飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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第33話

リシテア・フォン・コーデリア。

 

体の中にある紋章の存在によって短命の呪いを背負ったガルグ=マクの生徒、それは覚えていた。 しかし死神騎士としての活動のため、数ヶ月で先生を抜けた私と彼女はそこまで接点は無かったが、とある授業にて私は彼女の剣の才能を見抜いていた。 魔法を得意とする生徒だと思っていたが剣を握った時、筋が良い事に気付いた。 剣を教えれば魔法と共に備えた良き力を身につけれるだろうと思い、手ほどきをした事もある。

 

 

そして約三年後、再び彼女と出会う。

 

ユークリッドとの死合いの果てに私はエクスカリバーで斬り裂かれ、半殺しだった私を治療したのは彼女だった。 そして一瞬だが姉の姿が重なった。 髪の色が似ていたからだろう。 しかしメルセデスと名前を呼んでしまった事は失敗だった…が、二人は特に気にすることもなく時は流れる。 いや、ユークリッドは間違いなく察しているだろう。 どこまでも食えない奴だ。

 

それから突如始まる謎のお茶会に参加させられ、彼女が短命である事を知らされる。 この時、私は何故か「もったいない」と思った。

 

これだけの力と才能を持ち、それが短命と言う理由で失われてしまう事に私は納得がいかなかった。 だが彼女の短命は間違いなく【闇に蠢く者】の所業であり、そこに身を置いて戦う私が彼女の心配するのはお門違いだ。

 

しかし、揺れる……痛む…

 

死神騎士としてでは無く、イエリッツァとして彼女の身を案じてしまう。 私も紋章の存在にて愛していた姉と母の二人と離され、人生を左右させられた。 それはリシテア・フォン・コーデリアも同じ。 望まぬして苦しみが備わった地獄の人生。

 

それは私もまた…

 

 

だがここでユークリッドは強引に私をガルグ=マクの地下に連れる。 傷を治療してくれたリシテアに恩を報いるために力を貸せと。 治療に関しては勝手に施されただけで頼みもして無かったが、でも私は「今回だけだ」と言って着いて行く。

 

しかし着いて来たところで何になる? 死神騎士だった私は武器を持つ事でしか存在の意味がない。 なのに着いて行く私はこんなにも人に流される人間だったのか? ユークリッドが厄介極まり無い存在で、人を容易く乱す人間であるのは知っている。 しかしそこに流されるのは彼と言う存在に惹かれていると理由にもなる。 しかしガルグ=マクの地下に向かったのは私の意地でもあった。 不本意であり、自分でも驚く変化だった。

 

 

___死神は死んで、騎士だけ残った。

 

___死神は命を奪うけど、騎士は命を守るだろ?

 

 

この言葉の意味はそう言う事だろうか? エクスカリバーに斬られてから死神騎士としての人格は奥底に潜めており、自分でも不安になるほど穏やかが今ある。 地下を歩きながらユークリッドとリシテアの会話にも加入できるほど、私は落ち着いていた。 群れることを好まなかったのに、自然と歩く位置も意識する。 ユークリッドと共にいつでも賊からリシテアを守れるよう、また銀の剣をいつでも抜刀できるように装備しているのも、それは彼女を守るためだろうか?

 

自分でも理解できないでいた。

 

私は命のやり取りを愉しむ死神騎士では無かったのか?

 

 

そんな問答を己の中で繰り返しながら、儀式を邪魔する賊二人を斬り伏せ、部屋に戻るとユークリッドからは血飛沫が上がっていたが、リシテアは苦しく呼吸をしていた。 やはり何度もメルセデスと姿が被り、思わず私も表情を歪ませた。

 

するとユークリッドは叫ぶ。

 

血を流しながらも丁度良いところに来たと笑う。

 

そして私に投げた。

 

 

それはエクスカリバー(光の刃)

 

上級の風魔法では無くユークリッド・ラライヤが編み出した特別な光の刃であり、紋章を持つ者に対して扱う一撃必殺の攻撃だと言っていた。 もしくは紋章を破壊……またはその者の紋章を切り離して奪い取ると言っていた。 セスリーンの紋章がそれを可能にすると言い、それをリシテアに実行していた。

 

しかし呪いにて腕を振り下ろせぬユークリッドは、私に光の刃が投げ渡され、救うべく者を託される。

 

 

 

___死神騎士の私がこれを持っても良いのか?

 

 

 

その問答は当然だった。

 

だから手元からエクスカリバーが消えゆく。

 

だが…

 

 

 

 

___死神騎士は死んだ! お前はイエリッツァだろ!

 

 

 

 

命を愉しむ死神では無く、命を守る騎士で振るえと声が聞こえる

 

っ…私にそんなことが許されて良いのか?

 

 

 

 

 

 

 

___エミール…

 

___優しいあなただから…

 

___どうか助けて上げて…

 

 

 

 

 

 

 

懐かしい声。

 

重なる姉の姿。

 

勿体無き逸材の存在。

 

容易く奪われて良い命では無い。

 

覚悟を決めると【ラミーヌの紋章】が共鳴する。

 

光が失われて行くエクスカリバーが【もう一度】を繰り返した。

 

 

 

これを振り下ろせと言うなら…!

 

血に汚れたこの手で良いのなら…!

 

 

 

 

 

 

 

___エミールは優しいから、強いから、私とお母さんを守ってくれる、大事な人を守ってくれる、そんな強くて優しい騎士になってね。

 

 

 

 

 

「リシテア!!」

 

 

 

ラミーヌの紋章がエクスカリバーを支える。

 

しかしエクスカリバーはあまりにも汚れすぎた私の手の血で干渉可能状態に染まっていた。

 

けれど、私はリシテアに振り下ろす。

 

リシテアを斬るが、守る確信はあった。 彼女には【ラファイルの宝珠】を持たせており、それが『特攻』のダメージを防いでくれる。 死神騎士として持つ事を嫌がった私だったが、彼女ならばと思いそれを渡していた。

 

だから私が振るうエクスカリバーはリシテアを傷つけずに守り、忌々しい紋章だけを斬り落として、そして全てが終えた。

 

 

 

こんな汚れた手でも、誰かを救えるのか…

 

 

 

 

呪いから解かれたリシテアは涙を流す。

 

私は…彼女の頭に手を置いた。

 

紋章に負けず、呪いに崩れず、短命の中でも生きる命の輝き。

 

死合いの中の逸楽では感じれぬ命に触れた。

 

 

 

私は、今だけでも…

 

メルセデスが望んでくれた…

『強くて優しいイエリッツァ』になれたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___ううん、違うわ。

 

___いつだって…

 

___あなたは強くて優しいエミールよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……メルセデス」

 

 

 

 

まだ手の中にはエクスカリバーと命の暖かさがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、リシテアにはまだ体にガバの紋章でもあんじゃねぇのか?」

 

 

「だから! そのことは本当に申し訳ありませんって言ってるじゃないですか!」

 

 

「いや、俺もアホみたいなテンションで『助ける!』とか言ったのもあるし、なんなら確認不足だったのはあるけれどよぉ……流石に紋章を二つ持ってることは第一に伝えてくれなかったのか?」

 

 

「だからこうしてライブで治してるじゃないですか!」

 

「ユークリッド……それ以上は斬るぞ」

 

「イエリッツァ先生…!!」

 

 

「お前そんなキャラだったかイエリッツァ!?」

 

 

 

いま一瞬だけリシテアの騎士してんなぁ。

 

なんだか微笑ましい。

 

 

さて、紋章食い部屋を使ったリシテアの救済は何とかなったし、リシテアの体から紋章も無くなった。 しかしイエリッツァには子煩悩な紋章でも備わったんじゃないか?と疑いが出てきた。

 

ラミーヌの紋章の特性かな? まずイエリッツァはああ見えて猫好きなのもあるし、甘いものも好き。

 

それに対してリシテアも俺やメルセデスが作るお菓子の完成を眺めながら頭に猫耳生やして待っている時があるから、この二人には何か通ずるモノがあるのでは? あとイエリッツァと同じようにリシテアは甘いものも好きだったりとこの二人は似た者同士だ。 同時に天才だし。 あと数時間前のお茶会では同じタイミングで紅茶飲んでたし。 地下の道中では歩き方も似てたし。 髪の色も似てるし。 なんだこの二人。

 

ハンネマンがいたらこの関係性を調べたがるなこれ。

 

 

まぁ、それよりも…

 

 

 

「リシテアはこれからどうすんだ? てか貴族としての証である紋章無くなってしまった訳じゃん? やり終えてから言うのもアレだけど…」

 

 

「あ、その事ですか。 なら"解体"が早まるだけですよ」

 

 

「…と、言いますと?」

 

 

「わたしは短命でしたから、いつ何か起きてもおかしくないので、コーデリア領を他へ割譲したり、父と母には安全なところに住まわせてあげたり、そんな段取りはこの三年で取ってきました。 そして今回の件で紋章を無くした言う事は、ある意味地位を喪失した流れです。 それはもう貴族として死んだようなものです。 ならこれまでの段取り通りに事を進めるだけです」

 

 

「それならこれから予定してる帝国には?」

 

 

「それは一旦中断します。 ちょっと、また、考えないとならない事になりましたから。 ……いや、でも、もう権力も紋章も無い同盟領諸国の私なんかが帝国に赴いた所で何か起こるとは思えません。 コーデリア領には長期遠征を告げてますが、でも一度戻ろうかと…」

 

 

「そうか、なら俺の手助けはおしまいだな」

 

 

 

新しく松明に火をつける。 隅の方ではイエリッツァの手によって骸となったローズとマリーの二人が見えたがどうでもいい。 どんな理由であれ命を奪おうとする賊はさっさと死んで、どうぞ。

 

 

 

「………あの、なんでユークリッドさんはわたしを助けてくれたんですか?」

 

 

「んー? ただの気まぐれだよ…と、言いたいけど、イエリッツァとの死合い後にすぐ治療してくれたろ? そのお礼だな。 あとイエリッツァも含めて治療してくれたからこれで紋章二つ分だ。 だからお釣りはいらない」

 

 

「なっ…そ、そんな理由で?? ……いや、おかしいです。 本当に…本当に……意味がわかりませんよ…なぜ、これほどに危険なことまで…」

 

 

「いや、待て待て、ガバの紋章さえ無ければそんなに危険ではなかったろ? もし紋章が一つだけだったら、リシテアから紋章を引っ張りだしてそれをエクスカリバーで斬り落とした後、魔法陣からリシテアを引っ張り出して紋章だけを食べさせて、パパッとやっておしまいだった。 しかし紋章が二つあったし、多少なりイレギュラーが起きた。 でも俺は安全の上での『助ける』の言葉だから危険な事は無かったつもりだぞ? あとイエリッツァも付いて来させたし自衛面にも問題はなかった。 だから本来の予定だと危険は無かったぞ?」

 

 

「うっ……それは…」

 

 

「でもたしかに、紋章をリシテアから剥がすのは危険な試みであり、それは否定できない。 しかし何故そこまでして助けてくれたの?って疑問も分かる」

 

 

「本当に、それだけなんですか? もし何か見返りが求められても、わたしから差出せるモノなんてあまり…」

 

 

「見返りに関しては別にどうでもいい。 ただ、リシテアはどこか俺と似てたから助けたくなった。 あと多分、イエリッツァも似たような感情じゃない?」

 

 

「ぇ…?」

 

「………」

 

 

 

イエリッツァはこちらを見ず、静かに地下の奥に続く暗闇の先を眺め続ける。 しかし否定はしないという事は、つまりそういう事だ。

 

大方『姉』と重ねた的な感じだろう。

 

でなければリシテアの護衛なんかに簡単に手を貸すわけ無い。

 

それで俺は知ってるぞ?

【メルセデス】がそう()だって事を。

 

お世話係時代も含めて判断材料は沢山あったから、理解するのに時間はかからなかった。

 

 

 

「似てる…って、何がですか? 紋章が体に刻まれた事ですか?」

 

 

「別にメシマズ案件とリシテアの過去の実験云々と重ねてる訳じゃないよ。 ただ俺はリシテアの持つ"眼"は限りなく昔の俺と似ているモノだった。 成そう、成したい、成し得たい。 そんな力強さに既視感はあった」

 

 

「!」

 

「あとさ、リシテアが皇帝の思想に賛同したから帝国に向かおうとする理由に対して『自分で考えて下さい』と言われたからさ、考えたよ? 答えは簡単だった。 現皇帝のエーデルガルトは力を持たざる者…つまり紋章や権力の無い弱き者がお日様の下で暮らせる世界を理想している。 それを三年前の鷲獅子戦の前夜に聞き、彼女が革命を起こすために準備をしている事を俺は知った。 なら、リシテアが紋章によって振り回されてきた悲しい人生をどうにかしたいがために皇帝の思想に共感したのも今回の事で良くわかった。 しかしそれは、自分の為ではなくてみんなのためにリシテアが動いていると理解した」

 

 

「……なんで、自分のためではなく、みんなの為と思えたんですか?」

 

 

「リシテアが父と母を心配する優しさが決め手となった。 だから俺にも分かる。 誰かの為に、仲間のために、父と母のために、ひたすらに生き続けなければならない使命感を自ら背負い、その重さに耐えながら歩いて行く覚悟を決めたその"眼"を、俺は昔から良く知っている」

 

 

 

リシテアと全部が似てると言わない。

 

 

でも…

 

 

生きたい。

 

生きなければならない。

 

長く生きてそれを成したい。

 

成し得てもその先をも生き続けてたい。

 

願望と宿願を足跡と共に残す毎日。

 

それが彼女自身に現れていた。

 

俺は…

 

それがどれだけ大変で…

 

それがどれだけ息苦しくて…

 

それがどれだけ痛々しくて…

 

それがどれだけ命輝かしい事を…

 

 

俺はそれをとても良く知っている。

 

 

 

「リシテアからしたら納得しづらいかもだけど俺は良しとする、君がどう思おうと。 あとお礼はイエリッツァにも言ってくれ。 間違いなくコイツが居てくれたから二度目のエクスカリバーがリシテアを救った」

 

 

「も、もちろんです。 その…イエリッツァ先生…」

 

「……礼は尽くさなくて良い。 この異端者が今回の元凶。 私はただ引きずられた死体に過ぎぬ」

 

「でも、イエリッツァ先生の存在がわたしの呪いを斬り裂いてくれた。 だから、本当にありがとうございます。 わたしは成せます。 生きる事……ぁ、ぅぅ……ぐ…」

 

「!?」

 

 

 

リシテアはイエリッツァに近づき、頭を下げた…が、フラついて倒れる。 それをすぐイエリッツァが支えた。 背と腰に腕を滑り込ませ、優しく受け止める。 それは間違いなく優しさを感じさせている。

 

 

 

「……俺が先を進むから、イエリッツァはリシテアを頼む」

 

 

「っ、ぃ、いえ、これ、以上は…」

 

「……大人しくしろ、休め」

 

「で、ですが……これ以上、お手数と…ご迷惑…を…」

 

「……頑張り過ぎるな…………頼む…」

 

「ぁ…………は、はい…」

 

 

 

そしてイエリッツァはリシテアの姿勢を整え、楽な状態に横合わすと、ひょいっ…と軽く持ち上げた。

 

 

 

 

「ふ…ぇ…?」

 

 

 

リシテアの腰と太ももの辺りに腕を滑り込ませて持ち上げるイエリッツァ。

 

リシテアからは変な声が飛び出す。

 

 

 

「ぁ、ぁぁ、ぁっ、ちょ…ぇ、ぇぇえ…!?」

 

 

 

困惑するリシテア。

 

そして歩き出すイエリッツァ。

 

 

 

「……ユークリッド、先導しろ」

 

 

「あ、はい」

 

 

 

どう見ても【お姫様抱っこ】です。

 

 

本当にありがとうございました。

 

 

 

 

「ちょ、あの…!!」

 

「……どうした? 優れないのか?」

 

「ぃ、ぃ、いえ…! そ、それは…!」

 

「儀式の影響で熱があるのか? 赤いぞ…」

 

「ち、ち、違っ…! こ、これは…!」

 

「…おい、早めに出るぞ。 地下は寒い」

 

 

「俺はなんだか暑く感じるけどな。 それも急激に温度が上がった気がする」

 

 

「そうか?」

 

「ッ〜〜〜!!」

 

 

 

 

リシテアの事は無償で助けたつもりだが…

 

 

どうやら違うらしい。

 

 

後ろの光景が、なによりも大きな報酬だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、地下から地上に出れば真夜中。

 

星が綺麗だが物騒な時間である。

 

一度どこかで落ち着きたいため、馬小屋から少し歩けば各職員の個室が設けられた建物がある。 そこには元イエリッツァの部屋もあるので

とりあえず向かう。 俺はその建物の物置部屋から敷布団を取り出し、ウインドとファイアーの熱風で一気に温めると、何も敷かれていない寝床に広げて半分ほどウトウトしているリシテアを寝かす。

 

すると寝かされたリシテアは驚いて起き上がり「こ、子供扱いしないで下さい!」と怒るが「どうでもいいから楽にしてろ」とデコピンかまして強制的に転がせた。 そして「あ"あ"あ"額がァァ!」とゴロゴロするリシテアをよそに俺は武装の半分を床に落とし壁に寄りかかる。

 

イエリッツァも寝床に腰掛けて落ち着いた。

 

 

 

「一息つけるために紅茶持ってこようか?」

 

 

「……今は良い」

 

「ぅぅ…痛い…じゃないですか! もう!」

 

 

 

とりあえず全て終わった。

 

イエリッツァとの死合い。

 

リシテアの紋章問題。

 

なかなか濃縮された時間なので一旦冷却期間が必要だ。

 

しばらくボッーとしてから俺は口を開く。

 

 

 

「それでさ、二人はどうすんのこれから?」

 

 

「…」

 

「…」

 

 

「……と、言うか、俺が二人をどうにかしちゃった感じだよな?」

 

 

「……当たらず遠からず、か」

 

「そうですね。 もう無茶苦茶です」

 

 

「そうか。 しかしリシテアは帝国の向かう途中ではあったが、今の心情からしてまだ帝国に向かいたい意思はどうなんだ? それとも一旦コーデリア領に戻るのか?」

 

 

「そうですね……正直迷ってます」

 

「……」

 

 

「もし帝国に向かうならイエリッツァがそっちだから護衛して貰えば良いんじゃないか?」

 

 

「え? …いや、あの、ユークリッドさんはイエリッツァ先生を……その、処遇とか、そう言うのは? あんたは命賭けて戦って、でも命までは奪わなくて……なんか、変ですよ」

 

「……ああ、結局命断つ事もしなかった私をお前はどうするつもりだった? それがわからん…」

 

 

「俺はただ勝手に敵討ち(フレン)して、それで何となくシバき倒したかったからそうしただけだ。 ほら? 一応イエリッツァじゃん? なんか、その…無性に腹が立ってそれで……うん! 懲らしめてやろうと思った! 丁度そこにいたし!」

 

 

「ええぇぇぇぇ……あんたそんなんだったですか?」

 

「……やはりお前は異端者極まりない」

 

 

「テメェ程じゃねぇえからヴァーカ。 でも色々イエリッツァとは募ってたから『死合う』には素敵なタイミングだと思った訳だ。 別に依頼されたとか、頼まれたとかそんな訳でもないし、ただイエリッツァを倒さないと…って、思った。 または報いてやった(聞いてやった)て感じかな? これまで死合う事を断ってきて、いざそれが始まっても中途半端に関係を終えた。 だが特にハッキリとした理由も無く、でもそれでなんとなく決着付けとくのもアリかなって、その時の勢いがあった。 それだけ。 で、やってみたら俺が勝ったとさ、イエリッツァ」

 

 

「……」

 

 

「それでも、蹴り剥がされた負け犬の仮面をまた被りたいなら、また被れば良いさイエリッツァ。 俺は止めやしない」

 

 

「……」

 

 

「でも川の底に死神の鎧一式は投げ捨てたから多分二度と被れないと思うけど」

 

 

 

「…………は?」

 

「ええと、気づいて無いですか? この人、イエリッツァ先生が意識を失ってる間に鎧と仮面を引きずって、連絡橋から投げ落としたんですよ」

 

「……なんだと?」

 

「あ、これ本当ですよ? 起きた時、鎧一式無い事に気づいてませんか?」

 

「……そう…いえば」

 

 

「いやー、アレ全部重かったぞ? まぁ、でもこれまでのカルマを全部水に流してやろうと思っての行為だ。 あ、もちろんこれは親切心によるものだ、礼はいらないぞイエリッツァ」

 

 

 

思わず口が開いたまま表情が止まるイエリッツァの姿。

 

しばらく静寂とリシテアのため息。

 

そして…

 

 

 

 

「……殺す」

 

 

「やってみろ。 どうせ次のページでは脛蹴られてスネリッツァしてるからな」

 

 

「(この二人、実は仲良いのでは?…って言葉に出すのもの怖いですね。 さて、紋章がないわたしはこれからどうしましょうかな…)」

 

 

 

 

 

世間からしたら死神騎士(イエリッツァ)は恐れられている存在らしい。

 

 

でも、俺からしたら…

 

逸楽に飢えた年の近い男を相手にしてるだけで…

 

別に、それが恐ろしいとかは……ねぇ?

 

そんなの無いよ、うん。

あり得ない。

 

 

 

「っ…………っっ…」

 

 

「CQCを相手に言わんこっちゃない」

 

 

「なんであんたはそんなに元気なんですか?」

 

 

 

 

またこの三人で紅茶が飲みたいと思った夜だった。

 

 

 

 

つづく

 

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