(仮題)とある転生者の異文化体験   作:ピッピの助

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感想ありがとうございます。全部ありがたく拝見させていただいてます。
「シカキン…鹿…課金…鹿(課)金?」 この発想はなかったw
4話の金額計算ミスのご指摘もありがとうございます。修正させていただきました。
この小説はハーレム小説になります。


7.5話(今井リサ視点)

最初は変わったバンドだなって印象しかなかった。

 

男の子がメンバーにいるなんて珍しい(アタシは初めて見た)とか、熊のきぐるみ着てる(奥沢さんが入っているらしい)とか、同じ学園の超有名人の瀬田薫がいる(近くで見るとマジ美形)とか、そんなところしか注目してなかった。

 

たぶん友希那や紗夜も同じだと思う。興味深そうに男の子に視線を送るけど、さっき演奏したアフターグロウのときみたいに見極めてやろうって感じがない。まったく2人とも、目標に真っ直ぐなのはいいけど、もう少し言い方や当たりを優しくしてくれないかな。その子たち、うちの学園の可愛い後輩だよ。

 

あこは純粋に楽しみだと、はしゃいでいる。アフターグロウにいるお姉ちゃんの演奏の後だから、余計にテンションが上ってるのかな。本当に可愛い子だと思う。

 

燐子の様子は……少しおかしかった。とても人見知りする子だから、初めて会う他のバンドの人に緊張してるんだろうなと思ってたけど、途中からハロハピの男の子にチラチラと視線を送っていたのだ。

 

燐子らしからぬ行動にびっくりした。

 

女の子にとって、男の子というのは、その希少さから憧れであり、恐怖を感じる相手なんだ。

 

女の子だったら、漫画や小説、ドラマや映画のように、男の子と素敵な恋愛をして、いつかは結婚して……と夢見ている。

 

でも同時に、男の子が女の子にそれを求めてないことも理解している。

 

男の子にとって結婚、子作りは義務であり、小さいころから、それをしないといけないと口を酸っぱくして言われるものだ。ちょうど勉強のようだが、これには学ぶ楽しみもなければ、受験合格のような達成感はない。子どもが生まれることにだって、特になんとも思わないどころか、これで義務は果たしたと安心する人がいるらしい。

 

そんな男性事情はわかっているけど、やっぱり男の子に憧れを持っている。みんな口には出さないけど、テレビや雑誌、漫画などの媒体が、女の子の理想像を男の子に見せつけた。アタシが生まれる前の話だけど、それで一時期は男の子の自殺者がとんでもない数になったらしい。

 

これには社会全体が大慌てで対策を始めた。

 

それが男の子の好きなように生きさせ、女性がそれを受け入れるというものだった。

 

結果、出来たのが歪な社会だった。

 

無論、制限はある。男の子に危険がありそうなことはダメだし、海外旅行だって、旅行中に拉致されたら目も当てられないので禁止。

 

でも国内では明らかな犯罪でなければ許されてしまう。物を壊しても、元々物が劣化していただけで罪はないとなり、女性を傷つけても、初めに女性が不審な動きをしたことが原因であり正当防衛となる。

 

アタシの友達だって、男の子をナンパして、歯が欠けることになった子がいる。これも当然、お咎め無しだ。それどころか、アタシの友達のほうが厳しく事情聴取されたらしい。

 

昔は甘やかしすぎだ、という意見もあったらしいけど、それも近隣国が自然に還っていく様や、外国人労働者という名の奴隷が、みんなが嫌う仕事をやらされる様を見て、声を上げる人はいなくなった。

 

みんな、ああはなりたくないって思ってるんだ。

 

男の子がいれば子が生まれるし、精子は最重要物資だ。日本が裕福なのは、余った精子を海外に高額で輸出しているから、という面だってあるのだ。人工授精の精度がとても低いので、需要は決してなくならない。あればあるだけ売れるのだ。そして経済力があるということは、日本が滅びない担保にもなっている。

 

だからみんな男の子を許してる。

 

男の子が女性を物のように見てることはわかっているけど、どうしたらいいかわからない。だから望む環境を差し出して、精子を提供してもらう。

 

そうすれば、この社会を守ることができる。

 

そんな歪みきった社会が、今、アタシたちが生きている世界なんだ。

 

中3のあこならともかく、高2のアタシたちは、そういう状況をよく習ってる。

 

燐子は別の学園だけど、花女だって同じことを習ってると思う。

 

だからこそ不思議なんだよね。

 

男の子に近づくのは、覚悟がある人か、わかってない人だけ。急に男の子が来たら、普通の女の子は近づかない。

 

ましてや燐子は極度の人見知りだ。視線を合わせただけで緊張でガチガチになると思ったんだけどね。

 

今だって舞台に上がった男の子を見ている。

 

男の子は先程まで付けていなかった仮面を付けている。顔の前面を覆っていて、立体的なディスプレイが付いている。ディスプレイには(^ヮ^)こんな感じの笑顔が表示されている。

 

配置はボーカルの弦巻さんの後ろ。弦巻さんと少し距離を置いて配置しているのか、先ほどまで大きすぎると感じていた男の子の体がバンド全体でバランスよく映ってる。

 

男の子は斜め左右にそれぞれキーボードを置いていて、軽い腰掛けに座っている。

 

変な仮面を付けてるのに、とても自然な佇まいで、思わず息を呑んでしまう。

 

ただ演奏の始まりを待っているだけなのに、なんだか圧も感じる。

 

舞台上のハロハピはそんなのを一切感じてないようで、楽しそうに準備をしている。

 

こういうところでやるのは初めてね! とか、はぐみ早く演奏したーい! などと朗らかに話している。

 

でも、観客席のアタシたちは先程までの会話もなくなり、静かに舞台上を見上げている。

 

いや、唯一、市ヶ谷さんだけは別だった。

 

彼女だけは、ほんのりと顔を赤くしたまま、ボーッとした様子で見上げている。

 

彼女もわからない子だ。

 

さっきのポピパの演奏は楽しかった。まだ合わせ方が甘いかなとか、ボーカルの戸山さんのギターがちょっとハズレ気味かなとか欠点はあるんだけど、とにかく楽しい。メンバー全員が一体で楽しそうに演奏しているのを見ると、こっちまで歌いたくなる。

 

市ヶ谷さんもキーボードが凄く上手だったけど、彼女の場合はどうしても彼とのやり取りが印象に残ってしまう。

 

みんなで曲を披露しあうことになった直後に、彼女がガシっと男の子の腕を掴んで、無理やり外に連れだしたことだ。

 

あのときは彼女が心配で、危うく後を追いかけるところだった。ハロハピのメンバーが、どうしたんだろう? って呑気に構えてたから、大丈夫かなって思い直して動かなかったけど。

 

まあ、本当にマズかったら、アタシが動いたところでどうにもならないんだけどね。市ヶ谷さんの行動だけ見れば大惨事になってもおかしくない事態だった。

 

少し経って戻ってきた二人にはおかしいところはなかった。市ヶ谷さんが何だかポケーっとしてるけど、乱暴をされた様子もなく、ホッとした。

 

男の子の方はバンドメンバーに囲まれて、何があったのか事情聴取されていた。ミッシェルの中の人の奥沢さんが呆れながら「あんたさあ、時と場所をわきまえなよ」って言ってたのと、ドラムの松原さんが「自重しよ? ね?」って言ってたのは聞こえた。松原さんは笑顔だったけど圧がヤバかった。

 

市ヶ谷さんはポピパのメンバーに心配されつつ、からかわれていたが、心ここにあらずで生返事を返していた。

 

両バンドともすぐに落ち着いたから、あまり大事にならなかったのは間違いないはず。

 

なんだか、わからないけど、無事でよかった。他のバンドと親交を深めるためにも、今度ポピパを誘って事情を聞いてみようかなって思ってる。

 

そしてハロハピの演奏が始まった。

 

 

 

 

ハロハピの演奏が終わり、アタシは忘れていたかのように大きく息を吐いた。

 

体中がドキドキしている。全身が沸き立つような演奏だった。

 

ペットボトルの水を飲み、もう一度深く呼吸をする。

 

体中の緊張がゆっくりと解けていく。それと同時にドッと体が重くなった。

 

ただ聞いてただけなのに凄い体力を使ってしまった。

 

友希那を見てみると、こちらも汗を流しながら水分補給をしていた。

 

「凄い演奏だったわ。正直、レベルが違う」

 

「ええ。悔しいですけど、私たちよりも上だと感じました」

 

紗夜がハンカチで汗を拭き取りながら答えた。

 

「ヤバかったねー。瀬田さんも北沢さんも始めて数ヶ月でしょ? それなのに、こんなに上手いんだ。アタシ、もう追い抜かされてる気がしたよ」

 

アタシの方が何年も前からベースをやっていたけど、長いブランクがあるから、あの二人と楽器を扱っている時間はそんなに変わらないかもしれない。でも瀬田さんは演劇部の超有名人だ。演劇を辞めたって話は聞かないし、この前も中庭で演技の練習をしていたのを見かけた。絶対にアタシより練習時間は短いと思う。

 

アタシはロゼリアの中じゃあ一番下手だって自覚してる。すごいすごいと飛び跳ねているあこだって、子どもっぽいが実力は本物だ。さっき演奏してたアフターグロウのお姉ちゃんにだって引けをとらない。

 

ロゼリアがハロハピに負けるとしたら、やっぱりアタシが足を引っ張ってるんじゃないかって思う。

 

「……リサ、勘違いしてるようだけど、あなたの方が北沢さんより確実に上手いわよ」

 

「ええ、今井さんが思ってる以上に北沢さんとは差があると思います。もちろん今井さんの方が上手いと思ってます」

 

「え、そうなの? でもみんなすっごく上手くなかった? 瀬田さんと北沢さんだって何かすごく気持ちが乗った演奏をしてた気がするんだけどな。アタシなんて譜面を追っかけるのが精一杯だよ」

 

アタシにはあんな演奏はできない。みんなに迷惑をかけないように、頑張って譜面通りに弾けるようになって、ようやく少しずつ周りが見渡せるようになってきたくらいだ。

 

「自由に演奏してるのは間違いないと思うわ。でも、それは演奏を壊しかねない自己表現よ」

 

「私も湊さんと同じ意見です。ドラムの松原さんがリズムを綺麗に取っていましたが、弦巻さん、瀬田さん、北沢さんたちはリズムを意識してはいましたけど、自分たちの好きな演奏をすることに比重が寄ってました」

 

「え、でもそれじゃあ、まとまらなくない?」

 

ギターが走り過ぎてもボーカルが宙に浮き始めるのだ。ましてやリズム隊のベースが和を乱したら、絶対にどこかで曲が崩れる。

 

「そうね。普通ならそんな演奏はバラバラで、とても聞けるようなものではないけれど、それが一つの作品にまとまっていた。いえ、それを一つにまとめていたのよ。それが……」

 

「……キーボード、ですね」

 

「燐子?」

 

いつものように静かに、あこを見守っていた燐子が呟いた。

 

友希那と紗夜も、燐子へ視線を向ける。

 

「白金さん、彼をご存知なんですか?」

 

「……はい。もしかして……と思ってましたが……あの演奏で確信が持てました」

 

燐子が舞台上で楽器を片付けている彼に視線をやる。

 

「昔、ピアノをやっていたときに、有名な男の子がいたんです。……とてもすごい演奏をする子で、小学生なのに大人が参加する大会で賞を取るような子がいたんです」

 

「それが彼?」

 

「……はい。私はピアノを止めてしまいましたし……彼も事件があってピアノを止めてしまったので……それっきり話を聞くことはありませんでしたけど……あんなレベルの演奏ができる人が2人いるとは思えません」

 

「そんな人がいたんですね」

 

「へえ、訳ありなんだ」

 

「あ、いえ、彼が悪いわけではないんです……どっちかといえば被害者で……。……でも、まだピアノを続けていたんですね」

 

「なんか燐子、嬉しそうだね」

 

あこに見せる微笑ましい笑顔はよく見るが、はにかむような笑顔を見せるのは珍しい。

 

「……はい。本当にすごい子でしたから。……さっきの演奏だってそうです。氷川さんが言ってたように三人の演奏が外れそうになるたびに……彼がドラムの音に誘導させていました。……三人の個性を消すのではなく、思い切り演奏させた上で……まるで迷わず家に帰れるような自然な形で」

 

「えっと、三人がそれぞれリズムがずれそうになるたびに、ドラムの元へ戻してたってことかな?」

 

そう言いながら自分だったらどうかと想像する。友希那が思いっきり歌って、紗夜のギターが友希那と噛み合わなくなって、あこのドラムが2人とは別の速さで走り始めるという感じかな。

 

ダメだ。そんなの一瞬で曲がバラバラになる。アタシのベースで三人を元のリズムに戻すどころか、アタシのリズムが崩れるほうが早い。

 

「はい……それも、ハロハピの多種に渡る音をキーボードが一括して担った上で……です。……みなさんには申し訳ないですが……今の私に、彼と同じことはできません」

 

聞けば聞くほど並外れてる。

 

友希那は燐子の言葉に、そう、とだけ返し、このガールズバンドパーティーだけど、と切り出した。

 

「私たちとは目指す形が違うと思うけど、得るものがあると思うわ」

 

初めは期待外れの顔をしていた友希那だが、ポピパで表情が変わり、ハロハピが終わった今では、まるで挑戦者のような目をしている。

 

「同感です。Poppin’Partyも気になります。彼女たちの練習も見てみたいです」

 

純粋な技術を大事とする紗夜だったが、ハロハピだけじゃなく、ポピパにも何か感じるところがあったようだ。視線は鋭いままだが、さっきと違って、今はそれに熱がこもっている。

 

「アタシもいいと思うよ。演奏もそうだけどさ、同年代のバンドと仲良くなるのって大事だと思うんだよね」

 

もちろん、アタシも賛成だ。正直、友希那たちが言っていることを全て理解できたわけじゃないけど、ポピパやハロハピがアタシたちに無いものを持ってることは分かる。

 

それに、横のつながりは大切だ。あまり他人を気にしないメンバーばかりだから、アタシがしっかりサポートしないといけない。

 

「あこも! あこもそう思います!」

 

あこはお姉ちゃんたちと一緒にライブに出れるのが嬉しいのもあるのだろう。気負った様子は全く無い。

 

「……私も賛成です。怖いですけど……ロゼリアが今以上の曲を演奏する切っ掛けが……あるかもしれません」

 

燐子の目に力がこもっている。珍しい。燐子がこうして強く自分を出すのは滅多にない。

 

同郷のライバルが登場したことで、燐子の闘争心に火がついた……ってことはないだろうけど、思うところがあるのか、いつもより頼もしく見えた。

 

「決まりね。ロゼリアはガールズバンドパーティーに参加するわよ」

 

「おっけー!」「はい!」

 

淡々と告げる友希那の言葉に、アタシとあこが力強く返し、紗夜と燐子静かに頷く。

 

なんだかバラバラなアタシたちだが、気持ちは同じだ。

 

ロゼリアが最高の音楽を演奏するため、アタシたちは貪欲に突き進む。




原作とは異なる点:
① ハロハピに主人公が加入した
② 白金燐子が主人公を意識して(同じ仲間的な意味で)、自分も頑張ろうと思ってる。
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