飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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第19話

帝国歴1181年

 

 

 

 

 

生徒が化け物に変わり、そして命尽きると人の形に戻り、最後は絶命する。

 

 

 

____ああ、これが人体実験の…

 

 

 

(むご)い惨状をユークリッドは見て確信してしまう。

 

 

 

「ああ…こんなっ…こんなのって!!」

 

「アネット!」

「アン!」

「アネットさん!」

 

 

 

恐怖で頭を抱えてうずくまる女の子はアネット。 化け物に変わっていた一人の生徒は彼女の友人であることを理解する。 つい先月まで共に魔学を楽しんでいた。 しかしその友達は命尽きた骸。 その現実に耐えれず口元を押さえながら悲しみに崩れた。 そんな彼女を心配して寄り添うアッシュやメルセデスにその小さな背中をさするフレン。 人体を使った所業に憤りを持つディミトリ。 冷静さを保ちながら今も状況を分析し、敵殲滅を考えるシルヴァンやフェリクスにドゥドゥー。 そして生徒たちが混乱を起こさぬよう生徒よりも大げさに先陣へ立ち、正気を保つよう声をかけるベレス。

 

 

 

生徒が化け物になる。

 

 

普通(史実)ならば、遺産に飲まれて化け物と化してしまうマイクランの事件を見てこの現象を知る青獅子の生徒だが、生憎ながらとある"存在(ユークリッド)"のせいでマイクランの事件が起きないイレギュラーと化してしまい、初めて見る生徒達で沢山だった。

 

中にはガルグ=マクとは直接関わりない状況下(外伝とか)でこの現象を知ってる者もいるが、その対象が同じ生徒となると気分の良いものではない。 ただユークリッドは事前に噂として話を聞いてたので表情に驚きはない。 だが人道外れていた実験は真実である事を理解すると険しい顔に染まる。

 

そして、その噂の出所は帝国…

 

ユークリッドの中の警戒度は激しく高まった。

 

 

 

「皆! その場で固まるな!!」

 

「「!!」」

 

 

 

級長ディミトリの大声で仲間は正気に戻る。

 

戦闘は続行され、しばらく無慈悲と戦う。

 

顔色も、血の色も、穏やかではなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いを終えると状況把握に入るジェラルトとベレス。 そして成り行きで今回の討伐に参加したユークリッドは個人で場を捜索していた。

 

 

 

「完全に崩れてやがるな…」

 

 

 

化け物に追われていた全ての生徒を助け終えるもこの惨状にジェラルトが舌打ちをする。 それでも襲われていた人達が助かったのだから良しとし、壊された建物を後にする。

 

 

 

「すみませーん、置いてかないで下さーい」

 

 

「あん? まだいたのか。 ほら、早く戻れ」

 

 

 

赤毛の留年生。

 

その子の名はモニカ。

 

死神騎士の事件で"何故か"一緒に連れ去られていた卒業生の一人。 もう一度黒鷲に入学して卒業を考える生徒の一人だが、ジェラルトは彼女の事をよく知らない。

 

モニカは軽い足取りでジェラルトの横、または背後に回るように歩く。

 

危険な状況だったにも関わらず元気そう足取りにやれやれと笑みをこぼすジェラルトは油断していた。 もう襲いかかる凶器はこの場所には無いだろうと警戒を解いていた。 何せここには娘のベレスと、逃げ遅れた赤毛の生徒、そして自分だけ。 この場所も空けており、雪解けで周りは見渡しやすい。 矢でも飛んでこない限りは問題ないだろう。

 

もう無事だろう、そう決めつけたその時だ。

 

 

 

 

ザクっ

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

背中を貫かれ、心臓に刃の先が届く。

 

アサシンならではの手際よいひと突き。

 

いや、彼女はアサシンだから当然とした不意打ちだった。

 

 

 

「!!」

 

 

 

ベレスはモニカが懐から刃物を取り出す瞬間に気づくも間に合わず、その刃物を阻止できない。 貫かれた父は跪き、娘は身が固まる。

 

 

父が………死んでしまう?

 

 

 

 

『お主!』

 

「!」

 

 

 

ソティスの活によりベレスは正気に戻り、そして時間を戻す。 天刻。 ソティスによって使うことが許された力。 しかしこれまで手で数えるような回数でしたか使った事が無い。 なぜならベレス自身がうまく生徒を導き続けたから、あまり必要としなかった。

 

それでも天刻は使った事ある。 唯一記憶に強く残った天刻は、とある課題にて逸楽に飢えた死神騎士がベレスに迫り、その目の前に立ち塞がっていた生徒の一人を斬り払われ、半殺しに合う瞬間が起こった。 それを防ぐために天刻で戻し、ベレス本人から死神騎士に立ち向かった記憶が強い。

 

だからこそあまり使わなかった天刻の存在だが、それを覚えており、すぐにその力を使って父ジェラルトが刺される前の瞬間に戻す。

 

 

 

「蛇腹剣ッ!」

 

 

 

これでモニカの攻撃を阻止できるだろう。

 

 

そしてモニカを無力化させて、父を救う。

 

 

そう決めた蛇腹剣の一撃だが、何かに弾かれた。

 

 

 

「!?」

 

 

 

蛇腹剣の射線上に一人の黒ずくめが邪魔をする。 異端な格好をした不気味な男。 蛇腹剣の性能に「ほぉ」と感心しながらモニカに目をやる。 その奥で痛みに堪えながら跪き、崩れていく父ジェラルト。

 

 

 

「ッ!!」

 

 

 

ベレスは天刻で戻す。

 

 

次は直線上では無い。

 

 

横に曲げてモニカを斬る。

 

 

次は殺すつもりで。

 

 

ベレスは無力化を考えず、命を刈り取る勢いで蛇腹剣を放つが…

 

 

 

「なるほど」

 

 

「!!?」

 

 

 

タレスに邪魔される。

 

そして父は背中を突かれる。

 

これで三度目。

 

ベレスは自分の親を3回も殺めた。

 

 

 

「ッッ!」

 

 

 

 

天刻で戻す。

 

 

 

 

「父さん!!」

 

「!?」

 

 

これまであげたことないだろう彼女の声にジェラルトは驚くが、娘の視線の先に気づいて振り向こうとするが、モニカは即殺を決行。 振り向くジェラルトの右目を斬り裂き、怯んだ隙にジェラルトの心臓に刃を通す。

 

 

 

「が……は…」

 

 

 

これで、父を4回も殺めた。

 

 

 

 

「父さんッッ!!」

 

 

『お主! ベレス!! 落ち着くのじゃ!』

 

 

 

ソティスの言葉は聞こえてない。

 

そして天刻で時間を戻す。

 

もう泣き(じゃく)る子のように彼女は必死な天刻。 蛇腹剣を変則に伸ばす。 しかしタレスが闇の槍が蛇腹剣を切り落とす。 天刻で戻す。 即座にファイアの魔法で牽制する。 攻撃を察知して跳び引いたモニカに空かさず蛇腹剣を放つ。 しかし何処からか飛んできたドーラにベレスは突き飛ばされてモニカを阻止できない。 モニカはアサシンのような剣捌きで状況が読めないジェラルトを刺す。 だめだ救えなかった。 だから戻す。 しかし救えない。 刺される。 また戻す。 それでも救えない。 刺される。 またまた戻す。 けれど救えない。 刺される。 戻す。 救えない。 刺される。 戻す。 救えない。 刺される。 戻す。 戻す。 戻せ。 戻すんだ! 戻さないと!!

 

 

『お、ぬ…し、それ以上…は…ぐっ…』

 

 

 

力を使うと眠くなるものだ。

 

ソティスは間も無く10回目の転刻に意識が持っていかれ、眠りに落ちそうになっていた。

 

だが刻を戻しては刃に刻まされれる父の姿に、ベレスはもう冷静な判断は無い。

 

どうやっても救えない…

 

また天刻で戻す。

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

ほんの2秒ほどしか時間は戻らなかった。

 

何度も力を使い、その力は途絶えた。

 

だから中途半端に戻っただけだ。

 

ああ、間違えた…

 

何度も戻さず一度だけに全ての転刻の力を絞り、数十秒ほど大きく戻せばモニカの接触前からやり直せたかもしれない。

 

でも、もう、それは結果論。

 

父を救えない絶望に叩きつけられたベレスは蛇腹剣を手元から落としそうになる。

 

 

 

そして…

 

 

 

モニカの持つ刃がジェラルトに…

 

 

 

また殺され……

 

 

 

 

 

 

__ スパンッ!!

 

 

 

 

 

「!!??」

 

 

 

 

モニカの腕が吹き飛んだ。

 

 

 

「!?」

 

 

何かがモニカの真横を高速で通り過ぎた。

 

その物体は大木に刺さり、勢いが止まる。

 

至って普通の短剣だった。

 

 

 

「当店では連コインは禁止だ!!」

 

 

 

ひどく汗をかきながらも横槍に成功した青年。

 

10回目の天刻にてユークリッド・ラライヤが現れ、ジェラルトを救った。

 

 

「!?」

 

 

「ぁ、ぁ、ぁ! わ、私の腕がッッ!?」

 

 

 

状況把握に時間はかからなかったジェラルトはその場を飛び引き、ユークリッドの横に立ち並ぶ。 ジェラルトの「どういう事だ?」と言う視線にユークリッドは「死ぬなら老衰だろ」と冗談を挟む。 しかし殺されそうになった瞬間である事を理解したジェラルトは「そうか、助かった」と返した。

 

 

 

「!」

 

 

 

ああ…

 

父を、助けれた。

 

体から力が抜けそうになる。

 

 

だって救えなかったはずの父が助かり、そして救った人物はこれまでに無いほど信頼できる友人で、いまその隣に並びあって敵に警戒態勢を取る。 この二人が並べば油断も隙も無い。 無慈悲に殺されてしまう展開は遠退いたんだ。

 

 

よかった…

 

 

本当に良かった…

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、これは良くない結果だ」

 

 

 

 

真横から声が聞こえる。

 

タレスだ。

 

その手には闇の魔法が蠢いている。

 

 

 

「!」

 

 

 

ベレスは完全に油断した。

 

10回に渡った天刻にて、父の命を何度も奪わせてしまった罪悪感と味わった事ないほどの疲労感。 結果的に蛇腹剣を落として膝をついてしまう。

 

それが最大の失敗。

 

 

 

「闇に苦しむがいい、ダークスパイク!」

 

 

 

タレスの闇魔法がベレスの周りを覆う。

 

とても早い魔法攻撃。

 

これは……逃げれないだろう。

 

四方八方からベレスを闇の槍が狙う。

 

今から飛び引こうとしても不可能。

 

使い切った天刻に望みを託せない。

 

 

 

「っ」

 

 

 

これは間違いなく死んでしまうだろう。

 

 

だから死を覚悟をする。

 

 

父を救えた安心感で目を閉ざし、地獄の闇に叩き落とそうとする魔法が迫り、それを受け入れようとした…

 

 

 

 

 

 

 

何かに掴まれて投げ出された。

 

 

 

 

 

 

「まったく……お前って奴は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い頃…

 

大火事の中を走る父の腕の中を覚えている。

 

 

 

力強いその腕をわたしは覚えている。

 

その時の記憶が一瞬脳裏に浮かんだ。

 

 

本当に昔の記憶だ。

 

父にその腕の中で助けられた。

 

幼子の時から何度も…

 

 

 

 

「ぁぁ…!」

 

 

 

 

そして、それは今も同じようだ。

 

降り注ぐ無数の闇の槍の中に飛び込んだ父が、私を掴んで地獄の外に投げた。

 

昔と同じ、変わらないその腕で……

 

 

 

 

「い、やだ……」

 

 

 

 

 

 

___娘を守れた。

 

 

そのように表情を浮かべる娘を守った父。

 

 

 

 

 

「いやだぁぁぁああああ!!!!とうさぁぁぁん!!!!!」

 

 

 

生まれた赤子は泣きも叫びもする事無く、そして灰色の悪魔と恐れられていた彼女は、この日、本当に生まれて初めて泣き叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェラルトはその日…

 

闇に蠢く者たちの手によって命を絶つ……

 

娘の涙は大雨と共に流された……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりにも自分が情けなさすぎる。

 

モニカに関してあんなに警戒していて、それでベレスの父ジェラルトを殺させてしまった。

 

モニカの存在を暴こうとしたかったが、学生生活中に堂々と居座る彼女に接触しづらかった。 その上あのヒューベルトと言う男が立ちはだかり、モニカと会話すら挟めない。 どうやら俺に対して強く警戒心を持っていたようで、ヒューベルトも俺に対して強くマークしていた。 しかし互いにあまり荒事は起こしたくないため目で牽制する程度に間合いを測りあう。

 

俺としてはモニカが、俺の知るモニカではないことを確信していた。 だが他の職員達はモニカのことをよく知らない。 何せベルナデッタやマリアンヌのようにおとなしく、学生時代影がうすい存在だ。 去年の学園内の知名度はとても低い。 しかし俺は彼女と関わりがある。 気まぐれで訪ねて、ファイアーの魔法のコツを教えてもらい、習得まで面倒見てくれた恩人。 短い期間だっだ、俺は彼女がどんな子なのを知っている。

 

なのに記憶喪失からのアレはあまりにもおかしすぎる。

 

途中から俺の知るモニカの振る舞いをするようになったモニカだが、どうせ内通者が居るんだろう。 ユークリッドが士官学校に戻ってきたから、振る舞いに気をつけないと変化にバレるぞ…とかそんな感じ。 まぁ、俺はすぐにおかしいことを知ってたから意味を成さなかったが、ヒューベルトが俺の警戒度を急激に上昇。 これは敵として有能。 邪魔すぎる。

 

お陰で何もできなかった。

 

それならモニカの件についてレアさんに報告しても良かったが、冬に差しかかってからどこかそそっかしさを感じさせる大司教はなんだか怖かった。 それに、もしかしたらを考えて俺も下手を打てなかった。そもそもルミール村の件で知ったが、大修道院の中に"ソロン"って老害が紛れていたようで、あまりにもガバガバすぎる管理状況には流石に呆れた。 まぁ、3年間お世話係としてそこて働いてた俺も人のことはあまり言えず、それこそトマシュ(ソロン)との関係もそこそこあって話したことは何度かある。 しかし見事すぎる変装と言うか、何年も明かされる事なく完全に内側から破られた。 そのくらいの打撃を受ける醜態を晒したガルグ=マク大修道院の言い訳すらできない程の落ち度に俺は肩を落とすほかなかった。

 

なんならモニカに関しても特に追求は無く、ただ再入学を希望するその志に感服して再入学を了承したらしい。 いや、着眼点はそこじゃねぇだろバカ。 何で死神騎士の騒動で巻き込まれていて、しかも軽傷以下で済んでるのかもっと知るべきだ。 てか攫われていたのなら口封じに殺したり、なんならロクに食べ物も与えられずに痩せ細っていたとか、モニカのバイタル面の変化もあり得た。 そもそも卒業直後に失踪だが、それはもう数ヶ月も経過しているのだから彼女の生存率なんて低いに決まってる。 なのに軽傷だけで他はピンピンとしていたらしいし。 捕まっていたにしろ扱いが良すぎている。 学生だったモニカの知名度が低いにしろ、記憶喪失の理由も追求すべきだ。 このご時世でカウンセリングなどの理解性は浅いにしろ、もっとこう、なんかあっても良かっただろ…

 

 

この時のセテス達を無能だと思った俺は悪くない筈。

 

 

あまりにも疎かすぎたガルグ=マク大修道院の結果がジェラルトの死だ。

 

 

ああ、そうとも。

 

ここまで外道達に迫られていたんだ。

 

ならば…

 

俺なんかがどうにかできる筈も無かったんだ…

 

すべてあちら側が上手だった。

 

 

 

「けど納得いかないな、本当に」

 

 

『気持ちはわかるとも。 ワシも薄れる意識の中で見てきた。 しかし、この小娘がどうしようとも変わらなかった』

 

 

「運命ってやつか…」

 

 

『かも知れぬ。 ワシは絶対神では無い。 ただのソティスの心じゃ。 故に全てを理解してるわけでも無い。 けどジェラルトはあそこで死ななければならない。 そう世界が動かした』

 

 

「……俺もだけど。ベレスは納得いかないと思うから今はそう言うのは絶対に言うなよ。 あんなに天刻を繰り返して届かなかった。 その上、時を戻して父親を10回も殺させたんだ。 ジェラルトにとっては一度の死だけど、ベレスにとっては何度も……」

 

 

『わかっておる、わかっておるのじゃ…』

 

 

「…………」

 

 

 

 

俺はジェラルトやベレス達の近くにいた。 崩壊した建物の付近にいて、それで何度も発動される天刻を感じた。 何せ俺はベレスに時を止められても意識を持つ事ができる。 違う世界(前世)の時間枠に生きていたわけだからこの世界の時間枠に囚われておらず、ベレスが使う天刻に飲まれない。 肉体や物理的な干渉などは巻き戻ってしまうが時間の左右は感知できる。

 

俺と言うチャンネルが違うのだろう。

 

ベレスのリモコンに対応していない。

 

けれど流れている映像は同じ。

 

だから俺だけが動いている。

 

そしてベレスが何かやったことを認知する。

 

そう、それを何度も何度もあの騒動で認知した。

 

必死に巻き戻し、再び進み、また巻き戻し、再び進ませる。 彼女はそれを最終的に10回は行なっていた。 俺はその途中で状況を把握して、時間が巻き戻りながらもジェラルトをモニカ擬きから助ける手立てを考えて、天刻で戻させてしまう前に最短で何とかしようと奮闘していた。

 

 

いや、やることは一つ。

 

それはナイフの投擲。

 

そこにウインドの魔法を使った高速弾。

 

モニカの腕を斬り飛ばすことに成功した。

 

 

 

 

 

けれど運命を覆すことに失敗した。

 

いや、こうなることは決まっていた。

 

世界がジェラルトの死を決めていた。

 

ベレスが何度やってもダメだった。

 

ならば俺も無理に決まっていた。

 

俺はジェラルトをほんの少しだけ、生きる時間を伸ばしただけだった。 けれど何の結果も残らない。 モニカ擬きも逃してしまい、ジェラルトの骸にしがみつきながら大雨の中で泣き崩れるベレスだけがそこに残っていた。 俺は無力だ。

 

 

 

「ソティス、ベレスを頼んだよ。 お前だけが頼りだ」

 

 

『ああ、小娘のお守りは任せておれ。 お主もあまり自分を責めるで無い。 お主は本当に良く頑張った。 強い子じゃ。 ジェラルトが迎えるべき死を少しでも先延ばしにしたのはお主が運命を覆した証拠じゃ。 だから……ありがとう。 この小娘のために奮ってくれて』

 

 

「…ああ、本当に…なんでかなぁ…」

 

 

 

 

納得がいかない。

 

思わず涙が出そうだ。

 

彼女があんなにも頑張って家族に手を伸ばした。

 

伸ばしていたのに、世界が届かせなかった。

 

 

 

俺も未だ家族に手を伸ばせていない。

 

この数年間会うことすらも、話すらも無い。

 

その残酷さを理解している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠りついた夢の中でソティスとの対話を終えると不意に目が醒める。 まだ夜中だ。 疲れが取れ切れてないが、窓を開けて外を眺める。 まだ冬で寒い。 マヌエラの騒動直後に一度だけやってきた大吹雪以来天候は大人しくなり、ささやかな日光に照らされる毎日。 今日この日までただの北風だけがフォドラを冷やしている。

 

 

 

「ヘックション! …ぅ…冷えたか? そりゃ大雨の中泣き崩れてしまったベレスを背負って修道院に戻ったからな。 しばらくビショビショのままだったし」

 

 

 

一応ファイアーとウインドの熱風で乾かすことができるが、くしゃみするたびに強い熱風が吹き荒れ、イグナーツとハンネマンのメガネが一気に曇ったりと軽く被害が起き、ヒルダに「めっ!」されたので大人しく着替えた。

 

ちなみにベレスの冷え切った体をマヌエラ先生に拭かれ、着替えさせられると疲れ切ったのかベッドに倒れこみ、そのまま治療室で眠りついたらしい。 涙を流して泣くってのは彼女にとって慣れない感情だったんだろう。 その時はただの少女。 灰色の悪魔とはよく言ったものだ。 そのあとディミトリがベレスの部屋まで運んだ。 お姫様抱っこだってよ。

 

 

 

「……で、あれは誰だ?」

 

 

 

さて、たまたまだが闇に紛れてどこかに向かう一人の人間を見つける。

 

もしや不審者か?

 

だとしたら面倒だ。

 

みんなヘトヘトだってのに。

 

これ以上の騒ぎはゴメンだ。

 

 

 

「さーて、様子を見てくるか」

 

 

 

見つけてしまったのは仕方ない。

 

木刀と隠しナイフだけ持ち込み、そして捕まえるための毛布を折り畳み、片腕に収める。

 

窓から飛び降りて、影に隠れながら夜の士官学校をフラフラしている者の跡を追った。

 

 

 

 

こちらユークリッド。

 

スニーキングミッションを開始する。

 

 

 

つづく





《ジェラルト死す!!》

(ベレスの復讐まで)デュエルスタンバイ!!



ではまた
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