ちなみに、艦娘視点の話は日記の穴埋め的なものです。
いつの話か、と言うのは結構あやふやなのでご想像にお任せ致します。
「ねぇ、時雨」
「ん?なんだい?」
「いなく、ならないよね?」
「……うん。大丈夫だよ」
「白露や村雨みたいにいなくなったりしないよね?」
「……大丈夫。大丈夫だから、ね。安心して」
「……うん」
「僕は、どこにも行かないから」
◇ ◇ ◇
何もかも諦めていた。
誰かがいなくなることも。
盾にされることも。
もう、諦めていた。
新しい提督さんが着任した。チラリとその顔を見てすぐに下を向く。期待する方が間違っている。どうせ変わらない。一度諦めたのだ。もう、戻ることなんてできはしない。
提督さんが着任してから初めての出撃。いつもの通りに動いて、動い───何で? 何で私たちを盾にしないの? 弾除けにしないの? 要らないんじゃなかったのっ!
必要ないから弾除けにしたくせに! 今更、今更私たちを使おうだなんて、ふざけるな! そう言いたかった。……提督が変わったのを忘れて。
ある日、提督さんを中庭で見かけた。あの時の怒りが再燃して、ズンズンと近づくと、ハッと気がついた。
泣いていた。
何で? どうして? 理由が全くわからない。こんなところを見るのは初めてだ。取り敢えず話しかけるっぽい?
私は感じていた怒りすら忘れるほどに困惑した。
「だ、大丈夫っぽい?」
動揺していた。だから思わず口癖が出てしまった。それに気づき、恐怖を思い出した。暴力を振るわれ、矯正された暗く、黒い思い出。
また、殴られる。
「大丈夫だ。別に、何かあったわけではないよ」
拳が飛んでくることはなかった。むしろ、落ち着いた声で、寂寥感を伴った顔をしていた。
「お、怒らない、の?」
「……怒る? 何をだい?」
思わず聞いてしまった。でも返ってきたのは酷く疑問に思う声だった。本当にわからないようで、少し安堵した。
その日から提督さんを見つけては話しかけた。少しだけお話してすぐに離れたけれど、段々とお話自体は楽しくなっていった。
みんなは提督さんを目の敵にしていた。私たち駆逐艦は弾除けにされたり、使われなかったりされただけだけど、他の艦は違う。色々なことをされた。だから提督さんを傷つけてしまうのはわかる。
だから隠れて提督さんとお話ししていた。みんなが酷いことをするとは思わないけど、きっと提督さんを悪く思うはずだ。そんなことにはなってほしくない。
提督さんとは色々なお話をしたっぽい。
美味しいもののお話。
仕事のお話。
好きなもののお話。
姉妹のお話。
家族のお話。
提督さんは家族のお話になると、決まって暗い顔をしていたっぽい。多分、いなくなったのか、離れ離れになってしまったのだと思うっぽい。
聞いてみたいけど、この関係が拗れてしまうのは嫌だ。そうして、ズルズルと聞けないままになった。
時は過ぎて、私たちは北方海域の攻略へと乗り出した。
さざ波が立ち、目の前には蒼く静かな空と海。そして、黒き異形の艦。
軽巡ホ級flagship、重巡リ級flagship、戦艦タ級elite、雷巡チ級elite、駆逐イ級後期型×2。
やっぱり、上位個体であるelite級、flagship級が多く出没するっぽい。更に最弱の駆逐イ級も後期型と強化仕様っぽい。
でも、ここまで提督の予想通り。この編成で勝てる、そう見込まれたっぽい。なら勝つっぽい。
私たちの編成は伊19、摩耶、夕立、赤城、時雨、榛名の6編成。提督さんは資源が〜ってぼやいてたっぽい。
イクさんの先制雷撃により、駆逐イ級後期型×2が退場。私たちの砲撃でelite級は大破。flagship級は中小破。それから敵の砲撃を掻い潜りながら私たちの砲撃を当てていく。
それから数分して全艦撃破になったっぽい。このまま順調に行けば、提督さんに褒めてもらえるっぽい。頑張るっぽい!
でも、上手くいかなかった。
北方棲姫。雷撃や艦爆は効かず、砲撃か弾着観測射撃、艦攻の攻撃しか効かない。更に護衛要塞A、B、重巡リ級flagship、駆逐ロ級後期型×2が随伴艦としている。
敵の装甲は硬く。貫けるのは戦艦か徹甲弾を持った艦娘のみ。私ではただ囮になったり撹乱することしかできない。
私たちの艦隊は瓦解寸前だった。私も中破状態で、満足に動けない。
「時雨ぇ!」
時雨が砲撃を受け、避けきれずに大破となった。そして、時雨を狙う砲口が一つ。重巡リ級flagshipが時雨を狙っていた。
このままでは時雨が沈んでしまう。
周りの景色が、酷く遅くなった。全てが灰色になり、自分の動きさえも遅くなる。
時雨に向かって助けたい一心で、手を伸ばしたその時。
───もう、諦めたら?
そんな声が何処からか聞こえてきた。
───頑張ったじゃない。
美しくも、心が凍えるような声は、私の心を惑わせる。
───大丈夫よ。誰かがやってくれるわ。
抗い難く、全てを包み込むような声。
───あなたは精一杯頑張ったわ。
呼吸が荒くなり、視界がぼやける。
───さぁ……
私の意識が、沈んでいく。暗い暗い、海の底へ。深海へと。
───なぁ、夕立。
───君には夢があるかい?
───俺はな、静かに暮らしたいって夢があるんだ。
───今のこんな状況じゃあ叶えられそうもないけど。
───夕立。君の夢は、なんだい?
私、は。
私の、夢、は。
いつか、みんなと、提督さんと、笑っていられる世界を、作る、ことッ!!
「私はぁ! 提督さんの、夢を、叶えたい!」
───な、ぜ。
「提督さんと、未来を見たい!」
───ああ。やめろ、ヤメロ!
「みんなと、笑っていたいっぽい!」
その瞬間、暗い何かが弾けて消え、白い光が私を包んだ。
───……ジジ───……───ジジジ……
聞こえた。私の、新しい───、
視界が元に戻り、聴覚を取り戻す。時間の遅れさえも、元に戻る。
「ゆう、だち……?」
時雨の声が背後から聞こえた。
手足の感触を確かめる。怪我していた所は何があったのか治っていたようだった。
これなら、いける。
「白露型四番艦、駆逐艦『夕立・改二』! 突撃っぽい!」
そこからは殆ど無双だった。失った弾薬、燃料は回復し、魚雷や砲も強力な兵器になって帰ってきた。時雨を狙った重巡リ級flagshipを落とし、駆逐艦ロ級後期型はたった一撃で。
北方棲姫を追い詰め、遂に攻略と言った所で、突然北方棲姫が逃げ出した。私はトドメを刺す為に北方棲姫を追う。今までと速力が段違いで、扱い切れてはいなかったが北方棲姫に辿り着いた。でも、そこで待っていたのは予想だにしないものだった。
血を流した提督さん。
段々と冷たくなっていく提督さん。
私の呼吸は止まり、視野が狭くなる。
あぁ、やめて。やめてほしい。私から楽しみを奪わないで。私から『思い』を奪わないで。大切なものを、奪らないで。
嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
誰が、コンナコトヲシタノ?
ドロっとした黒い感情が湧き出て、周りを睥睨する。
同じ鎮守府のみんな。慌てた顔をしている。他鎮守府の艦娘。死んだ目をして待機している。
そして───哄笑を上げる他の鎮守府の提督たち。
許さない。
赦さない。
ゆるさない。
ユルサナイ。
ガッと両腕を捕らえられた。振り向くと時雨が私を羽交い締めにしていた。
「離して」
「ダメ」
「離して」
「ダメ」
「離せ!」
「ダメ!」
話が通じないと考え、必死にもがく。時雨を傷つけないように気をつけながら。
「ダメに決まってるでしょ!今はアイツらを断罪するよりも提督を助ける方が先!」
でも、ユルセナイ。私の心を奪おうとした。アイツらを、私はユルセナイ。
「わかるよ。僕だって腸が煮えくり返っている」
「なら、なんで」
「提督が。国を守ろうとした提督が。私たちを沈ませないようにしてきた提督が。私たちの為に動いてきた提督が」
一呼吸置いて、時雨は言った。
「艦娘が人を殺したことで、私たちのせいで。いなくなっても、良いの?」
「ッ!」
「僕たちが人を殺めてしまえば、僕たちはもう彼に会えなくなる。それでも、いいの?」
あ、ああ。それはダメだ。会えなくなるなんて嫌だ。提督さんともうお話ができなくなるなんて、絶対に嫌だ。
「なら、手伝って」
「──わかった」
時雨は羽交い締めを止め、私は他の提督たちを睨みつけて踵を返した。
提督さんの近くへ行くと、どれだけ危険な状態なのかがよくわかる。
軍服の背中に小さな穴が一つ空いており、場所的に恐らく心臓。正しく殺す気であった。ほとんど致死の弾丸。生きている確率の方が、低い。それでも私たちは懸命に動く。たとえ生きている確率が1%でも。
だから、気づかなかった。
誰かが、提督さんの手帳を持ち去ったことを。
いわゆる改ニ実装。
条件①提督と絆を育むこと(愛でもOK)
条件②練度最大
条件③深海より帰ること
条件④強く願う(想う)こと
これらが達成できれば改ニに至れます。大体は条件①でつまづく。第二関門として条件③が立ちはだかっているので、改ニになれるのは極少数。因みに現在改ニ実装できているのは横須賀鎮守府所属の夕立、榛名、天龍、川内、神通、不知火、赤城、北上のみ。資材はなくても妖精さんの超パワーで何とかなる。