スーパーロボット大戦OG 無限のフロンティア 異世界からの依頼者 作:ダス・ライヒ
連邦軍好きの方は特に閲覧注意回であります。
ハーケンらが惑星サジタリウスのモスバサシティでルリたち勇者一行を探す中、サジタリウス近海にて、ワルキューレの艦隊が集結し、惑星の衛星軌道上のステーションに集まる連邦軍艦隊に奇襲を仕掛けようとしていた。
ワルキューレの戦闘艦艇群より少し離れた距離に居る異様な風貌を持つ戦艦を旗艦とする七隻以上の艦隊が、他の十数隻の戦闘艦艇と共に本隊から光信号を受ける。
他に離れた方向には、派手に真っ青な塗装を施した艦艇群と、真っ赤な塗装を施している艦艇が見える。
青いのがアガサと呼ばれる騎士団の保有する宇宙艦隊で、赤いのがメイソンと呼ばれる騎士団の宇宙艦隊だ。彼らは双方で空間騎兵隊と呼ばれている。
『貴殿らゾンボルト戦闘集団は、第19装甲猟兵師団と共に側面より攻撃されたし。武運を祈るだそうです』
「そろそろ奇襲攻撃の時間か。ゼンガー・ゾンボルト、ダイゼンガーで参る!」
母艦のハンガーにて、宇宙空間で生命を保護する動き易い宇宙服であるパイロットスーツを身に着けず、艦長より上の階級である白髪の武人のような容姿を持つ男、ゼンガー・ゾンボルトは、愛機である鎧武者のような外見を持ち、巨大な刀を持った超大型戦闘ロボを駆って、母艦より発艦した。
ゼンガーらはワルキューレに取っては新参者であり、古参連中であるアガサ騎士団やメイソン騎士団から目の敵にされているのだ。
そのまま先に発艦した指揮下のワルキューレの機動兵器、可変戦闘機の編隊を率いてこちらに気付かない連邦軍艦隊の側面へと回る。
「奇襲は俺の得意とする物ではないが…」
『なら、我が装甲猟兵師団が代わりに先陣を切ってやろうか? 俺のVF-11Cのアーマードパック装備なら、単機で一個連隊ほど機動兵器をやれる』
『ふっ、言うな。このダイナミック・ゼネラル・ガーディアンは、単機で機動兵器二個師団を粉砕できるぞ。特に私のアウセンザイダーは、有意に一個軍団以上と渡り合う事も出来る』
前方でこちらに横っ腹を見せる連邦軍の艦艇を見て、正々堂々とした戦闘を得意とするゼンガーは、あまり得意では無い奇襲を任されてどう奇襲して良いか頭を悩ます。
そんな頭を悩ます彼のダイゼンガーのもとへ、冷やかしなのか、それとも緊張をほぐすためか、装甲猟兵が通信を掛けて来る。
自分の機体なら一個連隊相当の敵部隊に大打撃を与えると豪語する猟兵に対し、ゼンガーの盟友であり、戦友でもあるレーツェル・ファインシュメッカーが愛機の自慢をし始めた。
『けっ、そんな馬鹿デカいロボットなんぞ、直ぐに見付かってハチの巣だぜ』
「その為に、このダイナミック・ゼネラル・ガーディアンの装甲は厚いのだ。我らの戦い、良く見ておくが良い」
自慢するレーツェルに腹を立てたのか、猟兵は二名の乗る50m台の超大型ロボットを、直ぐに見付かって的になると馬鹿にすれば、ゼンガーは挑発に乗らず、その為に装甲は厚めとなっていると告げてから、自分等の戦いを見たことが無い猟兵たちに対し、自分等の戦いを見ておけとも告げる。
『おい、先にアガサの連中がぶっ放したぞ! それにメイソンの連中も攻撃してる! なんて奴らだ!』
『我ら新参者に対しての対抗心か? 馬鹿々々しい。そのプライドで作戦を台無しにするつもりか?』
先に戦端を開いた、否、真正面より馬鹿正直に強襲を仕掛けたのは、ゼンガーらの新参者を目の敵にするアガサ騎士団の艦隊であった。これに続き、敵であるメイソン騎士団も攻撃し始める。
「つまらん理由だ。これで奇襲から強襲へと変わったな。このダイゼンガーが先陣を切る。続け!!」
『承知!』
奇襲作戦を強襲作戦へと変えたアガサ騎士団とメイソン騎士団に対し、少し動揺を覚える装甲猟兵師団をゼンガーはまとめ上げ、自分が先陣を切って慌てて迎撃態勢を取る連邦軍駐屯艦隊へと突撃する。
この後にレーツェルのアウセンザイターが続けば、他の猟兵たちが駆るバルキリー部隊も続く。
『敵襲、敵襲ぅ!!』
『なんでワルキューレの部隊がここに居るんだ!?』
『艦隊戦用意! 早くしろ!!』
通信機より強襲を受けた連邦軍の慌てた無線連絡が、次から次へと聞こえて来る。
どうやらこの世界に居る連邦軍艦隊は、ここを安全な後方地帯だと思っており、敵が出て来るなど思ってもみなかったようだ。
蒼と赤の騎士団の艦隊の砲撃を受け、次々と撃沈して行く連邦軍の艦艇が見える。
対応力の速い艦長は、即座に迎撃準備を整え、艦載機を出して対応に当たっていたが、運悪く前方側に居た艦艇は餌食となる。
逆に対応力の遅い艦長が乗る艦艇は右往左往するばかりで、騎士団のビーム砲や対艦ミサイルで沈められた。
「ほぅ、強襲にしては中々やる。では、実際に我らの力、あ奴らにも見せてやろう」
奇襲が失敗しながらも、強襲攻撃を得意とするアガサ、メイソンの双方の騎士団は、連邦軍艦隊を圧倒していた。
それを見ていたゼンガーは彼らに認めさせようと思ってか、自分のダイゼンガーに向けてビーム砲を撃ってくる連邦軍の戦艦に向かう。
『う、うわぁぁぁ! だ、ダイゼンガーだ!!』
『う、撃て! 近付けるな!!』
「ルチウム海戦の影響か。ならば、死にたくなければ我の前に立ち塞がるな!!」
向かって来るゼンガーのダイゼンガーを見た連邦軍の将兵達は、その姿を見て恐れおののき始めた。
彼は統合連邦軍と戦うのは、これが初めてでは無い。
最初の戦闘はルチウムと呼ばれるスペース・コロニー群がある宙域にて、今乗っているダイゼンガーで盟友と共に出撃し、相手方であった第67連邦宇宙軍艦隊の将兵達を恐怖に陥れた。
この第67宇宙艦隊は、艦艇一万五千隻と言う保有する膨大な数の全ての艦艇をかき集め、四百隻相当のワルキューレの宇宙艦隊へ総攻撃を仕掛けたが、ゼンガーやレーツェルを初めとするクロガネ隊と呼ばれる異世界より来た部隊によって撃退されて敗走した。
何故、異世界のゼンガー達がワルキューレに属しているかは、短い理由であるが、彼らの世界が連邦の敵方である惑星同盟軍によって自分等の世界が侵略を受けたからだ。
強大な力を持つ彼らもこの侵攻に抵抗はしたが、惑星同盟よりも危険な敵を倒してから日が浅かったがため、長くは持たず、何度も守って来た世界を救って来た彼らも、撤退するしか無く、こうして他の仲間たちと共にワルキューレに亡命してきた訳だ。
何度も世界を救って来た強力な彼等を、連邦や同盟の巨大な勢力の同時攻撃によって戦力が減っているワルキューレは無条件で受け入れ、強力な戦力を手に入れた。
これによりゼンガーらは、前の世界で経験したDC戦争以上に連邦軍に恐れられることとなる。
「ぬん!」
艦載機の機動兵器の攻撃を物ともせず、ゼンガーは声を上げて戦艦に一太刀を浴びせる。
ダイゼンガーの持つ
連邦軍の大量に建造されている戦艦など、一振りで豆腐のように切断されてしまう。
『せ、戦艦が一振りで…!?』
『や、やっぱりあのダイゼンガーだ…!』
戦艦が一振りで二つに割られたのを見て、恐怖した艦載機のパイロット達は戦意を損失し始めた。
そんな彼らにとどめを刺すように、ゼンガーは連邦軍に対して投降勧告を行う。
「連邦軍の将兵らに告げる! この参式斬艦刀の錆となりたくなければ、即時撤退するか投降せよ! 我はゼンガー・ゾンボルト、悪を断つ剣なり! よって無用な殺生はせぬ! 即時退くか、降伏するか、それとも蛮勇となって我に挑むか! その三択の中からどちらかを選べ!」
投降勧告を行うゼンガーであったが、これが逆に連邦軍の戦意を回復させてしまったようだ。
『だ、誰がお前のような奴に投降するか!』
『そんなデカ物、一斉射撃を加えれば宇宙の塵だぜ!』
『嬲殺しにしてやる!!』
彼らにもプライドがあるようで、罵声を浴びせた後に、ダイゼンガーに凄まじい砲火で浴びせると言う返答を行う。
「愚かな…蚤の如く、我がダイゼンガーに挑むか…! ならば良し! 全力で貴様らの相手をする! 覚悟せよ!!」
蚤の如く挑んで来る連邦宇宙艦隊の艦艇や艦載機らに対し、ゼンガーは全力を持って突っ込む。雨のような砲火に晒されるが、ダイゼンガーの装甲には、対艦ビーム砲も対艦ミサイルも全く通じず、ただ弾かれるばかりである。
『怯むな! 距離が近づけば貫通できるはずだ! もっと撃ちまくれ!!』
戦艦の一艦長からの怒号が無線機より聞こえて来るが、雨のような砲撃を弾きながら迫るダイゼンガーの前では無意味であり、近付かれて前方の駆逐艦や巡洋艦などが斬艦刀の錆となる。
「斬艦刀・雷光斬り!」
数隻の艦艇と数十機の艦載機を斬艦刀で全て斬り捨てた後、ゼンガーはダイゼンガーが持つ斬艦刀を巨大な両刃の剣に変え、逃げようとする空母と随伴しているフリゲート艦諸共叩き斬る。刀身の長さは尋常ではないので、一瞬にして空母は二隻の護衛艦と共に切り裂かれて宇宙の藻屑となった。
「ダイナミック・ナックル!」
三隻の軍艦を宇宙の藻屑にした後、近付いて近接戦闘武器でダイゼンガーに挑む機動兵器群に対し、ゼンガーは空いている左手の拳で技名を叫びながら薙ぎ払う。
全長が50m台のロボットの振り払いを受ければ、20m級の人型機動兵器などバラバラになる事は確実だ。振り払いによってバラバラとなった機体からは、パイロット達が宇宙へと投げ出されていく。恐ろしく惨い光景であるが、ゼンガーは慣れているのか、空かさず向かって来る敵を排除し続ける。
「ゼネラル・ブラスター!!」
次に振り向いた方向に見える無数の敵部隊に対し、ゼンガーは技名を叫びつつ、ダイゼンガー唯一の射撃兵装であるゼネラル・ブラスターを発射した。
それは両肩部の外装の下にある超大型レンズより発射される。レンズから熱光線が発射されれば、射程範囲に居た連邦軍機や艦艇は高熱の光線で溶かされてドロドロとなる。
『ひっ、ひぃぃぃ!! ば、化け物だぁぁぁ!!』
ダイゼンガーの力を出し過ぎた故か、その圧倒的な力を見た連邦兵たちは戦意を損失し、パニックに陥り始めた。
『お、おい…俺たち必要じゃないんじゃねぇか?』
同じくダイゼンガーの圧倒的な強さを見ていたワルキューレのバルキリーを駆る猟兵たちも、ゼンガーのダイゼンガーと、レーツェルのアウセンザイターの二機だけで良いのではないかと言い始める。
『クソ、これ以上、新参者なんかに取られてたまるか!』
だが、ゼンガーやレーツェルに手柄を取られていくことを良く思わない者も居たようだ。
襲い掛かる連邦軍機を艦艇共々潰して行く二機の巨大ロボットに焦りを覚えてか、猟兵が乗る黒いVF-11Cサンダーボルトは前に出て、全身に装備されたアーマードパックにある無数のミサイルを発射して、動揺して動きが悪い連邦軍機を撃墜する。
『へっへっ! どうだ! 一個大隊はやったぜ!!』
ミサイルを撃ち尽くしたアーマーを排出し、大型のガンポッドを持って次なる戦闘に備えたが、逆襲に来た無数の連邦軍機による集中砲火を受け、その猟兵の乗っていたVF-11Cは自分が仕留めた連邦軍機と同様の運命を辿る。
「馬鹿者め、つまらん対抗心を抱くからだ」
自分とレーツェンに対抗意識を抱いて死んだ猟兵を叱りつつ、ゼンガーはこちらに主砲を浴びせて来る重巡洋艦を斬艦刀で切り裂いた。切り裂かれた重巡洋艦は二つに別れ、火を噴きながら左右に別れる中、ゼンガーのダイゼンガーの背後より、強力な対艦ミサイルを装備した大型攻撃機が迫り、そのミサイルを撃ち込もうとしていた。
だが、大型攻撃機はゼンガーの戦友が駆るアウセンザイターの両手に握られた大型銃、ランツェ・カノーネによって撃墜される。
『ゼンガー、背中ががら空きだぞ!』
「すまん、レーツェル。背後の警戒が疎かになっていた! 俺もまだまだだな!」
『その為に私が居る! では、行くか!』
「承知! 引き続き、敵戦力の掃討を続ける!」
二機のダイナミック・ゼネラル・ガーディアンが揃ったのち、それを駆る二人は無数に群がる敵機や敵艦の掃討を続けた。
「はぁ、結局乗れなかったじゃない…」
「誰かさんの所為でな」
「…」
宇宙でかつて共に戦ったゼンガーが、この惑星を支配下に置く連邦軍と交戦しているとはいざ知らず、ハーケンらは街を出てしまう直前で出会った少女の知らせで、街から出られずに済んだ。
この列車だと感で良い当てたハーケンは、間違った恥ずかしさの余り、帽子を深く被ってその表情を隠していたが、自分の家族とされるアシェンには見透かされたのか、毒舌を掛けられている。
「で、街の奥にある列車は、反対側のホームかな、お嬢さん?」
「えぇ、そうよ。反対側。あんた達が何所に行くか知んないけど、ちゃんと行先とか確認しなきゃ駄目よ。でも、こんなに迷う辺り、この辺に詳しくなさそうだけど、あんた達はこの辺初めて?」
何事もの無かったように立ち直ったハーケンは、自分等を救ってくれた少女に街の奥不覚へと行く路線が反対側のホームなのかを問う。
その問いに少女はそれが合っていると答えれば、この街の住人では無く、余所者であるのかと問い返した。
「あぁ、さっきも言った通り、俺たちはこの辺の住人じゃないんでね。こうして危うく街を出ちまう所だったのさ。サンキューだぜ、親切ガール」
「まぁ、この辺の路線、複雑過ぎだから。取り敢えず、案内したいんだけど…」
問い返しに律儀に答えるハーケンは、街から出てしまうところを救ってくれた少女に礼を言う。これに少女は、モスバサシティの路線は複雑であり、間違ってしまうのは仕方のない事と答えてから、急いでいるので案内は出来ないと告げようとしたが、見付かってしまったようだ。
「ん、なんだ?」
「あぁ、見付かった…」
『見付けたぞ。さぁ、勘弁して貰おうか!』
周囲に子犬の泣き声が聞こえれば、次にテレビドラマの台詞が次々と拡声器より聞こえて来る。
駅に居る者達は、これを不思議そうに聞いていたが、少女だけは理解していた様子だ。直ぐにハーケンは、少女の顔付きを見て何かを知っていると見抜き、これが何なのかを問う。
「親切ガール、これが何か知っている様子だな? 聞かせて貰おうかな?」
「えぇ、あぁ…うん。これはね、私の世話をしてるAIの仕業なの」
「AI…随分と人騒がせなAIだ。このアンドロイド…」
この騒ぎを起こしているのはAIだと少女が答えれば、アシェンは直ぐに止めてやろうと、自分がアンドロイドと明かそうとした時、無用な騒ぎを避けたいマリは、アシェンの口を塞いだ。
「で、君はそのAIから逃れようとしたのかい? そいつは、家出じゃないかな?」
「えぇ、そうよ。家出って言うのは、合ってるちゃ、合ってるけど、私、連邦軍に入隊するの。機動兵器のパイロットになるのよ」
「…連邦軍か」
街を出て家出をするのかと問うハーケンに対し、少女はそのような物であると答え、連邦軍に入隊してパイロットになるとも答えた。
連邦軍に入隊すると聞いて、ハーケンは顔を暗くした。自分等の世界、エンドレス・フロンティアを敵方の同盟軍と共に荒らし回る連邦軍に入ると言ったからだ。
連邦のパイロットとなった目前の少女を殺める可能性があるためか、はたまた圧制側の将兵にしたくはないがためか、ハーケンは連邦軍に入隊するのは止めておけと告げる。
「入隊するのは止めておけ。表で言っている事と、違う事をやらされるかもしれねぇぞ」
「表で言っていると違うこと…? 何言ってるの、政府が嘘をつくわけがないでしょ?」
連邦軍が市民に対して嘘を言っていると告げるハーケンであるが、連邦政府が発しているプロパガンダに毒された少女は、それを信じようとしない。
そんな彼女に対し、次の言葉を掛けようとするハーケンであったが、嘘と暴力でまみれた世界で育って来たヴァンが割って入って来た。
「あのな、お前が連邦とか言う連中が嘘を言ってないと駄々を捏ねてるが、大人って奴は嘘吐きなんだよ。何故なら本当の事を言えば、やらないから嘘をつくんだ。そんで自分等はかっこよくて良い奴で、あいつ等は悪い奴でかっこわるいだって言って嘘をつく。分かったか?」
「…そんなわけ無いじゃない…政府が嘘をつくなんて…」
「済まないが、これが現実だ。そこのブラックタキシードの言う通り、大人は嘘吐きさ。駄々こねガールが入隊するのは止めないが、思ってたのと違う事をやらされても知らねぇからな。考え直すなら、今の内だぜ?」
割って入って来たヴァンが、バカなのに珍しい事を言ったことに驚いたハーケンだが、呆気に取られることなく、未だ政府が嘘をつかないと信じている少女に入隊した後に、非人道的兼自分がやりたくも無い任務をやらされても知らないと告げ、連邦軍に入隊するのを思い止まらせようとする。
そんな時に、近くの公衆電話より彼女の親らしき声が受話器より聞こえて来た。
『シディー、そこに居ることは分かってるのよ! この電話に出なさい!』
「ほら、駄々こねガール。君のママが呼んでるぞ。声を聴かせて安心させてやりな」
「…分かったわよ」
声の主はシディーと呼ばれる少女の母親であり、直ぐに電話に出るように受話器から叫んでいた。
それを聞いていたハーケンは、シディーに母親を安心させるように言えば、彼女はそれに応じて声が聞こえている公衆電話機の前に立ち、受話器を持ってテレビ電話の画面を見つめる。画面には、シディーの母親らしき人物が映っており、その表情は怒っているように見えたが、見付かった彼女の無事であることが分かって安心しているようにも見えた。
だが、シディーはそんな母親の気も知らず、口論を始めてしまう。
「ママ、どうしていつも邪魔するの! これから連邦軍のパイロットになって、エースになろうかと思ったのに!」
『連邦軍のパイロットになる? 馬鹿なことは言わないの! 母さん連邦軍の士官学校に入って、除隊してから大学に入って卒業した学者になったけど、従軍時代には碌でもないことをやらされた物よ。そして今でも政府は嘘をついて、多くの若者をまるで消耗品のように前線に送り込んで殺してるわ。機動兵器のパイロットも同様よ。父さんのように貴女を軍の無謀な作戦で無駄死にさせたくないわ。直ぐに家に帰りなさい!』
「もぅ、研究ばっかして偉そうなこと言わないでよ! 自分だけ…」
この口論はハーケンらにも聞こえており、彼は心配そうにそれを見ていた。
「はぁ、ありゃぁ、親の愛情が足りないようだな…」
「艦長は、私と親父で愛情たっぷり育てましたからダイジョVですなのよ」
見てられない歯痒さを覚えるハーケンが今の気持ちを口にすれば、アシェンは、彼がシディーのようにああならなかったのは、自分とショーンのおかげであると無表情で自慢しながら左手でVの字を描くジェスチャーを取った。
口論は続いていたが、上空に空を切り裂くような音が鳴り響き、何か巨大な物が近くに落下する大きな物音が聞こえた。
「っ! こいつは…!?」
「な、何よ…!?」
「周囲に多数の反応! これは機動兵器でやんすよ!」
音が鳴った方向を一同が見れば、アシェンは周囲、それも駅周辺だけでなく街全体に機動兵器の反応を感知したので、直ぐにハーケンらに報告した。
それを証明する形で、即座に駅の屋根が崩れて連邦軍全体で運用されているRGM-89ジェガンJ型がホーム内に落ちて来た。墜落してホームへ落ちたジェガンの胴体にあるコックピットのハッチが開き、そこから負傷した連邦軍のパイロットが転げ落ちる。
落ちて来た連邦軍の人型兵器を見て、駅内に居る人々は動揺を覚えて騒ぎ始める。
「な、なんで連邦軍のMSが!?」
「まさか、街中で戦闘が!?」
「空に居るのは、ワルキューレの戦闘機なんかじゃないか!?」
巨大な物が墜落した影響で空いた天井の穴から見える外の様子を見ようと、人々が一斉に見始める。
「おいおい、まさか戦闘ってことは無いだろうな」
これにハーケンは、ホームに居る人々と同じ心境で、外で何か起こっているのか確かめるべく、双眼鏡を懐から出し、外の様子を確かめる。外で行われているのは、彼の思った最悪の予想であった。つまり、街の上空で戦闘が行われているのだ。
「クソッ、ナンバーテンだ! アシェンの言った通り、機動兵器がごまんと居て、街の上で平気でドンパチやってるぞ! やっぱ連邦は嘘吐きだな!」
「嘘っ、連邦軍がそんなことをするわけ…」
未だに連邦軍を正義だと信じているシディーは、それを信じようとしなかったが、映像通信に映る母親はそれが間違いであると改めて告げる。
『そこのナルシストの男の言う通り、連邦政府は嘘吐きよ! 普通なら敵が攻めて来たと分かった途端に避難命令なんか出すはずだけど、サジタリウスの指揮官は馬鹿みたいだわ。避難警報を出してない! とにかく、貴方はこの街を出なさい! もうじき、ここは馬鹿な指揮官の所為で戦場になるわ!』
連邦政府が信用できないことを告げてから、母は娘であるシディーにもうじき戦場となる街を出るように告げたが、彼女は聞く耳を持たなかった。
「嫌よ! ママを置いて私だけ逃げるなんて出来ないわ! 私が迎えに行くから、そこでじっとしててね!」
『ば、バカ! 戦場になるって言ったでしょ!? 早く街を出て非難しなさい! エイジャに直ぐにこの付近で動ける車を見付けて貰って…』
「そうやってまたエイジャに頼み込む! もう良いわ、私一人でも助けに行く!」
『何を馬鹿なことを! 待って! ちょっ…』
シディーは母を置いて一人で街を出るのは後ろめたさを感じたのか、助けに行くと言ったのだ。
もう直ぐ戦場、もはや戦場となりつつある街の中央にある自分の元へ迎えに行くと言う娘に対し、母は必死で説得を試みるも、シディーは受話器を捨てて駅の出入り口に、我先にと殺到する人混みの中へと無謀に向かう。
それから静止の声を映像越しに掛ける母親であったが、落ちて来た連邦軍機の残骸でその公衆電話は下敷きとなって破壊された。
「おい、待て! ワガママガール! 一人で行くのは、うわっ!?」
「バカ! 勝手に決めて向かってんじゃ、うぉ!?」
一人、母親を助けようと既に戦場となっている街の中央に向かうシディーを止めようと、ハーケンとヴァンは腕を掴もうとしたが、逃げ惑う人々に妨げられ、彼女を見失ってしまった。
「たく、次から次へと…で、どうするんだい? この街はもうバトルシティになる直前だ。逃げるか? それともあの無謀ガールと同じく街の中央へ行って勇者ガールの痕跡を探すか?」
シディーを見失ったハーケンは、依頼者であるマリに今後どうするかを問う。そんな苛立ちが混じっている彼の問いに対し、彼女は即座に返答を出した。
「予定は変わらない。例え戦闘が起きてようとも、この街を管理してるAIのデータセンターに行くわ」
「OK、その意気だ。とことん付き合うぜ。例え火の中、水の中ってな!」
「艦長が言うならあきちも続くでそうろう。ついでにバカ娘を引っ叩くために」
「置いてきぼりにされたら餓死しそうだしな。取り敢えず、あんたについてくぜ」
マリの期待通りの返答に、ハーケンは指を鳴らしながらシディーと同じく街の中央に向かう彼女の後へ付いて行った。アシェンもヴァンもこれに随行し、外へ出ようと殺到する人々を押し退けながら進んだ。
「えーと、近くに無人タクシー…って、無いか」
母親、ハーケン、ヴァンの静止の声も聞かず、我武者羅に外へ飛び出したシディーは、街が戦場になったと知って恐慌状態の街の様子を見て、無人タクシーが動いている訳が無いと一人ツッコミをして落ち込んだ。
持っている形態を出し、無人タクシーでも呼び込もうとしたが、どれも反応は無い。
それを裏付けるように、大勢の人々が無人タクシーに乗って街へ出ようとしているのが見える。
「やっぱりね、みんな街を出ようと、屋根の上に乗ってまで…やっぱり歩くしかないって事ね」
街の中央に行くには、歩いて行くしかない。早い移動手段が無い彼女に取って、これが最良の決断であった。
反対側に走る車と言えば、軍用車両ばかりであり、荷台に大勢の兵員を乗せたトラックや屋根の上に数名ほどを乗せている装甲兵員輸送車も見えたが、自分のような少女をとても乗せてくれるとは思えない雰囲気を出している。
仕方なく、彼女は歩いて街の中央へと向かう事にする。
「ママは確か、この街の地下で発見されたノンダス人か、メガミ人だかの遺跡の調査をしていたわね。この距離からすると…うわぁ…めっちゃ遠い…」
携帯を操作し、現在地点から母親の居る遺跡までの距離まで計算すれば、目を背けたくなるような答えが場面に表示された。だが、うだうだと言ってはいられない。自分の肉親に危機が迫っているのだ。
そう決心した彼女は、徒歩で街の中央の地下にある遺跡まで移動した。
「おい、あれ。パトカーじゃねぇか?」
「なんで警察がこんな所に? ポリ公共は中央に居るんじゃないのか?」
徒歩での移動を開始して数十分後、街から離れようとする一団の声がシディーの耳に入って来た。
それに反応し、彼らの見る方向へ視線を向ければ、数台のパトカーが護衛の二機の警察仕様のスコープドックと共に、自分と同じ反対側から来ているのが見えた。
シディーの近くまで来れば、その警察の車列は止まり、パトカーからライフルや短機関銃、散弾銃などを持った複数の武装警官が居り、周りを包囲する。警察仕様のATも同様にパトカーの周りに人が集まらないよう、避難民たちを威嚇する。
一台のパトカーより、身なりの良い制服を着た肥満体系の中年男が護衛と共に居り、彼らを引き連れてシディーの元へ来る。
「やぁ、シディーちゃん。こんな所へお散歩ですかな?」
「あ、あんた、モスバサシティの警察署長の…!」
「如何にも。わしはモスバサシティ警察署長のキズラーだ。さて、早速だが来てもらいましょうかな。軍より貴女を避難させろと言われておりますので」
「ちょ、ちょっと! 離しなさいよ! 嘘吐きの軍隊が私に何のようなの!?」
その男はこの街の警察署長であるキズラーであり、彼の評判を知っているシディーは嫌悪感に満ちた目付きで睨みつけた。だが、か弱い少女の睨みなんぞに怯む男では無く、彼女の腕を掴んで無理やりにでも連れて行こうとしたが、シディーは抵抗してその太い腕を振り払った。
シディーが抵抗したのは、キズラーの評判はモスバサシティ全体で最悪と知っての事だ。
この男に目を付けられれば、何をされるか知った物じゃ無い。街を出ようとする避難民たちも、周囲に居る彼の手下と化している武装警官に撃ち殺されたくないばかりか、助けに行こうともしなかった。
「おやおや、それは公務執行妨害に当たりますよ? さて、これ以上ここに居ては、ワイルドキャット空軍の戦闘機の機銃掃射の的にされかねない。直ぐに来てもらいましょうかな」
「ちょ、何を! 離しなさいって! 訴えるわよ!!」
「フフフ、訴える? 裁判を起こすとでも? 無駄だ、このわしに盾突く弁護士など居ない。連邦のどの領域に居る弁護士でもな。さぁ、大人しく…」
「おい、止めろよおっさん。その子、嫌がってんじゃねぇか」
「な、何者だ!?」
抵抗する彼女に対し、キズラーは二名の部下に両手を掴ませて無理やりにでも街の郊外にある連邦軍の基地まで連れて行こうとしたが、この場に居ない部下以外の男の声が聞こえた。キズラーと手下たちが向けた視線に居た男は、黒いテンガロハットに黒いタキシードを身に着けた奇抜な格好で、銃に似た蛮刀を右腰に身に着けた男、ヴァンがそこに居た。
「てめぇ、俺たちゃ警官だぜぇ? 逆らったらどうなるか分かってんだろうなァ!?」
一人の柄の悪い武装警官が、シディーを助けようとするヴァンに向かってガンを飛ばし、手にしている自動小銃の銃口を向ける。だが、銃口を向けるだけでヴァンが止まるはずが無く、彼はその警官を押し退け、シディーを助けるためにキズラーの元へ向かう。
「お、おい!? テメェ! 何ガン無視してんだコラぁ!」
自分を押し退けて署長まで近付いたヴァンに対し、警官は手にしている自動小銃を撃とうとしたが、彼が目にも止まらぬ速さで抜いた蛮刀で自分が手にしている銃の銃身を切り落される。
「ひっ、ヒィィィ!? な、なんじゃこりゃぁぁぁ!?」
警官は衝撃の余り、尻餅をついて絶叫した。それを見ていたキズラーを含む悪徳警官らは、少しは怯えた物の、何とか気を取り直してヴァンに手にしている銃の銃口を向けて威嚇する。
「な、何者だ!?」
「俺か? 俺は夜明けのヴァンだ。取り敢えずその子を離せ。その子は向こうに居る母ちゃんを助けに行くんだ」
キズラーに問われたヴァンは、蛮刀を持ちながら名を告げ、シディーを離すように告げる。
「向こうだと? 街の中央に行こうと言うのか? 馬鹿め、今ごろ街の中央は敵が上陸して連邦軍と交戦している! そんな場所に行こうと言うのか? ふん、貴様らどうかしているぞ!」
中央を指差しながら言ったヴァンに対し、キズラーは馬鹿にしたように罵声を浴びせる。
確かに、既に戦場となっている中央側に行こうなどと、気がどうかしていると疑っても仕方ない事だが、シディーは唯一の肉親である母親を助けに行くのだ。娘を思う母親にとっては、大変危険で馬鹿な行動であるが、別に間違ったことでは無い。
そんなシディーの思いを馬鹿にするキズラーに対し、追い付いたとされるハーケンが、ヴァンに銃口を向ける数名の警官の銃を、素早い早撃ちで弾いてから反論してくる。
「こ、今度は何だ!?」
「おいおい、危険を冒してまで母親を助けに行く? それが何所の笑い所があるんだい? 悪徳ポリスチーフ」
短機関銃を持つ警官が振り向いた方向には、回転式の拳銃、それもコルトSAAと呼ばれるアメリカの西部劇を代表するリボルバーを右手に握ったハーケンがそこに居た。
新たに現れた更なる強敵に、キズラーと悪徳警官たちは戦意を失い始めるが、自分等には強力な装備があるので、何を恐れるかと気を持ち直して銃口を向ける。今度は殺すつもりだろう。銃を手にする警官らの目に、躊躇いの気持ちは無かった。
即座にハーケンやヴァンに向けて銃の引き金が引かれたが、ヴァンの方は身体改造で培った身体能力で弾丸を避け、ハーケンの方は駆け付けて来たアシェンによって全て防がれる。
「お、おぉ…!?」
「じゅ、銃弾を防いだ…!?」
ハーケンの前に現れ、彼に当たる弾だけを全て受け止めたアシェンは、受け止めたであろう全ての弾丸を離して下へ落し、自分等に銃口を向ける警官らに拳を向けて構える。
「艦長、このマッポー共はどうします?」
「派手にやって良いぜ。ただし、死なない程度にな」
「了解でヤンス。ここは一気にコードDTDでケリをつけるでそうろう」
アシェンに悪徳警官らの対処を問われたハーケンは、派手にやって良いと答えた。それに応じ、アシェンは自分に取っての必殺技とも言えるコードDTDを発動する。
「な、なんだ!? 急に女の全身から何故か煙が!?」
一人が叫んだ時に、アシェンのコードDTDは発動していた。
全身にある排出口から一気に全身を覆い尽くす程の煙が噴き出す。この直後に、彼女のタイツの部分が消え始め、露出度が高めとなる。それと同時に無表情だった顔付きが一変、無邪気な笑顔に変わり、髪型も額を露わにしている物へと変わる。
「コードDTD発動! 僕にお任せ!」
口調どころか性格も変わった彼女は、元気よく無邪気な子供のようにそう言ってから、自分の姿を見て驚いている悪徳警官たちの方へ目にも止まらぬ速さで迫る。
「な、何をしている!? 撃て。撃…」
驚きの余り固まっている警官らに対し、隊長らしき警官が直ぐに我に変えそうと叫んだが、その直後にアシェンの拳を受けて吹き飛ばされる。それから物の数秒後に、彼の近くに居た警官たちは瞬きする間に拳や蹴りを打ち込まれて全滅した。
「くっ、クソっ! 脳天吹っ飛ばしてやらァーッ!!」
気絶せずに済んだ警官の一人は、腰のホルスターに治めてある警察用の回転式拳銃を抜き、アシェンに向けて放った。撃ち込んだ拳銃弾はアシェンの頭に命中し、その反動で彼女は顔を上に向ける。
「へへへ、どうだ…!」
自分がやってやったと思う警官であったが、コードDTDを発動しているアシェンにそれが通用するはずが無かった。なんと彼女は、放たれた弾丸を歯で挟んで防ぎ切ったのだ。
「ぺっ! まっずーい!」
平然となく無邪気な笑みを消すことなく、アシェンは噛んだ弾丸を撃った本人の方へ吐いて返した。
「ぎにゃァァァ!!?」
吐き出した弾丸は撃った時と同じ速度となり、悪徳警官の引き金を握る人差し指を破壊する。自分の指を銃弾で砕かれた警官は、凄まじい痛覚で絶叫してのた打ち回り始める。
「ゴェ!?」
「ブガッ!?」
ヴァンに立ち向かった警官らと言えば、アシェンが銃弾を吐き返した時点で全滅していた。
『な、なんて奴らだ…!』
圧倒的に強い二人を見たATのパイロットも同様を覚えたが、この機体が持つ装備なら勝てると思い、警察仕様のヘビィライフルをアシェンに向けて撃とうとする。だが、照準を合わせる前に、アシェンに一瞬の内に近付かれ、強力なパンチを胴体に打ち込まれる。
「アシェンパンチ!」
その拳は大男、否、ゴリラのパンチよりも強力であり、言ってみれば巨大な鉄塊を打ち込まれたような感じだ。そんな拳を受けたスコープドックの装甲は拉げ、道路の上に倒れる。
「ひっ、ヒィィィ…いやだぁぁぁ!!」
残る一機のATのパイロットは、戦意を損失したのか機体ごとこの場から逃げようとしたが、アシェンが逃すはずも無く、一気に近付かれて強力で仕込まれた散弾を受けて撃破される。
「アシェンキック! ご免あそばせ」
無邪気にそう言ってATを撃破するアシェンであったが、パイロットは殺してはいない。破壊されたATより、パイロットが一目散に悲鳴を上げながら飛び出し、逃げ出し始める。
「うわぁ…」
「し、死にたくねぇ!」
「お、オイコラ! ま、待て! ひぇぇ!?」
二人の圧倒的な強さを見て今度こそ完全に戦意を損失した警官たちは、キズラーを置いてパトカーに乗って逃げ出し始めた。これにキズラーは、まだ動いてないパトカーに駆け込み、直ぐに出すように運転手に告げる。
「お、おい! 早く出せ! 殺される!!」
「無理」
「うへっ!? な、なんだお前は!?」
だが、運転手は返答しない。何故なら、運転席にマリが座っているからだ。彼女の姿を見たキズラーはマリもまたおかしな能力を使うと思って怯えて車外に飛び出し、逃げようとする。
しかし、マリが逃がすはずも無く、彼の前に立って見下した目付きで睨みつつ、近くのパトカーを殴り付けた。マリによって殴られたパトカーは一瞬にして廃車と化し、反対車線をわけ隔てるガードレールに当たる。それを間近で見ていたキズラーは、余りの衝撃と恐怖の余り、泡を吹いて失神する。
「おっと、これは怒らせない方が良さそうだな。で、大丈夫かい、親孝行ガール?」
「え? えぇ…私は大丈夫…大丈夫…」
マリの思わぬ腕力の強さを同じく見ていたハーケンは、我を忘れて呆然としていたシディーを介抱する。差し出された手に、シディーは我を取り戻し、自力で立ち上がって首位で気絶している警官たちと、失神して泡を吹いているキズラー、ATの残骸を見て何が起こったのかを問う。
「い、一体何が…?」
「お前、覚えてないのか? ここで警官共がな…」
「ブラックタキシード、そいつは無理も無いと思うぜ。なんたって、想像もつかないことが起きたからな。まぁ、俺たちは慣れ過ぎてなんとも無いがな」
「まぁ、そうだな…んなこと、出来る奴なんてそうそうに居ねぇし…」
ここで自分たちがしてきたことをまるで見ていなかったのか、問い始めるシディーに対し、ヴァンは何も覚えてないのかと言ったが、こんな芸当を映画か漫画、アニメでしか見たことが無い少女に、信じろと言うのが無理なので、彼女の心境に配慮するハーケンは余り責めないように告げる。
それに応じてか、ヴァンもシディーを心配して問い詰めないことにした。
「さて、お嬢ちゃん。本当に街の奥まで行きますかね? 今の状況とあの状況でも」
マリが出したジュースを飲み、気分を落ち着かせているシディーに、ハーケンは多数の落下傘が降下して行くモスバサシティを指差しながらそれでも助けに行くのかと問う。
その問いは彼女に取って愚問であったのか、街が戦場になっていようとも、母を助けに行く決心は揺るがず、シディーは行くとハーケンに答えた。
「行くわ。例えどんな地獄だろうともね。だって私の唯一の肉親だもの」
「OK、中々のガッツの持ち主だ。気に入ったぜ。それじゃあ、君の目的地までエスコートしようか。ちょうど俺たちの目的地もそこなんでね」
「え、なんであんた達まで…?」
身の危険が迫っても決心が揺るがないシディーを気に入ったハーケンは気に入り、目的地までついて行くと言えば、彼女は無関係な自分に対してついて行くのかを問う。
「そいつは愚問さ。目的地が同じで合って、それに、久しぶりにそう言う目をした人間に会えたからさ」
シディーからの問いに対し、ハーケンは新西暦の世界に居た者達と同じ熱い眼差しをしているからだと答えた。
一方で、マリとハーケンらがこれから向かうモスバサシティでは、街の被害を最小限に食い留めようとする攻め側のワルキューレと、街の被害を顧みずに敵を追い出そうとする連邦軍との激しい攻防戦が行われていた。
戦況は完全にワルキューレが押しており、連邦軍が完全に後手に回って苦戦していた。それどころか、連邦軍はまだ市民が残っているにも関わらず、被害も気にせずに目に入った敵機へ向けて強力な武器を使用している。これには市民も連邦に反感を持つのは仕方の無い事だった。
更にそればかりでは無い。なんと市民よりも先に逃げ出す部隊まで出始めたのだ。
「っ! お、おい! お前ら! なんで勝手に後退してんだ!?」
UNSC陸軍に属する戦車中隊は、随伴歩兵を引き連れて防衛線の構築へと向かおうとしたが、その進路方向より後退中の連邦地上軍の61式戦車部隊が来た。
中隊長からの問いに対し、同盟軍の戦車部隊隊長は怖くなって逃げたと、キューボラから大声で返答する。
「敵が圧倒的すぎるんだ! 俺たちじゃ敵わねぇ! それに敵の空挺兵があちこちに居る! このままじゃ殺されちまうよ!!」
「ふざけんな、臆病者! 今すぐ戻って戦え!!」
「こんな状況でやれるか!」
「黙れこの玉無しが! テメェの股についてるのは飾りか!?」
それを聞いて怒鳴り散らすUNSCの中隊長であったが、向こうも言い返して来たので口論となった。
この隙に、周囲のビルに入り込んだワルキューレの空挺兵、それも女性兵士で使用しているのは第二次世界大戦下の英陸軍の空挺兵装備の小隊規模の人数が配置を完了し、手にしている対戦車擲弾発射器PIATやM1バズーカ無反動砲を構え、立ち止まっている戦車部隊に向けて浴びせる。
エンジンがある後部に向かって攻撃なので、即座に61式戦車は火達磨となったが、スコーピオン戦車はこの攻撃を想定して設計されていたのか、殆ど無傷であった。
「敵が潜んでいるぞ! 各員、迎撃準備! 前の連中は放っておけ!!」
味方が襲われているにも関わらず、UNSCの将兵らは戦意を損失して逃げ出す彼らを放置し、自分等だけでも前に進んでやろうかと思ってビルに身を潜めるワルキューレの空挺兵等に銃撃を浴びせた。
だが、ワルキューレの空挺部隊は歩兵だけでなく、保有する機動兵器の一つ、戦術歩行戦闘機、略して戦術機も降下させていたのだ。その戦術機がUNSCの戦車中隊の背後から二機ほど現れ、18mの巨体に握られた本来装備していない小口径の突撃砲を浴びせる。
「後方より、ワイルドキャットのMS擬き!」
「まさか、こんな奴らまでも…!? 一体、ここの防空網はどうなっているんだ!」
みすみすと街に敵部隊、それも機動兵器すらも降下させたモスバサシティの防空網の薄さに驚きつつ、燃え盛る戦車と共にその中隊長は運命を共にした。それだけでなく、空においても装備の質では勝る連邦軍も、醜態を極めていた。
『この大型のジェガンタイプじゃ、大気圏内での可変戦闘機の相手は無理だ!』
街の上空において、敵空挺部隊を輸送する輸送機の攻撃に向かった旅団規模のジェガンと小型MSのヘビーガン、Gキャノン、ジェムズガンの混成部隊は、ワルキューレのバルキリー部隊、それも一個大隊程度の相手に苦戦していた。
火力と装甲なら勝る連邦軍MSだが、機動力においては遥かにバルキリーが上回っていた。撃ったビームが直ぐに避けられ、そのお返しにガンポッドやミサイルを胴体に撃ち込まれて撃墜される。仲間の仇を取ろうとも、呆気なく返り討ちにされるばかりだ。
『ひ、広がるな! 固まれ! 固まってお互いの死角を…』
指示を出す指揮官機であったが、止まっている所へミサイルを撃ち込まれて撃墜された。これにより、部隊はパニックを起こし、次々と各個撃破されていく。
『な、なんでこんな連中なんかに!? うわぁ!』
プロパガンダに影響され、ワルキューレは対したことが無い相手だと思っていたジェムズガンのパイロットであったが、自分だけ地上に降りて建物に身を隠そうとした時に、あろうことか、地上支援機のレシプロ機であるタイフーン戦闘爆撃機型に対地ロケット弾を足に撃ち込まれて立て無くされた。
「お、俺の機体をやったのは、か、化石の航空機だって言うのかよ!?」
自分の機体をやったのは、レシプロ機だと分かった途端に焦りを見せたパイロットであったが、この後にコックピットを何者かにジャックされてこじ開けられ、そこに手榴弾を投げ込まれて殺害された。
彼を殺害したのは、ワルキューレの擲弾兵部隊だ。手にはコックピットを開ける際に使用したとされる端末機が握られている。敵のMSの無力化を確認した部隊長は、手にしているHK G36A突撃銃を抱えつつ、ハンドサインで移動すると指示を出し、部下たちを引き連れて作戦の手順に則っての行動を取る。
何もレシプロ機にやられたのはMSばかりでない。質と火力で勝るはずの連邦軍の車両でさえ、たかが第二次世界大戦下に開発された英戦車部隊に圧倒されているのだ。
沿岸に着水した宇宙戦闘艇のようなデザインの強襲揚陸艦より降りて来るクロムウェル巡航戦車やM4シャーマン・ファイヤフライを相手にしていた連邦軍の戦車部隊が、勢いに押されて退却を始めている。
「お、おい、何所に行くんだ!?」
歩兵を置いて真先に逃げる戦車を見た歩兵部隊も、直ぐに逃げようとその場を離れたが、上陸してきた敵戦車部隊や歩兵部隊の銃撃を背中から受けてしまう。
連邦軍の歩兵部隊に銃撃を浴びせたワルキューレの歩兵部隊もまた、第二次世界大戦時に英軍や英連邦内で使用されていた装備であった。一瞬の内で、自分等が化石と馬鹿にする装備の敵部隊によって連邦軍の防衛部隊は壊滅状態に陥る。
もはや、そこのプロパガンダに映る強力な軍隊である連邦軍の姿は何所にも無かった。
『モスバサシティの皆さま、ご安心ください! ただいま連邦軍と市民軍が上陸して来た敵を押し返しています! 市民の皆様は落ち着いて避難誘導に従い、最寄りのシェルターか、避難列車にお乗りください』
戦闘の最中、未だに連邦軍のプロパガンダが放送されていたが、その放送に誰も耳を傾けず、ただ我先にと街から逃げ出そうとするか、生前を掛けて押し寄せる敵と戦うかのどちらかの人間しか居なかった。