帝国歴1175年
「また会えるだろう。 互いに旅をしているなら」
「ありがとう、ユーク先生」
「だから先生はやめろって」
「おいおい、何俺の娘とイチャついてんだ。 そういうのはまず俺を倒してからにするんだな」
「やかましいぞ、ジェラルト。 …あんたも達者でな」
「ああ。 世話になった。 次はもう少し紅茶の入れ方マシにしておけ」
「わかったよ」
2週間前にグロンダーズ平原の近く出会い、1週間後にそして別れる。 そしたら3日後にジェラルト達と出会い、またしばらくの間拠点を共にして、またサヨナラをしてから1週間後に出会い、そしてまたしばらくの間拠点を共にし、そしてその場から旅立ってから、もう流石に出会うことが無いだろうと思われたその10日後にまたまた出会ってしまい、流石に旅する演劇団とジェラルト傭兵団は何とも言えない顔になった。 イタズラが過ぎるフォドラの風に俺は呆れると、互いに目的地の一致としていたので、半年間共に動く事になった。
ちなみにベレスは俺との再会するたびに無表情に喜んでいた。 半年も関わりがあったおかげが彼女の薄い反応も分かるようになってきた。 もし尻尾があったらシベリアハスキーのような灰色のもふもふだと思う。 そしてベレスは俺の暇を見つけるたびに格闘技を学び、いつしか『先生』と言っていた。 とてもくすぐったくて仕方なかった。
それでジェラルト傭兵団と演劇団の目の届く範囲でベレスから「ユークリッド先生」と言葉を投げかけられた時に感じる皆の優しい視線は何とも言えなかった。 そのかわり父親のジェラルトは何とも言えない感情を顔に出していた。 いや、お前が俺に体術教えろと言ったくせに男が寄り付いてると思って複雑な顔すんなや。 けれどそれほどに娘さんのことが大事なんだろう。 可愛いは正義。
しかし四六時中共にいたわけでも無い。
ベレスは傭兵だから拠点としている近辺から仕事を貰えば数日は姿を消す。 俺はいつも通り演劇団のサポートを続けながらジェラルト傭兵団の帰りを待ち、ヘトヘトな顔をしながら戻ってくるベレス達を迎えていた。
そして俺を見かけると尻尾ぶんぶんするベレス。
あからさまに元気を取り戻す彼女を見たジェラルト傭兵団はそれを癒しの一つにしている。 セラピー犬かよお前は。 更にセラピーに因んで回復魔法のコツも教えると使い方を理解する始末。 何なんだよこの子。 ゲームの主人公みたいな奴だな。
そんな感じに年代が恐らく同じくらいだろう俺の事を「先生」と言って懐いてくれた。 それでも近すぎず、でも遠すぎず、表情や感情がわからないから猫っぽさもあった。
犬なのか猫なのかこれもうわかんねぇな。
「そんじゃあな、ベレス」
「ええ、出来れば……また一週間後に」
「おいおい、俺たちは西で、君たちは東。 もう流石に混じり合わないって」
近い再会を願う彼女の懐きっぷりに笑い、背を向けて傭兵親娘の2人から去る。 俺は旅団に置いていかれぬよう急いで戻った。 そして、俺の言葉が正論であるから、それが彼女にとってツボでありおかしかったようで、残された笑いに釣られて…
「ふふ…そうね」
フォドラの暁風は笑みを彼女に与える。
「!? ……おい、いま笑わなかったか?」
「え??」
ジェラルトはベレスを見ていた。 でも、無自覚に零した彼女の笑みを、俺は見逃してしまった。
しかしそんなこと知るよしもない俺は次の旅路を行くのだった。
フォドラの春風はイタズラ好きのようだが、人の感情を豊かにさせる力を持ってるらしい。
帝国歴1776年
俺たち旅団はヴァーリ家が治める領地を拠点として構える事になる。 周りと比べて領地はやや小いが、ヴァーリ伯爵管理の元で治められている街中で今宵も演劇を予定しており、もうすぐ披露するだろう。 そこそこ有名な演劇団だかから、開始前でもお客さんは多い。 そして俺はいつも通り裏方に回りサポートとして今日も勤しむ……が、演劇開始前まで俺は前世の知識を使ってこんな事を行なっている。
「こんにばんは〜、演劇のお供にポテチはいりませんか〜?」
「「ポテチ???」」
ポテチとは、ポテトチップスの事だ。
俺はこれを売ってお小遣いにしている。
ソードマスターの母がプロ顔負けな芋の薄切りを作り、油で揚げる。 または炒める。 そして二年近く調味料同士の混ぜ合わせを試行錯誤して伝説の宝刀である『のり塩』に近い味を開発した。 しかしこの時代で胡椒の物価は高い。 まぁそれでも黒字だけどね。 当然ながらこの時代にポテチは無いし、新感覚のスナック菓子だ。 手を汚さぬよう木で作ったピンセットとかも別売りにして、清潔感を気にする貴族様のためにも開発した。 旅団のお世話の片手間に何となくやったがバカ売れだった。 やはりポテチでのり塩は最強なんやね。
これも包丁さばき最強の元ソードマスターの母がいたお陰だ。 母がいなければ開発は非常に遅れていた。 しかし本当にどうやってあんなに薄く切れるんだよ。 あの領域は刃を使い慣れてるソドマスだからこその技術だ。 上級職は伊達じゃない。
それはともかくとして、ポテチを知らない人は人生の1割近く損してるこの時代に、前世の喜びを振る舞うほかあるまい。 ただここまでくるとキンキンに冷えたコーラを飲みたい自分がいる。 しかし残念ながらまだこの世にコカコーラは無い。 なのでいつものようなジンジャーティーで我慢することにしよう。
さて、ポテチの売り込みを終え、自分用に残り一つを確保すると演劇の裏側に回ろうと足を進める。 ポテチ補正により足取りは軽い。
そして演劇が開始されればしばらくは俺の出番はないため、裏の方で待機しながらポテチ片手に演劇を眺めるつもりだ。 待機=休憩時間だから少しでもその時間を伸ばしておきたいものだ。
この感じは予定通り。
そして今から起こるラブコメ?は予定外。
ラブコメってほどでの無いが…
「わひゃぁ!?」
「うお!?」
曲がり角でぶつかる。 演劇が眺めれる側面にはあまり人が通らないが、いかにもコソコソ動いてるような子供が1人いた。 だいたいこのパターンだと旅団の高価な物を盗もうとする輩がいることがあるため、そのままCQCで地面とキスさせてやるところだが、あいにくポテチで片手が塞がってる上にこの子供の気配が感知できなかった。
そして頭一つ分低い子供の顔はこちらの胸元にぶつかり、情けない悲鳴が上がる。
さて、盗人か?
俺は声をかける。
「…さて、どちら様かな?」
「ど、どちら様? ええと、それって私?」
「そうだよ。 人通り薄きこの場に君以外いないぞ?」
「ええと……はい、そう、ですね」
全身を覆う茶色い布は頭も深くかぶせていたようだが、ぶつかった俺に顔をだけ晒してしまう。 女の子かな? それにしても表情はいかにも「見つかってしまった!」という顔だ。 そして慌てて布を被るこの子はどうやらやましさはあるらしい。
「で、君、ここに何用かな?」
「あ、え、ええと…あははは……いや、大したことではないですよ? とある人に隠れながらお散歩をですね…?」
「隠れてお散歩? それは見つかると大変なのかな?」
「え? …ええと、そ、そうですね………部屋に閉じ込められたり、椅子に縛り付けられたりと……その、結構…」
「…嘘は言ってないらしいな」
いや、急に重てぇよ。
なんだよ椅子に縛り付けるって?
それから彼女は白状するかのように喋り出すが、今日出会ったばかりの見知らぬ俺に淡々と打ち明け始めた。 そしてその間に演劇の前奏が始まる。 団員のサポートには親たちが控えてるため、俺の存在は必要ない事を理解していたから、この子の話を聞くことにした。
色々と事情を隠した上での話だが、それでもわかったことがある。 まずこの子がどこかの貴族の子であり、虐待的な教育に疲れて家を抜け出して来たらしい。 その時、演劇が街中で開かれる事を聞いてここまでやってきた。 姿を隠せる布を被って演劇団の裏方付近まで来たところで、俺とぶつかったらしい。
「あの、私のことは…」
「別に言わないよ。 ただ、ここまで苦労して演劇を見に来てくれたんだ。 けれど人混み激しいところじゃトラブル起こして見つかりやすいかもだから……そうだな、こっちに来なよ」
「ふぇ?」
布からちょこんと飛び出してる彼女の手を掴んむと彼女は突然の対応に驚き、戸惑いながらもそのまま引かれる手と共に流された。 そして裏方の天幕まで連れ込むと、俺はポテチで貯めた金銭袋を自分用の木箱の中に投げ込む。 ジャラリとした金銭の音に親たちは反応する。
「遅かっな、ユークリッド……む?」
「あらあら? ユーク、その子は?」
「本日のVIP様」
「ふぇ?」
「あらあら、歓迎しないとね」
「全く、また何か変なことをしでかす…」
変なこととはもちろんポテチの事。 けれど父さんはポテチを気に入ってくれたし、完成してお披露目時に「で、味は?」が第一声として投げかけられた。 やはりあんた蛇だよな? とりあえず俺がやることは一つ一つが変な事だけど、新たな試みは尊重してくれている。 母も無理なこと以外なら認めてくれる。 いい親の元に生まれたものだ。
「あの…無関係者なのにこんな特等席を良いのですか?」
「構わないよ。 なんなら一つ前の町では盲目の子供のためにせめて歌声と演劇の音がよく聞こえるようこの場所まで案内した事があったし、3年前はどこかの歌劇団志願者である平民の女の子のために、舞台の空気とやらを近くで感じさせてあげるために舞台裏に案内した事ある。 あと最近だと無表情な傭兵にもこの場を案内した事もある。 反応は薄かったがアレは性格故致し方ないね」
「そ、そうなのですね」
「そして君は非常に運が良い。 ここにポテチが余ってる。 これを食べながら是非見てくれよ」
「ポテチ! あっ! こ、これ! 食べてみたかったんです! い、良いのですか!?」
「良いよ。 あ、でも手が汚れ……ああ、そのままいったか。 んー、どこかハンカチあったか?」
「っ〜! お、美味しい! パリパリ音がして凄く美味しいです!」
手を汚してる事も気にしない勢いでポテチを食べてくれるこの子を見て微笑ましさが湧き上がる。 そして演劇を楽しみながらこの時間を喜んでこの子に俺は連れてきて良かったと思った。 そんな俺たちを後ろで眺めてる親たちは「もし兄弟がいたらこうなんだろうか?」と思っていたらしい。
そして演劇は無事に終了。
手を振ったりとファンサービスで盛り上がってうちに俺は天幕の中が忙しくなる前に彼女を外に案内した。 人目を警戒しつつ広場まで連れて、別れを告げる。 すると彼女は「あの!」っと呼び止めてきた。 あまり大声出すとバレるので「しー」と静かさを纏わせるジェスチャーで落ち着かせ、少し屈んで目線を合わせてあげた。
「ありがとうございます! こんなに良くしてくれて、私、凄く嬉しかったですっ」
「でもこの後大変だろ? もし部屋にいない事がバレたらどう誤魔化すんだ?」
「ええと、浴場で寝てたとか言えば何とかなるかと思います。 前にもそんな事ありましたから」
「それ間違えたら死ぬぞ?」
「わ、わかってますよぉ。 とりあえず、誤魔化し方はある程度思いついてるので、バレてもなんとかします。 それよりもこんなに親切にしてくれたので、あなたが初めてで、私すごくうれしいて、楽しくて、ッ、ほんとうに、ありがとうございますですっ」
「ああ、そりゃ良かった。 そんじゃ俺はそろそろ戻らないと」
「っ、あ、あのっ、まだこの街に、あなたはいますか?」
「んん? まぁ今節中はいる予定だが?」
「そ、そうなんだ……」
「?」
「っ、あ、あの! それよりも私! ベルナデッタっといいます!」
「え? ああ、君はベルナデッタと言うのか。 そういや自己紹介してないな。 俺はユークリッド・ラライヤ。 よろしくなベルナデッタ。 この街での【友達】は君が最初かな」
「!」
「そんじゃ…また、うまく抜けて遊びに来い。 ポテチと共に歓迎するよ、ベルナデッタ」
これがいけなかった。
「っ、はい!! ユークリッドさん!」
貴族との友達を作ったことがあるノリで、またこうして見知らぬ街で同じことをしただけなのに、これが俺にとって酷い物語の始まりである事を知らない。
フォドラの暁風は時に残酷である。
俺はそれを、まだ知らない。
つづく
この小説の第一部ではアンケートの結果でユークリッドの行先を決めたましたが、結果の決まった内容での再投稿なのでアンケートは無しです。
《この作品のベレス》
歳の近いユークリッドとの接触により原作よりも感情を豊かに出している。 元々冗談とか言える人であるが、それを言う相手が今まで無かったので、ユークリッドとの出会いは彼女にとって大きかった。 これなんてヒロイン??