帝国歴1181年
ブリギットの姫ペトラが母国に戻り、海賊退治の準備が出来た。 俺とマンディ、そして親父もこの作戦に参加し、団長と少数ながら旅団の仲間も参戦。 俺たちの陣営は10数人と少ないが、ヴァーリ伯から逃亡時に団長について行った仲間達は荒事に慣れていて、団長とのやんちゃ時代を思い出すとか言いながら武器をそれぞれ持っていた。
よくよく考えたら俺って旅団の一人一人をそこまで詳しく知っている訳ではない。 ただ団長のやんちゃ時代に付き合っていた仲間達がフォドラで演劇団を結成して、それでフォドラ各地から部員を集め、旅する演劇団を完成させたのは団長の自慢話として幼い頃から聞いてきた。
まぁ、腕に自信があるのはいい事だ。
どのくらいやるのか見せてもらおう。
さて、俺の仲間のこともいいが、ペトラとはまた"別の生徒"とコンタクトを取ることにした。
「ペトラとは他の学級である君が一緒に来たのはどう言った流れなんだ?」
「あ、はい。 僕はただブリギットに興味がありました! それで前にペトラさんにその事を話していたので今回連れてきてくれました。 しかし…」
「?」
「戦いに携わる事は聞いてましたが、まさか海賊退治なるのはブリギットに来て初めて知りまして…」
「ああ、そうなんだ。 でもペトラは騙したつもりもないらしいぞ? そもそも騙すとかペトラにそんな事が出来そうな娘でも無いだろうし」
「いえ! 別に騙されたとかそんな風には考えてないですよ! 僕にできる事なら例え他学級の生徒だろうと全然手伝いますから!」
「そうか。 ちなみにペトラは君が付いて来てくれた事がすごーーく嬉しくてうっかり説明不足になったらしい」
「そ、そうなんですか? 別に僕はそこまで気にしてません。 しかし…うっかり、ですか……いや、あはは……でも、そんなに嬉しく思ってくれたんですかペトラさんは……な、何だが照れますね、あはは」
「ちなみにベレス先生から許可は?」
「貰いました!」
「なら言うことも無いな__アッシュ」
青春謳歌中の子供ならば、さっさと海賊程度倒してしまってブリギットでバカンスを楽しんで行けば良いだろう。 そのお手伝いとして俺も本気になるのもアリだ。 もちろん仲間のためを優先して、海路確保のために海賊は一人残らず殺し尽くしてやろう。
いや、でも待てよ。 生殺与奪はブリギットが決めるから俺はどうするべきか? 退治が目的だが、討伐とも言ってるし。 しかし相手は逆賊には変わりないだろ? 少し前にブリギットの島付近の村などから略奪してる厄介者だとも聞いてるし。 抵抗するなら殺す考えで行こう。 そうでなければ俺が危ない。
「ユーク先生、ごきげんようです、ですか?」
「ペトラか。 ごきげんよう。 あと俺は先生じゃないぞ」
アッシュと入れ替わる形でペトラが隣にやって来た。 一瞬誰だかわからなかったが、それは制服の姿からブリギットの私服を着ているからだろう。 あと士官学校の時に比べて露出が多いのは精霊の力を受けやすくするためらしい。
ちなみにブリギットに興味を持っていたアッシュの事を考えたペトラが「これが、ブリギットの私です。 どうですか?」 と迫って来た事に対して慌てふためき、ぎこちなく感想を述べていた彼は印象深かった。
「船酔い、大丈夫、ですか?」
「ああ、船酔いは全然大丈夫だ。 あとブリギットのみんなは船酔い強いな」
「はい! ブリギットの民、船酔いしません! 海の精霊、風の精霊、生まれた時、加護貰ってます! 全て一緒生きる、心身に刻みます!」
「そうか。 それは頼もしいな」
「あなたも、頼れる、なります。 私と同じ学級、うさぎのベルナデッタ、あなたの事話す、凄く楽しくあります。 強い、優しい、楽しい、喜怒哀楽のベルナデッタ話聞く、喜び感じるです。 あなたのベルナデッタ、あなたと相思相愛、私素敵思います。 友達のベルナデッタ、とても羨ましい、喜ばしいです!」
「それはなんだか誇らしいな。 それなら俺からも質問。 君にとっての喜怒哀楽はブリギットまで付いて来たアッシュのことだったりするかな?」
「アッシュ…ですか? ええと、うまくわからない、です。 でも、彼がブリギットまで付いて来ない、頷かない、断る、どこか怖かったです。 …断るは、悪い事じゃない、人、都合あります。 しかし断る、聞いてしまう、悲しい思います。 だから……その、つ、付いて来て、嬉しく思います。 …むぅぅ……嬉しいなる、悪くないこと、でも言葉難しく、話辛いなります。 なんだか、胸が熱いです。 アッシュ考える、体の音、少し煩いなります。 これ、戦闘準備の、昂りです、ですか?」
「青春してんだよそれ」
「
「ある意味酔ってしまってるがそれは船酔いじゃない。 アッシュと戦っていれば治るから、ペトラはいつも通りにしていい」
「船酔いじゃない、安心しまし……ッ!! 敵です!!」
「!」
彼女は目が凄く良いようだ。 ペトラの指差す方に目を凝らすと船が一隻こちらに向かっている。 そしてペトラだけではなくほかのブリギットの者たちも武装準備するあたりアレは海賊で間違いないらしい。
「先制奇襲! 有利思います!」
「見つかってるから奇襲は成立しない。 だが先制攻撃は賛成だ! マンディ!」
「ひひーん!」
俺はいつも通りマンディに乗り込む。
すると別の天馬がやって来た。
「わたしも、天馬で向かいます!」
「ペトラの天馬? なるほど、ペトラサスナイトか!」
「ペトラサス…ナイト? なるほど。 ペトラとペガサスナイト、名前合わせる、一心同体! 不思議いい事覚えました!」
「えええ!?」
いつのまにか武装を終えたアッシュがペトラの隣にいて、ペトラの納得した内容に驚く。 アッシュが「ペトラさん! それ冗談ですよ!?」と言えば、ペトラは「フォドラの冗談知ってます」と笑い、またアッシュが「えええ!?」とリアクションを起こす。
この二人なかなか良いな。
「ユーク、船が側面を向けずに正面からくると言うことはあの船には搭載された武器での攻撃は無い。 奴らは乗り込んでの制圧を得意とする。 それはつまり…」
「弓に気をつけろって事だろ、父さん」
「そうだ。 太陽を利用して真上を取れ。 姫さんに負担かけすぎんなよ」
「わかってるよ」
言われた通り、早速マンディで海賊船の真上を取る。 弓を持っている者がいたが、風向きと太陽の位置を利用して矢を受けないよう立ち回る。 またマストを射線上の障害物にしつつ、俺が注目を集めてる内に遅れてペトラも参戦。 当然ながら空中戦闘の手段を持たない海賊だから上空を取られて敵は騒がしくなる。
たかがペガサス系が二体程度で慌てるなら大した強さじゃないな。
「ペトラ、マストを壊すぞ」
「了解、する、しました!」
俺はウインドを使って帆を裂き、ペトラは手斧を使ってロープを破壊する。 船の動きを制限させてさらにパニックにさせると、その間にブリギット側の船が海賊船に突進。 一気にブリギットの者たちが雪崩れ込み、海賊と接近戦が繰り広げられる。
もちろん旅団の仲間も団長を筆頭に乗り込む。
「団長のあの格好はアーマーナイト? ……じゃないな、アレは何だ?」
軽装備に、小さめの盾、そして額当て。 持っている武器は槍であるが先端がメイスのように大きく、突き破ると言うより"突き砕く"の言う方が正しい形をしていた。 彼がダグザから来たと言う話が真実ならば、ダグザにある職業だろうか?
しかしこのシンプルな軽装備にも俺はこれが何の職業なのかおおよそ想像は付いていた。
それは…
「【ソルジャー】か、なるほど」
フォドラには『兵士』って職業名が存在するが、団長のソルジャーは『兵士』って意味ではないだろう。 むしろ『戦士』って響きの方が似合う感じだ。
「……」
団長の戦い方はどこかしら傭兵を香らせるが、本当に昔の団長は何してたんだろうか? あまり語らないし、過去の栄光と汚点だとか言って語ろうとしない。 しかし今回の海賊退治で分かったが、団長は戦闘慣れした人間だ。
そして今は旅する演劇団の団長だったりとどこか不思議な人だ。
「……あと親父は、心配ないな」
空から見てるけど父さんめちゃくちゃ強い。
ジェラルトと同じかそれ以上はある。
しかしアレで職業が『傭兵』は違和感あるな。
見たところ剣や斧も巧みに使えてるし…
もしや『勇者』の職業か? …ありえるな。
とりあえず今わかるのはこの船の中で一番強いって事だろう。
親が強いってなんか嬉しいな…
「っ、ユークリッド、大きな男、危険です! ウォーリアです! でも大きなツノ生やします、大きな斧抱えてます!」
「!?…いや、違う! アレは【バーサーカ】って奴だ! フォドラに無い職業だ! 斧に特化した危険なやつだから槍を持った奴は近寄りすぎるな!」
「槍? なぜ? なぜですか?」
「三すくみの法則に沿った職業だからだよ! バーサーカはウォーマスターとは違って斧しか使わない。 だがその一芸特化は一騎当千を現実にさせてしまう。 槍に強く、剣に弱い代償の強さはたしかにウォーリアを超えている」
ペトラが言う危険な奴はツノを生やしたヘルムに大きな銀の斧を持つ大男。 この海賊船の長では無いようだがアレは危険すぎる。 味方すら大斧で薙ぎ払いながらブリギットの戦士たちを追い込み始める。 生半可な弓ではその歩みは止まらない。
するとペトラが目を見開く。
そして大声で叫んだ。
「逃げてください!!アッシュ!!」
「!!」
標的とされたアッシュはペトラの声に反応して弓を射るが、腕に刺さっただけでバーサーカの動きは止まらない。 反撃とばかりに大きな一振りを回避したアッシュだが…しかし、その振動でマストの一部が壊れ、その落下先はアッシュだった。
「ぐあっ!?」
直撃したアッシュは踏ん張れず、足元のロープに引っかかり、甲板に後頭部を打ち付けてしまう。 一人で立ち上がれずにいた。
「い、いやです! アッシュ!!!」
「バカ! ペトラ!」
ペトラは天馬から高く飛び降り、腰に装備した鉄の剣てバーサーカに攻撃を加える。 しかし強靭な肉体に刃は半端に食い込むだけで歩みを止めさせる攻撃にはならない。 バーサーカの大腕に振り払われながらアッシュの元に着地するペトラ。 ふらつきながら立ち上がるアッシュだが、その足で逃げれる可能性は低いだろう。
「団長ォォ! 足元にあるロープで奴のヘルムを取ってくれ!」
「なに!? …ああ、わかった!」
バーサーカの後方にいた団長に叫ぶ。 団長の足元にはかぎ爪付きのロープが落ちていた。 それを拾い、ぶん投げて、バーサーカのヘルムにうまく引っ掛ける。 力を入れて引っ張るが、バーサーカのヘルムは取れない上に動きは止まらない。
「______!!!」
「「「!!!!」」」」
ブリギット語で団長が叫ぶとほかのブリギットの戦士たちが団長を支援するようにロープを掴み、綱引き状態になる。 そこでバーサーカの動きは止まり、ギチギチ音を立ててバーサーカのヘルムが外れ始めた。
「ふん!」
父さんは投げナイフでバーサーカの足の関節を狙い、その進軍を止めさせる。 ペトラはアッシュをかばいながらその場を退き始めた頃、バーサーカはその場で大暴れ。 脇から一斉攻撃を行おうとしていたブリギットの戦士たちは近づけずにいたが、暴れていたお陰でバーサーカのヘルムが脱げ始める。
「っ、今しかない!!」
俺はマンディから飛び降り、両手に光魔法を集約させる。
「(セスリーン!メシマズのお詫びに力を貸しやがれですわ!)」
とうとうバーサーカのヘルムが脱げる。 ありがちな薄汚い大男の顔が晒されると、俺は腰からアサメイの短剣をバーサーカの首筋に目掛けて投擲。 アサメイの短剣は背首に突き刺さり、俺はアサメイの短剣を足場代わりに着地をして、更に深々と食い込ませる。
そして、その頭を鷲掴みにして叫んだ。
「リザイア!!」
「ぅぉぉぁぁぁあ"あ"が あ が が が ! !!」
頭と脳に攻撃を与えるマインドクラッシュ。 魔防が皆無なバーサーカの頭にリザイアをピンポイントでぶつけると声にならない声で苦しみだす。
吸い取ったバーサーカのエネルギーを手に纏わせてながらアサメイの短剣を逆手に持ち、強く握りしめる。
信仰の魔法にだけ高まるセスリーンの力……いや、フレンが得意とする力にだけ共鳴してくれるセスリーンの力を活かし、力を解き放ちながら振るった。
「エクスカリバー!」
アサメイの短剣から吐き出される風の魔法は、セスリーンの力で光り輝き、それはまるで光の剣のようになる。
名の通り『
…
…
♢
「アッシュ、わたし、あなた無理させました、許されない、仕方ないです。 その、ごめんなさい…」
「待ってペトラ! 違うよ! 僕は気にしてないよ! たしかに危なかったけど僕はペトラを責めたりもしない!」
「っ…でも、わたし、アッシュをブリギット呼びたかった。 アッシュと、海と恵、見せたい、これ、わがままでした。 でも危険、踏み込ませました。 許されないことしました、わたしは…ひどいことを…」
「違う!!」
「っ!?!?」
「僕は覚悟を持ってブリギットに来た! 戦いに安全は無いのも知っている! ……ペトラ、今回は僕が弱かったからだ。 もしもっと戦える僕だったらもっと安全だったかもしれない。 今となっては結果論に過ぎないけど、でもペトラに責める点はどこにも無いよ。 だからペトラは自分を責めないで」
「で、でも、アッシュ…」
「けどペトラは僕を守ってくれたじゃない。 僕はそれがすごく嬉しかったし、心強く感じた。 でもその分自分がまだ未熟な事がよくわかった。
……ああ、僕はもっと自分を強くして、立派な騎士にならないとだね」
「ッ…アッシュ、ごめんなさいッ」
「うおっと…!? ぺ、ペトラ?……もう謝るのは無しだよペトラ。 お互いに無事だったんだから。 これからはあんなことにならないようお互いにもっと強くなる。 …で、いいかな?」
「はい……はい、です!」
「……」
なにあれイケメンかよ。
いやー、この二人の青春は夕焼けよりも眩しすぎて、隠れて見ているブリギットの戦士達も微笑ましく見ているくらいだし。 それとアッシュの方が少し身長あるからいいツーショットだな。 ご馳走さま。
「おい、ユークリッド、さっきのアレはなんだ?」
「アレって…エクスカリバー?」
「それも驚いたが、あのリザイアは…」
「士官学校で
「………その…なんだ、逞しくなったな」
「掛ける言葉がわからないからとりあえずそれかよ」
「父親としてコメントに困ってんだ。 察しろこのバカ息子」
「はいはーい」
海賊は無事に退治された。 殺されてない賊はブリギットに連行され、船も回収された。 そして団長が話を付け、無事に船を出してもらえることになった。 わーい。
それよりも今回、あのバーサーカのこともあって海賊の危険度を図り損ねていたようであり、俺たちが参加してくれて良かったと大いに感謝された。 死人はゼロに抑えられたみたいだし。
「父さん、俺は団長から指示を受けたら王国領に向かうよ。 ロディ海岸か、王都フェルディアのどちらかで仲間を回収できるよう手立てしてくる」
「もし向かう先が王都フェルディアなら俺の書いた手紙を持っていけ。 それをファーガスの盾ロドリグになんとかして渡せば比較的安全に仲間を船に乗せれるだろう」
「……もし渡せなかったら?」
「絶対に渡せ、仲間のために」
「お、おう……」
まぁ無理だったパターンくらい団長も考えているだろうが、父さんの伝手を使ってファーガスの盾ってやらにこの話を通せるだろう。 父さん曰くファーガスの盾に対して恩は大きいらしいし。
「あの、ユークリッドさん」
「アッシュか、どうした?」
「はい。 助けてくれてありがとうございました」
「ああ、気にすんな。 そもそもアッシュの上に落ちて来たマストだが、アレ壊したりしたの俺やペトラだからな。 君は被害者」
「えええ!? そ、そういう事になりますか?」
「なるから良いんだよ。 それよりもガルグ=マクには明後日戻るんだろ? なら帰る前にペトラとしっかり泳いでこいよ」
「えええ!? ペトラと……ええと…」
「ペトラ、お前とブリギットの海で泳ぎたがってたぞ? 騎士になる男なら女の気持ちに応えてやれよ、これ常識だぞ?」
「いや、嘘ですよね!?」
「嘘だよ」
「えええ…」
「でも彼女のために一緒に泳いでやれよ……ペトラは言葉も通じない見知らぬ異国で頑張って、それで仲良くなれた友達と思い出作りしたいんだ。 応えてあげなよアッシュ」
「も、もちろんですよ! そもそも断るつもりは無かったですから! す…少し、ドキドキすると言うか…」
「そりゃ、ペトラは士官学校の制服で着痩せしてたけど、ここに来て随分と開放的だから…なぁ?」
「そ、それ以上は何も言わなくて良いです!」
「ちなみに俺のベルナデッタも実はそこそこ着痩せしていてな、これが抱きしめ心地が良くてね」
「ユークリッドさんッ!!」
アクシデントもそこそこあったが海賊退治は終了。
ペトラとアッシュの荒事は終了だが、俺はまだまだ続くし、これからが本番かもしれない。
だが、やっと仲間が全員集う。
「…」
しかし…
何故だろうか…
嫌な雰囲気がフォドラから漂う。
そんな感じが何故かしている。
「………可能な限り急がないと…かな」
僅かながらブリギットの平和だが、フォドラはどこか落ち着かないでいた、そんな気がした。
つづく
バーサーカは風花雪月に出ません。
ウォーマスターがバーサーカ枠だと思います。
つまり、この海賊達はフォドラの外から現れた可能が高いです。
《アッシュ》
本や物語が大好きな好青年で至って普通の平民。 別学級とは言えペトラと仲が良く、ブリギットに興味があったアッシュと一緒にやって来た。 原作通りに弓を得意としており、鍵開けの技術はユークリッドからも関心を得ている。 生き残るための知恵は沢山ある程良いのはユークリッドにも通ずるところがあるからだろう。
ではまた