飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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第32話

「よし、敵反応無し。 サクサク進むぞ」

 

「わかりました」

 

「……」

 

 

さて、ガルグ=マク大修道院の地下にやってきた。 馬小屋の中に地下へ続く入り口があるのだが、それを知る者はごく僅かである。 そして五年前にイエリッツァと両成敗食らってレアさんに案内された秘密の入り口でもある。 あととうもろこし娘(コンスタンツェ)はここから出てきたのは余談として、とりあえず地下は真っ暗で危ないので松明を持って進軍中。

 

ライブラリーの魔法で潜んでるかもしれない敵を暴きつつ、安全にとある部屋まで向かっている。もちろん俺含めた三人は武装はしている。 俺はマンディから勇者の剣を回収して、イエリッツァは騎馬から予備の銀の剣を装備、リシテアも魔道書を持ち込み戦闘準備は万端。 それから儀式に使う"女神の像"を大目に持ち込んでいる。 あと"とある像"も一緒にだ。

 

 

 

「しかし本当に便利ですね、その魔法」

 

「その代わりめちゃくちゃ疲れるぞ? なんせものすごい集中力を必要とするからな」

 

 

「ですが息するように二つの魔法を同時に使ってるのは、やはりセスリーンの力ですね…」

 

 

「この異常性を引き出したセスリーン(フレン)本人もドン引きしてたな。 二つの魔法を同時に使うのはおかしいと。 その上、混合させてオリジナルにするから頭もおかしいと」

 

 

「実際にわたしが言うんです。 おかしいですよ」

 

 

「天才に認可されたのならもうどうしようもないないな。 ちなみにライブラリーに関しては俺一人では無く、セスリーン本人であるフレンと一緒にライブラリーを行えば、ガルグ=マク大修道院全体を覆うほどの索敵範囲になる筈だ」

 

 

「ふぁ!?」

 

「……やはり異常性の塊だな、お前は」

 

 

「誉めんなよイエリッツァ。 あ、ちなみにライブラリーの効果を高めた時は『リ』の一文字加えて『リライブラリー』って名前に変化したり、フレンがライブではなく本気のリザーブを加えれば『リザイブラリー』と洒落た名前になる」

 

 

「リザーブはわかりますが"リライブ"とは?」

 

 

「ライブの強化版だよ。 純粋な話さ」

 

 

「え? いやいや…強化版? ライブの次はリカバーじゃないのですか?」

 

 

「フォドラの認識上は『リカバー』かもしれないが、俺の持つ知識上は『リライブ』になる。 それこそファイアーとかも例外ではない」

 

 

「…と、言いますと?」

 

 

「俺の場合、威力を強化した"ファイアー"や"サンダー"などには『エル』って単語を頭文字に入れている。 例えばウインドなら『エルウインド』って感じにな」

 

 

「エル…ウインド…」

 

「……シェイバーでは無いのか?」

 

 

「違うなイエリッツァ。 シェイバーはウインドの進化であるが、俺のはただの"重ね掛け"によるウインドだから」

 

 

「え??」

 

「重ね掛け……ああ、そう言うことか。 ファイアーなら『余熱』だったな」

 

 

「そういうことだ。 数式的な話にするなら余熱(ファイアーその1)加熱(ファイアーその2)加える(足し算)ことで爆熱(エルファイアー)を編み出してしまう。 だから『エル』系を放つにはまず条件としてその魔法を一度放たなければならない」

 

 

「一度放つ必要性? 最初から最大火力で出さないんですか?」

 

「無理だな、ユークリッドの素質では」

 

「…え?」

 

 

「イエリッツァの言う通り、俺自身は理学に関しての素質は低い。 学びの士官学校に3年近く居たにも関わらず、中級以上の攻撃魔法を覚えることも使える事もなかった。 結果として攻撃魔法はファイアーかサンダーの二つくらい」

 

 

「それは……」

 

「……」

 

 

 

理学はダメダメすぎた。

 

理解はあった。

 

だが魔道書を読む知識はあっても使えない。

 

初級魔法のように負担が軽い魔法は使える。

 

しかし俺は上級魔法を扱うような体では無い。

 

それは幼い頃にCQC(近接格闘術)を叩き込まれ、魔道とは程遠い体つくりをしてきたからだ。 それが大きな原因でもあり、そして俺自身に素質は無いから。

 

 

「魔法を覚える数にも個人差は有るとは聞いてたがまさかこんなにダメとは思わなかった。 そんな訳で俺は初級クラスの魔法を強くするしかなかった。 その打開策として考えたのは"重ね掛け"による技」

 

 

「その…言いたい事はわかりますが、あなたはウインドが強くなったのならそれをシェイバーって思わなかったのですか?」

 

 

「憧れはあったけど、まぁ別に良いかなって考えた。それに強くしても結局は"愚直"にぶっ放す魔法だし………あ、言いたい事は分かる?」

 

 

「ええ、わかりますよ。 "愚直"ですよね? その認識なら言いたい事は理解できます」

 

「……どう言うことだ?」

 

 

「例えばシェイバーは敵の周りに視認不可能な風を集約させ、魔力を込めると一気にカマイタチが襲いかかる魔法だ。 またボルガノンも似たように熱を敵に集約させ、最後は一気に焼き殺す魔法だ。 トロンも手元に魔力を集約させて、一気に放出する事で遠くに攻撃が可能。 もちろんバンシーβやデスΓも似た現象(集約)を起こす。 これらの攻撃魔法は初級魔法と異なり、一段階また二段階上の魔力技術を必要とさせる。 それを代表とさせるのがまず"集約"させるなんだ。 もちろん集約に偏らず、自分なりに適正な進化は必要だが、基本的な認識まず『集約』である…と、ハンネマン先生から教わった」

 

 

「……なるほど」

 

「ちなみに上級魔法は"精度"ですね」

 

 

「その心は?」

 

 

「"濃度"って答えもありますが"精度"の方が回答に近いです。 あと"距離"の表現も半分ほど正解でしたね。 とりあえず理由としては、どれだけ魔法を遠くに飛ばせても威力が下がっては意味がありません。 例えその魔法の魔力濃度が高くても途中で分散してしまうならその魔法に力を込めた分は無駄使いです。 慢心してる者は忘れがちですが魔法は放った時に『決まった威力』を保たせることを忘れてはなりません。 そこに距離なんてものは言い訳はならない。 もしそれで言い訳をするならその者に上級魔法なんか使う資格なんてありませんね」

 

 

「はい、天才の回答でした」

 

 

「魔法を簡単に見てはダメです」

 

 

「そりゃそうだよな。 リシテアの言う通りだ。 沢山の知識、そして危険度の理解力、最後は度重なる試行回数によって決まる産物だ。 そう安安と上級の言葉に夢みちゃいけない。 それは剣だって同じだろイエリッツァ」

 

 

「……ああ」

 

「ええ、本当にその通りですね。 ともかくユークリッドさんとは案外良い紅茶が飲めそうです」

 

 

「紅茶でも(さかずき)でも、幾らでも()わしてやるよ。 だからその前にしっかり取っ払ってしまおうな」

 

 

「……ユークリッドさん。 わたしの紋章は本当にどうにかなるんですか?」

 

 

「どうにかなる。 かなりの力技になるが出来る。 だがリシテアも覚悟しておけ。 ……死ぬほど痛いぞ」

 

 

「!!…死ぬほど……ですか。 ふふ…そうですか。 ええ、大丈夫です。 そんな地獄、とうの昔から味わっていました。 だから今更その程度の苦痛どうって事ないですよ」

 

 

「なら絶対上手く行くだろう」

 

 

 

彼女の覚悟を聞きながらガルグ=マクの地下を歩き、そして記憶を頼りに進む。

 

そして、とある部屋の前までやって来た。

 

そこには大きな赤い魔法陣のみ床に書かれた部屋。

 

 

 

「さーて、懐かしいところだなぁ? 紋章食いの部屋とか言ったか?」

 

 

「紋章…食い?」

 

 

「名前に関しては俺が勝手に付けたんだが、この部屋の面積や規模からして恐らく実験室だよ。 または拷問部屋かな?? とりあえずこの魔法陣に入った紋章の持ち主から紋章のエネルギー、つまり対象者の命をも吸い取るカラクリだ。 数年前にフレンが誤って入って食われてた。 あれはマジで慌てた」

 

 

「えぇ…」

 

「……」

 

 

「だがイエリッツァが入っても反応は無かった。 メシマズ案件後の俺もな。 つまり、特定の紋章じゃなければ反応しない訳だろう。 また大紋章かそれ相応に強い紋章持ちか…しかし何のための部屋かは分からん」

 

 

「……当時は人の手が加えられてたような不自然さはあった。 誰かが地下で実験していたと考えた」

 

「地下世界は無法地帯ですか…」

 

 

「地上の法が滞らない地下だぞ? 管理されてないのは当たり前だよなぁ。 とりあえず当時の俺とイエリッツァは盗賊退治が目的だったからグッタリしてたフレンを連れてこの部屋は後にした。 そのかわり記憶には残っていた」

 

 

「そうですか。 あと気づいたのですがこの部屋の壁、よく見たら紋章の種類が書かれてますね。 あ…これって、もしや"ノア"の紋章? となるとこれは"シュヴァリエ"の紋章。 それなら"オーバン"の紋章は…ちゃんとありましたね。 だとしたら"ティモテ"の紋章も無ければおかしい筈ですが……どこにもありませんね」

 

 

「もしや"四使徒"の話か?」

 

 

「!!…ユークリッドさん、そこまで詳しいとは流石ですね。 ここまで博識なら今度紅茶を交えつつ話がしたいです。 いやマジで」

 

 

「伊達に三年間ガルグ=マクに足つけて無いし、これでも四使徒で有名な洛西式典の話は原本(年代記)で読んだ事もある」

 

 

「おお! それは凄い!!」

 

 

「…で、ティモテがどうしたか?」

 

 

「え? あ、はい。 今述べた四つは四使徒がそれぞれ持っていた紋章達であり、それなら近くに四つ揃ってる筈です。 しかし何故かティモテの紋章はどこにも刻まれてません。 四使徒は揃ってるからこそ意味があるのに…」

 

 

「ふーーん? ……じゃあそうなると、ティモテの紋章持ちの人間が消失したか、またはフォドラの"外"にでも逃げたんじゃ無い?」

 

 

「消失はともかくフォドラの外にですか? 異国に逃げるなんて相当勇気が要ります。 流石にそれは無いんじゃ無いですか?」

 

 

「まぁ……"普通"に考えたらそうだよな。 さて…四使徒はともかくリシテア、いまから始まるのは君の話だよ。 体に紋章があるからこそ短命の呪いがある。 ならその紋章を消してしまえばその呪いが無くなる理論だが、それは間違いないと思う」

 

 

「はい、純粋な話ですが、それが可能なら呪いは…無くなる筈です」

 

「……力技によってか?」

 

 

「力技だ。 エクスカリバーでリシテアを斬る」

 

 

 

リシテアに俺が使っている魔除けを持たせ、更に聖水を振りかける。 次にマジックシールドでリシテアの魔防力を上乗せさせ、ハンネマンの部屋からくすねてきた魔防上昇が見込めるマジックアイテムを持たせた後、女神の像を首に下げさせる。

 

アイテムや補助魔法の仕込みを終えると、俺は指先に"リザイア"の魔法を纏わながらリシテアの胸元に触れる。

 

 

「リ、リザイア、ですか?」

 

「リシテアの命を守るためだ」

 

 

もどかしい感覚を受けて体が震えてるリシテアに「リラックスして」と声をかける。 ガン積みされた魔防によってリザイアによるダメージは一切無い。 しかし俺の手にはリシテアの生命力が絡みつき、俺の手の甲に浮かぶセスリーンの紋章と結び合う。

 

 

 

「そのままゆっくり、後ろの魔法陣に一歩ずつ下がって」

 

 

「は、はい」

 

 

 

緊張した様子。

 

それに対して。

 

 

 

「……?」

 

 

 

大人しく従うリシテアだが、静かに見ていたイエリッツァが少し落ち着きない状態だった。 すると腰に掛けていた銀の剣に手を掛けて入り口を警戒する。 何か感じ取ったらしい。

 

俺はチラリとイエリッツァの方を見ると「そのまま続けろ…」と目で返され、再びリシテアに集中する。 すると後ろに下がるリシテアの足が魔法陣に入るとそれに反応して部屋の色が変わった。 紋章食いがはじまった。

 

それと同時にイエリッツァが部屋を出る。

 

 

 

 

 

 

 

___気づかれたよローズ! こいつ怖い!

 

___気をつけてマリー! こいつ強い!

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

___あ……なんか痛いよ、ローズ…

 

___あ……なんか赤いね、マリー…

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、リシテアを助けるぞー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チリチリと焼かれ始める感覚。

 

不愉快な肌触りが周りから襲う。

 

 

 

「っ……こ、これは…」

 

「紋章食いは名の通り、魔法陣に入った対象の紋章を強引に(あば)きだし、そして命ごと食らってしまう危険な儀式なんだけど安心して良い。 俺がリザイアを使ってリシテアの生命力を掴んでいる。 リシテアの命が体の外に引っ張られないようにセスリーンの紋章が守ってくれている」

 

 

 

たしかに命が吸い取られる感覚は無い。

 

しかし体の奥底からとても不愉快な感覚が外側に出ようと暴れ出しているのがわかる。

 

魔法陣が紋章を喰らおうと引っ張りだしているのだ。

 

 

 

「っ、ぃ、痛…」

 

 

「耐えろよ、君は覚悟したんだ。 その気持ちに俺とセスリーンはしっかり答えてやるから!」

 

 

「ええ…! 当然…です! わたしは!」

 

 

 

しかし、ユークリッドの顔が驚愕に染まる。

 

 

 

「え?………リ、リシテア? お前、紋章が……二つ……あるのか??」

 

 

「!!」

 

 

 

 

しまった!!

 

なんて事だ!!

 

重大なミスを犯してしまった!!!

 

わたしの体の中に紋章が二つあることをユークリッドに教えていなかった!!!

 

ああっ、そんな!!

 

なんでわたしは言ってなかったのか!!

 

呪いから助かる可能性の嬉しさに気持ちを傾け過ぎて大事なことを言っていなかったッ!!

 

そもそもこの呪いは紋章が二つあるからだ!

 

しかしユークリッドは紋章の存在の有無で呪いがかかっていると考えていた!

 

っ、なんて初歩的な要らないミスを…!!

 

 

 

「まぁいい! 二つあるなら二つとも斬るだけだろ!!」

 

 

 

短剣にエクスカリバー(光の刃)を作り上げる。

 

 

 

「行くぞリシテア!耐えろよ!」

 

 

「ッ!」

 

 

 

わたしの覚悟を決める顔を見てユークリッドはエクスカリバーを振り下ろす。 そしてわたしの胴体を貫いた。 何かに貫かれた感覚はある。 しかし痛くはない。 どうやらエクスカリバーの攻撃はわたしの魔防を突破出来ず、わたし自身に傷は追わない。 ダメージは無くともただエクスカリバーがリシテアを斬ったと言う事実だけが流れる。

 

 

 

「一つ、斬り離せた…!! …次ッ!」

 

 

 

エクスカリバーを投げ捨てると両手にリザイアの力を全開に放つ。 セスリーンの紋章の光も激しくなり、そしてわたしの体から引っ張りだされたのは【グロスタールの大紋章】だ。 カロンの紋章よりも力が強大で、これがわたしの寿命を削った原因。 大きな力に代償ありとはこのことだ。

 

 

 

そして、つぎの瞬間…

 

 

 

 

 

「ガ あ"あ"あ"あ"あ"ア"ア"!!!!!!」

 

 

 

ユークリッドの腕が血飛沫を上げた。

 

グロスタールの大紋章がセスリーンの紋章が干渉したからだ。

 

 

「!」

 

 

 

 

わたしはあの時を思い出す。

 

忌々しい記憶がフラッシュバックする。

 

 

一人ずつ実験室に連れていかれ、時間が経つと誰かの悲鳴が上がり、絶命していく人間。

 

そこに大人子供も関係ない地獄の日々。

 

 

 

「ぁぁ!」

 

 

 

 

それが今、ユークリッドと重なる。

 

 

 

 

「いや、そんな…! ユークリッド…わたし! ごめんなさい! わたしは…!」

 

 

 

 

情報共有不足。

 

 

紋章を二つ持っている事を知らせなかった失敗。

 

 

結果としてユークリッドの腕が段々と黒く染まる。

 

 

 

「ぁぁ…」

 

 

 

 

これは間違いなく【呪い】だ……

 

紋章を二つ持った時に成立する呪い…

 

わたしが短命なら、ユークリッドは"侵食"だ。

 

どちらも人の命を削る恐ろしさを備えている。

 

わたしがユークリッドを! 呪った…!

 

 

 

「グっ、このっ…!! むぐぐ……ブフー!!!」

 

 

 

痛みに堪えながらも即座に腰から瓶を取り出して口に含むと、ズタズタに血飛沫を上げていた腕に吹きかける。 聖水と特効薬を混ぜたものだ。 特効薬の効果で出血は抑えられ、聖水が呪いの力を弱める。 だが効果は永続的ではない。 ほんの少しの間抑えてくれるだけ。

 

このままでは…!

 

 

 

「っ、ユークリッドさん…! もう、良いですから…!」

 

 

「はぁぁぁ! 痛かったぁぁ! ちくしょう! まぁ、でも腕が危うくなるのは想定内だよリシテア!」

 

 

「だけど!!」

 

 

「なーに、ただのアクシデントだ! そのためにリカバリーの策は作ってんだよ! だからこのままもう一つの紋章も削ぎ落とすぞ! この部屋の魔法陣の効果が無くなったら俺はリシテアの紋章を何とかしてやれる方法がわからない!」

 

 

「だけど!!」

 

 

「長生きするんだろ!なら! 紋章に振り回される人生とお別れをしろ! リシテア!」

 

 

 

なんで苦しんでまで助けてくれるのか?

 

わからない。

 

わからないよ。

 

でも、彼がわたしと同じようなに「そうしてやる!」と言う覚悟があるのなら、わたしも成さないと!

 

 

 

「っ、ッッ、ライブ!」

 

 

「!」

 

 

 

わたしはユークリッドの手を掴んでライブを放つ。 もし干渉することで紋章の効果を発揮できるならと考えた結果、セスリーンの紋章が反応してライブの効果が高まった。 ユークリッドの腕の悪化が止まる。

 

だがこれも永続的ではない。

 

その事を察しているユークリッドはまたエクスカリバーを作り上げる。

 

だが、腕が、体が、全体が、動かないでいた。

 

 

 

「こんのぉぉッッ! 呪いが邪魔するなァァ!!」

 

 

 

息が切れるような声で叫ぶユークリッド。

 

だが呪いは肉体的な根性で何か出来るものではない。

 

そのため腕は下に降ろせず、ユークリッドの体を呪が硬直させる。

 

そしてわたしも息苦しくなってきた。

 

 

「かはっ、ひゅぅ…うぐ…」

 

 

 

ユークリッドのリザイアの力が弱まる。

 

 

彼が掴んでいたわたしの命の主導権を無くしてしまう。

 

 

紋章食いによってわたしの命は食われ始めている。

 

 

もう、ダメなのだろうか…

 

 

 

 

「っ、イエリッツァ!!やってくれェェ!!」

 

 

「ユークリッド!!」

 

 

 

紋章食いの部屋に戻っていたイエリッツァにユークリッドは叫ぶ。

 

この状態を見て何を思ってるのかわからない。

 

だがわたしたちを心配してるように見えた。

 

 

 

「お前の中の【死神】は死んだ! なら残っている【騎士】で助けることはできるはずだ!! ひとりの女の子くらいお前が救ってみせろイエリッツァァァ! お前はここの生徒の先生だろ!」

 

 

「!」

 

 

 

動かせる範囲でエクスカリバーを投げたユークリッド。 そしてそれに応えたイエリッツァ先生は投擲されたエクスカリバーを掴む。

 

だがユークリッドの手から離れたエクスカリバーは効果を無くして消え始める。

 

 

 

だが…

 

 

ラミーヌの紋章が『もう一度』を発動する。

 

 

セスリーン(信仰の魔法)慈悲(エクスカリバー)を繰り返した。

 

 

 

 

「っ、リシテア……!!」

 

 

 

イエリッツァ先生は私を【誰か】と重ねたような表情を持って、それを振るう。

 

二度目のエクスカリバーが、わたしを斬った。

 

しかし意識が…

 

 

 

「リザイア! リブロー!」

 

 

 

呪いから解放されたユークリッドは再びリザイアを放ってわたしの命を保護する。 更にリブローで確実(必中)を操り、回復魔法も合わせてわたしを取り止める。 お陰で紋章食いに引っ張られて意識が飛びそうになるところを助けてくれた。

 

 

 

「ちっ、魔法陣が!」

 

 

 

紋章食いの魔法陣はグロスタールの大紋章と、カロンの紋章を喰らってしまい、その力が増すと魔法陣がバチバチと稲妻を走らせて激しくなる。 これ以上魔法陣にいるのは危ないことは目に見えて明らか。

 

 

 

「ユークリッド、掴め!」

 

 

「!!」

 

 

 

イエリッツァ先生はユークリッドを掴み、そしてユークリッドはわたしの手を掴んで、魔法陣から引き離す。

 

魔法陣はしばらく光を激しく瞬かせ、時間が経つと魔法陣の光は落ち着き、目を開けれるほどになった時には魔法陣は力を使い果たして消えてしまった。

 

 

何もかもが終わった事を知らせていた。

 

 

 

 

「ゼェ…ゼェ……やって…やったぞ…!」

 

 

「お前は…本当に、どうかしてる…」

 

 

「は、ははは! イエリッツァに言われたくはないな」

 

 

 

二人の応酬の声を聞いて落ちそうになる意識を戻す。

 

ふらつきながらも体を起こす。

 

 

 

「……わたし…は?」

 

 

どうなったの?

 

 

 

「……無事か? リシテア」

 

 

「あ、イエリッツァ先生…」

 

 

 

体に異常が無いかを確認する。

 

すると、それはすぐにわかった。

 

何かが軽くなっている感覚を得ていたから。

 

 

 

「ぁ…」

 

 

 

 

まさか……

 

まさか…

 

わたし…は…?

 

 

 

「普通の女の子になったな、リシテア」

 

 

「!!!!」

 

 

 

ユークリッドが「普通の女の子」と言う。

 

ああ、体の奥底に染み付いていた不愉快な感覚はもう無い。 それは紋章が消えてからだとすぐにわかった。 そして呪いは無くなったんだと理解して、短命である苦しさから解放された事実に…

 

 

「ぅ………ぅぅ…ぁ…ああ…!!」

 

 

 

だんだんと涙が溢れる。

 

止まらない。

 

止めることができない。

 

 

 

「リシテア」

 

 

 

泣いてるわたしの頭に手を置かれる。

 

 

 

「……その忌々しさと戦いきった君は、ガルグ=マクの優秀な生徒だ。 よく頑張った……」

 

 

 

 

『忌々しさと戦った』

 

イエリッツァ先生が言うとそれは何故か重みがあった。

 

多分、彼も紋章に振り回されたからだろう。

 

だからこの辛さを共感して、この苦痛を知ってくれる先生がいてくれたことに、わたしの涙は止めることができなくなった。

 

 

 

 

 

「うああああああん!!!」

 

 

 

 

 

命賭けの時間が"終わった"。

 

 

 

 

いや…

 

 

 

 

命の時間が"始まった"らしい。

 

 

 

 

 

つづく

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