「見違えたね、イングリット」
「先生! 先生!!」
「迷惑かけたね。 今まで守ってくれてありがとう」
「良かったです…! 本当に良かったです!」
「ユークリッド殿、感謝する」
「いえ、ロドリグさん。 感謝するのはこちらの方です。 友達をこうして匿ってくれて、それで助けてくれたのですから。 だからありがとうございます」
「そうでもありません。 先生には私の倅もお世話になりました。 それに先生が居れば王国は救いに近付く。 皆がこの方を必要としているのなら、このくらいどうって事ありませんよ!」
やはり大貴族の中の大貴族は違うなぁ。
懐が、すごく……大きいです。
「しかし何年も眠り付いていた彼女をどうやって起こしたのだ? いきなり二人が倒れた時は非常に焦りを覚えたが、安らかに眠り付いてるようだった。夢の中で何か起こっているのだろう思って見守っていたが…」
「はい、そんな感じです。 そこには色々と地獄がありました」
「そうなのか!? そうか……ベレスは、眠り付いても尚! 戦っていたと言うのか…!」
「ええ、魔の手の中で苦しみ悶えてた。 でも魔の手に耐えて、そしてベレスは震えながらも、その体を起こした。 今にも生き絶えそうだったその声は『皆の元に戻る!』と、力強くね、笑っていた」
「そうか……良かった、無事に目覚めて…!」
「そだねー」
間違った説明はしていないぞ?
くすぐり と 言う名の"地獄"だし。
俺とソティスによる"魔の手"だし。
過呼吸で"
「"皆の元に戻る"(からくすぐるのやめて許してソティス)!」と叫んだし。
無表情も崩れてくすぐりに耐えれず"笑って"いた。
うん、間違った説明をしてないな。
どこもおかしくないと感心する。
「ベレス、体の調子は? ソティスがその身体を動かしてたから筋肉とは衰えてないと思うけど」
「問題ない大丈夫。 でも、何故かまだアレの違和感があるんだけど? ……やりすぎだ、ユーク」
「ぶっちゃけ俺はアドバイスしただけで9割はソティスだろ。 調子乗りすぎたアイツが悪い」
「提案したユークが悪い。 それに私だって好きであんなに眠っていた訳じゃない。 未だに三年以上も時間が経っていることが信じられない。 体感的に一日も経ってない気分」
「その上年は取ってないみたいだな? 今のベレスはイングリットと同い年だぞ」
「え? そうなの?」
「え? あ、ええと??」
「本当だ。 身長も同じくらい。 じゃあ今のイングリットは私と同い年の……お友達的な感じ?」
「ええ!? せ、先生!? 待ってください! あの! きゅ、急ですよ!?」
「私はイングリットがお友達でも嬉しいかな」
「ちょっと! 冗談困りますよ先生!?」
「でもさ、ガルグ=マクは凍結してるし、働いてた者は解体されていて、それは職員も同じだ。 なら今のベレスはただの世捨て人であり、先生でも何でもない訳だから、イングリットと親しい感じに収まればそれはもう友人関係なのは明らかだろ? もういっそ、食べるのが好きなベレスとコンビ組んで串焼きガールズでも結成したら?」
「はいいい!!?」
「イングリットと友達関係か、いいね」
「えええぇ!!??」
「これからよろしくイングリット。 私はベレスって呼んで。 あ、でも、そうなると貴族のイングリットの方が身分は上だから……イングリット様?」
「いやぁぁああ!!嫌だぁぁあ!」
小さな部屋の中でイングリットの声が響き渡る。 揶揄って楽しんでる俺に対してロドリグさんが「ユークリッド殿…」と少し呆れたように言い、ベレスは「冗談だよ」とイングリットの頭を撫でて、イングリットは少し涙目で「もう先生!」とプンスカしていた。
『(やかましいのじゃ…)』
あ、ソティスはベレスの中でご健在です。
…
…
「王都フェルディアを制圧した帝国は次にフラルダリウスとゴーティエの領域に攻撃。 今のところ散発的だが後々大攻勢が入るはず……なのだが」
「俺やグロスタール家が帝国の
「うん、そうだね。 体制を整えさせる前に王都フェルディアに攻勢を掛けて、ディミトリを救出しつつ王都を奪還。 そのまま帝国軍を
「同盟に向かっていたセイロス兵と合流しながらミルディン大橋に向かい、グロスタール家と共にミルディン大橋を制圧ですね?」
「そうだ」
上から、ロドリグさん、俺、ベレス、イングリット、そして再びロドリグさんが一声挟んで方針をまとめた。
もし王都フェルディアが取られてなければそのままミルディン大橋まで侵攻して欲しかったが、王国の旗印となるディミトリが居ないので彼を助けるところから始まる。 王国の兵力は帝国の半分だが、そこにベレスも復活して俺も参戦する事を決めたので、ロドリグさんはとてつもなく心強い味方が出来たことに喜んでいた。 なんならこちらに感謝を示して頭まで下げるレベルだった。 ベレスに関してはロドリグさんのおかげだろうに。
でも正直、俺やベレスの件が無ければ間違いなく苦しい情勢に追い込まれてしまい、ただでさえ寒くて貧しい王国なのだからどこもかしこもスラム街と成り果て、飢餓と没落による政治崩壊した王国の歴史が始まろうとしていたのは明らか。 なにこれ、地獄に他ならないぞ…
それでも逃げずに戦い続け、ディミトリすらも奪還しようと希望へ足を止めないロドリグさんマジ大貴族。 ヴァーリ伯のクズ野郎と大違いだな。
「私は早速ゴーティエ家と話し合いに入り、軍の編成に取り掛かる」
「ロドリグさん、俺とベレスに何か出来ることありますか?」
「もちろんだ。 人手はいくらでも欲しいレベルだからな。 しかしやって貰いたいことはそれは追い追い伝えるとして、ユークリッド殿は長旅もあり、先生は目覚めたばかりとは言えしばし休まれた方が良い。 私の屋敷の部屋を貸すのでそこで衣食住を得て貰いたい」
「マジですか!? め、めちゃくちゃ有り難いですが…え? いいの? マジ?」
「ユーク、敬語崩れてる」
「はっはっは、部屋については構わない。 それに王都奪還の反攻作戦は君たち二人が主軸となる。 無論、私も戦線に赴くが力のアテは貴殿と先生によるものだ。 それに、これからの方針を固めるために話し合いの席は近い方がいいだろう。 だからフラルダリウスで滞在してもらう方が私は有り難い限りだ。 ……正直、平民を守るために貴族と言うものがあるのに、このように平民の力を借りなければならない現状。 ふっ…ファーガスの盾の名が聞いて呆れるな。 殿下も守れず、情けなく敗走し、あまつさえ平民に力を請うとは。 君たちには……感謝している。 どうか王国を助けて欲しい」
「待て待て待て!! 頭下げないで!? 俺も利害一致の上だから!? むしろ俺は伝手がロドリグさんくらいしか無かったからロドリグさんにこの話を持ちかけたくらいで、それで話に乗っかってくれてむしろ俺が頭を下げる側というか…」
「だがそれは貴殿の活躍によるものだ。 間違いなく王国の助けになる一手。 情報も早めに持ってきてくれたお陰で後手に回らず優勢を作れる状態だ。 これほど好機はそうそうない。 だから貴殿の働きに感謝を」
「働きって……俺は、ただ…」
「伝説の傭兵だ」
「え?」
「私はまた、伝説の傭兵に助けられようとしている。 今回はその息子であるが、私は……いや、フラルダリウスはまた、
「!」
「今まさに、あの時と同じだ。 当時のソルテは貴殿と同じくらいの歳で、フラルダリウスを中心にソルテは王国の助けとなった。いまこの現状はあの時に似ている。 だから私はとても嬉しいのだ…! とても懐かしいのだ!」
そうか。
そうだ。
俺の父、ソルテ・ラライヤは大昔にロドリグさんを助けた。
村を一つ救うだけではなく、領を、国を、大規模な助けとなった伝説の傭兵だ。
それをロドリグさんは見ていて、俺はその時と同じなんだ。
___時の縁じゃよ
ああ、そうだな。
フォドラの暁風はイタズラが過ぎる。
「………ロドリグさん。 俺は親父がどれほどだったのかあまり知らないけど、親父の活躍に詳しいロドリグさんがあの時と同じと偽りなく言うのなら、俺は【伝説の傭兵】に近しいのかな?」
「……ああ、王都を救えば、それ以上となるだろう。 君は既に良くやっているのだ。 私からしたら貴殿は【伝説の傭兵】と違えないさ」
そう言うと、ロドリグさんは棚からとあるものを取り出した。
そして、それを俺に差し出す。
「これは?」
「この部屋にあったものだ。 あと、君は知らなかったな。 この建物と地下の部屋は、20年以上前に傭兵時代のソルテ・ラライヤが拠点として使っていた場所なんだ」
「!!?」
嘘だろ!?
そんなこと聞いたことないぞ!?
なんで父はそんなこと言わなかったんだ!?
……いや、言えなかったか?
秘密にしておくべき事だったのか、または言う必要は無いかのどちらかだろう。
だが、そうか……フォドラで旅団がフラルダリウスに逃げて使っていた建物がまさか、父が現役の頃に使っていた拠点だったのか!
ッ〜〜!!
ほ、本当にフォドラの暁風ってのは…!
無駄にイタズラが込んでるなぁ!!
「何故、これだけを置いていったのかはわからない。 秘密主義を突き通す伝説の傭兵として痕跡を残さない仕事人の筈だ。 しかし、こうしたのはソルテがいつか必要になると思った上でのことだろう。 この代物がどこでどう必要となるかはハッキリとしてなかったと思うが、なにかのためにと置いていった。 私が報酬として渡したモノなんだけどな」
「父への報酬だったんですか、この高級品は」
「私もたまたま手に入れた物でな。 最初は何のものかあまりわからなかったが、ソルテはこれを知っていて、使い道も教えてくれた。 私からしたら必要としないモノだったからな。 ソルテにとって価値があるならと渡したのだ」
「……」
「あの、一体これはなんでしょうか?」
「私も気になる」
それもそうだ。 これは二人には見たことないものだろう。 いや、フォドラでは必要としない"外部"モノだから見る機会は無いだろう。 これはロドリグさんも必要としないはずだ。 士官学校という場所があるからこれに頼る事は無いに等しい。 外から来た父だからこそ必要とされる代物。
それは…
「【マスタープルフ】か…」
「知ってたか、ユークリッド殿」
「はい、知ってました。 確かにここでは要らないモノですね」
「ああ。 フォドラの外はどうなのか知らないが、今のフォドラでは昇格試験の元で職業を高めるのだからな。 昔は使っていたかもしれないがな」
俺は海賊と戦った時の頃を思い出す。 父の戦闘スタイルが【勇者】じゃないかと思っていたが、それは恐らく当たっているだろう。 そうなると父は既に上級職だった訳だ。 たしかにマスタープルフを必要としない。
「ロドリグさん、そのマスタープルフ有り難く頂きます。 そして、使います」
「ああ、そうするといい。 ソルテもそれを望むだろう」
ロドリグさんからマスタープルフを受け止める。 三人から数歩離れて、俺は短剣を持って指に切目を入れる。 血が溢れだし、その血をマスタープルフに垂らした。
「!!」
するとマスタープルフは使用者に反応して、輝き出す。
俺は目を閉ざし、マスタープルフを握りしめて、念じた。
頭の中に沢山が巡る。
勇者
賢者
ソードマスター
アサシン
パラディン
ウォーリアー
バーサーカ
ジェネラル
スナイパー
ドラゴンマスター
ヴァルキリィア
ローグ
フォレストナイト
ホースメン
司祭
ソーサラー
マスタープルフによる可能性の道達。
「……」
俺はペガサスに乗ってるから…
上級職の加護を受けるのは…
ドラゴンマスター。
……いや、違う。
俺は
ただ乗ってあるだけ。
ならファルコンナイト??
これも違う。
女性でもない。 天空の鞭もない。
マンディは元は人間だ。 それにはなれない。
なら傭兵だから……勇者?
これも違う。
そもそも俺は傭兵ではない。
俺はペガサスライダーと勝手に名乗ってるだけ。
強いて言うなら俺は天馬に乗る【平民】
だ。
職業に就いたことなんか『一度も無い』から。
なら…
俺は…
俺に残るのは【 血 と 魂 】だけ。
この二つが俺に特別を導いてくれる。
そう、踊り子のような【特殊職業】だ。
なら…
俺に備わる特殊な職業とは…?
それは…
父の"栄光"が刻まれたその【血】から…
父の"栄光"と並び合えた【実績】から…
父の"栄光"の写し絵となる【魂】から…
父の"栄光"から教わった【学び】から…
俺のためだけに引き出された特別…
それは…
その 名 は…
その 職業 は……
「……これが、俺の職業だ」
マスタープルフを握りしめていた手には…
昔、父が額に巻いていた時と同じ色の黒い帯が俺を祝福するように託されてた。
それを額に巻く。
__この日、伝説の傭兵が蘇る。
つづく