提督を辞めたい提督   作:神楽 光

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 遂に明かされる提督の過去!
 轟沈描写等不快になる描写がありますので苦手な方は読まないことをお勧めいたします。


提督の夢

(これは夢だ)

 明晰夢。夢の中で夢だと認識している状態。

(あぁ……あの時の)

 彼が見てるのは彼の過去。彼が歩んできた道だった。幼少期は元気いっぱいにそこらじゅうを走り回り、秘密基地をつくったり、やらかして怒られてしまったりとごく普通の幼少期を過ごしていた。親に愛情を注がれて育った。それが変わったのが、小学生の時だ。

 彼の住んでいた街が深海棲艦に襲われた。今の世ではこの程度の不幸は極めてありきたりだったと言える。ただ他と違ったのは、付近に鎮守府があって艦娘が近くにいたからだろう。すぐさま応戦していた。彼はただの不幸では終わらなかった。もっと深い絶望に捕らわれた。

 応戦する艦娘達のほとんどが沈んだのだ。何故か? ()()()()()()()()()()()のである。圧倒的な戦力差によって蹂躙されていたのだ。彼は、それをまじかで見ていた。だから、死に際の言葉が耳に残っている。

『逃げ……て』

 家族と共に山へと逃げた。だが、深海棲艦は艦娘を放置して彼らを追ってきた。一人一人、恐怖を煽るように。父親も。姉も。母親も。

『あ、あ、ああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!』

 逃げて、逃げて、逃げて。いつの間にか目の前に海があった。後ろを振り向いても何もいない。彼は、彼自身にはもう何も残っていないことに気づいた。周りには誰もいなくて。何も持っていなくて。何をどうすればいいのかもわからなかった。

 はらりと涙がこぼれた。とめどなく溢れて頬を滑る。ぽたぽたと白い砂浜を濡らし、声をあげて泣いた。

 家族を失った。

 家を失った。

 街もなくなった。

 幸福が消えた。

 彼にはもう、何もなかった。

 

 何時間も泣き続けて、涙が枯れた頃。彼はじっと海を見つめた。ふらりと近寄り、漣を感じる。

(そうだ……あの時。死のうと思ったんだ。生きていられないと、生きたくないと思ったから)

 ずぶずぶと体を海に浸からせていく。服が海水を吸い、重くなっていく。子供の身では己の身を引き上げられぬほどに。体を弛緩させ、溺れてゆく。

 ゆっくりと。ゆっくりと。まるで死の淵に立つ人間のように。沈没する艦のように。

 しかし、彼が望む死は訪れなかった。

 救いあげられるように手が彼の背中を包み、優しく海面へと引き上げられる。

『ゲホッ! ゴホッゴホッ!』

『───男の子を救出しました! 至急海域の安全確保を!』

(そう。それで彼女に出会ったんだ)

 彼がうっすらと目を開けるも、逆光で顔をうかがい知ることはできなかった。既に体力の限界にきていた為か、彼は言葉を発することなく気絶した。

 

 それから一日が経って、彼が目を覚ましたのはとある警備府の医務室。真っ白な壁と、風に揺れるカーテンが彼の視界に写った。

『あっ、起きましたか? おはようございます』

 彼が寝転がっていたベッドの脇で編み物をしていた見目麗しい女性が声をかけてきた。和服が似合う大和撫子のような女性だった。

 当然のように彼は混乱した。彼は死のうとしたはずで、こんなところに自力では移動していないと。だがそれ以上に、彼の心臓が高鳴っていた。

(俺は……この時初めて一目惚れをしたんだ)

 それから彼は警備府のお世話になることになった。警備府は彼の住んでいた街の近くにあり、先の侵攻で壊滅状態に陥っていた。彼は復興の手伝いを申し出、提督や艦娘達と仲を深めることになった。ただ、そんな日々を過ごしていても、家族が、家が、街が無くなったことを忘れはしない。静かなる怒りの感情を燃やしていた。

 復興が終わり、粛々と通常業務に戻っていった。彼自身は艦娘の───一目ぼれした彼女の力になりたいと様々な勉強をして、肉体を鍛えた。提督にも手伝ってもらい、徐々に徐々に力を付けていく。

 一目惚れした彼女とも順調に仲が深まっていった。

 そうして数年が経ち。再び悲劇が訪れた。

 再度の深海棲艦の侵攻。しかし、今度はしっかりと対策できていた。

 

 ───そのはずだった。

 

 初めの方は順調に進んでいた。彼自身は提督室で、提督の補佐をしていた。そうして第一陣を退け、第二陣への対応をしようと情報収集に努めた。彼が惚れた彼女が、彩雲を発艦させる。多くの情報を得られると踏んでいた。

 しかし、大艦隊であるということだけしかわからなかった。何故か? 高熟練度であるはずの、回避能力の高い偵察機が、撃ち落されたのだ。

 すぐさま退避させるように言った。提督もその方が良いと判断して艦隊に撤退の指示を出した。艦隊もすぐさま撤退した。しかし、撤退する間に攻撃を受けたのか、何人かが攻撃を受けていた。大破はいなかった。それだけが救いだった。

 すぐに提督とどうするべきか相談した。時間なんてなかった。

(そうだ。あの時に、俺は間違いを犯した)

 提督はここを諦めて、全員で撤退しようと考えていた。彼はそれを良しとしなかった。一度奪われた悲しみを知っていたから。もう二度も奪われたくないと思ったから。だから、"奇襲"をかけてはどうかと提案した。奇襲であれば、被害を抑えて相手を攻撃できると。しっかりとどういった作戦かを考えて、提督を説得した。

 提督はそれを承認し、実行された。

(あぁ……バカだった。奇襲なんてせずにさっさと逃げればよかったのに。強くなったんだと勘違いした。あの人は、正しかったのだ)

 彼は己の感情でもって、彼と、彼のいた鎮守府を壊滅させた。

 彼の作戦は、大規模であっても、重巡のflagship級までの敵艦隊だったら有効に機能しただろう。ただ、()()()()()()

 ナ級後期型flagshipⅡ×2、ニ級改flagshipⅡ、ヘ級改flagship、ツ級flagship、リ級改flagship、ネ級flagship、ヲ級改flagship、ヲ級改flagshipⅡ、ル級改flagship、タ級flagship。そして───レ級elite。

 圧倒的な強化個体のオンパレード。更に言えばレ級や改flagship級などという新種。駆逐艦も後期型という絶望さ。夜間発艦も可能なヲ級の上位個体。姫や鬼級に匹敵する敵艦隊に、"奇襲"など無意味だった。

 その破壊力は、多くの艦娘を轟沈させ、提督をも殺した。

『逃げろ』

『逃げて』

『逃げなさい』

 全員から言われた言葉。今は亡き者たちの言葉。

『───こうなったのは、君のせいではない。最終的な判断を下した私に責任がある。だから、自分を責めるようなことはしないでくれ。どうか、どうか。生きてくれ』

 責められた方が良かった。お前のせいだと、お前の作戦に穴があったからだと言われた方がまだよかった。だというのに、誰も彼を責めることなく『生きてほしい』と願った。こんな世の中でも、と。それは、彼を縛る呪いとなった。未熟な人間が立てた作戦のせいで、多くの艦娘の命と、提督の命が奪われた。それが、彼の悲惨な過去(トラウマ)。艦娘を愛していながらも、艦娘の命を預かるようなことをしたくないという想いの根底。沈め(殺し)てしまったから。どんなことをされても反撃しない彼の元。

 そして───────

 

 

『───ごめんなさい』

 

(あぁ……俺の方こそ)

 

『あなたと共に生きたかった』

 

(俺も、貴女と生涯を共にしたかった)

 

『あなたと同じ道を歩みたかった』

 

(貴女ともっと話がしたかった)

 

『あなたと同じ景色を見たかった』

 

(貴女と同じ景色を見たかった)

 

『ごめんなさい。あなたを遺してゆく私を、どうか許して』

 

(───────行かないでくれ)

 

『……さようなら。春人さん』

 

(───────天、城)

 

 

ヒャハハハハハ!!! ワメケ! ナキサケベ! ニゲマドエ!

 2度目の敗北。彼はもう涙すら流せなくなった。

 最愛の艦娘が沈み、親のような提督は死に、兄弟のような艦娘達は海の藻屑と消えた。

 再び、彼には何も無くなってしまった。

ヒャハハハハハ!!! オニゴッコノツギハカクレンボカナァ?

 彼はもう、生きる気力を失っていた。

ヒャハハハハハ!!! アァ? ……チッ! モウオワリカヨ

 彼はただ逃げるだけだった。逃げることしか出来なかった。しかし、生きたとして彼には何ができるだろう。

ハァーア。ヤット、オモチャガテニハイルトオモッタノニナァ

『はぁ……はぁ……はぁ……』

 いつの間にか追ってくる影は無かった。一息ついて、今までのことがぶり返す。

『はぁ……あぁ……うわあああああああああああああああ!!!!!!!!』

 彼は───泣き叫ぶことしかできなかった。

 

 

 

 

 これが彼が歩んだ過去。消してしまいたいほど、自身が許せない過去。

 己を呪い、罰し続けるための記憶。

 

 

 

 

 

 

『───だから、関与しないというのか?

 

 

 

 

 

(───だれ、だ?)

 

 

 

 

 

『───己の知らぬところで、死んでくれ、と?

 

 

 

 

(───何を、言っている……)

 

 

 

 

『───そんなの、俺が許すとでも?

 

 

 

 

(───だから、何の話だっ!?)

 

 

 

 

『───そうか、声が届かないのか。なら君の波長に合わせて……これで、聞こえるか?

 

 

 

 

(───微妙、に。聞き取れない)

 

 

 

 

『───む。難しいなこれで、聞こえるか?

 

 

 

 

(───雑音?)

 

 

 

 

『───あぁ、こうすればいいのか』

 

 

 

 

(───ッ!?)

 

 

 

 

『やっと話すことができる……。ねぇ、君。そんな恵まれた場所に居ながら放棄するの?』

 

 

 

(───恵まれた場所?)

 

 

 

 

『艦娘達に囲まれてる場所に決まってるでしょ』

 

 

 

(───あぁ……そういうことか)

 

 

『ねぇ。酷いことがあったのはわかるよ。立ち直れないくらい辛い目に合ったのも』

 

(────……)

 

『でもさぁ……今を見てみなよ。君が着任する前、横須賀はどんな状態だった?』

(────それ、は)

『君、その状態みて改善しなきゃって思ったんだろ?』

(────……)

『でかい鎮守府であんな状態になってたんだぞ? 他のところでも一緒でしょ』

(────たし、かに)

『そんな場所にいる娘たちも見捨てるのか?』

(────ッ。……でも、俺のみれる範囲は)

『そんなことは関係ないよ。君が今、その娘たちを助けるかどうかだろ? 自分一人でできなければ周りを頼ればいいじゃないか。己で視れなければお前と同じ志を持つ奴らに頼めばいいじゃないか』

(────……)

『ねぇ。情けないと思わない? 女の子たちに守ってもらってるんだよ? 国民はそれを是としている。可笑しくないか?』

(────……)

『だというのに君たち提督は何をしているんだ? 守ってもらっているくせに碌な褒章も与えず、己の欲のはけ口にする。ふざけるのも大概にしろ』

(────……)

『彼女たちは道具じゃない。人間じゃないが、疲労だってするし、喜び、悲しむことだってある。人間に限りなく近い相手に、よく平気で、そういうことができるな?』

(────……)

『まぁ、俺が言いたいことはそれじゃない。憤っているのは確かだが、今は君のことだ』

(────……)

『辛いことがあった? そんなの誰にでもある。でも慰められ、癒すことができるのは本人か、傷つけた人間にしかできないことだ』

『でも、重いもの抱えながら生きていくのは苦しいでしょ?』

『だったら素直になれよ』

『君は何がしたいんだ?』

(────……俺は)

『一緒でしょ? 考えてること』

(────俺は)

『だって、君は俺で』

(──俺は、彼女たちを)

『俺は君なんだから』

(俺は、彼女たちを)

『だから────』

 

 

 

 

「救いたい」

 

 

 

 

 

 ガタガタと音がする。

 ()は、音の元を探ろうと、ゆっくりと目を開けた。突然の光が俺の目を差す。

 一瞬眩しさに目を細めたが、徐々に周囲の状況が見えるようになった。

 目の前には開け放たれた扉。部屋は白い壁に囲まれていた。

「フン! ヤットメザメタカ」

 耳障りな声が聞こえた。声の方に目をやると、白い肌の白衣を着た男が立っていた。

「マァ、チョウドヨカッタトモイエルガナ」

 ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべる男が左の方を向く。視線の先を追うように目を向けると、そこには。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────破壊されたタウイタウイ泊地が大きな液晶画面に映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命の日まで 1日。




 そういうわけで提督は攻撃されても反撃しないのでした。まぁストレスはたまってますがね。
 さて、もうそろそろアニメが始まりますね? しかも西村艦隊が主役の。段々とPVが出てきて興奮しきりです。
 アニメが終わるまでには完結させたいですねぇ……完結の芽が出てきているので……。






 次話から戦争の内容になるから難易度がっ。

 修正:ラバウル泊地からタウイタウイ泊地に変更しました
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