提督を辞めたい提督   作:神楽 光

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 遅くなりました。短い話しかつ番外で申し訳ない……。


解放の時①

 白い廊下をいつも通り歩く。早足に。そうじゃないとアイツに出会っちまう。

 スタスタと歩いて数分。遂にオレは目的の場所、オレたち天龍型の部屋に着いた。一息ついて、常にある苛立ちを追い出し、心構えする。妹に、龍田に見せたくない姿があるからな。

 オレは天龍型軽巡洋艦1番艦の天龍。世界水準を超えた力を持ってる。そんなオレが所属するのがここ、横須賀鎮守府。世界でも規模の大きい鎮守府の1つだ。だが、この横須賀鎮守府に所属する提督は類を見ないほどのクズだ。部屋からは余りでないし、オレたちと交流を持とうともしない。すごめば怯える軟弱者で、かつてオレたちに乗った海軍の(つわもの)とは思えないほどだ。その態度が、その行動全てがオレ─────いや、横須賀鎮守府に所属する全ての艦娘の神経を逆撫でする。夜な夜な女遊びに出てるんじゃないか、なんて噂もある。提督室の明かりが消えたところは見たことないからな。ま、そんな姿をオレは妹に見られたくないわけだ。だから一呼吸おくわけだな。ハッ! こんなの御茶の子さいさいだぜ。

 今は朝の時間だ。龍田は朝が弱いからな。今起きたところだろう。この鎮守府には全員起こしなんてもう無いからな。全部アイツのせいだ。アイツがこの鎮守府の規律を乱したんだ。

 また募り出した苛立ちをもう一呼吸入れることで完全に追い出す。

「龍田ー。起きてる……」

 ドアを開けて中にいる妹に声をかける。その途中で部屋の中央で蹲っている龍田を見て言葉を止めてしまった。

「何……ガッ!?」

 どうしたんだと声をかけようとして、いきなり俺の脳裏に記憶が流れ込んだ。

 俺の中にあった今までの常識が崩れ、新たな常識─────いや、()()()()()()()()()()()()が再構築される。

 フラッシュバックする。オレが信条にしていたものと、オレが今までしてきたことが強制的に照らし合わされ─────猛烈な吐き気が襲ってきた。

「あっ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 涙がこぼれる。眼孔をこれ以上ないほど開ける。

 オレは提督に、何をしていたんだ。提督が何かしたかよ? オレたちに、酷いことしたかよ? 交流を持たない? オレたちが持とうとしなかったじゃないか。アイツは、提督は身体を震わせながらも話しかけてきたじゃねぇか! 軟弱者? 巫山戯んな。オレたちがアイツに恐怖を教えたんじゃねぇか!! 部屋から出ないのだって、常に明かりがついてるのだって、オレたちが押し付けた仕事を、提督がこなしてるからじゃねぇか!!! 全部全部、オレたちの……せいじゃねぇかっっっ!!!

「あっ、あ、あああああ! 嫌ああああああああぁぁぁ!!!」

 すぐ側で悲鳴が聞こえる。龍田の声だ。龍田は人一倍アイツを、提督を嫌っていたから。

 半狂乱で、己を害しようとしている。でもオレにはそれを止められない。オレだってそうだからだ。提督にしたことを、今すぐにでも償いたくて。こんなオレが憎くて憎くて仕方がなかった。今すぐに、死にたかった。

 でも、発砲音はしなかった。その前に止められたから。いや、気絶させられたから。灰色の髪を靡かせた、榛名によって。

 オレの意識も、そこで途絶えた。

 

 

 

 あぁ、ムカつく。イラつく。なんで私があんな奴の命令を聞かなきゃなんないのかしら。北上さんを危険にさらすような命令なんか聞けるわけないじゃない。あぁほんとにもうムカつく! 今度会ったら尻に魚雷ぶち込んでやるわ!!

「あっ。大井っちー」

「北上さぁああんっ!!」

 食堂へ行く道すがら、目の前の廊下を愛しの北上さんが横切り、私に気づいたのか声をかけてくれた。

「今からご飯? 一緒に行こー」

「はいっ!!!」

 あぁ! 今日はなんて幸運なんでしょう! 朝含めてお昼も北上さんと食べれるなんてっ! 

「今日は何が食べれるかなー」

「(北上さんと食べれるなら)なんだって美味しいと思いますよ?」

 あぁ! ワクワクした顔の北上さんも素敵! 北上さんを私が食べてしま……え?

 えぁ? 何? これ。え? 違う。違う違う違う違う違う違う。わ、私は……。

「? 大井っちー? どうした……あっ、あ、あああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」

 すぐそばで北上さんの絶叫が聞こえる。すぐになんかとかなければと体を動かそうとするが、私自身に後悔と懺悔、絶望が押し寄せて、自分のことで手いっぱいになる。

「いや、いやあ! 違うの! 提督! わたし……うああああ」

「アタ、アタシ、なんて、ことを!」

 気力を限界まで振り絞りなんとか北上さんに右手手を伸ばす。

「き……た、かみ……さ、ん」

「お、おい……っち……」

 北上さんも私に気づいて手を伸ばす。だけど手をつなぐ前に、私の意識は途切れた。

 

 

 ……仄かな暖かさが、私の右手にあったような気がした。

 

 

 

 

 大半の艦娘が倒れた。そのことを知ったのは、目の前で倒れた陽炎をどうにかして助けようと長門さんのいる部屋へと向かった時。その道中で倒れている艦娘を幾人も見た。

 何が起こってるの? わからない。まるで分らない。混乱してだれか無事な人がいないかと色んな場所へ向かった。そして、食堂で無事な二人を見つけた。

「神通さん!? 皐月ちゃんも!」

「夕立さん……」

「ゆ、夕立……」

 神通さんは顔色が悪く、何かに抗っているように感じた。皐月ちゃんのほうはというと、神通さんと同程度の顔の悪さで、思わず大丈夫かと聞きそうになるほど。

「そ、その……大丈夫っぽい?」

「……大丈……いえ、意地を張っても、仕方がありませんね……」

「ぼ、ボク、ボク! て、提督に、提督に謝らなきゃ……!」

 神通さんはとても苦しそうに、大量の汗をかいて今にも気絶してしまいそうだった。皐月ちゃんはというと、涙を流しながら、つっかえつっかえで「提督に謝らなきゃ」という言葉を繰り返すだけ。

「提督……さん?」

 なぜそこで提督さんが出てくるのかわからなかった。

「ゆう、だち、さん……すみませんが、後を……お願い、します」

「がふっ……」

 神通さんはそういうと、皐月ちゃんのお腹を殴って気絶させ、本人も気力が尽きたのか、皐月ちゃんを倒れる衝撃から守るように倒れた。

「何がどうなってるっぽいーーーーーーー!?!?!?!?!?」

 私の叫び声を聞いた何人かと提督さんが来て、事態の収拾に努めた結果、なんとか丸く収まった。正直何をしていたのか覚えていないけれど。

 そういえば、神通さんが黒い何かを持っていたような……?




 提督に酷いことをしたという自覚のある艦娘の方が呪縛から解放されやすく、絶望に落とされます。しかし、そこまで酷いことをしていなかった艦娘は酷いものより軽度でかつ若干の遅れが生じます。無事だった艦娘は提督との関りを深めることによって初めから悪感情をあまり持たなかった者たちです。
 これは意識や認識の差であって機械の謎は関係がありません。もうそろそろで主人公が艦娘を見捨てない理由、謎の機械、大本営の謎が解き明かされますので少々お待ちを……アニメが始まるまでには本編を再開したいですね。
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