古いHDの中から出てきたので、供養がてら投稿させていただきます。

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伝説の男 2021

 

 

 

…その時、海から這い上がったオレが見たのは、金髪のクラスメートの姿だったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説の男 2021

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨上がりは妙に蒸して不快だった。

だいたい、ジューンブライドってのは欧州の感覚で、日本の気候には合わないんだよな。まったく、日本人てのはどうしてこう欧米人の模倣をしたがるんだか。

 

オレこと相田ケンスケは、スーツの襟元に風を送りながらぼやく。

今日は、首に一眼レフのカメラを吊しているから、なおのこと暑苦しい。

 

結局、頭にきてカメラを外し、右手にもって吊した。

そのままぼーっと空を見上げる。

ツバメが飛んでいた。抜けるような青空ってのは、こういうのを言うんだろう。

今朝方まで降り続いた雨が嘘のような快晴だ。おかげで、防水装備まで用意したのに無駄になっちまった、くそ。

 

だいたい、ケチらないで本職のカメラマンでも雇えばいいだろう?

それをアイツら、シツコク覚えていやがった。オレはカメラなんか中学で卒業したってのに。

 

「おー、ケンスケ、久しぶりやのう」

 

「あ?」

 

振り返れば、中学時代からの悪友が後ろに立っていた。

教会での挙式に紋付き袴なのは笑えるが、最高に似合っている。

どれくらいミスマッチしているかと言えば、苺大福みたいなもんだろう。

 

ひょこひょこと軽く重心を傾けた特徴的な歩き方をしながら、我が盟友鈴原トウジは前に回り込んできた。

 

「なんや、シケたツラしおって。ハレの席やで? もちっと明るい顔せーや」

 

そういっておおざっぱに笑う。

トウジのこういう朗らかなところは好きだったけど、わざと皮肉っぽく返した。

 

「他人の結婚式で明るい顔しても、な。自分のときまで取っておくよ」

 

「ほうか」

 

皮肉で返してこないのがコイツの美徳だと思う。

 

「…吸わないか?」

 

胸ポケットからマイセンと取り出したオレに、トウジは軽く手を挙げ拒絶した。

 

「ありがたいんやけど、ヒカリから止められてのう…」

 

「あ、そ」

 

あっさりオレは引き下がる。

喫茶店の安っぽいマッチを擦り、くわえ煙草に火をつけた。

辛い煙を胸一杯に吸い込みながら、思う。

まったく、オレの周りの連中と来たら、どいつもこいつ女に頭が上がらないときてる。

 

ゆっくりと煙を吐き出していると、トウジの羨ましそうな表情。

 

「やっぱり、いるか?」

 

「…んー、どないしよ?」

 

「いいんじゃないか? ハレの席なんだろうし」

 

オレが、助け船というか背中を押してやると、すぐさま煙草を一本ひったくられた。現金なヤツめ。

 

「…ヒカリには内緒やで?」

 

訂正。情けないヤツめ。

美味そうに煙草を吸ったトウジは、くわえたまま話しかけてきた。

 

「…正直、今日、おまえが来るとは思わんかったわ」

 

「なんでよ?」

 

カメラをいじくりながら横目で訊ねる。

トウジは煙草を人差し指と中指の背で掴んで、

 

「だって、おまえ、まだ惣流を恋慕してるんとちゃうか?」

 

返事の代わりに、ゆっくりとオレの唇から煙草が転げ落ちた。

足下を転がったそれは、まだ残った水たまりに触れ、ジュッというあるかないかの音を立てる。

 

「…図星かい」

 

また煙草を一口吸って、トウジ。

 

おまけに、鼻から糸みたいに白煙を上らせながら下品に笑う。

 

「まあ、おまえが玉砕したんは、ある意味伝説やからなー」

 

悪友のバカ面が若返る。

教室。

机の上に放置された筆記用具。

消し忘れた黒板。

 

放課後の、どこか緩い風を肌で思い出しながら、オレは叫ぶ。

 

「あー、オレ、ぜってー二次会いかねーぞー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

考えてみれば、あの街は、辺鄙さと最先端を同居させた不思議な街だった。

それの裏事情はおいておくとして、その街の学校に入学して中学二年生になったオレたちのクラスに転校生が二人。

夏の盛りという表現は適切かどうかは分からないが、8月と9月にやってきた転校生。

前者は男性で後者は女性。

二人の性格はまるっきり正反対で、そのくせ共通点があった。

 

果たしてオレが嫉妬したのは、二人の関係だったのかそれとも選抜者のポジションだったのか。

 

彼女に対し、淡い憧憬を感じなかったと言えば嘘になる。

もっとも、性格が過激で破綻していたのは、他の連中よりよっぽど知っていたけどね。

だから、その想いが明確になったのは、全てが手遅れになってからだった。

 

…いっつもそうだ、オレは。取り返しがつかなくなってから、気づく。

まあ、14歳なんて毛が生え始めたころの年齢のガキは、恋に恋しているみたいなもんだ。

そこで一生の問題に格上げできたほど、オレはませてもいなかった。つまりは年齢相応だったわけ。

それでも、恋の芽を無くしたことには代わりはない。

 

2016年に起きた世界規模のみょうちくりんな出来事。

 

気がついたら全員素っ裸というアホみたいな状況の中で、しみじみそんなことを考えていた。

直後、風邪をひいたから、オレは馬鹿ではないと思う。

 

 

 

 

 

 

そんな失くし物がひょっこりまた姿を現したとしたら?

 

二年後、どうにか機能を取り戻した街の学校で、オレたちは再会を果たした。

ああ相変わらずあっちーなー暑くて休校になんねーかなー、などと無期限の夏休みから復帰したオレたちは、真新しい机の上でへばっていた。

あ、ちなみに台詞はトウジのヤツね。

 

ガラガラの教室は、オレらの他には洞木ヒカリ、それくらいしか見知ったヤツはいなかった。

その時期は、毎日のように転校生がやってきた。

だから今日も増える。それは机が埋まるまで続くだろう。それだけ。

そのハズだった。

 

「アスカぁ!?」

 

いつ担任が来て、いつ始まったかも定かでないHR。

このクラスでも委員長を務める洞木の声でオレは顔をあげた。

オレの目がとある人物をとらえる。

記憶が全力で過去に疾走し、折り返してもどって来る。

所々つまずきながら記憶巣に戻ってきたそれは、オレの口を開き、声を震わせるよう神経中枢に訴えかけた。

 

「…惣流…?」

 

「なんや、おいっ!! シンジやないかぁ!?」

 

遅れて入ってきた教室へ入ってきたシンジに対するトウジの馬鹿みたいな大声で、オレの感慨も消し飛んでしまった。

結局、つられてオレもシンジのヤツに走り寄っていた。どうして、そっちの方に駆けていったんだろう、まったく。

 

「…みんな久しぶり」

 

おずおずといったシンジの首にトウジがヘッドロックを決めている。

そっちより、二人して抱き合っている惣流と委員長の方を、オレはチラチラと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

「つまりは、そういうことよ」

 

よく理解出来たとは思えない説明のあと、惣流は胸を張った。

そして曖昧に笑って誤魔化すオレたちの目前で、シンジの頭をひたすら小突き続けている。

 

「ったく、このバカのせいで、あたしがどれだけ酷い目にあったか…」

 

「…ごめん」

 

「何よ、謝ればいいと思って!! だいたい謝るなら、世界中のみんなに謝らなきゃならないでしょ!!」

 

「………」

 

シンジのヤツがどれだけ小突かれてるのかカウントしてたら、82回目だった。あ、83、84回目。

 

「だーかーら、コイツはあたしに一生隷属するって誓ったの。ねえ、シンジ?」

 

「ええっ!? そんなこと聞いてな……っ!!…はい、ワカリマシタ…」

 

強烈な85回目をくらい、シンジのヤツは神妙に項垂れた。

大変よろしいと鷹揚に頷く惣流に、委員長に苦笑する。

 

「…まあ、ケンカするほど仲が良いってことよね?」

 

トウジも鼻くそを指で弾いて賛同した。

 

「今も一緒に住んでるんやろー? 見え見えやがな」

 

それを鼻で笑い、惣流は意地悪く笑う。

 

「奴隷で召使いなんだから、近くにいなきゃお話にならないでしょーが。

 目下一日労働18時間、平均睡眠時間6時間よ、コイツは?」

 

「それって、労働基準法違反じゃ…」

 

さすが委員長、突っ込みどころが違う。

 

「…なによ、相田も何かいいたそうね?」

 

オレの微妙な表情に気づいたのだろう。

問いかけに、オレは心にもないことを返答した。

 

「いや、しみじみシンジも本当に大変だと思ってね…」

 

トウジが大きく頷いて賛同してくれたので、オレはそれ以上追求を受けずに済んだ。

だから、オレの不満はバレてない。

 

正直、むかついていた。

以前と変わりない関係の二人に。

なのに更に絆を深めたような二人に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、オレがあんな行動に及んだのは、思い返すもシンジが悪いからだ。

もっとも、それはその時の感情であり、後年、自分の不甲斐なさをあいつに転換しただけだとは理解している。

それでもやっぱり恨まずにはいられない。

 

だって、どうみても、アイツら恋人関係には見えなかったぜ?

オレが見た限り、まさしく主人と奴隷だ。

 

惣流が鼻で示せばそそくさとそれを取りにいき、荷物を預けられれば黙って運搬する。

オレの中の枯れた芽が、また息を吹き返したのは無理もない。

もっとも、その芽がちゃんと生きていたのか、ミニチュアではなかったのか、今となっては自分でも良く分からないが。

 

とにかく、そんな関係のくせに年中ひっついている二人の姿が気にくわなかった。

正比例して、オレの中で悶々とした感情が募り続ける。

 

そんなある日の放課後。

珍しく、シンジのヤツが教室にいなかった。

惣流は自分の席で窓の外の夕日を眺め、それでもクラスの三分の一は残っていたと思う。

 

…その横顔が、めちゃくちゃ綺麗に見えたんだよなー。

 

いつもの居丈高でなくて、なんか寂しげで儚げで。

手が届きそうな気がしたんだよ、オレにも。

そして実際に届いたんだ。

初めて触れた彼女の肩は、信じられないほど細く柔らかだった。

 

「…相田?」

 

振り返ってくる青い瞳。

見つめられ、オレの心臓は動いていただろうか?

でも、口が開いて空気を振るわせられたんだから、きっと生きていたに違いない。

 

「なあ、オレと付き合ってくれないか?」

 

クラス中が静まり帰った気がした。

無呼吸で待ちかまえるオレに、惣流は首を傾げた。金髪がすっと流れる。

 

「付き合うって、どこに?」

 

「…違う。恋人としてってこと」

 

顔が赤くなったのは、息がなお止まったまんまだからだ。そのうちチアノーゼで紫に変わるはず。あと十分もすりゃ、間違いなくお陀仏だろう。

 

惣流は驚いて、笑おうとして、まじめな顔になった。

喋ろうとして、止めて、それを三度繰り返す。

オレの表情から何を読み取ったのか。

もちろんそれは彼女にしか分からない。

 

「…無理。謝る筋はないからはっきりいう。無理」

 

それが答えだった。

干上がる寸前の脳細胞に酸素を供給される。

放課後の温い空気とともに、言葉の意味が頭の中心にたたき落とされる。

 

無理、か。

 

まったくもって、コイツらしい。

 

「そう、か。無理いわせて悪かったよ。じゃな」

 

…しっかしもうちっと洒落た言い回しはできなかったのかね、オレは?

 

鞄をひっつかみ、足早に教室を後にするオレ。

残ったクラスメートたちが驚いた顔つきでこっちを見ていたが知るもんか。

教室を出た直後、やってくるシンジが見えた。

すれ違いざま、ボディーブローをかまそうとチラと考えたが、結局軽く肩を叩いて別れを告げた。

 

「じゃな。後は頼むぜ」

 

「…? うん。さよなら」

 

きょとんした声のシンジに背を向けたまま手を振る。

オレ、やっぱり格好悪いや。

 

 

 

 

 

 

 

 

…と、まあ、ここまでなら青春のほろ苦い1ページで完結したわけだよ。

実は、甘くて苦い後日談がつく。

 

告白というには無様すぎる交錯から数ヶ月。

バレンタインデーなんて考えたヤツはみんな死んでしまえ、と心の中で呪詛を繰り返すオレの前に、ひょっこり惣流がやってきた。

 

村一番の勇者と一部からからかわれたオレにとって、この邂逅は正直あまり歓迎したいものではなかった。

ちょうどそれに関する憶測やら噂やらも沈静化してきていたし。

 

まだHRを終えたばかりの放課後。

顔半分を引きつらせ顔半分で笑うオレの目前に、惣流は小さな包み紙を放り出した。

 

誇張なく小さな包み。一辺5㎝四方の立方体。

意味が分からず、おぞましいほど可愛らしいピンクの包みをただ眺めるオレに、惣流は破顔した。

 

「チョコよ。義理だけどね。アンタにだけ上げるわ」

 

どうしてコイツの声は悪魔みたいに通るのだろう。

聞き耳を立てる必要すらなく、クラスは一旦静まり返り、そして大きく震えた。

そこかしこでどよめきがわき起こる。

 

「惣流が!?」

 

「相田へ!?」

 

んなこたあいわれなくてもわかっているよ、ちくしょうめ。

確実に、みんなして以前のオレの告白を思い出したハズ。

 

「なによ? 嬉しくないの?」

 

周囲の喧噪など全く意に介さず、金髪の悪魔は笑った。

ファウスト博士の気持ちが分かるぜ、ホント。

 

「あ、ああ、ありがと」

 

どうにか言い返すだけでえらく消耗した。

 

「よろしい。あ、お返しは千倍返しでね」

 

無茶苦茶な言葉を置いて、自分の席に戻っていきやがった。

途端に集まってくる、野郎どもの群れ。

 

「おい、めっちゃレアじゃなーか、これ?」

 

「惣流が、他人に義理とはいえチョコをなあ…」

 

「…なあ相田。おまえ、どんな強請のネタもってるんだ!?」

 

全く好き勝手なことをほざいてくれる。悪い気はしなかったがな。

でも、一応訂正するなり抗弁しておかなきゃならない。

 

そう思い、口を開きかけたオレの視線は惣流の席に釘付け。

周囲に集まっていた奴らの視線もオレに準じた。

 

惣流のヤツ、自分の鞄から取り出した無茶苦茶大きな包み紙を、シンジのヤツに押しつけいる。

そして、こちらを、いや、オレを見て、可愛らしくあかんべーをして教室を出ていってしまった。

 

茫然とするオレたちに、包み紙を抱えたシンジがやってくる。

 

「まいったよ、もう。僕が作ったチョコを僕によこすなんて。だったら最初から作らせないでよ。…理不尽だよね?」

 

誰も共感する声すら上げず、じっとシンジを見つめている。

さすがの後天性ボケも、いたたまれない空気に気づいたのか、なぜか包み紙をバリバリ破き始めた。

 

「…えーっと、みんな食べない?」

 

全員が息をのみ、そして、

 

「おおっ!! 喰ってやらあっ!!」

 

「喰わんでかあっ!!」

 

男どもの手が、たちまちチョコレートを粉砕する。

戸惑いながら、シンジは笑う。

 

「どう、美味しいかな? って、止めてよ、ケンスケ…」

 

オレはそのチョコの欠片をシンジにぶつけ続けた。

 

 

 

 

 

案の定、それからオレは壮絶な笑い物になった。

あの惣流・アスカ・ラングレーから義理チョコを貰った、唯一無二の漢。

アクセントが『義理』のところにあるのは言うまでもない。

それは、高校卒業するまでついて廻った。

今も、在校生の間でまことしやかに囁かれていると聞く。

 

ホワイトデーに何を返したのか、正直覚えていない。

ただ、オレが貰ったチョコは、やっぱり10円のチロルチョコで、持ち帰った頃には鞄の底で包みごと破れて溶けていた。

 

もしかしたら、オレの勇気に対する報償だったのだろうか?

いや、多分、単なる嫌がらせだろうなあ。

まったく、最後まで始末の悪い恋だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教会の鐘が響く。

こんなのより、寺の鐘を鳴らしたほうがいいんじゃね? と考えるくらいオレはやさぐれていた。

 

無理もない。

昔に好きだった女のキスシーンなんか、いくら積まれても撮りたくないもんだよ、普通は。

おまけに相手は、あのシンジだもんなー。

 

オレは未だに釈然としない。

あんな気弱な唐変木のどこに惣流が惹かれたのか。

惣流が物好きなのか、シンジがオレも知らない一面も持っているのか。

 

まあ、恋愛は一方だけでは成立しないもんだろ。ましてや結婚ときたら。

 

赤い絨毯の上を歩いてくる二人を撮り続けながら、オレは誰にも分からないようため息をついた。

ぜひ、トウジあたりのコメントも拝聴したいところだ。

委員長あたりは、当然の帰結よ、とでもいうかも知れない。

 

そんな彼女は感極まったのか今グシグシと泣いていて、トウジに慰められているところだ。

結婚式で感化される女性って多いらしいから、後でとんでもないこと言われるかもしれないぜ、親友? くくく。

 

まあ、オレがやさぐれようが何しようが、ファインダー越しの二人は幸せそうに見えた。

もちろん、これが魔法のカメラってわけじゃない。

屈託のない彼女の笑顔を肉眼で見つめる。

 

…OKOK、祝ってやろうじゃないの。

二人幸せなら、それでいいだろ?

うん、オレのひがみだよ、きっと。

もう、惣流は昔のオレの気持ちなんか忘れたさ。

式前に会話をして確認はできなかったけどな…。

 

そう考えると、胸が少し軽くなり、少しだけ寂しくなった。

 

まったく、つくづくしつこいね、オレも。

よし、今からオレはリニューアルしました。相田ケンスケマークⅡです。

 

一心不乱にシャッターを切り続け、たまたまカメラから額を外したとき、花嫁と目があった。

 

イタズラっぽい微笑みが返ってきて、次の瞬間新郎の頬にキスをした。

絶好のシャッターチャンスだったのに、オレはカメラを構えるのも忘れていた。

 

まったく、当て付けのつもりかよ?

 

それだけに留まらず、最後の一大イベントらしいブーケトス。

 

この花嫁、よりによってオレにブーケを投げてきやがった。

いや、むしろぶつけてきたといっても過言ではない。

 

咄嗟に受け止めたまでは良かったが、血相を変えた女性陣がこちらめがけて突っ込んできたのにはビビッた。

ブーケに群がる参列者越しに新郎新婦と見つめ合う。

頬を片方歪め、苦笑の形。カメラを掲げると、花嫁は一つ頷いた。

ホッペタにくっきりとキスマークを浮かべまだ狼狽する新郎の手を掴み、新婦は悠然と道を進んでいく。

 

参列者の拍手。

 

舞い散る花吹雪。

 

そしてそれをファインダーに納めるオレ。

 

 

 

 

 

 

 

はい、さよなら。

 

在りし日のキミへ、永遠のさよならだ。

 

二人の背中に軽く呟く。

 

空は本当に青くて眩しくて。

 

なんだ、ちっとも蒸し暑くないじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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