飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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第11話

帝国歴1180年

 

 

「良いかいユークリッドちゃん、この世はフォドラに限らず弱肉強食の世界であるのは僕ちんもよーくわかってる。 ならば生きる術は強い物につくことが近道だと思うんだよねぇ」

 

 

「それは散々聞いたぞアケロン」

 

 

「それをただの風潮のように受け止めるのは浅さかだよねぇ。 常にその意味と後々の最悪な展開を想像してないと、後悔するのはまず自分だよぉ? 領地を持つ者はむしろ臆病すぎるのが丁度良いんだよ」

 

 

「そこの感性それぞれに任せるにしろ、アケロンは一体何を考えてそこまで?」

 

 

「僕は時々思うんだよねぇ。 いや、もう時々とは思わずいつも思う。 このフォドラは近い未来乱戦となるってねぇ」

 

 

「その根拠は?」

 

 

「帝国の軍事力開発だねぇ」

 

 

 

ゆっくり進む馬車の音がいつもよりもうるさく感じる。 フォドラの風は穏やかだが不穏な空気が馬車の中にだけ浸透した。 普段はうざい空気が流れるだけのはずだが。

 

 

 

「アケロン、軍力の開発はどこも同じだろうに」

 

 

「たしかに帝国のみならず、王国も含めて同盟も日々軍力の上昇を考えるけど、帝国は特にその傾向が激しいことを僕ちんは理解している。 それに伴って噂も聞くんだよねぇ」

 

 

「?」

 

 

「有力者と繋がることでそういった話が自然と入るんだよ。 その断片としてユークちゃんに教えるけど、他言無用だよぉ?」

 

 

「……で? それは一体?」

 

 

「人体実験って奴だねぇ」

 

 

「!」

 

 

「良いかい? これは"今はまだ"噂程度の話なんだけれど、これが本当なら帝国は人体を代償にするほどの開発事項を持っている。 だって考えてみてよぉ。 使う武器が鉄や銀ではなく人体とは外道も良いところだよねぇ? …それはつまり、乱戦を生む覚悟の表れだと考えてんだよ僕ちゃんはね」

 

 

「……穏やかじゃないですねぇ」

 

 

「だるるぉぉ?」

 

 

 

やはり最後がうざい。

 

でもアケロンの(つて)と有力者から得た情報が本当ならばフォドラは乱戦を迎えることを告げている。 しかもファンタジーな世界で人体実験とか絶対洒落にならない。

 

人の命を兵器の一つにするという事は、一体どれだけの血を流させたいんだろうか? 内乱程度ならただの小競り合いの規模に合わせて武器を調達すれば良い。 しかし人体実験から得ようとする兵器はつまり、帝国に命を明け渡してまでそれを行う人間の覚悟と外道は、他国に向けずに何を得る?

 

その刃はドス黒く濁っている。

 

他の国を殺すにはもってこいだ。

 

 

 

「フォドラは比較的平和を築き続けてるように見えるけど、人間ってのは絶対に平和を維持できないことは歴史を見て答えが出てんだよねぇユークちゃん。 4年前もダスカーの悲劇が起きて、その前も他の大陸から度々侵略もあった。 ブリギットの姫が人質の状態で帝国に招かれた事も聞いてる。 もう、どこもかしこも争いだらけなんだよねぇ」

 

 

「パルミラで問題抱えてる同盟領の者が言うと説得力ありすぎる」

 

 

「だるるぉぉ?」

 

 

 

うざい。

 

 

 

 

「しかしパルミラ関係で言うとゴネリル家のホルストくん、いつか死ぬんじゃないかなって思うよ僕ちん」

 

 

「あいつが?絶対にあり得ない。 なんならアケロンはホルストが負ける瞬間とか想像できる?」

 

 

「……できないねぇ」

 

 

「だるるぉぉ?」

 

 

煩わしい(うざい)よ、ユークちゃん」

 

 

「お前に言われたくない」

 

 

 

しかしフォドラ全土を巻き込む戦乱か。

 

想像できないな。

 

まず帝国は大きい国だ。

 

それは戦争するための準備に時間がかかる。

 

だからそう簡単に戦争は起こせない。

 

しかし人体実験の話を聞くと戦争のために確実に進めているんだろう。

 

噂なら噂で終わらせたいところだが…

 

 

 

「旅団も、その噂を聞いたことで同盟領に逃げ込んでくれたりしてないかな…」

 

 

「?」

 

 

「団長なら演劇よりも仲間(家族)の安全を決めて即判断するけど、バラバラになった今そう都合よく全員がそうしてる訳でもないよな。 俺って実は思った以上にかなり無茶な事してるのかな?」

 

 

「現実的なこと言うなら数年前出来事だよぉ? ほんの数日前の事ならわかるけど人は危機を感じると足が逃げ場を求めて動くんだよねぇ。 それが数年経ってからの話ならば今から当てもなく探すなど無茶だと思うけどねぇ? 残した足跡は、いずれフォドラの砂風によってかき消されるからねぇ」

 

 

「でも先月は一部の仲間が生存した旅団が帝国にあると言ってたぞ? 噂程度だが」

 

 

「ユークリッドちゃん、噂の具合を履き違えるのは危険だよぉ? 予防線を張るために噂を聞き入れるのと、釣られて噂に従うのは全く違うんだよねぇ」

 

 

「わかってる。 別に絶対など言ってない。 なんなら俺たちが営んでた旅団の名前を勝手に使ってる悪党がいる可能性もあったし、鵜呑みにはしてない。 でも、もしかしたら…って思うのは仕方ないだろ。 ただ…」

 

 

「?」

 

 

「約束を果たすために"あの子"に出会おうとするくらいはしても良かったかもな」

 

 

「んー? あの子?」

 

 

「……いや、何でもない」

 

 

 

 

帝国領に来たのならベルナデッタに会う事も出来た筈。 しかしミルディン大橋からそこそこ離れた街にあるため、また時間を掛けて進まなければならない。 別に遠くまで向かう事が苦痛では無いが、俺はまず"家族"を探したい。 早く安心させたい。 そして俺はちゃんと『旅に出る』と告げてから去りたい。

 

あんな離れ方、三年経った今も引きずってる。

 

俺の人生にて第二の親であるけど、でも愛情注いでくれた二人にしっかりと面を合わせて言いたい。 ありがとう。 そして行ってきます、と。

 

 

 

「帝都ならまたくれば良いか」

 

 

 

そして今回はアケロンのパスを効かせてミルディン大橋を渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アケロンの馬車に乗り、数日間の移動を続け、次の日には到着するらしい。 徒歩なら10倍の時間は掛かった筈。 やはり移動手段は大切だと身をもって知った。 俺もロバくらい買ってみようかな? でも馬とか案外お金かかるんだよな。 かと言って野生を手に入れようにも手間や時間がかかり過ぎる。 この世界がファンタジーだからといってそう簡単に従う生き物はいない。

 

そもそもどこか野生の馬なんている訳も…

 

 

 

「ヒヒーン!」

 

 

 

 

いた。

 

 

 

 

「珍しいぃねぇ、こんなところにペガサスがいるなんて」

 

 

「たしかフォドラだと王国領の森の中に生息しているんだっけか? 程よく寒い場所が好まれると聞いたけど、同盟領に生息なんてあり得るのか?」

 

 

「あり得ないとは言い切れないけど、パルミラの関係上ドラゴンが多いからペガサスの生息は珍しすぎるかなぁ?」

 

 

「だよな。 そうなるとあのペガサスは……あれ?? ……ああ、なるほどね。 そういうことか」

 

 

 

自己完結する俺にアケロンが首をかしげる。 指を伸ばしてとある部分を示し、軽く説明するとアケロンも納得した。 こちらを見て警戒しているペガサスには武具が付いていた。

 

つまり…

 

 

 

「戦死した人間のペガサスか…?」

 

 

「さぁて? むしろ主から逃げたんじゃ無いのぉ? 傷も少ないし、争った部分は目立たないけど」

 

 

「手に余る天馬とかそう言ったパターンかな。 まぁいいや。 とりあえず、枝木に引っかかって可哀想だから解放してくる」

 

 

「うぇ?」

 

 

 

馬車を飛び降り、天馬の元による。

 

するとこちらを見て警戒する天馬を見た俺は武器を取り出して……地面に落とす。

 

 

 

木刀(訓練用の剣)を手放し…

 

 

投げナイフ(鉄の剣+)が撒き散らされ…

 

 

コンバットナイフ(鋼の剣)は重く音を立て…

 

 

仕込みナイフ(毒の剣)は足元に置かれ…

 

 

双剣は(勇者の剣)は腰から離れ落ちた…

 

 

 

 

「!?」

 

 

「非武装だ、安心しろ」

 

 

 

上着を脱ぎ、何も隠してないことを知らせる。 知能が高い天馬だからこそ、この行動の意味を理解してるようで驚くような雰囲気を見せた。 やや呆気に取られてるように伺えれる天馬に接近すると俺は枝木に近づき、そして長ズボンの裾から…

 

 

 

「ヒヒーン!?」

 

 

「悪いな」

 

 

 

隠しナイフ《鉄の剣》を取り出して瞬時に切る。 天馬に装備されている手綱と、複雑に絡んだ枝木を裂いて解放した。

 

 

 

「隠してるからこそ、コイツは隠しナイフなんだよ」

 

 

「ひ、ヒヒーン…」

 

 

「とりあえず大人しくしてくれてありがとう。 そんじゃあとっとと行った行った。 王国領はここから太陽の方向だ」

 

 

 

それだけ言うと武装を回収してそれぞれ服の中や腰の周りに収めてアケロンの元に戻った。

 

 

 

「危ない事するねぇ」

 

 

「知能が高い生き物だからむしろ安全性は高い。 それに、言葉を理解するあたりあの天馬は相当賢いんだろうな」

 

 

「ってことは、前の持ち主にとって手に余る天馬だった訳だねぇ?」

 

 

「天馬は人の邪心に敏感だからな。 それにプライドもある生き物だ。 多分主に見合わなくて降ろされたんだろう」

 

 

 

それだけ言うと天馬をそこに置いてアケロンの馬車は動き出す。 フォドラの春風を受けながら同盟領を進む先は、まもなくアケロンの領地だ。 同盟と帝国の境界線のすぐそこなのであまり時間をかからないだろう。

 

 

 

「そういや自治領に到着したらアケロンはこれからどうすんだ?」

 

 

「しばしゆっくりするんだよねぇ。 僕ちん疲れたもん。 慣れない長旅はするもんじゃないよねぇ。 まぁこればかりは貴族として致し方ないけどねぇ」

 

 

「えらい」

 

 

「だるるぉぉ?」

 

 

 

 

うざい。 俺は旅団にいた頃から元々旅をしていたようなものだから長い行路には慣れている。 その上、唐突な一人旅もしてきたものだからメンタル面も鍛えられた。 ファンタジー特有の旅をして心身が強くなるパターンだな。 しかしなんか悲しい。 前者はともかく後者は望んでやった訳じゃないから。

 

 

 

「……ところでユークちゃん? 後ろの天馬どうするの?」

 

 

「……なんで付いてきてんだ? あいつ自由やぞ?」

 

 

 

後ろを見れば先ほどの天馬が一頭。

 

 

 

「懐かれたんじゃないのぉ?」

 

 

「ええ? 認められたとかならまず俺は男なんだけど? 女じゃないぞ?」

 

 

「でもあの目の色見てみなよぉ、ウルウルとしたつぶらな瞳をしてるんだよねぇ?」

 

 

「おう、あの純粋さ、悪い男に騙されそう」

 

 

「むしろ僕達が騙されそうじゃないのぉ?」

 

 

「だとしたら天馬にしちゃ賢すぎだろ」

 

 

 

 

先ほどからパカパカと後ろから音が聞こえる。 いや、今はもう真横に並歩していてこちらを気にしている天馬が一頭。 なんだろう。 散歩中の柴犬がチラチラと飼い主の顔を伺いながら歩いててるみたいだ。 かわいい。

 

 

 

「……よし、乗ったる」

 

 

「ふぁ?」

 

 

 

移動中にクロワッサンを頬張るアケロンをよそに、俺は馬車の横扉を開ける。 先ほど助けた天馬と目が合い、そして俺は馬車から跳んだ。 天馬の首筋に手を掛け、そのまま足を跨ぎ、綺麗にアーチを描いて騎乗する。 まるで吸着するよう事を知ってたようにすっぽりと収まった。

 

 

 

「男なんだけど、乗せてしまっていいのか?」

 

 

「ヒヒーン」

 

 

「そんじゃ、しばらく厄介になるか」

 

 

「ユークちゃんを乗せちまったねぇ…」

 

 

 

それから元々付いていた装備品に軽く紐を通して手綱代わりにする。 ガルグ=マクにいた頃、セイロス騎士団の騎馬兵に馬を乗せてもらった感覚を思い出した。 教えてもらったとおりに綱と踵で天馬を動かし、アケロンの馬車と並走させた。

 

 

 

「へー? それだけ動かさせてくれるなら信頼は寄せられてる証拠だねぇ、ユークちゃん。 ところで飛ぼうと思えば飛べるぅ?」

 

 

「一応ガルグ=マクで飛竜には乗せてもらった事あるから、落ちないための姿勢とか綱の引き方とか、そこら辺知識はある。 もしコイツの意志が飛ぶ事を許すなら今すぐにでも飛べるはず。 …おうっ…舌噛みそうになるなこれは」

 

 

「顎引いて、顎を」

 

 

 

しかし乗り心地が良い。 あと見えない何か頬を撫でるような感覚を得ているが、これはもしや天馬が包むそよ風とかそんなのかな? 魔法を防ぎそうなこれは原作同様に魔防が高そうだ。

 

すると天馬はこちらを気にしながら何かを訴える。 この天馬は言葉を理解するほど知能が高いから、先ほどの会話からしてどうやら共に飛ぶ事を許してくれてるような気がした。

 

俺は良いんだね?と訴えたらブルルと小さく返してくれた。 賢いなこの馬。

 

 

「……よし、じゃあアケロン、そのうちまた会おう」

 

 

「んんー?」

 

 

 

そして手綱を強く握り、合図を出すと走り出して、翼は羽ばたく。 クロワッサンを落として驚くアケロンをよそにフォドラの春風を受けながら空へ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ガルグ=マク大修道院では三年間のお世話係を務めてきた。 その三年間で色んな人たちに会って来た。 いろんな人たちとは主に生徒の事だが、少年少女達の学生生活は一年の期間であり太くて短い濃密なガルグ=マクで時を過ごす。 そのため一年ごとに数百の生徒が入れ替わり、俺はその都度その年の生徒たちを見てきた。 当然ながら貴族の入学生が多かったが、ガルグ=マクは平民と貴族の間に線を引く事なく接してくれる者が沢山いた。 もちろん貴族意識が高い者もおり、平民に対する態度が高圧的な者は当然ながら存在する。

 

それが貴族と言う存在だろうと、数年前の苦い思い出もある俺だが、その中で面白い人物がいた。

 

 

それが…

 

 

 

 

「久しいな!ユークリッド!」

 

 

「久しぶり、ホルスト」

 

 

 

この人は対パルミラ代表のゴリラネル…じゃなくて、ホルスト=ヴァレンティン=ゴネリルの名を持つ貴族だ。 三年前は細マッチョだったはずだから急にゴリマッチョになってビックリした。

 

もちろんホルストも俺の登場にビックリしたが、俺の目的は聞いてたので「今がそうなのか!」と納得していた。 あと天馬に乗っていることも驚かれた。 うん、それが普通の反応。

 

さて、出会った時刻は夕方だ。 挨拶だけのつもりだったがホルストが天馬共々屋敷に招いてくれて、それで一晩泊めてくれた。 使用人も屈強そうな人が多くて、流石対パルミラなのも頷けた。 屋敷内での夜は軽く飲み、ホルストと昔話で盛り上がる。

 

 

 

「数日前まであの問題児(アケロン)と同行していたのか」

 

「問題児って言ってやんなよ。 少し目立ちすぎただけだ」

 

「少し? いやいや、他人のファイアに自分のファイアを重ねて強力なファイアを作り上げようとして訓練場で爆煙を作り上げてしまい、敵の侵入を許したと勘違いしたセイロス騎士団を動かさせてしまったあの騒動を起こしたアイツが、少し目立ちすぎたの程度で終える訳が無いだろ」

 

「あー、うん、そうやな、ごめん。 たしかにそうだな。 あの時期は俺よりも有名になったし、うん」

 

 

 

そして俺の目のハイライトが失せる。

 

だってあの後の事故処理手伝ったからな。

 

めちゃくちゃ大変だったし、すごい疲れた。

 

 

でもあれ以来アケロンらは少しだけ賢くなったようで、やる事、起こす事、示す事を考えるようになり、身の程を弁える事を覚えた……が、まだまだ貴族らしく振る舞えてるかというと、周りに比べたらそうでもない。

 

 

 

「しかしあの騒動以来、炎の魔法が怖くなってブリザー使うようになったんだったな」

 

 

「それはユークリッドがメンタルケアした結果だろ?」

 

 

「別にメンタルケアのつもりなんてなかったさ。 でもあの後のアケロンはめちゃくちゃ怒られた事でかなり拗ねていて、なんか可哀想だった。 その上、魔法を使うことに抵抗を持ち始めたアレはなんか見てられなくなったからさ、炎にトラウマがあるなら氷でも使えよって言ったら……なんか納得したし」

 

 

「単純でアホだな!」

 

 

「おう! 間違いなくアホだな! でもあれ以来良くなったろ、アイツ」

 

 

「たしかに入学当時に比べてマシにはなったが、卒業後もアイツの小競り合いは未だに終わりを見せない。 いつか兵でも動員させて領地拡大のため強引に乗り込むぞ、あの感じだと」

 

 

「やっぱり同盟領ってめんどくさいな。 いや、どこも貴族絡みが始まるとめんどくさいな」

 

 

「ユークリッドのその意見は参考になるよ」

 

 

「褒めるなよ。 ただ関わりたくない一心だから」

 

 

「おお、そうか。 ところで泊めてやったからパルミラ戦線でも手伝ってもらうかな」

 

 

「うわ、そう来たか…」

 

 

「傭兵扱いにして報酬は出すぞ?」

 

 

「ポテチ代含めると高くつくぞ」

 

 

「構わない。 なんならキッチンも貸す、材料も全て用意する」

 

 

「作れってことか!? ああ、もう! 大貴族舐めてたチクショウ!」

 

 

「はっはっは!!」

 

 

 

数年前と変わらないやり取りに笑いが止まらない。 遠くから見守る役人や使用人はとてもご機嫌なホルストを見て少し珍しがっていた。

 

それから学級の話や"鷲獅子戦"の話で盛り上がった。

 

話の内容はホルストの世代の鷲獅子戦。 アレは確か…誰よりも先に上級職に就いたホルストが率いる金鹿の学級が、青獅子と黒鷲の二つの学級を同時に捻り上げて勝利したのは記憶に強い。

 

俺は見に行けなかったが、話の限りだとホルストはまさに一騎当千の価値アリだったらしい。 あと使う魔法をブリザーに転機したアケロンは中央の砦に続く階段を凍らせて、敵を滑らせる戦法は中々だったらしい。 そうなるとペガサスでしか接近できないが、金鹿は弓を得意とする学級だったので対策はバッチシ。 その年は金鹿の勝利だった。

 

因みにホルストとアケロンが卒業した次の鷲獅子戦は青獅子が勝った。 金鹿はボロ負けだったらしい。 やはりホルストの影響力は高い。

 

その翌年はレア様から同行が許可されて俺も見に行ったことをホルストに話した。

 

高台から眺める鷲獅子戦は凄かったと伝えれば、ホルストは「そうだろう!」と熱く興奮する。

 

そして翌年の鷲獅子戦は黒鷲が僅差で青獅子に勝利した。 ハンネマン先生の策を真正面から崩しにかかった青獅子はまさに獅子の如くだった。 真っ先に巻き込まれた黒鷲のモニカが可哀想だった。 あとヒットアンドアウェイの戦法で漁夫の利を狙う金鹿はなかなか姑息だったが、あれは間違いなく混戦の中で勝利を狙うための戦術だったので褒める点は多い……が、あの中性野郎(ユーリス)はそこら辺は深く理解していたので尽く対策されて金鹿も級長が倒されてそのまま崩れていった。

 

見ている分はとても楽しかった。

 

並んで見ていたセイロス兵の何人かが「あそこで俺も倒されたんだよなぁ」とか「あー、そこ陣取るとなぁ」みたいに懐かしんでいた。 あのお祭りは大人になった先でも記憶に残り、まさにホルストが「ユークリッドも参加すれば楽しかったぞ!」とお酒も絡んでいて、その興奮は冷めない。

 

あと鷲獅子戦が終わればそれぞれの学級で宴が始まり、毎年毎年宴のために大量のポテチを作らされた俺の話を愚痴るとホルストは大笑い。 うるさい。 お前が無茶振りしたんだろう! お陰で3年間毎年100人分やったんだぞ!

 

 

それから話は弾み、使用人に寝る時間を告げられて、お開きとなった。

 

 

 

「おやすみ、ホルスト」

 

 

「ああ、ゆっくり休んでくれ」

 

 

 

それから各自眠りについたゴネリル家。

 

 

 

 

 

しかし…

 

俺は30分で目を覚ます。

 

 

 

「あ、そういや…」

 

 

 

不意に目覚めた静かな夜。

 

俺はこっそり裏から外を出て、馬小屋で休む天馬の元まで向かうと、その天馬は目を覚まして起きていた。

 

こちらを視認すると天馬の羽が広がり、対面を喜んでくれた。

 

それはともかく馬小屋でとても大人しくしているみたいだ。

 

俺も馬小屋の中に入り、天馬と夜空を眺める。

 

 

 

「なぁ、いつまで俺と旅をする?」

 

 

「ブルル?」

 

 

「ここまで来るときに何度か話したと思うけど、俺は離れた仲間や家族を探すために旅している。 いずれこの旅に終わりは来るだろうけど、そこまで付き合うわけでもないだろ? だから君はどうするんだ?」

 

 

「…」

 

 

 

知能が高くて、人間の言葉を理解する。

 

今まで出会った天馬の中で特に賢い奴だ。

 

 

だから不意に……こんな答えに行き着いた。

 

 

 

「なぁ、もしかして君は、このフォドラの外からやってきたのか? それとも普通のペガサスでは無い別の何かか?」

 

 

「…!」

 

 

 

天馬はこの答えが正解なのか、喜ぶようにこちらへ顔を寄せておデコをぶつけてくる。 俺は手を伸ばして首筋を撫でながら、その解答を得たことを知らせた。

 

 

 

「なるほどな。 そうなると種族も違ったりするのかな? それこそ男性を乗せることに抵抗無いペガサスだったりしてな」

 

 

「ブルル」

 

 

 

穏やかな声で返す天馬。

 

もし言葉が通じるならもっと答え合せをしたいところだ。

 

なんならもっと違う話をして、今後の方針も分かち合いたい限りだ。

 

 

 

「君は俺の元から離れなかった、それはつまり…」

 

 

 

どこまでも気を許している。

 

ただ枝木に絡まって動けないでいたところを助けただけで、一時的な恩返しかと思ったけれど、この天馬はその程度じゃなかった。

 

 

 

「そうかそうか、わかった。 君も俺と共にいてくれるんだな」

 

 

「ヒヒーン」

 

 

 

今だけわかる。

 

肯定してくれたような声であることが。

 

 

 

「ふぁぁ、眠いなぁ…」

 

 

 

一つ問題を解決したことで安心してしまい、眠さが湧き上がる。 天馬は地面に伏せると片腹を見せながら片方の羽を広げる。 まるで人ひとりが座れる場所を見せて、そこに誘うかのようだ。

 

 

 

「ブルル…」

 

 

「ああ、そうだな。 今日も寝ようか…」

 

 

 

本当は馬と一緒に眠るのはとても危ない。 眠ってるところを踏みつけられたのなら重傷は免れないだろう。 しかし気を許してくれているこの天馬は男性を乗せることに抵抗が無ければ、一緒に寝ることも許している。 そして賢い子だから、俺が眠りついてる所を立ち上がって踏みつけてしまうなんてことは起こさない。 だから今日も同じように天馬の羽毛を寝床にして、羽を風除けのために覆い、天馬特有の身体中に纏うそよ風が頬を撫でる。 馬小屋の草木が香ばしく、俺は天馬に寄りかかり、目を閉ざした。

 

 

 

それから早朝になると使用人が目覚め、天馬と眠る俺の姿を見て驚かれた。

 

 

ペガサスが男性に気を許すあまり姿は見たことないらしく、ここまで距離が近いのは本当に珍しい事だとか。 そもそも馬と寝ると言った自殺行為ギリギリであるので、その光景を目の当たりにした使用人はとても驚いてたらしい。

 

そんな俺は目を覚まして使用人に「おはよう」を言って、屋敷内に戻ると提供されたベッドに潜り込み、二度寝。

 

ホルストから芳しい香り故に香水でも付けてるのかと聞かれたが、途中天馬と寝てしまったことを伝えて「やはりユークリッドは皆と違うな」と良い意味で笑われた。

 

俺だって周りと等しい筈なんだけどね?

 

 

さて…

 

それからしばらく厄介になり、屋敷での滞在を許してくれたお礼としてポテチやチーズタルトなどを振舞っては、時折襲いかかるパルミラ人をホルストと退いたりの生活。 手が空いた時は旅団の探して仲間を見つけて、数ヶ月の間を同盟領で天馬と過ごした。

 

 

ちなみに天馬の事をいつまでも『天馬』と名で呼ぶのはかわいそうなので『マンディ』って付けることにした。

 

出会ったのが"月曜日"と言う理由を含めている。

 

 

 

「よろしく頼むぞ、マンディ」

 

 

「ヒヒーン!」

 

 

 

天馬との出会い。

 

それはフォドラの暁風が招いたイタズラ。

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

後悔との出会い。

 

それはフォドラの暁風が招いたイタズラ。

 

 

秋の季節が巡り始める、時のよすがを辿りて、俺は再び【彼女】と出会う事をまだ知らない。

 

 

 

何度も言おう。

 

 

 

フォドラの暁風はイタズラ好きである。

 

 

 

つづく





《マンディ》

意味は【月曜日】であるが、ユークリッドの苗字である『ラライヤ』と『マンディ』の名前を合わせると"Gのレコンギスタ(ガンダム)"のアニメに出てくる『ラライヤ・マンディ』の名前になる裏話。 このキャラは月の裏側から来たキャラクターであり、作品の劇中では記憶力や会話能力が退化して"マンディ"名が与えられたりとしているが、モビルスーツを動かす技術は健在。 しかし所属や出所が不明な状態でストーリーを展開するキャラ。 天馬のマンディもどこかしらこのキャラとの現状と似ているため、ユークリッドの趣味で『マンディ』と名付けた……って意味だったと思う。 当時はどんな気持ちでこの名前にしたのか覚えてません。 はい(やけくそ)

あとこの設定はこの小説に活かされないので気にしなくていいです。
はい(切実)
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