20××年
俺のバイト先は核のような炎につつまれてしまった。
なんでや…
実際にはガソリンスタンドの謎の爆発である。
さて、数分前まで深夜のアルバイトとして働いており、一人寂しく自分の誕生日を祝い、日付が変わると共に心の中でパーティがはじまる。 面白半分で百均にて購入した安物のクラッカーを鳴らした瞬間だ。
爆音と共に俺は盛大に祝われてしまう。
そして物理的に熱い思いをしながら爆発と気づいた。 えぇ…近くで聖杯戦争でも起こっているのだろうか? だとしたらまたガス会社のせいにされるらしい…なんて、呑気に考えていたら、人間なんざたやすく焼き尽くす勢いだったから声を発する暇も与えない無慈悲の中、長いこと勤めて砦と化したガソリンスタンドは光った。
自分以外誰もいなくて良かっただろ深夜。
親切に教えてくれた先輩達の顔が浮かんだ。 もちろんお客様の笑顔も忘れやしない。 クレーマーの対応など勤しんでいた仕事場。 辛かったが、眠気とだけ戦えば比較的のんびりと仕事できたのでそこまで苦痛でもなかった。
だがこの時間と思い出は燃やされる。
幸いなのは痛みもなかった事だろうか?
ガソリンスタンドの熱にて火葬されてく我が肉体に内心半笑い。
この砦と共に俺は朽ちて…いった。
チーン である。
…
…
帝国歴1170年
日本ではないここはフォドラと言われる大陸であり、優しい風の中で生まれた。
俺は天国に行かず第2の人生を歩んでいた。
転生って奴か? 本当にこんなこともあるんだなと思いながら、スクスクと育っていった。 しかし前世の死因がまさかガソリンスタンドの爆発。 そんでガソリンスタンドの中で俺の肉体と、手元にあった百均のクラッカーが盛大に火葬される始末。
しかもその日は俺の産まれた日であり、深夜の時間帯にも関わらず一人寂しく心の中で行った誕生日パーティがまさかの
やかましいわ。
さて、親孝行もまともにできなかった前世の呆気なさと情け無さを心の奥そこに仕舞い、今日もフォドラの清風を肺いっぱいに詰め込んだ。
それとこの世には貴族と平民を区別する社会構成が出来上がっていた。 俗に言う中世ヨーロッパとかあの辺りだ。 芋の存在が食糧危機を救った時代だね。 それでも歴史の勉強は苦手だから詳しくは無いけど…まぁいい。
とりあえず俺は貴族と平民のどちらかと言えば平民の人間だ。 そんでもって俺は旅をする『演劇団』に同行するお世話係の一家だ。 またはそれを旅団と呼ぶ。 それでその旅団の中で母親が身篭ったが、この演劇団と共にしたいようなので、その道中で俺は産まれた。
しかし母が俺を身ごもった時は相当大変だったらしい。 何せ母は万能だから人手的な意味で痛手だった。 それでもみんなから盛大に祝われたけどな。 俺が産まれた時は旅団の中でお祭り騒ぎだとか。 ただのお世話係にこんだけ祝われるとか愛されすぎて泣けるぜ。
「ユークリッド、手を貸してくれ」
「はーい」
親にも呼ばれたが俺は【ユークリッド】と名前を貰っている。
ファミリーネーム【ラライヤ】である。
だから"ユークリッド・ラライヤ"だ。
名前が古代ギリシャの数学者と同じだがそこまで賢いつもりはない。 前世のことも含めてそんな大層な脳みそも実績も無いので。
そんなこんなで元気よく生まれた俺は気づけば10才で、今宵もフォドラの清風は旅する演劇団を歓迎する。
帝国歴1174年
「さんすくみって知ってる?」
「なんの事を…うあっ!」
「…知らなそうだな」
すっかり慣れた演劇団の旅。 そんな俺は前世から引き継いだそこそこの知識面やそこそこの精神面が強くてニューゲームを満喫している。 いや、まさにこの世界がゲームの中である事を俺は自然と理解していた。
お陰でとある回答に至った中、戦略性を産むだろう"三すくみ"の理論がこの世界に無いとは思わなかった。
それってどうなってんだろう?
この世界の戦略性を奪うような要素だが…まぁそれはゲーム画面越しに楽しむ要素であり、
とりあえず三すくみの意味が無いことが分かったため、水色の髪をした貴族のやんちゃ小僧と軽く喧嘩していた。 三すくみが理論が無いならKO☆BU☆SHIで何とかする。 うん、やはり男はこうで無いとな。
「いいセンスだ」
「くっ…イテェェ…」
どこぞの伝説の傭兵っぽいセリフで勝利を描く。
あ、別に職業は傭兵じゃないし"平民"だぞ?
あれから四年経ったとしても職業的成長は無い、何も無ければこれから平民だろう。
それはともかく今日立ち向かってきた挑戦者はなかなか強かった。 それでもまだ愚直に振るう拳はまだ脅威でも無い。 前世は学生時代に武道で力を築いてきた事もあり、そして今世では演劇団の中で産まれ、演劇による身体捌きもお手の物。
こればかりは強くてニューゲームの醍醐味かな。
さらに言えばいい生活環境が俺を鍛えてくれた。 何せ重たいものは良く運ばされていたから自然と力が付いた。 しかしながら自身の成長はともかく、交流の浅さは寂しさを感じる。 旅団故に転々とするから遊べる友達はいない。 せいぜい旅団の中の子供達としか遊べない…と、言うよりかお守り的な意味で遊んであげてる立場だ。 別に嫌じゃないけど。
そんな訳で目の前のやんちゃ貴族っ子とも今だけの仲だろう。 後ろの眠そうな中性的な子ともだ。 まぁそう寂しくなることもない。 またそのうちこの街にも訪れる事になるだろうから、その時に会えばいい。
「ライブは疲れるから傷薬で治すぞ」
「へー、肉体系に関わらず魔法使えるんだー」
「リンハルト!そんなことはどうでもいい!」
そんな情けは要らねぇ!と傷薬による手当を拒むが、額をデコピンして黙らせる。 そして無理やり使って治した。 そんで後ろであくびする少年は些か非情だな。 興味がないと言うのだろうか?
ちなみになぜ喧嘩事になってるかと言うと、別に不穏な空気から勃発した喧嘩ではない。 やんちゃ貴族っ子が俺の噂を聞いてやってきたのだ。 やたら強いお世話係の少年がいると聞き、そして「喧嘩しようぜ!」と好戦的に挑まれる。
噂か…
この街に来たかばかりの頃、たまたま出会した複数の万引き犯を親父と一緒にぶっ飛ばした。 関わる気はなかったが正面から「退け!殺すぞ!」となんて言って突撃するものだから親父が軽くいなして、俺は足払いして、そのあとは親父とボコボコにした。
それでその話を聞いたやんちゃ小僧が俺に向かって喧嘩を申し込む。 喧嘩は中世では道楽だからこれが普通なんだろうが、少し慣れない。
そして相手は貴族の身分にも関わらず、若さゆえグイグイと来るその行動力に押されて断れなくなった。
まぁどうせ断ってもこの年(相手は恐らく10歳)ならしつこくなるだけだろうからお相手することを了承。
捻り倒すことを選んだ。
そして今に至る。
え? 貴族様にこんなことしても大丈夫かって? 相手はちゃんと選んでるよ。 まぁ確かに権力者をのして傷つけることは好ましくない。 下手したらこちらの意向関係無く相手側の内政的強さで捩伏られるだろう。
しかしだ。
この世界って強いやつは好まれる。
いや、正しくはココが"帝国"だからこそ実力主義による正当化はまかり通りやすいか? 弱者からすると怖い世の中だが。 そんでもってこのやんちゃ子はそう言った方面で有名な貴族の出であり、実力行使は問題ないと見た。
なのでお相手致したまで。
「負けたから明日の演劇見に来て金落とせよ」
「くっそ! 次こそは!」
「多分、聞いてないよ。 ふぁ〜、眠い…」
お子様には演劇よりも明日の勝利らしい。
さて……
1週間後はここを旅立って別の場所だ。
次向かう場所はミルディン大橋の近くにある領らしい。 そしてその村の近くで生まれた母の故郷があるらしく、旅団は来るべき冬はそこで越す予定らしい。 その前に街で金稼ぎだ。
しかし傭兵時代に独り立ちしていた母の故郷か…
そうそう俺の母なんだが、これがなかなかフットワークが軽い女性なんだけど、それに見合わず性格はほわほわしていて更に元ソードマスターと言う。
剣士じゃなくて、ソードマスターだぞ?
なんなんだこのアンバランスな設定は…
しかもその父親も"伝説"の傭兵と言うし。
あんたどこぞの蛇だよ。
なんでお世話係やってんの…?
え? 恋に落ちたことで殺伐とした世界から手を引き、人を殺めるのでは無く、人を支える喜びに目覚めた?
俺の親がロマンチスト過ぎる…
帝国歴1175年
演劇団の旅団はまだまだ健在であり、俺が生まれた時よりも一段と大きな演劇団になっている。 しかしこれで飯を食べてる訳だから人気を無くさぬよう皆は日々演劇の練習に励んでいた。 言葉巧みな語り手による練習声が薄っすら聴こえて心地よい。
しかし旅団はそんなに俺の脚本が楽しいか…?
脚本家の面白半分でやらされたから、前世の記憶を引っ張って、それで書いたに過ぎないのにね? 褒められるのは俺じゃなくて脚本を作った人達だろう。
そしてそんな俺は15歳となって青年と呼べる年には近づいていた。 それでも料理の腕前は母親に敵わず。 元ソードマスターだけあって刃の扱いに長けてるのか、包丁捌きは今になっても勝てない。
「ぐぬぬ、お袋の味が創り出せねぇ…」
「あらあら、うふふ」
ハイスペック過ぎる良妻はなかなか怖いことがよく分かった。 てか俺の母親は本当にどんだけ凄かったんだろう? 尋ねても「うふふ、過去の栄光よ」と誤魔化すし。 父親曰く100人斬りを容易く果たしたその剣を振るい続けていれば帝国最強の剣豪として名を馳せたかもしれないと言った。
マジかよ…こぇぇぇ…
全然想像できない。
「疲れた、休憩する…」
「うふふ、お疲れ様」
10年経っても母親の味を再現できない悔しさを背中に感じさせながら夜空を見上げて深呼吸。 しかしここはフォドラの清風が気持ちいい。 些か、血と鉄の匂いがするのはやはりグロンダーズ平原と呼ばれる聖地の近くにいるだけあり、そう言った風が流れて来るんだろう。
ちなみに旅団はグロンダーズ平原からそこそこ近くにある村に滞在している。 ここに来るのも二度目かな。 この旅団も有名なだけあって歓迎された。
「おや? ラライヤの子のユークリッドか。 子供がなに一丁前に黄昏てんだ」
「…」
「こんばんはジェラルトさん。 ……っと、ベレスもか」
「……ええ、こんばんは」
「悪いなユークリッド、相変わらず無愛想な娘で」
「お気になさらず。 同い年が旅して頑張ってる事が普通に嬉しいですよ、俺」
「らしいぞ、ベレス」
「ええ」
灰色の悪魔だっけ?
白でも無く、黒でも無く、色にこだわらず染まらず、そんな感じ。
でも決して悪い子ではないのは分かる。
しかしジェラルト傭兵団に歳近い子がいなくて苦労しただろうな。 子供は子供に触れて感情豊かになるのだから。 だから歳の近い俺との出会いに喜びのアクション起こしても良いはずだがねぇ? てか、ベレスって本当に歳幾つだ? ジェラルト自身も自分の歳と娘の歳も理解して無いらしい。 武器の手入れや紅茶の淹れ方は丁寧な癖にその他が大雑把過ぎる親に、この子有りか。
しかも俺の父親がジェラルトさんの事を"壊刃"として知っていて、そのジェラルトさんも俺の父親を"蛇"と知っている始末。 その上、俺の父親は蛇の名で伝説の傭兵として通して来たとその口で言うのだから驚きでしかない。 どこぞのカロリーメイトと段ボール箱をこよなく愛する傭兵の背景が重なって仕方ない……てかさ! お前ら二人は声が似てるから紛らわしいんだよ! あとやはり良い声してるなぁ!!
「そうだユークリッド、悪いがコイツに格闘戦を教えてやれないか?」
「え? どうしたんですか唐突に?」
「俺では格闘戦を教えれる技術力が足りなくてな。 基礎だけは教えたが応用がまた教えれなくて。 そこでだ、あの蛇の子と言うならそう言った事が得意だろうと思ってな」
「…まぁ、父親から自衛手段としてその面を仕込まれましたから出来なくは無いですが」
「なら決まりだな。 暇な時にコイツの相手してくれ」
「ふぁ!? 待って、まだやるとは言ってない」
そもそも女の子に体術しかけるのかは良いのか?
「…………ダメなの?」
「よし、遠慮するな。 付き合ってやるよ」
「……!!」
ああ、凄い嬉しそうな眼差し。 尻尾があればブンブン降ってそう。 基本的に無表情とは言え顔立ちは美人だからそのギャップに容易く打ち砕かれる。 オイコラてめぇジェラルト。 あからさまに笑いこらえれて無いの知ってんだぞ。 くそぅ…
「じゃあ、今からやるか」
「……今?」
「まず暇なのは今だけ。 明日もこの時期なら暇だからその時に教えよう」
「!」
だから、不意に嬉しそうな眼差しはやめて凄い効くからそれ。 幻影に見えたはずの尻尾が本物に見えて仕方ない。 なんならシベリアハスキーの尻尾か? かわいいなオイ。
「君は【クロス・クォーター・コンバット】って言葉を聞いたことあるか?」
「…?」
上着を脱ぎ捨て、適当な木の枝に引っかかる。
動きやすい服装になり、顎を引き…
この世に無いだろう構えを取った。
「ただの近接格闘術のことだが、ひたすら敵を無力化させる戦闘術……いや、近接戦闘における心得と言うべきか、まぁそんな些細な事はいい。 まずは好きにかかって来い、ベレス」
「……行くぞ」
「さて、久々にやるんだ……CQCの基本を思い出せ、俺」
フォドラの大地に朽ちる枯葉は舞い散る。
枯葉の香ばしさと、ほのかに甘い彼女の香りが、今だけ夜闇に浸透していた…
ちなみに彼女の肉つきぷにぷに柔らかかった。
ご馳走さま。
つづく
2019/10/12に投稿した1話です。
手違いでアカウントを消してしまい、ハーメルン内のデータが全てパーになってしまいました。 活動してきた三年分の小説と実績すらもロストしてかなり落ち込んだけど、またアカウント作り直したりと、なんとか私は元気です。
バックアップは取ってあるので、また定期的に再投稿しますのでよろしくお願いします。
ではまた