飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

17 / 51
第17話

帝国歴1180年

 

 

「ユークリッド、お前は舞踏会に行かないのか?」

 

 

「先輩? ええと、舞踏会ってのは士官学校のですか?」

 

 

「そうだ。 1時間後に俺たちは演劇だが、やることは小規模だ。 だから別にお前抜きでやっても構わない。 ユークリッドが面倒見てきたチビっ子も今はでは昔のお前くらいになりつつあってだなぁ、なら今日くらいそいつらに全部任せても良いだろう」

 

 

「……別に大丈夫ですよ。 俺はもう士官学校のお世話係じゃないですし、それに去年は舞踏会にスタッフとして参加したりとその空気は味わったことありますから」

 

 

「でもお前だけのVIP(ベルナデッタ)が今年あの士官学校に居るんだろ? なら特別な日なんだ、行ってこいよ」

 

 

「い、いや、ベルナデッタのあの感じだと舞踏会には…」

 

 

「ああん? だからこそだよ。 こんなに特別な日を、一人になる予定で過ごす小娘を放っておくのかお前は?」

 

 

「!」

 

 

「お前が旅団の事のために尽くす精神は親譲りで、団長も認める程なのはわかる。 フォドラ全土を旅して仲間を探すその強さも素敵だと思う。 だが、お前は自分だけのワガママを言え」

 

 

「…」

 

 

「もし自分だけのワガママを言い辛いなら、誰かのためのワガママを言ってしまえ。 それくらいは大人になっても多少は許される」

 

 

 

そう言って背中を叩かれて天幕から追い出される。 天幕の隙間から「VIP様にプレゼント忘れんなよ」と、今から向かわせる事を前提で先輩に押し切られた。 俺は軽くため息を吐いき、諦めてその行為をありがたく受ける。

 

 

 

「しかし舞踏会に参加しないベルナデッタってどこさ? 部屋にでも篭ってるか?」

 

 

 

俺はポテチの袋を一つだけ回収して、街中を歩き、遠目に見えるセイロス兵のマイクランにコンタクトで軽く挨拶。 こちらに気づくも大したアクションは起こさず兵達とどこかに向かって行く。 彼がいつもの調子である事を確認しながら大修道院の門をくぐり、店仕舞い後の武器屋に道具屋、通り過ぎる市街に寂しい雰囲気が漂うのを感じる。 お陰で奥の方では少し賑わう音が聞こえていた。

 

 

 

「本日も異常無しでありま……あ、ユークリッドさん! ご無沙汰です!」

 

 

「こんばんは、お勤めご苦労様。 ところでもう舞踏会は始まってる感じか?」

 

 

「はい! いま拍手と歓声が後ろから聞こえてきました。 もう開始されてる感じですね。 いやー、なんだか懐かしいですねぇ、ユークリッドさん」

 

 

「その感じだと学生時代は楽しかったようだな」

 

 

「ええ、2年前はもう毎日を楽しみました。 いまは門番としてここに立ち喜怒哀楽の表情で学園生活を送る生徒たちを見守る事が何よりも楽しい限りです。 学生だった自分もそうだったように」

 

 

 

この門番は2年前までガルグ=マクの学生で、最年長であり、俺と同い年。 どの学業も平均点以上を叩き出し、騎馬戦の要となるパラディンの資質を備えていたが、お日様が当たりやすい門番としてこの場所に立つ事が夢だったらしい。 やや勿体無い事をしたように感じられるが本人はこの役職を何よりも幸せに感じてるとか。

 

 

 

「ユークリッドさんも舞踏会に参加ですか?」

 

 

「いや、俺はとある友達が寂しくしてないか確かめにな…」

 

 

「なるほどです。 お土産も持ち込んで、さぞ大事な友達なんですね」

 

 

「! あ、ああ……すごく大事…かな」

 

 

「歯切れが悪いですね? どうかなさったんですか?」

 

 

「いや、大した事じゃないけど……その、よくわからないと言うか…いや、どうなんだろうな、その子との関係は…」

 

 

 

時折考える。

 

俺はベルナデッタをどう見てんだろう?

 

彼女とは出会いたかったから、旅して出会って、それは俺にとって救いでもあって、安心して、それで…

 

それは……なんだ?

 

 

 

「でしたらユークリッドさん。 この後もしその方に出会えたのなら"女神の塔"に向かわれてはどうですか? その塔で自分と連れた人を月に映すのです。 どう気持ちが向かれてるのかよくわかるはずです」

 

 

「ああ、女神の塔か。 引き篭もりには辛そうだな。 でもありがとう、考えておくよ」

 

 

 

お礼をそこそこに俺はそそくさとその場を去って目的地まで足を進める。

 

 

 

「あ、それと自分はあまり関心はありませんでしたが、女神の塔には噂がありまして、共に向かった者は女神から………あれ? ユークリッドさん? そんなにお急ぎに……ってくらいに迎えたい相手ですか、なるほど」

 

 

 

まだ何かお喋りに浸る門番を置いて、俺はベルナデッタの元に向かう。 養殖池の水面に満月が写されている。 神秘的な黄金色は街灯など必要としないくらいに明るかった。 心が落ち着く。

 

 

 

「…」

 

 

 

そしてベルナデッタの部屋の前までやってきた。

 

ああ、どうやら中にいるらしい。

 

 

 

 

俺はその扉を………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

「ぴぃ!?」

 

 

 

舞踏会のお誘いは断りに断って、でも強制参加として連れてかれたが、始まる直前に逃げ出してこの部屋に戻ってきたばかりの私。 なんとか引き篭もれたが、ノックの音は絶望の音に変わる。

 

 

 

「べ、ベルナデッタは居ませんよ?」

 

 

 

正体を隠すために扉に向かって言うが…

 

いや、この受け答えはだめじゃないか。

 

 

 

「え? ベルナデッタは私ですよ? 何言ってるんですか?」

 

 

 

と、扉の奥からベルナデッタの名前が聞こえる。

 

 

 

「ひぇ!? な、ななな、な! ベルナデッタが外に!? い、い、いや! そ、そんなはずありません!! 引き篭もってこそベルナデッタです!! 引き篭らないベルナデッタなんて! ベルナデッタじゃないですぅ!!」

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「何言ってんだお前は」

 

 

「ひぇぇえ!? あ…あ、あれ? ユ、ユーク様!?」

 

 

 

勝手に扉を開けられた先にはユークリッドがいた。

 

 

 

「俺だよベルナデッタ。 舞踏会を放って引き籠ろうと考えてる君がココにいるだろうと思った」

 

 

「あ、そうなんですか。 ええと、それで…わたしは連れ戻されるんですか?」

 

 

「舞踏会に? いや、そんなつもりはない。 俺と一緒に引き籠ろうか」

 

 

「うぁぇ!? ぇえ!! あ、あの…ええと、こ、この部屋で? さ、裁縫とかで、その…ち、散らかってるので…あまり居心地は保証できませぬが、よろしゅうお願い致しやす兄貴っ!」

 

 

「誰が兄貴だ。 …お? これ俺があげたコンパスだよな? 随分と大事にしてくれたんだな」

 

 

「あ、それですか。 はい、それがあなたを指しているような気がして、大事に残してました。 父に半分ほど蹴り壊されましたが、なんとか形を戻してみて、針は動くようになりました」

 

 

「そうか。 大事にしてくれたんだな。 ありがとう」

 

 

「あぅ…」

 

 

 

頭を撫でられる。

 

子供扱い…とはまた違う恥ずかしさ。

 

そして胸の奥が騒がしい。

 

引き籠りにはあまり感じたことない鼓動。

 

やはり私は、ユーク様を…

 

 

 

 

「……あ、あの、ユーク様。 べ、ベルナデッタは、その……い、今の、ベルナデッタはお嫌いですか?」

 

 

「いや、嫌いじゃない」

 

 

「ふぇ? あ、そうなんですね」

 

 

「てか今も昔も大して変わらない気がするけどな」

 

 

「なっ! そ、それどういうことですか! こんなベルナデッタは、昔のベルナデッタと違わないと申すのですか!?」

 

 

「どっちもお前だろ。 もとより君は臆病な性格で、それが酷くなってしまっただけだ。 でもベルナデッタはベルナデッタで、どちらも俺からしたら大差ない。 ただ、今よりハキハキと出来てた頃の君の方が俺にとった普通だったからな、ほんの少し戸惑いがあった…」

 

 

「あ…」

 

 

 

昔も今も、ユークリッドは大差ないと言ったが、でも昔の方のわたしがまだ好きだと言ってくれた。 心臓が煩さが増す。落ち着きが見出せなくなる。 でも悲しくなる。 こんな私になってしまった私なんかではユークリッドを惹けないんだと…

 

 

 

「…みたいな感じに言ったけど、君の過去未来でベルナデッタを分けてしまうのは違うな。 さっきも言ったように今も昔もベルナデッタだ。 そもそも昔とはそれほど大差なかったと思う。 だからどっちも俺が知るベルナデッタだ。 はい、そんな訳で外に出るぞ」

 

 

「いやいや!? 何がそう繋がるんですかぁ!?」

 

 

「世界では大した日ではない。 でもガルグ=マクでは特別な日。 場所によって大差は無いけど、俺はガルグ=マクとしての視点をもって特別な日になれるこの夜はベルナデッタと大事にしたい。 それだけだ」

 

 

「!」

 

 

「俺からしたら引き篭もりのベルナデッタも、そうじゃないベルナデッタも、そう変わりない。 引き篭もりの属性が付いただけと言うならそれはそれで君の個性にもなる。 それでも俺はベルナデッタって女の子を外に連れたい。 だから一緒に来い。 もう……誰にも邪魔はされない」

 

 

 

そう言って彼は私の手を取る。

 

 

 

「あの日、ヴァーリ伯の手から逃れるために君を引っ張った。 逃げて、そして離れるために引っ張った。 最後は木の影に君を突き飛ばした。 あの時の手のひらは痛かった。 苦しかった。 君を演劇の舞台裏に連れた一時(ひととき)よりも、生きるために引いたその手はとても重たくて、触れる温度は悲しさで冷えていた。 君の震えは俺の手に伝わり、それは何年も引きずって、でもいつか会えると信じて、その弱さを隠してたけど悪友(フレン)が見破っていた、俺は荒んでた。 けどなッッ、それはもう君と出会って全てが終わったんだ! やっと!」

 

 

「ぁ…」

 

 

「来て欲しい! 俺は…! 俺は今!! 一番知りたいことがある!」

 

 

 

そういうと彼は私の手を取って、早歩きで駆ける。 引き篭もりな私なら酷く拒絶していたけれど、そんな気持ちは表れず、むしろ彼の掌に縋る。 あの時のように置いていかれないよう今回は私も彼と駆けた。 月明りにて草原が綺麗に彩られ、私は外の美しさに魅入られる。

 

半年近くここで暮らしているのにこんなに良い場所が存在して、その場所を駆け巡るなんて引き篭もりの私からしたら今日はあり得ない日だ。 いや、彼が特別な日と言ったから、今日は引き篭もりも外に出たくなる特別な日なんだろう。

 

引き籠りには贅沢な時間と共にとある塔に導かれ、私は彼と螺旋階段を登り、上に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士官学校が舞踏会で盛り上がる頃。

 

少年少女の二人は塔に登る。

 

 

 

 

 

「ここは女神の塔だ」

 

 

「綺麗…」

 

 

 

 

とても綺麗だと100人中100人が答えるだろう満月が、青年のユークリッドと少女のベルナデッタ、二人を照らしている。

 

ガルグ=マクの人気隠れスポットと言うべきか、今日特別な日じゃなくても時たま夜に学生がこの場までやってくる。 それは門限を破ってでもだ。

 

しかし今日は特に周りを蒼色で彩られ、本当に女神が住まわれてるのか?と思えるほどにここにいる者を魅入られせている。

 

その塔に二人の男女が外を眺めていた。

 

 

 

 

「ベルナデッタ、そのまま聞いてくれ。 俺は君と出会って贖罪を果たしたように感じた。 いや、贖罪は重すぎるかな…」

 

 

 

 

青年は懺悔するかのように語り出し、少女は困惑を示す。

 

 

 

「いや、これは自己満足で、または自己嫌悪だった。 君を苦しめた」

 

 

「ち、違います! それは!」

 

 

「良いからそのまま聞いてくれ。 俺はな、平民と貴族の間の気難しさを考えずに君を苦しめた。 俺がもっと賢くて、もっと上手く立ち回れてたのなら、ヴァーリ伯の機嫌を損ねずにベルナデッタとはもっと安全は立ち位置で関係を築けた筈だ。 これは本当にそう思える」

 

 

「っ…けど…」

 

 

「でも多分、それがそうなら、これはこうならなかった。 もしかしたら今日この日は君と特別にはならず、ただガルグ=マクの何処かが特別な日を送ってるだけに感じて、俺はただふつうの夜だったと思う。 それは君もそうかもしれなかった。 いや、引き篭もらずに仲間と舞踏会にいたか、それともガルグ=マクに来なかったか、沢山のそれぞれ(IF)があったと思う」

 

 

 

沢山の選択はあったが、旅団と生きる時期は全て団長が決め、大人が決める。 少年だった青年にとってやれることは少なかった。 でも小さな出会いを無責任に大きくして、苦しんで苦しませてしまった。 それを引きずっていた。 そして勝手にまた心の中で彼女を大きくしていく。

 

 

 

「でも、俺は、グロンダーズ平原の砦で、そのど真ん中で君の姿を見て、名前を呼んで、感情よりも先に答えが動いてた。 君を抱きしめて、数年の思いが落ち着いて、でもひとつだけがいつまでも残った。 ベルナデッタって女の子(想い人)が残ってた」

 

 

「!」

 

 

「ああ、そうとも。 俺は君が強く残ってた。 これがどのような形で残ってて刻まれていたのかわからない。 でも出会って、何かが訴えてた。 これまで旅団を探す役割は目的の遂行のために他を麻痺させていかもしれない。 よく分からないけど、堪えてるように歩いてたかもしれない。 そのくらい弱ってた。 でもある日悪友(フレン)に指摘されてからまたそれは動き出した。 本当に、セスリーンは傷を治すために傷を開きやがる……っ、でも、着々と痛さが芽生えて、それが痛いから、それは何故なのかを考えて、理解したんだよ」

 

 

「ユーク、様…」

 

 

「ッ、不謹慎かもしれない! 君に取って辛かった期間だったかもしれない! でも理解した! ここに来て君に打ち明けで今理解した! こんなにも会いたいは逢いたいで!愛おしさから来ていた! あの頃の救いたいはずっと強くて! 後悔もするほどに記憶から離れなかったんだ!」

 

 

 

青年は声を荒げる。

 

ああ、止まらない。

 

いや、多分止められないことを知ってた。

 

二度目の人生にてやっと初めての情動。

 

それは…

 

 

 

「ベルナデッタ! 俺はお前のことが好きだったんだ!!」

 

 

「!!!」

 

 

「俺はお前が好きなんだよ!!」

 

 

 

告白は女神の塔で行われる。

 

彼は勝手に想いを押し付ける。

 

でも仕方ないじゃないか。

 

数年間、その傷口を抑えてきた。

 

もうそれはただの薬じゃ抑えなんて効かない。

 

効くわけもない…

 

 

 

「俺は…色んな人に君を言われた。 グロンダーズでドロテアに、前からお茶会でフレンに、今日は旅団の先輩に、そして同い年の門番に、最後は過去の記憶()に、言われた」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「……ユーク様、ベルナデッタは、わたしは…」

 

 

「っ……! ご、ごめん! と、唐突過ぎた。 迷惑で困ったよな…? 本当に…その、いまのは___」

 

 

「私は、ユークリッドが『好き』と言ってくれて嬉しいですよ」

 

 

「!!」

 

 

 

ユークリッド・ラライヤは賢いのにバカな男だ。

 

こんなに強く想いを告げられて何も感じない訳がない。 なのにそれを本人の前で自己満足と斬り捨てて、それを言って恥じるなら抱えるだけにすれば良かったと要らない後悔をするバカな奴。

 

こうして数年積もらせた想いが響いたのに。

 

 

 

「ベルナデッタ…?」

 

 

 

ユークリッド・ラライヤは強いけれど弱い人だ。

 

自分がどれだけ弱り果てるのか理解しなくなる。 彼女のために強く振る舞おうとして結局は自分を締めて苦しんでしまうから。 それを贖罪として、彼女に出会うことを救いになるなど、彼女以上に自分を無意識に追い込む弱い奴だ。

 

でもそれは彼女に理解されて微笑まれる。

 

 

 

「ねぇ、ユークリッド。 私はとても…その、たしかに少しだけ困りましたね。 でも、私は本当に今は驚きながらも嬉しさが込み上げて、これは……あの時と似てます。 ええと…」

 

 

 

引き籠りになる前の雰囲気を纏う彼女は、青年の名を呼び捨てに言葉を告げる。

 

そして「ええと…」から頭を悩ませ、何かを思い出した。

 

 

 

「あ、そうです、アレです」

 

 

「…?」

 

 

「ええと……か、壁ドンされた時、ですかね?」

 

 

「……へ?」

 

 

「ほ、ほら、あの、後をつけた時に、曲がり角で…」

 

 

 

そして彼女も少しだけバカである。

 

いや、バカとは違う。

 

落ち着き過ぎるけど慣れない言葉を掛けようとして失敗する。

 

 

でもそれは彼にとって…

 

心地よく琴線に触れられたから…

 

 

 

「くくっ……くふっ…」

 

 

「あの…」

 

 

「くくくっ…ふはっ! あははは! なんだよ、それ! あははは!!てか、壁ドンの言葉この時代にどこまで広まったんだよ!! くあはははは!」

 

 

「ちょ、ちょっと! ユークリッド! ベ、ベルはですねぇ!」

 

 

「いや、本当に…いや、もう、お前って奴は、こう……ああもう!ちくしょう!」

 

 

「ふぇ!!?」

 

 

 

飾ることなど考えない。 言葉に告げたのなら行動で示す。 考えたのなら実行する。 決めたのなら遂げる。 父親から教えてもらったCQCの心技体。 それをいまは別の形で青年を動かす。

 

 

動かす…

 

 

その答えは…

 

目の前にいる少女を抱きしめることだ。

 

 

 

「あ、あ、ぁぁ、ゆ、ゆゆゆっ、ユーク、さ、さまぁ…?」

 

 

「大好きだ、ベルナデッタ」

 

 

「!!」

 

 

「お前が、大好きなんだ」

 

 

 

 

恥ずかしさもなく、告げたい事を告げる。

 

 

躊躇いもなく、送りたい事を送る。

 

 

それを受け止めた側はそれが本気だとすぐに分かる。

 

少女はゆっくりとその意味を体に溶け込ませ、すぐに答えが浮かんだ。

 

 

 

 

 

__私も同じなんだ。

 

 

 

 

 

 

「…………はい、ベルからも言わせてください。 ベルナデッタも、ユークリッドの事が大好きです。 今なら、何度でもはっきり言えます。 好きです、ユークリッド。 私も好きです。 あなたが」

 

 

 

少女は、引き篭もりで、怖がりで、世間を怯えて生きる自分を忘れて、今は想い人に気持ちを答えて、そして自分も抱えてた想いに応える。 昔みたいに躊躇いなきその純粋さには恐怖心が寄り添わず、素直な感情は抱きしめる青年に愛情を感じた。

 

 

 

 

「ベルナデッタ…」

 

 

「ユークリッド…」

 

 

 

抱きしめ合い、密着しながらも、互いに顔が見えやすい位置に首元を引き、共に見つめ合う。

 

引き篭もりでボサボサしてた彼女の髪の毛だが、女神の塔を照らす神秘的な蒼色によって晴明で、暗い部屋に篭ってたとは思えない色を塗る。

 

青年は少女のその髪を手に取り、顔をがよく見えやすいように前髪を耳元に絡ませて、かける。

 

それが"引き金"になる事を無意識に知る少女は心臓の音が大きくなる。 しかも今はこうして密着してるからそれが青年に聞こえることに恥ずかしさを感じる。 でもその眼には期待と恐怖心の二つが潤みと作られ、青年を待ち望む。

 

 

 

「…」

 

 

 

青年は少女の背中に手を回し、ここからは逃げれない、いや逃がさないことを伝える。 恐怖は少女の強敵で逃げてばかりだけど、今はそうじゃない。 少女は青年を待つ事で答えを表す。

 

そして何も邪魔することはなく…

 

触れ合う。

 

 

 

「んっ……ちゅ…んん…」

 

 

 

甘い時間が始まる。

 

青年と少女は深く口付けをする。

 

青年は相手が幼いことを考えず、強く触れ合い、少女は自分が幼い事を忘れて深く求める。

 

数秒か数十秒間か、互いにわからない時間が経過して、やっとは口付けから離れ合う。

 

最後に少し絡んだ舌は相手の味が纏って、ユークリッドはベルナデッタを、ベルナデッタはユークリッドを、その事実は口の中で絡んでいてそれは恥ずかしさとなる。 でも青年は喉を鳴らしてそれを飲み込み、軽く吐息をついて少女に笑みを浮かべる。

 

少女もその味が羞恥心を膨らませるから、静かに喉逃して青年を見つめる。 そして自分の頬に触れて確かめる。 頬が熱いこと、口元が緩んでいること。 そして伝う暖かい雫。 嬉し涙である事で間違いない。

 

 

 

「し、しちゃいました…」

 

 

「……ああ、たしかに奪った。 もし今もベルナデッタが部屋に出てる事が夢で、女神の塔にいる事が非現実的で、口付けした事が幻想だというなら、もう一回目覚ましてやろう」

 

 

「ふぇ? ………ええと…っ、はい! お、お願いします」

 

 

「え? …………お、お、おう……わ、わかった」

 

 

 

青年は恥ずかしさを誤魔化すために冗談を投げかけたが思ったのと違う少女の答えに戸惑う。

 

でもしかし…

 

 

 

「ぇ? あ、ち、違います! ええと! い、いまのは少し違いまして!」

 

 

 

恍惚故に答えたから、それが冷静になるととても恥ずかしくて仕方ない。 でもそれは潜めることを忘れた本心からの言葉で、それを理解する青年は呆気よりも嬉しさの方が大きい。

 

 

 

「いや、もう一度しておく」

 

 

「ふぇぇ!? ゆ、ユーク…んっ!? っ、んんん!んふっ…んっッ!!」

 

 

 

次は強く、情熱に、気持ちが乗り過ぎたけど青年は貪る。

 

少女は為すがままだが拒まずに受け入れる。

 

1回目よりは短い口付けだが、青年が上から少女を貪り、その両頬を固定していた。

 

それほどに熱が込められていたのだ。

 

 

 

「ふぁ……ぁぁ…ゅ、ぅ、く…さ、まぁ…」

 

 

 

恍惚に浸る彼女を胸の中に収めて青年は抱きしめる。

 

 

 

 

「…」

 

 

___たしかに今は自分は彼女と確かめ合った。

 

 

 

 

その事実は胸の中に収まるインデッハの少女が証拠となる。

 

 

女神の塔で二人は短くて濃密な時間を啜りあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆゆゆ、ユーク様! と、ととと、とても酸っぱくて、おおお、美味しいですございまする!!

 

 

「そのポテチ、プレーンな味だぞ?」

 

 

「!!? …え、ええと、し、刺激的な、あ、味だと思うのは私だけでござんしょうか!!?」

 

 

「時間的な意味では刺激的だったよ」

 

 

「ッ〜!! もう!! ユーク様ぁ!!!」

 

 

 

お口直しじゃないけどポテチを食べる俺とベルナデッタ。 互いに冷静になり、しばらく沈黙が女神の塔に流れたが、夜風によって音を鳴らす紙袋が存在を主張する。

 

ポテチの存在を思い出して「食べるか?」の第一声に対して彼女は頷いた。

 

そして今に至るが、味付けされてないポテチを持ってきた事が失敗だった。

 

 

 

「……ユーク様、あの…」

 

 

「待てベルナデッタ。 まずその『ユーク様』って呼び方はやめようか。 俺は『様』なんて付けられる存在じゃない。 せめて『さん』付けにして」

 

 

「! は、はい、ユーク…さん」

 

 

「よし。 慣れてきたらそのうち呼び捨てにしてくれ。 …で、何か言おうとしたような?」

 

 

「は、はい、ええとですね、その…さ、寒くありませんか?」

 

 

「そうだな、そろそろ戻るか。 まもなく舞踏会も終盤だし、終曲が流れるから踊りに行くか?」

 

 

「ふぇぇえ!? む!むりですよぉ! あの大衆うの中で踊るぅぅ!? いや! いやいやいや、公開処刑はご勘弁を!! い、いやー、あはは! 今考えると熱いですねぇ!! 熱いからまだ女神の塔から出なくて…くちゅん!!」

 

 

「風邪引かれたら引き篭もりが悪化するから戻るぞ」

 

 

「む、むしろ上等ですよ!」

 

 

「だめだ。 ほら、行くぞ。 音が聞こえる場所ならどこでも良いんだ。 それに…君は踊れるだろ?」

 

 

「ぅぅ…踊りなんてもう昔で、貴族の嗜みとして幼い頃に教えてもらったきりで、わたしには…」

 

 

「なら俺にリードさせてくれ」

 

 

「!」

 

 

 

そう言ってベルナデッタの手を取る。

 

彼女を女神の塔の螺旋階段に導き、下に降りて行く。

 

外に出て、木々を抜けて、賑やかな音が聞こえる館の近くまでやってきた。

 

どうやら外には人はいない。

 

いや、先ほどまで生徒か誰かしらいたようだが終曲が流れ出した事で館内に戻ったようだ。

 

そしてそこそこ開けた場所にやってきて、そこで立ち止まる。 ベルナデッタと向き合うい、上着を脱いで適当に引っ掛ける。 踊りやすい格好になるとタイミングよく雲に隠れていた月が顔を出す。 蒼白く幻想的に照らし、俺たちだけの舞台が出来上がった。

 

 

 

「すごい…」

 

 

「ここ、月がくっきり顔を出すと俺たちが立ってるところは星の形に影を作ってくれてね、案外知られてない」

 

 

「そうなんですね。 ここに長く滞在してたユーク様…じゃなかった、ユークさんの発見なんですね。 とても…素敵なところです」

 

 

「ああ。 いい場所だろ? 音楽が鳴らずとも心も体も踊れる。 でも今日は特に味付けされた最高の時間だからベルナデッタ、楽しもう」

 

 

「!…っ、はい」

 

 

 

終曲はクライマックスのところだ。 いま盛り上がりを見せている。 ガルグ=マク大修道院のお世話係として聞いて見てきた俺は記憶の限り足を動かし、そして旅団のお世話係として学んできたアドリブ力を活かし、彼女と波長を合わせる。 ベルナデッタも貴族の端くれで、嗜む程度に踊りはできるようでこちらに合わせている。

 

月が作り出す俺たちのシルエットはレンガブロックの上で踊り、動くごとに影が伸び縮みする。 とても楽しいひと時だ。

 

 

 

「…ふ…ふへへぇ…」

 

 

「緩みすぎだぞベルナデッタ」

 

 

「ふふ、ユークさんこそ足取りが軽いです」

 

 

「言ったな? アンコールまで付き合ってもらうからな」

 

 

 

踊りは人を元気にする。 だからベルナデッタは自分が引き篭もりである事を忘れて、俺は音楽と共に終わりまで楽しんだ。 ああ、これが俺の知ってるベルナデッタだ。

 

…いや、違うな。

 

この時のベルナデッタが、俺が最初に出逢った頃の感じであり、それが懐かしく思うだけで、今踊りを共にするベルナデッタは今も昔もは変わらない彼女ただ一人。 そうとも。 人は時が流れると変わるのは当然であることを忘れてた俺は愚かである。 例え、彼女が不運に歪まされても、彼女は昔の自分を忘れてない。 だから俺は彼女に口付けをしてそれを確かめた。 故に俺はそれを知って覚えて無ければならない。

 

ベルナデッタは…

 

いつでもベルナデッタなんだって。

 

そこに大差ないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉえ〜、あの子が、へぇ〜」

 

「シルヴァン! 覗き見はダメ! 戻りますよ!」

 

「なーに言ってんだよイングリット。 俺とお前は先生探しに出たんだから館内まで戻る必要無くて、そして進みたい方向に楽しいひと時の共有が踊りとなっている。 そこを通るためには邪魔しないよう終わるまで待つしかない。 それは致し方なぁぁく、だぜ?」

 

「バカなこと言わないの! ほら戻る!」

 

「イタタタ! く、首が、し、締まっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーにやってんだアイツら」

 

 

「ふぇ?」

 

 

「いや、なんでもない。 ところで楽しんで頂けましたか? お嬢様」

 

 

「え? あ、ええと、そ、そ、そうですね。 ご、合格点は出してあげましょう……です?」

 

 

「へぇ、疑問形になるほどその唇は固くなったか。 じゃあもうすこし緩ませてやろう」

 

 

「!? あ、え、ゆ、ユーク、さ、まぁ? え、ええと………そ、そうです…! う、受けて、立ちますとも!」

 

 

「へぇ、じゃあ遠慮無く」

 

 

「あっ……いや! やっぱり、待って、その…心の準備…が……んんっむ! …んん…」

 

 

 

今日の俺はどうかしている。

 

いやでも、多分飢えていたんだろう。

 

親にも会えない寂しさの下で、俺は愛情に飢えていたかもしれない。

 

それをベルナデッタに求めてしまうあたり、前世ならば社会的抹殺でも受けそうだけど、ここはファンタジーであることを言い訳に彼女をどこまでも啜る。

 

 

綺麗な満月が、フォドラの夜風が、別の俺を作り上げてしまった。

 

 

それを理由にして、今日だけ特別にした。

 

 

 

 

 

 

 

つづく





やっとこの小説でここまで来ましたね。
ベルナデッタとのイチャイチャ。
女神の塔だけではなく大人の階段すらものぼるベルナデッタ。


《初めてのチュウ》

多分、二人にとってプレーンのポテチ味。
綺麗な満月が後味を良くした。


てはまた
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。