飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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第13話

帝国歴1180年

 

 

夕方にホルスト達と食事を済ませると暇になった。 ホルストはまだ本調子では無いため、明日のため再び寝込んだ。 こんなんでは妹に会わせる顔が無いってさ。 顔色的な意味で。

 

そんな相棒を放っておくと、同盟領で招集した旅団は演劇の練習を開始していた。 ガルグ=マクに離れ離れになった仲間がいるならと、演劇の感覚を取り戻そうと奮闘。 どうやらまた集って旅団を再集結させる思いはあるようだ。 ちなみに興味を持った学生が何人か見にき出たので気合いが少し入っていた。 怪我すんなよ。

 

さて、取り残された俺はグロンダーズ平原を歩き回り、戦場になるこの場所を観察する。

 

そして、とある生徒と出会った。

 

ベレスてんてーが承る青獅子の生徒。

 

 

とある赤毛の兄弟で、それも弟の方だ…

 

 

 

 

「やはり、兄上を知っていたんですね…」

 

 

「逆賊の頃からな。 まぁ、何というか、紋章主義が激しいフォドラの大地ならばマイクランの扱いは珍しくないと思う。 もちろんマイクランがしてきたことは許してはならない。 しかし私情を挟むならばマイクランがされてきたことも許せない気持ちはある。 だから俺視点から見た"世界的一般常識"の対応でマイクランをあの形に収めた」

 

 

「……その、ご迷惑をお掛けしました」

 

 

「いや、シルヴァン。もうアイツの事はシルヴァンが気にかける必要性は無い。 殴られて、突っぱねられて、言われたんだろ? 俺はゴーティエ家とは関係無いから、お前はゴーティエ家で死んで逝けって。 マイクランはその言葉に覚悟と意味を込めた。 なら、シルヴァンが取るべき事が決まってる」

 

 

「……はい、そうですね。 兄上……じゃないな、アイツがそうならば、俺はもう…アイツを兄とも貴族とも、ゴーティエ家の血縁としても、俺は見ないことにしますよ。 アレはもう、ただのマイクランだから」

 

 

「そうしてやってよ。 そうしたらマイクランって何処かの赤毛の人間は助かるんじゃないのか?」

 

 

「ははは、そっすね。 いや、ありがとうございます。 また少しだけ、心が晴れました」

 

 

 

彼とは何と無く、ほんの少し会話を挟んでいたが、ゴーティエ家の者だと知った時に「マイクランの弟か」とつい言ってしまった事が引き金となった。

 

放つ言葉を間違えたと思ったが、どうやらシルヴァンも兄に対して思うところは多く、マイクランと知人である俺に食いついた。

 

そして今に至る感じだ。

 

 

 

 

さて、シルヴァンとは別れを告げて俺は約一年ぶりにグロンダーズ平原の散策を楽しむ。 遠くに見える先には夜空の下に照らされる中央の砦だ。 あの場所を制圧するか否かで、戦局を支配できるだろう…が、三つ巴の戦いになると迂回して他学級を打つ方法もある。 しかし残された学級は漁夫の利を狙って後ろから突き刺すか、浅くなった中央を制圧するかで、戦術の対応力が試される。

 

明日はそれをどう戦いが展開されるのかたのしみにしながら川沿いを歩いていると、黒鷲の学級の生徒いた。 その生徒は履物を脱ぎ、浅い水辺に素足を浸していた。 見たところ水浴びではないようだが、草原を踏みつける音で気づかせてしまう。

 

 

 

「っ、誰?」

 

 

「俺」

 

 

「ぇ…いや……本当に誰?」

 

 

「俺はユークリッド・ラライヤ。 ガルグ=マク大修道院のお世話係として一年前に来たことあるこの場所を懐かしんでいた」

 

 

「あら、そうなのね。 私はエーデルガルト・フォン・フレスベルク。 今はただの生徒で……え? 待って……今、お世話係でユークリッド・ラライヤって言いませんでした?」

 

 

「言ったよ」

 

 

「!! ……そう、あなたがユークリッド・ラライヤ。 一度会いたかっ……いや、そう言えばすれ違う程度にだけど、あなたとは一度会っているわね」

 

 

「ああ、もしかして賊のお頭に襲われた時の女の子か?」

 

 

「ええ、そうよ。 あの時はベレス先生が斧から守ってくれたわ。 それでそこに居たあなたがユークリッド・ラライヤ本人だったのね…………惜しい事(勧誘)したわね」

 

 

「?? ……で、今の俺ってガルグ=マクでは有名人的な感じかい?」

 

 

「え、それは無意識なの? まぁ、そうね。 その質問に答えるとそこそこ有名人よあなた。 ガルグ=マクで働く者は口を揃え、あなたが大修道院で残してきたモノに関心と尊敬を多く述べているわ」

 

 

「半分以上は道楽なんだけどね。 まぁ、楽しんでもらえて良かった。 で、そんなエーデルガルトさんはこんな時間に水辺で楽しんでるようだが、それは大丈夫なのか?」

 

 

「級長としては好ましくないけど、たまにはこんな時間も欲しいのは仕方ないと思わないかしら? ただ…足の先から少し涼んでいたかっただけよ。 少し疲れてたから」

 

 

「なるほど。 足水は長旅に効く方法だからな、この夏にとても良いだろう…が、夜はセイロス兵が徘徊してるとは言え女の子が夜に一人は危ないぞ? 近くに従者か誰かいないのか?」

 

 

「こう見えて私は強いから大丈夫よ。 あと何故、私に従者が居ると思ったの?」

 

 

「名前に"フォン"が付いてるから貴族である事と、雰囲気的に見て何処かのお偉いさんだと思っただけだ」

 

 

「ふふ、当たりよ。 これでも次期皇帝として君臨する予定だわ」

 

 

「予定だと? なる気満々な癖して何言ってんだ」

 

 

「あら、分かるかしら?」

 

 

「分かるよ。 君の眼はそこら辺の貴族よりも覚悟ガン()まりだからな」

 

 

「え? ガ、ガン決まり、って?」

 

 

「ただの『覚悟をしている』よりも"覚悟を決めてこれから狂う人"の事だよ。 その歳でその面構えなんだ。 そこまで君を駆り立てる何かが過去にあったんだろ」

 

 

「!!……そう、あなたには分かるんだ。 ええ、強ち間違いではないわ。 私の『覚悟』はその程度で収まらないくらいに持っているつもりだわ。 だから皇帝となって果たしたい事を果たすの。 今はそのために士官学校で力を磨くだけ」

 

 

 

黒鷲の級長は空を見上げながら足元を動かして、ちゃぷちゃぷと水の音を立てながら涼む。 大変な毎日に挑む彼女だったが、今だけはその役目から解放されたかのようで、その表情は穏やかだ。

 

 

 

「ねぇ、あなたは紋章の事をどう考えている?」

 

 

「紋章か? アレ便利だよな。 まぁ、欲しいとは思わないけど」

 

 

「そうなの?」

 

 

「別に紋章が無くても生きていけるだろ」

 

 

「それは……強い人間の言葉よ」

 

 

「知ってる。 だから紋章を持つものは、持たざる者を導くべき。 私欲を振る舞い、そして腐敗するクソ貴族なんか死ねば良いのに」

 

 

「同感ね。 何事も聡い者が上に立つべきだわ。 紋章の有無で容易く人生を狂わせてしまうなんて……わたしは認めない」

 

 

「なるほど、弱い人間が言う言葉だな」

 

 

「ええ、だからわたしは強くなるわ」

 

 

「…」

 

 

 

あれをカリスマと言うのだろう。

 

目に見えない何かが備わっている。

 

だから覚悟ガン決まりな彼女は間違いなく皇帝になるだろう。

 

でもそれはとても危ない覚悟だ。

 

彼女はそれを理解しているだろうか?

 

いや、してないだろう。

 

だって…

 

まだ彼女は若い(少女)から、分からなくて当然だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水遊びの皇女と別れ、明日は激戦区になるだろう中央の砦を無意識に眺め、無意識に足を進める。

 

 

今は何故だかあまり眠りたい気がしない。

 

 

そして、体の何処かが騒がしい。

 

 

なんだろうか?

 

 

 

「敵? いや……そんな気配じゃ無い」

 

 

 

感知魔法のライブラリーは使っていない。

 

しかし脳裏が警告する。

 

でもそれは危機感を知らせる警告では無く、歩みを進ませようとさせる表現し難い感覚。

 

 

 

「誰だ……誰かが、待っている?」

 

 

 

なんとも言えないもどかしさ。

 

しかし密かに生まれる焦燥感。

 

俺は冷たい地面を駆ける。

 

 

砦の階段を登り、そこらに転がる石ころを足の先で跳ね除けながら、バリスタが備え付けられた高台にたどり着いた。

 

 

 

「…?」

 

 

 

満月に照らされた高台の真ん中……ではなく、隅っこの方に座り込んでいた一人の生徒に気づいた。

 

 

 

「ふぇ?」

 

 

 

その声の主から情けない声が漏れる。

 

 

だからこそ、衝撃は大きかった。

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

整えられていない紫色の髪の毛。

 

清潔感がやや欠けているようなボサボサだが、その色合いは懐かしさを感じさせる。

 

世間に怯えて生きてきたようなその眼は、昔街角でぶつかった時に見せてくれた記憶を呼び起こし、フード越しから見え隠れさせていた彼女の顔がだんだんと明白に思い出してきた。

 

少し耳を突くような音程、いつまでも恐怖心を隠せない声色、まだ幼さを感じさせた。

 

だからこそ、俺はすぐに誰かかを分かってしまう。

 

大きな動揺よりも、理解するよりも先に、待ち焦がれた感情は、彼女の名前を口から飛び出させた…

 

 

 

「ベルナデッタ?」

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

言葉に出して確信する。

 

 

彼女は、間違いない。

 

 

数年前に出会った女の子だ。

 

 

彼女は……ベルナデッタだ。

 

 

 

 

「ぁっ…ぁぁ、そ、そんな、ま、まさか…ユ、ユーク、さま…」

 

 

 

 

なんとか俺の名を絞り出した彼女の声。

 

 

俺を…

 

一目見てユークリッド・ラライヤだと認知した。

 

 

 

「です、よね? あなたは、ユーク様、ですよね…? 本当に、ほんとうに、ユーク様、なんですね…?」

 

 

「ベルナデッタ、お前はベルナデッタだよな…?」

 

 

「ぁぁ! は、は、はい! そ、そそ、そうです、ベルは、わ、わっ、わたしが、わ、わたしはっ、ベルは! ベルナデッタです!」

 

 

「!! ……ッッ!」

 

 

 

 

人生で初めてと言うくらいにその足は力強く、彼女に向かって踏み込んだ。

 

 

 

「良かった…ぁ!!」

 

 

「!」

 

 

 

強く、強く強く抱きしめる。

 

可憐な彼女の体をグッと腕で締める。

 

痛みを与える抱きしめではなく、奥底に秘めた恋しさを大いに膨らませ、その情動を力にして抱きしめる。 彼女の体がややくの字になるほどに、その紫色(ゆかりいろ)を腕に染め上げる。

 

 

 

「ありがとうッ! 本当に良かった! ベルナデッタ! 君にありがとうッ! また会える君に、俺はとても…っ」

 

 

「あっ、ぁぁ、ぅ…ぅぅ、ゆ、ゆぅぅく、さ、まぁ…、ほ、ほんとうに、生きていて……」

 

 

 

互いに実感する。

 

あの頃から、互いに、知る者同士だと。

 

 

 

「よかったです…! 本当に良かったです…っ、わたし、旅団が、崩壊したって…聞いたから、わたしは、わたしの愚かさが…あなたを……ユーク、さまを……私のはじめての、友達を……ぅ、ぅぅ…ぅぅぁぁあ…!」

 

 

「…」

 

 

「うぁぁぁん…!ふぇぇぇえ"え"ん…!」

 

 

 

 

彼女の泣き声と共にしばらく互いに抱きしめあった。

 

 

そこに恥ずかしさは無く…

 

 

ただ会いたかった相手に…

 

 

ひたすら気持ちを押し付け合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしは最初の友達の名を忘れそうになった事がある。

 

いや、実際に忘れようとしていた。

 

人は防衛手段として辛い気持ちを忘れ、そして無意識抵抗意識を持って、人は覚えていく生き物だとハンネマン先生から教わった。

 

その通りだと思った。

 

わたしは初めて友達となった者から始まるあの悲劇と苦痛を忘れないようにしようと思って、でも時間が忘れようとして、恐怖だけを残して記憶から薄れていく。 その日から醜く自分を変えていく自分に嫌気をさしながらも…もう仕方ないと飲み込んで、わたしは過去の私が目を背けたくなるように自身が変わった。

 

でも、最後に渡された『コンパス』を見て、時折別の方向を指すその矢印はまだそこに彼が居るような気がした。 落ち着きを見せないコンパスの矢印と同じように、私の痛み(記憶)が『忘れてはダメ』と言い聞かせる。 父によって傷つけられた痛々しい記憶がまず最初にフラッシュバックするが、彼と分かち合ったその時間が傷跡を和らげる。 あんなにも、友達と言うものが暖かい存在だと知って、自分が貴族であることを何故か恥じた。 子は生まれを選べず、貴族ならば平民を導かなければならない。 フェルディナントくんがそのようにわたしは貴族を振舞わなければならない。 でも、大きな布を被り、屋敷から抜け出した時にその在り方が邪魔だと感じた。

 

そして彼とぶつかり、そこで出会う。

 

 

 

「っ……ユークリッド…」

 

 

 

ああ、ベルはまた思い出せたよ。

 

彼のことを思い出せたよ。

 

 

こんなわたしでも、まだ誰かのために思えるんだと嬉しく思う。

 

 

だって…自分の事で精一杯になってしまう嫌なわたしだから。

 

 

だって……食堂にあるポテチを見て記憶が涙を流させるわたしだから。

 

 

だって………士官学校で彼と同じ名前を聞いて狂乱しそうになるわたしだから。

 

 

でもこれは多分、ぎごちない嬉しさ。

 

壊れたかもしれないわたしから吐き出される嬉しさ。

 

 

それを繰り返しながら、出たくない外を出て、慣れない野外を過ごし、落ち着いた夜を静かに抜け出し、中央の砦の中に収まる。 父に蹴られて壊れた彼のコンパスを直し、矢印を真っ直ぐにして、ゆっくりと地面に置き、今日も記憶と共に探る。

 

 

基本的に北を指して動かないコンパスだけど、今日は動きそうな気がした。

 

 

そして……コンパスの針は動かなかった。

 

 

 

 

士官学校に来て知った。 本当はコンパスってモノは北を指し続けて、絶対に動かない。

 

動くときは針が北を向こうと修正する時。

 

または、壊れた時。

 

 

だから本当は気まぐれに別の方向を指すなどあり得ない話だった。

 

 

やはり針は記憶の先を指してくれない。

 

 

やはり、ただの(被害)妄想なんだろう。

 

 

都合のいい暖かさは、貴族と平民の間には…

 

 

 

 

「ベルナデッタ?」

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

いつものわたしなら…

 

 

 

やかましく、叫んで…

 

 

 

怯えて、逃げて、困って

 

 

 

泣いて、狂って、吐いて

 

 

 

挫いて、転んで、暴れて

 

 

 

沈んで、落ちて、堕ちて

 

 

 

荒んで、萎れて、痛んで…

 

 

 

わたしは今日も見苦しく振る舞う…

 

 

 

 

 

「良かった…ぁ!」

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 

彼は言う。

 

 

 

 

ありがとう。

 

 

また会えた。

 

 

君に出会えた。

 

 

本当にありがとう。

 

 

ベルナデッタ。

 

 

 

 

 

 

「ユーク…様…」

 

 

 

 

 

 

 

 

コンパスの針はもう何も示さない。

 

 

だってそこにいるからよう示さなくてい。

 

 

 

けれど、もう示さなくて良いほどに…

 

 

私の針は嬉しく狂っていた。

 

 

 

 

 

 

つづく

 





《コンパス》
中世の頃からそれらしきモノはあったが、独自で作り上げるのはサバイバルによるクラフト能力もある父の指導の賜物だろう。 ベルナデッタからするとコンパスの針はユークリッドの方角ををずっと刺し続けているようで、生きていることを信じていた。


ではまた
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