捌月子日 天気:晴れ
びっくりした。朝起きたら布団の中に何故か雪風がいた。何度も確認してしまうのは俺だけじゃないと思う。というかいつの間に……? どうやって? まるで何も分からない。ここ最近分からないことが多すぎる……。
捌月奴日 天気:曇り時々晴れ
雪風も起きない。俺のところまで辿り着いたのに寝たままなのはなんだ……? そう言えば以前とは装いが違う。鎮守府にいた時はまだ元気な子供のようだったが、今は淑女のようだ。本当に、訳が分からない。夕ちゃんも知らないって言ってたし。
捌月之日 天気:晴れ
とりあえず眠っている2人を連れながら神戸まで行き、宿を転々とするのは悪手に思えたので、長野あたりに家を構えよう。一軒家かマンションか……まぁ一軒家の方がいいか。永住するつもりは無いので借家で。まずは家探しかな……。
捌月葉日 天気:晴れ
それにしても暑いな。最近どんどんと気温が上がっているようにも感じる。それは兎も角長野について家を借りた。ようやっと腰を下ろせる場所が出来たので、のんびり生きていけそうだ。しかし……なんか怖いな。
捌月緋日 天気:曇り
どこ……ここ……。
提督がどこかへ行ってしまってから、雪風は何も出来なくなっていた。
ただ涙を流し、呆然と中空を見つめるのみ。陽炎型の中でも、1番の重症だとひと目でわかった。更に言えば、長女である陽炎以外はほぼ壊滅状態だった。もちろん、陽炎も落ち込みたいし泣きたかった。しかし、長女であることと状況がそれを許してはくれなかった。陽炎型の負担が、全て陽炎に重しとしてのしかかった。
しかしそれも少しして改善する。長門が代理提督として命令を下したためだ。そのお陰で哨戒任務や遠征は細々ながら可能になった。これによってコミュニケーションが再開し始めたのだ。だが、中には命令を聞けなかった者もいた。その内の1人が、雪風だ。
部屋で呆然と涙を流し続けて、数日を過ごした雪風は、誰の呼び掛けにも答えず、何をされてもただただ涙を流していた。
その胸中にあったのは「何故」という言葉。様々な「何故」が思い浮かんでは消えていく。
守れなかったから?
助けられなかったから?
提督のお歌を皆に聞いて欲しくて勝手に録音したものを皆に渡したから?
そうしてずっと悪い考えが堂々巡りをする。それが何日も何日も続いた。
しかし、唐突にその行動を辞めた。いや、強制的に辞めざるおえなかった。
頭にバチッと静電気が走るような音がなった瞬間。雪風にはある情景が脳内に浮かび上がった。
どこかの司令部の執務室。
夕焼けの中、佇む2人。その内の一人は、酷く雪風に似ていた。
『陽炎型駆逐艦8番艦、雪風! し・れ・え! 雪風、帰ってきました。これからも、ずっと、よろしくお願いします!』
何かを話した雪風自身の声が聞こえた途端。周囲が変化を始める。
────バチッ。
稲妻が幾本も走る。一瞬で現れては消えを繰り返す。
────ピシッ。
空間に歪みが発生する。まるで陽炎を見ているかのよう。
────ビシッ。
亀裂が入る。まるで彼女を包み込むように。
────バキッ。
遂に割れた。それは雪風を覆い隠す。
────あぁ、壊れる。
────いいや、蘇る。
そう。雪風は、帰ってきたのだから。
雪風───いや、雪風だった何かが立ち上がる。
その瞳には決意があり、もう、涙を流してはいなかった。
そこには確固たる意志を持った、1人の少女がいた。
彼女が何を見たのか。それは彼女のみぞ知る。
「雪風は、沈みません。大丈夫です」
短くて申し訳ない……。