スーパーロボット大戦OG 無限のフロンティア 異世界からの依頼者 作:ダス・ライヒ
「地上はどうなっている?」
「はっ、既にほぼ制圧済みであります!」
一方で、宇宙に居る連邦軍の駐屯艦隊を完全に周辺宙域より駆逐したゼンガーらのワルキューレの宇宙艦隊は、軌道エレベーター内部に入り、更なる残敵の駆逐を行っていた。
余りにも大き過ぎるダイゼンガーとアウセンザイターを艦艇用ドックに、戦友であるゼンガーと共に入れ込んだレーツェルは、近くでドック内の連邦軍の物資を自分が属する艦艇に運んでいる兵士に、地上の制圧はどう進んでいるか問う。
彼は地上から聞いた戦況をそのままそっくり自分より階級が遥か上、それも大佐であるレーツェルに報告してから物資を自分の母艦に向けて運び込む。
「既に制圧済みか。ゼンガー、地上での戦い、我々の出番は無さそうだぞ」
「ふむ、地上での戦いでは我らは無用か。だが、もしもの時がある。俺は地上へ降りるぞ」
地上の戦況を聞いて、一個機甲軍規模の戦闘力を持つゼンガーとアウセンザイターを駆る自分等の出番は無いと、隣に立つゼンガーに告げる。
だが、もしもの時があるので、その為にゼンガーは地上へと降りるとレーツェルに告げれば、彼はそれに同調する。
「確かに。地上の制圧と言っても、一つの大都市だけだ。連邦は惑星にまだかなりの地上戦力を残している。それらが大挙して押し寄せれば、一個機甲軍くらいの戦力しかない下の部隊は踏み潰されることは確実だな。宇宙は私のアウセンザイターと、アガサやメイソン騎士団だけで十分だ。ある程度の艦艇が揃うまでは連邦は仕掛けては来ないだろう。行って良いぞ」
地上における連邦軍は、まだかなりの戦力を持っているので、地上の味方部隊だけでは持ちこたえられない。
そう判断したゼンガーに、レーツェルは的確な考えであると評価する。
ゼンガーがダイゼンガーと共に地上に加勢に向かった所で、宇宙には彼のアウセンザイターを初めとする強力な兵器がまだ残っている。早い話、ダイゼンガーは余りに余分過ぎるのだ。
「済まんな、エルザム、いや、レーツェル」
「何、そのまま地上に居る連邦軍部隊全てを潰しても構わんと言う事さ。私は宇宙の部隊を貰うがな」
「ほぅ、随分と自信があるな。では、行って参るぞ」
「あぁ、宇宙は任せておけ」
そうレーツェルと冗談を交わしながら、ゼンガーはダイゼンガーに乗り込み、地上の部隊へと加勢に向かった。
「あぁ…みんなと逸れちゃった…」
橋の戦闘の所為で、マリとハーケンたちと逸れてしまったシディーは、一人街の中心部に行ってしまったことで、不安になっていた。
戦闘から逃れるため、他の避難民らと共に橋から離れたが、夢中になって、更に中心部へと向かってしまったようだ。橋へ戻ろうにも、撃墜された連邦軍のMSが戻り道を塞いで戻れなくなっている。前に進むしか道は無い。
『わぁぁぁ! ママぁ! 死にたくないよぉ!!』
「こんなことで泣くもんですか…」
街の中心部に近付いた所で、銃声や爆音がはっきりと聞こえ、遠くから瀕死の兵士の叫び声が聞こえて来たが、ここで臆しては、母は助けられないので、シディーは勇気を振り絞って、街の中心部へと向かう。
かなりの激戦区であるため、双方の兵士の叫び声が聞こえて来る。
シディーら統合連邦市民等が話すアメリカ英語は連邦軍で、英国訛りの英語を喋っているのがワルキューレだ。
英国訛りの英語が進行方向より聞こえて来たので、シディーは直ぐに物陰へと隠れる。こんな状況なので、いつ撃たれるか分かったもんじゃない。
「に、人数は…いっぱい居るわね…しかも、大昔の世界大戦の戦争映画みたいな格好じゃない…」
身を隠している場所から、約一個小隊規模のワルキューレの歩兵部隊を見て、シディーはこの場に似合わない装備だと小声で呟いた。
彼女らの個人装備は、遥か先の装備を誇る連邦軍相手にするのは無理がある物だった。
第二次世界大戦後期に使用されたリーエンフィールドライフルのモデルであるNo4や、大量生産型ステン短機関銃の安定モデルであるMkⅤ、軽機関銃は同じく大戦中で運用されていたブレン・ガンだ。対戦車火器は唖然と言っても過言では無いピアット対戦車榴弾発射器だ。個人装備も、それに似合う物ばかりである。
これで最先端の装備の軍隊と戦えと言うのは無理な話だが、連邦軍の歩兵の質は恐ろしく劣る物であり、この装備でも十分に対処できてしまうほどだ。
「死ねぇ!
大戦中の陣形に則り、歩きながら前進する彼女らの頭上より、本隊より逸れたであろう迷子兵が窓から飛び出し、手にしている分隊支援火器タイプの軽機関銃を乱射した。その軽機関銃はかなりの連射力を誇っており、道路を歩いていた旧式装備の彼女らは次々と薙ぎ倒され、ある者は足を電気ノコギリのような連射力で引き裂かれる。
「わぁぁぁ…!」
近くから聞こえる凄まじい銃声にシディーは震え上がり、両耳を抑えて早くこの銃撃戦が終わってほしいと身を隠している場所から祈る。
彼女が振るえている間、ワルキューレの歩兵部隊は三階辺りから来る銃撃を避けるために散らばり、それぞれの遮蔽物から近くの三階の窓から機関銃を撃つ連邦軍の迷子兵に向けて手にしている銃を撃ち始める。
銃の性能差は、迷子兵が持っているライトマシンガンが勝っているようだが、数の差は旧式の小火器を使うワルキューレに分がある。これにより、一瞬にして迷子兵はハチの巣にされた。
「このアマぁ!!」
他にも迷子兵がワルキューレの歩兵部隊から見て右手のビル二階より出て来たが、持っているのはブルパップ式のアサルトライフルであり、撃つ前に叫んだがため、勘の鋭い女兵士が持つ、リーエンフィールドNo4の銃弾を胸に撃ち込まれ、そこから転げ落ちる。
銃声が止んだ頃には、足を引き裂かれた女兵士の悲痛な叫び声だけが響き渡るだけだった。他には血を吹き出しながら、苦しむ者も見える。そんな彼女らに対し、衛生兵らが応急処置を行う。
「今がチャンス…?」
女兵士らの注意が負傷兵や戦死者の認識票に向いているのを、物陰から確認すれば、シディーは素早くそこから離れる。
「っ!?」
向こうまでに通り過ぎた瞬間、警戒している小銃兵がシディーの足音を聞き取ってその方向へと銃口を向けたが、そこに彼女は居らず、小銃兵は気のせいだと思って再び周りの警戒を始めた。
「うわぁ…ワイルドキャットが直ぐそこに来てるって言うのに…」
小競り合いが乱発している通りを抜け、川沿いにあるカジノ辺りまで来たシディーであったが、そこに彼女を待ち受けていたのは、火事場泥棒を働く市民たちであった。
彼女の言う通り、直ぐそこにワルキューレの部隊が展開しており、連邦軍と交戦しているのだが、戦闘に乗じて火事場泥棒を働く者達には、戦闘がここまで広がるまでが勝負だと思っているようだ。
中には銃を持っている者も居り、それで金品を脅し取ったり、金庫の鍵を撃ってこじ開けたりしている。それはまるで、この世の終わりの光景のようだった。
「動いているATMは…あった!」
母との連絡を取る為、シディーは略奪者達の目線を潜り抜けながらまだ無事なATMに近付いたが、近くに数名ほどの銃を持った略奪者が居たので、迂闊に飛び出せばハチの巣にされるのは確実だ。
そこでシディーは落ちている携帯を拾い上げ、街のシステム全般を管理するエイジャに連絡を取り、パトカーのサイレンを鳴らすように指示を出す。
「エイジャ、聞こえてる。パトカーのサイレンよ」
彼女がエイジャに命じれば、AIはそれを即座に実行した。
『さ、サツだ!』
『畜生、逃げるぞ! こんな所でしょっ引かれてたまるか!!』
パトカーのサイレン音を聞いた略奪者たちは、蜘蛛の子散らすようにカジノの周辺から逃げ出していく。その隙を見て、シディーはATMに近付き、母に連絡を取るようにエイジャに命じる。
「エイジャ、直ぐにママに連絡して。大至急よ!」
『タッチパネルに手を添えて…』
『シディー、大丈夫? さっきのお友達は…逃げたのね!』
エイジャは直ぐにシディーの指示に応じて母に連絡を取った。娘からの連絡を受けた母は即座に出て、シディーが無事かどうか問う。画面に映る彼女の背後に、マリやハーケンの姿が無かったため、母であるプローディネンス博士は娘を置いて逃げたと判断した。
「違うわ! 逸れただけよ! それより、ママの方は大丈夫なの?」
『えぇ、こっちは大丈夫よ。ここには手を出して来ない。それと貴方に朗報よ、ワイルドキャットは私たち市民を攻撃しないわ。むしろ攻撃しているように見えるのは、連邦軍の所為よ』
マリとハーケンらが逃げ出してないと断言すれば、そちらは無事なのかを問う。プローディネンスは背後に目をやってから、ここは大丈夫だと答え、ワルキューレが市民を攻撃しないと娘に朗報を伝える。そして、市民や街に被害をもたらしているのは、連邦軍であると強調した。
「確かに、まるでド素人みたいに戦果を広げて街や市民に被害を出してるわ。今もそう」
それを聞いたシディーは、街の被害を顧みずに未だに戦闘を続ける空の連邦軍機を見て、連邦の放送は全てプロパガンダであったことを理解し、その様子を発掘現場に居る母親に報告する。
『私が居た頃とは大違いね…兎に角、連邦軍の部隊とは会わない方が良いわ。あいつ等と一緒に行動したら、ワイルドキャットに撃たれることは間違いなしよ。それに子供を盾にして街を逃げ出そうとする部隊まで居るから…』
「嘘…!? 子供を盾に? 流石にそんなことをするわけ…」
『これがその証拠よ』
それを聞いてか、今の連邦軍を見て落胆した後、シディーに連邦の部隊とは共に行動しないように告げてから、子供を盾にして街から出ようとする連邦軍の部隊が居る事も告げる。
これに、流石に信じられないシディーは、疑問の声を上げるが、母親が見せた証拠の映像を見て、驚きの余り絶句する。
映像に映っていたのは、母親より奪った幼い子供を両手に抱き抱え、子供を高く上げて上空を飛び回るワルキューレのバルキリー隊に見せびらかして逃げようとする連邦軍の歩兵であった。
「私って…そんな軍隊に入隊しようとしてたなんて…」
『これで分かったでしょ。あんな軍隊に入るくらいなら、農業やるか、工場で働いていた方がマシよ。政治を自分たちの思うままにしたいように、徴兵を受けなきゃ投票権も無い上に政治家にもなれない。とんだ腐った連中だわ。それと貴方は早くここから…』
憧れていた連邦軍の本当の姿を見て、シディーはもう絶望するしか無かった。それを見ていた母親は、娘が軍に入るのを完全に考え直したと思い、この街から逃げ出すように告げようとしたが、シディーは曲げる気は無かったようだ。
「いいえ、ママを迎えに行くわ、絶対にね。それと連邦兵にタグを付けておかないと」
『曲げる気は無いのね。街に居る連邦兵全員にマークね。良い考えね、これで生存率は挙がる。こういうのを思い付くなんて、私が見ない間に賢くなっちゃったようね』
「えぇ、ママに張り合おうと、私もそれなりに勉強してきたから」
娘の思わぬ成長ぶりに、母は少しばかり感動を覚えた。
『ごめんね、いつも忙しさにかまけて、エイジャに任せっきりで面倒みられなくて』
「良いのよ、今は過ぎたことだし。それに、ママが頑張ってくれてるおかげで…」
「嬢ちゃん、パトカーのサイレンとはよく考えたね」
誤って来る母に、シディーはそのおかげで今の自分があることを告げようとした瞬間、散弾銃を持った老婆が背後より現れた。
『直ぐに離れなさい!』
「そう、ATMの画面に映ってるあんたのママだかなんだか知らない女の言う通りにしな。じゃなきゃ、こいつであんたの賢いオツムを吹っ飛ばすよ」
「お、おばさん。今がどんな状況か、分かって?」
銃を持った老婆を見たプローディネンスは、直ぐにシディーにATMから離れるように叫んだ。それを聞いてか、老婆は母の言う通りにした方が良いと、シディーに散弾銃の銃口を突き付けながら脅しを掛ける。
これに怯まずに今がどんな状況なのか理解しているかと問うシディーであったが、今の老婆の頭には金の事しか無く、散弾銃のポンプを引いて空薬莢を排出して新しい弾を薬室へと入れ込めば、天井へ銃口を向けて引き金を引いて威嚇射撃を行う。
「こいつが聞こえなかったのかい、お嬢ちゃん? あたしゃメガミ人共がここを治めてた時代から二十五年も金庫に金を治めてたんだい! 今が御引き出しの時だってね! さぁ、貯金箱を割るよ!」
「ヒィィィ!? 分かりました!!」
老婆が本気であると、その目を見て理解したシディーは、直ぐに老婆の前から退き、近くの倒れている物に身を隠す。
「出せっ! 私が収めてた金全部!!」
『現金を引き出す際には、カードと通帳を挿入し、番号を入力してください』
「出せって言うのが分からないのかい!? このポンコツが!!」
「出しなさい! エイジャ! 撃ちかねないわ!!」
ATMに近付いた老婆は、手にしている散弾銃を向けて今まで自分が収めて来た金を全部出すように要求したが、映っているプローディネンス博士の映像は途切れ、いつものATMの物に変わり、銃口を向けられようが、いつもの接客を行う音声を流すばかりだった。
これに腹を立てたのか、老婆は散弾銃を撃とうとする。流石に母親との通信手段を破壊されては困るのか、シディーは金庫の中にある金を全て吐き出すように叫ぶ。
「おぉ…ジャックポッドだ…大当たりだよ!!」
その指示に何の疑いも無く、エイジャは管理しているATMから紙幣や貨幣を吐き出し始めた。それを見て、老婆は感激しておそらく他人の物でもある紙幣をかき集め、掛けている鞄に突っ込んでいく。
『直ぐに略奪を止めなさい! 止めない場合は即座に射殺します!!』
「やべっ! ワイルドキャットだ!!」
「逃げろ! 婆さんなんかほっておけ!」
ATMから金が次々と吐き出される中、ワルキューレの歩兵と戦車の部隊がカジノ前に現れ、略奪者達に略奪を止めるよう英国訛りのある英語で警告した。それを聞いて残って居る略奪者たちは逃げ出し始めたが、老婆は目前の金に目を奪われてワルキューレが来たことに気付いて無いようだ。
『そこの御婆さん! 直ちに略奪行為を止めなさい!』
「あぁ、ワイルドキャットが…おばさん、直ぐにそこから…」
「なんだい、あんた等は!? これは私の金だよ! アンタ等のもんじゃないよ!!」
老婆以外の略奪者は全てカジノより逃げ去ったので、ワルキューレの将校は拡声器で老婆に略奪行為を告げるが、彼女は自分の金を奪い取りに来た者達と判断して、無数の将兵らに向けて散弾銃の銃口を向けた。その結果は、ご覧の通りの末路だ。
「っ!? 撃てぇ!」
散弾銃を向けたので、ワルキューレの将兵らはそれを敵対行為とみなし、無数の銃口が火を噴いた。
「ぎやぁぁぁ!!」
無数の銃弾を浴びた老婆は、その場に血を吹き出しながら倒れ込む。
老婆がまだ動いているのを確認すれば、指揮官はハンドサインで四名ほどの小銃兵と一人のステン短機関銃を持つ兵士に指示を出し、老婆の元へ向かわせる。残りの者達は、周囲を警戒するか、カジノへ向け、持っている銃を向ける。
「こ、このアパズレ共め…そいつは、あたしの金…ぐぇ!」
あれだけ撃たれたのにも関わらず、まだ息のある老婆は自分の生死を確認しに来た女兵士の一人の脚を掴んだ。この瞬間に、女兵士が持っている小銃の銃剣を突き刺され、息絶える。
完全に死んでいるかどうか、脈を確認して、動いて無い事を分かれば、ハンドサインで死んだと指揮官に報告する。
「撤収!」
それを確認した長い黒髪を束ね、その上に赤いベレー帽を被り、軍服の上からでも見る胸のサイズがこの場に居る女兵士たちの誰よりも大きく、青い瞳を持つ女性指揮官は、指揮下の部隊に外で待機している車両部隊に戻るように指示を出す。
『シディー、大丈夫?』
「っ!?」
「今まではね!」
戻ろうとした瞬間に、娘を心配するプローディネンスの声が聞こえて来たので、それに驚いて古過ぎる装備の女兵士たちは一斉に撃ち始めた。
「きゃぁぁぁ!!」
自分を隠れている場所に無数の銃弾が撃ち込まれたので、恐怖の余り、思わずシディーは叫んでしまう。
「撃ち方止め! 撃ち方止め!!」
百発以上の銃弾が撃ち込まれた後、指揮官はハンドサインを出しながら撃つのを止めるように大声で指示を出す。
それを見た女兵士たちは、今撃っている分の弾丸を撃ち尽くせば、撃つのを止めて再装填を始める。体勢を低くし、右足の膝を道路の上に付けた巨乳の女性指揮官は額に汗を浸らせつつ、短機関銃を持つ兵士数名に自分についてくるように指示を出し、声がした方向へ向かう。
何か撃ち殺してないか調べるためだ。それに応じた短機関銃を持つ女兵士数名は、自分等とは違うM1A1トンプソン短機関銃を持つ巨乳の指揮官の後へ続く。一人、手に手榴弾を手にしている者が居り、それでも投げ込まれたらシディーは一貫の終わりだ。
「ハロー? ハロー!?」
指揮官は銃を抱えつつ、辺りに向けて声を掛ける。この瞬間にシディーの近くまで来たため、彼女は物陰で震える少女に声を掛けた。
「大丈夫?」
「ヒッ、こ、殺さないで…!」
無事を問うてくる女性指揮官に対し、シディーは命乞いを始めたが、彼女らは無駄に市民に向けて撃つ弾は無かったようだ。
銃に安全装置を掛け、シディーの手を取って外に居る者達に付近の安全は確保されたことをハンドサインで知らせる。それを見てか、全員が安心して煙草を取り出すか、水筒の水を飲んでその場で小休止し始める。
「市民を撃たないってのは、本当らしいわね…」
目前に映るワルキューレの兵士等を見て、シディーはホッとして胸を下ろした。そんな彼女に対し、女性指揮官は地図を持った中隊長を呼んで来る。
「あの、ここは何所か分かる?」
「えっ? あぁ…この通りですか? それならあっちが近道です」
用は道を聞きたかったようだ。
随分とアナログな方法でルートを辿るワルキューレに驚きながらも、用意されたジュースで喉を潤しつつ、敵軍に連邦軍の基地への近道を嘘偽りなく教える。普通なら申し訳ない気持ちになりそうだが、守るべく市民を巻き添えにする軍隊に、彼女はなんの同情も抱かず、自分ら民間人を攻撃しないワルキューレに道を丁寧に教えた。
「ありがとう。じゃあ、お礼にこれ」
「え、えぇ…ありがと…」
道を教えてくれたシディーに、車両部隊の隊長は、お礼にチョコを彼女に渡せば、自分の部隊を率いて目的地へと向かう。そんな女だらけの軍隊を、シディーはただ呆然と見ているだけだった。
ワルキューレの部隊に道を教え、その礼としてチョコレートを貰ったシディーの元に、逸れたマリとハーケンらが、何処かで調達したのか、宅配会社のトラックで現れた。運転席に居るハーケンは、シディーを見付けるなり、愉快に声を掛けて来る。
「よう、迷子ガール! 探したぜ!」
「あ、あんた達!? 橋を渡って来たの!?」
「あぁ、俺の依頼者が攻め側のガールズ&アーミーズと顔見知りだったようでな。おかげさまで橋を無料で渡れたぜ」
どうやって橋を渡れたのかを問えば、マリがワルキューレと関係していて、そのおかげで橋を渡れたとハーケンは答えた。
「そのトラックは?」
「さぁ、乗りな。詳しい事は乗ってから話そう」
シディーの近くまでトラックを止めれば、トラックを何所で調達したのかを問う彼女に対し、ハーケンは乗ってから話すと答え、彼女を後部座席へ乗せた。
「おぅ、お前。無事だったか」
「小娘にしては、随分と運が良いな」
「そこは大丈夫かって言うところでしょ!?」
助手席にはアシェンが座り、自分の席の近くにはヴァンが座っている。他にマリがヴァンより離れた席に腰を下ろしていた。
逸れたシディーを見て、ヴァンが先に声を掛けて、アシェンが中々の運の良さと褒める。これに彼女は二人にツッコミを入れ込む。だが、そんなやり取りをしている場合では無いので、母親にハーケンらと合流できたことを直ぐに伝えるため、携帯の類は無いか問う。
「あぁ、そうだわ。携帯とかなんかを貸して。ママにあんた等と合流できたことを知らせないと」
「おっ、ママに報告かい? アシェン、ガールズアーミーズに貰った無線機を貸してやりな」
「良しなのです。ほれ、これでお前のママに連絡を取るが良い」
「え、えぇ。ありがと。どうやって使うの、これ?」
それを聞いて、ハーケンはアシェンにワルキューレより借りた無線機を貸すように告げた。その無線機は古い軍用の携帯型無線機であり、どうやって使うかシディーは頭を悩ませたが、マリが無言で扱い方を教えてくれた。
「…」
「あ、ありがと…」
無言で無線機の使い方を教えてくれたマリに礼を言えば、シディーは母親にアナログな方法で連絡を取る。発掘現場までは、その連絡方法にも対応しているエイジャが手伝ってくれたので、直ぐに母親との連絡が取れた。それと同時に、トラックが走り始める。
「あぁ、ママ。聞こえる?」
『えぇ、聞こえるわよ。公衆電話から連絡してきてるの?』
「いや、戦争映画とかで見る通信兵が背負ってる無線機とかでよ。ハーケンらと合流で来たわ」
『服装とか言動と共に変わった連中ね。これなら大丈夫そうだわ。更に安全性を高めるため、地下への道を教えるわよ。そこのキザな奴にも聞こえるように音を上げて』
心強い者達と合流できたことを母に報告すれば、プローディネンスはトラックを運転するハーケンにも聞こえるようにシディーに無線機の音を大きくするよう指示を出す。これに応じて受話器から耳を離せば、シディーはハーケンの耳の近くに受話器を向ける。
『発掘現場は地下を走る列車からでも行けるわ。ただし、路線は貨物列車用だけどね。それと今は知ってる場所だけど…』
地下鉄より発掘現場への行き方を注意して聞いていれば、プローディネンスは何所を走っているのかを問う。これにハーケンはカーナビを見るアシェンに何所を走っているのかを問えば、彼女はその区画を答える。
「六番街でごわす」
「六番街だ、マザー」
『六番街ね、なら近いわ。このまま戦闘に巻き込まれずに来てちょうだい。娘を巻き込めば、どうなるか分かっているわね?』
「心配ご無用ですよ、マザー。娘さんはちゃんと貴方の元へ送り届け、貴方共々街より脱出させてご覧に入れましょう」
『調子の良い事を言うわね。でも、貴方なら信頼できそうだわ。ちゃんとやってね』
「イエス、マム」
娘共々街より脱出させて見せる。
そう意気揚々と語るハーケンに、母は少し不安になりながらも、彼は信頼に値する人物だと、長年の勘で判断した。それから最後になるかもしれないので、ハーケンは受話器をシディーに返す。受話器を再び手に取ったシディーは、話すことが思い付かないのか、母に何所に避難しているのかを問う。
「あぁ、ママ。今はどの辺りに?」
『ラボよ。発掘現場の近くで交戦しているようだから、退避壕にもなるラボに避難したの』
「それなら安心ね。連邦の奴らがワルキューレを見るなりぶっ放したって、私たちが来るまで持ちこたえられそうだわ」
『えぇ、だからあなたは安心して…っ!? なんてこと…!』
「ママ、どうしたの!?」
最後の連絡になりそうなので、長めに話そうとしたシディーであったが、母の居るラボから凄い爆破音が聞こえ、彼女の絶望感に満ちた声が聞こえた。それを聞いて母の身に危険が及んだと察したシディーは、直ぐに何があったのかを問う。
『この付近で、連邦軍が反撃に出たみたいよ! それにその辺りに連邦軍の部隊が集中して激戦区になってる! 前言撤回よ、直ぐに退き返して、お友達と一緒に街から離れ…』
「えっ? ちょっと、ママ!? ママ! どうしたの!?」
敗走気味だった連邦軍が突然、反撃を行って来たので、発掘現場の上とシディーたちが居る辺りが激戦区になったと知らせる母であったが、娘にハーケンらと共に街を出るように告げたが、最後まで言い切る前に通信が途切れてしまう。
切れた通信に何度も呼び掛けるシディーであったが、雑音が聞こえて来るだけで母には連絡が付かない。
「通信が切れたようだな。何かあったのが妥当だろう」
「受話器から聞こえる声からして、連邦の奴らの気が変わって反撃出たって事だな。その証拠に戦闘の音が近付く度に大きくなりやがる」
途切れた無線に、アシェンはプローディネンスの身に何かあったと考え、ハーケンは目的地に近付くにつれて戦闘音がはっきりと聞こえて来ると告げる。
「だが、俺たちの目的地はそこだ。マムには悪いが、ここは敢えて行かせて貰うぜ」
このまま進めば、戦闘に巻き込まれることは確実だが、目的地はそこであるため、敢えてハーケンは前に進むため、アクセルを強く踏んだ。
プローディネンスの引き返せと言う言葉に従うことなく、目的地までトラックで突っ切ろうとしたハーケンたちであったが、やはり戦闘に巻き込まれてしまい、乗っていたトラックが流れ弾を受けて横転してしまう。
「OK、エブリワン。みんな、大丈夫か?」
横転した車内で、ハーケンは全員無事であるかどうかぶつけた頭を摩りながら問うた。
「俺は大丈夫だ。なんたって、頑丈だからな」
「艦長、私は無事でヤンスよ」
「イテテ、私は大丈夫」
「OK、無事だな。ブロンドのミステリアスは、横転する前に、脱出したようだ」
車内に居る全員の声を聴いた後、唯一の脱出口であるドアを蹴り開けたハーケンは、横転する前に脱出したマリの姿を見て、全員が無事であることを確認した。それから全員を横転したトラックの車内から出し、再び徒歩への移動を開始する。
「さて、これほどの激戦区、チキンランで駆けるとするか」
周囲に繰り広げられる戦闘を見つつ、ハーケンはこの中を突っ切ると全員に告げ、言い出しっぺの自分が先頭を走った。
「しっかり私に掴まれ、ぺったんこ娘」
「ちょっと、一言余計、わっ!?」
これに続き、アシェンはシディーを掴んで先を走るハーケンの後へ続く。
ヴァンも然り、改造された身体能力を駆使して流れ弾を避けつつ、ハーケンの後を追う。マリも同様に殿ではあるが、彼の後へ続いた。
途中、連邦軍のMS、Gキャノンが近くに巨大な両足を道路に着け、上空を飛び交うワルキューレのバルキリーに向け、背中のガトリング砲で対空射撃を行う。この際、大量の大きい空薬莢が逃げ回る市民たちに向けて排出され、流れ弾よりも酷い惨状を引き起こしていた。
一人の幼い我が子を抱いて逃げる母親の頭に、その巨大な空薬莢が当たり、彼女の命を奪ったのだ。この危険な空薬莢を市民に向けて排出し続ける機体に乗る連邦軍のパイロットは、それに気付かず、ずっと上空に居る敵機へ向けて対空射撃を続けている。
未だに死んだ母親に縋りつく幼い子供を放ってはおけなかったのか、マリは流れ弾や空薬莢、空から落ちて来る連邦軍機の残骸を躱しつつ、その子を母親より引き離す。
「もう死んでるから」
空薬莢を受けた頭部より未だに血を流している骸となった母に、マリは見開いた瞼を閉じ、その子供を連れてハーケンたちと合流する。
「おっと、クールなイメージだったが、優しいところがあるんだな」
子供を抱きながら合流したマリを見て、ハーケンは彼女に改めて内に秘めた優しさがあると分かる。
そんな激戦区の中を突っ切る一行の前に、戦争博物館が見えた。
「OK、一旦あそこで休憩と行こう!」
そうハーケンが言えば、一行は彼の後に続いて戦争博物館に退避しようとする。向かう前に、連邦軍のヘビーガンとGキャノン、重武装のスコープドック九機、それにサイドカーの助手席に立っている連邦軍将校に見付かってしまう。
「な、何者だ!? 貴様ら!!」
そう将校が叫べば、彼に随伴するスコープドックの携帯兵装を向けられる。
「おい! 今は俺たちにガンを向けている場合じゃ…」
歩兵やスコープドックに手にしている銃を向けられたハーケンは、敵にその銃口を向けろと言おうとしたが、この瞬間に戦争博物館の正門が破れ、そこから二度目の世界大戦時にソ連軍によって運用されていたT-34、それも戦後に更に多く生産された85mm砲塔型が出て来た。
キューボラから上半身を外へ出しているこの古い戦車を所有する博物館の館長は、目に見えるワルキューレ機に向け、戦車の長砲身を向けながら拡声器越しで告げる。
『おのれ、メガミ人共! この惑星を取り戻そうと贅沢な装備を持って帰って来たか! だが、このわしが居る限り、そうはさせん! 頼りない連邦軍に代わって、このわしがお前たちをこの星から叩き出してくれる!!』
「なんだ、あの戦車に乗ったディレクターは?」
意気揚々と正門を突き破って現れた戦車に乗る博物館の館長に、流石のハーケンも伏せて驚きは隠せなかった。
『食らえ! お前たちアパズレ共の戦車を葬り去った徹甲弾を!!』
拡声器を使って叫びながら、戦車の主砲を上空で連邦軍機を次々と撃ち落とすVF-25Sメサイアに向けて撃ち込んだが、撃ち込まれた徹甲弾は当たることなく、更に砲弾を撃った衝撃で砲身が爆発して撃てなくなる。
『ぬぁ!? なんで砲身が爆発するんだ!? この戦車は、半世紀近くも動く傑作戦車だぞ!? それに手入れだって…』
爆発した砲身を見て、博物館館長は半世紀近くも動くはずのT-34の砲身が爆発したのが理解できないでいた。
この原因は前の戦争での酷使における砲身寿命か、それとも経年劣化の影響なのかもしれないが、その間にあのVF-25Sの僚機の一般タイプのVF-25Aが背後より迫ってくる。博物館前に居た連邦軍機は、向かって来たVF-25を見て逃げ出し始めていたが、館長は気付いていないようだ。
「な、なんで閉まらないんだ?」
「うわぁぁぁ!!」
「おい! なんで逃げるんだ貴様ら!? 戻って…」
仕方なく、車内に戻ってから携帯型対戦車火器を取り出して肉薄しようとするが、キューボラのハッチは閉まらない。それどころか、背後より迫る敵機に怯えて乗員たちが逃げ出し始めた。これを止めようとした館長であったが、キューボラごと、バトロイド形態に変形したVF-25Aに蹴り飛ばされ、強い打撲で即死する。
「しめた、あの戦車を頂戴して目的地へ向かうか! 行くぞ!」
物陰に隠れて一部始終を見ていたハーケンは、あの誰も居なくなった戦車を借りて目的地へ向かうと決め、そこから飛び出して戦車へ向かう。
「OK、武装は全部排除だ。砲弾も弾薬も全部な。行け!」
「はいなのです、艦長。調味料ジャンキー、お前も来い。そこの雌豚もだ」
一気に走り抜けて戦車まで近付けば、車内に入って撃たれる要因となる武装や弾薬の類を捨てるようにハーケンが命じた。相変わらずの毒舌であるが、ツッコミを入れている場合では無いので、車内に飛び込んで武装や弾薬を車外へと放り出す。この様子を、シディーはマリが助けた幼い子供、それも男児を抱えながら見ていた。
「く、クソ…このままでは…ん、あれは…?」
少数のVF-25やVF-31などの高性能バルキリー相手に二個大隊規模の戦力がズタズタにされていくのを見て、連邦軍将校は自分も他の友軍機と共に駆逐されると思っていたが、男児を抱えるシディーを見て、悪魔のようなひらめきを浮かべた。
「来い!」
「ちょ、ちょっと何よ!?」
それが思い付いた将校は、即座に行動に移り、シディーと男児を無理やり掴む。子供を盾にして、この街から逃げ出そうと言うのだ。
「おい、てめぇら! 何してやがる!?」
『地面に伏せてろ!』
砲弾を纏めて捨てようとした時に、ヴァンは嫌がるシディーを無理やり掴んで盾にしようとする将兵達を見て、助けに行こうとした。
だが、ATの威嚇射撃を受けて防がれてしまう。煙が晴れた頃には、シディーのこめかみに拳銃の銃口を突き付ける将校の姿があった。それに、一機のATの高く挙げられた左手に男児が握られている。
「おいおい、これが軍隊のやり方か?」
「全員その場を動くな! それとワイルドキャットの奴らもだ!」
銃声に気付いて、ハーケンもその様子を見て連邦の卑劣なやり方に苛立ちを覚え、拳銃に手を掛けようとしたが、シディーに銃口を突き付けられていては手を出せない。
そんなハーケンたちに向けて大声で脅しを掛けつつ、地上や上空で味方機を次々と撃ち落とすワルキューレの部隊にも告げる。VF-25Sに乗る部隊指揮官が、自機をガウォーク形態へと変形させ、道路の上に着地させてからキャノピーを開け、拡声器を持って正規軍とは思えない行動に出た連邦軍に対しての抗議を行う。
『貴様ら! 子供を盾にするなど、正規軍のやる事か!』
子供を盾にして逃げようとする連邦軍部隊に対し、抗議するヘルメットの下にマスクをした指揮官であったが、これに将校は拳銃弾で返答する。
「うわっ!?」
「お前らは子供やここいらの市民を撃てないんだろ!? 解放する気も無い癖にな! 我々が街を出るまでは子供は解放しない! 完全に撤退するまで我々を見逃せ!!」
拳銃弾をヘルメットに受けてコックピットの中へ退散する敵の指揮官に、連邦軍将校は抗議に応じる気も無く、子供たちを解放させたければ、自分等の撤退を黙認しろと大声で告げる。
『子供を解放したければ、直ちに戦闘を中止し、我が軍全体の撤退を黙認せよ! 応じない場合は、子供を人質にしたまま貴官らを撃つ!』
「なんて無茶苦茶な連中だ。これが軍隊って奴か?」
これを復唱する他の連邦軍将校に対し、ハーケンは半ば呆れ気味となる。
強硬手段に出る連邦軍に対して、マリはシディーと男児を解放しようと、この場で効果的な魔法の詠唱を始めたが、その必要は空から来るある男のおかげで必要なかった。その男は、巨大なロボットに乗って上空より現れた。
『子供を人質に取るとは、軍隊の風上にも置けぬ!』
「おっと、この声は…!」
「あのもみ上げ野郎すっな」
「もみ上げ野郎…?」
拡声器越し聞こえたハーケンとアシェンには聞き覚えのある声、それに反応して、ヴァンは毒舌アンドロイドの発した言葉に疑問を抱いた。
「OK、ボスならなんとかしてくれそうだな」
声がした方向にあり、上空よりこのサジタリウスのモスバサシティに現れたのは、地上への加勢に向かったゼンガー・ゾンボルトのダイゼンガーであった。その巨大で圧倒的な戦闘力を持つロボットに乗る男を知るハーケンは、かの男ならこの状況を何とかしてくれると呟いた。