私は家族とクリスマスケーキを食べました。
ああ、なんて強いのだろう。こんなもの勝てるかどうかすらわからない。どうすればいいというのだろうか。
そんな思いが浮かび上がる。
腹の奥底から湧き上がる恐怖。死ぬかもしれないという恐れ。負けるかもしれないという怖さ。
そんないくつかの感情が全身を支配しようとする。体が動かなくなる。まるで金縛りにあったみたいだ。
妖精さんによると、目の前にいるのは防空埋護姫。駆逐艦のように小さいのに、艦種が航空戦艦というふざけた深海棲艦。……対潜能力は皆無なようだが。あと艦載機も搭載できないとか。まぁそれでも、脅威には変わりない。戦艦ゆえに分厚い装甲。そして高い回避能力。ため息が出るほどに難しい相手だ。─────だが。
これをそのままにしたらどうなる? 逃してしまえば?
想像に難くない。恐らくどこかに捕らわれているだろう彼を、建物ごと破壊してしまうだろう。その恐ろしい砲撃や魚雷によって。そんなこと許せるだろうか? いいや許せるはずがない。私たちは決めたのだ。彼の為に戦うと。彼を守るのだと。矛であり、盾になるのだと。
体に喝を入れることで恐怖を払う。手を握り締め、また開く。大丈夫。
「ワタシガ……オアイテシマス……」
ボソリと、怖気の走る声が聞こえる。通信からは誰も何も発さない。恐らく私たちと同じような敵がいるのだろう。その恐怖に押されて、何も話せないのだ。だから。
「……あぁ、お相手願おうか」
皆に勇気を持たせるため。
「だが」
皆に勝利を届けるため。
「ここは私たちが」
そして────、
「通らせてもらう!」
彼に────提督に見てもらうために!
突然、私を淡い光が包んだ。だがそれに注意を向けている場合ではない。敵からの砲撃を避けるが、掠めたのか装甲が少し削れる。お返しに二、三発放ち、そのほとんどを避けられたが、一発だけ相手の艤装を掠めた。
「キカナイッ……!」
そのたった一発で相手を小破に追い込んだ。
「これは……っ!」
考えようとするが、敵は待ってくれない。四方八方から砲撃がやってくる。それを必死になって捌きながら考える。だが戦闘中ゆえか、考えがまとまらない。何かしらがありそうだが、何もわからない。度々光っている艦娘が何人かいるくらい……待て。
つまり。この、戦いは─────。
数時間後。私たちは防空埋護姫に勝利した。勝鬨を上げる艦娘たちを横目に、私は思考の海に沈んでいた。
防空埋護姫の死に際。その言葉が頭から離れない。
『ウソ……ワタシガ……ッ……モドレナイ……ナンテ……。ソンナ……オノレッ……エッ……? ウデ……ガ、ジユウ……ニ。もど……れ、もどれる……カエレる、のね? わたし、もういちど……自由に……海を、駆けて……!』
彼女は、もしかして。
至る所で、特定の艦娘が光り輝く現象が確認された。それらの艦娘は特に他との違いがあったわけではなく、推測されたのはかつての海戦────レイテ沖海戦を模倣しているのではないか、ということだった。
そして、複数の艦娘が大規模連合艦隊に合流した。その中に、防空埋護姫と同じ顔、同じ声を持つ艦娘がいた。
その名は─────涼月。
この戦いは、果たしてつくられた戦いなのだろうか。
私には、何もわからない。
「ヒィッ! ナ、ナンダ貴様! ナゼ、ナゼ立ツコトガデキル!?」
ふぅ、と息を吐き、千切った縄がぼとぼとと床に落ちる。意外と重かったらしい。腕を大きく回すと、こきこきと音が鳴った。どうやら随分と長い間座っていたらしい。いや、座らされていたという方が正しいか。ふむ、と周囲を睥睨する。別段変わったところはない。
「キ、聞イテイルノカ貴様ァ!!」
「うん?」
「ンナ……」
甲高い、錆びた金属をすり合わせたような汚い声が大きかったので、思わず注意がそちらに向く。矯めつ眇めつ男を眺める。
頬はコケ、目の隈は酷い。いくつもの皴が刻まれ、目は出目金のように出ている。碌に食べ物を食べていないのだろうことがわかった。
「なに?」
聞いているのか、と言われたら聞いていた。前の世界の影響か、考え事をしながら人の話を聞くことができる。さて、『何故立つことができるのか』だったか。その言葉から類推するに、何か薬のようなものを打ち込まれたのだろうか。そう考え、手足を動かしてみる。確かに
「知らん」
だからまぁ端的にそういうしかなかった。
だけど今は、男よりも優先すべきことがある。今、彼女たちは海の上で戦っている。そこに、
まずは……外へ出てみようか。
あと2、3話更新して終了ですねー。
それまでお付き合いいただけるとありがたいです。