飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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第20話

帝国歴1181年

 

 

 

「本日も異常ありです」

 

 

「地上も異常ありだよ」

 

 

 

さて、今から一年前にイエリッツァと死合った。

 

俺はイエリッツァの剣戟により右頬と右腕の全体と両手の皮を裂かれてしまい、イエリッツァは俺のCQCに鎖骨を痛めて片腕は脱臼する。 痛み分けと言う形で互いに怪我を負ったりと散々だ。

 

それから傷は治り、動ける状態になるとレアさんから両成敗としてガルグ=マク大修道院の地下に派遣させられ、逃げ込んだ賊の討伐命令を受けた事がある。 これが役一年前の話。

 

さて、皆はその場所を『アビス』と呼び、日の当たる地上でまともに暮らすことができなくなった人達が逃げ込む場所と認識している。 俗に言う世捨て人が集われる街。 ここには俺も何度か来たことがあるので「初めまして」ではなく「久しぶり」の感覚でアビスにやって来た。

 

あと地下の存在自体は噂程度で聞いたことがあり、ホルストと少しだけ探し回った事がある。

 

そんな謎の大きい地下の街だが、今回はとある用事があってやって来た。

 

 

 

「表にいる従兄弟は元気ですか?」

 

 

「ああ、元気に表で門番してるぞ。 お疲れ様です! 本日は異常無しであります! って」

 

 

「そうですか。 いつでも異常無しであることを願う限りですよ。 ですがここは常に異常ありが普通なんで、実際のところ異常ありは異常無しってことなんですね、ここ」

 

 

「日本語って難しい…」

 

 

「日本…語?」

 

 

「あ、いや、なんでもない」

 

 

 

さて、訳あって灰色の地下で身を寄せている門番と会話を済ませて階段を降りる。 すると毛布でグルグル巻きにされて担がれているとある人物からモゴモゴと声が聞こえる。 捕まって大人しくなったと思ったら元気になりだした。 おそらく今の会話で本拠地に連れられたことを理解したからだろう。

 

適当な樽の上に乗せて顔の部分だけ布を剥がすと大層ご立腹な顔が見られた。

 

 

 

「ちょっと! なんで出戻りですの!?」

 

 

「うるさい、あんな真夜中に『オッーホッホッホ!』とかどうにかしてんだろ。 色々あってみんな疲れてんのに空気が読めない奴だな」

 

 

「あら、私は空気を読むのではなく気分良く空気を感じに参った所存ですわ」

 

 

「気分が参ってるのは地上の人達だ。 ジェラルトが死んで、友人が泣き崩れて、仲間の心が沈んで、大変穏やかじゃないってのに問題起こそうとすんなコーンスターチ」

 

 

 

「コンスタンツェですわ!! 誰がトウモロコシの粉でしょうか!?」

 

 

 

頭いいのに頭わるいこの子はコンスタンツェ・フォン・ヌーヴェル。 今は訳あって平民の身である元貴族だ。 灰色の地下に住まい、稀に地上へ顔を出している。 そして今日の真夜中、徘徊してるセイロス兵を除いて皆が寝静まった大修道院にこっそり顔を出し、女神の塔に向かおうとしたらしい。

 

コンスタンツェが女神の塔に向かった理由?

 

 

 

 

 

___満月が見たかった、とさ。

 

 

 

 

 

 

 

かぐや姫かお前は。

 

 

 

 

 

 

「まぁ、見つかってしまったので今回は大人しく引くことにしますわ。 それにしても地下の行き方すらも知ってるなんてあなた何者ですの?」

 

 

「大修道院で3年間お世話係やってて、あっちこっち手を出してたらたまたま知ってしまって、そんでとある機会に恵まれてここに来た。 ちなみに俺の仕込みナイフ(毒の剣)はここから購入してるからちょっとした関わりを持ってる」

 

 

「物騒な人ですわね」

 

 

「お前が言うな」

 

 

 

あとコンスタンツェとは知り合い。 手で数える回数しか会ったことないが、稀に表に出て来ては外の空気を味わっている。 基本的には目立たないよう格好には気をつけているが、コンスタンツェに関しては一度だけうっかりさんで地下生活中の格好でそのまま来たらしく、その違和感に気づいた俺に見つかり、問いただされ、互いに顔を知った感じだ。

 

そして今日の真夜中に出てきて、たまたま俺に見つかってしまった始末だ。 さてはお前、幸運のステータスが低いな?

 

 

 

「寂しい夜空でしたわね…」

 

 

「?」

 

 

「私が表に出て感じたのはとても強い悲しさ。 一人ではなく沢山の人達から溢れ出る悲しさでした。 地下では知らないお辛い現実が襲いかかって来たんですわね…」

 

 

「…」

 

 

「あなたからも後悔が感じられますわ」

 

 

「……ああ、そうだな。 その通りだ。 だからいずれ、この後悔は何処かで晴らすつもりだ。 このままでは終われない」

 

 

「ええ、その通りですわ。 そのまま終わるのではない。 人は立ち向かえる足があるならば、その足で立ち向かわなければなりませんわ」

 

 

 

しかしコンスタンツェの言ってることは強い心を持つ人間しか成せない事だろう。 そしてなによりもその対象はベレスだろう。 だから彼女にとって、今節はとても苦しい時間を歩かなければならない。

 

俺は出来るだけ支えてやろう。

 

涙を知った友達を。

 

 

 

「とりあえず俺は地上に戻る。 なんだかんだでアホの相手して疲れたし」

 

 

「ア……ホ…? それは一体誰に対しての言葉でありますの?」

 

 

「お前以外にいないだろとうもろこし粉娘。 男でも無いのに満月見てオオカミ男の真似事起こしやがって。 こう、アホーォォっほっほっほ! って感じに真夜中を騒がせようとしやがって」

 

 

「と、ととと、とうもろこし粉娘ぇ!!? あとそんな下品な雄叫びぜっったいにあり得ませんわ!!」

 

 

「俺が止めなかったらどこぞの光の聖王女(ラーチェル)みたいな惨劇になってたぞ。 そんなことなったら俺は親切心(ドルズ)で『ガハハハ!コンスタンツェ様! 今宵も存在感を月夜に示しましたな!!』って盛り上げる必要が出てくるだろ」

 

 

「必要なのはあなたの鎮静剤ですわ」

 

 

「オメェが言うなし」

 

 

 

しばらく彼女の相手をして疲れたので、さよならを告げて別れる。 しかしせっかく地下に来たので久々に探索することにした。 なんなら市場で仕込みナイフ(毒の剣)が安く仕入れる事が出来るなら差し押さえしてもらおう。

 

 

 

「ここも久しいな」

 

 

 

次に武器専用のゴミ捨て場だ。 そこにも向かった。 ゴミ捨て場って名前はともかく、案外異形の武器が落ちている場所であり、現在2本目として俺が使っているコンバットナイフ(鋼の剣)も実はそこから回収した。 一本目のはイエリッツァとの死合いで壊されたが、この場所ですぐ同じようなものを見つけれたので俺的には嬉しい場所だ。 その後は鍛冶屋で修理して普通に使えるようになった。 修理代は壊したイエリッツァから無理やり払わせて今のコンバットナイフがある。

 

そんなわけでそこそこ思入れがあるゴミ捨て場だが、どれもたしかにゴミとなってしまった武器ばっかりだな。 今回見つけた中で一番良い代物は弦が千切れて使えなくなったキラーボウくらいか。 まぁ、キラーボウが必要と言うよりかは、キラーボウの【矢】が一番重要だけどな。 キラーボウが扱う矢があるなら別に鉄の弓でも撃ち放ってもい良いんだよなこれが。 上級職のスナイパーがクリティカルを出すのは、スナイパー専用の矢を使ってるからだし。

 

しかしキラーボウの矢の効力を最大限に活かすならやはりキラーボウ本体を使う方が良いだろう。 微調整の手間を除いて即座に射抜けるように調整された高級品だからな。 だがその代物を必要とせずにクリティカルショットを放てるのが上級職スナイパーの凄いところだ。

 

とある戦術評論家は上級職の勇者が10人と、上級職のスナイパーが10人が戦うと、勝つのはスナイパー側だと言ってたくらいだ。 流石に疑わしい話だが、どこぞの外伝世界では5マス先から主人公(アルム)が集中砲火で蹂躙させるのであながち間違いじゃないかもしれない。 ベルナデッタみたいな曲射能力が高い相手がいるなら正直避けて通りたい限りだ。 その考えなら俺もそうだし、特にシャミア姉さんとかはガチで相手にしたくない。 もしあのシャミア姉さんごキラーボウを持ち込んだとしたら真っ先に逃げてたいが、多分背中を見せた瞬間射抜かれるだろうけど。 …あかん、こんな薄暗い場所にいると変な想像と身震い止まらねぇ……てか、寒すぎんだろここ!?

 

そう思い、ゴミ捨て場から出て回れ右した時だ、とある人にぶつかりそうになった。

 

 

 

「とりあえず懐から金を盗もうとした事は感心ならないのでお前CQCな」

 

 

「ふぁ!?」

 

 

 

盗賊退治のためにCQC覚えた訳じゃ無いんだが、とりあえず顎を殴り、壁に向かって背負い投げ。 叩きつけられた強い音と共に盗人は撃沈した。

 

 

常に本日も異常ありですね、ここは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルナデッタ? 外に出たのか」

 

 

「あ、ユーク。 はい、お花を添えに…」

 

 

 

コンスタンツェのせいで若干寝不足気味な俺はカフェインを摂取しようと思い、どうせなら一人お茶会でも開こうと良い場所を探していたらベルナデッタを発見。 その両手にお花を持っていた。 あと食虫植物もほんの少しだけ。 ウツボカズラだな。

 

 

 

「ジェラルトの墓か」

 

 

「はい」

 

 

 

階段を降りて、ジェラルトが眠る墓の前までやってきた。 ベルナデッタが摘んできたお花を添え、彼女はお祈りをした。

 

 

 

「そういやジェラルトとは面識があるのか? 何か話したりとか?」

 

 

「え? …そうですね。 確かジェラルトさんと一度だけ話したことがありました。 私が料理してるところを小腹空かせてやってきたんです。 ジェラルトさん、体が大きからすごく驚いちゃって、それで食器を落としそうになったらところを支えてくれまして、それで同じテーブルで食事したんです」

 

 

「なるほど。 …怖くなかったのか?」

 

 

「アロイスさんと同じ感じがしまして、不思議と恐怖心はありませんでした。 大きな体に驚くだけで他は別に…」

 

 

「まぁ、あの人は確かにでかいからな」

 

 

「でも本当に良い人でした。 ……なんで良い人ばかりが死ぬんでしょう」

 

 

「…誰かのために動ける人間は、とある人にとっては不利益をもたらすから、その芽を摘み取ることで阻止しようとする。 だから良い人が悪い奴らの手によって死んでしまうのは珍しくない」

 

 

「っ…ユークは死なないでください。 ユークは私にとって良い人なんです。 だから…」

 

 

 

そう言ってベルナデッタは抱きしめる。 俺はその頭を撫でながら抱きしめ返す。 小さなからだから小さな震えを感じ、彼女が人一倍優しい女の子であることを再確認する。

 

 

 

「甘えん坊のベルナデッタ、俺はそう簡単に死なない。 やるべきことを果たすまで朽ちる事は許さず、君を置き去りにはしない」

 

 

「…」

 

 

「なぁ、ベルナデッタ。 白銀の世界が潜め、春の陽気が無邪気さを取り戻した時、俺は家族や仲間を探しにここを発つ。 また君から離れることになってしまうけど許してほしい。 でも約束する。 父と母を見つけ、そしてしっかりと『行ってきます』を告げたら真っ先に君の元へ逢いに行く」

 

 

「…うん」

 

 

「君もどうかその時まで健やかにしていてくれ」

 

 

「……とても寂しくなりますね」

 

 

 

彼女は泣いて引き止める……ことはせず、俺の悲しみと苦しみを理解してくれている。 家族や仲間のためにその足を進めなければならない事をベルナデッタは知ってくれている。 待つ事を選んだ彼女のために、俺は生きて成さなければならない。

 

 

 

「あらあら? ベルちゃん? あとユークちゃん? 寒いのにお暑ね」

 

 

「ぴぃ!?」

 

「ドロテアか、寒そうな格好だな」

 

 

「男を探すためですもん、いつだって格好に抜かりないわ」

 

 

「ド、ドド、ドロテアすぅぁあん!? は、はぅ…ぁぁあ、あぅへぇ…ぅぅ」

 

「おいおい、今頃恥ずかしがるか? ベルナデッタが俺にベッタリなのは既に知られてるぞ? 堂々としてろよ」

 

 

「ベルちゃんがこんなにかっこいい殿方を捕まえて、妬いちゃうわね」

 

 

 

しんみりとした空気はドロテアによって吹き飛んでしまう。 そんな俺はこのタイミングを見てベルナデッタとドロテアに紅茶のお誘いを持ち込んだ。 今日はベリーティーである事を知らせたがドロテアは暇じゃないらしく、男を探しにお誘いをお断りした。

 

ちなみにベリーティーと聞いて喜ぶベルナデッタに思わず笑みがこぼれる。

 

 

 

「花より団子のベルナデッタ、ここは寒いから俺の部屋まで向かおう。 そこでお茶会だ」

 

 

「あ、はいです」

 

 

「あ、その前に食堂でお湯作らないと。 先に向かっていて」

 

 

「い、いえ、私も行きます」

 

 

 

どこまでもベッタリな彼女を連れて食堂へ。

 

休憩時間のツィリルと暇()セスリーンを捕まえて今日は四人でお茶会。 俺の部屋ではなく食堂でそのままお茶会を展開していると、ローレンツとイグナーツが参加する。

 

ローレンツからはグロスタール家の自慢話から始まるお茶会だったが、俺が平民にも関わらず紅茶の飲み方、入れ方、茶葉に合わせた茶菓子を用意するなど、下手な貴族よりも貴族らしいお茶会の仕込みにローレンツは大変感心していた。 それで士官学校を卒業して領主になったら俺を雇いたいって。 それはまた難しい話だなとやんわり断った。

 

それからイグナーツは女神セスリーンの話をする。 聞いてる限りだと、どうやらイグナーツは女神セスリーンに惚れ込んでいるようで、彼なりに美化されていて、俺は笑いを堪えながらフレンに「だってよ、フレン」言えばフレンが皆に見えないように俺の足を踏みつけてそこからリザイア。 一瞬力が抜けて紅茶を腕にこぼして火傷を負ったりした。 ベルナデッタにものすごく心配された。

 

てか足踏みつけて人に接触する事でリザイアを可能にするなんてもう既に器用な事していて驚いた。 脳みそリザイア習得も間も無くだなこれ。

 

 

 

 

そんな感じに楽しいお茶会だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後、すっかり元気を取り戻したベレスの元にとある情報が届く。

 

 

 

 

 

___ジェラルトの暗殺を目論んだ集団が現れた。

 

 

 

 

 

父の敵討ちのために彼女は生徒を引き連れて向かった。

 

それが罠だとしても…

 

 

 

 

つづく

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