(仮題)とある転生者の異文化体験   作:ピッピの助

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21.5話

ポピパ主催ライブの後、打ち上げの誘いを断って、俺はある場所に来ていた。

 

そう、弦巻家だ。

 

こころに思いを伝えた後、近くにいた黒服さんに弦巻家当主へのアポイントをお願いした。

 

なにがあっても、こころは離さない。花音や美咲、有咲、香澄だって離さない。ほかのことがどうなろうと、それだけは譲らない。たとえハロハピやポピパが解散することになっても、もう我を通すって決めた。

 

アメリカで新生バンドを結成させて、俺がベースをやる。土下座して、みんなにはそれで許してもらう。

 

だから後は、こころの実家に話を通す。子どものノルマは何人だっていい。アメリカで産まれた子どもであっても、必ず弦巻家へ送り届ける。必ずだ。

 

それでなんとか、こころを連れ出すことを納得してもらう。

 

そんな意気込みに溢れていた。

 

こころに、一緒に行くわって言われた。

 

でも断った。

 

これは俺のワガママ。最後くらい、俺に格好を付けさせて欲しい。将来できる子どもに、お前の父親は母親を奪うために、日本一の実力者に殴り込みをかけたんだって言ってみたい。

 

もしかしたら焼き土下座させられんのかな? まあ、それぐらいならいいや。うん。絶対に泣くと思うけど、少しの間だけ我慢すれば終わるしね。焼け爛れた皮膚だって、きっといつかは再生するだろう。手が動けばベースなら弾けるはず。

 

そんな思いで、黒服さんに話かけたのだ。

 

そして、その数時間後に、こうして弦巻家当主の部屋の前にいるって話だ。

 

うーん、フットワーク軽いね。

 

でも望むところ。俺だって、今が一番やる気に満ちている。

 

やろうじゃん。最後の戦いってヤツを!!

 

 

 

弦巻家当主は、とても迫力のある女性だった。

 

広い部屋。重厚感のある焦げ茶色の大きなデスク。左右に広がる書棚。絶対に高いシックなカーペット。そんな圧を感じる部屋に彼女はいた。

 

机の上には開いたままのノートパソコンと湯気の出てるコーヒーカップ。そのほか、小さな字がかかれた紙が広げられている。

 

椅子に座り、両ひじを机の上に乗せて、口元が手で隠れている。その目はまっすぐに俺に注がれる。

 

かつて感じたことのない程の圧力を感じた。

 

いつもなら面倒くさくて絶対に近寄らない類の人。でも今日は違う。

 

こんな圧に負けてられない。俺は心を新たに、女性に向かって歩き出した。

 

近くに来ると、その異常さをハッキリと感じる。

 

俺より明らかに体が小さいのに、座ってこちらを睨みつけるだけで、まるで巨人に観察されているようだ。

 

なんとなく、白鷺先輩を思い出した。彼女もいずれはこんな風になるのかな。それは、おもしろそうだ。間近で見れないのは残念だけど、いつか彩先輩に写真でも送ってもらう。

 

当主の顔つきは、こころに似ている。こころをずっと冷たくした目に、こころよりも少しだけ、くすんでいる金髪。でも面影がところどころにある。

 

なんだか、前にどこかで会ったような気さえしてくる。

 

当主と見つめ合う。目で、先にそっちが話せと言ってきた。

 

いいぜ、始めようか。

 

「今日はお願いがあって参りました」

 

当主は微動だにしない。

 

予想してたことだ。俺がアポイントをお願いした時点で、俺がこころにキスしたことは黒服さん経由で伝わっているだろう。

 

俺が何を言うかだって予想しているはず。

 

「単刀直入に言います。こころさんを嫁にください!」

 

バッと頭を下げる。

 

静かな時間がすぎる。

 

当主の言葉はない。

 

どんな刑に処すか考えてるんだろうか。

 

上等だよ。なんでも来いや。あの子たちと一緒になれるなら、なんだってしてやるよ。

 

少し経って、頭を上げなさいと、当主の声が聞こえた。

 

言われたとおり、姿勢を戻す。

 

「あなたのことは、いろいろと調べさせてもらったわ」

 

こころに似てるけど、深みと重厚感のある声。姿勢はそのままで、表情も変えることなく当主は言った。

 

「去年から娘と出会ってバンド活動をしてたこと。娘以外にも関係を持ってる女性が多くいること。実に自分勝手に振舞っていること。そして、海外と揉め事を起こしていること」

 

当主は机に広げた資料に、少しだけチラリと視線を落とした。

 

「このタイミングで娘が欲しいって言うことは、海外に娘を連れていくつもりなの?」

 

「はい。仰るとおり、アメリカで暮らさないといけない可能性があるので、最悪の場合はこころさんを連れて、アメリカで暮らすつもりです」

 

「自分勝手ね。初対面で会って早々、娘を海外に連れて行く? そんな勝手が弦巻に通ると思ってるの?」

 

「思っていませんでした。でも、もう絶対に認めてもらうと決めて来ました。非常識なのも、無理を言ってるのも承知の上です。でも自分はどうしても、こころさんが欲しくて仕方ありません」

 

なんとでも言って、いくらでも睨んでくれ。そうされて当然なことを俺はしてるんだ。

 

「……娘以外にも関係を持っている子がいるのよね」

 

「はい。他に4人います。みんなアメリカへ連れて行くつもりです」

 

「4人、ね。どうしても、こころが欲しいってわりに、ずいぶんと気が多いのね。本当にこころが好きなの?」

 

「はい。でも誰1人として諦めるつもりはありません。みんな愛してます」

 

始まりは計画的なものだったかもしれないけど、1人1人を愛してる。それに、みんなの気持ちは伝わったし、俺もみんなに迷惑かけることに納得してる。だから俺は引かない。

 

「ふーん……。でも、大切な娘をアメリカに連れて行かれるのは困るのよ。弦巻家ってね、そんな簡単な家じゃないの。あなたがアメリカに娘を連れて行って、娘の身の安全は誰が確保するのかしら?」

 

「もちろん、自分が守ります」

 

「あなたが? あなた、自分の身が守れないからアメリカに行くんでしょ? 冗談は止めてくれる?」

 

「それでも守ります」

 

「どうやって?」

 

「わかりません。でも、もうやり切るって決めました。何がなんでも守ります」

 

「ふん。話にならないわね」

 

「……」

 

目は逸らさない。俺だって無茶を言ってることは承知してる。だから最初はみんなを置いていくつもりだったんだ。でも、有咲たちに俺の好きなことをしろって言われた。こころも俺に付いていくと示してくれた。だからもう、理屈は関係ない。

 

「あなた、インターネットでVtuberをしているようね」

 

「……はい」

 

「セントー君だったかしら。彼にはたくさんの頼りになるファンがいるって話だけど、その人たちには頼らなかったの?」

 

「はい。これは自分が始めた問題ですから。あいつらは自分を止めてましたけど、自分はそれを振りきって我を通しました。これ以上、迷惑はかけられません」

 

適当に手打ちにして、なあなあで済ませようって言われたのに、俺の感情が納得しないから突っ切った。

 

「そうなの。……熱心なファンだったら、それでも相談して欲しいと思ってるんじゃないかしら?」

 

「そうかもしれません。アメリカへ連れて行くファンの女性に、自分一人で悩むなって怒られましたし」

 

ライブ後に、有咲と香澄にも弦巻家に行ってくることを伝えたんだけど、そのときに泣きながら言われた。

 

次は必ずそうするさ。まあ、人生は長いんだ。きっとまた悩むことがあるだろうから、そのときは必ず相談しようと思う。

 

「そう。ならなんで相談しないの?」

 

「いくら彼女たちだって、もうどうすることもできない状況になっています。ここで無理して被害を受けるより、このまま終わったほうがいいです。俺はもう、覚悟は決まってますから」

 

悩みはもうない。後に背負うものも、みんなと共有し合うって決めた。

 

「そう。つまり、あなた一人で勝手に決めて、勝手に出て行くつもりってことね。それは少し薄情なんじゃないかしら?」

 

「そうかもしれません。でも、もう決めたことです。それに、あいつらなら、いずれわかってくれると思います。これがセントー君にとって、有終の美なんだって」

 

ベストじゃないけど、ベターな終わり方なんじゃないかな?

 

生活全ては守れなかったけど、俺は大切なものを手放さなかったんだから。

 

「そうかしら。激怒してるかもしれないわよ」

 

「慣れっこです。いつも怒ってたし、怒られてましたから」

 

たぶん、最後のお別れ動画をするときも怒られるんだろうな。ちょっとだけ気が重いけど、最後くらい全て受け止めてやるつもりだ。

 

「……そう。彼女たちに言い残すことはないの?」

 

「……あるとすれば、感謝、ですかね。彼女たちがいなければ、自分はこんな決断をすることができなかったと思いますし。本当に心から頼りになる人たちでした」

 

こんなワガママなヤツに、よくもまあ、ここまで付き合ってくれたもんだよ。……本当に心の底から感謝してる。俺はすごく運が良かったって思うよ。こんな恵まれた環境に出会えたんだからな。

 

「そう。……こう言ってるわよ、みんな」

 

当主が目の前のノートパソコンの画面を俺の方へ向ける。なんだろうと覗き込んだ。

 

「……は?」

 

そこには、なにやら見覚えのある名前のヤツらのコメントが大量に流れていた。

 

[いえーい! 鹿、見てるぅー?]

[水臭いぞ、鹿ぁ!]

[ガチの敬語って久しぶりだよな。てか、娘を嫁に欲しくて頭をさげる男って新鮮……!]

[先に相談しろって言ったよね? なに、耳が聞こえてないの、お前?]

[社長、ノリノリ過ぎてほんと草]

[先月に発表したゲームが30%しか開発が進んでないじゃん。え、ディアゲに後ろ足で砂をかける気なの?]

[マジで社長の貫禄がヤバい。やっぱ弦巻は恐いんだなって]

[鹿もさ、自分に素直になるのはいいけど、もうちょっと理由を考えようぜ。具体的なことは一切考えてないけど、とりあえず頑張りますが許されるのは中学生までだぞ]

[鹿も結婚する歳になったのか……]

[今度、弦巻令嬢とありさにゃんZを連れて、うちに来な。美味いラーメン食わせてやるよ]

[てか、マジで弦巻が初期勢だって気づいてなかったの? 節穴では?]

[予定通り鼻はへし折れたかな? 泣きついて来なかったのは残念だったけど]

 

「え、なにこれ、どういうこと?」

 

間違いなく初期勢のコメント。なんで当主が見てんの?

 

「どうもこうもないわよ。私もいわゆる初期勢よ。あなた、本当に気づいてなかったのね」

 

「いや、だってそんなの……マジ?」

 

確かにコメントでも、そう言ってるけど……いや、でもそんなこと言われたことなかったよな?

 

「マジよ。そもそも、1年前のガルパのライブで声をかけたじゃない。覚えてないの?」

 

「覚えてるわけないだろ! 完全に初対面だと思ってた……」

 

確かにガルパのライブ前に初期勢らしき女性2人に絡まれた覚えがあるけど、普通は顔まで覚えてないだろ。その後のライブでも2人を見かけることはなかったし……。まあ、弁護士の方はテレビにも出てたから覚えたけどさ。

 

てか、こころの母親が初期勢なの?

 

マジで?

 

……花音よ、どうやら計画は最初っから破綻してたみたいだぞ。これは俺のせいじゃないからな。

 

「ライブに初期勢っぽいヤツがいないと思ってたけど、お前らずっとネットに張り付いてたのか」

 

[何も言わないお前の尻拭いのためにな!]

[せっかく勝ち取ったチケットを棒に振ったんだから、埋め合わせは期待してるぞ]

[今度、文化祭スタイルで演奏してもらおうか?]

 

ふざけんな、女装なんて二度とやるか。

 

このコメントはきっと、文化祭ライブの映像を初期勢に公開したヤツだろうな。お前の顔は覚えてるからな。

 

そんなとき、見覚えのある名前が出てきた。

 

[ありさにゃんZ:悪い、遅れた。今どういう状況?]

 

「あ、有咲! お前、知ってたのか!?」

 

[ありさにゃんZ:さっき知った。弦巻さんから、お母様からお話があるみたいって電話を渡されたんだよ]

 

「これから打ち上げだったろ?」

 

[ありさにゃんZ:そんなもん、これが無事に解決すれば何回でもできんだろ。弦巻さんから伝言がある。これはお母様や有咲たちの戦いだから、あたしは動いちゃダメらしいけど、頑張って。だってさ]

 

「そうか。……それなら、よけいに頑張らないとな」

 

笑顔のこころが思い浮かぶ。うん。もっと元気が出てきた。

 

[熱いねー!]

[イチャイチャすんな!]

[表は弦巻令嬢。裏はありさにゃんZってこと? 果報者め!]

 

「うるせーよ、わかってるよ」

 

他にも花音に美咲、香澄がいる。本当に俺は幸せものだ。

 

「話は終わってからにして。とりあえず、今の状況よ」

 

当主がそう言うと、茶化すようなコメントがピタリと止まった。そして次々に報告が流れてくる。

 

[とりあえず、アメリカ内の中立派の株を抑えたぞ。過半数にはいかないけど、敵に回らないように圧力かけるには充分だ]

[アメリカの男性擁護団体へ情報を流した。あとは敵対議員の事務所にスキャンダル資料を匿名で送りつけるだけ。鹿のファンが合流するだろうから、さぞ燃え上がるだろうな]

[アメリカのフェミ団体にも情報流しといたぞ。フェミを弾圧する動きがあって、そのためにデモを起こさないといけないから、今すぐ協力者の議員に連絡を取れってな]

[ツイッターの方でも急速に広がり始めてる。アメリカのファンを上手く焚き付けてきた。すぐにトレンド入りするぞ]

[ネット上のニュースサイトの買収が終わった。ネットはもう大丈夫]

[南米の男性擁護団体にも、さっき情報を流した。アメリカで使われてる興奮剤の強度の情報だ。今なら、それだけで炎上するはず]

[伝手のある日本の業界人には話は振ってある。味方につかなくてもいいけど、敵になるなって言っておいた]

[ヨーロッパの男性人権団体への話もついた。積極的な支援は行えないけど、メディアで広く遺憾の意を表明するってよ]

[公安はさすがに無理だった。でも、積極的関与はしたくないって言ってもらった]

[裁判所はいつでもOKよ。むしろ、政府の通知が遅くてイライラしてるくらい]

 

「お前ら、なにやってんだよ……」

 

話が大きすぎて思考が追いつかない。

 

なに? 国内外の団体とやり取りしてたの? それに株とか買収ってどんだけ金をつぎ込んだんだよ……。

 

俺のポケットマネーで補填できる? 3桁億円はさすがにキツイぞ……。

 

「物事にはね、勝ち方ってものがあるのよ。この件を乗り越えて、その先に私たちが望む未来があるのか。結果として、アメリカには少し荒れてもらうけど……仕方ないわよね。彼女たちから仕掛けてきたケンカだもの」

 

やり過ぎじゃないかって顔の俺に、当主が言った。

 

[ここでヤツらとの因縁は断ち切らないと。次の手なんて打たせないように、もう私たちとは関わりたくないって思わせないと]

[私たちは初めから穏便に済ませようとしてきた。それでも噛み付いてきたのは向こう。因果が巡って来ただけのこと]

[ただの自業自得]

 

言ってることはわかる。より強固な次の一手が出てくる可能性を潰すってことだろ。それができないから、俺だって足掻くのを止めたんだ。

 

これを潰さないと、何をしたって、その場しのぎにしかならない。

 

「それに……“弦巻”がいるって言うのに、私を無視して話が通ると思われているのにも言いたいことがあるしね。ふふっ、楽しみだわ……」

 

[魔女の子孫が、本物の魔女になったな(恐]

[私たち味方だからね。矛先を向けないで……!]

[頼もしいのに、めっちゃ恐い(震]

 

はい。私怨、入りました。

 

やっぱり初期勢はこうじゃないとね! マジ鬼畜!

 

「さあ、海外は時間の問題よ。仕掛けた爆弾が爆発するまで待てばいいわ。残すは日本国内だけ。……覚悟はいい?」

 

「……覚悟なんて、何時間も前にできてる。俺が何をしたら、どう変わるのかはわからないけど、やるさ。徹底的にいこう。それで生活が変わったとしても、そこにあの子たちがいるなら、あとで居心地が良いように変えていけばいい」

 

正直に言えば、まだ当主が初期勢ってことが信じられないんだけど、それも受け入れるさ。当主だけならまだしも、初期勢が俺を騙そうなんてしないだろうし。

 

それに、さっきも言ったけど、今の俺はやる気に満ち溢れているんだ。失敗に終わっても、こころは奪っていけそうな流れだし、それなら少しだけ引っ掻き回してやろう。

 

俺だって、やられっぱなしは嫌だからな。

 

「いいわ。それじゃあみんな……」

 

当主と目が合う。頷き合う。

 

[[[[[[「「反撃開始だ」」]]]]]]

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