スーパーロボット大戦OG 無限のフロンティア 異世界からの依頼者 作:ダス・ライヒ
「艦長、もう直ぐトレイデル・シュタットです!」
「OK、いつもの場所へ止めてくれ。副長」
陸上を走る巨大な砲塔の無い戦車、いや、地上戦艦と言うべきか。地上戦艦「ツァイト・クロコディール」のブリッジにて、山賊のような服を着た八頭身の人型の虎である副長の呼び掛けに応じ、さすらいの賞金稼ぎと自称する男、ハーケン・ブロウニングはいつもの場所へと止めろと命じた。
このキザな男の服装はこれまた派手な物であり、一目見れば印象に残る物だ。
そんな男は、周りからは自らが自称するさすらいの賞金稼ぎではなく、世界を創り変えた男として呼ばれている。
ちなみに、自分等が乗っているツァイトは、ハーケンが先代であり、里親であるジョーン・モーゼスより名と共に受け継いだ物だ。
ハーケンは艦長の席から降りれば、外へ出るためにブリッジを後にした。
艦橋から見える景色は、墜落した巨大宇宙船から発掘された物で、かなり発展した未来都市が広がっていた。
中々の活気に満ち溢れていると思われているが、街のありとあらゆる場所にある出入り口には統合連邦軍と呼ばれる強大な軍に属する兵士たちが検問を張り、鋭い眼光をこの街に入ろうとする者達に向けている。
手には自軍で正式採用されているライフルが握られ、いつでも撃てるように引き金の近くに指が添えられている。まるで占領下のようだ。
連邦軍がこの華やかな都市に進駐する理由がある。
それはトレイデル・シュタットをここまで発展させる要因となったシュラーフェン・セレストだ。
先客であるワルキューレを一定の個所に追い込んだ後、この未知なるテクノロジーで溢れる巨大宇宙船に目を付けた連邦軍は、敵方である同盟軍にその船のテクノロジーを渡さぬように、七十万もの兵力を派兵し、そこら一帯を占領下に置いた。
同じくその船のテクノロジーを狙う同盟軍は、これに対抗して勢力下近くにあるロストエレシア国境付近に軍を集結させ、いつでも侵攻できるように準備をしている。
連邦軍が何らかの行動を起こせば、ハーケンの国はたちまち巨大勢力の戦渦に呑まれ、ありとあらゆるものが破壊尽されてしまうだろう。
無論、巨大宇宙船も例外では無い。
それを恐れてか、連邦軍はただ大兵力を置くだけで細々と発掘作業を行っていた。
この船には幾度か盗掘屋も忍び込んでいるが、それを防ぐために連邦軍は一個大隊以上の戦力をシュラーセン・セレストに配置し、盗掘を働こうとする者を問答無用で射殺している。
さて、話を戻し、ハーケンは自分の育ての親であり、妹でもあり姉でもある‟家族‟である緑色のロングヘアーが印象的な人型女性アンドロイド、アシェンを伴ってツァイトを降りた。
彼が地上戦艦から降り立った先には、検問を行う連邦軍の憲兵たちが待ち受けており、ハーケンらを見るなり不敵な笑みを浮かべて近付いて来た。
将校の腰には自動拳銃を収めたホルスターが吊るされ、四名の部下達の手には短機関銃が握られている。いつでも撃てるように、安全装置の近くには親指が添えられていた。
「おやおや、ご帰宅ですかな。ブロウニングさん」
「やぁ、ミスタードナルド。相変わらず仕事熱心なことで。で、通行料の件かな?」
得意げに話しかけて来る憲兵隊の将校に対し、ハーケンは余裕を崩さず、それに応える。
「あぁ、通行料だ。こいつは二十年近くの老朽艦で、主砲も外されてるようだが、自衛の対空砲や対空ミサイルでも我が軍にとっては十分に脅威となりえる。分かっているな?」
「OK、アシェン。駄賃をミスターに渡してくれ」
「了解でござんすよ」
それが通行料であることをしっているハーケンは、アタッシュケースを持っているアシェンに持っている物を将校に渡すように指示する。
これに応じ、アシェンはおかしな返答をしてから通行料が入っているケースを憲兵隊の将校の前に出し、中身を空けてちゃんと金額が入っていることを見せる。
アシェンがおかしな言動をするのは、言語機能になんらかの障害があるからだ。それ故に、相手に対して失礼なことを言う事もある。いわゆる毒舌と言う奴だ。
「お主も悪よのぅ」
ケースの中に金額、それも本物の金塊が詰め込まれているのを確認した将校だが、アシェンがまた変なことを言い出すので、彼はハーケンに言動がどうにかならないのかを問う。
「全く、こいつはどうして敬語が話せんのだ?」
「育ちが悪いんでな。そこは、勘弁してくれ」
どうやらこの将校は、アシェンがアンドロイドであることに気付いてないらしい。
だが、彼女がアンドロイドと分かれば、厄介なことになりかねないので、ハーケンはそのことを目前の連邦の将校には明かさず、育ちが悪いと適当に返して流した。
「ふん、野蛮人共め。よし、これで暫くはお前の船をタダで通してやる。だが、期限切れの時にこのおかしな言動の女を俺の前に出してみろ。貴様とその女、部下諸共豚箱入りにしてやるからな。もしくはこの場で盗掘罪として全員を射殺し、そこのオンボロ地上戦艦を接収する。それとお前が盗んだ機体を、追っているISAの連中に知らせる。分かったか?」
「OK、次からは出さないでおく。だから落ち着いてくれ、ミスター。それにちくるのも無しだぜ」
「分かったらさっさっと行け。これを後ろの四人以外に見られたら厄介なことになるからな」
「そんなにカリカリすんなよ、ポリスオフォッサー。そんじゃ、ありがとな」
アシェンの言動にかなり苛立っているのか、将校は蔑んだ目付きで警告した後、自分の部下以外の憲兵たちを気にしつつ、二人に早く通るように告げた。
これにハーケンは彼を宥めながら、アシェンと共にツァイトに乗り込み、検問を通って自分の家へと帰って行った。
「やれやれ、自分の家に帰るってのに、通行料を払わないといけないとわな」
「ビッチ戦士たちのワルキューレと結託し、ここの腐れ連邦共を追い払ったりしないのでごんすか?」
「却下だ、バトルジャンキー。そうなれば、トレイデル・シュタットどころか、ロストエレシア全体が戦場になっちまう。それだけは避けねぇとな」
アシェンは口汚く先客であるワルキューレと共同戦線を張り、ロストエレシアを奪還しないのかとハーケンに問うが、故郷であるロストエレシアを戦場にしたくない彼は彼女からの提案を暗い表情を浮かべ、帽子でその表情を隠しつつそれを却下する。
「すんまへん、艦長。あの軍隊マッポーが気に食わなかったもんで」
「俺もだ。だが、あいつとここの
急に関西弁で謝罪したアシェンは、奪還の提案を出したのは、自分たちの故郷でデカい顔をして歩き回る連邦軍が気に食わないことだと理由を述べれば、ハーケンもそれに同感しつつも、連邦軍より機動兵器「ゲシュテンペストMk-Ⅱ」を盗んだことがあった為、手出しも出来ない。
もし駐屯軍に逆らえば、軍から機体を盗んだ罪とテロの罪で憲兵隊に逮捕され、公開処刑に処されるだろう。ハーケンの里親であるジョーン・モーゼスも同罪として処刑されること間違いなしだ。
「ちっ、こんな時にボスとスーパーな連中が居ればな…」
ハーケンは前に別世界へ転移した時に戦った仲間たちの事を思い出してぼやきつつ、艦橋へと向かった。
一方で、未知なるテクノロジーが溢れるシュラーフェン・セレストの次元転移装置がある区画にて、ある‟バカ‟がこの無限の開拓地と称される世界へやって来た。
バカの服装は、黒のタキシードに黒のテンガロンハットと奇妙な格好だ。それにバカは男であり、かなりの高身長と覗える。
尚、転移装置もとい、このシュラーフェン・セレスト全体の機能は驚いたことにまだ生きており、数百年、否、数千年もの間にこうして転移装置より吐き出したバカを含める異世界の物を艦内に吐き出し続けている。他の区画も、朽ちることなく動いている。
そのおかげでロストエレシアはエンドレス・フロンティア随一の科学力を誇っているのだ。
「んだここぁ…? 確か崖から落ちて…」
バカはこの世界に来るまでの経緯を、頭を抱えながら思い返した。
腹が減って崖沿いを彷徨っている所、うっかりと足を滑らせて谷底に落ちたが、落ちる途中で妙な物が現れた。
ちょうど落下の通過点にあったがため、そこに上手く入り込むことに成功し、見事に一命を取りとめた様子だ。
「…俺、運良いな」
谷底から足を滑らせて落ちて、もう死んだと思ったのに生きていた。
思い返したバカの脳裏には、それだけしか浮かばなかったようだ。
「にしても、ここ汚いな…ガラクタとか、食い物も散らかってるし…」
バカは辺りを見渡し、そこが自分の同じく他所の世界から来た物で溢れていると認識する。
実際バカの言う通り、転移装置のある区画には様々なガラクタや物で溢れかえっていた。
「腹減ったな…これ、食えんのか?」
とにかく腹が減っていたバカは、周囲に落ちてある食べ物に目を向け、なんと床に落ちてあるパンを、埃か砂が付いている可能性があるにも関わらず、それを平然と口の中に入れて平らげてしまった。
「おっ、食えんな」
普通に食べて何も感じないバカは、そのまま落ちてある食べ物全てに手を付け、それを次から次へと胃の中へ納めて行く。袋に包まれている物に対しては、封を開けて中の物を口の中へ行儀悪く放り込む。
「調味料とかねぇかな」
次々と落ちてある物を食べつつ、バカは調味料も無いか探し始める。無論、食べながらである。とてもはしたない男だが、本人は微塵も気になどしていない。
調味料を見付ければ、それを台無しになるくらいにまで振り掛けてから食べる。もはや何も言わないだろう。
割れず、腐ってない牛乳瓶も見付ければ、蓋を開けて流し込む。
「ふぅ、食ったな」
粗方の食材を腹に収めたバカは、転移装置で流れて来たと思われるソファーの上で横になり、そのまま寝ようとした。
このバカの名はヴァン、姓名の無いヴァンだ。
ヴァンはエンドレス・フロンティアを作り変えた男であるハーケンと同じく通り名で呼んでいる。例えば食い逃げのヴァンや無職のヴァン、二日酔いのヴァンと言う酷い異名を付けられることがあるが、たまに良い例で鋼鉄のヴァンやヴァン・ザ・ナイスガイとも呼ばれている。
だが、本人が一番気に入っているのは、夜明けのヴァンと言う物だ。
この由来は、彼が師匠であるガドヴェドを倒した際に、次の目的地へと向かおうと矢先に夜明けが訪れた時である。そんな彼は、暴力と争いが絶えない世界とは違うこの異世界の地で、前に経験した痛快極まりなかった復讐の旅とは違う別の旅をするとはまだ思ってもみない。
「いっぱい居るわね」
自身が目的地へとしている場所に、ヴァンと言う先客が来ているとも知らず、マリは連邦軍の厳重な警備網を抜けてシュラーフェン・セレストの船内へ忍び込むことに成功していた。外の厳重な警備網とは違い、中は正反対であった。
船内ではやる気の無い歩哨が、銃を担ぎながら面倒くさそうにうろつくだけで、周囲を見ようともしない。それに巡回を行わず、サボっている兵士もチラホラ見える。どうやら外のアリ一匹入りきれない程の警備網で安心しきっている様子だ。
これなら楽に、彼女は目的地である転移装置のある区画まで忍び込むことが出来るだろう。周囲に警備兵が居なくなったのを確認すれば、マリはすかさず隠れている場所から飛び出し、頭の中に叩き込んだ船内の地図を頼りに目的地へと進む。
「たくっ、捕まえた盗掘屋はウルセェな」
「あぁ、全くだぜ。確かピンクの猫の獣人だったか?」
目的地である区画へ向かう途中、二人組の兵士が雑談を交わしているのが見えた。何か情報になる物を聞けるかもしれないと思い、物陰に隠れて盗み聞きを行う。
「そうだ、出してくれたら割引するとか抜かしてたな。だから無視したよ」
「結局金を取んのかよ。見上げた根性だぜ」
「しかし、あの猫の獣人の女、良い身体つきしてるぜ。幾らでやらせて貰えるんだろうな」
「おい、獣人の女なんかとやったら病気がうつるぞ。止めとけ」
「
「サックでも駄目だ。衛生兵に銃殺されるぞ」
「けっ、早く交代要員は来ねぇかな!」
邪なことを考えていた兵士だが、同僚に止めろと言われて苛立ったのか、怒鳴り声を上げながら自分の担当区へと、八つ当たりにそこら中に転がっている鉄屑を蹴ってから戻って行った。
「マジで殺されるんだからな…」
彼を怒らせた同僚も、そんな兵士を見ながら一言呟いてから自分も担当地区へと戻る。
周囲に人気が無くなったのを確認すれば、マリはその場から離れ、目的地へ巡回兵の目を盗みながら向かう。道中、赤外線センサーや監視カメラ、その他に様々な防犯装置があったが、マリはこれらを難なくカメラにもセンサーにも触れることなく掻い潜り、まるで幽霊のようであった。
幽霊のような存在であるがため、船内を警備する兵士たちは全く侵入者の存在に気付いていない。いつも通り、予定に組まれている退屈な警備スケジュールをこなすだけだ。そんな兵士たちのおかげで、マリは目的地である転移装置のある区画へと辿り着くことが出来た。
「…一人だけね」
目的地へ続く出入り口の前には、一人の警備兵が持ち込んだ椅子の上で鼾を掻きながら寝ていた。
彼を起こさず、ドアを開けて中へ侵入すれば容易な物だが、ドアの上には空いた瞬間になる小さな鈴が仕掛けてあった。そのまま起こさずに通り過ぎてドアが開けば、鈴が鳴ってドアの近くに居る警備兵だけでなく、他の警備兵たちにも自分の存在が知られてしまうだろう。反対側も同じく、同様の防犯装置が取り付けられている筈だ。
「あるじゃん、別の道」
出入り口のドアを諦めて別の侵入経路を、目を凝らして探してみると、それは直ぐに見付かった。通気口だ。マリでも身を屈めば十分に通れるほどの広さがある。
物音を立てず、蓋を静かに外し、中に入ってから再び蓋を閉め、埃とゴミだらけの通気口の中を進む。
「ここね」
上へ進み、通気口から転移装置を見付ければ、物音を立てずに蓋を外し、目的地の区画へと飛び降りた。
「…誰?」
転移装置のある区画へと降りたマリは、先客であるヴァンを見付けた。ソファーの上で絶賛爆睡中であり、マリが降りて来た時でもまるで反応せず、ただ鼾を掻いて寝ているだけだ。
彼は転送装置によって転移してきた様々な食材を平らげて寝た後であり、こうしてソファーの上で横になって寝ている訳だ。
「…まぁ、良いわ。取り敢えず、あの娘は何所に…?」
寝ているヴァンに、少々呆気に取られたマリであったが、そんな馬鹿に気にすることなく転移装置の端末を動かし、自分が探しているルリが何所に行ったのかを確認する。
「駄目だわ…どれもガラクタばっかり…数カ月前に、人間二人とロボット一体あるけど…絶対あの娘じゃない」
端末の転移記録を探ったマリであるが、件のルリとその仲間たちを別の世界へ送り込んだ記録は一切無い。人を送り込んだ記録はある物の、それはルリが失踪するより前の記録であるがため、全く何の役にも立たない。
他の端末の記録を探ってみても、どれも少女を別の世界へと送り込んだ記録は無かった。
「ここには手掛かりは無し…」
「手掛かりが無し? あんた、何言ってんだ?」
「っ!?」
ルリに関しての手掛かりが無かったため、その場を離れようとした時、寝ているヴァンが起きたのか、マリに背後から声を掛けて来た。
突然、背後より声を掛けられた彼女は、凄まじい反射神経で腰のホルスターにある自動拳銃をコンマ単位で引き抜き、自分に声を掛けて来たヴァンの眉間に向けて銃口を突き付ける。引き金には指が掛かっており、いつでも力を込めれば撃つことが可能だ。
「おい、お前! なんで鉄砲なんか向ける!? 危ねぇじゃねぇか!!」
『おい、誰か居るぞ! 開けろ!!』
『っ!?』
声を掛けた女が突然、自分の眉間に拳銃の銃口を向けた為、ヴァンは激怒したが、そんな二人が居る区画に、騒ぎを聞きつけた連邦兵達が入って来た。
「な、なんだお前たちは!? まさか、盗掘屋共か!!」
入って来たのは、対能力者用の装備を身に着けたサイキックハンター達だ。
マリとヴァンを見るなり手にしている銃の安全装置を外し、銃口を向けて引き金を引こうとした。
「ちっ、こんな所で…!」
入って来た敵に対し、マリは銃口をヴァンの眉間からサイキックハンター達に向けた。
「あ、あの女ぎゃ!?」
「撃って来たぞ! 散会しろ!!」
マリは一人に照準を合わせれば、直ぐに引き金を引いて驚きの余り膠着している一人の眉間を撃ち抜いて射殺した。
一人が殺されて我に返った数名は、即座に遮蔽物へ身を隠し、持っている銃火器で反撃を行う。
それに合わせ、マリも近くの遮蔽物となる場所へ身を隠して応戦する。ヴァンも銃撃を避けるために、彼女が隠れている場所へ飛び込んで来た。
「ちょっと! あっち行きなさいよ!」
「うるせぇ! 俺がハチの巣になっちまうだろうが!!」
自分が身を隠している場所へと押し込んで来たテンガロハットな黒尽くめの男に対し、マリは無理に追い出そうとしたが、ヴァンはそれを了承せず、我が身大事で必死にその場で踏ん張る。
「回り込め!」
「手榴弾を投擲しろ!!」
「あぁ、もう!」
手榴弾を投擲しろと言う指示が飛べば、直ぐに手榴弾が一つほど飛んでくる。
無論、安全ピンが抜かれた物だ。種類は破片を撒き散らすタイプであり、ほんの数秒後で爆発して周囲に破片を撒き散らすだろう。それを見たマリは、手榴弾を蹴り込んでから伏せる。
数秒ほどで手榴弾は爆発し、周囲に破片を撒き散らしたが、マリとヴァンには破片は届かなかった。手榴弾で仕留められなかったサイキックハンター達は即座に次の策を転じ、二人を銃撃で抑え込んでいる間に、二名ほどを死角へ回し込ませる。
「死っ、ぐぁ!?」
回り込んだ一人が短機関銃で二人を撃ち殺そうとしたが、ヴァンが腰に下げてある奇妙な銃のようで布のような物で攻撃され、短機関銃を撃ちながら打ち倒される。
「いきなり鉄砲何て撃つんじゃねぇ!」
「き、貴様も能力者か!!」
それは刀身が変形する奇妙奇天烈な蛮刀であり、布は硬直して刀身となった。
その蛮刀を手にしつつ怒鳴ってから、怯まずに銃を撃とうとして来るもう一人のハンターに向けて斬り掛かる。もう一人もヴァンに倒されたハンターと同じく短機関銃を持っていたが、彼は銃弾の雨を軽やかに避けつつ、撃ちまくるハンターの懐へコンマ単位で滑り込み、一瞬の内で打ち倒した。蛮刀は刀身が重く、打撃に近い武器だ。刀身は布のようでしなやかに仕舞え、伸縮自在で鋼のように固くでき、更に鋭く出来るようだ。
「の、能力者か!?」
「奴も撃ち殺せ!」
回り込んだ二名を倒したヴァンを見て畏怖したハンター達は、マリと共に彼も標的に加え、集中砲火を浴びせる。
だが、ヴァンは先ほどの倍近い銃弾の雨を臆することなく突っ込み、超人的な身体能力でそれを避けつつ、一気にハンターたちの居る出入り口近くまで近付く。
「馬鹿な!? これ程の銃撃を!?」
一発も被弾することなく接近してきたヴァンに対し、ハンター達は驚く余り何も出来ず、彼が手にしている蛮刀で叩かれて気絶させられる。
「凄い…!」
誰も殺さず、しかもあれだけの銃撃に対して一発も被弾することなく全ての敵を打ち倒したヴァンの強さに、マリも舌を巻くほどであった。
「よし、まずは外に出てっと」
区画に入って来たハンター達を倒したヴァンは、外へ出ることに決め、マリを置いて勝手に外に通じそうな通路へと進み始める。
「(あいつについて行けば楽できるかも)」
心の中で、マリはヴァンについて行けば自分は楽が出来ると思い、SIG SG551自動小銃を何所からともなく取り出してから、彼の後へと続いた。
当然ながら区画に響いた銃声は船内中に聞こえており、それを聞き付けた内部の警備兵たちが一斉にそこへ集まって来る。
所定の位置の者はそのままで、ライオットシールドや散弾銃を持った対策班が向かって来る。数は一チーム四人であり、合計で三チームほどがヴァンやマリが歩いている通路へと向かう。
「居たぞ! 侵入者だ!!」
散弾銃を構えるポイントマンがヴァンやマリを見るなり叫べば、彼は即座に手にしている散弾銃を撃つ。それに合わせ、ポイントマンに随伴する三名が左手に盾を構え、右手で拳銃を撃ちながら近付く。
「これじゃ…」
流石のマリでもこの銃撃に恐れをなしたのか、不死身なのに飛び出さず、そこへ隠れているばかりだ。
だが、ヴァンだけは違う。自分の行く先に障害物があろうと、それを乗り越えて行く精神なのか、勢いを付けて数秒間ほど壁を走り、一瞬で四名の対策班を蛮刀と己の身体能力のみで全滅させた。
「動くぎゃっ!?」
「へぇ、凄いじゃん」
単独で厄介な四名の敵兵を倒したヴァンを見て、マリは背後から近付いて来た兵士を自動小銃で撃ち殺してから関心の声を上げた。
それから進む度に多数の敵が出て来るが、誰もヴァンやマリに敵うことなく、打ち倒されるか、撃ち殺されるだけだ。
そうして狭い船内通路の中で敵を倒しながら進んでいけば、マリは侵入して間もない頃に盗み聞きで聞いた捕らえられた盗掘屋が閉じ込められている檻を見付けた。
「そ、そこの御方! お助けを!!」
ヴァンとマリを見るなり、桃色の髪の上に猫耳を生やした女性が助けを乞うてくる。
服装は和風で、胸には包帯でさらしを撒いており、その上に袖の長い青い羽織を羽織っている。下の方はミニスカートで、自慢の美脚を露わにして、尻尾を見せびらかしている。
「お前、なんで捕まってんだ?」
「それはかくかくしかじか…」
自分に声を掛けて来た猫の女性に対し、ヴァンはどうして捕まっているのかが理解できず、なんで捕まっているのかを問う。
このヴァンの問いに、猫の女性は捕まった理由をはぐらかすような返答をする。
「ここに忍び込んで捕まったんでしょ?」
その答えにマリが本当の事を言えば、猫の女性は猫であるがために猫を被っていたのか、先ほどの口調とは一転して本性を現し、早く出すように告げる。
「ちっ、察しの良い女にゃ。良いから早くだせにゃ。兵隊共を呼んじまうぞ」
この態度に対し、マリは牢屋の鍵を捨てる素振りを見せれば、猫の女性は態度を改めてせがんで来る。
「お、お慈悲を! 忍び込んで見付かって捕まってこの様なんですぅ! 早く出してください! 安く致しますからぁ~!」
「良いわよ」
改めた態度と、自身が捕まった経緯と行商人であることを明かせば、マリは牢屋の鍵を開けて彼女を解放した。
「ありがとうございますぅ! 私、移動商店「猫騒堂」を営む猫又の行商人である
猫の獣人、否、猫又である琥魔は自分を助けてくれたマリに礼を言う。
「俺は夜明けのヴァン。ヴァンだ。よろしく、猫の人…」
「金目もねぇ野郎は黙ってるにゃ。とにかく、早くこっからズらからねぇと、兵隊共に嗅ぎ付けられるにゃ。では、皆さん、急ぎましょう!」
同じく挨拶するヴァンであるが、金目の物を持たないと一瞬で見抜かれ、本性を現した琥魔に黙るように言われた。
マリよりもこの船の警備を担当する部隊の状況を知る琥魔は、素を隠してから二人を引き連れて外へ出る。
「おい、捕虜も一緒に…」
出会いがしらに一人の敵兵と遭遇したが、マリに最後まで言い終える前に撃ち殺される。
「良い腕ですね~、惚れちゃいそうです~!」
「そんなの良いから早く行って!」
会敵して数秒ほどで敵を撃ち殺したマリの射撃力の高さに、琥魔は感激の声を上げたが、彼女に頭を叩かれ、再び外へ通ずる通路へと進む。
「こちらへ…わぁーっと!?」
「棺桶ね…」
もう少しで外へと思いきや、出入り口で待ち伏せていたのはアーマード・トルーパー、通称ATが三機ほど待ち伏せていた。
機種は連邦軍なので、スコープドックであり、手には屋内戦を想定したのか、銃身が切り詰められたヘビィマシンガンが握られている。
「あれ食らったらヤバいな」
流石のヴァンでも驚異的な連射力を誇る大口径のマシンガンの前には、迂闊に飛び出せないのか、身を隠している場所から様子を覗う。
その間にマリは、ATの装甲を容易く貫通できることが出来る大口径ライフルであるバレットM82を取り出していた。この対物ライフルは人体に対して凄まじい火力を有しており、イラク戦争では、2300m先の標的の身体を真っ二つにしたと言う報告がなされている。
使用する弾丸は、改良型のA3で使用する軽装甲車両の装甲を容易く撃ち抜けるタイプの徹甲弾だ。ATの装甲は他の大型機動兵器とは違って薄いので、意図も容易く搭乗している人間を撃ち抜ける。そんな凶悪な銃を手にしたマリは、遮蔽物から飛び込んで、標的にした三機のATに向けてその強力過ぎる弾丸を撃ち込んだ。
『馬鹿め、死ね…』
先頭の一機に乗る搭乗者が飛び出して来たマリに向け、機体の手が手にしているカービン型のヘビィマシンガンを撃とうとしたが、胴体に撃ち込まれて貫通してきた大口径弾を自分の身体に受けて即死した。
他の二機も同様で、搭乗者は貫通してきた徹甲弾で撃ち抜かれ、搭乗者が乗ったまま死んだATは、その場で立ち尽くすだけであった。
「え、ATが…!?」
「やられた! なんて女だ!」
「総員退け! 我々の適う相手では無い!!」
AT三機が数秒もしないうちに無力化されたのを見て、恐怖した将兵達は、指揮官の退却命令を聞き、一目散に逃げ始める。自分等が命じられたシュラーフェン・セレストの警備を放棄して逃げたのだ。その命令を守っていては自分等に命は無いと思って退いたのだろう。
「終わった…」
「いやー、お強いですね。この琥魔の用心棒としてついてきてくれませんかぁ?」
「嫌、無理」
「そうでございますか…」
一人で一個大隊を撤退に追い込んだマリを見て、琥魔は用心棒を頼んだが、ルリを探すので忙しい彼女はそれに一切応じなかった。
頼みを断れた琥魔は心奥底で酷く苛ついたが、ここで本性を現せば、殺されると思って抑える。
「じゃ、お外に…」
『待てぃ!!』
「っ!?」
敵を撤退に追い込んだところで、外へ出ようとしたヴァンであったが、ここに来て新たな援軍が現れた。
『この量産型ビルトシュバインで、踏み潰してくれるぜ!』
それは三機の20m級の大型機動兵器であり、手にはサイズに似合う実弾式のライフルが握られていた。
機体名は乗っているパイロットが名乗った通りに量産型ビルトシュバイン。
機種はパーソナルトルーパーで、通称PTタイプの統合連邦に参加した異世界の連邦軍の主力機であり、並のパイロットでは扱えない原型の高価で量産性の無いPTであるビルトシュバインを、並のパイロットも扱え、さらに量産性も上げたPTだ。これにより、量産型ビルトシュバインは瞬く間に連邦軍の主力PTの座を手に入れた。
マリ達は現れた三機の量産型ビルトシュバインに対し、何の手出しも出来ない。対抗する手段があるにはあるのだが、直ぐにそれが飛んでくるわけでは無いのだ。
「格納庫に置きっ放しだった…」
この時にマリは、近くに自分が殺された領主より貰った可変戦闘機、VF-25F「メサイア」を近くに隠して無かったことを後悔した。
あの機体さえあれば、マリは一瞬で目前の三機の機械の巨人を倒せただろう。
だが、それは左腕に付けてある腕時計に見立てた端末を動かしても適う事は無い。
「ふ、踏み潰されちゃうにゃ! 早く何とかするにゃ!!」
向かって来る三機の巨人に怯える琥魔は、マリの手を掴んで何とかするように言うが、対抗手段を持っていない彼女にはどうする事も出来ない。
「ヨロイが三体…ここは、ダンの出番だな…!」
ここへ来て臆さないヴァンは、目前の巨人に対してうってつけの手段を持っているのか、前に出て自分が被っているテンガロハットに付いている輪に指を引っ掛け、輪を左側に持っていく。それから刀身に複数の穴が空けば、刀をVの字を描くように斬った。
「…あれ、来ないな?」
「あいつ、何かっこつけてこけてるにゃ…」
この動作を行えば、対抗手段は来るはずだが、異世界なのか来なかった。琥魔に頭がおかしくなったと思われる。マリも同様の気持ちであった。
「くそっ、なんで来ねぇ…!」
『どうした? お遊びは終わりか? ならば踏み潰して…』
ダンが来ないことに焦るヴァンに対し、量産型ビルトシュバインに乗るパイロットは、踏み潰そうと近付いて来た。
だが、空より突如となく飛来してきた巨大な物体に気付き、即座に背中のスラスターを吹かせて回避行動を取る。
『な、なんだあれは!?』
「来たか、ダン…!」
空から飛来してきた巨大な物体は、剣のような物であり、それが地面に突き刺さった。この瞬間に剣は、人の形へと変わる。量産型ビルトシュバインと同じくらいの巨人に。
手足はまるで人間のようであるが、機械らしき形状は殆ど無く、まるで巨人のように見える。
『MSか? いや、PTか…!?』
「分からねぇのか? ヨロイだよ。ただし俺のダンはオリジナル7って言う特別なヨロイだけどな」
拡声器で問い掛けて来る敵機のパイロットに対し、ヴァンはコックピットらしき空間に入り込んでから答える。
その空間へ入り込んだヴァンは、自分の刀を下に突き刺し、取っ手が自分の右手に巻き付いたのを確認すれば、音声認証コードなのか、ある言葉を呟く。
「ウェイクアップ、ダン…!」
彼がその言葉を呟けば、コックピットのハッチらしき物が閉まり、ダンと呼ばれる巨人は起動した。
碧く光っていた部分は黒くなり、顔の辺りには、二つの赤く光る眼が浮かび上がる。
起動したダンは、ヴァンの操作を受け、背中の鞘から刀を引き抜いて戦闘態勢を取る。
その太刀筋はまるで侍のようであり、人間のように自然であった。
木曜日の名を冠するオリジナル7の一体であるこのヨロイの正式名称は「ダン・オブ・サーズデイ」だ。バカのヴァンは、覚え辛いのでダンと呼んでいる。
突然、剣の状態となって空から現れ、更に人型に変形したダンを見て、マリと琥魔は余りの驚きの言葉を失っていた。
『それが、どうしたって言うんだよ!!』
そんな一体しか存在しないヨロイを目にした量産機のパイロット達は、それがどうしたと言わんばかりに手にしている実弾のライフルを撃ち込む。
『なっ、何所に行った!?』
だが、標的にしたダンは撃った瞬間に消えていた。
ライフルを撃った機に乗るパイロットがダンを探し始めた途端に、搭乗機が左右に両断された。いつの間にかダンが背後に回り込み、手に握る刀で敵機を真っ二つに切り裂いたのだ。
切り裂かれて左右に倒れた量産型ビルトシュバインは大破し、破片が周囲に撒き散らされる。
『う、うわぁぁぁ!!』
一瞬の内で背後に回り込み、そればかりか友軍機を一刀両断にしたダンを見て恐怖を覚えた残り二機のパイロット達は、辺り一面にライフルを撃ちまくる。この時にダンは大きく飛躍して大空を飛んでいた。
フルオートであり、排出口から巨大な空薬莢が幾つも排出され、荒野の上に大きな音を立てながら落ちて行く。
その火力は凄まじく、大口径の機関砲が恐ろしい速さで連射されるのと同じであり、外れた弾丸は大地を削って行く。これを受ければ流石のダンとで一溜りも無いだろう。だが、当たらなければどうと言う事は無い。
「当たら無ねぇよ!!」
分かり易いように、ヴァンは敵機に向けて大声で言えば、辺り一面にライフルを乱射する一機の右手を刀で斬り落とした。
腕から離れた右手は、そのままライフルを撃ちながら地面へと落下する。
ライフルを持ったまま斬りおとされた右手が落ちる前に、ヴァンは二撃目を両足に打ち込み、バランスを崩させて更に左腕も斬りおとして戦闘力を奪った。
『こ、こいつめ!!』
残った一機は近い距離に居たのか、ライフルを捨てて携帯している近接兵装であるビームソードを抜き、目にも止まらぬ速さで友軍機を無力化したダンに斬り掛かったが、ビームの刀身が正体不明の機動兵器に届く前に、胴体を切り落された。
『ば、バカな…!?』
まだ拡声器の機能が生き残っていたのか、気付かぬ間に斬りおとされたことに驚愕しつつ、パイロットは機体と共に運命を共にした。
この荒野の中で立っている機械の巨人は、ヴァンが操るダン・オブ・サーズデイのみであった。
周囲には、ダンに敗北した三機の量産型ビルトシュバインの残骸が敗れ去った敗者の屍のように転がっている。
爪痕も少々残っていたが、マリと琥魔、それにシュラーフェン・セレストには一切流れ弾は当たっていなかった。ダンも同様であり、一発の被弾も無く、三機のPTを意図も容易く撃破したのだ。
「な、なんて奴だ…! イレギュラーだ…この世界に強力な機動兵器を操るイレギュラーが…!!」
一人、ヴァンの情けによって生き延びたパイロットは、新たに現れたダンを操る異世界より来た男の事を報告しようと、携帯式の無線機で、この世界に居る連邦軍司令部に知らせようとする。
だが、その報告は司令部には届くことは無い。何故なら背後からそれを阻止しようとする人物が彼の命を奪うライフルを手にしているからだ。
背後より迫る人物の殺意に気付いたパイロットは生にしがみ付く余り、自分の任務を忘れて命乞いを始める。
「ま、待て! このことは司令部には知らせない! だから助け…」
一発の銃声が響き、命乞いをしたパイロットは糸が切れた人形のように荒野の上に倒れ込んだ。
即死だ。即死の原因は眉間を小口径のライフル弾で撃ち抜かれたことであり、後頭部から飛び出た脳と肉、それに骨の破片が入り混じった物が血と共に荒野の上に流れている。
撃たれて即死したパイロットは、命乞いの泣き顔を見せたまま息絶えていた。
そんな彼に無慈悲な死の一撃を行ったのは、情も敵に対する優しさを当の昔に捨て去ったマリだ。彼女の手には、先ほどのパイロットを射殺して銃口から硝煙を出しているSG551自動小銃が握られている。
「結構頼りになりそうわね…あいつ」
マリは殺した泣きじゃくるパイロットを殺したことも気にも留めず、ただ自分の関心がある方向に居る最強のヨロイであるダンを見つめていた。