私は『提督』と言うものが嫌いでした。
私たちに何の見返りも無く、上から指示を出す。更には体まで要求する。
『提督』は酷い存在である。そんな認識が刷り込まれるように、嫌いになっていったのです。
駆逐艦の子達は盾に使う。
軽巡重巡の子達も一切使わない。
なのに暴力を振るい、
暴言を吐き、
性欲の捌け口にする。
私たちはそれを見ていることしかできませんでした。
それがより一層憎悪を募らせました。
加賀さんと協力し、奴を追い出すことに成功した時は、喜びもひとしおでした。
ですが幾許もしないうちに新たな『提督』が着任しました。
それは仕方のないことです。私たち艦娘は提督がいないと戦えないのですから。
それが嫌で、嫌で、仕方ありませんでした。
誰かの指揮に入らないと戦えない自分に嫌悪して。
他の子達を守れない自分に憎悪して。
新たな提督が何をするのかに恐怖して。
だから私たちは、排斥した───してしまった。
彼は何も悪くないのに。八つ当たりと、恐怖を紛らわす為に暴力を振るい、暴言を吐きました。
八つ当たりなどと軍人の理念から程遠いことをしている自分に嫌気がさし、さらにフラストレーションが溜まり、彼をストレスの捌け口とした。
あぁ、私は。私は何をしているのでしょうか。
どうしてこんな風になってしまったのでしょうか。
加賀さん、私は、どうして……。
演習にも、実戦にも、身が全く入らない。
悔しくて、泣きたくて、それでも止まっていられなくて。
私はつい、彼の前で弱音をこぼしました。
「なんで、上手くいかないの……!」
それに対して彼はこう言いました。
「初めから上手く行く人なんていませんよ」
「私は、初めてではないわ」
「そんなことは知っています」
トントンと紙をまとめながら彼は素っ気なく答えました。
「なら……!」
その態度が何故か見放されたような気がして、私は思わず声に怒気を込めてしまいました。
「誰しも、上手くいかないときくらいあるって話ですよ。初心者は特に、とそう言いたかったんです」
彼は整理していた書類を机に置くと、真っ直ぐに私の目を射抜きました。
「たとえプロであっても、ベテランであっても、アマチュアであっても、ビギナーであっても。同じです。上手くいかない時はある。その期間がどれくらい長いのかは知りませんが、時間を置くか、何か切っ掛けを見つけるしかそのスランプを抜ける方法はありません」
何か、きっかけ……。
「切っ掛けは色々あると思いますが……まぁ、様々なことを試したら良いんじゃないですか?」
私は口を黙ました。俯いて、顔を見られないようにします。
「私に言えるのはこのくらいです。……口を挟んでしまってすみません」
彼はばつが悪そうにそう言い、それっきり話すことは無くなりました。
私は私自身が惨めに思えました。今まで貶していた、蔑んでいた相手に弱音を吐き。助言を貰う。
嫌で嫌で仕方がないです。こんな自分が嫌いで嫌いで仕方がないです。
深い深い闇に囚われそうで。
誰か。私を、この場所から掬いあげてください。
私は、もう。誰かを───。
「まぁ、これから改善していけばいいんですよ」
たった一言。
「今からでもやり直せますし、始められます」
ただの言葉。
「いつだってスタート、なんですから」
彼は窶れた顔ながらも、朗らかにそう言いました。
ポロポロと涙が溢れます。
こんな姿、誰にも見せられない。
「いいんじゃないですか? 泣いても。女の子ですし」
何で。
「私は───いえ、俺は。別に人だ兵器だと区別しなくてもいいと思うんですよ」
彼は真っ直ぐに私の瞳を見つめます。涙で彼の顔を確認することはできませんでしたが。きっと、誰よりも凛々しい顔をしている。
「区別しなくたって、生きていけるじゃないですか。仕事ができるじゃないですか」
あぁ、今、わかった。
「艦娘は艦娘。それでいい。1人の人間で。1人の女の子で、1人の軍人で、そして一つの艦だ」
私は───。
「それじゃあ、ダメですか?」
彼と出逢う為に、生まれてきたのだ。
私は、彼の
今までのことを反省し、後悔し、彼に生涯を捧げましょう。
今から、全てをやり直す為に。
今から、全てを始める為に。