スーパーロボット大戦OG 無限のフロンティア 異世界からの依頼者   作:ダス・ライヒ

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思いっきり、HALO3ODSTのあれだな。


母を求めて三千メートル

 

 シディーの母を迎えに行くべく、既に銃声が響き渡る戦場となっている街の奥、それも旧市街地へと進むハーケンたちの前に、街から出ようとする避難民たちが立ち塞がった。

 荷物を屋根の上までに積んだ車も渋滞を起こしており、向こうから先は進め無さそうだ。反対側を行こうとしても、そこは軍用車両が占拠して行けそうにも無い。

 

「こりゃあ、八方ふさがりって奴だな」

 

「参ったわ…反対側は軍隊の車両で溢れてるし…どうすれば良いかしら?」

 

 目前に見える人の波を見て、ハーケンは帽子を押さえながら悩めば、シディーはどうすればよいか、回転の速い頭を動かしてどのようにすべきか考える。

 そんな一行の元へ、この危機迫った状況に似つかない活気に満ちた声が聞こえて来た。

 

「ケバブは、ケバブはいらんかね? 今ならタダだよー! ほら、おいしいケバブだよ!」

 

 その声がする方向へ視線を向ければ、肥満体系の巨漢の男が、料金も取らずに自分の店で作ったケバブをただで避難民に提供していた。

 そんな時と同じく、シディーの携帯に母親からの連絡が入ってくる。

 

『シディー、大丈夫?』

 

「えっ? ママ? どうして?」

 

 突然の母からの連絡に、少しばかり動揺するシディーであったが、何とか落ち着いて電話に出る。

 

『あなたが心配だからエイジャを使って位置を割り出したのよ。それより、貴方の携帯の反応が街の中央に向かっているみたいだけど…どういう事?』

 

「そ、それは…」

 

「そりゃあ、おたくの娘さんが、貴女を助けに行こうと思ってのことでしてね、アーキオロジィマム」

 

 エイジャと呼ばれるAIを駆使し、場所を割り出したシディーの母は、街を出ろと言ったのに、なんで街に入っているのかを問い質す。

 それを聞かれて答えに悩むシディーの代わりに、ハーケンが携帯を掠め取り、その目的を母親に明かした。

 

『その声、あんたは駅のナルシストの…? で、私を助けに行く? 冗談はお良しなさい。敵は遺跡の上の辺りにごまんと居るのよ。それに連邦軍が見境無しに彼女らを追い払おうと街を吹き飛ばす勢いで戦闘してる。そんな危ない場所に、娘は行かせられないわ。悪いけど、娘を連れて街を出て』

 

 娘の代わりに理由を明かすハーケンに対し、母はきっぱりと娘を連れて街へ出ろと告げる。

 そんな娘の生命を大事とする母に、ハーケンは食い下がらずに反論する。

 

「OK、マダム。あんたの娘を大事に思う気持ちは痛いほど分かる。かつて俺にも似たような経験があってだが、娘さんは大変肝が据わったお子さんだ。それに、例え何が待ち受けて言おうとも進む覚悟がある。そこで冷静を保って、自分の事は良いから逃げろと言うあんたに似ている。それに、俺たちは先ほど、あんたの娘さんをさらおうとした悪徳ポリス共を撃退した」

 

『悪徳ポリス? キズラーの事ね。あのクソッタレに一泡吹かせたことに感謝してるけど、仕返しに来るわよ、絶対に』

 

「望むところさ。諦めさせるまで、何度でも叩き潰してやるとも。それと、この携帯は壊した方が良いですかな、マダム?」

 

 反論しながらシディーをさらおうとしたキズラーの武装警官たちを撃退したことも明かせば、彼女の母はまた奴が狙ってくると返した。それにハーケンは望むところと答え、追跡されるのを避けるため、携帯を壊した方が良いか問う。

 

『えぇ、壊してちょうだい。それなら追跡をある程度避けれるはずよ。それと、監視カメラがある区画はなるべく避けて。あいつは警察署長だから、監視カメラも使って来るはずよ』

 

「OK、マダム。携帯は壊しておく。それと、最後に貴方の娘さんに代わろう。ガッツ・ガール。この携帯に取って最後のママとの連絡だ。声を聴かせて安心させてやりな」

 

 シディーの母が追跡を避ける手順を説明すれば、ハーケンが携帯を壊す前に、元の持ち主である彼女に携帯を返し、母と話すように告げる。

 

「あっ、ママ…本当に大丈夫?」

 

『それはこっちの台詞よ。変な連中なんかを友達にして、友達は選べっていつも言ってるでしょ?』

 

「えぇ、これが終わったら、今の連中なんかと縁を切って、真っ当な友達を選ぶから…だから、死なないでね」

 

『そっちこそ。じゃあ、しっかりとその変なお友達に守って、私の所まで来るのよ』

 

「うん、約束だからね。ママも無事で…」

 

『大丈夫、私との連絡は公衆電話ですれば良いから。無事に私の前で姿を見せてね』

 

「分かった。じゃあ、切るね…」

 

 そうこの携帯における母親との連絡を済ませた後、その携帯を地面に叩き付けて破壊した。

 

「決心はついたかい?」

 

「えぇ、何が何でもママの所へ行くわ」

 

「気に入ったぞ、マザコン娘。このアシェンが、全ての障壁、後、あのクセェマッポー署長共々も打ち砕く。お前は安心してそこの金髪巨乳ロリコンの身体に抱き着いておけ」

 

「そ、それ…約束って意味なの…?」

 

「そうだ。何か問題か? 反抗期家出不良少女」

 

「いや…別に…」

 

 ハーケンからの問いに、シディーは決心がついたと返せば、アシェンは彼女なりにか、毒舌を交えつつ全ての身を守ることを誓う。

 これにシディーは苦笑いを浮かべつつ、ハーケンの顔を見て何とかしてくれと言うサインを送るが、彼は「それが自分等のやり方だ」と返すだけなので、一々アシェンの毒舌に気にしないことにする。

 

「さて、腹ごしらえのついでに情報収集と参るか」

 

「腹ごしらえ? まさか、あのお肉屋さんの所に?」

 

 肉屋の店主の元で腹を満たしつつ、情報収集をすると言うハーケンに対し、シディーはあの巨漢の店主の元へ向かうのかと告げる。それにハーケンは律儀に答え、欠伸をしているヴァンにケバブが好きかどうか問う。

 

「あぁ、そうだ。ブラックタキシード、あんたはケバブが好きかい?」

 

「あん? 俺は、なんでも良いが…」

 

「OK、決まりだ。さぁ、あのブッチャー・ファットマンの元へ行って、ケバブを貰うかね」

 

 そう言って決めれば、ハーケンたちは巨漢の肉屋の元へと向かう。

 向かっている最中、彼の店前に避難中であろう車が強引に入り込み、クラクションを鳴らしながら無理やり進もうとしたが、その巨漢の肉屋に車の前部のボンネットを破壊され、悲鳴を上げながら車を捨てて逃げ去った。車すら簡単に素手で破壊する巨漢の店主の元へ、ハーケンらは近寄り、サンドイッチにしたケバブ、それもケバブサンドを受け取ろうと近付く。

 

「へい、ブッチャーマン。ケバブを三つほど頂けないかい?」

 

「あぁ、良いとも。今なら無料だ。さぁ、ソースはどっちにするかな? それとそのままかい? 香辛料やヨーグルトで味付けしているから、塩をぶっかけただけの物も良いぞ」

 

 ハーケンが気軽に話しかければ、肉屋の巨漢はパンを二枚ほど用意し、一枚の上にケバブとサラダを乗せれば、ソースはどれにするか問う。

 

「そうだな、俺はチリソースで頼む。ブラックタキシード、あんたはどれにする?」

 

「俺は調味料をありったけだ」

 

「調味料をありったけ? おいおい、黒尽くめの旦那。そいつはケバブに対しての冒涜じゃないのかい? まぁ、今となっちゃ怒った所で意味が無いな。で、そちらのお嬢さん方は? サラダも付いてヘルシーだ。油っ気もなるべく少ないよ。脂っこいのを好むなら、串焼きでも良いがね」

 

 ハーケンがチリソース付きを頼み、ヴァンがどのソースにするかと問われれば、いつも通り彼は調味料をありったけと答えた。

 これにケバブを冒涜していると顔を強張らせる巨漢の店主であったが、今の状況で目前の奇抜な格好の男を叩き伏せても意味が無いため、注文に応じて店にある自分が選び抜いた調味料を掛け始めた。その間に、マリやシディー、アシェンにどの食べ方にするかを問う。

 

「私は串焼きだ。肉屋」

 

「私は遠慮しとくわ。今の状態で食べる気しないし…」

 

「…いらない」

 

 アシェンは串焼きを食べると言ったが、マリとシディーは断った。これに店主も少し落胆しながらも、注文された品の調理を進める。

 

「おっと、そこの緑の髪の美人さんは頼んだのに。御二方は食べないのか。残念だな、もう最後かもしれないのに」

 

「家出不良少女、肉を食べなきゃ、あそこの金髪雌豚みたいにムチムチになれんぞ」

 

「煩いわね! 私は脂っこい物はあまり好きじゃないの!」

 

「フン、後で後悔してもしらんがな」

 

 残念がる店主の気持ちにでも反応したのか、アシェンは肉を食べなきゃマリのようなプロポーションにはなれないとシディーに告げれば、彼女は顔を赤くして怒り出す。そんな様子にハーケンは微笑みつつ、ケバブを調理している店主に監視カメラを避けられるルートが何所にあるのかを問う。

 

「取り込み中、失礼するぜ。少し聞きたいんだが、監視カメラを抜けて、街の中央まで進められるルートはあるかい?」

 

「監視カメラを避けれるルート? あぁ、あんた等の事情は、俺の好物のケバブを食べてくれた礼で聞かないでおくが、向こうの誰も使っていない道があるだろう? そこを通れば監視カメラ網を抜けて行けば、街の中央に出られると思うよ」

 

「サンクス、ミスター・ブッチャー。有益な情報、感謝だぜ」

 

 理由も聞かずにそこまでの道を教えてくれた店主に礼を言うハーケンであったが、その道はいわく付きの道であると店主は調理しながら付け加える。

 

「でも、そこの道は結構ヤバいって噂だ。昔、ここを治めていたメガミ人が、領地拡大を図るノンダス人どもの戦をしてた最中の名残がまだ残って居ててな。まだ死体とか、兵器の残骸とかの撤去が進んでないってことだよ。そんために酷い悪臭がして、誰も近付けないとかって話さ。通る時はガスマスクとか必要だ。近くに防災用品のガスマスクを置いてるかもしれないから、持っていきな。なに、勝手に持ってたって誰も気にも留めやしないさ。ほら、出来上がりだ。召し上がれ」

 

「サンキュー。何から何まで済まないな」

 

「良いって事さ。この街の中で、あんた等ほどの人が良い連中はそうは居ない」

 

 昔の戦争を名残が残る道と、その影響で出た悪臭が酷い所であると告げれば、丁寧にガスマスクがある場所も教えてくれた。それと同時に注文の品が出来上がり、それぞれに頼んだ物を渡す。そんな親切な店主に更に礼を言えば、彼はハーケンらのような人間に会えて嬉しいからそうすると答える。

 

「…デリィシャスだ、ブッチャーマン。良いケバブだぜ、なんで繁盛しないんだ? こんなに美味いってのに」

 

「そいつはありがとう。まぁ、俺がこんな見た目をしてる所為でもあるがな。まぁ、路頭に迷う心配はないさ」

 

 美味いケバブをごちそうになったハーケンは、美味しいと告げて何故、繁盛しないのかを店主に問う。理由は簡単であり、店主のその巨漢ぶりと車のボンネットをへこませる程の怪力の所為であると本人が答えた。

 

「まぁ、そいつは致し方の無い事さ。人はまず見た目からだって言うしな。取り敢えず、美味しいケバブ、ありがとよ。生き残って良い肉屋を目指せよ」

 

「あぁ、この街で骨を埋めるつもりだったが、あんたのおかげで生きることにした。食べてくれてありがとな!」

 

「達者でな! お互い生きてたらまた会おうぜ!」

 

 ケバブを食べながら、避難所に備蓄されているガスマスクを取りに向かう際に、そのケバブを提供してくれた店主に礼を言いつつ別れを告げた。

 彼はこの街で最期を迎えるつもりであったが、ハーケンらに会えて生きる気力を取り戻したので、持てるだけの物を持ちに店の中へと消えた。そんな諦め気味だった店主の気持ちを変えたハーケンに、シディーは一体どんな魔法を使ったのかを問う。

 

「ねぇ、あの人。最初に見た時にここを動かないつもりだったけど…どんな魔法を使ったの?」

 

「どんなマジックだって? そいつを使った覚えは無いがな。だだ言えば、そうだな、ハートを掴んだって事さ」

 

「へぇ、ハートね…」

 

「いつも女を口説くために、艦長が使う魔法でヤンス」

 

「おい、アシェン。そりゃねぇだろう。ドリームを壊すんじゃない」

 

 そうするつもりは無かったハーケンであるが、シディーに本当の事を教えず、相手の気持ちを思っての行動であると答える。そんなハーケンに対し、その手を使うのは女を口説くための物だと告げれば、彼は流石に怒る。

 そんなハーケンらに対し、シディーはまだ名前を聞いていなかったのか、名前を問い質す。

 

「所で、名前を聞いてなかったけど、あんた等は何者なの?」

 

「おっと、レディに名前を明かさなかったとは、こいつは失礼だったな。俺はハーケン・ブロウニング、しがないさすらいの賞金稼ぎさ」

 

 これに大変失礼だったとハーケンは釈明し、自分の名前を格好良く名乗って決める。

 

「このかっこつけのチャラスキーの部下であります、アシェン・ブレイデルと申す者。これで分かったか、貧乳小娘」

 

 次に上司のハーケンに毒舌を入れつつ、アシェンが名乗り始める。この際に彼女は、シディーに失礼な毒舌を掛けた。

 

「俺はヴァン、夜明けのヴァンだ。姓名とか、そう言うのは分かんねぇからよろしく。それと女の名前はエレナ以外あんまり中々覚えられねぇ。以上だ」

 

 聞いてもいないのに勝手にヴァンが名乗り始めれば、絶対に名乗らないマリに代わって、ハーケンが彼女の名を告げる。

 

「で、そこの華麗で綺麗で優雅なビューティホーウーマンは、マリ・ヴァセレート。とてもミステリアスな美女で、俺たちのボスって所さ。俺はこのお嬢さんの依頼で、このサジタリウスに来ている。依頼内容は人探し。多分、君のママの所にも用がありそうだから、その時はよろしく頼むぜ」

 

 勝手に自分の名を告げるハーケンに、マリは睨み付けたが、その場の空気を変えようと、シディーも名乗り始める。

 

「じゃ、私ね。私はシディー、シディー・プローディネンス。お母さんは考古学者だわ。ママを迎えに行って、この街を出て行く間までだけど、よろしく」

 

「OK、全員の自己紹介は済んだようだな。さて、ガスマスクを取りに行くとしますか」

 

 これで全員分の自己紹介を終えれば、ハーケンがこの場を仕切って避難所に備蓄されているガスマスクを取りに行った。

 

 

 

 ガスマスクを調達し、肉屋の亭主が教えてくれた監視網を抜けられるルートへ入ったハーケンらは、その日も当たらない昔の戦場の名残が残る道を見て、驚きの声を上げる。

 

「上の辺りが異様に発展しているのに。どうしてここは当時のままなんだ?」

 

「そこらに転がってる戦車とかの残骸を解析しますと、述べ二十年以上は放置されている模様でそうろう」

 

「呆れた。こんな物を二十年も放っておいたなんて…」

 

 アシェンの解析で出た分析は、述べ二十年以上も放置された物であった。

 兵器ばかりでは無く、腐敗した死体や白骨化している物ですら、放置されていたのである。

 上の方でかなりの近代的な都市が築かれているにも拘らず、メガミ人に統治されていたころのままの姿を残す旧市街の方は手付かずが無かった。どうやら、上層の経済発展を優先させて、ここまで放置したようだ。

 

「死体まであるな…腐って、誰が誰だか分からないが、武器を見る限り、統治時代も放棄していたそうだな」

 

「旧市街の壁にある銃弾の跡を見る限り、連邦が攻めてくる前から領土争いが起こっていた様子でっさね」

 

 周囲に転がるボロボロの野戦服と、腐り果てた手と白骨化した手に握られた金属部分が錆び付いたボルトアクション式の小銃を見る限り、連邦軍がサジタリウスに攻めてくる以前から、放置していたころが分かるとアシェンが分析して結果を報告する。

 

「不気味だわ…オバケでも出るんじゃないかしら…?」

 

「マスクしてても臭いな」

 

 そんな死臭で溢れた光当たらない道を、シディーは怯えながら、文句を言いつつも、先へと進むヴァンの後へ続く。

 メガミ人の帝国の元皇帝であるマリに取って、見慣れた軍服と武器、兵器が見えたが、彼女はそれを仲間たちに明かすことなく、最後尾を歩いて周囲を見つめるだけだった。暫く死臭に溢れる道を街の中央に向けて歩き続ければ、進行方向より複数の灯りが見え、声が聞こえて来る。

 

「隠れろ…!」

 

 蛮刀を抜いて臨戦態勢を取るヴァンに対し、ハーケンは遭遇すれば戦闘になることを知っているので、彼を朽ち果てたパンター戦車の残骸に引きずり込み、その場で身を隠す。一同もそれに続き、向かって来る集団から死角となるパンター戦車の右側へと隠れる。

 数秒もしないうちに、辺りにライトを照らす集団が見えた。

 

「ワイルドキャット…!」

 

 シディーがその姿を見て、ワルキューレの部隊であると口にした。

 全員が女性であり、市街戦迷彩の装備を身に着け、武器はブルパップ式のアサルトライフルであるL85A2突撃銃や、軽機関銃のFNミニミが握られていた。他にはステアーAUGであったり、AR15のカナダモデル、C7A1突撃銃を持った者もチラホラ見える。

 暗視装置でも持って来てないのであろうか、銃身に付けたライトの灯りを頼りに周囲に漂う悪臭を耐えつつ道を進んでいる。

 どうやら、街の中央はワルキューレの手に落ちてしまっているようだ。彼女らがここを通って来たのは、そうとしか思えない。

 その敵兵等の集団を見て、慌ててそこから飛び出そうとするシディーをハーケンは抑える。ここを通る集団は少人数では無く、中隊規模のようで、二列横隊を組んで悪臭漂う道の辺りを警戒しつつ進む。彼女らが完全に通り過ぎたのは、身を隠して二十分後であった。

 

「あれで、向こう側はパニックだな」

 

「ママ…」

 

 その集団を見て、中央側は完全に制圧された物であると分かれば、シディーは自分の母の身を案じつつ、死臭で溢れるこの道を進んだ。

 

 

 

「クソッ、瓦礫で防がれてるな」

 

「艦長、さっきの連中が入って来たとされるもんがありまする」

 

「OK、早く出よう」

 

 死臭で満たされた薄暗い通路を進む中、街の中央部へと続く道が戦闘の所為なのか、瓦礫で防がれているため、先ほどの集団がここに入った際に使った出入り口を通って外へ出ようとする。

 だが、中隊規模の部隊が通っているので、見張りが居ないと変わりないので、まずはハーケンが外の様子を確認するために、頭だけを出して辺りを見渡す。周囲にはワルキューレの歩兵が数名ほど居たが、誰もここを見張るものは居らず、戦場となってあちらこちらに煙が上がる街の中心部を眺めているだけだ。

 そんな彼女らの目を盗んで、ハーケンは無言のハンドサインで「こっそりと出てこい」と指示を出し、彼女らが気付く前に、その場所から離れる。離れた直後に、誰か気付いてないか確認して居ないことを確認すれば、ガスマスクを捨ててから息を整える。

 

「ふぅ、なんとか排水管みたいな場所を通り抜けたな」

 

「わぁ…滅茶苦茶臭う…」

 

「臭過ぎで、鼻が利かねぇ」

 

 ハーケンが閉じていた口を開けば、シディーは服に染みついた死臭を気にし、ヴァンは鼻をつまんで臭いを消そうと努力する。マリとアシェンと言えば、持ち込んだ無臭用の香水を振り掛けていた。

 

「アシェン、スプレーを」

 

「了解でやんす。無臭ダ」

 

 それを見たハーケンが、自分等にも掛けるように指示すれば、アシェンはそれに応じて謎の台詞を吐きつつ、無臭用香水のスプレーを彼らに振り掛ける。

 

「ちょっと臭わなくなったかも」

 

「まぁ、臭いで感づかれることは無かったな。あそこの近くの連中は、鼻がバカになってたから気付かれなかったかもしれんが。行くか」

 

 臭いがマシになれば、一行は再び街の中央へと向かう。シディーの携帯端末機は捨てて破壊してしまったので、コンパスと避難所で失敬した地図を頼りに街の中心部へ向かうルートを確認する。

 

「街の中心部に向かう最先端のルートは…」

 

「この近くにある橋でヤンスね。おい、調味料ジャンキー、偵察に行ってこい」

 

 ハーケンが片手にコンパスを持ちながら地図を見れば、アシェンが的確に現在地の近くにある橋を指差し、橋がどうなっているかどうかヴァンに確認するよう命令する。

 

「なんで俺なんだよ」

 

「良いから行け、犬。お前は視覚と嗅覚が人並み外れた超人だ。そんな物はたやすい事だろう」

 

「けっ、行ってやるよ」

 

 これに少しばかり口論となったが、ヴァンは苛立ちながらも瓦礫だらけの道を通りながら、橋の偵察へと向かった。

 それから数分くらいして、ヴァンが偵察より戻って来た。

 

「で、どうだい。橋の様子は?」

 

「連邦軍の軍服を着た連中で溢れてる。それから街を出ようとする避難民がいっぱい通ってる。逆側は連邦の兵隊と車両でいっぱいだ。それに、[[rb:機動兵器 > ヨロイ]]が何体か居る。亀とか犬見てぇなのも居る」

 

 偵察より戻ったヴァンの報告で、ハーケンは即座に機動兵器を保有する連邦軍の部隊が近くの橋を占拠していると判断した。

 

「完全に抑えてるって感じだな」

 

「どうしやす、強行突破でもしますか?」

 

「今の俺たちにはPTは無い。ここは、波に逆らってみようぜ」

 

 アシェンが前回と同じく強行突破をするのかと問えば、ハーケンはPTを持っていないので却下し、普通に行こうと決める。

 瓦礫だらけの通りを抜け、橋の近くまで来れば、向こう側はゾイドと呼ばれる機械生命体の機動兵器や軍用車で溢れ、こちら側は避難民と車で溢れかえっていた。逆に進もうとすれば、まず流されてしまう事は確実だ。本当にあの人の波に逆らうのかと、シディーは言い出したハーケンに問い詰める。

 

「あの中に行くの!?」

 

「あぁ、行くぜ。しっかりと手を掴んでおけよ」

 

「わ、私はまだ心の準備が!」

 

 シディーの問いにハーケンは自信満々に答えれば、彼女の手を取って意気揚々と人の波へと真っ向から挑む。アシェンもヴァンも、ハーケンと同じく真っ向から挑んでいる。マリはその中に入り込むのは嫌だったのか、橋側に行って進んでいた。

 

「おい、あれ…!」

 

「ペリカンだぞ!」

 

 そんな人の津波に真っ向から挑んだハーケンたちの上空より、UNSCの全軍で運用されているペリカンと呼ばれる77型降下艇が現れた。

 

「おい、この辺にUNSCの戦区なんてあったか?」

 

「んなもん聞いてねぇよ! とにかく邪魔だ! どっかに行かせろ!!」

 

 流石の橋を陣取る連邦軍の将兵や憲兵たちも、これには予想外なのか、無線でそこから離れるように怒鳴り付ける。乗っている男はそれに耳を貸すことは無い。乗っているのはあのキズラー警察署長だからだ。

 

『見付けたぞ! この犯罪者共め! あいつです! あいつ等、能力者です!!』

 

『おい! どっか行け! 何の用だ!?』

 

 後部ハッチから短機関銃を持ったキズラーが現れ、ハーケンらを見付けば、隣に立つ男、それもサイキックハンターの指揮官に、彼らが能力者であると言っていた。

 そんな余計な連中を追い払おうと、連邦軍の将校は拡声器で追い張ろうとしたが、聞く耳を持たない。優先権は我々にあると、サイキックハンターの指揮官は現場の指揮官に恫喝に近い声量で告げる。

 

『優先権は我々サイキックハンターにある! よって当任務よりも能力者捕獲、または殺害を優先せよ!!』

 

『ふざけるな! この橋を守ってるのは俺たちなんだぞ!!』

 

『黙れ! 指揮権は我々にある! 直ちに避難民に紛れた能力者共を…』

 

 

 

『敵機だぁ!!』

 

『っ!?』

 

 現場の指揮官に今の任務を放棄し、ハーケンらを捕獲、または殺害を強要するサイキックハンターの指揮官であったが、前線に居る将校がそれを承諾するはずが無く、怒号で返されて拒否される。

 お構いなしに、サイキックハンターの指揮官は直ぐに指令を実行するように持っている拳銃で脅そうとしたが、遂にこの橋にもワルキューレの部隊が強襲しに来た。

 対空機銃砲についている兵士が指差しながら叫んだ方向には、ワルキューレが保有している独自のエンジンで動くMSであるジンクスⅣ二機に、可変戦闘機のVF-25メサイアよりも上位機種であるVF-31ジークフリート、数ある種類の一つである制空戦闘機タイプであるJ型が単機で強襲を仕掛けて来る。

 

『う、うわぁぁぁ!!』

 

「ば、バカ! 撃つな!!」

 

 亀型の小型ゾイド、カノントータスに乗るパイロットが、高速で向かって来る高性能制空戦闘機タイプに向け、背中の主砲で撃ち落そうと叫びながら撃とうとする。

 それを止める将校であるが、恐怖に覚えるパイロットには聞こえず、強力な主砲が発射された。砲声は凄まじく、近くに居た者達の鼓膜が破れ、みんなが両手で耳を抑えてうめき声を上げる。その余波は少し離れた距離に居る者達にも響き渡り、ハーケンらも砲声と言う名の音波兵器を受けて避難民たちと一緒に耳を抑えた。

 

「敵機だ! 撃ち落とせ!」

 

 低空飛行で向かって来るバルキリーに向け、士官が怒号を飛ばすが、対空機銃では捉えられる物では無く、ビーム式ガンポッドを撃たれて吹き飛ばされる。橋の警護についているGキャノンや地球連合軍のMSのダガーLも迎撃を行うも、ジンクスⅣ二機に赤いビームをコックピットや頭部に撃ち込まれて返り討ちにされた。

 

『な、なんで敵機が!?』

 

『た、退避しろ! 戦闘に巻き込まれるぞ!!』

 

 突然の敵機の強襲に、キズラーは慌てふためき、サイキックハンターの指揮官は戦闘に巻き込まれると思ってか、橋の味方を見捨てて自分等だけ逃げようとしたが、戦闘機のファイター形態より鳥人間のガウォーク形態に変形して両腕に装備されたミニガンポッドで二機の敵機を同時に撃破し、そして人型形態であるバトロイド形態に変形したVF-31Jに、乗っているペリカンを踏み付けられ、機内から振り落とされた。

 

「わぁぁぁ!!」

 

 機内より振り落とされた二人は、そのまま近くのゴミ収集車の上に落下する。落されたトマトのように潰れると思ったが、運が良かったのか、荷台に屋根の無いゴミ収集車であったため、二人は生ゴミだらけになっただけで済んだ。

 

「へっ、ざまみろ」

 

「いい気味だ」

 

 ゴミ山の上に落下した二人の様子を見ていたハーケンとヴァンは、虫が良くて慌てて抜け出そうとする二人に向けてそう吐き捨てる。だが、ここの連邦軍の部隊が避難民たちを守るはずが無く、あろうことか巻き込んで来たのだ。

 

「艦長! 連邦軍がこっちにも!」

 

「おいおい、それでも軍隊か!?」

 

 アシェンが知らせた頃にはもう遅く、たった二機の赤い粒子を撒き散らすMSに一方的にやられる連邦軍のMS部隊のうち一機が、避難民の列に突っ込んで来たのだ。

 他には一機の高性能バルキリーに蹂躙される連邦軍の車両部隊から逃げ出して来た搭乗員たちは避難民に向けて殺到してくる。物の数秒ほどで兵士と市民とのもみ合いとなり、橋から落下する者が続出する。

 これを抑えようと、VF-31Jのパイロットは、ブーメラン型の小型無人機を数機ほど展開して、ワルキューレは市民を攻撃する意思は無いと告げる。

 

『落ち着いてください。我々ワルキューレは貴方がた市民に一切の気概は加えたりしません。落ち着いて最寄りの避難所に向かってください』

 

 その無人機の拡声器より発せられる声は、とても清らかな女性の声であったが、誰も耳を貸す者など居なかった。

 

「きゃっ!?」

 

 死の恐怖で逃れようとする兵士たちに押され、橋の辺りで中心側に渡ろうとしたマリは、押し寄せて来た避難民に押されて川へと落ちてしまった。

 

「わっ、ちょ、ちょっと!?」

 

「シディー! おい、退いてくれ!!」

 

 シディーもまた、川に落ちるとは行かなかったものの、中心側に逃げる集団に呑み込まれてハーケンらと逸れてしまう。必死に追おうとするハーケンとアシェン、ヴァンであるが、彼らも反対側に逃げる集団に呑み込まれてしまい、シディーから離されてしまった。

 その後、避難民を巻き込んでの戦闘は続いたが、赤く発光して高速で動き回るジンクスⅣや、VF-31Jに街の警護についていた連邦の機動兵器は一掃され、後からやって来たワルキューレの歩兵部隊に、残って居る連邦軍の将兵達は投降して戦闘は終了した。

 

 

 

「クソッ、シディーが向こう側に…」

 

 戦闘が終わった後、中心側へと流されたシディーの身を心配するハーケンであるが、心配は自分の方をした方が良いとアシェンに言われる。

 

「艦長、そっちもそれどころじゃ無いようです」

 

「おっと、マジか…」

 

 橋の上に居るハーケン、アシェン、ヴァンに、ワルキューレの歩兵部隊が手にしている銃の銃口を向けていた。逃げられると言うか、逃がさないように背後にも数名ほど古いライフルを手にし、それに似合う装備をした皿型のヘルメットを被った女兵士たちが居るので、逃げようにも逃げられなかった。

 

「どうすんだ? これじゃあ動きようがねぇ」

 

「まぁ、待て。ここはプランBで…」

 

「んなもんねぇです、艦長」

 

「あぁ…くそ」

 

 ヴァンにどう対処するかと問われれば、適当に思い付いたプランBでやろうとしたが、そんな物は無いとアシェンに言われた。だが、その手を使わずとも、拘束は免れそうだった。

 

「中尉、川に落ちた女の人が…」

 

「えっ、何?」

 

 ハーケンらを捕らえた黒いベレー帽を被った歩兵部隊の女指揮官の元へ、年若い迷彩カバーを付けた皿型のヘルメットを被る女性兵士が報告に来る。それを聞いた女性指揮官は、ハーケンらに古い小銃や短機関銃を向けていた兵士らに、銃口を下げるように無言で指示を出す。

 

「おいおい、どういう風の吹き回しだ?」

 

 兵士たちからの銃口を下げられ、驚いた声を上げたハーケンの視線に映っていたのは、ワルキューレの将兵らを従わせるマリの姿であった。

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