と女性の板挟みにあって、やり辛そうだなって思います」

 

男性を優遇すらために女性がわりを食ってる面は絶対にある。女性の方が人数が多い分、やっぱり女性に大きな負荷をかけるのは良くないんだろうから、政治家が一番苦労してるんだろうなって思う。

 

「ここはラーメンを食べる場だと思って、こういう話はしまいと決意していたんですが、少しだけさせてください」

 

「え? はい、どうぞ」

 

藤原さんは口元をハンカチで上品に拭くと、椅子に座り直した。

 

「まず、大前提として、日本政府は男性の味方です。板挟みではなく、明らかに男性寄りです」

 

「へー……」

 

驚いた。確かに女性の扱いが雑だと感じたことはあるけど、こうもハッキリと言い切るとは思わなかった。

 

「でも藤原さん、最近は政府が男性を切り捨てようとしてるってテレビでやってましたよね?」

 

大将が、店に備え付けられたテレビに視線をやりながら言った。

 

「政府にも言い分はあります。最近、特に批判が多い、興奮剤の流通だって、本当に男性のためを思って通したものですから。中毒性や、副作用については何年もかけて国内での臨床実験をさせましたし、アメリカで問題になっているのは、効果が段違いに高いものです。日本で流通を始めたものは、健常者には少しだけ効き目がある程度の軽いものです」

 

「だけど世間では、アレが男性をより厳しく管理していくための発端となるって言われてますよね。強制的に薬を打たれて、これまで以上に精子バンクへの協力を強制されるとか」

 

それは俺も知ってる。なんかネットニュースでも、男性の評論家が、これは問題だ! って叫んでた。

 

「はい。気持ちはわかります。最悪の場合を考えれば、そういった事態へ結びつけることだってできます。でも、さっき言ったとおり、興奮剤にそこまでの力はないです。なにより、私たちがそんなことは許しません」

 

藤原さんは、いつものような、ほんわかした笑みではない。キリッとした顔で言い切った。

 

「テレビで言われてるように、これをきっかけに今後じわじわと強い興奮剤が認められるだろうっていうのも。この興奮剤を元に、精子バンクへの協力を強制させるというのも。政府がアメリカ風に方針を変えたというのも。私たちからすれば、バカげているとしか言えません」

 

「そんなことは、するつもりがないってことですか?」

 

「もちろんです。確かに男性は保護しなければいけません。でも、それと隔離したり、管理することは別物です。監禁したり、薬を使ったり、結婚を強制させたり、人としての尊厳を奪えば奪うほど、その国の男性は元気がなくなって、いずれ立ちいかなくなるんです。ヨーロッパやアメリカの男性は、日本以上に衰弱していて、効果の強い興奮剤を健常者にも使用しないと国を維持できない程です。だからヨーロッパもアメリカも日本よりも男性が少なくなりましたし、今後だって、減り続けるでしょう」

 

イブから聞いたことがある。ヨーロッパの主要国の男性比率は落ち着いているけど、みんな元気がないって。男性は移動の自由はあるけど、厳重な警護の上で移動するから、滅多に話すことはないらしい。そして、日本のように怒ってる男性というのも少ないんだとか。

 

「日本の方針は、男性の尊厳を奪うことなく、男性の負荷を減らすことです。これについては私たち与党はもちろん、野党だって変わりません」

 

「ヨーロッパとかアメリカみたいな、監禁して管理するべきって勢力はいないんですか?」

 

「とっくの昔に潰してます」

 

「潰してる!?」

 

思わず叫んでしまった。

 

「日本にもそういった人たちはいました。海外はこうしてるんだから、日本も習うべきだと。管理されてる状況に比べて、男性の自由を認めるということは、それだけ男性絡みの事件を引き起こすことでもあります。その当時は今よりも男性の数が多かったので、その分、男性絡みの事件も頻発していました。だから意見として、言ってることはわかります。……これが、他国からお金をもらってなければ」

 

「ああ、日本にもいたんですか……」

 

「どうやら、他の国から支援されて活動していたみたいです。差し当たっての目標は、海外協調の名の元で、精子バンクの輸出をより安価に行うこと。最終目標は男性の国外移動の自由化だったみたいです」

 

男性の国外移動の自由化を認めてる国はある。そして、そういった国では、男性が大国に旅行して、そのまま帰ってこなかった。なんて事件が起きている。

 

なんで規制しないんだと思ったけど、そうか、もう政府が他国の金で溺れている状況だったのか。

 

「でも、上手くいかなかったんですよね?」

 

「はい。とある筋からのリークで、彼女らの本性が明るみに出ました。他国からのお金の動きを始め、その目的、裏での活動実績など、何から何まで全て明るみに出ました。男性から被害を受けてる女性を減らす! なんて、もっともらしいことを言ってる陰で、どんなことをしていたのか知れ渡りました。それで全員お終いです」

 

「とある筋っていうのは?」

 

「言えません。でも、議員ならみんな知ってることです。アレだけは怒らせるな。怒らせれば政権だって吹っ飛んでしまうと……」

 

「フィクサーってやつですか? そんな力がある人が本当にいるんですか?」

 

「もちろん。本当にそんな力があるのかはわかりません。あのリークだって、与党と息が合ったところもあるようですし。本当に国のためを考える議員からすれば、彼女たちは国の中枢に入り込んだスパイ以外の何者でもない人たちでしたから」

 

「でも、そのフィクサーは何のためにそんなことをしたんですか? まさか善意ってことはないですよね?」

 

「はい。日本の中枢にいる人なので、日本が傾くということが、そのまま自分の不利益になると判断したんだと思います。だから今の議員で、日本に不利益をもたらすようなことをする人はいません。そんなバカなことをすれば、次は自分たちだとわかりますから」

 

日本にフェミニストはいない。今世でそんな話を聞いたことがある。

 

でも、セントー君のアンチを始め、男に批判的なヤツならたくさんいる。これでよくフェミニストがいないって言えるなと思ったけど、そういうことだったのか。

 

フェミニストはいるけど、大きくならないような仕組みが出来上がっていたんだ。匿名で呟いてる分には無視されるだけだけど、それがリアルでも物を言うようになれば潰される。

 

ともすれば言論統制とも取れる。でも、好きに言わせた結果が破滅しかないとしたら? 果たして言論統制は悪と言えるのか。

 

……いや、止めよう。確かに歪な世界だけど、俺はそれに満足してるんだ。

 

バカみたいなキレイ事を振りかざして、自分の首を絞めにいくバカにはなりたくない。俺には守りたい人たちがいるんだ。

 

「だから安心してください。今の国会にそんなバカなことをする人はいないはずですし、いたとしても私たちが潰します。それでもダメなら、あの人も動くでしょうから。政府は男性の味方です。確かに、各個人の希望は叶えられませんが、男性全体がより負担の少ない状況になるように活動していることは間違いありませんから」

 

藤原さんは静かに、しかし力強い言葉でそう言い切った。

 

この話が全て本当なのかはわからない。でも、政治家の中にはこういう考えの人がいて、本当に日本を良くしようと考えてくれる人がいる。それが少し窺えただけでも俺は運が良い男なんだろう。

 

いつだって世の中には、その行動の本当の意味を知る機会がない人がいる。知ることができたから、なんだということはない。たぶん何も変わらないんだろう。

 

向かう先はわからない。でも、少なくとも、俺の近くにいる子だけは必ず幸せにしよう。

 

それだけなら、たとえ俺だって、きっとできるはずだから。

 

そう、胸に決意を抱いた。

 

 

 

「次はいつ頃になりますか?」

 

水を一気にあおった藤原さんが、顔を崩して聞いてきた。もう、難しい話はお終いのようだ。

 

「うーん、主催ライブが終わるのが6月末で、そのあとちょっとゲーム関係を片付けたいから……8月前後ですかね?」

 

「さ、3カ月くらい休むんですか?」

 

「はい。いつ頃、落ち着くかわからないですからね」

 

7月のテストが終われば、待ちに待った夏休みだ。今年もたくさんみんなで遊びたいから、夏休みまでに溜まった仕事を片付けたい。

 

藤原さんには申し訳ないが、ラーメンと女の子たちとの約束だったら、俺は絶対に後者を優先させる。

 

「その間、このラーメンが食べたくなったらどうすれば……」

 

「大将に言ってください。作り方は教えてます」

 

「いや、レシピは聞いたけど、店で出す気はないよ」

 

「なんでですか!?」

 

「あたしは好きだけど、うちの客層には合わないですって。匂いもキツイから、本格的に始めたら、これまでの客がいなくなりそうですし……」

 

「英断だと思う。女子はオシャレ(笑)ラーメンでも食べてればいい。本格派のこってりラーメンは男の食い物だ」

 

フォーでも食ってろって話。

 

「こいつ、また言ってるよ……」

 

「あの……私も女性なんですが……」

 

「たぶん2人とも、こっち側なんじゃないですか?」

 

「こっち側!? 女子じゃないってことですか!」

 

藤原さん。燐子先輩クラスの胸をしてて、女子じゃないって口が裂けても言えないですよ。……女性だけど女子ではないか?

 

「あんた、内容次第では次の議題に乗せるよ」

 

「汚いぞ」

 

「なんとでも言いな。言っても、叩いてもきかないヤツには、これしかないだろ?」

 

「ふんっ。好きにしろ、別に怖くもなんともない。とりあえず、有咲だけは味方に付けておくしな」

 

「それでよく怖くないとか言えたね……」

 

「ちわー。大将やって――せ、セントー君っ!?」

 

「あ、お嬢」

 

金髪でスカジャンを着た、如何にも不良ですって目つきの悪い女性が、店に入ってくるなり俺を見て叫んだ。

 

なんで見たこともないヤツに一発でバレるんですかね?

 

「人違いです」

 

「セントー君?」

 

藤原さんが首をかしげる。この人、30代らしいけど、20代中盤にしか見えない。くっそ可愛いんだけど。

 

「え、いや、だって、セントー君だろ!? なんで!?」

 

「ああ、そういやGalaxyがライブ会場だもんね。お嬢も知ってるか」

 

「どうでもいいけど、俺、この後デートだから、そろそろ帰るよ」

 

「あのニンニクラーメン食べた後にデートするつもりですか!?」

 

そんな、よくわからない出会いもあったけど、やっぱりラーメンは良いなって思いました(無理矢理)。

 

まあ、最後はバタバタしたけど、きっとまたラーメンを作って、この2人に振る舞ってやろうと思う。

 

課題だった新しいこと。見つけることができて良かった。

 

 

 

ちなみに、その後、待ち合わせした美咲には、ニンニク臭いと怒られた。




本編に登場しなかったですけど、「Progress(スガシカオ)」が途中で頭によぎりました。
いや、全く苦労してないんですけどね。
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