飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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第21話

帝国歴1181年

 

 

 

アサシンは敵の命を刈るプロ。

 

敵の影からの暗殺。 または正面からの滅殺。 それらを得意とする対人のスペシャルリスト。 それ相応の強さを不気味に秘めているのがアサシンだ。

 

だからアサシンは何一つ欠けてはならない。 目的の遂行のため、自分が持つ何かしらを欠けさせてはならない。 もし目や耳、そして手足を失った時アサシンに何が出来ようか? アサシンとしての本来の力を失い、存在価値を落とすだろう。

 

だからモニカは……いや、正体を露わにしたアサシンのクロニエは酷く焦りを見せる。 目の前で対立する青獅子の級長ディミトリの瞳に移される自分は『恐るに足らない敵』だと映し出されているから。

 

 

 

「ガキのくせに! ガキのくせにぃぃ! 両腕で戦えさえすればお前なんか雑魚に私が遅れを取るはずなどない!!」

 

 

「見苦しい奴だな。 叫んでばかりで言い訳しか出来ないのか? 例え貴様が両腕で戦えようとも俺はお前に負けない。 それとも片腕だけでは勝てないから諦めるか?」

 

 

「テメェェェええ!!!」

 

 

 

クロニエはジェラルトの暗殺時、ユークリッドによって片腕を跳ね飛ばされ撤退を余儀なくされた。 そして今日この日までは苦痛の毎日。 アサシンとしての価値を無くしたクロニエだが陽動程度ならと戦場に駆り出される。

 

しかし初めから最悪な状態は変わりなく追い詰められている事実。

 

そして先ほど更に手痛いダメージを背負った。

 

 

 

「ぐ…っ!!」

 

 

「もう使えないな、その腕も」

 

 

「黙れェェ!!」

 

 

 

クロニエは受けた痛みとともに叫ぶ。 まだ生きていたはずの片腕に出来上がった深い傷。 ディミトリが投擲したスレンドスピアを短剣で受け止めてしまったからだ。 冷静さを失っていた……ではなくて、力を見誤ったのだ。

 

クロニエはモニカとして変装してる間にディミトリの力を図っていた。 しかし学園生活を楽しむただの子供として認知すると危険度はそこまでになり、むしろユークリッド・ラライヤの方へと注意が向く。 だからディミトリの本当の恐ろしさをクロニエは見逃していた。

 

投擲された槍程度、避けるのは容易いことだ。 しかしディミトリのスレンドスピアはキラーボウが飛んできたかのような威力。 片腕を失って心情不安なクロニエに冷静な判断を下せず、防ぐことを選んでしまった。 その結果、もう片方の腕すら削ぎ落としてしまった。

 

それからすぐさま治療薬を口に含み、傷口に吹き付けて荒療治を行った。 それでも完全には出血は止まらず、圧倒的不利な状況に堕ちいていた。

 

しかしそれでも両腕は使えない。

 

 

 

「その程度か?」

 

 

「このぉ!!」

 

 

 

銀の槍で突いてくるディミトリの攻撃を回避して、クロニエは苦し紛れの回し蹴りを行う。

 

しかし…

 

 

 

「(……体が冷たい?)」

 

 

「!」

 

 

 

ディミトリは疑問に感じながらもその足を掴み、離さない。 固定された腕から逃れないクロニエの足からはギチギチと嫌な音がする。 クロニエは体を捻って抜け出そうとした、次の瞬間だ。

 

 

ゴキゴキゴキグギャ!

 

 

 

「ッッ!!??? いやぁぁああ!!!??」

 

 

 

なってはならない音が響き渡る。

 

肉と骨が複雑に潰れる音。

 

そうディミトリが握りつぶしたのだ。

 

握力だけで。

 

 

 

 

「ドーラ!」

 

 

「…」

 

 

 

飛んできたドーラの闇魔法に気づいたディミトリはクロニエの足を離してその場から飛び引く。 しかし、後退するディミトリの表情にドーラを投げ込んだ敵のメイジは「ひっ」と小さく悲鳴をあげる。

 

 

___殺戮の味を知る獣だ……獣がそこにいる!

 

___人殺しに躊躇いのない覚悟(増悪)を持った人間がそこに立っている!

 

___子供が何という表情を持つんだ…!

 

 

 

「鈍い!」

 

「ぐぁあ!」

 

 

ディミトリに怯んでいるメイジの脇からフェリクスが斬り込む。 そして敵メイジはその子供に恐怖を抱えたまま命を絶やした。

 

フェリクスはディミトリを見て舌打ちをする。

 

 

 

「おい、猪! 何普通に手を離してんだ!」

 

 

「奴は先生の復讐相手、俺はそれを手伝うにすぎん」

 

 

「チッ……聞いた俺がバカだった」

 

 

 

片足を押さえながらヨロヨロと撤退するクロニエ。 まともに歩けないだろう片足でディミトリから必死に逃げるクロニエは哀れとしか言い様がない。 今からでも追いかければ斬り殺せるだろう。 しかし…

 

 

 

「フェリクス、あれは先生のだ。 俺たちは周りを掃討する」

 

 

「……チッ」

 

 

 

従う道理は無いところだが、背後から苦し紛れに攻撃してきた敵を斬り落とし、そして周りにまだ敵をいる事を知ると舌打ちするフェリクス。 追いかけるよりはこちらに専念した方が正しい。 決して獣の言うことに従っている訳ではない。 要らぬ問答を斬りはらうようにフェリクスは敵勢に踏み込んだ。

 

 

「…」

 

 

天帝の剣を持つベレスとすれ違うように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピューーーーン

 

 

 

 

 

「着地」

 

 

「ぐふっ!!?」

 

 

 

 

理性あるゴリラは本当に強い。 そんなことを考えながらマンディから飛び降り、ベレスに追い詰められていたモニカもどきを踏んづけて着地する。 女性とは思えぬひどい声が出てきたけど気にしない。

 

 

え? ところでゴリラは誰かって?

 

ディミトリだよ。

 

モニカもどきの足が見てられない形にへし折れているけど、ベレスの話によればディミトリがただの握力で捻り潰したって。 間違いなくゴリラのヤベー奴だな、あのパスタ頭は。

 

 

 

「お前ぇ…! お前はぁ…! お前が! わたしの腕をぉぉお!!」

 

 

「うるさい、早よ死ね」

 

 

「ッ!? うぁぁぁっあ"あ"!!?」

 

 

 

地面倒れているモニカもどきの脊髄に向けてアサメイの短剣を振り落とし、剣先が背中に食い込む。 そしてその短剣を力強く踏んづけ、背骨を砕きながら刃をめり込ませた。 これでもう立てないだろう。

 

 

 

「拷問…?」

 

「いや、アサシン相手に拷問は意味なさない。 どうせ舌を噛んで死ぬだろうから。 ならその前に殺しておこう。 ジェラルトの仇だぞ、ベレス」

 

「……そうだな」

 

 

 

天帝の剣を構え、そしてモニカもどきの首元に刃を添える。 モニカもどきは声にならない声で激痛に悶えながら「助けて…助けて…」と繰り返す。 その度に俺はアサメイの短剣を強く踏み、刃を前後ろと傾けて助け声を黙らせる。 その度に背筋から血飛沫が上がり、モニカもどきに悲鳴が上がる。 しかし大声を出すと痛みが広がり、もうどうにもならない。

 

さっさと死んだ方がマシだろう。

 

 

 

「ジェラルトを刺したアサメイの短剣だ、わかるか? お前にそっくりそのままを返してるだけだ。 ああ、もちろん拾い物は持ち主の元に戻す。 ベレス先生は良く落し物を拾っては生徒に渡してるからな? それに見習って俺も返してんだ。 そんなわけだ、ジェラルトと同じように背中から返してやるよ。 痛いほどにうれしいだろ?」

 

 

「ぁ…ぁぁ……もう…いや…こ、…ころ、…し…て」

 

 

 

ベレスは天帝の剣に力を込める。 別にモニカもどきの声に反応した訳でもないが、ただベレスは親の仇を取ろうと天帝の剣で首を落とそうとした……次の瞬間だ。 俺とベレスはその場を飛び引き、ダークスパイクを回避する。

 

全ての攻撃がモニカに集中したようだが、それよりも攻撃の主だ。 ジェラルトにトドメを刺した闇の魔法だけあって苦い記憶が脳裏に浮かぶが、警戒を解かずに武器を構える。

 

 

 

「出たなトマシュもどき? あと目元に黒いマジックテープとかダサいから厨二病はもう卒業しろ。 しかも使用してるのが闇魔法で更に恥ずかしくなりそうだ」

 

 

「何を言ってるかサッパリだが、ぬけぬけと招かれたな。 さて、なんと言ったか? ここは死の森だったかなぁ? クロニエよ」

 

「ソ…ロ……ン…き…さ……ぁ…」

 

 

「生きてた…」

 

「ベレス、あの小娘は是非俺たちの手で殺してやりたいが目の前の老害から目を離すな。 絶対何かしてくる」

 

 

「ほほぉ、正しい判断だ。 だからこそ、その眼でよく見ておれ! 時は満ちた。 ザラスの禁呪よ、その(あぎと)を開くが良い!」

 

「かはっ…!」

 

 

 

既になにかを仕込んでいたのかクロニエが吐血する。 そしてソロンの手元のなにかを握り潰した。 あれは…クロニエの心臓か? そのタイミングでクロニエは生き絶えてしまい、遺跡の柱から闇の力が俺たちを囲う。 マンディの脱出…は、間に合わないな。 四方八方の闇の壁が密封して、ベレスと俺の体にまとわりつこうとする。

 

 

だから俺は叫ぶ。

 

 

 

「ベレス!ソティス!天刻!」

 

「!」

 

『ほれ来たのじゃ!!』

 

 

 

 

パリン!!

 

 

そして時は止まった。

 

俺もベレスも、ソロンもクロニエも、闇の力も、空を飛ぶマンディも、何もかもが止まった。

 

 

 

『ベレス、お前は天刻とか言う便利機能持ってんだからもっと活用しろ』

 

『……慣れない…』

 

『情けないのぉ。 お主が儂と意識を合わせなければ天刻の力は動かないと言うのに、そんなんでは自分自身を導けんじゃぞ?』

 

『…まぁ、不慣れなのは仕方ない。 それよりあの老害今なにを言った? そんでなにをやったんだ?』

 

『! …うむ、あれはじゃな…』

 

 

 

それからソティスにあの闇の力を聞いて軽く青ざめる。 見たところ元から抜き取っていたクロニエの心臓を犠牲にえげつない事しようとしたらしい。 そうなるとクロニエは捨て駒か。 まぁ知ってた。 片腕無くしてるのに前線に出されるはそう言うことだろう。 てかそんな噛ませよりも永遠と出られない世界? ベルナデッタが勘違いして喜びそうだがそんな生温い事では無いらしい。 そんでもってあと少し天刻が遅かったら時間の概念がない隔離された世界に閉じ込められ、天刻が意味なさない世界で永遠と死ぬまで……

 

うーん、5億年ボタン的なモノかな?

 

エグいのは変わりないが。

 

 

 

『……あのソロンって奴、天刻を感知してるよな』

 

『なぬ?』

 

『普通なら天刻で時を戻しても世界は同じ動作を起こすはずだ。 なのにタレスって奴はベレスがジェラルトを助けるための攻撃を悉く防いだ。 そんで目の前にいるソロンもタレスと似たような存在だったら、天刻を感知する方法を知っている筈。 俺と同じように天刻を認知してるかはわからないが、隔離する世界の禁呪を持つタレスなら、刻の歪みとか把握する力はあるはずだと見た』

 

『……それはあり得るな。 ならば今から刻を戻してもソロンは対策を立ててるはずじゃの…』

 

『俺とベレスに関してはな』

 

『わたしはともかくユークも?』

 

『ああ。 俺も天刻を把握してる。 ならばソロンは俺にもベレスと同じくらいに警戒してる』

 

『そう。 それよりもなんでユークはこうして話せるの? 刻が止まってるからあなたは意識は保たれても喋れない筈だけど…』

 

『そこら辺後で話したる。 それよりもソティスの力は長続き出来ないからいい加減刻を戻すぞ』

 

『わかった…で、どの辺りまで?』

 

『もう一回モニカもどきで遊べるドン』

 

『わかった』

 

 

 

そして時間は戻り、俺は体の感覚を取り戻す。 足元に短剣を踏んづけている感触を捉えた。 モニカもどき……じゃなくてクロニエの脊髄を貫き、背骨を砕いたところからだ。 とりあえずさっきよりももっと強く抉っておくか。

 

 

 

……いや、待てよ?

 

あ、そうだ。

 

こうすれば良いんじゃね?

 

 

 

 

「ベレス、お前は頭」

 

「わかった」

 

 

 

俺はアサメイの短剣を抜き取り、ベレスに投げ渡す。 そして俺は無いかもしれない心臓にコンバットナイフを突き刺し、ベレスはまだ生きている頭と脳みそにアサメイの短剣で突き砕く。

 

 

 

「がぁ"ぅ…………… … 、」

 

 

 

ジェラルトの剛体を貫いたアサメイの短剣だからこそクロニエの頭は簡単に刃が通った。 そして短い断末魔と共に絶命した。 どうやらその感じだとベレスの方は手応えはあったらしい。 俺は手応えなかった。 心臓無いからな。

 

 

そして…

 

 

 

「……随分と、変えてきたな」

 

 

 

警戒心を露わにするソロンは何もない空間から姿をあらわす。 そんなソロンへ見せしめとばかりにクロニエの遺体を端の方に蹴り飛ばし、最後はファイアーの魔法で着火。 チリチリと燃え始めた。

 

 

 

「儂は貴様が恐ろしい。 特にお前が恐ろしいユークリッド。 トマシュとして化けていた頃から見ていた。 お前は異常種だ。 このフォドラにて厄災となり得る存在」

 

 

「俺からしたらお前らが厄災そのものだけど。 さてソロン。 お前が持つクロニエの心臓は動いてるか? 術式を埋め込んだ生者が一人いなければ発動できないだろ? ならば…あとはお前自らの手で葬らなければ俺たちをこの世から消せないぞ?」

 

 

「……っ! この凶星どもが!!」

 

 

 

敵は手段を捨てた。

 

ソロンは魔道書を手に持ち戦闘に入る。

 

 

 

「マンディ!」

 

「ひひーん!」

 

 

 

俺はマンディに飛び乗り、上空から攻め入れるように動き、ベレスは正面からソロンに斬り込む。

 

しかしオート機能的なものがあるのか、近づくたびにどこからかダークスパイクの魔法がベレスを貫こうとする。 見たところ発動圏内はソロンから役二メートル付近。 そして天帝の剣を伸ばしても闇のバリアがソロンを守っていた。 俺も投げナイフで攻撃するが弾かれる。

 

…物理攻撃を防ぐ感じか?

 

なら…

 

 

 

「ウインド!」

 

 

「軟弱な魔法を!」

 

 

 

手で払われる。

 

 

 

「はぁぁあ!」

 

 

「生ぬるい!」

 

 

 

ベレスのファイアーもソロンのドーラにて相殺される。 俺たちの魔法攻撃はソロンからしたら軟弱であり、傷一つ与えることは叶わない。

 

 

 

「無駄だ、そう簡単に攻撃は受けまい!」

 

 

「そうか? 俺からしたら勝機は見えているぞ!」

 

 

「獣如きに何が出来ようか!」

 

 

 

いや、できるね。 今の攻防で把握した。 あの闇バリアは物理攻撃を弾く障壁だ。 魔法の攻撃は防がないがそれはソロン自ら相殺するだろう。

 

ならばやることは一つ。 マンディに指示を出すとソロンの真上を取り、俺は勇者の剣に手をかけて真っ逆さまに落ちる。

 

 

 

「俺を見ろォォ!!!」

 

 

「血迷ったか!獣が!!」

 

 

 

ソロンは地面に手を置き、そして魔法陣が生成される。 次の瞬間、ソロンを中心に闇の柱が俺に向けて打ち放たれた。 死神の目がギラリと輝くそれは中級の闇魔法の『デスΓ』だ。 この魔法に当たった瞬間、敵の首裏から破壊するような暴力的一撃に苦しむだろう。

 

しかし、勇者の剣の片方を抜刀して…

 

デスΓを斬り払った。

 

 

 

「なにィ!!?」

 

 

 

俺はソロンの2メートル近くまで接近したがダークスパイクのオート機能は発動されない。 どうやら別の闇魔法がオート機能の発動域に入るとダークスパイクは発動しないらしい。 しかしまだ闇のバリアが遮るだろう。

 

 

 

「っ、だが甘い! 儂には!!」

 

 

「マジックシールド!」

 

 

「!?」

 

 

 

俺はソロンに『マジックシールド』の魔法を使い、ソロンの周りに魔法攻撃を緩和させるバリアを展開される。 その結果、闇のバリアは光のバリアに上書きされてしまい、俺を遮る障壁は現れなかった。

 

 

 

「なんだとォ!?」

 

 

「光は闇より強し。 終わりだソロン!」

 

 

 

俺は着地と同時に勇者の剣を抜刀してソロンの両腕を斬り落とした。 しかしこれだけでは終わらない。 容易く攻略されたことで呆気に取られていたソロンのその顎にサマーソルトキックをお見舞いし、ソロンを吹き飛ばす。

 

 

「ぐぅぉぉ…!?」

 

 

 

ソロンは容易く蹴り飛ばされる。

 

そしてその先には灰色の悪魔が天帝の剣を構え…

 

 

 

「はぁぁぁあ!!!」

 

 

 

「凶星は…闇をも…払う、のか…」

 

 

 

天帝の剣が、ソロンを切断する。

 

 

 

 

この日、ひとつの厄災が葬られたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソロンを倒してからガルグ=マク大修道院に戻り、セイロス兵から事情聴取を受ける。 軽く説明を済ませ、結果としてジェラルトの仇を討った事を知らせると多大な感謝を受けた。 ジェラルトさん、すごく慕われているんだな。 本当に惜しい人を亡くしたもんだ。

 

それから解放されてフラフラと食堂に寄り、紅茶が飲みたくなる。 達成感に近い気分だったので少し高価な茶葉を淹れることにした。

 

すると…

 

 

 

「ベレス、お疲れさん。 やっとレアさんとの話は終わったらしいな」

 

 

「ええ、私も含めてみんな疲れてるから長話はほどほどに終わらせた。 今日は学級指導も無しにしてすぐ体を休めるようにだって」

 

 

「事後処理はセイロス兵達がやるみたいだから存分に休めるぞ。 ところで紅茶飲むか?」

 

 

「飲む。 ユークが淹れてくれてると思ってきたから」

 

 

「おっと、招いちまったか。 なら淹れないと失礼だな。 ジェラルトの敵討ちを祝ってベルガモットティーにした。 お前の父さんがそこそこ好んで飲んでいた茶葉だ…」

 

 

「そうなんだね。 ところで何か食べれる物ある?」

 

 

「スコーンが余ってる。 食べるか?」

 

 

「ええ」

 

 

 

生徒の前では先生の姿勢を見せるが、俺の前ではただの友人として落ち着くベレス。 今回の騒動で疲れ切ったベレスを労わるようにベルガモットティーとスコーンをテーブルに並べ、それぞれ紅茶に口をつける。

 

 

 

「ベレスの生徒が無事で良かった…と、言うよりか青獅子の生徒は皆強いな。 敵は荒事に慣れた集まりだったのに青獅子の生徒はしっかり連携をとって敵の殲滅を捗らせていた。 ベレスもあそこまで良く鍛えたな」

 

 

「みんな、優秀な子たちだから」

 

 

 

ソロンとクロニエを討ち倒した後、生徒達の元に帰還するベレス。 無事な姿で戻ってきたベレスてんてーに喜んだ生徒達に囲まれていた。 特に級長のディミトリが敵討ち…と、言う名の復讐が無事に終えた事を聞くと、自分の事のように喜んでいた。 なんか怖い人だなぁ、このファーガスの殿下は。

 

 

 

「ねぇ…どうやったの?」

 

 

「え? 何が?」

 

 

「デスΓを斬り裂いたりしたよね? 勇者の剣はいい武器だけど、でも魔法を切り裂くような芸当ができる武器じゃない。 どうやったの?」

 

 

「ああ、ソロンの攻略法か。 あれな、マジックシールドだけ使って対処した」

 

 

「闇のバリアを上書きしたアレ?」

 

 

「それもだけど、その前もマジックシールドで補助してゴリ押しの準備していた」

 

 

「どう言う事?」

 

 

「そのままの意味さ。 魔法攻撃が得意な相手がいるなら、こちらは魔法耐性を上げて突っ切れば良いんだと脳筋思考でね?」

 

 

「でもソロンの魔法力が上回る筈だよ? 魔法職じゃないユーク自身が魔法に対する防御力があるとは思えない。 なら何か絶対カラクリがある」

 

 

「ご明察。 じゃあネタバレだ。 まずマジックシールドは俺じゃなくて"マンディ"にマジックシールドしたんだ」

 

 

「え?」

 

 

「もとよりマジックシールドは自分自身に使えないことは知ってるな? ライブと同じ」

 

 

「うん」

 

 

「それならばマンディに使えば良い回答に至った」

 

 

「ごめん、意味がわからない」

 

 

「まぁ聞けって。 まずマンディにマジックシールドで魔法耐性を上昇させた。 元々天馬として魔法耐性が高いから更に魔法耐性が底上げされ、それはソロンの闇魔法の威力を半分以下にするだろう。 しかし俺自身が魔法耐性を上げた訳じゃないから俺はソロンの攻撃に葬られてしまう。 だから、これを使う事にした」

 

 

 

そう言った道具袋からとあるものを取り出す。

 

 

 

「これは……糸?」

 

 

「そうだ、糸だ。 まずベレスは『オーラナックル』や『マジックボウ』って武器を知ってるか? サンダーソードと同じように使用者の魔力を攻撃力に変換する武器でな、使われている素材の一部であるこの魔法糸を使った。 この魔法糸は使用者の【魔力】に関する力をより伝えやすくするための素材だ」

 

 

「うん」

 

 

「これをマンディの前足に巻いて垂らして俺の小指に巻く。 これでマンディの魔法耐性を俺に引き継がせた」

 

 

「そんなことが可能なの?」

 

 

「可能だ。 ベレスはペガサスナイトがなんで魔法耐性が高いから知ってるか?」

 

 

「知ってる。 天馬が纏う風をナイトが身体中に纏わせているから。 これがまず大きな理由の一つ。 また天馬騎士が天馬から降りて地上で戦っても天馬の風を纏っているからしばらくの間なら魔法耐性が備わっている…だよね?」

 

 

「その通りだ。 ペガサスナイトは愛馬となる天馬と一心同体の関係を築き上げ、天馬の加護()を纏わせ、魔法に対して怯まない強味を持つ職業であるのは古来から知られてる力だ。 しかしだ、俺はペガサスナイトではない。 一心同体では無い。 マンディとは仲良しだけど、俺は天馬騎士と言える器でも無い。 ペガサスナイトと胸張って言えない。 だが、これが悲観する理由にはならずむしろソロン討伐の追い風となったんだ」

 

 

「…」

 

 

「一心同体では無い。 俺とマンディはバラバラなんだ。 そう、俺たちは個別だからこそそれぞれ【ステータス】を持っている。 これがポイントだ」

 

 

 

一旦話を止めてベルガモットティーを注ぎ足し、角砂糖を一つ入れる。 スコーンを頬張りながら目線で話を催促させるベレスに苦笑いしながら一つ口紅茶を含む。 もう一つのカップにベルガモットティーを注いで渡したあと話の続きをした。

 

 

 

「俺はマジックシールドをマンディに展開させたと言ったな? そしてマンディの底上げされた魔法耐性のステータスを魔法糸に伝わせた。 天馬の加護()としてな?」

 

 

「…」

 

「まさか…」

 

 

「察しが良いなリシテア。 そう一心同体の『掛け算』ではなく個別の『足し算』にしたんだ。 俺とマンディの二つのステータス(魔防)を合計させた魔法耐性はソロンの魔法攻撃を容易く上回った。 さらに味付けもしてある」

 

 

「味付け」

 

 

「ああ。 俺自身にマジックシールドが使えないので、アイテムの『聖水』を使って魔法耐性を上げた。 そうなると以下の通りになる」

 

 

 

 

*個人の魔防はあくまでおおよその数字である。

 

『マンディ』の魔防【20】

マジックシールドの強化で魔防【7】

[ 20 + 7 ]=【27】の魔防ステータス

 

『ユークリッド』の魔防【10】

聖水の強化で魔防【6】

[ 10 + 6 ]= 【16】の魔防ステータス

 

魔法糸でマンディの魔防ステータスをユークリッドの魔防ステータスに『加算』する。

 

その結果…

 

[ 27 + 16 ]=【43】……で、更に。

 

 

 

「あと俺の懐にはアンナ商会から輸入させてもらった『魔除け』があるので、これをプラスαとしたら…」

 

 

[ 43 + 2 ] = 【 45 】の 魔防ステータス

 

結果として、その時のユークリッドには【45】の数値が叩き出された魔法耐性を手に入れた話になります。

 

 

 

「紙に書くとこんな感じだな」

 

 

 

「………」

 

「ええと……すみません。 あなた馬鹿ですか?」

 

 

「いえ、鹿でなく馬ですが? なんなら天馬だ」

 

 

「そういうことではありません! どうしたらそんな裏技じみたことを思いつくのですか!? あとスコーンもらいますね!」

 

 

「どうぞ。 お供にオレンジジャムはいる?」

 

 

「要ります!貰います!」

 

「リシテア虫歯になるよ? それでユーク、実際にそうなったと言えるんだよ…ね?」

 

 

「さっきも言ったように、ペガサスナイトは天馬と一心同体。 だから個人個人の魔防計算が起きない。 でも俺はペガサスナイトじゃないし、マンディとは別々なんだ。 だからマンディ個人の天馬の加護(27の魔防)をオーラナックルの素材に使われる魔法糸から直接貰い受け、頗る高い魔法耐性(45の魔防)を得ながら武器にもその力を伝せてソロンのデスΓを切り裂いた。 それだけの話」

 

 

「…ごめん、頭おかしいとしか言葉が」

 

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

 

 

かなり面倒なやり方だけど、糸で繋ぎ合わせている状態ならば中級職の魔道士なんか怖くない。 トロンなんか痛痒い程度に収まり、魔法を切断するロマンなんか可能だったりする。

 

 

 

「さて、頭痛くも納得してもらったところで、最後はソロンの闇バリアについてだが、アレもマジックシールドで上書きしてやった。 マジックシールドは信仰の魔法で、信仰は『光』の力だ。 相性的に闇を打ち消してしまう単純理論を持って闇のバリアを上書きしてやった。 ファイアーやウインドといった攻撃魔法は相殺されたりと打ち払われるが、流石に補助魔法は振り払えないよなぁ?」

 

 

「うわぁ、仲間の強化手段をそんな形で敵に使うなんてクロードすら思いつかない事ですよ。 あ、これ褒めてますから」

 

 

「そうなの? あ、ブルベリージャムもあるぞ」

 

 

「要ります! 早く下さい!」

 

「リシテア? 糖分の取りすぎは体に悪いよ?」

 

 

「とりあえず一瞬だけでもバリアを無効化できたらのならばあとはこっちのもの。 間合いに入れば魔道書を持つ手と魔法の放出先になる手を切り落とすために双剣で切断。 クロニエとお揃いに両腕なくて、ジ・エンドってね」

 

 

「……敵に回したくない人」

 

 

「お前が言うな。 俺もベレスを敵に回したくねぇよ」

 

 

 

みんな忘れてるかも知れないけどこの人は灰色の悪魔と言われる傭兵だったんだぞ? 格闘戦なら勝てるけどそれ以外だと勝てないし、ベレスは敵には回したくないね。

 

 

 

「もうこれ今日の夜ご飯で良いですね。 もぐもぐ…」

 

 

 

「あといつのまにかリシテアがいる」

 

「今頃かよベレス」

 

『疲れすぎじゃな、小娘……しかし儂も眠いのじゃ…』

 

 

 

でも魔法糸を使った戦法だが…

 

これ、実はベルナデッタのお陰なのだ。

 

いまこんな感じにお茶会をしていたある日、ベルナデッタの趣味である"裁縫"を眺めていた時の話だ。 ベルナデッタが馬の縫いぐるみを作り、その馬の縫いぐるみの足の糸がほつれ、その一本が長く伸び出て、ベルナデッタの制服に静電気で引っ付き、紅茶の入ったティーカップに糸が染み込み、紅茶の色に糸が染まって……ここビビっときた。

 

これを見た時は本当に衝撃を受けたものだ。

 

この方法があったか!!? と固まって、一緒に飲んでいたローレンツとイグナーツから心配されたくらいに衝撃だった。

 

元々低い魔法耐性にマジックシールドで重ねても魔法耐性が低いままならば、高い魔法耐性の奴から貰えば良いじゃない作戦を思いついた。

 

一応この話を天馬騎士のイングリットに話してみたが「…はい?」と言われた時は確かに「何言ってんだこの人」みたいに思われたけど、でも道具揃えて一度やってみたら可能だった。 とんでもない戦法は裁縫だけに編み出されるとは思わなかったもんだね。

 

それでこれ、ソロンだけじゃなくて他の魔道士にも効果的だからかなり強力な戦法になるだろう。

 

今回でそれがよく知れたものさ。

 

マジでありがとう、ベルナデッタ。

 

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

「ベレス…」

 

 

「?」

 

 

「色々とお疲れ様」

 

 

「……うん、ありがとう、ユーク」

 

 

 

 

 

 

ジェラルトの仇を討ち終えた1日だった。

 

 

 

つづく




《モニカ》
賑やかな周りと違って存在感の薄い一人の女子生徒でしたが、ユークリッドにファイアーの魔法を教えてあげたりと、ユークリッドにとって初の攻撃魔法を習得する瞬間に立ち会ってくれた恩人。 鷲獅子戦で被害にあった可哀想な子。 闇うごに暗殺されたりと可哀想な子。 クロニエ討伐後、モニカが亡くなったんだと理解して内心悲しむユークリッドだった。


ではまた
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