(仮題)とある転生者の異文化体験 作:ピッピの助
この小説はバンドリ2次創作です。バンドリキャラが絡まない部分は世界観を見せるためのフレーバーだと思ってください。ある程度、設定は練っていますが、速度優先なのでガバガバです(保身)。
作者は圧倒的チートを持って、バンドリキャラといちゃいちゃしたいだけです。
そして今回から、作者が待ちに待ったヒロインとの邂逅です。思うままに書きなぐってたら、ダラダラと長くなってしまいました。
高校編
2度目の人生でも時間は同じように過ぎていく。
ピアノ弾いたり、歌ったり、ピアノ弾いたり、勉強したり、ピアノ弾いたりしていたら、あっという間に卒業の時期が来て、あっという間に高校入学して、あっという間にもう数ヶ月が過ぎていた。
当たり前だが、俺を取り巻く環境は変わった。
まずはVtuber活動についてだが、なんとチャンネル登録者が500万人を突破した。
2年目で50万人で、3年目で500万人とエグい増え方をしているのだが、もちろん心当たりはある。
英語の歌を投稿したのだ。
それまでセントー君どころか、Vtuberの存在すら認識してなかった視聴者が見に来てくれるようになり、一気にチャンネル登録者が増えた。
チャンネル登録者が増えると、それに比例するように再生数が伸び始め、気がつけば再生数が億に達する動画がで始めた。
この時点で、もう意味がわからない状態だったのだが、それだけでは終わらない。
海外で反響があったことで、国内の知名度も急上昇したようで、日本のチャンネル登録者もぐんぐんと増えていったのだ。おすすめに急に上がってきたとか、海外で流行っているらしいので、などの初見コメをしてくれる人がけっこういた。
寄付の目標金額も5,000万円を突破した。一ヶ月で1億だぞ。頭おかしい。こんな金があっても使い道ないって(小市民感)。
そんなこんなで、雑談動画では俺のことを世界で一番有名な日本人とかいうヤツも出てきた。
いや、もちろん言い過ぎだからな。現役歌手で限定しても疑わしいから。あんまり持ち上げられると恥ずかしいから止めてほしい。
寄付を釣り上げた以外は、基本的にこれまでどおりの活動をしているのだが、それでも変わったことはある。
いろんなお誘いが増えたのだ。
音楽レーベルのお誘いは丁重にお断りしてから収まっていたのだが、今度は海外のレーベルからメールが来た。
実は、動画の投稿で海外にも人気が出てきたのだが、曲自体の評価はそこまで高くない。
前世でJ-POPが海外であまり振るわなかったように、日本と海外では好みが違うのだ。
言葉が違うってのもあるけど、曲調が違う。海外の人が好む音がJ-POPではあまり使われてなかったり、純粋にリズムやテンポなどの音の魅せ方が異なることが原因だ。要は好みが違うのだ。
もちろん、チートで編曲してから投稿すれば、海外で大ヒットする曲を作ることは簡単だ。でも、俺は曲調を含めて、前世で俺が好きだった曲を投稿している。
好きな歌をそんなに好きじゃない歌に変える? 金にも困ってないのに? そんなバカなことはできない。
一応、言っておくと、チートのおかげで俺の声は海外でも絶賛されている。素晴らしい歌声だとか、オペラで聞いてみたいとかコメントを貰ったりする。
それと同時に、曲を変えれば一気に伸びる! なんてコメントも頂戴する。
激しく余計なお世話で、俺もそういったコメントは無視しているのだが、それでもチャンネル登録者は増えてった。
これにも裏があるようで、男不足は海外の方が深刻なのだ。海外では日本以上に男との接触機会が少ないらしく、男が流暢な英語で歌う、それだけで珍しいものみたいだ。
もちろん海外にだって男の歌手はいる。でも絶対数が足りてないし、そこまで歌が上手いわけでもないので、俺の歌声が好きでファンになってくれた人がすごく多いらしい。
そんなわけで海外から届くメールが、うちのレーベルに来れば売れる曲を作ってやるぞ、だ。
丁寧にお断りさせていただいた。
正直、翻訳するだけ面倒くさくなってきているので、最近はとりあえず初期勢にメールを転送して、いい感じのお断りメールを返してもらってる。
まあ、それでも亡命のお誘いメールに比べれば何千倍もマシなんだけどね。何が悲しくて悪いことしてないのに国外に逃亡しなきゃいけないんだよ。うちの国に来れば今より生活が良くなりますよって書いてるけど、今の生活は天国だと思ってるからな。
それはさておき、次に増えたのがテレビの出演依頼だ。
前世で○カキンさんが地上波に登場してたように、俺も番組で特集させてくれないか、というものだ。音楽番組の依頼もかなり多い。
ネット界ではカリスマYouTuberとして知られているが(出演依頼メールに書いてあった)、世間一般にはまだまだ認知されていない。地上波番組に出ることで再生数も増加しますよ。ってのが決まり文句だ。
もちろん、丁重にお断りさせていただいた。
今のままで充分すぎるし、テレビなんて出たら、余計にファンの手綱が握れなくなる。
今ですらもう、あっぷあっぷしてるんだ。
鹿のファンは弁えてるって評価されるけど、そのためにどれだけ視聴者を叱ってると思ってるんだ。
海外ファン? 知らんよ。俺は日本人だから。
あと、シカキンっていい始めたの誰だ。この世界に○カキンさんいないだろ。シカは分かるけど、キンはどっから出てきた。ちょっとヒヤッとするから止めてほしい。
意外なことにコラボのお誘いは減った。
まあ、そもそも件数も少なかったし、断り続けて来たから当然っていえば当然なんだけどな。
少し前にあった俺に絡んできたVtuberの引退事件のあとは、パッタリと止んだ。
いや、気持ちはわかるけどさ、あれ、別に俺が悪いわけじゃなかったよね。ちゃんとフォローも入れたんだから、腫物に触るような扱いは止めようよ。別に仲良くしたいわけじゃないんだけど、避けられてるのがわかると少し悲しいんだわ。
遠回しのお断りにもめげず、1年以上前から動画の感想を呟いてくれるアイドルはいるけど、申し訳ないがアイドルとのコラボなんて炎上する未来しか浮かばないんだ。
いくらこの世界ではアイドルが異性と付き合うことがプラスに働くとしても、前世の感覚が抜けないんだ。
アイドルは異性と絡むだけでも絶対に面倒くさいことになる。些細なことでも揚げ足取られて炎上するんだよ。きっとそう、間違いない。俺は詳しいんだ。
彼女は歌が有名なアイドルだから、きっと処女膜から声が出てないとか言われるぞ。
これまで何年も必死で頑張ってきたのに、そんな終わり方なんて酷すぎる。しかも相手が俺とか冗談でも笑えない。断固阻止だ。
あとは、ライブのお誘いが増えた。
ガチものの音楽フェスのお誘いだ。FUTURE何とかフェスってやつの特別枠に出ないか、とか。
他の勧誘メールに比べると一番嬉しいのだが、これ以上ファンを増やしたくないのでパスだ。
実は俺のチート、生歌の方が圧倒的にヤバいのだ。
何故かといえばこの世界、前世ほどデジタル音質が高くないのだ。ハイレゾなんて言うまでもなく、CDですら音質が伝えきれていなかったりする。
あまり興味ない歌だったけど、偶然ライブで聞いたら虜になった、なんてのは、しょっちゅう聞く話だ。
まあ、そういうのもあってバンドが人気なんだろうな。
とにかく、フェスで歌おうものなら、これまで以上にファンが増えるのは間違いない。しかもYouTubeや掲示板が活動拠点じゃない、何してるかわからないファンが。
そんなん、どうやって躾けろっていうんだ。
いつもより丁寧にお断りさせていただいている。
Vtuber活動はそんなところだろうか。
とにかく、最近は英語の感想が増えているので、四苦八苦してる。
いや読めるんだけどね。流石に2回目の高校生となれば、英語だってわかってくるさ。でも文化の違いがあるから、どう返すのが無難なのか調べなきゃいけないのが辛いところ。いつまでも初期勢にロハで頼むわけにもいかないし、今度、人を雇ってサポートしてもらおうか考えてるほどだ。
そして本題だ。
なんと私、高校に入ってバンドに参加することになりました!
いやー、これがこの1年で一番嬉しかったね。超テンションが上がるわ。
バンドの名前はハロー、ハッピーワールド!
略してハロハピだ。
変わってるけど、イカした名前だろ? 曲名じゃないからな。バンド名だ。
変わってるのはバンド名だけじゃない。歌も、演奏も、パフォーマンスも自由で、なんならバンド活動だけがメインじゃないほどだ。皆楽しく、人を笑顔にするのが目的のバンドだ。俺はもちろんキーボードをしてる。
ギターもベースも初心者で、ドラムも個人練習の経験しかなく、ボーカルだって専門的な練習をしたことがないメンバーだ。
でも大丈夫。このバンドは才能に満ち溢れてる。さっき言った初心者のギターとベースだが、始めて数ヶ月だっていうのに、もう10曲は弾きこなしている。ドラムも勤勉な性格で、ちょっと走り気味のベースや、独特な世界観を表現し始めるギターをやんわりと抑えてくれるありがたい存在だ。
そしてボーカルだが、彼女は頭一つ抜けている。超が付くほどの感覚派なのだが、マジモンの天才だった
天真爛漫、純粋無垢で朗らかな女の子。活動的でもある彼女が動くときは、その腰まで伸びる綺麗な金髪がふわっと持ち上がり、勢いよく宙を泳ぐ様子に何度目を奪われたか知れない。しかも胸が大きい。比較的スレンダー(笑)が多いメンバーの中では、ドラムと並んでトップの大きさを誇っている。純粋無垢なのに、どちゃくそエロい体つきは反則である。絶対に意図してないのに、腰つきがエロいのはどうにかならないんだろうか。
で、そんな超絶美少女の彼女だが、作詞作曲も務めている。いい曲が浮かんだわ、と言ってリズムを口ずさむのだが、それが本当に名曲なのだ。慌ててそれを曲に起こしてみれば、もう完成度の高いフレーズができている。
同じように彼女が思い立った歌詞を形にすれば原曲完成。彼女にそれを渡して、俺がキーボードで主旋律を弾いてみれば、彼女はそれを思うように、自由に歌い始める。彼女の声がずば抜けて優れたものというわけではないが(俺は死ぬほど好き)、楽しさを全身で表現して歌う姿は何度見ても素晴らしいものだ。
何を言ってるかわからない? 俺だってわかってねえよ、思ったことを適当に喋ってるだけだ!
ギター、ベースも彼女に追従するだけじゃない。彼女らが楽しいと思う演奏を表現している。ジャズってこんな感じなのかって思ってるのは俺とドラムだけだろう。
ドラムは少々控えめな性格だが、みんなをいつも笑顔で見守ってくれている。
みんな心から尊敬しているメンバーだ。少し技量に差があったとしても、そんなもんは俺がピアノで調整するさ! このメンバーの代わりなんてありえないのだ!
そう、俺たちはみんな選ばれしメンバー!
それじゃあメンバー紹介いくぜ!
まずはボーカル!
容姿端麗、スタイルバツグンの異色の天才少女
“笑顔の波状攻撃” 弦巻こころ!
ギター!
ガチの演技力に、無限の包容力
“荒唐無稽の一人芝居” 瀬田薫!
ベース!
運動神経抜群のそれはそれは可愛い女の子
“北沢印は元気印” 北沢はぐみ!
ドラム!
引っ込み思案な快楽天先輩
“迷宮のジェリーフィッシュ” 松原花音!
ちなみに俺と付き合ってます。
DJ!
熊の皮を被ったハロハピのまとめ役
“熊の中の常識人” ミッシェル!(奥沢美咲)
ちなみに俺と付き合ってます(2回目)。
そして最後にキーボード!
皆さんご存知、音楽チートの権化
“仮面を被った笑顔の横綱” ミッキー!(海堂幹彦)
俺たち、世界を笑顔にするバンド ハロー、ハッピーワールド!
みんな応援よろしくね!!
私、市ヶ谷有咲には悩みがある。
というのも高校になって、バンドを始めることになったのだ。
戸山香澄っていう同級生に強引に誘われて、成り行き上、仕方なくバンドに参加することになった。
まあ、別にピアノは嫌いじゃないし? 香澄を始めとするメンバーだって悪い奴らじゃないから、バンドが嫌ってわけじゃない。
ボーカル&ギターにリードギター、ベースにドラムそして私のキーボード。バランスのいい組み合わせで、香澄以外は楽器経験者という結構いい感じのバンドだ。
名前はPoppin’Party。ポピパって呼んでる。わりといい名前だと思ってる。
まだまだ始めたばかりで、ライブだって数えるほど参加してないけど、みんなやる気があって、着実に演奏が上手くなっている。
不満なんてないけど、強いて言うなら香澄が強引過ぎる。学校をサボりがちな私のために毎朝、迎えに来てくれるのだが、朝のセントー君タイムを邪魔するのは止めて欲しい。
セントー君といえば、一年前から、その周りは随分と様変わりした。
きっかけは数カ月前に投稿したI Believeという歌だ。この英語歌詞の歌を投稿したあたりからチャンネル登録者がおかしな増え方をし始めて、気づいたらチャンネル登録者500万人を超えていた。
彼の一般向けの雑談配信では英語のコメントが現れるようになり、彼の動画の概要欄には、英語が上手に話せません、なんて注意書きが乗るようになった。
他にもテレビの出演依頼が来るようになったらしいけど、全部断ってるらしい。ときどきテレビのニュースで彼が取り上げられることがあるが、一切ノータッチらしい。
まあ、そんな中でも彼自身は変わらない。いつものように動画を上げて、いつものようにメン限の雑談を開いて、いつものようにゲーム制作の人材育成に投資している。最近はVtuberにピッタリの簡単な作りのゲームを思いついたと言って、それに熱を上げてる。人狼ゲーム? とかいうやつ。よくわからない。
本当は英語喋れる(ガチでペラペラの初期勢曰く、身内贔屓して辛うじてOKとのこと)けど面倒くさいから無視してるとか、テレビや音楽レーベルからの依頼をすべて一読もせずにテンプレ回答させてるとか、内実を知らなければ謙虚なVtuberとして世間一般に少しずつ知られるようになってきた。
初期勢である私たちからすると、いずれこうなるとわかっていたので、ついに来たか、という感じで、心は穏やかだった。
では、悩みはなにか。
それは説明した2つが関わってくる。
バンド活動を始めたが、いきなり単独ライブなんて開いても何十人なんて人を集めることはできない。
香澄たちの友達を呼べばそれくらいは集められるのだが、チケット代を取るとなると、おいそれと友達を呼ぶことはできない。
そうなると合同ライブを開いて、複数のバンドが数曲ずつ歌う、というのが駆け出しのバンドが通る手段なんだ。
そう、この合同ライブなんだ。
複数のバンドが共演するってことで、事前に集まって打ち合わせをするんだけど、その中にハロー、ハッピーワールド! ていうバンドがいる。
なんか、そのメンバーに男がいるんだよな。
今、丁度目の前にいる。
いや、別に男がいるから嫌っていってるわけじゃないんだ。
なんかその男、すっげえ体格いいんだよ。あんなでかいやつ滅多に見ないからわからないんだけど、たぶん身長が180cmは超えてるんだよな。
横にも大きいんだけど、太ってるってのじゃなくて、ガッチリしてる。
その男の目線を気にしてると、自意識過剰かもしれないけど、私とか上原さん、白金先輩、大和先輩にいってる気がするんだよ。あ、3人は別のバンドのメンバーな。
で、私たち4人に共通してるのが、その、む、胸が大きいってことなんじゃないかなって。
服装でごまかしてるけど、3人は胸が大きい人特有の肩を少し前に出した、身を縮ませた姿勢をしているから、たぶん間違いない。私も前は同じ姿勢してたからよくわかる。
今? 今は胸が大きいってのは、自分の良いところだと思ってるからな。むしろ胸を張って歩いてるよ。
3人とも、その男の視線を感じてるのか、なんだか居心地が悪そうに身をよじってる。
ああ、ダメだって。そのよじり方だと胸が強調されるから、かえって男の視線がキツくなるって。
ほら。
男の視線は3人を順番に回った後、私に戻ってくるんだが、そのときに私と視線が合う。
絶対に胸を舐め回すように見てたくせに、堂々とした視線。
とある鹿の「いやあ、世間じゃ胸を見てもエロいこと考えてるって思われないから最高だわ。俺が凝視しても、むしろ相手が自分は何かしたのかって戸惑うだけで、俺に非難の視線がくることがない」なんて、まるで小学生の男の子を舐め回すように見る中年女性のようなことを言ってたのを、何故か、ふと思い出した。
ちなみに鹿はその後、女の子をビビらせるな、という初期勢からの猛攻撃に遭うことになった。最終的には女の子に興味があるのは良いことだよねって結論で落ち着いたけど。ちょっと甘かったかなって反省してる。
その男は、私が目線を逸らさずにいることを不思議がっているのか、私の胸と目を行き来しながら少し眉を顰めた。
実はファッションモデルなんですって言われても不思議じゃない絶世の美女である、おたえに視線がいかないことも私には全くおかしいと感じられない。
極めつけはその声だ。
あいつは一般向けではボイスチェンジャーを使っているが、メン限では面倒くさいって生声で配信している。配信よりもドキッとするほどよく通る声だ。合同ライブのメンバーがそろって一番最初の自己紹介の時しか声を聞いてないが、初期勢である私が聞き間違えることはない。
男は私の視線を訝しがりながらも、また3人に視線を戻し、よく見ないとわからないほど小さく頷きながら視姦する。
あ、肩が少しビクッとした。
どうやら両脇に座る同じメンバーに抓られたようだ。松原先輩と奥沢さんだったかな。2人は笑顔だけど、目が笑ってない。怖い。
たしか早速二人の女の子と付き合うことになったんだっけ。
デビュー当初から宣言してたけど、こうも素早く行動を起こすとは思わなかった。まあ、わかってたから驚くことはなかったけどな。次の日の朝ごはんのときに、婆ちゃんに調子悪いのかって言われたけど全然そんなことなかったし、学校休んだのだって、その頃は毎日サボってたから普段通りだし。
……そうすると、この2人が付き合ってる子か?
うん? なんだかアフターグロウの美竹さんがギョッとした顔してる。
ああ、その位置だと松原先輩と奥沢さんが抓ってるところが見えるのか。
そりゃあ、一回りも二回りも大きな男にすることじゃないよな。普通だったら何されるかわからなくて怖すぎる。
静かに笑みを浮かべる松原先輩と奥沢さんを見て、美竹さんは目撃したことを疑ってる感じか。
てか、今思ったんだけど、奥沢さん、胸、小さくね?
いや、世間一般でスタイル良いってことなんだけど……え、いいの? Bもないだろ。松原先輩だってDくらいじゃないか? 少なくてもEは欲しいとか言ってなかったか、お前。
これは報告案件だぞ。女性関係じゃあ、私も容赦する気はないからな。
「ねえ、有咲有咲」
「うん? 何だよ?」
どんなふうに燃料投下してやろうか考えてると、香澄がちょいちょいと服の端を引っ張ってきた。
「何って、移動しようよ。これから演奏するんだよ」
「あ、やべ、そうだった」
目測だが、一番立派なものをお持ちの白金先輩が所属しているロゼリアの要望で、それぞれのバンドが一曲ずつ演奏することになったのだ。なんでも、演奏レベルが低いライブには出ないとか。
プロ意識たけえな、と思うし、なんだか引っかかる物言いだったけど、その程度で怒るようヤツは初期勢にはいない。
「もー有咲、しっかりしてよね」
「……ああ、香澄に言われるのはマジでマズいな。気をつけるわ」
「えー、なにそれー!」
いつものように香澄と軽口を叩いていると、視線を感じた。
もちろん、あの男のものだ。だが、今度は胸でなく、私の目をじっと見つめてくる。
「……同い年、男勝りの口調、ツッコミ役、初対面なのにビビってる様子がない」
小さい声で呟くように、でも不思議と通る声で男は続ける。
「……そして胸を隠す様子がない。可愛い服だからオシャレに無頓着ってこともない」
完全に男から目を離せない。でも、何となくみんなが足を止めて私と男を見てるのがわかる。
そして男から決定的な一言が出てきた。
「……ありさにゃんZ?」
その言葉が終わる前に足が勝手に動き始めた。
「え、有咲!?」
香澄が驚いてる声が聞こえたが、答える余裕はない。
ズンズンと歩いて、男、セントー君の腕を捕まえる。
「え?」
呆気に取られた顔をする彼。そのまま腕を引っ張るが、根っこが生えたようにびくともしない。
もどかしい。
「いいから! こっち来い!!」
顔が真っ赤になってるのを感じながら、彼を怒鳴りつける。
彼は反論することもなく、驚いた顔のまま歩き出してくれた。
私がようやく落ち着いたのは、このライブハウスCircleから彼を連れだして、通りから影になっているところに到着してから少し経ったころだった。
ずっと息を切らしたように呼吸する私の背中を、彼は優しくゆっくりとポンポンと叩き続けてくれた。
落ち着くんだけど、また頭に血が上るから止めて欲しい。
いや、嘘。やっぱ続けて。
「セントー君、だよな?」
「そうそう。よくわかったな」
「いや、わかるだろ。お前みたいな男、他にいないって」
「マジで? あんまり喋ってなかったんだけど」
「喋らなくても態度でわかる。言っとくけど、初期勢だったらみんな気づくからな。あと胸見過ぎ!」
「いや、みんな可愛くてつい……。てかありさにゃんZ、本当にスタイルいいね」
嬉しそうな顔で私を見てくる鹿。
ほかの人に胸をジロジロ見られると居心地が悪くなるんだけど、こいつにこうも嬉しそうな顔をされると、仕方ないなって気になる。
「もういいから。あと、ありさにゃんZって呼ぶな」
「え、ダメ?」
「ハンドルネームをリアルにまで持ち込むな。マナーの問題だから」
「まあ、確かに」
正論には弱い彼。不満はあるけど、納得してくれる。動画で話す彼と全く同じだ。
「有咲でいいからさ、私のことは」
「了解。リアルでは有咲ね。俺のことは幹彦かミッキーのどちらかで頼む。一応、俺も身バレは避けたいからな」
彼がこうして名前を呼んでくれる。夢にまでみたことだけど、叶わないって諦めてた。
「お前、ミッキーって柄かよ」
顔が赤くなるのを誤魔化すように口を開く。
「正直に言うと、メンバーを含めて誰もそう呼んでくれないんだよ」
「だろうな。そう呼ばれるには、もっとファンシーな見た目が必要だったと思うぞ」
「カイドウとかミキヒコは強そうだろ。ハロハピには合わないって」
「まあ、ビビる子はいると思う」
「だろ? ハロハピは世界を笑顔にするためのバンドだから。怖がらせるとかありえない」
随分とバンドに入れ込んでいるのは雑談で聞いてる。初期勢の中では、いつまで所属バンドを隠し通せるかはホットな話題だったりする。
「じゃあ、幹彦って呼ぶ」
「ああ、よろしく有咲」
鹿でもセントー君でもなく、幹彦。ただ呼び方が変わっただけなのに、それで頭がいっぱいだった。
この出会いが衝撃すぎて、その後のことは断片的にしか覚えてない。
なんかポピパのみんなに質問攻めにあったり、浮かれ気分でノリノリに演奏したんだけど、他のバンドの演奏があまり記憶に無い。
あ、ハロハピは別。やっぱり彼の演奏はすごかった。
正直、彼じゃなくて弦巻さんがボーカルってところに少し思うところがあったけど、歌を聞いてみて納得した。
確かに自由だ。どこまでも楽しげで自分の感情を全身で表現している。ともすればバンド全体が彼女に引っ張りまわされそうなのだが、そんなことはない。
ギターの瀬田先輩やベースの北沢さんは、弦巻さんの声や動きを横目に自分の演奏を楽しそうに弾いていて、ドラムの松原先輩は3人を楽しそうに眺めながら演奏している。
DJのミッシェル? 奥沢さんはちょこちょこと音を入れつつ、弦巻さんに合わせて踊っている。
そしてキーボードの彼がハロハピの多種に渡る音源を担う。見るからに多機能なキーボードを2台(!?)並べて使い、そのうえで走り気味なベースや、外れそうなギターをドラムの音に誘導している。キーボードをやってる身からすれば恐ろしい運動量で、私がやったら絶対に途中で息切れする自信がある。てか、こんなマルチタスクできるかよ。
でも彼は、楽しくて仕方がないといった様子で演奏している。
彼は演奏中は笑顔の仮面を被っているのだが、その下では全力で音楽を楽しんでいると想像できる。
これは初期勢だからわかるってわけじゃない。誰が見たって、彼が全力で楽しんでることが理解できる。その動きや、彼の奏でる音がすべて喜んでいる。
そして彼の音を聞いて、弦巻さんのボルテージが更に上る。
ミッシェルが弦巻さんに手を取られて振り回されながら踊る。
釣られて瀬田先輩と北沢さんのベースもより自由な演奏をし始める。
松原先輩が困った顔をしながら、笑顔を漏らしている。
その弾み上がる演奏を、彼が高い次元でまとめて、更に音を入れていく。
音がどんどん溢れていき、弾けるように演奏が終了した。
ハロハピはまるで何曲も演奏したかのように息をついていた。
そりゃそうだと思った。こんな限界をどんどん引き上げてくような演奏をしてたら、体力がいくらあっても足りない。人が全力疾走できる時間なんて多くないんだ。まあ、半数がまだ余裕そうな顔してるけど。化物か、こいつら。
とにかく、それほどまでに圧倒的な演奏だった。完成度も高く、熱量が半端ではない。その上、今現在も急激な成長をしてるのが感じられる。
みんなが言葉を無くしてるのが見えたが、こうなることがわかってた私は驚かない。
ただ、いつか私たちもあんな演奏ができるようになりたいと、そう思った。
イメージ曲
I Believe~あたらしい予感~(Brenda)
To HeartのED曲の英語版です。当時、若かりし自分はエロゲの歌を外人歌手が歌うことが衝撃的で、混乱しながら聞いてたのを覚えてます。思い出補正が大いにありますが、名曲なのは間違いないです。
「Before my body is dry(小林未郁)」とか「BRE@TH//LESS(小林未郁)」、「Drifting Soul(ACE)」のどれかを使おうと思っていましたが、ここで使わないと、これからずっと知る機会がない人がいるんじゃないかと思い、こちらを採用しました。
変化の回でしたが、違和感を感じさせてしまうので、ノリを強めに行きました。次回からはこのノリが出せなくなると思います(恐怖)。