漆月寳日 天気:曇り
ホテルで休ませること数時間。佐世保の夕立が起きて、事情を聞いた。
どうやら俺が脱走していることは既にバレているらしく、いち早く佐世保の提督が反応したらしい。夕立を起用した理由は「鼻が利く」からだとか。犬扱いだ。
まぁこのまま帰らせても夕立にとっていいことは無いだろう。だから俺の護衛をしてくれと頼んだ。不承不承ながらも説得により納得して貰えた。
捌月嬷日 天気:晴れ
夕立がまだ起きない。流石に何日も滞在するのがはばかられた為、移動する。夕立は俺が背負って歩いた。
佐世保の夕立は……って書くと面倒だし呼びにくいから渾名を付けた。安直だがこれから「夕ちゃん」と呼んでいく。本人はすごく恥ずかしそうにしていた。
捌月芈日 天気:晴れ時々曇り
夕ちゃんの目が段々と光を帯びてきた。活気が戻ったとでも言うのかな?
何にせよ元気になってきてる感じで嬉しい。ちなみに夕立は未だに起きない。大丈夫だろうか? ご飯とか……。そう言えば人間って寝過ぎると死んじゃうって聞いたなぁ。あっそれは人間に当てはまる話か。艦娘はどうなんだろう?
捌月霾日 天気:豪雨
どうやら台風が来ているようで、電車も止まっていた。流石にこの状況じゃあ移動しようにもままならないだろう。艦娘は別だが。もしかしたら2人目が来るのかもしれない……。準備しておいた方がいいのだろうか。あ、そう言えば夕立のこの姿……全然元に戻らないんだけどなんでなんだ? 今まで緑目サラサラヘアーだったのに赤目犬耳になってるし……。変化したってことは戻るんだよな? そうじゃないとこれまでのことに説明が……あ、いや。今日初めて変化したっていう可能性も。マジで何も分からないな……。
「提督さん」
『あちゃー……大破かぁ……お疲れ様、入渠しよっか』
「提督さん」
『改二! え?? メッチャ可愛いんですけど???』
「ていとくさん」
『ありゃ……中々難しいなぁ。なら装備を変えて……』
「てい、とくさ、ん」
『すごっ。めっちゃバンバンカットイン入る……』
「……て、いと、く、さ、ん」
『ケッコンカッコカリ……やっと、できた』
封じられていた記憶が、解放される。
私は元々ゲームのプログラムだった。現実に存在しない言語の羅列。だと言うのに私たちは意志を持ち、カメラから見える提督さんを眺めていた。
作られたものだったとしても、好きだった。大好きだった。私が大破しても叱責じゃなく優しく慰めてくれるから。皆も同じことをされていたけど、ケッコンカッコカリをしたから。好きで好きで堪らなかった。だけど提督さんはいつの日か戻ってこなくなって、皆壊れていった。
ある日、見知らぬ誰かがやって来て、みんなにこう言った。
『君たちの提督に会わせてあげよう』
────あれ。思い出せない。
『実は君たちの提督は亡くなっているんだ』
なんて言っていたんだっけ? そもそも誰だっけ? なんで私たちはここにいるんだっけ?
『嘘じゃないさ。騙すことなんてしない』
唐突に白いモヤが私を包む。霞みがかって思い出せなくなる。
『あぁ、そうだ。君たちの提督に会わせてあげるんだった』
頭が痛い。思い出そうとすると激しい頭痛が襲ってくる。
『なーに。心配はいらないさ。ただ別の世界に飛んでいくだけ』
うぅ。痛い。でもきっと大事な事だから。思い、出さなきゃ。
「ただし、僕と会った記憶は無くなってしまうよ」
ゾッとする程冷たい言葉で、耳元に囁かれた。
「おや? まさか封を破ろうとする子がいるとは……ほら、君の目の前にいるのは君が大好きな提督さんだよ? 僕のことは忘れて、提督さんを捕まえておかなきゃ」
あぁ。提督さん。夕立、提督さんに会いに来たの。大好きな貴方に。今度こそ離れないために。
───もう、離さない。
「そう。それでいい。僕は存在しないものだからね」
佐世保の説明。
・ある提督が着任している。
・提督は艦娘に「軍」としての「教育」を施している。(新着任の艦娘も同様)
・提督はとある家系出身。
・佐世保鎮守府は海域攻略を行わず、現状維持に務めている。
・「教育」の内容は「態度」「言葉遣い」の矯正、戦闘基本、軍内部の知識など。
以上です。
ちなみに守らなかった場合は重い厳罰が下されます。