さて、死神騎士の鎧を捨てられた事で怒り出したイエリッツァを叩きのめした後、寝床にぶん投げればリシテアの腹元にイエリッツァの頭がダイナミックエントリーする。 受け止めてアワアワと赤くなりだしたリシテアと、雑に撃沈させられたイエリッツァを放っておいて一度マンディの元に向かった。
礼拝堂の近くに隠していたマンディに無事を知らせると喜ばれてスリスリと擦り寄ってきた。 かわいい。 その後、マンディを馬小屋に案内して夜ご飯を用意する。 好物の茹でた人参を調理しながら現状報告。 そしてセスリーンの紋章が浮かび上がった事を知らせると……マンディが何故か慌てだした。
「い、いや、別に死にゃしないぞ?」
「ひひーん!」
「うおお!? ちょ、どうしたどうした!? そんなに慌てて!?」
「ぶるる!ぶるる!!」
興奮して鼻息が荒い。 どうしたんだろうか? コイツが人間並みに賢いのはわかる。 もとより天馬は人の言葉を理解する生き物だが、この子は特別賢い。 だから今回の事がマンディにとってどれだけの衝撃を与えたのかは見ての通りだ。 しかしそんなに興奮する程の内容だったのか?
「セスリーンって天馬に乗る事を得意とするだろ? なら俺たちの息がこれ以上に合う喜びがあるじゃん?」
「……ぶるる」
「そんなんじゃ無いのか? なら…君は何を伝えたい? 君はフォドラの外から来たんじゃ無いのか? そう答えあわせしたじゃないか。 なのに何故そこまで紋章を気にする? それとも…外にも紋章があるのかい?」
「……」
マンディは何も答えない。 的が外れているのか、それとも肯定しているのか? 俺には理解ができない。 しかし俺の体にセスリーンの紋章が備わった事に驚き、何かに対して興奮して…いや、怒っているように思えた。 紋章を便利な要素と受け止めないマンディは何を思っているのか?
それもわからないまま、好物の茹でた人参をマンディに渡し、綺麗な水を器に注いで俺は去る。 ちなみにマンディは繊細なのか一人で食べたがる。 こっそり近くにいてもマンディはバリスタの投擲を感知するほど勘が鋭く、俺の存在に気づいて食べたがらない。 なので俺はマンディの食事を邪魔せず「おやすみ」と告げてリシテアとイエリッツァの部屋に戻ることにした。
「セスリーンの紋章……成り行きで備わった代物。 俺からしたら強さの一部になるがマンディはそれを喜ばない。 セスリーンの血が体に混じった時も心配してたけど笑い話として納めたからそれ以上は何もなかった。
いつもならなんとなくわかる。 いや、マンディが合わせてくれていると言った方が正しいか。 しかし今回は穏やかとはかけ離れた感情であり、何に怒りを持ってるのか俺には理解し難いところだ。
さて、頭の中を切り替えて元イエリッツァの部屋の扉を開けるとそこには…
「すぅ……すぅ…」
「寝てる?」
「……戻ったか、ユークリッド」
イエリッツァの隣に幼き眠り姫が一人。
「どうやらおネムの時間には勝てなかったか。 まぁ、今日は色々あったし…いや、もう日にち変わってるから『昨日は』が正しいか?」
適当に腰掛けてイエリッツァと相対する。 リシテアは「すぅすぅ…」と眠りついており、イエリッツァの服を掴んでいた。 ちなみにイエリッツァは振りほどくことは無いが少し困っている様に見える。 もちろん放っておくけどな。
「あと死神騎士の鎧だが、本当はとある場所に隠していて、アレ捨ててはないから」
「………は?」
「捨てたのは仮面の方だけだ。 死神騎士の象徴である死神の仮面は叩き壊して、俺は橋から投げ捨てた。 二度とイエリッツァに死神騎士が宿らないように」
「何のためにだ…」
「セスリーンがそうしろと言った…ような気がしたから」
「……またそれか」
「何度も言ってるけど俺はイエリッツァを殺すつもりだったぞ? それが過去に築きあった関係だとしても、そこにイエリッツァも死神騎士も関係なく躊躇わなかったつもりだ。 けれど体から浮かび上がったセスリーンの
「……そんなの、分かるわけがない」
「いや、確証はあるさ。 まず俺自身はエクスカリバーが使えない。 セスリーンが備わってエクスカリバーが使える。 これはセスリーンからの借り物なんだ。 ならエクスカリバーによる与奪はセスリーン次第だった。 それによって編み出された回答は『慈悲』だった」
「……」
「実際に死神騎士としての人格は奥底に引っ込んだだろ? 永続的では無いかもしれないがセスリーンはイエリッツァが死神騎士である事を望まないらしい。 だから俺はさっきの死合いの行先をセスリーンに委ねる事にしだ。 死神騎士の象徴である"仮面"を
「……なら、私をどうしたいと言うのだ」
「イエリッツをどうにかなんてしないさ。 俺やセスリーンは死神騎士だけをどうにかしたかっただけ。 だからイエリッツァ自身で決めれば良い。 帝国に戻っていつも通り駒を続けるなり、なんなら死ぬ前にケジメをつけるなり勝手にすれば良い」
「ケジメ…だと?」
「例えばお前って姉と長い事会ってないだろ? 戦時中とは言え生きてるうちは一回でも姉孝行したらどうよ? 行先は敵国の王国領かもだけどイエリッツァである内に顔を出せば良いと思う。 例え…それが最後は殺し合いになっても『自分は何かのために戦って生きてる』と証明することは間違いなくソイツは『人間で沢山だ』って胸を張れる。 それが死神だろうがニュータイプだろうが、途中はダメでも最後は人の心で絶やして行けるって……俺は思う」
「……簡単に言ってくれる」
「でもお前はイエリッツァだ、 死神騎士では無く、お前は人間で沢山だ。 愛情の尊さを知る人間だ。 なら愛してくれる人に出会うことが怖い訳無いだろう?」
「!」
少し目を見開くイエリッツァ。
しばらくすると目を閉ざして何かを考える。
最後に窓の外を眺めて、小さく呟いた。
「……そうかも、しれないな」
「自分がどうしようも無くなった時、身内に会うことで、解決が早まることもある。 愛せる家族がいる内はそうした方がいいと思うかな…」
それだけ言うと会話は終える。
部屋の中はリシテアの寝息だけが広まり、それにつられて俺は膝を抱えて意識を闇の中に落とす。 イエリッツァは銀の剣をすぐ掴める場所に設置すると壁に凭れ掛かる。 最後にイエリッツァはリシテアに布を被せると眠り出した。
そのまま…
夜を明かした…
♢
おはようございます。
まずは、お目覚めのティータイムだ。
本当はハーブティーが良いんだけど、リシテア口に合わせて好物であるアップルティーでサッパリする事にした。 俺の朝ごはんは乾パンで、アップルティーのお陰で仄かにりんご味になる。 リシテアは自分で持ち込んだ薄味の携帯食料で顔をしかめながら食べていた。 スパイスになる木の実を見つけたのでそれで軽く味付けしてやったら喜ばれた。
ちなみにイエリッツァは消えていた。
帝都に戻ったのか、どこか彷徨ってるのだろうか?
そもそも群れるような人じゃないので、どこかに行こうと彼の勝手だろう。 とりあえず今現在は俺とリシテアの二人だけであり、朝ごはんでしっかり目を覚ましたところだ。
「あの、ユークリッドさんって、これからの目的はお持ちですか?」
「昼ごはんの調達」
「い、いや、そうじゃなくてですね…? 今後フォドラをどう渡り歩くのか気になります」
「冗談だ。 とりあえず俺がフォドラに来た目的はベルナデッタに会うこと…なんだけど、リシテアとイエリッツァの情報だとフォドラってかなり殺伐としてるらしいじゃん? そこらへんの情報が少ないのに他領に入るのはハイリスクで正直動き辛い現状。 けれどガルグ=マクの
「オススメはしませんね。 戦線の関係上、ミルディン大橋を含めて近辺のヴァーリ領など帝国からの取り締まりが厳しいです。 空の移動も決して安全ではありません。 それでも向かうなら慎重にですね」
「そうか。 ならまずは拠点作らないとフォドラでの活動が難しいな。いっそここガルグ=マク大修道院で仮拠点を作っても良いけど……俺やマンディの食料が心持たない。 ガルグ=マクは政治崩壊起こしてるし結局どこか別の領で衣食住を仕入れる他あるまい。 だからどこかの領地に移動しようか考えてる」
「ふむ……」
それならフラルダリウスが良いだろう。
寒い地方だが、野菜が美味しい。
どこぞの
または同盟領まで向かい、ゴネリル家に潜り込んでまた傭兵として雇ってもらうのもありかもしれない。 ホルストなら俺を雇いたがるだろう。 戦力的な人手がいつも足りないだろうし。あとポテチで釣れるからホルストは楽。
最後に候補があるとしたら、ベルナデッタに会うため真っ先にヴァーリ領まで向かうのもアリかもしれないが正直に言うとハイリスク過ぎる。 リシテアが言ってることは正しい。 俺のせいでまたベルナデッタに危険が迫るのは頂けない。 約束を果たすためには慎重に行こう。
そんなことを考えてると…
「……あの、もしまだこれからの行く先が決まってないのでしたら、わたしから提案があります」
「?」
カタン、っと、ティーカップを置いてこちらに視線を向け…
「わたしが属するコーデリア領まで来ませんか?」
「!」
それはとても真面目な表情で彼女は言った。
「コーデリア領はリシテアのところの領地だよな?」
「はい、そうです。 わたしの両親が統治している領内です。 それでですね。 もし衣食住と路銀の確保を目的としてるなら、わたしがあなたを傭兵として雇いますよ」
「おっと? これはなかなか嬉しい話。 しかしどう言った要件でそれを? そもそもコーデリア領は解体するから雇うのは下策なのでは?」
「いえ、解体はしますが、その前にとある芽を潰して起きたいです。 これはわたしだけの問題じゃありませんから」
「ふーん? …それって同盟領の問題?」
「ええ、その通りです。 同盟領の中でとても面倒な問題です。 コーデリア領を割譲する前にとある厄介者を一度鎮圧しておかないと割譲なんて安全にできません」
「なるほど。 そりゃ…面倒な貴族だな」
「はい、戦時中とは言え、本当に…」
「わかった。 とりあえずその話乗らせてもらうよ」
一番大変なはずの仕事探しの手間が省けた上に、コーデリア領の令嬢直々に話を持って来てくれた。 この路銀稼ぎはもう乗るしか無いね。
ご機嫌良くティーカップの中の紅茶を飲み干した。
…
…
「なんでユークちゃんが敵なのよぉぉ!!? そもそもその天馬ってあの時のだよね!? なんでそのまま手懐けてしまってんのぉぉ! お得意のブリザーが届かないだるぉぉお!」
いつもなら相手をバカにしたような態度を取る奴だが、俺に対してはとても情けない悲鳴が上がっていた。
「あっはっは! 相性は最悪だな!
「ひひーん!」
リシテアから傭兵として雇われると俺は報酬や契約期間を軽く話し合い、最後は了承する形に収まる。 そしてコーデリアの編隊に加わり、リシテアがどうにかしたいその敵と丁度睨み合いで牽制を続けてるグロスタールの軍と合流した。
「ふん! 落ち着きがない貴族だな! 貴族の隅にもおけんぞアケロン!」
「うるさい坊ちゃんだなぁ!? 身長超えたからっていい気になるんじゃないぞ!」
「ふん、僕は食生活を気にしていてね、貴族たるもの貴族らしくそれ相応の体も必要なのでね! こんな拗れあいばかりやってる君とは違うのだよ!」
「ローレンツゥゥゥ!」
追い込まれてるのに元気な奴だな。
相変わらずアケロンは昔のままだ。
それに対してローレンツは貴族らしさがしっかりと身に出ていて、英才を受けてそれをしっかりと形にしている事がよく伝わる。
風見鶏はいつまでも風見鶏か。
「年下相手に必死すぎるだろアケロン。 ……てか、これもう俺必要無いのでは?」
「いや、あなたが来たお陰で凄い勢いで進軍できましたよ? ローレンツさんも合流したりと一番のターニングポイントだったのでユークリッドさんが強烈な後押しになりました」
「いや、まぁ、小規模の戦闘に正規軍を送り過ぎる事に気が引けるのはわかるし、傭兵や義勇軍で収めれるならそうしたい気持ちは分からないこともないけど、些か小競り合いを引き伸ばし過ぎでは?」
「わたしとしては、あちら側は睨み合いが続かず根負けする事を想定してたので『こちらは軍が多いぞ!』と威圧するために民兵に正規兵の格好をしてもらってました。 だから実際の戦力はあまり無いようなもので、正直時間の問題でもありました」
「ああ、そうなの? だとしたらコーデリア領に住まう民達は逞しい限りだな。 危ない橋だろうに」
「はい、しかしそうでもしないと貧しいコーデリア領はどうにもなりませんから。 だからユークリッドさんが来てくれて助かりました。 ありがとうございます」
「どういたしまして」
さて、案の定アケロンは降伏。
いや、攻め入ると呆気なく負けを認めやがった。
それでもリシテアがコーデリア領に戻って来たことで戦力は大幅に上がり、ローレンツの援軍でアケロン軍を上回り、最後に俺がアケロンの屋敷を制圧してアケロン軍の背後を取ってゲームセットの構図だ。
「グロスタールの南側で飽き足らず、フリュムの東側のゴネリル家の南に領内を強引に広げるなど何を考えている! 帝国との緊張状態を悪化させる気か貴様は!」
「坊ちゃんにはわからないだろうね! 僕がどれだけの思いしてるかを! そうしなければならないほどに苦闘していることを!」
「分かるまいさ、貴様の領界を脅かす独走など知りたいとも思わぬよ! 三年前は見逃してやったが、その首を撃ち墜とすべきだろう!」
「っ……そうかい…なら、やるなら、やれば良いよ! もう……もう…僕ちゃんは疲れたから……やると良いさ。 ユークちゃんの制圧が本当なら屋敷も燃やされるだろうし、失うものも怖くなんかないんだらね!」
「なんだと!? ここに来て開き直るか!」
「そんなの僕ちんの勝手だるぉぉ!! こっちは知ってしまったことを、そうしなければならないことを、口を割ることが叶わない苦しさを、お前ら大貴族には分かるまいさ!」
「何を言っている! 帝国に縋りながらもいつでも尻尾を切り落とせるように施策を建て! 領土の戦果報酬に便乗して領を広げる政策もこのローレンツ・ヘルマン・グロスタールが見破ってないとでも思ってるのか! 答えろアケロン!」
「………答えない方がマシだね。 僕は君に口を開かない。 だからもう殺せよ。 そうすれば何もかも終わるよ。 蓋をして全部また振り出しに戻すのもありさ。 僕は……疲れたさ…」
「ッ! …そうかい。 なら、ケジメを付けさせてもらおうか…!」
ローレンツが首を落とすフリをする。
まだ首を断つつもりは無いらしいが、これが最後の合図だろう。
これでアケロンが抵抗がないなら…
つまりそう言うことになる。
だから…
「はい、ストップー、そこまでだ」
俺は止めに入った。
「なっ! ユークリッド殿! これは同盟領の問題だ!手を出さないでいただきたい!」
「何してるんですユークリッドさん! 懐かしき知人と言えども同盟内の戦後処理にあなたが出る幕はありませんよ!」
「わかってる、身分を弁えてないのも理解してる。 でも俺は何か違和感を感じてたまらない。 アケロンの学生生活の1年間を見てきた俺の感が告げてる。 コイツは何か隠してるって」
「なに!?」
「え!?」
「ッ、ユ、ユークちゃん…」
ガルグ=マク大修道院のお世話係としてアケロンの1年間を見てきた。 コイツは風見鶏の異名を付けられたほどの問題児だったから記憶にも印象にも強い。 エルファイアーをしようとして訓練所で大爆発を起こして問題を広げたりと本当にどうしようもなかった。 でも少しずつ世話たりを覚え、価値観を考えるようになり、入学当時よりも卒業後のアケロンはマシな貴族っぽくなってきた。 情報網をしっかり掴んでおく立ち回りも覚えたりとアケロンは皆が思ってるほどバカではない。
だからいま自暴自棄になり始めたコイツを見て、俺は何か違和感を覚えてたまらない。 すぐ弱気になる癖に、今は首を差し出すことが最良なんだと判断するこの行動を見た俺の脳内が『いますぐ止めろ!』と訴えてた。
「アケロン、なんで帝国を迂回してまでゴネリル家の南を抑えようとした? 完全に帝国に身を寄せたなら領土侵略の貢献なんだと分かるけど、中途半端な立場に位置つくお前がそれを行うのがどれだけ危険なのか分かってるだろ? それが分からないほどアケロンが愚かだとは俺は思わない。 何故だ?」
「ッ………もう、ユークちゃん、これは同盟の話だから…悪いけど部外者は…」
「アケロン!」
「!」
「お前が嘘を吐くときは右上を見て揉み上げを弄る癖は知ってる。 でも隠し事をする時はポケットのハンカチを強く握りしめる」
「!?」
「そうだろ? 見せてみろ。 気品を忘れないお前が私物をしわくちゃにする訳ない!」
「ッ…」
アケロンのポケットから強引にハンカチを盗ると握り締めたような暖かさ、そしてしわくちゃになっていた。 これは駆け引きとかで負けた際にアケロンが血を出すほど握りしめてしまうため、その防止としてハンカチを握る癖をついている。 アケロンは駆け引きが下手くそだ。 だから良くこうなることを俺やホルストも知っている。
そして今回もそうだった。
「お前は隠し事をしている。 お前は嘘の自慢話はせず、本当の自慢話しかしか無い。 見栄を張るけど、間違えた見栄を張らない。 人を小馬鹿にするけど、自分の馬鹿さ加減も理解している。 そんなお前を見てきた俺が、アケロンを知らないわけないだろ! だから言え! 何を隠して、何に怯えてる!」
「ユ、ユークちゃん……でも、僕ちゃんは、君には、平民である君には、言えない! 確かに君には恩は大きいし! 貴族や平民の間に塀を作らず正面から僕ちんを気にかけてくれた君をしっかり覚えてるよ! でも! でもね! これは僕ちんだけの問題で、僕だけが墓の中に持っていけば終わる話なんだ! だから、これは領界問題の間だけの事実で終わらせてくれよ!」
「断る」
「何故だよ!? ここでも士官学校の時と同じ温情を持ち込む気かい!? …ぼ、僕ちゃんは、君にこんなところに来て欲しくなかったよ! 何故巻き込まれにきたのさ! 何故だよ!」
「そんなのフォドラの暁風だけしか知らないだろ。 だがな、この現状を目の当たりにして見逃すわけないだろ! 風見鶏なお前だけど、何か背負って耐えてる姿を俺には隠せれたと思ってたのか!?」
「ッ………んで……なんで…ッ、なんでェ! なんでなのさァァ!! なんでここにユークちゃんを!僕を友人と認めてくれた君が! こんなところに! どうしてユークリッド・ラライヤを連れてきたのさ!! どうしてだ! 答えろッ、答えろよ、ローレンツ!! コーデリアの小娘ェ!! 」
「!」
「!」
これまでにないほどの気迫。
二人はこんなアケロンを見たことないだろう。
正直に言えば俺も見たことない。
でも、士官学校を卒業してからは確かに何かを得て成長した生徒の一人である。
俺は卒業して士官学校の門を出て行くアケロンの後ろ姿を見た。
耳を塞ぎたくなるような鳴き声しか出さなかった風見鶏が、一つ殻を破って飛ぶ重要性を知った風見鶏になった姿を。
「……アケロン、お前と会ったら紅茶でも淹れてもらって、また意味のない自慢話とか聞きたかったよ」
「………それは僕もだよ、ユークちゃん。 茶葉と一緒にたくさん引き出しに閉まってるさ」
「でもさ、引き出しには制限があるし、ボロは出ちまう。 なら消費しないと茶葉と同じように心がカビてしまう。 今日は俺がティーを注ぐから、俺にだけ出せれる茶葉で在庫処理してしまおうか?」
「………」
「な?」
そう言葉を掛けるとアケロンはしばらく下を向いてたが、フッと負けたやつに笑うと上を向いて懐かしむように言う。
「……本当、変わらないよね。 学生時代にエルファイアーを失敗して、ホルストを除いてみんなから見放された時、君は今と同じように言葉を掛けれるなんて、本当に変わらないね。 すごく羨ましいよ」
「紅茶の味の保ち方は、淹れ方を変えないことだろ? アケロンの好きな味で淹れてみただけ。 お気に召さなかった?」
「……振る舞いがまだまだ駄目だよ。 でも、美味しいと思うよ、ユークちゃん」
「そうか。 なら……味を楽しんだ舌は良く回り、潤った喉からは、真実は言えるよな? お前の隠していることを全て。 茶会を共にする俺はアケロンの味方になれる」
「ああ……負けたよ。 君には敵わないな…」
俺とアケロンにしかわからない会話。
でも落ち着いた彼は、隠し事を打ち明けると頷いた。
「……ローレンツさん。 なんか、わたし達置いてかれてません? これ、同盟領内でそこそこ大きな問題と思いますが…」
「そこそこと言うべきか、僕からしたらかなり大きな問題なんだけどね? しかし最初の辺りは僕も同意さ。 だがユークリッド殿にアケロンの隠してることを明かさせて、それでもっと有効な処置があるならそれはそれで良いさ」
「そうですか」
「そもそもこの侵攻は明らかに危険すぎる。 何よりまずアケロン自身は危ないことを良く知ってる筈だ。 あと当然だけど、同盟領は帝国に大きな隙を晒し、グロスタール南西は帝国と結ぶ契約を違えて、ラディスラヴァやフェルディナント君と交戦が免れない事態もあり得た。 それは僕も絶対に免れたい事態だったから、正直アケロンの気でも触れたのかと疑ってね、僕も急いで援軍を飛ばしたりと熱くなりすぎたよ」
「……だとしたら、ある意味ユークリッドさんをこの場に連れてきて正解かもしれませんね」
「それは飛び出す内容によるかな」
雇われ主の癖にしゃしゃり出た俺は傭兵失格であるが、やはり知人の叫び声に悲痛が混ざっていると居ても立っても居られなかった。 別に許さなくても良い。 でも優先順位は俺が決める。 それだけ。
「リシテアには悪いけど、今回は報酬とか無しで良いから一時的にアケロン身の安全を作りたい。 コイツの処遇はその先でいいだろうから」
「……まぁ、別に良いですよ。 あなたは突拍子の無い人ですが、無駄なことしないの知ってますから。 ええ、良く知ってますから」
「どうしたんだいリシテア? やけにユークリッド殿の肩を持つみたいだが? もしや、この人に惹かれてるのか?」
「はぁ? なんでそうなるんですか…? いや、別にそういった感情はありません。 恩人ですけどそれとこれとは全く別ですから、ローレンツ」
「そりゃそうだよな。 そもそもリシテアの想い人は別の人だし」
「ほぉ?」
「ちょ!? ユークリッドさん!!」
「ちなみに俺はベルナデッタ一筋なのでリシテアは違うと言っておく」
「なんだ、違うのかい」
「ッ〜! もう! あんたも何勝手に人を振っているんですか!? バカですか! 本当に…! じゃなくて、ですね! それよりそこの風見鶏をどうにかするんですよ! 傭兵失格してまでしゃしゃり出たんです! あんたはちゃんと責任を持って立ち会いなさい!」
「わかったわかった、落ち着け」
そしてアケロンに隠している事を聞いた。
最初はやはり抵抗があったが「ユークちゃんなら大丈夫」と言って口を開いてくれる。 それほどに信頼を買ってくれて、それほどに大きな問題なんだと、皆は察する。
そして…
それはとても重たい内容が飛び出してきた。
「僕ちんは、知ってしまったのさ」
___ 【闇に蠢く者】 が 集う場所を…
つづく