ドッカ───ンッ!
「あら、どうやら始まったようね。」
「そのよう・・・ですね・・・。」
先ほど影斗と過ごした部屋で、咲夜とレミリアは話していた。
レミリアは咲夜が用意した紅茶を口にした。
「ッ!・・・うっ、にがぁ・・・
なに入れたのよぉ、咲夜ぁ・・・」
影斗がいたころとは全く違う、今のレミリアには威厳の欠片もない。気を許したものだけに見せる本当の姿と言うやつだろう。
「トリカブトですが。」
「も、猛毒じゃないの!?」
「はい、そうですが。」
咲夜の口調からは刺々しさを感じさせる。
「・・・そんなに気に入ってたの?あいつのこと。」
「べっ、別に、そのようなことは・・・」
「そんな顔を赤くして言ったって、説得力ないわよ。」
「・・・影斗さまは大丈夫でしょうか・・・?」
「いや、多分死ぬわ。」
心配そうに言う咲夜に、レミリアは残酷にそう言った。
「へ・・・」
「当たり前じゃない、フランはわたしの妹・・・吸血鬼よ。たかだか8秒程度しか時を止められない人間が逃げ切れる、ましてや勝てるはずないじゃない。」
「でっ、ではッ!」
「わたしだって詳しく見た(・・・)わけじゃないわ、そんなに心配なら祈ってなさい。」
そう言ってレミリアは窓の外の月を見た。
「今夜は・・・月が紅いわね・・・」
月は紅く、妖しく輝いていた。
「ガァ・・・ッ!」
あ、ありのまま今起こったことを話すぜッ!
『わたしは底冷えするような殺気を感じて右に飛んで避けたと思ったら左手が吹き飛んでいた(・・・・・)』
な、何を言ってるか分からねーと思うが・・・・・・
と正直ふざけている場合ではない。予想外のことに少々混乱していた様だ。
しかしこれは不味いぞ・・・いや、フランの攻撃の方法自体の見当はついている。突き出した右手(・・・)が鍵だろう・・・。
わたしはてっきりまた弾幕でも放ってくるものだと思ったが、奴がそのまま開いた右手を閉じたとき、わたしの左腕が爆ぜた・・・。
肩より先は、血の一滴さえも残っていない(肩口からは止めどなく血が流れているが)まるでわたしのキラークイーンの様だ・・・、もしや同じタイプの能力か・・・ッ!
「久しぶりにやったから少し外れちゃったわ、あなたが動くからよ・・・。」
フランは、今だ起き上がれずいるわたしを見下すように言った。彼女はグイグイっとにじり寄ってきた。
「あんまり調子に乗るなよォッ!クソガキがァ──ッ!」
懐からナイフを取り出し、それを投げつける。咲夜から借りて(落ちていたものを拾ってきただけなのだが)きたものだ
「フン、こんなのイタチの最後っ屁にもなりはしないわ。」
フランはつまらなそうに、向かってくるナイフを自らの左腕に突き刺すことでガードした。どうせ自分の回復力を過信したのだろう、こういう傲慢さは姉にそっくりだ。
わたしは自分の傷を治しながら、何事もなかったように立ち上がる。
「なッ!」
「君がどうやってあんな風にしてくれたのかはよくわからないが・・・まあ、それが君の能力なのだろう。」
わたしが簡単に起き上がってきたことに驚いたのか、フランはいまだに呆然としている。わたしはそんなことを気にせず続けた。
「ところで・・・わたしの『キラークイーン』にもちょっとした能力があってねェ・・・」
「キラークイーン・・・?」
「ン?ああ、君にはまだ説明していなかったね、精神のパワーが具現化したもの・・・まあ、わからなければ見えない何かだと思ってくれればいい。」
「・・・それが、何だっていうのよ。」
「いや、わたしの『キラークイーン』の特殊能力を教えようと思ってね・・・
『キラークイーン』の特殊能力・・・それは・・・『キラークイーン』は『触れたもの』は『どんな物』でも・・・・・『爆弾』に変えることができる・・・
『キラークイーン』はすでにナイフに触っている・・・・・・」
「ハッ!」
わたしの言葉の意味に気づいたようで、フランはナイフを引き抜こうと動いた。
「遅いッ!」
カチリッ!
彼女がナイフを引き抜く前に、キラークイーンのスイッチを押す。
ドグオオォォンッ!
「うぐあぁぁぁぁッ!
ハア、ハア。」
フランの左腕を吹き飛ばした。その衝撃で彼女の体は飛ばされる。さすがに全部、吹き飛ばすのは不味いからな・・・、これだけで済ましておく。
しかし、まだまだ油断は出来ない、まだ右腕は無事なのだ、それにわたしの気も治まらない・・・
「おいおい・・・妙な叫び声をあげるんじゃあない。
わたしは君に同じ苦痛を与えられたが、叫び声はあげなかったぞ・・・
わたしを見習いたまえ・・・・・」
さっきとは反対で、わたしが倒れている彼女に近づく。
「うぅ・・・」
「妙な真似をするんじゃあないッ!」
フランが右腕をこちらに向けてきたので、わたしはそれを踏みつけて回避する。またわたしを破壊するつもりだったのだろう。
あっちはわたしを殺す気で来ているのに・・・少し不公平だと思うのは当然のことだろう。
とりあえず右手も使えないようにしておこうか。
「ひぎィッ・・・!」
一秒ほど時を止め、フランの右手にラッシュを叩き込む。吸血鬼の回復力がどれ程か知らないがしばらくは握ることはできないだろう。
・・・しかし、これはすごい絵面だなァ、大の大人が、10才にも満たない少女をいたぶっている。
だからと言ってわたしが非難されるいわれはないだろう。身体能力もちがう、空も飛べない、あの弾幕の強さには寒気すら感じる。こんなにも差があるのだ。
「安心しろ、殺しはしないよ、ただ少しの間眠ってもらうだけだ。」
「あんまり舐めるなよ・・・ッ!人間ッ!」
フランはグイッと起き上がってきた。怒りのこもった眼をこちらに向けてくる。
「もう壊すッ!」
禁忌『フォーオブアカインド』
フランがそう宣言すると、彼女の体が4つに分かれた・・・いや、増えた、フランが4人に増えたのだ。
「クッ、まだこんな隠し玉をもっていたのか・・・しかし本体が丸わかりだぞ・・・ッ!」
確かに彼女は4人に増えた、・・・がッ!本体以外は傷を負ってはいない、左腕が残っている。
「フン、それがどうしたのよ、今ッ、わたしの力は単純に考えて4倍よッ!」
本体以外のフランが弾幕を放とうと構える瞬間、わたしが時を止める。
ドォ───z___ン
そして近いフランから順に
触る、爆破、触る、爆破、触る、爆破・・・そこで時が動き出す。
「本体以外の君なら、遠慮なく吹き飛ばせるということだ。」
自分の分身が跡形もなく消えていくのを理解できず、フランは呆然としていた。
しかしフランはすぐに立ち直り、こちらに右手を向けてくる。
わたしはそれをつかんだ。
「・・・なぁ、フラン、君は本当にそれでいいのか?」
フランの傷を治してやりながら、わたしはそう言った。
「な、何が言いたいのよ・・・ッ!」
「本当にずっと1人でいいのかと聞いているんだ。」
「当たり前じゃないッ!だってわたしがいると壊れちゃうんだもんッ!」
わたしがそう言うと、フランは悲鳴を上げるようにそう言った。
すでに、その瞳は狂気に染まってはいなかった。
「・・・本当か?それが本心なのか?みんなと一緒に過ごしたくはないのか?」
「・・・そりゃあ、わたしだってみんなと一緒に暮らしたいわッ!
お姉様とお茶したり、話したり、ここの人たちとだって会ってみたいのッ!
・・・でも仕方ないじゃないッ!わたしがいると壊れちゃうんだもんッ!みんな死んじゃうんだもんッ!
自分が抑えられないのッ!何でもかんでも壊したくなっちゃうのッ!
うっ、ひくっ・・・・うわぁぁぁ──んッ!」
フランは自分を責めるようにそう言って、最後には泣き出してしまった。
わたしの胸で泣く彼女を撫でてあやす。まるで子供でも持ったようだ。
「キラークイーン第一の爆弾・・・『キラークイーン』」
「Guaranteed to blow your mind~♪」
カチリッ!
いままで止まることの無かった破壊音が止まった。
「終わった・・・ようね・・・」
そう言ってレミリアはにやりと笑う。
「咲夜や美鈴に勝ったって言うから、もう少しくらい持つと思っていたけど・・・そんなことはなかったわね。
期待外れだわ。」
そして溜息を吐く・・・表情が安定していない。
「それじゃあ、様子を見てくるわ、咲夜、あなたはここで待ってなさい。」
「かしこ・・・まりました。」
咲夜はうかない表情を浮かべている。
(そんなにショックだったのかしらね、あんなに入れ込んでいたんだもの、少し妬けるわ。
まあ、会ってそんなに時間がたっていないのはよかったわ、咲夜もすぐに忘れるでしょう。)
レミリアはフランのもとへ向かった。
「あら、レミィ、貴女がここに来るなんて珍しいじゃない。」
「ええ、久しぶりにフランに会おうと思ってね。」
レミリアがそう言うとパチュリーは少し考えるような仕草をとり、口を開いた。
「・・・ああ、そういうことね。残念だわ、わたしも彼のことを気に入ってたのに。」
「それはすまなかったわね、パチェ。
でも、わたしも興味を持ったのよ。」
「あら、そうなの。」
パチュリーは少し驚いたような表情を浮かべた。
「彼の『運命』に対する考えかたにね・・・
もしかしたら・・・と思ったけど、やっぱり期待しすぎたわ。」
影斗は運命は変わらないモノだと言ったが、同時に自ら切り開くモノだとも言った。
ただ、なすがままになるのではなく、立ち向かうモノだと・・・
だからレミリアは影斗をフランのもとへ向かわせた、彼が運命を変えるところを見たかったからだ。
「まあいいわ、今ならフランの機嫌もいいだろうから・・・
わたしはもう行くわね。」
「そう・・・じゃあ結果は教えてね。」
「?」
パチュリーの言葉の意味が理解できなかったが、レミリアは思考を打ち切り、地下室へと歩を進めた。
「あら、また派手にやってくれたわね・・・」
レミリアは冷や汗をかきながら、そう呟いた。頬がひくつくのが抑えられない。
まあ、この惨状を見れば誰でもそうなるだろう、壁という壁は破壊され、床は陥没している、傷ついていないところを探す方が苦労しそうだ。
(咲夜・・・ごめん。)
ここの修理をするであろう咲夜に、レミリアは心から心の中で謝罪した。
しばらく歩くとフランの部屋の前にたどり着く。
(まあ、ここにいるかは分からないけど・・・)
そう思いながら、レミリアは扉を開いた。
そこに居たのは、眠っているフランを、所謂お姫様抱っこで抱えた、影斗だった。
「な・・・ッ!」
レミリアは驚愕した、運命を読んだ結果、影斗は死ぬはずだったからだ。
いまだ驚きの色を隠せないでいるレミリアに構わず口を開いた。
「ン・・・?レミリアか・・・
いったいどうしたんだ?」
「・・・したのよ・・・」
「ン?」
「フランに何をしたのかって聞いてるのよォ───ッ!」
レミリアには到底信じられなかった、まさか自分の妹が負けるなんて・・・
確かにさっき、期待していたとは言ったが、本当に勝てると思っていたわけじゃない。
だから破壊音が止んだ時、影斗が負けたと思ったのだ。
「ン・・・そうだな・・・
わたしにはまだ君に説明していなかった能力があってね・・・」
影斗は続ける。
「スタンドのことは咲夜から聞いているだろう?」
そのことは、確かに咲夜から説明を受けていた。
「わたしのキラークイーンは・・・触れたものなんでも爆弾に変える。
触れたもの何でも吹き飛ばす・・・」
「な、何が言いたいのよッ!」
いや、レミリアにはもうわかっていた。無い(・・・)のだ。この部屋に燻っていた、あの嫌な空気が、フランが寝ていよーが決して晴れることの無かったあの嫌な空気が無くなっているのだ。
「キラークイーンは・・・君の不安を吹き飛ばす・・・」
「うっ・・・」
「彼女の狂気は・・・その影も残さず吹き飛ばしたよ・・・」
「うわーーーんッ!」
その言葉に、レミリアの涙腺は崩壊した。膝から崩れ落ちる。
これで妹が、やっとこの世界で生きていけるのだ。長年待ち望んだものだった。
それを、この外来人が、ただの人間がかなえてくれたのだ。
「フランを渡してもいいかな?」
レミリアが落ち着いたころを見計らい、影斗は再び口を開いた。
「・・・どうして?」
「少々、血を流しすぎてしまってね・・・早く帰って寝たいんだ。」
「夜の森は危険よ・・・」
「大丈夫さ、わたしは強いんだ。」
「・・・泊まっていきなさい、朝に帰っても別にいいでしょう・・・?」
「・・・いいのか?」
「ええ、あなたはわたしたちの恩人よ、何時でも頼って。」
「そうか・・・じゃ・・・あ・・・たの・・・む・・・」
そう言って影斗は倒れこんだ。
後に残ったのは、すやすやと寝息をたてるフランと影斗と立ち尽くすレミリアだけだった。
あと後日談程度で紅魔郷編は終了ですかね。
ご感想お待ちしております。