飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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第18話

帝国歴1180年

 

 

 

「ちょっと、そこを退いて頂ける!」

 

 

「うおお!? マ、マヌエラ先生?」

 

 

 

馬小屋にいるマンディに会いに行こうと思い、廊下を歩いていると目の前から爆走するマヌエラ先生。 さらに女性として成熟に実った二つの山が上下に激しく揺れる……と、いうよりは怒りに瞳がメラメラと揺れる激しさは何かに急いでるよくに見えた。

 

 

 

「え? どう言う状態?」

 

 

「ユークリッド君! マヌエラはここを通らなかったか?」

 

 

 

ハンネマン先生?

 

あとベレスも一緒だ。

 

 

 

「ええと、淑女を投げ捨てた狂い無き爆走は素晴らしかったとしか…」

 

 

「やはりか! まったく! いい歳でそんなことを!」

 

 

「…ベレス、これは?」

 

 

「大変なことになった。 死神騎士がいることを聞くと追いかけ始めた」

 

 

「そうか。 じゃあ今すぐ行こう」

 

「それはそうしたいが、このメンバーでは心許ない。 しかしマヌエラは手隙の者を集めて向かうなど言ったが、そんな時間は…」

 

 

「この季節に一人で独走させるのは危険すぎる。 それにまもなく吹雪が予想される。 ならば今動ける俺たちだけで追いかけて止めよう、酷くならないうちに。 ベレス、ハンネマン、武器は?」

 

 

「ちょうど持ってる。 今すぐにでも行ける」

 

「ワシも魔道書は持ち込んでいる。 ともかく追いかけよう!」

 

 

「よし、俺もすぐ追いつくから先に向かっててくれ」

 

 

「案内は?」

 

 

「それは問題ない。 すぐ追いつくから走れ!」

 

 

 

それだけ言うと俺は士官学校の方に、ハンネマンとベレスはマヌエラ先生を追いかけに城下町を走り出した。

 

 

 

「ったく、冷静に考えればまもなく襲いかかる悪天候に対して死神騎士が外にいる訳ねぇだろ。 これマヌエラ先生も相当頭に血が上ってるな」

 

 

 

魔法の力と言うべきか、天候を知る気象予報士的な魔道士がいるわけで、大雨とか大雪が来るときは城下町に天候危機を呼びかけてくれる。 それがちょうど先ほど報告が街中に流れてきて、悪天候になる前にマンディに一眼会おうと思ったら、正面からマヌエラ先生だ。 あの脚力は若い。

 

 

 

「お、イングリットか。 横失礼」

 

 

「え? あ、はい」

 

 

 

馬小屋で自分の天馬のブラッシングをしていたイングリットの真横を通り、そして馬小屋に顔を出す。

 

 

 

「マンディ! こんにちは、そんで緊急事態!」

 

 

「ひひーん?」

 

 

「今すぐ力を貸して。 俺の恩人さんが危険な目に合う」

 

 

「!」

 

 

 

馬小屋の扉開け、壁とマンディに繋げられているロープを解除して外に招く。 マンディの翼がピーンと伸ばされ、窮屈から解放されたように伸び伸びする。 そしてこちらに視線を合わせて「早く乗れよ」と訴えているから俺は飛び乗り、軽く安全帯を通してマンディに指示を出す。

 

 

 

「や、やはり噂は本当だったんですね!」

 

 

「急にどうしたイングリット? …噂?」

 

 

「男でも天馬に乗る話です。 ユークリッドさんが連れてきた馬が天馬で、そしてその天馬と空を飛ぶ話を聞きました。 天馬が自分から男性を乗せるなんて本来なら異例なんですが、それを目の当たりにして驚いただけです。 ところで…あの、これからどちらへ?」

 

 

「若さを取り戻した爆走マヌエラ先生を追いかけにな。 その先で賊に出会ったりしたら危ない訳で、今から急いで追いかける。 ベレスも追いかけてる」

 

 

「そうなんですか!? それならなら私もご一緒に行きます!! イリア、行きましょう!」

 

 

「待て待て、武装は…あるみたいだな。 なるほど、上空警備の時の装備か」

 

 

「ええ! 先ほど終えたばかりでして、それで私の天馬のイリアをブラッシングしてたんですが、緊急事態でしたら今すぐに出ます! 武器もあります! なのですぐに追いかけますからユークリッドさんはお先に!」

 

 

「わかった。 ちなみにここから西の方だ。 言ったからにはすぐに来いよイングリット!」

 

 

 

俺はマンディに合図を出すと急発進。 久しぶりの上空に翼も心も羽ばたかせるマンディと共にベレスたちの後を追いかける。 そしてベレスとハンネマン達にはすぐ追いつき、その上を飛ぶ。 こちらの存在を認知しながら疾走するベレス、年配にも関わらず必死に追いかけるハンネマン……では無く、青獅子の級長であるディミトリと共に馬に乗せてもらってるハンネマンの姿が見られた。 どうやらディミトリはベレスの助けになってくれるらしい。

 

この状況は恐らくディミトリからしたら成り行きだろうが、ディミトリは心がイケメンだからベレスが「助けて」と言ったら助けるに決まってる。

 

 

おれ、詳しいんだ。

 

あの二人は女神の塔でイチャイチャしてたくらいだし、助け合いも当然なのは。

 

 

え? なんで知ってるかって?

 

ベルナデッタを部屋までエスコートする途中で女神の塔の方から良い雰囲気の二人の姿を見かけた。 それはつまり、そう言うことだろう。

 

おれ、詳しいんだ。

 

 

 

「お? 早いな。 もうイングリットも来て……は?」

 

 

 

おれは思わず後ろを二度見する。

 

イングリットはともかく、その後ろに乗る緑色の髪を靡かせる女の子の存在に気づいたのだ。

 

 

そして、その存在とは…

 

 

 

「おいおい、もしやアイツ付いて来やがったのか!? ガチでアウトドアしてるセスリーン(フレン)じゃねーか!あったま悪っ!!」

 

 

 

あまりにも予想外な同行だ。

 

そんでイングリットは乗せてしまったか。

 

恐らく「その話聞きましたわ!」とか言って強引に乗り込んだんだろう。 イングリットも困りながらも自学級の仲間から手掛かりれるのならと、同行させる方向にしてしまうだろう。 これにはセテっさんも頭痛めるだろうな。

 

 

でもこの状況で彼女の力があるとすごく助かるのは確かだから、付いて来たのは仕方ない。

 

今回の件でこき使ってやろう。

 

 

 

「マンディ! 下で一人地面を走るベレスを拾うぞ! ディミトリやイングリットの馬達と並走していこう!」

 

 

「ひひーん!」

 

 

 

そう言うとマンディは地面ギリギリに降り、俺は雪原を走るベレスに乗るように叫ぶ。 マンディはゆっくりベレスに近づき、そしてベレスは力一杯ジャンプする。 俺はベレスの手を掴んでその後ろに乗せ、ベレスから進むべき方角を確認。 ベレスは向かうべき方向に指差しで知らせる。

 

 

 

「こちらに流れてくる天候が悪い! 天馬を活かせる時間は短いから急ぐぞ!」

 

「わかった!」

 

 

 

雪が降らない限りはただ寒いだけで戦闘に支障はないが、それでも真冬の風を受けて疾るのは辛いだろう。 しかし魔法攻撃を和らげるほどの天馬が纏う優しい風のお陰で極寒に苦しむことはない。

 

大変なのはディミトリとハンネマンだろう。

 

天馬じゃないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むっ、何と言うことだ。 悪天候が近づくにつれ視界が悪い…!」

 

「マヌエラ先生は!?」

 

「上空からは視認できましたが降りてからは何とも言えません!」

 

「ディミトリ、イングリット、視界の悪いところであまり叫ばないで。 山賊達に位置がバレて総攻撃の恐れがある」

 

 

 

ディミトリとイングリットの焦るところをベレスが落ち着かせ、ハンネマンは周りを見渡す。 足跡を探すが、いろんな足跡があるためマヌエラを探すのに苦難してる。 そして色んな足跡とは明らかに山賊のだろう。 上空からも視認できた。

 

 

そして視界も悪い。

 

 

だからこそ俺とフレンは"とある手"を考えていた。

 

 

 

「ユーク、ここの気温はとても低いですわ。 だからこそあの手が使えますわ」

 

 

「そうだな、山賊から不意打ち受ける前に出し惜しみ無しだ。 そう言う意味では今回お前がいて助かったよ」

 

 

「ならお兄さまにお口添えよろしくですわ」

 

 

「めんどくさい。 青獅子の課外授業と言っとけ」

 

 

「ま! 薄情ですわ! …こほん、それでは久しぶりにやりますわよ。 一年前の地下でやったあの手を!」

 

 

 

俺とフレンだけしかわからないやり取りに皆の視線と疑問を集めるがディミトリだけが「地下だと?」と意味深に言葉を零しながら反応していた。そしてベレスもその単語に反応したと言うことはつまり、二人はどうやらあの場所を知っているのか。

 

 

しかし懐かしいな。

 

もうあれから1年も経ってるのか。

 

レアさんからイエリッツァと両成敗くらった時に罰として灰色の地下に向かわされた以来だな。

 

まぁ、今は思い出話よりこっちだ。

 

 

 

「この手が真っ赤に燃える!」

 

 

 

とあるセリフと共に【ファイアー】の魔法を拳にためて、平坦な地面に屈む。 そしてフレンは【リザーブ】の魔法を両手に込めて、俺の背後に立つ。 魔法の発動を終えるとフレンはこちらの背中に両手を添えて、そして解き放ち、俺は地面を思いっきり叩いた。

 

 

 

「「【ライブラリー】!!」」

 

 

 

ファイアーとリザーブの合成魔法。

 

それは『熱感知』の魔法だ。

 

フレンがリザーブの回復効果を下げる事で、通常よりも効果範囲を広くした結果、半径1キロメートルに解き放つことが可能。 更にそれを敵味方関係なく癒しの魔法にする。 セスリーンだからこそ可能。

 

そして俺はファイアーをリザーブの魔法に乗せることで癒しの魔法を受けた対象を『熱』で感知する流れ。 俺はライブを使えることを証拠に『信仰』の資質は高く、ウインドが使えるからこそ熱を感知する力が高まる。

 

「俺の風を感じてみないか?」って、どこぞの天馬を口説いた赤ソシアルナイトのセリフを思い出すが、今感じてるのはリザーブを受けた者の風……と、言うかそこには"(体温)"が込められてるからそれを熱風と言うべきか迷うところだが、まぁこれはどうでもいいとして今回お見せしたライブラリーの発動条件はリブローやリザーブと言った遠隔での回復魔法を使用しなければならない。

 

別に一人でライブとファイアーで器用に二つの魔法を使うことでも構わないが、範囲はとても狭くて発動時間がネック。 それに今回は多数の山賊がいるわけで広範囲に使う必要があった。 視界も悪く、明白な索敵が必要だったので正直フレンがいてとても助かった。

 

あともう一つ使用条件があるのだが、それは周りの気温が低く無ければならない。 この合成魔法は"熱感知"だから、周りの温度が下がってないと非常に分かりづらいのだ。 だから必然的に気温が低い夜、または冬だったり、陽の当たらない地下だったりと場所や時期を選ぶ。

 

どこでも使用可能ではないの。

 

 

ちなみに名前はちゃんと意味を込めている。

 

ライブラリーとは『図書館』を英語にした単語である。 図書館とはなにかを『調べる』場所であり、この魔法は『敵の位置を調べる』と意味を含む。 そしてこの魔法の根源は『ライブ』であるため"ライブ"ラリーの名前に被せてそうした。

 

一緒に考えてくれたフレンのお墨付きですわ!

 

 

 

 

「ディミトリ! 二時の方向にいる!」

 

 

「!? …見つけた! そこか!!」

 

 

 

ディミトリは持ち込んだ手槍を投げる。 その時にディミトリの手の甲から薄っすらと紋章が浮かびあがり、力が発動されたようだ。 その結果、敵の死角となっている岩を砕き、また遮る枝をへし折りながら威力落とすことなくソードマスターの腹を抉った。

 

 

 

「よし!」

 

 

「……はえ〜」

 

 

 

なんだあの威力。

 

投げたの手槍だぞ?

 

スレンドスピアと間違えたんじゃねーのか?

 

もしくは自分を手槍と思い込んでる一般スレンドスピアか?

 

いやいや、おかしい。

 

あんな威力を投げる奴が学生にいるのかよ…

 

すらっとした体型から放たれたとか思えない。 学生時代のホルストも今のディミトリと同じくらいだったけど、あんなのは流石に無かったぞ?

 

これがブレーダットの紋章か…

 

恐ろしい…

 

 

 

「ユーク、次はどこ?」

 

 

「おっと、悪い。 とりあえずザッと位置を報告。 まずは…」

 

 

 

本当は松明やトーチの魔法で光を放った方がやりやすいだろう。 しかし今回は俺たちが招かれた側となっており、しかも少数だ。 目が良い盗賊ジョブの仲間は一人もおらず、上空偵察も不可能。 この状況でクソ真面目に灯をともすなんてバカのやる事だ。 もしくは返り討ちにする自信のある奴がワザとやるくらいか。

 

しかし視界が悪くて困ってるのは敵も同じ。 陣を構えてるとしても俺たちが来た事を悟るのに時間がかかるだろう。 何せマヌエラに注目が集まってるからだ。 それならこちらが一方的に察知して強襲する方が良いだろう。 強襲に関してはベレスがそういうタイプだから、彼女に大凡の敵数と位置を教えて先陣を切らせた方が強い。 ディミトリも其れ相応に強いからベレスに合わせるだろう。

 

 

 

「ディミトリ! 行くよ!」

 

「ああ、先生!」

 

 

「ハンネマン先生、わたしからあまり離れないようにお願い致します」

 

「もちろんだとも、頼んだぞイングリット君」

 

 

 

それから敵の位置を教えると早速不意打ちとばかりにベレスとディミトリを先陣を切る。 ハンネマンが後方に付き、イングリットが遊撃に入る。 俺はフレンを護衛しながら三人とは別の方向に向かい、マヌエラを追う。 4人は賊討伐の囮であり、俺とフレンがマヌエラの救出だ。 しかし死神団か。 まぁそんなオチとは思ってた。

 

もしココに死神騎士がいるとしたら地形の悪さを活かして俺が一方的に攻撃してたところだ。 馬から下ろせば死神騎士とCQCの間合いに入って圧倒する。 もしホルストやイエリッツァ並みに死神騎士が強かったら考えどころだが、絡め手は俺の方が多い。 どうとでもしてやる。

 

 

 

「マヌエラ! こっちに来い!」

 

「マヌエラさん! お無事なのですわ!?」

 

 

「あら!? ユークちゃん!?フレンちゃん!?

 

 

 

弓兵を倒したマヌエラはこちらに振り向いて驚く。

 

孤立してるのに逞しい人だ。

 

 

 

「若作りは一旦終了だ。 仲間と合流するぞ」

 

 

「ちょっと!? 失礼過ぎやしません!?」

 

「ま! 本当にそうですわ!」

 

 

 

と、マヌエラに言うけど一番若作りなのはフレンなんだよなぁ……って、失礼な事を考えていたらフレンから軽くリザイアを受けた。 俺から体力を吸い上げる事でフレンは道中で切った手の甲を治療していた。 そんな俺は一瞬ふらっとなり、過去にライブで治療した古傷が少し開く。 古傷開くのはフレンが使うリザイアの効果だ。 リザイアだから命には関わらないけれど俺は文句を言いながら開いた傷口を舐めて血を止めていると、フレンからライブをかけられて傷が治る。 フレンから「はいこれで良いですわ」と不機嫌気味に言われるが、仲間をリザイアで吸ってライブで治療するそのやり方は人道を疑う。

 

それを友人にやるとかお前人間じゃねぇ!!

 

 

あ、こいつ人間じゃ無かったな。

 

 

 

その後、無事皆と合流してそのまま敵を殲滅。 敵の規模はやや大きかったが吹雪が来る前に俺たちが圧倒した。 やはり視界が悪くて困ってたのは敵も同じようでベレス達の強襲に圧殺された。 あと死神団と言ってるくせに雑魚だった。 視界が悪くて悪天候も近いのにペガサスナイトを使うとか、元逆賊のマイクランだったらこの起用に大笑いで貶すだろう。

 

 

あとディミトリが強い。

 

一騎当千とはまさにこいつの事だろう。

 

ホルストを思い出す。

 

 

 

「任務完了」

 

 

「?」

 

 

「ただのノリだよ、気にすんなフレン」

 

 

「ま! もしかしてリザイアで脳みそも吸ってしまったかしら?」

 

 

「失礼すぎる。 てか脳みそ吸うとかどこぞファンタジー5番目ラスダンの雑魚敵だよ、こえぇなオイ」

 

 

 

でも脳みそにリザイアは案外効果的なのでは? かなりエグいことだけど魔法耐性の無い奴なら一撃だろう。 例えばウォーマスターとか……いや、脳筋に考える頭は要らないから吸っても意味ない…か? あと使用者がセスリーンだと尚効果的だろう。 信仰の魔法が頗る得意し。 ヤバイ事教えてしまったか?

 

 

その後ガルグ=マクに戻るとマヌエラの事をなによりも一番大事に思うハンネマンが大声で叱る。

 

流石にマヌエラも悪いと思ったのか今回の関係者に頭を下げて謝罪。 俺を含めてみんなそれほど気にしてないようだ。 それと青獅子の子達は特別な課外授業という事でベレスについていき、同行したディミトリとイングリットとフレンは皆から羨ましいがられたとかなんとか。

 

 

ともかく、この件は無事で終えれたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにフレンは乗り気で脳みそリザイアの開発を考えた。

 

理由としては敵を傷つけずとも無力化できること。 そしてフレン限定に子煩悩なセテっさんの頭をどうにかできそうだから「アリですわ!」だと言ってくれた。

 

 

こいつヤベー奴だわ。

 

父親は1000年間どういう教育して来たんだよ。

 

そこらへんあとでホッキ貝お父様に……

あ、間違った。

 

キッホルお父様だったな。

 

……実はオレ脳みそ吸われてんじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カーペットの上で丸いテーブルを囲って紅茶の湯気が立つ。

 

ポテチも一緒にジンジャーティーとベリーティーだ。

 

 

「チャチャっと茶を飲むとしよう。 紅茶だけに」

 

 

「お茶が冷めちゃうな」

 

 

「うわっははは! それは飲みやすい丁度良い温度になるだろう!」

 

 

「あちちっ、…ぅぅ、早く冷めないかなぁ」

 

 

「猫舌ベルナデッタはゆっくり飲んで行け。 裁縫も持って来たんだろ?」

 

 

「ええ、もちろんですよ!」

 

 

「自分は次の仕事もあるのであまりのんびりはしてられないがな」

 

 

「俺も適当にやるのでアロイスも適当にどうぞ」

 

 

「適当にか。 お茶会にしては、ちとぞんざいな扱いだが、これはこれで…」

 

 

「俺は貴族じゃ無いので平民らしく紅茶だけ美味しく頂くよ。 さてと……」

 

 

 

そう言って木刀を取り出し、小さなナイフと鑢と蜜を置いて武器の手入れに入る。 あまり持っている武器を見せるのは得策では無いが、木刀と勇者の剣は腰と背中に装備しているものなのでこの二つは見られても問題ない。

 

他のは色々と仕舞って隠してるので、それは人目のつかないところで「イヒヒッ」と笑いながら手入れしてる。 例えば人斬りの剣魔(カレル)の噂を聞いた記憶喪失の海賊(ダーツ)も真っ青になるくらいの剣研ぎを……とは言わないが、生命線なので結構真面目に武器は手入れしている。

 

やはり噂は当てにはならんな。

 

 

 

「ふむ真剣に手入れしているな。 剣だけに」

 

 

「これ以上は紅茶を冷まさなくていいぞ」

 

 

「おっとお気に召さなかったか」

 

 

「そもそもお気に召す以前に少女に青年にオッさんの組み合わせなお茶会とかどんなんだよ」

 

 

「ふぇ?」

 

 

「なーに、私も平民だから適当にやるさ」

 

 

 

やはりこの人は大人だな。 おちゃらけ具合が激しいけど、でもちゃんと大人をしている。 でも騎士にしては優しすぎるんだよなぁ。 敵の命を伐つことに躊躇いが見え隠れさせているせいで、良く同行しているシャミア姉さんがトドメをさすことが多いらしい。 まぁ、アロイスがこのような性格のお陰でマイクランがスカウトされる結果になったが、大人ならば現実主義を持たないと子供や生徒を守れない。

 

大修道院の騎士ならば非情に立ち向かえないと。

 

 

 

「……アロイスさん、少し聞きたいことがある」

 

 

「む?」

 

 

 

俺はアロイスだけに話し声が聞こえるようにする。 ベルナデッタは床に座りながら機嫌よく裁縫だから邪魔しない程度にだ。

 

 

 

「前に騎士団の会話を聞いちまったけど、人が大きな魔物になるとか言ってたが……それは血生臭い何か?」

 

 

「……本当に紅茶が冷めそうな話だな」

 

 

「なんとなくだけど、俺は今後そう言ったことに関わりそうなんだよ」

 

 

「それは何故に?」

 

 

「帝国領に旅団の仲間がいるかもしれないからな。 そうなるとそう言った事に出くわす事もあり得る」

 

 

「なるほど、話の出先も聞いてたか」

 

 

「帝国が何かしらやってるのは前から知ってた。 それがガルグ=マクの騎士団の輪にも話が巡っているのならば本格的に警戒しとくべきかなって思ってな」

 

 

「………ここだけの話だご、一つ怪しい組織が存在するとの情報がある」

 

 

「やはり知ってんだな」

 

 

「ああ。 ユークリッドはルミール村の件の話は聞いておるか?」

 

 

「ベレスからある程度なら」

 

 

「ならばそれは真の話だ。 いまは闇のどこかでは何かが暗躍しており、その厄災はガルグ=マク大修道院にもいずれ降りかかると思われ警戒しておる。 野心に塗れた組織はこちらに刃を向けに来る日がいずれ……いや、違うな。 既にトマシュ殿が偽物として暗躍していた時点で大修道院は刃を向けられているんだろう」

 

 

「一度、全員の身体チェックとかを徹底した方が良いぞ。 正直な話としてトマシュだけとは思えない」

 

 

「無論だ。 シャミア殿を筆頭に係員や兵士を含め身体チェックを行なっている。 大司教様も賛成の意を述べている。 安心せい」

 

 

「……」

 

 

 

この人は大人だ。

 

大人だからこそ、視野と言う視線が高すぎる。

 

騎士団や職員、スタッフと言った"大人"にだけ絞った対応。

 

この大人達は子供達を守るために大人としての責務を全うしてる…が、しかし。 大人達は暗躍する存在に『子供』と言う枠を当てはめていない。

 

 

 

「……」

 

 

 

だから俺はひとりの少女だけを警戒する。

 

 

 

 

 

「モニカ…か」

 

 

 

 

 

俺のこの答えが当たっていた。

 

 

 

 

しかし…

 

 

 

 

【運命】とは変えることは出来ない。

 

 

 

 

俺は後にそれを知り、その意味を知らない。

 

 

 

 

フォドラの暁風は残酷なんだから。

 

 

 

 

 

 

つづく

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