飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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第4話

帝国歴1176年

 

 

 

滞在期間にしては特に短かっただろう。 まぁ領主様の機嫌損ねたから当たり前と言えば当たり前か。 武力行使に出ないだけ安心したがヴァーリ伯爵もそこまで荒事広めるバカでもないらしい。 ただ単に平民嫌いが目立つだけで、俺たちが心底気に食わないんだろう。 そんでもって出て行けってさ。 出ていきますとも、ええ。

 

さて、旅団はこの街を出る前日に最後の演劇を披露する事になり、昨日の夜は盛り上がった。 民衆は予定よりも早い突然の退散に驚く。 それでも演劇は普段通りに行われ、この街での最後を楽しんだ。 俺はバックヤードから中盤の盛り上がりを眺めながら入れ替わり要員のために飲み物を用意したり通常通り。 しかしその日はポテチを用意する暇もなかったのでミニドーナツしか売ることは出来ずにいた。 楽しみにしていた人たちに悪い事をしたかな。

 

 

そんなことあって特に問題なく終了。

 

演劇にベルナデッタは来なかった。

 

 

 

 

「行くぞ、ユークリッド」

 

 

「はい」

 

 

 

通行許可証を門番に見せ、この街の入り口から出て行く。 門番の人には残念がられた。 次の日が休日で観に行こうと思ってたらしい。 団長は苦笑いしながら謝っていたが、門番の人も仕方ないと言った顔をしてまた来る事を願っていた。 またこの領内に来るのは難しい話だけど事情を伏せて「またな」と一礼して団長が最後にこの街を出る。

 

ほんの一週間程度の滞在だった。 歩みを進めればその街は小さくなり、楽しい思い出と苦い思い出が半々に巡る。 俺にとっての心残りは友達をあまり作れなかったこと、そしてベルナデッタに別れの一言も告げれなかったことだ。

 

この街で最初にして最後の友達。

 

その関係を大事にしたかったなぁ。

 

 

 

 

「………誰か付いてきてる?」

 

 

 

俺は旅路進行中の時は分けられたグループの最後列を歩いている。 そして後方の警戒を務める役目を14才になって背負うようになり、15才になってもそれは続く。 解放的なフォドラの風を受け止めながら仲間と喋り、それでも気を緩ませずに程よく緊張感を保たせながら歩みを進めていたところで後方から追いかけてくる人影を見つける。

 

旅団の中であの街に置いて行った人はいたか?

 

いや、全員点呼を取った筈だ。

 

だから問題無いはずだ。

 

すると…誰だ?

 

演劇団のファンとかそのあたり…か?

 

 

 

「………え?」

 

 

 

しかし熱狂ある人物では無く、俺があの街にて記憶に根強い女性。 それは…

 

 

 

「ベルナデッタ?」

 

 

 

ヴァーリ伯の一人娘だった。

 

 

 

「なんだユーク? あの街のお友達か?」

「おいおい、女の子かぁ? やるじゃん」

「おら、行ってこいよ。 お前のVIP様だろ」

「ゆっくり進んでるが長居すんなよ〜」

 

 

 

生憎、目の良い仲間は茶化すように背中を叩いて俺を追いかけて来るベルナデッタに追いやる。 そして明らかに俺とあの子の関係を勘違いしたような優しい目で見送る。 少し鬱陶しいけれど何言っても誤解は解けそうに無い調子の良い仲間なので無視して俺はベルナデッタの元まで迎えた。

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 

「ど、どうした? そんなに息を切らせて…?」

 

 

 

急いで追いかけてきたのか息が荒い。 こんなに必死に追いかけて、どうやら走り慣れてないようだ。 そのためか意識が半分飛びそうな彼女はもたれかかるように軽く倒れ込み、覚束ない片手はこちらの服を掴んで支えにしていた。

 

そして後方から野次の声がうるさい。 恐らく俺に抱きついてるようにも思えたんだろう。 しかし俺からしたらいまの彼女の表情は穏やかでは無い。 ただ再会するためにここまで走って来たようには思えなかった。 何より彼女の生活関係上からしてこのような行為が許されるか? いや、恐らくまた屋敷を勝手に出てきたんだろう…

 

ともかく彼女から急いで追いかけてきた理由を聞かなければならない。 そう思い声をかけた時だ。 呼吸を整えたベルナデッタはこちらの両手を掴み取り、グッと距離を縮めて必死に言葉を放つ。

 

 

 

「ユーク様! ここから逃げてくださいっ! この先に待ち構えてる者がユーク様を捕縛してあなたは消されてしまいます!」

 

 

「!?」

 

 

 

どう言うことだ? 捕縛って事はつまり、これから何者かに捕まるのか? そしてそれを何故ベルナデッタが知っている? それを伝えるために?

 

 

 

「待ってくれ、意味が………!?」

 

 

先を向かってる前方の旅団が騒がしい。

 

俺はたしかに何か騒ぎが起きていることを察知する。 もしベルナデッタの言ってる事が本当ならば、俺はこのまま進むと捕まってしまうことになるのだろう。 そしてやっと身体中に危機感が回り始める。 嫌な汗が垂れ始める中、足元に何かが刺さった。

 

 

 

「!」

 

 

 

旅団の方から矢が飛んで来た。 慌てて後方を確認すると弓の扱いに長けた演劇団の1人が弓をこちらに向けて放っていた。 その弓士は後方を気にしてるようで、とても険しい顔に染まっている。 一瞬だけベルナデッタを見たあと俺と視線を合わせて眼でこう伝える。

 

 

 

___この場から逃げろ。

 

 

 

 

「ッ! ベルナデッタ! 逃げるぞ!」

 

 

「え!?」

 

 

 

身体中に警告音が鳴り響く。 ベルナデッタの手を掴むと俺の足は道を外れて茂みの方へと駆け出した。 あとこの場にベルナデッタを残しておく訳には行かなかった。 彼女が俺に危険を知らせたと言う事は、親の意向に背いてここにいる事になる。 それは娘を政略の道具としてしか見てないヴァーリ伯爵にこの事実を知られてしまったのなら、タダでは済まないだろう。

 

ベルナデッタも危ない。

 

 

 

「ベルナデッタ!お前は恐らく親に隠れてここまで来たんだよな! それはつまり君が見つかったら君自身が大変な目に合うって事わかってんのか!!?」

 

 

「そ、それは分かってますが、ユーク様が危ないです! そ、それに…これは…わたしのせいなんですよ…」

 

 

「ベルナデッタ…の、せい?」

 

 

「…っ」

 

 

 

事情を聴く暇も無く俺は道外れた森の中を駆ける。 ある程度走ったところで俺はベルナデッタの手を離し、彼女の両肩を抑えてながら大木に押し付けた。 彼女に対してこれで2回目の壁ドンになるだろうがそんな事を気にしてる余裕もない。

 

そしてこの状況は俺では無く彼女にまで危険な目に合うだろう。

 

それを今一度告げる。

 

 

 

「ベルナデッタ、よく聞け。 この森は俺たちだけではない。 君には分からないだろうが追っ手が来てる。 その気配がある」

 

 

「!?」

 

 

「そしてもしそこで君の素性がバレてしまえば本気でベルナデッタもやばい事になる。 その場合ヴァーリ伯爵はあんたを許さないだろう…」

 

 

「っ、でも…わたしは…」

 

 

「君の所為だとか、原因は君だとか、そんなの聴く暇は無いから俺は聞かない。 でも俺はベルナデッタが危険を伝えてくれたから酷く危険な目に合うのはどうやら俺だけで済むと思う。 だからありがとう」

 

 

「っ、ユーク様…」

 

 

「ベルナデッタ、俺はこれから旅団とは正反対の方に逃げて追っ手を引き付ける。 そして君は来た道から少し外れながら屋敷まで帰るんだ。 俺はベルナデッタが酷い目に合うのは嫌だから、頼むよ……君は無事に戻るんだ」

 

 

 

そう言ってポケットから自前のコンパスを渡す。 これはポテチで手を汚さないために作り上げた木のピンセット的な副産物だ。 前に鉄製のピンセットの開発を試みるも見事に失敗したが、たまたま演劇部の皿回し練習を横目に見てるとコンパスを閃き、なんとかうまく作り変えれた代物。

 

この世にはあまり無いこの小道具に対して首を傾げるベルナデッタに「先端が赤く塗られた方向に向かえば君の都だ」と一言説明する。 しかし彼女はこれからの俺の行方に対して心配な顔をする。 俺は軽くため息をつき、彼女の頭を撫でながら「お守り代わりで、友達の証だ」と不安を残さぬよう笑いながら一言を告げると、最後に彼女を追っ手の死角になるだろう大木の木影に突っぱねた。

 

そして追跡してる者に目立ちやすくするため、俺は上着のボタンをはずし、その状態で走る事でバサバサと上着が煩わしくなびく。

 

 

 

「さーて、ここらの地理に詳しいだろう追っ手付きな上に、俺はこの辺りを無知で進むべき矢印(コンパス)も無いと来た。 旅団にとんぼ返りは荒事を招くだろうし、どう逃げようか…」

 

 

 

それにしてもまさかこのタイミングで旅団を離脱なんて予想もしなかった。 実のところ、あと一年か二年したらどこかに一人旅でも考えていた俺だった。 片足突っ込んだ程度に入ったことある同盟領のさらに奥深くにも興味あったもんだから、そこまで足を運んでみたいなと思ってたくらい。 なんならガルグ=マク修道院にも観光して学でも深めようかとも考えてた。 他にも親のように王国まで行って傭兵業もありだったはず。 進むべき道は豊富な筈だが、どうやら今節のフォドラの風は空気を読まないらしい。

 

 

 

「はぁ…はぁ…結構走ったけど……ああ、全然追いかけて来てるな。 …ったく、ここら辺は森中だからそういった地形に慣れてんだなアイツら。 しかも……」

 

 

 

悪い知らせの一つとしてアーチャーではなく『スナイパー』が視認できた。 スナイパー特有の大きな鋼弓が良い証拠だ。 それにしても俺1人葬るためのこの過剰戦略は全くもって笑えないぞ? それにスナイパーなんか弓職のなかでは絶対にクリティカル圏内に足を踏み入れたくない相手だ。 木々が多く、射線を遮る障害物が多い森の中で助かった。 しかしここらは高低差激しい地形をしてるからスナイパーに高いところを取らせたくない。 どの道狩られる獣状態の俺にはまだまだ危険が続く。

 

 

そして…

 

ここは無法地帯な訳だからイレギュラーが一つ起きた。

 

 

 

「小僧! 覚悟しなぁ!」

 

 

「!?」

 

 

 

まさか山賊まで現れるとは思わなかった。

 

しかし図太い声が攻撃を知らせてくれたもんだから雑な不意打ちにして対して反応はできた。 振りかざされた斧はしゃがんで回避し、山賊の背中を蹴ってそのまま地面に転がる。

 

その状態で周りを確認すれば仲間がいる。 隠れる気も無いのかゾロゾロ出てきた。 数は五人程度だがそれ以上を予想して警戒を怠らない。 こちらも走った事で呼吸が荒いが、浅く吸って呼吸を正し、体の疲労を敵に悟られないよう隠す。

 

しかしこの感じだと俺を生け捕りにするつもりは無いようだ。 先ほどの斧も俺を殺す気だった。 そうなるとヴァーリ伯爵の雇われではないことを考えると…騒ぎを聞きつけて漁夫の利して来たのか? 賊からしたら俺程度の者でも活きの良い青年でそれは金になる。 騒ぎを聞きつけて俺を待ち構えた可能性は充分にある。

 

 

だったらちょうどいい。

 

追っ手と『摩擦』でも起こさせるか。

 

 

 

 

「た、助けてください! 街中で盗んだ金目のものは渡しますから!!どうか命だけは!!」

 

 

「「!!」」

 

 

 

 

うん、我ながら咄嗟に出来た会心の演技だ。

 

演劇団で育っただけあるね。

 

 

ちなみに金ものなんて無い。

 

強いて言うなら金ものはさきほどのコンパスだ。 金になるかはわからないが珍しさなら腰に隠してる短剣よりは価値ある筈だぞ?

 

 

さーて、このどう反応するかな?

 

攻撃の手が緩むならまだこの状況を引き延ばして起きたい。

 

 

 

「むっ、賊か!!」

「おい! 貴様ら!!」

 

 

「あん?」

「なんだオメェら??」

 

 

 

おーけー、おーけー、対立が始まった。

 

俺の期待した状況だな。

 

 

しかしそれにしてもこの賊たちは兵士に対して臆さないな?

 

……普通の賊とは思えない何かがある。

 

 

 

「お頭ぁ! コイツらどうしますかぁ?」

「どうやら少数ですぜぇ?」

 

 

「賊程度が調子に乗んなよアアン??」

「うぜぇ」

 

 

 

ガラの悪い 対 ガラの悪い は見ていて滑稽だ。

 

すると遅れて追いかけてきたスナイパーが矢を射る。

 

 

 

「がっ…」

 

 

 

俺に背中を蹴られた賊が盾となって射抜かれた。

 

 

「おい、傭兵ども、その賊どもは殺せ。 報酬は出す」

 

 

 

それが引き金となったのか…

 

 

 

「っ! やっちまぇ!!」

「う、うああああ!!」

 

「はぁぁぁあ!」

「うおおお!!!」

 

 

気の荒い奴ら同士がぶつかり合う。 あと今気づいたが、どうやら俺を追いかけてきた気の荒い奴らは傭兵のようであり、後方のスナイパーの奴だけは傭兵を連れていた本物の正規兵のようだ。 ソイツは俺のことは冷静に見ていて、この場から動くようなら即射抜かれる。 あの腕前なら俺が一歩動いた程度の動作でも即座に俺を射抜くだろう。

 

 

 

「おい、お前、この場で投降するならヴァーリ伯爵の娘の事は黙っておいてやる」

 

 

「嘘だ。 投降しても言うだろ」

 

 

「……くくっ、まぁな」

 

 

 

うわ、うぜぇ。

 

コイツこの状況楽しんでやがる。

 

けれどコイツにはベルナデッタの事がバレてるか。

 

あと…

 

 

 

「あんた、まさか射抜けるタイミングが何度かあったが、俺を見逃してるな?」

 

 

「ああ、まぁな。 途中5回くらいは殺せたが、久しぶりの逸楽だ。 少しでも長引かせたかったねぇ」

 

 

「こ、コイツ…」

 

 

「なんなら有力者のあの子娘を葬ってからお前を捕まえ、そしてお前の旅団も犯罪者扱いにしてみるのも一興だとか、まぁそんな事考えながら追いかけてたよ」

 

 

 

正規軍にでもクズ野郎ってのはいるだろう。 その中でコイツはそう言った部類なんだろう。 とても気持ち悪いし、怒りがこみ上げてくる。 けれど実力はお墨付きで、スナイパー特有の大弓を持ってるのが証拠。 なんならそこそこ重量あるその大弓を持っていたとしても俺をここまで追いかけてたんだ。 この森の中でその脚力を持ってると言うのならコイツはとても強い。

 

 

 

「さぁ、そろそろ終わらせてやるか。 両目と両足は無くなったと___」

 

 

「なっ!! ベルナデッタ!? なんで追って来たんだ!!?」

 

 

「む?」

 

 

 

俺の声にスナイパーは後ろを向く。

 

しかしベルナデッタはいなくて俺は迫真の演技だけが彼女を作り上げる。 それにこのスナイパーはベルナデッタを知ってるから反応を示すと思ったが予想通りだ。 その好きに腰から短剣を抜き取って、スナイパーに投げる…が。

 

 

 

「ヴァァーカッ! そんな手に引っかかるか!」

 

 

「!」

 

 

 

後ろに体を向けていたスナイパーは小さな動作で横に回避しながら弓に矢を装填して、クルリと構えるその早業は俺を殺そうと矢を撃ち放った。

 

だから俺は横に手を伸ばし、とあるものを掴む。

 

 

 

「ぐっ…ぁ…!?」

 

 

「なっ!」

 

 

 

俺は近くにいた傭兵を掴んで盾にした。

 

乱闘でヨタついてこちらに近づいていた傭兵はCQCの要領で捕まえる。 あとは体の進む方向と力と重力を活かし、自分も可能な動作で射線から逃げる。 そしてスナイパーの矢は盾となった傭兵に刺さり、動揺を誘い込んだ。

 

そして俺は盾となった傭兵の脇から"本物"の短剣を投げ込み、それはスナイパーからしたら死角だ。 しかも投げ方がアンダースローだから弾道と弾速はスナイパーにとって未知なる錯覚を一瞬だけ起こさせる。 それにさきほど1発投げ込んだ短剣は残念ながら"鞘"であり、2回目の投擲は刃鋭い短剣である。 後ろに視線を向けていたから投げられた物が鞘である事を視認できなかったんだろう。 本当のバカはあのスナイパー。 そしてスナイパーは回避が遅れ、飛んでくる短剣に片手を斬り裂かれた。

 

スナイパーにとって腕の怪我は致命的だ。

 

 

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

 

これで射抜かれる心配も無い。

 

 

 

 

この乱闘ならまた走れば逃げられるだろう。

 

 

 

 

 

けれど…

 

 

 

 

 

ベルナデッタを知ってしまったお前は…

 

 

 

 

 

 

 

「…殺してやる」

 

 

「!?」

 

 

 

三つ目の投擲。

 

それは投げナイフ。

 

演劇団仕込みの投げナイフは鋭く狙う。

 

俺の殺意に竦んだスナイパーの太ももに命中し、貫かれたような痛みに悶えながら片足跪いてスナイパーは弓を落とした。

 

 

 

「ひいっ!? や…ヤメロォ!?」

 

 

「ベルナデッタの事がバレてるならお前を口封じに葬らないとな…」

 

 

 

上着から隠しナイフを取り出す。

 

コンバットナイフって奴だ。

 

このご時世では少し探すのに手間がかった代物。

 

 

 

「や、やめろ! やめてくれ!」

 

 

「死ね」

 

 

「た、助け、ぅぐ!? か…か、はっ…!」

 

 

「……」

 

 

 

躊躇なく喉元を貫き、抜けないよう両腕で固定する。 そして斬り裂き安い方向に刃を傾けて、一気にスナイパーをネジ切った。

 

鮮麗に舞う血しぶきがフォドラの大地を紅く染める…

 

 

 

「!……くそ、騙された。 こいつスナイパーじゃ無いのか」

 

 

 

俺は大弓に違和感を感じてそれを踏みつけると、一部が壊れてしまう。 どうやらこれは普通の弓のようで、大きく見せるために大きめのカバーが取り付けられていた。

 

つまり見掛け倒しって事だ……騙された。

 

 

 

「………」

 

 

 

俺は亡骸となったスナイパーを漁り、父親仕込みの素早い物色で目ぼしいものを回収する。 そして俺がスナイパーを殺したことに傭兵が何人か気づいたようだが、こちらに余所見した者は山賊に斬り殺されたりと乱闘は静まらない。

 

もう山賊からしたら傭兵から生き延びるために戦っているようなもんだろう。

 

そして傭兵も返り討ちに合わぬよう必死だ。

 

こうなると俺のことは意識外らしい。

 

 

その場を後にして俺は走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演劇団のみんなは大丈夫か?

 

 

お父さんとお母さんは無事か?

 

 

ベルナデッタは…

うまく屋敷に戻っただろうか?

 

 

 

それを脳裏に浮かばせながら俺はひたすら走り、夕方になっても足を引きずって進めていた。

 

 

追っ手はもう来ない…

 

 

 

 

「………くそ…足が、感覚がない…」

 

 

 

 

過激に働く生存本能は疲労を忘れさせるが、追っ手のいない事と、しばしの安全を確保したと錯覚した脳みそは俺に疲労を教える。

 

夕日が落ち始める草原に倒れこんだ。

 

 

 

 

「…………ぅ、ぅぅ…くそ……ぁぁ、ちくしょう…」

 

 

 

 

そして思いだす。

 

 

俺は今、一人なんだと。

 

 

暖かな演劇団から遠くに遠くに離れた。

 

 

追われてしまったから仕方ない事だが…

 

 

寂しさが深く心に押し上げる。

 

 

 

 

「なんで…なんで……こうも…あ"あ"あ"……ちくしょう…」

 

 

 

 

ヴァーリ伯爵と言う有力者怒らせたのが間違いだろう。

 

 

もし俺がおとなしく従っていたのなら?

 

 

そう考えてしまう…

 

 

……が、寸前のところでその思考を止める。

 

 

 

「…ちがう、俺は頭がイってる貴族に追いやられた、それだけだ」

 

 

 

涙が溢れそうな荒い呼吸を止めようと息を吸い込んで…

 

 

 

「はぁぁぁぁ…」

 

 

 

 

最後に吐き切れない溜息を吐いて気持ちを入れ替えようとする。

 

まだ感情は荒ぶっていて、危険だがこのまま泣き崩れるのも頂けない。

 

 

 

「もう、帝国領内は危ないな」

 

 

 

気持ちを切り替え、今はとりあえずこの領内から出ようと冷静になる。

 

服に張り付く草木を払い、立ち上がって周りを眺めた。

 

そこには夕焼けに染まるその下には同盟領を繋ぐ大きな橋が繋がっている…

 

 

 

「あれをスニーキングして、通れるかな?」

 

 

 

 

必死に走ったからか『ミルディン大橋』が見える。

 

そこに何台か馬車や荷車が通っていた。

 

もうすぐ日が落ちる。

 

闇に潜んで行けるだろうか?

 

それとも…

 

 

 

 

 

 

つづく






《ヴァーリ伯》
ベルナデッタを政策のために利用するだけの存在と見ており、原作同様に教育のやり方は椅子に縛り付けて叩き込む事。 娘を娘と思っているのかは不明だが、それとは別として喉から手が出るほど欲しかった旅団だったがその手を払われ、私益と利益(思い通り)にならないと激怒。 ユークリッドとの対話にて今の現状に発展した。 領地を持つ貴族だけど、ユークリッドからすると家族に武器を向けたクズ野郎としか見ていない。 結果として追って来たヴァーリ領の私兵でも殺す事を躊躇わなかった。


ではまた
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