(仮題)とある転生者の異文化体験 作:ピッピの助
作者のおすすめする読み方:
①キズナミュージック♪を用意します
②本編を読み始めます
③作中でキズナミュージック♪が登場します
④用意していたキズナミュージック♪の1番を聞きます
⑤泣きます
⑥本編の続きを読み始めます
⑦読み終えたらキズナミュージック♪に浸り続けます
それでも「?」ってなるなら、全て作者の実力不足です。
各ライブのイメージはアニメ2期最終話とFILM LIVEからです。
文化祭の後、有咲と香澄が落ち込んでいた。
理由はきっと、花園さんのことだ。
2人が落ち込んでるなら、俺も何かできることをしたかった。
たとえ、俺がシャレにならない状況にあるとしても、可愛い彼女が悩んでるなら力になりたいと思った。
とは言っても、バンド内での話なら俺ができることなんて限られている。有咲と香澄の話を聞いて、少しでも前向きになれるように接するくらいだ。
俺にはそれくらいしかできなかった。
幸いなことに、ポピパは仲直りできた
いや、仲直りできたというのも、おかしな話だ。
花園さんは当初の予定通り、ポピパの主催ライブのために修行に出て、その修業が終わったからポピパに戻ってきた。
そこに、いろんな人の感情が渦巻いただけで、結局、予定通りに事は進んだんだ。元に戻るのだって当たり前の流れだった。
有咲や香澄が悩んでいたような、花園さんが別のバンドへ行ってしまうなんて心配は、ただの考えすぎだったんだ。
イヴのときもそうだったけど、俺ができることなんて大したことない。俺の周りの人は本当に優しい子ばかりなので、きっと俺が何もしなくたって上手くいくんだ。
……だから、きっと俺がいなくなっても、有咲も香澄も仲間と元気にすごせるはずだ。初めは2人とも落ち込むかもしれないけど、いずれ仲間が傷を癒やしてくれて、いつかは今回みたいに笑えるはず。
そう信じられる。みんな、それだけの優しい仲間に囲まれていることは、よくわかっている。
今日はポピパの主催ライブの日だ。
ポピパがたくさん頑張って、開催までこじつけた。楽しみな日だ。
そして、初期勢の話では、そろそろ政府から通知が来る頃らしい。
もちろん、アメリカ議会への参考人招致の件だ。
参考人招致というくらいだから突っぱねることはできる。だがそれは、明らかな悪手だ。
噂話だが、日本政府とアメリカ政府でなんらかの取引がされるようで、日本はそれによって大きな利益を得るらしい。だからこそ、男を他国へ移動させるなんてことが通っている。
そんな重要な判断をした以上、政府も本気だろう。俺とアメリカが仲直りするとか、アメリカ議会の出頭を断固として拒否するなんて結末は望まれていない。
アメリカは俺を動かすために日本政府を頼り、取引を持ちかけた。これで俺が駄々をこねれば、日本は面子を失うし、アメリカだって実行力のない相手を頼ったという見る目のなさ、アメリカ政府の力不足が露呈する。
そうなれば、両国は失態を帳消しにするために、何としてでも俺を動かそうとする。それこそ、俺の事情は関係なしの手段を使ってくるのだろう。
そんなのはごめんだ。
こう見えて、俺はけっこう弱点が多い。
初期勢とか、母親の会社とか、ゲーム会社とか、バンド仲間とか、そして彼女とか。直接、俺に手は出さないけど、関係者に圧力をかけるのは難しくない。
男が優遇されるこの世界では、普通なら、それだってアウトになるんだが、今回は政府が相手だ。遠回しの圧力なら、いくらでもお目こぼしされるんだろう。
知り合いが被害に遭ってから動くのは後味が悪い。だったら、相手が本気だって確認できた段階で、潔く従った方が格好付くってもんよ。
大丈夫。腹は決まってる。
俺の大切な人たちの、今この瞬間を守る。そう思えば、俺が進むべき道なんて一つしかない。
それに、これが最後の演奏になるかもしれないんだ。俺の精一杯を演奏して、観客をたくさん盛り上げてやろう。
みんなに残る最後の俺の姿が、悲しい演奏をする男だなんて真っ平ごめんだ。
ハロー、ハッピーワールド! は世界を笑顔にするバンド。それなら最後まで楽しもう。
……幸いなことに、表情は仮面が隠してくれる。
ポピパの主催ライブが始まり、ハロハピの出番が来た。
パッとライトが点く。
黄色のサイリウムが揺れている。
サイリウムの光とスポットライトを浴びた、こころの姿が輝く。はぐみ、薫先輩も同様だ。両脇を見れば、花音とミッシェルだってそうだ。
チラッと後ろを見る。
後ろに映しだされるのは、見慣れたハロハピのバンドロゴに、ポピパへの応援メッセージ。
『スマイル!! こころ』
『おめでとう! がんばってね 花音』
『かーくん おたえ りみりん さーや あーちゃん 大好き! はぐみ』
『主催ライブおめでとう。いつも心に儚さを。 瀬田薫』
『平常心でがんばろー ミッシェル』
さすがハロハピ。素直な言葉が微笑ましい。
『思いの集大成 全部ぶつけていこう ミッキー』
そういえば結局、最後まで俺のことをミッキーって呼んでくれる人はいなかった。ミッシェルと名前の感じが似てるからかなー、なんて考えてしまう。
でも他にいい名前も思いつかなかったし仕方ない。俺だってミッキーって呼ばれるより、セントー君とか鹿って呼ばれる方がしっくりくるから、別に愛称はいらなかったのかもな。
そんなことを考えてると、こころの掛け声が始まる。
「ハッピーー」
『ラッキー!!』
観客もわかってる。
黄色のサイリウムが高く掲げられる。
「スマイルーー」
『イエーイ!!!』
黄色い光の波が、観客の顔を照らしだす。
みんな笑顔だ。
……うん、俺も負けてられないな。
「それじゃあ、いくわよ! とびっきりの笑顔で! えがお・シング・あ・ソング!」
うん? それいくの? それ3曲目に披露する新曲だよ?
……全く、うちのお姫様は本当に自由だ。
いいよ。最初から、全力でいこう。
俺のキーボードの音で演奏が始まる。
花音のドラムが入る。音に厚みが増す。
こころの歌が入る。世界が変わった。
はぐみのベースが楽しそうに駆けまわる
薫先輩のギターがアクセントを付ける。
ミッシェルが演奏に合わせて踊り、観客を楽しませる。
前衛3人はいつも楽しそうだ。
体がはずみ、音がはじける。アドリブばっかだ。
花音も大変だけど、それでもしっかり3人に付いていく。笑顔がこぼれている。
ミッシェルは……精一杯だな。楽しんでいると思うけど、中の人は必死だろうな。そこもまた可愛いところなんだけど。
みんなの姿を確認した後、演奏しながら目を閉じる。
音に意識を集中させる。
この瞬間が大好きだ。
みんなの生きてる音が混じり合う。今日の音は決まってるなとか、少し音を外したとか、アドリブ入れてきたとか、また自分の世界を表現してきたなとか。
それを含めて大好きだ。
それがみんなの個性。他の誰とでもなく、ハロハピで演奏してることを実感できる個性。
一人ひとり、かけがえのないメンバーとの演奏。
これが最後かもしれない演奏。
音楽は素晴らしい。
あれだけ引きずっていた悩みが、今は嘘みたいに軽くなってる。
まるで悩みが消えたみたいだ。
花音の優しいリズム、はぐみと薫先輩の楽しそうな音、ミッシェルの精一杯の踊り、そして、こころの声。みんな音に惹きこまれる。
目を開けば、みんなの姿が楽しく踊っている。
ここしか見えなくなる。
大切なメンバー。
自分は思っていた以上に、この生活に満足していたようだ。
未練がないと言えば嘘になる。
でも、今だけは忘れられる。
この楽しい演奏が続いている限り、俺は世界を笑顔にできる。それだけに集中できる。
2番が終わり、間奏が入り、3番に入る。
紐をお腹に巻きつけて、こころがミッシェルに吊るしてもらって会場の空を飛び回る。
とんでもないパフォーマンスだ。
でも、こころ達の顔は本当に楽しそう。
俺も楽しい。心からそう思う。
やっぱりハロハピは最高だよ。
有咲視点
幹彦の協力の甲斐あって、文化祭ライブをなんとか乗り切ることができた。
だけど、おたえが遅刻してライブに出れなかったことには変わりない。
私たちは関係者へお礼を言いに回った。幸いなことに、みんな暖かく許してくれた。
それ以降も、ギターが好きなおたえは、ポピパじゃなくて、ヘルプをしに行っていた幼馴染がいるバンドRAISE A SUILEN(RAS)で活動した方がおたえのためになるんじゃないかって、私たちが聞いちゃったりして、一悶着あった。
でも最後はみんな、ポピパが大好きで、ポピパで演奏したいってお互いの気持ちを確かめ合えた。
私たちは再び一つになることができた。
その後は大忙しだった。文化祭が終わったから、いよいよ主催ライブまで時間がない。会場であるGalaxyとの打ち合わせ、出演バンドとの調整、自分たちのセトリ作成、新曲練習などなど。
息をつく暇もない。
そして同時にセントー君……幹彦がかなり危ない状況にいる。
アメリカとの確執が、その政府を動かして、日本の政府までもアメリカの立場に理解を示した。
初期勢が言うには、もうじき幹彦の元に政府から通知が届くらしい。
そこにはきっと、アメリカへの渡航を許可すること、アメリカ議会に参考人として出席し、アメリカで起きてる社会現象の解決への協力をすることが書かれている。
事実上の出国許可証だ。
意外なことに、その通知には強制力はないらしい。でも、ここでもし幹彦がそれに応じなければ、次はどんな手を使ってくるかはわからない。
幹彦はそれがわかっていて、この通知が届いたら、大人しく指示に従うつもりだ。
もう帰ってこれないかもしれないのに、バカげてる。そんなヤツらのことなんて放っておけばいい。
幹彦にそう伝えたけど、悲しげな笑顔で、ごめん、とだけ言われた。
なんとかしたい。でも、なにをしたらいいか、わからない。
幹彦に、私でもできることはないかって聞いてみた。
そしたら、有咲は主催ライブだけに集中してくれって言われた。俺のせいで主催ライブが不完全燃焼に終わることだけは絶対に嫌だ。そう言っていた。
文化祭でおたえが遅刻したとき、幹彦は代役を勤めてくれた。そのときも文化祭ライブに穴が空いたら、おたえが悲しむからって理由だった。
自分のせいで誰かが頑張ってやってきたことがダメになる。そんなの嫌だもんな。
幹彦のためにも、私は私たちポピパがやりたいこと、主催ライブの成功に全力を尽くすことにした。
そして今日は、いよいよ主催ライブの日だ。
ぽぴぱパピポぱーてぃ。
最初に見たときは、なんて書いてあるのか理解できなかった名前だが、今になって見れば、この数カ月の苦労が思い出されて、なんとも言えない味がある。
香澄の思いつきも、偶には悪くない。
最後の確認で忙しくて、昨日の夜は寝ていない。ポピパのメンバーみんながそうだ。やることがありすぎて、とても寝てなんていられない。
会場入りしてきたハロハピの中に幹彦がいた。
幹彦は私に近づいてくるなり、お疲れさんって言って、頭をポンポンと叩いてくれた。
別に大したことねーよって返した。
でも、精一杯がんばったんだろ? って言われた。
当たり前だ。絶対に最高のライブにしてやるんだ。この数週間、全力でやってきた。そんなことを伝えた。
幹彦は、偉いって褒めてくれた。いつもの笑顔。でも、なんだか眩しそうで、安心した顔。いろんな感情がごちゃ混ぜになっていて、それが私に違和感を覚えさせた。
お前は大丈夫なのかよ。その言葉をすんでのところで飲み込んだ。
今日は楽しいライブの日だ。お客さんにとっても、私たち出演者にとっても。だから、そうじゃない話はダメだ。せめてライブが終わるまでは楽しい話じゃないとダメだ。
そう思って、幹彦を見つめる。
幹彦は私の顔を困ったように見つめ返すと、今日は頑張ろうと言い残して、先に楽屋入りしたハロハピの後を追っていった。
進行はお世辞にも上手くいったとは言えない。
トップバッターの私たちが、セトリを無視してReturnsというクライマックス用の曲を、開幕曲に持ってきてしまった。香澄が緊張のせいでReturnsの順番を間違えて、おたえが間髪入れずにためらうことなく音を鳴らした。もうどうにでもなれって気持ちで、演奏に集中した。
お客さんの反応は上々。立ち上がりにしては、すごく良いとも言える。でも、この後どうしようか。これマズくね? て空気だった。
そんな状況も、次のハロハピの演奏で吹っ飛んだ。
ハロハピも私たちに続いてセトリを無視して、新曲からスタート。スタッフのロックが、無茶振り連発にもかかわらず、スポットライトや音響調整を見事にこなす。
会場は大盛りあがり。ライブが軌道に乗った。そう確信した。
それなら、ようやくハロハピの演奏に集中できる。
幹彦はいつもどおりだ。いや、いつも以上に楽しんでる。ハロハピの演奏を楽しもうって感情が、控室に映る画面越しからでも伝わってくる。
『思いの集大成 全部ぶつけていこう ミッキー』
ハロハピが演奏するバックスクリーンには私たちへの応援メッセージが表示されている。
はは。お前がミッキーって呼ばれてるところ、1度も見たことないんだけど?
ハロハピは本当に楽しいバンドだ。歌や踊り、アッと驚く仕掛けなど、あらゆるものを使って会場を笑顔にする。演奏だって1年前よりも上手い。
北沢さんや薫さんの技術力は目に見えて向上してるし、花音さんも難しそうなフレーズを笑顔でこなす。奥沢さんの踊りも迷いがなくなってる。吹っ切れたって感じなのかな。去年から異彩を放っていた弦巻さんは、全てがより魅力的になっている。
そして幹彦は、メンバーの技術が上達するに合わせて、本来の実力を発揮していく。
キーボードが上手い、それだけじゃない。幹彦がふとメンバーを見ると、メンバーも気づいたように幹彦へと振り返る。すると、その担当楽器の音が爆発的に存在感が増すのだ。
ただ目立つための演奏じゃない。自由な演奏で、不思議と人の心を惹きつける音が広がるんだ。楽しい音が広がると弦巻さんのボルテージが上がる。声の張りもそうだけど、めちゃくちゃ声が伸びてお客さんを熱狂させる。ダンス1つ1つのキレが増して、目が離せなくなる。ミッシェルと合わせた踊りでは、まるで会場全体が示し合わせたかのように手を上げる。
すごい一体感だ。
ハロハピはその後の演奏でも、会場を充分過ぎるほど盛り上げてくれた。
私たちのReturnsで、お客さんの熱気が最後まで持つか心配だったけど、やっぱり杞憂だった。
いや、それどころか盛り上がりすぎてね? 次のバンドは大丈夫か?
次のバンドはパスパレだ。そちらを伺う。
「やっぱりハロハピはすごいね」
「はい。プロだって、このレベルは滅多にいませんよ!」
「さすが、師匠です!」
「本当にすごいよね! るんってする!」
「花音、立派になって……」
準備完了しているパスパレが、画面越しの演奏に臆することなく話している。
「でも、私たちだって1年前とは違うよ。私たちの輝きだって負けてない!」
「はい! ハロハピの皆さんに負けない演奏をしましょう!」
「師匠への恩返しです!」
「あたし達の演奏が、あの合同練習でやったとき以上のものだって、見せてあげないとね!」
「ええ。目にもの見せてやりましょう」
パスパレの熱は、アフターグロウ、ロゼリアにも伝わっていく。
最高のライブにしたい。ガルパから1年経って、私たちの気持ちがまた一つになった。
それから、みんな最高の演奏を繰り広げた。
ポピパの最後の曲、Dreamers Go! が終わった。
やっぱりライブは楽しい。
お客さんの声援。
ピンク色のサイリウムの奥に、幹彦たちの姿が見える。腕を組んで、笑顔で頷いてる。お前、彼氏面かよ。……彼氏だったな。
アンコールの声が広がる。
ピンク色の輝きと、お客さんの熱い声。会場を震わせる手拍子。香澄が肩で息をしながら、それを呆然と見つめている。
もしかして、これが香澄の言ってた、星の鼓動ってヤツなのか?
それなら良かった。やっと感じたんだな。……私にも少しだけ、わかった気がするよ。
みんなへ視線を向ける。みんな笑顔だ。たぶん、私も笑顔。
香澄は息を切らしながら私たちを見て、そしてお客さんに向き直った。
「アンコール、ありがとうございます!」
アンコール曲はもちろん決めてある。少しだけワガママを言わせてもらった。
「それじゃあ、もう1曲!」
私があいつにできる唯一のこと。それが音楽だ。
なにがあっても私たちは音楽でつながっていける。
別に悩む必要なんてないんだって。
我慢する必要もねーよ。お前がどう足掻いたって私は付いていくだけだしさ。
素直になって、感情のままに行動しろって。最近は後のことを考え過ぎなんだよ。
気に入らないから、関係を断つ。やりたいから、やる。欲しいから、求める。それがマズいことになるなら、いつだって私たちが止めてきただろ。
今回だって、私たちの反対を押し切って意地を張ったお前だけど、私たちだってそれを認めてただろ。
だから、お前だけが悩む必要なんてないんだよ。
特に、私とお前は一蓮托生だ。
もしかしたら、私がポピパで演奏する最後の曲になるかもしれない。でも、たとえアメリカに渡ることになっても後悔なんてしない。
ポピパとの出会い、思い出、経験。全てを出しきろう。
思いの集大成。全部お前にぶつけてやるよ!
「キズナミュージック!」
それできっと、あいつには伝わるから。
海堂幹彦視点
みんなに気づかれないよう、一歩だけ離れた。
せっかくの歌なのに、空気をぶち壊したくなかった。
涙が止まらない
さっきからずっとだ。
こんな楽しい歌なのに、楽しい気分のはずなのに、涙が止まらない
香澄の歌声が、牛込さんのベースが、沙綾ちゃんのドラムが、花園さんのギターが、そして、有咲のキーボードの音が重なりあう。
彼女たちの音を一身に浴びる。
有咲のバカ野郎。俺が足掻けば足掻くほど、大切な人たちに被害がいく。もう、そういう状況になってるんだよ。
だから腹を決めてたんだ。
それなのに、今更そんなこと言うなよ。
お前たちは、本当に俺の大切な人たちなんだよ。俺が原因で、お前たちを傷つけたくないんだ。
香澄、お前もだよ。そんな目で俺を見るな。止めろよ。俺はポピパが大好きなんだ。これからだって、ずっと活動してほしいと思ってる。たとえアメリカで暮らすことになったって、お前たちの音があれば、やっていけるって思ってるんだ。文化祭が終わって、やっとみんなの気持ちを確認できたんだろ。
それなのに、そんな顔をして見るなよ。そんな決意、俺は望んでないんだって。
大切な人たちの思いに感情が渦巻く。
そんなことを決意させてしまった罪悪感。
こんな結果をもたらしてしまった後悔。
どうしようもない悔しさ。
……そして、嬉しいと思う気持ち。
それを認めてしまえば止まらない。
余計な考えが、涙とともに流れ落ちる。
足掻くことで生じる被害、大切な人を守るためにできること、大切な人たちの願い、アメリカでの生活。そんな考えが払われていく。
残ったのは俺の心だけ。
ピアノが好きだという気持ち。
みんなといたいという気持ち。
音楽が楽しいと思う気持ち。
何かに気づいたわけでも、考えが変わったわけでもない。
ただ、涙が止まらなかった。
純粋な願いだけが残る。
俺がやりたいこと。それは……。
ふと左手を取られた。
涙でぼやける視界で見る。
こころが笑っていた。
あのときと同じ顔だ。初めて出会って、一緒にセッションして、プロポーズをされたときと同じ顔。温かいお日様のような顔。
あのときは言えなかったけど、伝えないと。
ぐしゃぐしゃの顔のまま、こころに顔を近づける。
鼻がぶつかり合うくらいまで近づく。
こころが待っている。
キラキラ輝く金色の瞳が、俺の言葉を待っている。
1年以上も待たせて、ごめん。
花音もごめん。俺、もう我慢できないや。
もう難しいことはいい。俺はこころが欲しいんだ。
「俺と結婚してください」
演奏と、歓声で大音量のライブ会場。俺の小さな声なんてかき消されたかもしれない。
でも、こころは笑ってくれた。
涙を浮かべながら、嬉しそうに笑ってくれた。
そして、背伸びしたこころと、俺の距離がなくなった。