スーパーロボット大戦OG 無限のフロンティア 異世界からの依頼者 作:ダス・ライヒ
「おい、ハーケン。お前の彼女か? お前に会いたいって女が来てるぞ」
ハーケンの自室にて、黒い上着と帽子をハンガーポールに掛け、机の上でコーヒーを啜りながら自分の銃の整備をしている彼の元に、このトレイデル・シュタットの代表であり、自分の前代で義理の父親であるジョーン・モーゼスが、吸っている途中の葉巻を片手にドアを開けて声を掛けて来た。
「俺に彼女? 心当たりはあるが、ケリは付けたところだが?」
「ケリは付けた? おいおい、あんな飛び切り金髪美人を手放しちまうとわな。とにかく、その彼女がお前に用件があるらしい。行って用件を聞いてやりな、ボーイ」
「そいつは一目見たいところだね。四十秒ほど待ってくれ。直ぐに済ませる」
冗談交じりで知らせに来たジョーンに対し、ハーケンは彼女と聞いて心当たりはあるが、既に解決した物であると返して、義理の親父の指示に応じ、客に会わせる格好をするため、手早く机の上に置かれている銃器を置き、ポールに掛けてある帽子と上着を取る。
「ほぅ、これなら不機嫌な彼女も気を直しそうだ。だが、口説くなよ? お客さんだからな」
「そこまでの男じゃないぜ、ファーザー。じゃ、行ってくる」
葉巻を咥えて口説くなと冗談半分に告げる義理の親父に対し、そこまで不摂生な男で無いと返してから、待合室で待っているとされる金髪美女の元へ向かった。
「ご用件は何かな、お嬢さん?」
「あんたが私のルリちゃんを異世界にまで送り込んだ運び屋?」
待合室に向かったハーケンに依頼してきた金髪美女は、マリであった。
待っている間に煙草でも吹かしていたのか、それを灰皿に捨ててから、ルリを異世界にまで送り込んだのかを問い詰める。
「ルリ? はて、ルリと言う愛らしい名前は有り触れた物でしてね。何所の誰やら…」
「これ見ても分からない?」
「ヒュー、勇者ガールじゃねぇか…まさか、この絶世の美女が…」
問い詰められても、ルリと言う名前に覚えのない振りをするハーケンに対し、マリは分かり易いように写真を見せながら再び問うた。
写真に写る美少女に見覚えのあるハーケンは、その美少女がルリである事が分かり、目前で居場所を問い掛けて来る目前の絶世の美女が、ルリが話していたどこか懐かしく感じる女性であると直ぐに分かった。
「てっ、ことはつまり君が勇者ガールの言っていた…?」
「何の話をしてるの? この娘、何所行ったか知らない?」
「OK、このビューティフルガールの行く先なら知ってる。なんたってクロスゲートまでエスコートしたのはこの俺だからな。何所の世界に行ったのかは知らないが…」
ルリが話している絶世の美女なのかを問おうとした時に、マリは誤魔化されたと思ってもう一度問い詰めて来る。
これに依頼者である女性の機嫌を損ねるのは自分のポリシーに反すると思ってか、異世界を渡るゲートまでルリを送り込んだのは、自分であることと明かして落ち着かせようとする。
だが、これが逆に感情を逆なで仕舞ったようだ。
「何所の世界に行ったか分からないですって? あんた、最後まで付き合わなかったの?」
「そいつには深いわけがあるんだよ、レディ。最後までついて行こうとしたが、付き添いの神様に用がねぇと追い出されちまってな。結局、何所に行ったのか分からず仕舞いだ。それに」
「それに?」
激昂しそうなマリに対し、ハーケンは落ち着かせるようにルリの行く先が分からない理由を答える。更に理由を告げるために、彼は何所に行ったのか分からない理由も述べた。
「使ったのはライアーアーミーズ、つまり惑星同盟軍の次元転移装置だ。国境付近のな。最初は強行突破しても問題が無いくらいの数だったが、送り込んでから警戒でもしたのか、すげぇ大部隊が守ってる…行かないのが身のためだぜ、レディ」
ルリ達が異世界への移動に使ったのが、ロストエレシア国境にある惑星同盟軍の次元転移装置であることも明かした。
その際に、強引に奪い取る形で次元装置を使用したので、戻って来た同盟軍に警戒されて守備が厳重になっていることも告げた。
「そう、そこね。でも関係ないわ。皆殺しにして何所に行ったのか突き止める」
「おいおい、たった一人で行くつもりかい? すげぇ大部隊って言っただろう。流石にレディが幾ら美しかろうと、クソッタレの異星人共がはい、どうぞと通してくれるわけがないぜ。だが、俺が居れば、通れるかもしれない」
「?」
それでも関係なく押し通ると返すマリに対し、ハーケンは自分が居れば通れると得意げに言う。これにマリは疑問の表情を浮かべる。そんな彼女に、ハーケンはその訳を語る。
「俺も行くってことですよ、お嬢さん。あの勇者ガール一行が、何所の世界に行ったのか俺も気になるんでね。レディ、ご同行してもよろしいかな?」
疑問の表情を浮かべる彼女に対し、ハーケンは紳士のような笑みを浮かべ、共にルリとその仲間たちがどの世界へ行ったのかを突き止める旅に同行しても良いか問う。
その問いに対して、マリは強行突破が少しは楽になると思い、ハーケンの同行を許した。
「好きにしても良いわよ。でも、途中で帰るなんて抜かしたら、速攻殺してあんたの船も頂くから」
「ふっ、ジョークが過ぎますよ、お嬢さん。逆にこの俺が貴女をお守りしましょう。二言はございません、プリンセス。例え火の中水の中…」
「そんなキザでキモイ台詞を堂々と吐く辺り、あの猫商人の言ってた通りの世界を創り変えた男のようね。認めるわ、報酬もそれなりに用意する。失敗したら許さないわよ?」
「サンクス、このハーケン・ブロウニング。貴女がもう良いと言うまで何所までもついて行きましょう」
ハーケンが噂通りの本物の世界を創り変えた男であると確信すれば、マリは期待を掛け、彼は期待に応えて見せると返した。
ここで直ぐに出発と言いたいところだが、マリは先の戦闘で少々汗を流したのか、それとも疲れているのか、このトレイデル・シュタットで休息を取る事に決め、ハーケンに何所か快適なホテルが無いかを問う。
「じゃ、直ぐに行きたいところだけど、ちょっと疲れてるから何処かで休むわ。なんか良いホテルとかある? 安全で快適な所」
「あぁ、それならキャットガイの…」
「それはこの琥魔にお任せ~! 実は私、民宿もやっております! 女性一人の宿泊は完全に安全! それに盗撮の危険性もありません!」
「おいおい、このレディに俺を紹介したのは、マージェントキャット、お前か?」
「はい、その通りでございます!」
自分が知る一番のホテルの場所を言おうとした時に、マリをここに紹介したであろう琥魔が呼ばれても居ないのに出て来た。
出て来た琥魔に対し、ハーケンは彼女に、マリをここに紹介したのかと問えば、彼女は言い訳をするわけでも無く接客の笑顔を見せながら答える。返って来た嘘偽りも無い答えに、流石のハーケンも呆れた様だ。
「はぁ、何も言葉が出ないぜ…」
そんな呆れるハーケンに、次なる難題がやって来る。
「艦長、あそこの調味料クラッシャーはどうします?」
「アシェンか。調味料クラッシャー? おいおい、今度は何だ? 失礼、お嬢さん。そこの守銭奴キャットは、金さえ払えばちゃんと仕事をする。金さえ払えばね」
琥魔の次に、アシェンが知らせに入って来た。
様子を覗うため、ハーケンはマリに琥魔は金を払えば信用できるものと伝えてから待合室を後にした。
それからアシェンの知らせた人物を一目見るべく、ハーケンは彼女の後へ続いて食堂を目指す。そこに居たのは、注文した料理にあらゆる調味料を掛けて食しているヴァンの姿があった。彼が掛けに掛けまくった調味料は混ざり合って不気味な色へと変色し、液状となってテーブルを汚している。
「おいおい、なんだあの男は? ここのコックの作った料理が台無しじゃないか。なんで止めないんだ? あれは料理人に対する冒涜だぜ」
「いくら言ってもあのゲテモノブラックは聞かないのでありんす。取り敢えず、一発ぶん殴ってしめますか?」
当然ながら驚き、ハーケンは料理を作った本人に対する冒涜的な物であると怒りを露わにする。そんなハーケンに対し、アシェンは拳の武器を起動して、食堂からヴァンを叩き出す許可を求める。
だが、ここで暴力行為に出るのはハーケンにとっては問題外であるため、それとなんでこの不躾な男がここに入って来た訳を知るために、待合室に居るマリの元へ戻ると告げる。
「いや、暴力は出来るだけ避けよう。取り敢えず、あのブラックアウトマンがどうしてここに居る理由を調べなきゃな。俺は、あのお嬢さんの元へ戻るぜ」
「あの金髪雌豚の元へですかい。あっしはあの調味料ジャンキーを見張ってるで、SMプレイしてでも吐かせてちょんまげ」
「おいおい、あのブロンドガールはSだぜ? 俺の見る視線がどうもな…じゃ、聞いてくる」
アシェンは相変わらずの口調であり、しかもマリの事を金髪雌豚と言い始めた。
そんな言語機能がおかしいアンドロイドに対し、ハーケンは訂正してから彼女の元へ送った。
「失礼、お嬢さん。あの男は、貴方の連れですか?」
「えぇ、連れよ。まぁ、転移装置から出て来たの」
待合室に戻り、食堂に居るヴァンのことを琥魔から宿泊コースのプランを見ているマリに問えば、彼女は転移装置から出て来た男だと答えた。転移装置と聞けば、シュラーフェン・セレストしかないと判断したハーケンは、連邦軍によって完全に占拠されたあの船に潜入したのかと問う。
「転移装置…まさか、あの船に忍び込んで連れて来たって言うのか…?」
「いや、そこら辺に居た連中を撃退してから連れて来たの」
「…そいつはキツイジョークだぜ」
マリはありのままの事を告げれば、ハーケンは厄介な人物の依頼を受けたことを後悔した。
「OK、前の同じだ。地獄の一丁目まであのお嬢さんと付き合おうか」
だが、目前の美女の願いをここで蹴るのは自分の信条に反するので、ハーケンは最後まで依頼を最後までこなすと自分に言い聞かせ、これより始まる旅に備え、旅支度を始めた。
後日、昨日の夜に旅支度を済ませたハーケンは、コールガールを呼んで共に行為を含む夜を明かした後、シャワーを浴びてから身支度を済ませて部屋を後にしようとした。
「ハーケン?」
先に起きて自分の普段着に身を包んだハーケンを見て、まだベッドの上に居るコールガールは、なぜ出て行くのかを問う。
代金を踏み倒されたと思って、隣にある机を見れば、ちゃんと代金の札束、それも上乗せ分が置かれていた。
問うてくるコールガールに対し、ハーケンは先代より受け継いだ帽子を被ってから紳士のように答える。
「悪いね、俺はこれから旅に出るのさ。そいつは餞別だ、それで寂しさを紛らわせてくれ。だが、また会える日は来るさ。その時はよろしく頼む」
「ふふ、ちょっとカッコつけ過ぎじゃない?」
「いや、俺的には決まってると思うんだがな…じゃ、また会おうぜ」
「えぇ、待ってるわ」
暫しの旅に出ると答えたハーケンに、変にかっこつける彼の言動に少し笑ってから、彼女は部屋を後にする彼を見送った。
一夜限りの恋人であるコールガールからの見送りを受けて部屋を出たハーケンの元に、アシェンが寄って来る。
「こっちは準備万端でヤンス、スケベ小僧」
「その口ぶり、調子は良いようだな、アシェン。じゃあ、お嬢さんをお迎えに上がろうか」
「アイアイサーでゴワス」
アシェンの報告で調子が良い事を確認すれば、ハーケンはマリを迎えるべく、彼女が宿泊しているホテルへと自家用車を使って向かった。
琥魔が運営するホテルは現在地点に近く、僅か数分程で目的地へと到着した。このホテルを副業で運営する琥魔は、金の匂いを嗅ぎつけたのか、何処かへと去っていた。
「早いですね。連邦の奴らに目でも付けられてやんでしょうか?」
「あぁ、あいつの事だからな。さて、受付嬢、あのお嬢さんはもうチェックアウト済みかな?」
琥魔が居ないことに、アシェンは連邦に目を付けられて逃げたと推測で言えば、ハーケンはそれに納得して受付の女性に、マリがもうホテルを後にしているのかいないのかを問う。
「食堂の方で待っております。お連れの御方が三人ほど見えますよ」
「三人? 二人増えてるな。どんな顔か確かめてみるか」
受付の女性から、マリの連れがヴァン一人から二人ほど増えているので、どんな顔でどのような容姿をしているのか確かめるべく、彼女らが居る食堂の方へ向かう。
その発見は容易であった。料理に調味料をありったけ掛けて食すヴァンが、わざわざ音と立てながら食べているので、直ぐに見つけることが出来た。
彼の他には優雅に朝食を取るマリと、連れである二人が見える。一人は北欧系の美青年であるミカルで、もう一人は女性であり、同じ北欧系である黒いショートヘアが特徴的な女性だ。二人はヴァンの食べ方に呆れ果て目線で見ており、その表情には周囲から色眼鏡で見られていることに大変迷惑を被っている様子が見える。
そんなヴァンの朝食に無視して食べるマリと、周囲を気にしながら朝食を取る北欧系の男女の席へとハーケンは寄り添った。
「グットモーニング、エブリワン。連れが二人ほど増えているが、誰ですかな?」
「私の連れ」
「そうか。で、ミスターは誰かな?」
一言だけ答えるマリに対し、ハーケンはミカルに何者かであるか問う。
「僕はミカル、一応情報屋をしている」
トーストを食べながら自己紹介するミカルに、ハーケンは礼を言えば、黒髪のショートヘアの女性に名を問う。
「サンクス、ミスター・ミカル。そこのお嬢さん、お名前は?」
「私はリンダよ。メカニック担当。で、そこの調味料ぶっかけてる奴は…」
「ヴァンだ、夜明けのヴァン。んで、あんた誰だ?」
リンダと名乗った女性は、ついでに聞いてなかったヴァンの紹介をしようとしたが、本人が食べながら自分の名とその通り名で自己紹介し始めた。
それにヴァンは名前を聞いて来たので、ハーケンは帽子を取り、自分も自己紹介を始める。
「ソーリー、ミスター。俺はハーケン・ブロウニング。さすらいの賞金稼ぎさ」
「ハーケン、あぁそうかい」
自分では格好良く付けたつもりだが、ヴァンは特に気にすることなく食事へと戻った。
そんな彼に対して半ば呆れつつ、ハーケンはこんな男を用心棒として使うかどうかをマリに問う。
「おいおい、このブラックテンガロハットは本当に大丈夫なのか? 何所か抜けてるぞ?」
「大丈夫さ。彼には頼もしい武器がある」
「本当にそうかね…?」
マリの代わりに答えたミカルの言葉に、ヴァンの素性を知らないハーケンは疑わしく見る。それから数十分もしないうちに朝食は終わり、マリとヴァンを旅の仲間に加えたハーケンたちは、自分の地上戦艦「ツァイト」がある倉庫まで向かった。
「おい、副長。お送りするのはこの四名だけのはずだが。あのパーソナルトルーパーはなんだ?」
倉庫に着いて早々、ツァイトの即席ハンガーに、連邦軍から盗んで新西暦の世界で自分が乗っていたゲシュペンスト風味に魔改造した量産型ゲシュペンストMk-Ⅱの他に、見知らぬ20m級のPTが積み込まれているのを見て、ハーケンは整備長と共にいる副長であるリィ・リーに問い詰める。
そのPTの他に、ファイター形態のVF-25F「メサイア」と同型機二機が共に積み込まれていたが、ハーケンやツァイトの乗員から見れば、ただの戦闘機にしか見えなかったので、何も口出しなどしなかったようだ。
「はい、そこのお連れの美味そうなお嬢さんが積んでくれと言ったので、積んでいる途中です」
「ミス・リンダだな。で、このPTはまさか連邦から盗んだってわけじゃねぇだろうな?」
「盗む? これは払い下げって奴よ。誰も乗りこなせないから、現地の部隊がくれたってわけ。もちろんお金は払ってるわよ」
「連中が気前良くくれるとは思わんね…」
リーの答えにハーケンは、積み込みを命じたリンダであると分かれば、連邦軍から盗んだ物でないかと問い詰めた。 この問いに対し、彼女は決して盗んだ物ではないと強調するが、PTを運用する勢力は大々的に連邦軍しかないので、疑いの目を向ける。
彼女を疑いつつ、運び込まれたPTがどんな機種であるか問うた。
「で、このPTは? ゲシュペンストの仲間のようで、連邦軍の高性能MS、ガンダムタイプに似ているが?」
「RTX-008L/R、ヒュッケバインよ。こんな良い機体を売り払うなんて、連邦軍ってよっぽど腐ってるんでしょうね」
「ヒュッケバインか。新西暦の世界じゃ、名前くらいしか聞いたことねぇな…これがか、なるほど」
名前しか知らなかったPTの実物大を初めて拝んだハーケンは、感心してヒュッケバインを眺めた。
全長はゲシュペンスト・タイプH擬きより1m低く、背中のバックパックには、小型ミサイルを収納したコンテナが装備されている。
なんといっても特徴的なのは、連邦軍の伝説的なMSであるガンダムタイプに似た頭部だ。この機体を運用している部隊は、ヒュッケバインのことをガンダム擬きと呼んでいるらしい。
機体の動力源に、ブラックホールエンジンと呼ばれる異星人の技術で作り上げた物が使用されているが、事故の前例もあって別のエンジンに差し替えられて量産が進められている様子だ。
「で、誰が乗るんだ? 武器が幾つか積み込まれているが…」
「あの人よ」
「あの人? あぁ、ブロンド・ビューティホーか。彼女も俺と同じPT乗りか。嬉しいね、あの美女と同じPT乗りとは」
そのヒュッケバインに乗り込むパイロットをリンダに問えば、彼女はマリであると答えた。
機種は違うが、あの絶世の美女が同じPT乗りと聞いて嬉しさを感じたハーケンは、その嬉しさを口にする。
ツァイトにヒュッケバインの積み込みが完了したところで、ハーケンらはマリ等と共にツァイトに乗船し、惑星同盟軍が保有する目当ての次元転移装置がある国境付近を目指して出発した。
「さぁ、今度は異世界の旅へと出掛けるか! 派手に出向するぜ、野郎共! エンジン始動!!」
「アイアイサー、キャプテン! エンジン始動!」
そう艦長であるハーケンが掛け声を上げれば、副長はそれを復唱して操縦士にエンジンを始動させるよう指示を出す。
こうして、マリとハーケンの痛快奇天烈な旅の幕が切って落とされた。
『こちらは連邦地上軍第608哨戒中隊! これより先は同盟軍との前線区である!! 即時停船し、退き返せ! 繰り返す、即時停船し、退き返せ! 指示に応じぬ場合、貴官を撃沈する!!』
トレイデル・シュタットを出て数時間余り、もう同盟軍との前線が近いのか、連邦軍の哨戒部隊が警告を出して来た。
警告を出して来た部隊は、主砲を搭載した地上戦艦であり、その主砲を対空設備しかないツァイトに向けて威嚇している。もし、このまま突き進もうなら、あの地上戦艦の艦長は撃ってくるだろう。
「どうします、艦長。このまま突破すれば確実に…」
「さて、この二十年物の老朽艦で何所まで逃げ切れるかね…?」
警告を出してくる連邦軍の地上艦艇に対し、二十年以上前に建造された地上戦艦でハーケンはどう対処するか悩む。前にもこの地上戦艦で、無茶なことを何度もやって来たが、今は持つかどうか分からない程だ。それをやろうとした時に、自慢のマッドサイエンティストである女性科学者がブリッジに入って来た。
「エンジンを全快にして突破すれば良いじゃないですか」
「ドクター
入って来た鞠音と呼んだ耳の長い女性科学者に対し、ハーケンはその手を考えていたが、これから先の事を考えれば、ここで無茶をさせれば途中でエンジンが爆発する恐れを抱いているのか、出来ないと返した。
だが、これに彼女の癪に障ったのか、ツァイトがそれほどにオンボロ船でないと言い返し始める。
「おや、艦長はこの船がもう限界であると? いえ、違います。貴方が居ない間に修理兼ねてこの船をオーバーフォールしましたのよ。外見に変化はありませんが、中身は別物ですってよ」
「…そいつは知らなかった。では、新しく生まれ変わったツァイトの実力を試してみるか…!」
「是非、そうしてください。連邦軍の大量生産品など、この私の手によって生まれ変わったツァイトの足元にも及びませんわ」
「なら、その言葉を信じてやるか! 操縦士、エンジン全開だ!」
自分が居ない間に改造したと告げた鞠音に対し、それを今知ったハーケンは、少し驚いたが、信用できる科学者であるため、彼女の言葉を信じ、ツァイトの操縦士に全速力で連邦の地上戦艦を振り切るように指示を出した。
これに応じ、操縦士はエンジンを全快にしてツァイトを全速力で走らせる。警告に応じなかったため、連邦軍の地上戦艦が主砲を撃ってきたが、高速で移動するツァイトには全く当たらず、外れた砲弾が砂塵を上げるだけだ。
こうして一瞬の内で連邦軍の前線区を抜け出し、同盟軍の勢力圏内へ入り込んだツァイトであったが、こんな速度を出して艦内が無事であるはずが無かった。
『おい、なんだこの揺れは!? 説明してくれないかブロウニング!』
「無事だったか、ミスター・ミカル。ご覧の通り、うちのマッドサイエンティストのおかげで目的地まで後少しだ。先ほどの揺れは済まなかった。今度やる時はシートベルトを着用するように指示を出す」
『全く、君たちはいつもこうなのか? おかげで服が台無しだよ』
「あぁ、たまにすることだがな。では、着替えを持ってこさせよう」
ミカルからの苦情の通信を受け、それに適切に対処したハーケンは、入った場所が同盟軍のテリトリーなので、周囲に警戒しつつ目的地へと進むようにリーに指示を出す。
「よし、同盟軍のテリトリーに入ったな。ここからは対空監視を怠らずに、目的地まで進んでくれ」
「はい、艦長。総員に通達、ここからは敵の勢力圏内だ! いつ撃たれてもおかしくない! 対空監視を怠らず、周囲を警戒しつつ前進だ!」
リーは指示に応じた後、艦内放送を使って全クルーたちにハーケンの指示を通達した。これに応じ、ツァイトの対空砲が動き始め、監視塔には双眼鏡を持ったクルーが周囲警戒を行う。
いつ敵に見付かり、撃たれると言う緊張感を保ちつつ、一行は目的地へと向かった。
「艦長、同盟軍のクロスゲートが見えました! 凄い数の部隊が守っております!」
副長のリーからの報告で、ハーケンは双眼鏡で同盟軍のクロスゲートの様子を確認した。
「ヒュー、こいつは凄い数だ。前の倍以上はいやがる」
彼の報告通り、双眼鏡で見れば、物凄い数の同盟軍機がゲートを守っていた。
大部隊が地上を埋め尽くすほどに駐機しており、更には哨戒任務に就いている航空機がひっきりなしに飛び交っている。同盟軍の地上戦艦も、七隻以上が見える。他にも歩兵が連隊単位で防衛陣形を組んでいる。このまま突っ込もう物なら、一個師団以上を相手にすることになるだろう。
「ミス・ロングブロンド、あれを突破しようと言うのかい?」
「えぇ、そうよ。関係無いわ、いくら居ようと」
隣に立っているマリに、あの数を相手にするのかと問えば、彼女はハーケンに対して関係ないと返す。
この返答を聞いて、ハーケンは半ば呆れたが、前にもこのような事態は何度もあったので、彼女に付き合うことにした。
「艦長、あの数を本当に相手にするのですか?」
「イエスだよ、副長。この手の無茶は何度か経験があるのさ」
「はぁ、今度は生き残れるかどうか分かりませんな。良いでしょう、乗り掛かった舟です。最後まで貴方に付き合いましょう!」
「OK、その意気だ副長。チョウジョウって意味だ。派手なパーティをおっぱじめようか!」
リーはあの数の敵と戦うのかと問えば、この手の苦難を何度か経験しているハーケンはやると意気揚々と答えた。
その返答を聞いて、少しため息をついたリーだが、艦長の事だから仕方ないと後悔の念を水に流し、最後まで付き合うと言えば、これに満足なハーケンは、かつての仲間の口癖を言いつつ、大変満足であると返す。
「じゃあ、行ってくるぜ副長。船は任せた」
「えぇ、任せてください。艦長が不要とも思える程の働きを見せてみますよ」
「そいつは怖いね。だが、良いジョークだ。意地でも生きて帰ってツァイトの艦長の名を守らないとな。サンクス、リー副長」
ついでにゲシュペンストで出撃するので船を任せると告げれば、リーは意気揚々と冗談交じりで艦長の座を奪うような発言をしたので、ハーケンの緊張が緩んだのか、彼はそんな冗談を言った彼に礼を言いつつ、ハンガーへと向かった。
「よう、調味料ジャンキー。あんたも出るのかい? あの戦闘機で?」
ハンガーへと向かう最中、同じくハンガーへと走るヴァンを見掛けたので、あの戦闘機、それも可変戦闘機で出るのかと問うた。
この時、ヴァンが空から人型のロボットのヨロイであるダンを呼び出すことなど、ハーケンはまだ知らない。
「いや、俺にはダンがある。他はいらねぇ」
「ダン? おいおい、あんたは戦闘機乗りじゃねぇのか?」
「戦闘機? 俺はそんな物には乗れない! 乗れるのはオリジナル7のヨロイ、ダンだけだ」
「一体それがどこにあるんだ? まさか召喚するってわけじゃねぇよな?」
「外に出るまで待ってろ。そこでダンを見せてやる」
どうやらハーケンは、ヒュッケバインと共に詰まれたVF-25シリーズをヴァンの愛機と勘違いしてしまっているようだ。その証拠を見せるために、ヴァンはハンガーの外へ出て、蛮刀を展開してからダンを呼び出す動作を行う。
「あの右脚に巻いてるのは拳銃じゃねぇのか…」
この時、ハーケンはヴァンが右脚に巻いているのが初めて蛮刀であると初めて知った。
それからものの数秒後に、待機状態のダンが空か振って来る。先端が地面に突き刺さり、ダンは待機状態から人型形態へと移り変わり、主であるヴァンが乗って来るのを待つ。
「こいつは驚いた…新西暦の世界でもあんなタイプは見たことは無いが…」
これを見たハーケンはやや驚き気味であったが、今までの旅でこれに負けないくらいの物を見て来たので、対して驚きはしなかった。
主を迎えたダンは、ヴァンの音声認証で起動し、乗っている彼の思った通りに背中の刀を取り出して、ツァイトの進路上に居る敵の大部隊に単騎で突っ込む。
通常、敵の大部隊に単独で突っ込まない物だが、ヴァンは馬鹿なのでしょうがない。
「おいおい、一人であの数に突っ込む気か? しょうがねぇな、ゲシュペンスト、出るぜ!」
彼を援護するために、ハーケンは新西暦の世界で乗っていたゲシュペンスト・タイプH風味に改造した量産型ゲシュペンストMk-Ⅱのコックピットへと乗り込む。
コックピットの座席は二つあり、一つはハーケンの操縦席、もう二つは鞠音博士の改造によって付けられたアシェン用の座席だ。このゲシュテンペストの改造には、ハーケン立会人の元で、彼の記録だけで行われている。その二番目の座席へと、アシェンが飛び乗って来る。
「準備完了でヤンス。艦長」
「OK、じゃあ、出撃と行くか!」
アシェンが乗って来たのを確認すれば、ハーケンは機体を起動させ、開いているハッチから操縦桿を巧みに動かして飛び出した。