飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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第24話

帝国歴1181年

 

 

バリスタを制圧後、ガルグ=マクから派遣されたセテス達によって西方教会の連中は無事に叩きのめされた。 ベレスやセテスを筆頭にセイロス教団の高い練度を相手に西方教会は何も出来なかった。 しかも回復床で生き地獄とか哀れ極まりない。 参戦した俺も片っ端から千切っては海水に投げて、なんなら関節外して海の底に沈めてたり、頭から砂浜に埋めてやったりもした。 人間ワカメの完成だ。

 

ちなみに頭からといえばフレンに関してもだが、アレの開発に半分ほど成功していた。 それは敵の頭に対して脳みそを吸い込むリザイア攻撃だ。 実際に脳みそを吸うことは無いのだが、魔防が皆無な相手ならば一瞬で意識を奪って昏睡の底に沈める恐ろしい技。 前に俺がチョロっとマインドブレイクの話をしたがフレンがやや乗り気でこの技開発に手を伸ばしていて、それでなんか上手くいってるらしい。

 

セスリーンなめてたわ。 リザイアはもともと敵の"全身"から大雑把にエネルギーを吸い取る信仰の魔法なんだが、そのリザイアを一点に集中させてぶつけるはかなりの魔法技術を必要とする。 だが信仰の魔法に長けているセスリーンだからこそ巧みにリザイアを操れた訳で、このやり方に成功していた。 俺はかなりひどいモノを教えたらしい。

 

ちなみにリザイアで脳みそを吸われた敵の表情はひどい限りだった。 死んでないにしろ、白目を向いて、口から唾液が飛び出し、膝からガクガク痙攣しながら砂浜に崩れ堕ちて行くその姿は誰もが引き攣るレベル。 ちなみにフレンは初めてこのリザイアを試したらしいが、流石に使用した自分自身もこの惨状に表情が引きつっていた。 当たり前だよなぁ?

 

あとフレンがやったと思われたら流石にアレなので今回は俺が脳みそリザイアをやった事にしておいた。 お陰でイングリットからめっちゃ引かれたのは記憶に強い。 なんなら最近になって信仰の魔法が開花してきたベレスはこれを見て「私も出来るか?」と首を傾げていたところを目撃したセテスが必死に考えを改めるように言い聞かせてたのも記憶に強い。

そのあとフレンには脳みそリザイアは容易に使うことを禁じた。 それは切り札に残しておけと言えばフレンもコクコクとお下げ髪を必死に揺らしながら頷く。 流石に彼女もこれはヤバイと理解したらしい。 でも相手のHP関係なしに一撃で無力化できるこの荒技はとても使える。

 

俺も上手く使えるように練習しておこう。

 

 

さて、フレンとセテスが無き母のお墓に祈りを捧げ、軍の撤収を進めているとベレスに話があると声をかけられて俺たちは少し離れた場所に向かう。

 

 

「それでどうしたベレス? セテスが睨むから脳みそリザイアは教えないぞ」

 

 

「いや、それは自分でひっそりと模索するから大丈夫。 それより一つ相談……と、言うべきか一つ気になる事がある。 ソティスが眠ったままで起きない」

 

 

「……遅めの冬眠中だとか?」

 

 

「わからない。 女神に冬眠があるのかはともかく前節からソティスが『眠い眠い』と繰り返していた。 そして3日前から反応が無くなった。 それでもこの中にいる事はわかる。 でも寝息も何も聞こえない。 ただ玉座で膝をつき眠りこける姿がいつまでもいつまでも薄っすらと見えるだけで………ふぁ〜ぁ……ぅんっ…」

 

 

「お前も影響してんだな。 でもまだ姿が視認できるなら安心できるじゃん。 自然と目覚めるのかわからないから不安だけど俺にはどうすることも出来ないかな。 あ、ところで天刻は使えるのか?」

 

 

「試したことは無いが恐らく使えない。 ソティスと意識を合わせないと天刻は動かないから無理だと思う」

 

 

「チート過ぎた能力もとうとう下方修正されたか。 しかしあまり天刻の力を酷使するとソティスが消えちまうとか取り返しのつかない事になり兼んから無理して使用はしない方が良いな。 大きな力に代償ありだと良く言うし」

 

 

「うん、そうだね。 とりあえずソティスの事は私で頑張るよ。 もしかしたら、これまでの反動で深く眠りに落ちているだけかもしれない。 相談に乗ってくれてありがとう、ユーク」

 

 

「友人のためだ、全然構わない。 それにまたしばらく会えなくなるしこう言うのも今だけぞ? なんならほかに聞きたい事は?」

 

 

「なら……あの時の約束覚えてる?」

 

 

「約束?」

 

 

「うん。 天刻を使った時にユークリッドの時間は止まらず、意識だけをソティスに投げ込んで会話できたアレ。 前にクロニエやソロンの討伐時に投げた疑問」

 

 

「!」

 

 

「ソティスとの時間は私だけの特別かと思ってたが、そこに加入できるあなたの不思議さがとても気になってた。 あなたはこの世じゃないところで命尽きて、新たにこの世に生命をもたらした事は聞かせてもらった事がある。 それに関しては驚いたけど、しかし前世持ちの人間ってだけでそこに特別な力があるとは思えない。 何か、特別な何かがユークに施された、そう考えてる」

 

 

「……なかなか鋭いな。 さすがみんなの先生だな」

 

 

 

因みに俺はベレスに前世持ちの人間であることは話している。 遅かれ早かれソティスから手に入れる情報だろうから、変に伝わるくらいなら真実を告げる事にした。 もちろん前科もありベレスはこの話は信じてくれた。

 

 

 

「それで教えてくれる? それとも話したくない?」

 

 

「いや、そんな事ないぞ? その代わり物凄く素っ頓狂なことを言うけどな」

 

「ひひーん…」

 

「おおっと、もう少し待っててな、マンディ」

 

「ぶるる…」

 

 

 

待ちくたびれて暇になったマンディが寄り添ってきたので首元を撫でて落ち着かせる。 そしてまた離れて適当に歩き出した。 ベレスは無言で俺とマンディを眺めながらもその答えを待つ。

 

水平線の彼方を眺めながら俺は軽く息を吐いてベレスを横目に真実を話し始める。

 

 

 

「さて、ベレス。 単刀直入に言う。 俺の体には始まり者と立ち並びし『眷属の血』が体に流れている」

 

 

「そう…………え?…始まりの女神?その…眷属の……血…ッ!? それは……いや、もしかしなくとも…! それって…!」

 

 

 

ベレスは少し離れた場所にバッと視線を向ける。

 

そこにはお墓に手を添えて祈りを捧げる兄と妹、または父と娘の2人がいた。 そしてベレスはあの2人の関係を知り、これまでの関わりにて2人の正体は「もしかしたら?」と行き着いていた。

 

そして『血』の単語にひどく反応していた。

 

過去に起きた死神騎士が生徒を誘拐した事件もあり、当時その誘拐事件に立ち会ったベレスだからこそこのワードを聞いて穏やかではなかった。 だからそれが衝撃的だったのでこちらにバッと視線を戻し、彼女のその目は『何があった…!?』と険しさを感じさせる。

 

 

そんな彼女の姿に…

 

 

俺は笑う。

 

 

 

「なーに、友人がメシマズ克服のために作った料理の味見担当だった俺は、友人が料理中に指を切って傷口から血が垂れ落ちて料理に入ってた。 それを知らずに食してしまっただけの話」

 

 

「………は?」

 

 

 

アッサリと答えてベレスの目は点になる。

 

 

 

「あれは驚いたな。 そりゃ最初はそのことに気づかなかったぞ? だってまさかアイツが指を切った事を騒ぎ立てたく無いため、指切った事を根性で黙ってそのまま料理を続行してたなんて予想外だぞ? そんで数的ほど垂れ落ちた血が料理に混じっていての、俺は頑張って何とか食べきった辺りで『根性で頑張った証ですわ!』って料理で切った指を自慢してたので、俺はその違和感に問いてみたら……このありさまだ」

 

 

「え…いや、でも………え? マジ?」

 

 

「サジでバーツ」

 

 

「えっ……」

 

 

「しかし、あの味は不味かった。 ほんのりと鉄の味がした。 影の英雄(クリス)クォリティーを再現したのだったら全力で料理は止めるつもりでいたりと、まぁ色々あったんだ」

 

 

「…えぇぇぇぇぇ……」

 

 

 

とても長い呆れたような落胆の声だが、真実を知った側としてそりゃそんな声になってしまうのも仕方ないと思う。 死神騎士の誘拐事件のような禁じ手に触れたのかと思ったら、ただのメシマズから『眷属の血』を得たものだった。

 

メガミノツカイも真っ青なメドーピング料理。

 

メシマズの代わりに効果時間は一月ではなく、無制限に続く隠し味付きだ(鉄分的な意味で)

 

ヤンデレ属性もニッコリな所業である。

 

 

 

「まぁ、その、なんだ? アレだよ。 3年間も関わりがあると色々あるんだよ。うん。 わかってくれ…」

 

 

「あ、う、うん、そう。 …なんかごめんね?」

 

 

 

遠い目をしながら語る俺にベレスは追及をやめた。 本当にアイツとは……いや、もう名前を濁す必要もないか。 本当にセスリーンのフレンとは色々あったからな。 最初はお茶会でお暇を奪う以外とても大人しかった子なのにいつしか頗るフットワークが軽い子になっていて……まったく、親の顔が見てみたいものだ。

 

 

うん、そこにいたわ。

 

 

 

「ユーク、確かな素っ頓狂な真実だったけど体に異常は無かったの?」

 

 

「それは心配無い。 むしろセスリーンの魔力が備わって色々と便利になった」

 

 

「例えば?」

 

 

「俺って特定の魔法なら二つだせるだろ? あれって俺の魔力とセスリーンの魔力が二つあるからだよ。 ファイアー()ウインド(フレン)はそう言う事。 また他の人には真似できない合体魔法ライブラリーがフレンと使えるのもそれが原因だったりする。 色々と後押ししてくれてるわけ」

 

 

「なるほど。 じゃあ、そうなると…」

 

 

「ああ。 天刻に干渉できるのはまったくもって純粋な話だな」

 

 

「天刻を操る始まりの女神に立ち並んだ眷属の血と力がユークの体に入ってるから…か」

 

 

「その通り」

 

 

 

別世界で生きてきた俺の魂は天刻に影響し辛く、セスリーンの血と力で寧ろ"干渉"すらしてしまう。 そもそもライブラリーで"熱感知"なんて巧妙な事をして鍛えられたから時が止まっても意識が保たれるのだろう。

 

それはセスリーン本人(フレン)には無い俺の特別な力だ。 あと【転生者】ってパーツがあるからこそこれを可能に出来たんだろう。

 

せこい存在だ。

 

どうかしてるぜ。

 

 

 

 

……あとフレンってとても長生きだよな?

 

その血を食してしまった訳だが……

 

もしや寿命とか伸びてないよな?

 

どうなんだ?

 

 

 

「さて、疑問は全部聞けたかな?」

 

 

「バッチリと聞けた。 話してくれてありがとう、ユーク」

 

 

「それは良かった。 さて…マンディも待ってるし、このあたりでベレスとはお別れだな」

 

 

「うん、そうだね」

 

 

 

俺はベレスと再度握手をする。

 

そしてマンディの上に乗り、イングリットと空ですれ違い、フレンとセテスの真上から手を振り、セイロス教団で編成された騎士の人たちに見送られながらロディ海岸を後にする。

 

本格的に帝国領に入って俺の旅は再開された。

 

 

 

とりあえず…

 

もうバリスタによるサプライズはごめんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは街…? いや、ゴーストタウンっぽいな。 となると…」

 

 

 

マンディから降りて適当な切り株の上に地図を広げて携帯食料をかじる。 マンディが羽休めしてるうちに今のおおよその場所を再確認する。

 

 

 

「ああ、やはりココって位置的に見るとダグザ=ブリギット戦役で連合国に総叩きにされて没落した"ヌーヴェル"の領地か。 あととうもろこし娘(コンスタンツェ)がいた場所だったよな。 …いや、それはともかく、見たところそこそこ大きめのゴーストタウンだな」

 

 

 

この感じだと全ての領内に管理が行き届いてるようには見えない。 そもそも旧アドラステア帝国貴族の力は弱まっているらしいし、どこかしらゴーストタウンに堕ちた街も存在するだろう。 そして目の前にあるのがそうだな。

 

しかしあまり放ったらかしにしてると逆賊が好き勝手して、それで力を蓄えすぎるとかなり厄介になる。 かろうじて息があるヌーヴェル領だけど地図から抹消されるのも時間の問題だな。

 

 

 

「まぁ…だからこそ、あり得る…」

 

「ぶるる?」

 

 

 

そこにいる可能性は捨てきれない。

 

 

 

「マンディ、俺はゴーストタウンに向かう」

 

「!?」

 

「一日ほど捜索するから、マンディはここから少し離れて隠れてて。 もし…2日、3日、それ以上経っても戻ってこなかったらそういう事になるから…」

 

「ひひーん…」

 

 

 

俺は武装を再確認したあと、身バレ防止のためにスカーフを口元に巻く。 そして心配するマンディの首元を撫でて「行ってくる」と一言残してゴーストタウンに駆ける。 追いかけてしまいそうになるマンディだが数歩足を出した辺りでグッと堪えた。

 

天馬の加護を纏いながら夜風を振り払い、ゴーストタウンの正門まで辿り着く。正門には門番も誰も居ない。 しかし警戒心は削ぐことなく壁に添いながら曲がり角で首だけを出して180°を見渡す。 後方も確認。 今のところ敵影無し。

 

手軽な小さな建物に入り込み、外から覗き辛い位置に動くと跪いて目を閉ざし、魔力を放つ。

 

右手にファイアー、左手にライブ。

 

二つの混合させて地面を叩いた。

 

 

 

「ライブラリー」

 

 

 

いまは白黒の世界。

 

俺を中心に微熱を含んだ回復がジワジワと広がる。 真っ暗な世界の中で白い線がゆっくり輪になって広がり、建物の凹凸も緩やかに跨ぎながら順調に拡散。

 

 

そして一つの熱を感じた……

 

とてもとても小さい…

 

人のサイズでは無い…

 

 

 

「……これは、野良猫か」

 

 

 

ライブラリーを解除して熱感知した方角へ窓からチラリと覗く。

 

野良猫を視認できないが、もしその猫の首元に鈴がつけられているとしたらリンリンと騒がしく警告音を放つだろう。 アサシンのように耳が良い奴に聞かれたら真っ先に衝突するだろう。

 

それは避けたい。

 

 

 

「でかい建物……教会か?」

 

 

 

大通りは避けて極力小道から進む。 そこらに屍などが転がっており、ダグザ=ブリギット戦役の傷跡が五年前の惨劇を表す。 そして俺はチーズのお店だった建物に潜る。 ほとんどが消えているが、おそらく賊達が回収したんだろう。 片隅に残っているチーズはカビすぎてダメになってる。そこらに転がっているネズミなどからカビが発生していてなかなか不快だ。

 

大通りから顔を出し、目の前の武器屋まで足を進めて壊れた扉を開ける。 当然ながら管理状態は悪く、屍が転がっている。 武器を持って最後まで戦おうとした骸だろうか。

 

 

「うわ、これキラーナックルじゃねーか。 勿体ねぇ…」

 

 

 

使われずして酷く錆びた武器たちは可哀想だ。

 

普通の修復では息を吹き返さない。

 

もう無理だろう。

 

人も商品も含めて完全に死んでいるこの街を改めて実感しながらこの武器屋でもう一度ライブラリーを使おうと思った……

 

 

次の瞬間だ。

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

レジカウンターから人影が飛び出す。

 

俺はコンバットナイフで武器を弾くが反応しつらい方向から回し蹴り。 早い!

 

両腕で防ぎながら後ろに飛び、大通りで受け身を取りながら俺は深くフードをかぶる。 口元を隠しているスカーフも整え、警戒しながら立ち上がる。 武器屋の中は暗かったからまだ顔は見られていないだろうが今日は満月。 嫌なほど明るい光は大通りをしっかりと照らすため顔を隠した。

 

それは敵も同じで頭に軽くターバンを巻き、俺と同じように口元を隠している質の良さそうなマスクを着けていた。

 

しかし…

 

 

 

「(アサシンじゃないな…)」

 

 

敵の職業を分析する。 アサシンは姿勢を低くし、武器を後方に隠し、敵の首を狩りやすく戦う。 闇に潜むように呼吸も悟らせない不気味さを秘めているのがアサシン。 同じアサシンのクロニエも武器を上手く背に隠してジェラルトの心臓に一撃入れた。 これが上級職と言われる強さ。

 

しかし不意打ちをしてきた敵にそんなものは感じさせない。 どんな場所でも討つ事に戦闘能力を高めた戦いのスペシャルリスト。

 

それはまるでただの『傭兵』だ。

 

 

 

「っ!」

 

「!」

 

 

 

投げナイフで牽制してきたと思ったが、武器を持たずにただの拳が襲いかかる。 俺は手の甲で敵の拳弾きながらコンバットナイフを手放して顎に肘を曲げて打ち込む。 だがそれを防がれると敵から腕の服を掴まれ、密着するように固定。 身体的移動制限がかけられると外側から軽く蹴り入り、痛みに耐えてる隙に腕は真上に捻られ体を強制的に対面から外側に向かせようとしてきた。

 

そして二度目の蹴り。

 

だがその蹴りを逆手にした掌で抑えると肉や骨を潰す勢いで鷲掴み、怯んだ隙に敵の膝高くまで真上に飛びながら体をひねり、回し蹴りのカウンターを放つ。 脇に一撃が入った。 痛みに耐える男の渋い声を聞き流しながら着地するとそこからノーモーションで裏拳を顎に入れ、怯んだ隙に胸ぐら掴み、次はこちらが敵の腕を捻って固定。 身体的移動制限を与えると一気に右足を敵の股あたり踏み込んで敵を前方に鋭く投げ飛ばした。

 

ベキィ! と音でもなりそうな勢いで木箱をへし折りながら敵は転がる。 しかし受け身を取り、こちらから視線を外さず、ゆっくりと姿勢を整えて次に備える。

 

 

「(ちっ! かなり強烈にやったんだが、大柄にも関わらずあの投げから綺麗に受け身を取りやがった!)」

 

 

受け身が取りづらいようにするためわざわざ木箱の方に押し込んで投げ飛ばしたのに、空箱で風化してることを知ってたのかそのまま木箱を背中から破壊することで転がる威力を調整したんだろう。

 

そして今のでわかる。

 

コイツかなり手強い……

 

しかしそれを表情には出さず「これが父から学んだCQCだ」と睨むことで訴えてながら俺は全身の力を半分ほど抜き、猫の手のように拳を柔らかく握り、姿勢をゆっくり低くする。 強者と理解したからこそ顎を引いて敵の喉元から視線を外さない。

 

呼吸による筋肉の動きを見定めながら砂利を踏む音にも耳をすませる。 どの方向から来ても対応できるように意識を強く、数パターンの迎撃手段を何度も脳裏に巡らせ、浅く、長く、だが力強く呼吸。

 

 

「…」

 

「…」

 

 

こちらはフード、あちらはターバンとマスク。 どっちが先にその防護策を剥がし、敗者の顔を拝むのか…

 

 

「……」

 

「……」

 

 

そして先ほどの木箱を潰した時の衝撃で武器屋に立てかけられていた槍がゆっくりと倒れかかり、とうとう地面に落ちる。 鈍い鉄の音が大通りに響けば、俺と敵は微かに目が見開かれ、また接近戦が激しく繰り広げられる。

 

叩きのめし、叩きのめされ、投げ飛ばし、投げ飛ばされ、殴り、殴られ、蹴り、蹴られ、街灯に頭を打ち付けられたら、こちらは壁に背負い投げで打ち付ける。 互いに落ちた武器を回収しながらも近接戦闘は収まりを知らない。

 

実力は互角。 ここまで格闘戦が強い傭兵とはまったくもって戦ったことない。

 

だが…とうとう互いに顎がクロスレンチでかち上げられる。 しかしタイミングは同じ。 共に歯を食いしばりながら、共に全身に力を込めて、地面を踏みしめたその足から頭まで闘争心を巡らせる。

 

腰から武器を引き合い、最後は互いの首筋に武器の刃を寸止め。 こちらもあちらも全く同じタイミングであった。

 

静寂の中、俺の荒い呼吸だけがゴーストタウンの大通りにこだまする。

 

 

強かった…!

 

コイツは強すぎる…!

 

同じレベルのCQCが使える奴がフォドラにいたのか!

 

いや、同じではない!

 

相手の方がまだ上手だ!

 

なんならホルストと同格かそれ以上だ!

 

 

 

「!!」

 

「!?」

 

 

 

俺は敵の。 敵は俺の。 向けられていた刃の鉄に反射した人影。 互いにそれを見逃さなかったのか、同じように背中を向け合うと一気に武器を振り下ろす。

 

 

 

「うぎぃぃあ!?」

 

「ごはぁ…!」

 

 

 

不意打ちを行った盗賊にクリティカルヒットと言うべきか、一撃で絶命した。

 

それは俺と戦った敵も同じようだ。

 

 

 

そして、忘れていた。

 

 

フォドラの暁風はイタズラ好きであることを。

 

 

ゴーストタウンに冷たい夜風が舞い込み、俺はフードがふわりと脱げ、敵はターバンが裂け落ちる。

 

 

満月は明るく、互いに顔を見せ合う。

 

 

 

 

それは……

 

 

 

 

数年越しの出会い……

 

 

 

 

「ッ!!??」

 

 

「……やはり、おまえだった…」

 

 

 

 

 

あの日から、後悔と共に探していた人。

 

 

この世に生まれ、育ててくれた第2の親。

 

 

衝撃と共に込み上げてくるこれまでの苦しみ。

 

 

でも、それが今報われたように思えたから…

 

 

 

 

 

「ッ…ッッ…ぁぁ…や…やっと…ぁぁッ!!」

 

 

「……大きくなったな…」

 

 

 

 

 

静かなゴーストタウンだから心臓の音がとてもうるさい。

 

 

乾いた空気だから流れ出した涙は冷たくて痛い。

 

 

誰もいない夜の街だからその渋い声はよく聞こえる。

 

 

 

 

「とう…さん…ッ!」

 

 

「ユークリッド…」

 

 

 

 

 

数年越しの再開…

 

 

目の前にいたのは間違いなく…

 

 

伝説の傭兵(俺の父)だった…

 

 

 

 

つづく






やはり男は拳で分かり合うものなんやね。


《コンスタンツェ》
ユークリッドは手で数える回数しか会った事ないが、彼女の個性的な印象強さが記憶に残り、とうもろこし娘とあだ名を付けでやった。 唯一ユークリッドにツッコミ役をやらせることできる貴重なキャラ。 頭良いけど頭悪いのが彼女の悪くも良いところである。


ではまた
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