飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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第41話

王都フェルディアは奪還した。

 

その話に民たちは大いに喜び、次の日になると王国の復活に街中はお祭り騒ぎである。 中には民兵として戦った人や、聖騎士も無礼講とばかりに混ざっている。

 

 

「イエリッツァもあの中にいるのかな?」

 

 

姉と一緒ならいるだろうが、孤独が好きな奴だから居心地悪そうにしているだろう。 しかし王都にイエリッツァがいる事は驚いた。 まずコルネリアが消えたことも関わるが、セスリーンが感知すると俺は直ぐにマンディと飛んでコルネリアを追いかける。 そしたら首を跳ね飛ばしたイエリッツァが居て、絶命したコルネリアがいた。 イエリッツァとは約2週間ぶりの再会だがどこか落ちついたような感じだった。 姉と会って変わったんだろう。

 

ともかく事の決着はイエリッツァがつけてくれた。 それでも闘いの犠牲者は出たが"結果的には(天刻を除いて)"そこまで多くなく理想通りだ。 これでミルディン大橋からメリセウス要塞まで軍を多く保ちつつ帝国に武器を突きつけれる。 その上、闇に蠢く者の支援を無くして戦力が大橋に低下した今の帝国は王国と同等のレベルくらいだろう。 そこに同盟も王国に加勢してもらって軍力が上回れば後はエーデルガルトのみ。

 

なんだ、余裕じゃねーか。

 

 

 

「…で、あんたら2人はいつまでそうするんだ?」

 

 

 

「いや、これは好きでオレが…」

 

「だめディミトリ、離さないから…」

 

「せ、先生…」

 

「もう……君を1人にさせない…」

 

 

 

「ベレスってこんな属性で病んでたか?」

 

『知らんわい』

 

 

多分長いこと眠ってたから余計に温もりが恋しくて仕方ないのだろう。 あとベレスはなんだかんだで強い者に惹かれる女性らしいから、ディミトリとの相性が良いのだろう。

 

まぁ、仮にそうでなくともつい前日に牢獄から出てきたディミトリは少し痩せ細っていて、全身は戦いと拷問によって傷だらけ。 両腕と両足は枷で荒れており、一人で歩くことが困難でドゥドゥーに肩を貸してもらっていたほどだ。 しかも危うく片目は失明しそうになっていて、セスリーンとメルセデスが力を合わせて治したところ、紋章の相乗効果で瞬く間に活力を取り戻し、一人で歩けるくらいにはなった。 なるほど、筋力を増加させるブレーダットの小紋章にはこんな使い方があるのか……って、言いたいけど、ディミトリを治療したセスリーンが何かやりやがったな? ラミーヌの紋章の力が必要だからとメルセデスにも助けを求めたくらいだし。

 

まぁ、そこら辺はあとで追求するか。

 

 

「ベレス、ディミトリが困ってるから離れてやれよ。 男として複雑な気持ち理解してやって」

 

 

「やだ」

 

「いや……やだ、じゃなくてな?」

 

「やだよ。 わたしは離れない。 だって女神の塔でディミトリは『いつまでも一緒に居られますように』願った。 フォドラにいた女神は見守るだけで、叶えてくれないけど、一番近くで聞いた私なら貴方の願いを叶えてあげれる」

 

「!!……っ、先生…だが、アレは冗談で、無責任な事を言ったと……それに先生は『人が悪い』って…」

 

「確かに、冗談みたいな願いから来てるかもしれない。 けど貴方の冗談は『自分は良いのか?』って瞳の奥に隠してたから私は怒ったの」

 

「なっ…!!」

 

「たしかにね、人それぞれ未来やその先はどうなるか分からないよ。 でも『そうしたい』と思うのはフォドラの暁風と同じくらい自由なんだ。 それに…ディミトリは一つ勘違いしてる」

 

「え?」

 

「私はもう先生では無い」

 

「!」

 

「先生だった頃は皆を平等に育てる役目を背負って居たけど、ユークリッドが『職員全員は廃業』だって言ってたから私は青獅子の先生じゃ無くなった。 今はこうしてあなたの隣に立つ一人のパートナーなんだよ? だからこれまで離れていた分を私はあなたを支える」

 

「!、!!、!!?」

 

 

 

 

 

「…………あれ? コレって…」

 

『うむ、プロポーズじゃな』

 

 

 

あ、ありのままに起きた事を話すぜ?

 

ディミトリにくっ付き過ぎない様に宥めたら

ベレスが逆プロポーズを始め出した…

 

何を言ってる分からねぇと思うが

俺も何を言っているのか分からねぇ。

 

……え? ベレスはディミトリにそう言った感情があるの? マジで? 赤飯? お前もしかして赤飯か?

 

 

 

 

「ディミトリ、わたしのこの想いは嘘じゃない事を証明する。 ちょっと待ってて…」

 

 

 

するとベレスは腰から何かを探す。

 

ベレスから出てきたのは小さな袋。

 

その袋の中からは一つの小さな輪っか…

 

それは、紛れもなく【指輪】である。

 

 

 

「お父さんが言ってた。 この指輪は大事な人に渡すんだって。 わたしにとってディミトリがそうだから…この指輪を貴方にあげる」

 

「なっ!?」

 

「指輪、つけて」

 

「せ、先生!!??」

 

 

 

 

「うん、見間違いじゃなくプロポーズだなコレ」

 

『見たところな。 だが恐らく小娘はそう言った感情はまだハッキリとしてないが小童(ディミトリ)をとても大事にしたい気持ちは本物じゃ。 だが近い将来それは甘酸っぱい営みになるじゃろうな。 ほほほっ、楽しみじゃわ』

 

「なんなら今からハッキリさせたるわ」

 

『ほえ?』

 

 

 

たじろぐディミトリ、そして純粋に気持ちを言い渡すベレス。 俺が近寄ると助けが来たとばかりにディミトリの表情が軽くなるが…

 

残念ながらディミトリ。

 

どちらかと言えば俺はベレスの味方だ。

 

 

 

「ベレス、いまからYESかNOで即答して」

 

「??」

 

 

「ディミトリの近くにベレスじゃない他の女性が居て、その女性はベレスよりも親しそうにしていたらどう思う?」

 

 

「そんなの嫌だ」

 

「即答!?」

 

「そうならないように牢獄に入れる」

 

 

「……女性を?」

 

 

「いや、ディミトリを」

 

「オレはまた戻るのか!?」

 

 

 

うん、ベレスは間違いなくディミトリが好きで仕方ない。 しかしまだ無意識ながらに『先生としての気持ち』と『親に言付けられた』の二つから来て、それは半分ほど義務的な意識の元なんだろう。

 

でもコレがベレスだけの問題なんだと知ったらベレスは間違いなく『大好きです』と答えるだろう。

 

そのときが楽しみだ。

 

 

 

「あ………そうか…そういう事なんだね。 うん、わたしはわかったよ、ユークリッド」

 

 

「何がだベレス?」

 

 

「ユークリッドとベルナデッタを見て分かった。 コレが男の子と女の子が好き会う気持ちなんだ。 うん……そうなんだ。 そうなると私はディミトリの事が"大好き"なんだね」

 

「!!??」

 

 

 

「はえーよ」

 

『はえーのじゃ』

 

 

 

自己完結速くてビックリした。

 

マジなんだよこの人…

 

3年眠って目を覚まして、3年越しにそのお相手と出会って、そしたら好きだったと気づいたとか、身勝手なのも良いところだな。 つい前日まで捕まっていたディミトリもこれには感情と状況が追いついてないし。

 

 

それよりも…

 

 

 

「おいディミトリ! 女の子が答えたんだ!ならお前も応えろよ! お前もベレスのことが好きなんだろ!!」

 

 

「なっ!? それは! …って、と、唐突すぎるだろ!? ま、待ってくれ、て、展開が…」

 

「ディミトリ? 私の事…もしかしてあまり好きじゃない?」

 

「ッ〜!!? ち、違うッ」

 

「ぁ……違うんだ…」

 

「あー!そうじゃない! 違うんだ! 違うは、違うんだ!!」

 

「なら…!」

 

「ぅ…先生、そんなキラキラした目で…」

 

「…………そう、やっぱり…」

 

「あー! シルヴァン!オレはどうしたらいい!!」

 

 

 

脳内がブレーダットの小紋章してるディミトリを見て少し可哀想に思えたけど女性の告白をハッキリさせない男は男じゃ無いので頑張ってもらうことにした。

 

 

 

「まったく、情けないヘタレ殿下ですこと」

 

「さっきから視線感じると思ったらお前か……で、助けに行かないのかシルヴァン?」

 

「いや、アレは男を見せる時です。 邪魔しません」

 

「そうか。 なら邪魔しないでおくか」

 

 

 

 

そう言っていつのまにか覗き見していたシルヴァンと共に俺はソティスをその場に残して二人を置いていった。

 

 

あと離れる道中でイングリット(風紀委員)が現れ、また何か問題起こしたと思われたシルヴァンは誤解を解く暇も無くイングリットに耳を引っ張られてそのまま連行された。

 

あの二人も出来てたのか。

 

 

 

 

 

「恋人か……」

 

 

 

俺は未だ会えないベルナデッタを想いながら賑やかな方に歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

そしてお祭り騒ぎから次の日。

 

ベレスから「ユークリッドのベルナデッタみたいになれた」と、語弊が酷い報告が来たけど言いたい事は理解してるので「おめでとう」と言っておいた。

 

ちなみに「昨日お酒飲み過ぎたろ?」って言ったら「少しね」と笑ってたけど、その顔は満更でも無かったから放っておく事にした。

 

 

 

あとディミトリは指輪つけていた。

 

無論、騒ぎになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、王都奪還から一週間後。

 

早々に軍を再編成させ、編隊を整え、コレからの作戦を固め、複数に行軍を分けると、最初に王国を出たセイロス騎士団全軍と3割程先に出発した王国軍はガルグ=マクに到着した。

 

無事に到着するもセテスやアロイス、特にカトリーヌはどこか無念を抱いた様な顔をしていた。 三年前に負けたのだからそれも仕方ないか。 そんなガルグ=マクは荒れ放題だったが、大修道院に続く中央道をセイロス兵の大軍が歩くと根強く住み着いていた民たちは希望を取り戻し始める。 王都で帝国を押しのけた噂は届いてた様で、それが真実だったから喜びに溢れていた。 コレだけ騒がれるならそう遠く無いうちにガルグ=マク大修道院には昔働いてた者たちが戻ってくるだろう。

 

と、言う事は…

 

 

「兄上も…戻って来ますかね」

 

「シルヴァン? ああ、マイクランの事か。 どっかで生きてるんじゃない?」

 

「なんなら逆賊に堕ちたりしてな」

 

「それはそれで洒落になら………ん??」

 

 

 

すると中央道の道端に『武器を持った参謀の兵』と書かれお墓が建てられているのを横目に見つける。 しかも一定の階級にのし上がった者に与えられる赤色の布お墓に巻かれていた。

 

…………ああ、そう言うことか。

 

 

 

「兵士のお墓ですかね?」

 

「ああ。 しかも赤い布が巻かれてる。 アレはヒーローの色だな」

 

「ヒーローの色ですか。 ふっ、兄上には似合いませんね」

 

「………そうだな。 マイクランなんかには勿体ない。 アイツはヒーローみたいに強くないからな」

 

 

 

でも、民を守る兵士としてその命を貫いた事は間違いなく、綺麗に掃除されたお墓には敬意があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガルグ=マク大修道院はこれからの拠点になるだろうが、帝国と長く争うつもりはなく、拠点としての活用時期は短い。 そもそも冬が訪れる前に終わらせたい。 これ以上の泥沼化は不要だ。 あと同盟諸国と手を組む話も出ているが、仮に味方になっても合流を待つ話は出ていない。

 

そんなわけで南から攻めるための軍が整い次第ミルディン大橋を攻め落とす。 ローレンツが上手く外交してるのか、まだ睨み合いの状態に落ち着かせてるが、いつ帝国が実力行使で攻めてくるかわからない。 いや、既に緊張感はピークを迎えており、それが解かれると武器を取って戦う羽目になる事は予想できる。

 

 

それでも焦る事はナンセンスだ。

 

 

こう言う時は……

 

 

仲の良い相手と紅茶を飲もう…と、考えてたら『お暇を頂くわ』とセスリーンからお誘いが来たので元俺の部屋で淹れてやることにした。

 

 

 

「結局ディミトリさんは眼帯させますの?」

 

「失明寸前から治したとか何気に凄いことしてるけど、それでも完璧に治療できた訳じゃ無いんだろ? いきなり日の光を視界に入れて眼を焼いてしまったら、それこそ失明しかねんから一週間ほど自己治療して貰って少しずつ馴らすように伝えた」

 

「そういう事ですわね。 ファッションかと思いましたわ」

 

「それはそれで似合ってるけどな。 なんなら片目見えないことをフェイクにして敵の不意を打つのはアリだ。 ちなみにあの眼帯はビッグボスの職業になった時に付ける装飾品だ」

 

「あら、なんの意味がありまして?」

 

「強くなった気分を持つためだな」

 

「ま! それはとても大事ですわね」

 

 

 

周りに人がいる時は『フレン』と呼び、俺だけの時は『セスリーン』と特別に呼ぶことをお世話係時代に許してくれた彼女を招いて夜の秋空とアーモンドティーを嗜む。

 

だがあまり長く紅茶を飲んでるとセテスが心配するので今日は短く終えて、そのまま眠りつく予定のセスリーンは既に寝巻きだし。 短い時間でもセスリーンは満足だが。 時間の長さを問わずに共有することが大事だとさ。

 

大人かよ。

 

 

「だから言ってますわ、わたくしは大人だと」

 

「やはり眠りつきすぎて退化してただけで、ちゃんとそれ相応に人生経験は積んでいるんだな。 箱入り娘なのは変わりないけど」

 

「キッホルお父様が過保護すぎるだけですわ! もう…本来ならもっと賢く、凡ゆる理に聡い人物になる筈でしたのに、龍である事を捨てた代償がこれですからね」

 

「…」

 

「当時は相当無理したらしいその記憶もあまり覚えておらず、どれほど残酷だったのかは龍の鱗は覚えてましたが人の肌は覚えてなく、不意に眠くなる始末……そして、精神がほんのりと退化したかの様なもどかしさ。 睡眠ならともかく休眠はもう勘弁ですわ」

 

「精神の退化ねぇ……じゃあ、ベレスがあんなのも、そうなんかな」

 

「あんなの、とは?」

 

「聞いてるだろ? ディミトリのパートナーになるって話。 生涯の全てと言う意味かは分からんが、俺の知ってるベレスはあんなに寂しがりやじゃなかった。 ディミトリをどれほど大事に思ってるかわからないけどあんなに引っ付く彼女の姿には流石に驚いた」

 

「…」

 

 

 

父の言付け、指輪、長い夢の中。

 

ベレスの三年間はそういうことなのかな。

 

 

 

 

 

__ 人の心の距離なんじゃよ。

 

 

 

 

ベレスが眠りつく玉座まで続く長いあの階段がそれを表していた。 体に刻まれた3年分の苦しみ、悲しみ、痛み。 そして自身の情けなさから自己防衛のために殻に閉じこもった。 でも心は生徒を思い続けて忘れなかった。 先生としてではなくベレス本人としての恋しさは3年分膨れ上がり、その結果がディミトリなんだろう。

 

別にヤンデレ化したとかそうではなく、ベレスは至って普通。 そして本人は「もう先生を卒業した」と言ってるけどみんなはベレスを「先生」と言うから、とりあえず今だけはまだ先生で良いと仕方なく受け入れてやったりと、あの頃から色褪せないみんなの先生を全うしている。

 

ただベレスは【先生】と言う立場を抜きにしてディミトリが好きである。 それがlikeかLoveなのかは半々でありしも、どの男性よりもディミトリに惹かれていた。 だから長き眠りにほんのりと退化した精神は抑えが効かず、ほろ酔いな勢いも兼ねてあの話かもしれない。

 

 

……でだ。

 

ここまでツラツラと考察を巡らせたが、結局は何が言いたいかと言うとだな。

 

ディミトリには頑張ってもらおうって事だ。

はい。

 

 

「ま! それにしてはディミトリさんを煽っておいて無責任ですわね」

 

「見てた分は面白かったからな。 でもベレスの事は友人として応援したかった。 それに、今のディミトリにはベレスが近くにいた方がメンタル的な意味で良いだろうよ。 それほど荒んでる訳ではないが、ベレスが近くにいてくれた方がディミトリも安定する筈」

 

「??……ああ、なるほど。 そう言うことですのね」

 

 

 

また勝手に心読んだな。

 

便利と言うか、気持ち悪いと言うか…

 

でもそれは、同じセスリーンの紋章を持つモノ同士だから出来る事。

 

しかし、このセスリーンは書庫に記載されている以上の事を見せてくれている。

 

だから……

そろそろ、聞いても良いだろう。

 

 

 

「なぁ、セスリーン」

 

「?」

 

「その心を読む原理はさ、俺の予想が正しければセスリーンの力ってのは"慈悲"って言葉を建前にしたモノだよな? もちろん心を読むだけではなく、もっと漠然とした形で」

 

「…と、言いますと?」

 

「慈悲ってのはあくまで体現を表すもので、信仰を集めやすくするために美化してるだけであって、その本質は別にある。 または"個性"とも呼んでいいな」

 

「!!……続けてください、ユークリッド」

 

「セスリーンの力を表すなら"慈悲"ではなくて、もう少し正しい表した方がある」

 

「…」

 

「君の力は【干渉】に特化したモノだよな?」

 

 

セスリーンと言ったら何を連想するのか?

 

フォドラに住まう人々の共通認識は『慈悲』であるだろう。 このガルグ=マクの書庫にもそう記載されてるくらいに、セスリーンは慈悲を想像させやすい。

 

こうして目の前で紅茶を飲むセスリーンは優しき女性である事は俺も知っている。 俺に対して躊躇いは無い…と、言うよりかは、そうさせたのは俺の所業でセテスに胃薬ってことわざが生まれるくらいに豊かになったが、彼女は争いは好まず、でも致し方なく攻撃手段を持ち、しかし生き物を傷つけることに抵抗があり、傷ついた者を癒す使命感を持っている。 そして心身からこの世の平和を望む彼女の心と表情は間違いなく聖母と呼ばれるに相応しいだろう。

 

 

これだけ聞けばセスリーンは"慈悲"そのものだ。

 

 

しかし、彼女の成すこと全ては慈悲の一言で片付けれず、慈悲の言葉で解決はできない。

 

 

俺は言った。

 

セスリーンの本質は【干渉】だと。

 

その言葉が一番正しい表現だと考えた。

 

 

更に俺は続けた。

 

それは【個性】でもあると言った。

 

紋章に影響されて生まれる人の特性。

 

 

これは例えばの話。

 

同じセスリーンの紋章を持つ"リンハルト"って青年は「触れる」の言葉が一番体現されていると思う。 彼は好奇心の塊で、見ているだけでは終わらない。 これはセスリーンとしての個性(紋章)が出ていると考えている。

 

 

これは余談だが、セスリーンの紋章と同じように"信仰"の力に纏わる"ラミーヌの紋章"もそれらと似ている。 ラミーヌの紋章を持つメルセデスとイエリッツァの姉弟に関しては「感じる」の言葉がよく当てはまるだらう。

 

人の傷を「認知」して、痛みを「理解」する。

 

一番わかりやすいのは"逸楽"に溺れるイエリッツァだろう。 死神騎士となった時の彼はこの二つを強く体現してくれている。 彼が好むのは命の削り合い。 傷を受けることで生きてる瞬間を「認知」して、殺し合いと言う逸楽の中で喜びを「理解」する。 そう、イエリッツァは殺し合いで強くなれる死神騎士を信仰する。 姉を護りたいがために出来上がった狂信の一つ。 よく体現されている。

 

 

ちなみに姉の方は何故か怪談話が好きなんだけど、これも紋章によるものだろう。 恐怖の「認知」と「理解」があるから怪談話を得意としているのだろう。 なんというか、見た目に見合わぬ特技だけどそれは紋章から現れている。

 

 

さて、ここまでの説明は自己解釈だ。

 

凡ゆる紋章を見てきた俺の視点。

 

だから都合の良い当て付けでもある。

 

それほどに紋章は謎が多い。

 

 

だが、この考えは強ち間違いでは無いと証明できる手段を俺は持っている。

 

それは紋章学のハンネマン先生のことだ。

 

紋章によって性格や個性が現れる事に関してはハンネマン先生が研究済みであり、士官学校では有名な話だ。 お茶会では紅茶よりも熱く語ってくれたから紋章の話は俺も良く知っている。 FE覚醒の様に「軍の中で一番○○」的な要素はフォドラにおいて紋章のことを指すだろう。

 

不器用で無駄に力が強いが、仲間思いの勇気あるブレーダットの話。 これはディミトリ。

 

外との関わりは控えめだが、とても手先が器用なインデッハの話。 これはベルナデッタ。

 

そして…

 

FEの代名詞とばかりに世界を影響を与え物語の中に生きる主人公(ファイアーエムブレム)の話。 これはベレス。

 

 

紋章持ちに個人差はありしも、ハンネマン先生の研究によって『紋章=性格(個性)』の信憑性が非常に高いことは、生徒や友達の事を見て俺は理解する。

 

しかしそれは人像だけでは終わらない。

 

それは攻撃手段にも現れる、

 

俺がセスリーンの紋章で使うエクスカリバーはセスリーンの特性が強く滲み出ていた。

 

血や肉に汚れて『干渉』状態で攻撃。

肉体による接触、切断。

 

汚れなき刃なら『非干渉』状態で攻撃。

鉄物や肉体に触れず、精神に傷害を齎す。

 

セスリーンの得意技の集大成であるエクスカリバーはこんなにもその特性が滲み出ていた。 手の平にエクスカリバーを握るのだからそれら良く感じられた。 ああ、これを慈悲なんて可愛らしい言葉で済ませて良いのだろうか? 俺からしたら凶器にも狂気にもなれる力の他ならない。

 

 

それでも信仰の対象でしか知る事はない世間はセスリーンを慈悲たる女神と狂信する。

 

生徒のイグナーツなんかは聖母で女神だと惚れ込んでいるくらいに。 だからセスリーンの本質を知らない第三者視点(ただの信仰者)だと『慈悲』の言葉に繋がるのは至って普通の事だろう。 別に知る必要も無い事だから、武器として掲げない者は気にする意味はないだろう。

 

 

 

だが……

 

 

 

「お前から受けたこのセスリーンの力は明らかに度が過ぎてんだろ?」

 

 

「……」

 

 

「セスリーン、お前が俺の魔法を通して敵を感知するのは全然分かる」

 

 

 

合体魔法のライブラリーのための、干渉。

 

 

 

「セスリーンの得意技が俺のセスリーンの紋章にまで影響させるのもまぁ分かる」

 

 

 

エクスカリバーで切断するかの……干渉。

 

 

 

「他者の紋章に干渉してそれを摘まみ取ってしまうのは不思議だったけどまだなんとか分かる」

 

 

 

リシテアの紋章を奪うための……干渉。

 

 

 

「セスリーン、その特性があるから他者から紋章すらも借りて力にしてしまうのも納得は出来るし分かる」

 

 

 

マンディが持つ獣の紋章の……干渉。

 

 

 

「関われば関わるほど伝わり合いそしてそれを捉えて余計に入り込んでしまう現象も慣れたから分かる」

 

 

 

ベレスとソティスによる天刻の……干渉。

 

 

 

「心まで読み始めてもこれまでの出来事がそうさせてる前科があるから理解しなくとも分かる」

 

 

 

俺の心と思考を読むための……干渉。

 

 

 

「わかる……わかるけど…」

 

 

 

紋章はそこまで便利では無い。

 

紋章はもっと単純なモノだ。

 

 

 

「セスリーン。 これはもう明らかに紋章の枠を超えてる所業だと俺はそう思ってならない。 なぁ、お前は俺に何をした? 何を施した?」

 

 

 

紅茶の後味も分からなくなる俺の真剣さは心を読めるセスリーンに直接伝わっているだろう。

 

だからその追求性にセスリーンは目を閉ざし、どこか諦めたように腰を掛けた。

 

 

「……はぁ………全くですわ。 ユークリッドは聡いから、少し困りますわ」

 

 

「やっぱり何かやったんだな? セスリーンの紋章よりも他の施しを…」

 

 

「施し……そうですわね。 当たらず遠からずと言ったところですわ。 でも、まず"干渉"と述べたのはスッと胸に入りましたわ。 確かにそうかもしれないと。 しかし私自身元あった身を捨て、人の形に収まった故に記憶など色んなものが抜け落ちて、眠る事で更に酷くなった。 だから私の中にある本来備わっていた力は自分でもあまりよくわかってませんでしたわ。 でもユークリッドが答え合わせをしてくれたお陰で段々と有ったモノが当てはまる感覚に、紅茶も冷めてしまいましたわ」

 

 

「紅茶は淹れなおすとして、やはりセスリーンの紋章ってのはかなりすごい力を秘めていた、そうだな?」

 

 

「ええ。 でも、それはユークリッドだからですわね。 あなたは元々信仰の素質は高く、セスリーンの紋章との相性はフォドラ1と呼ばれる程に相応しく、次々とセスリーンの紋章で成せる凡ゆる可能性を解放してきた。 わたしが知ってる以上に。 けど、わたしはただ託した訳では無いですわ。 メシマズの案件は事故とは言えしも、それがユークリッドの助けになるなら私はそのまま施しとして続けたわ」

 

 

「それが俺に向けられた【慈悲】ってやつかな?」

 

 

「ええ、箱入りだった【セスリーンの干渉】ですわね、ふふっ」

 

 

 

暖かい紅茶を淹れなおし、残りのクッキーをかじる。

 

最後はセスリーンが好きな甘いアップルティーだ。

 

 

 

「ユークリッド、あなたの問いに答えますわ」

 

「ああ」

 

「あなたの『施した』は、私にとって『返した』が正しいですわ」

 

「返した?」

 

「ええ。 わたしはこれでも女神…の眷属に位置する者。 お母様やお父様がそうだった様にその力を引いている。 フォドラ全体に影響を及ぼす様な力は無いですが、誰か一人にそれを向ける事は可能だった。 私は人の形をした紛い物ですが人知を超えた存在。 聖者なら民草に施しを与える事だって出来る。 でもただ与える事は出来ない。 それはルール。 過去の過ち繰り返せない様にしたルール」

 

「…ルール?」

 

女神を裏切った者達(ネメシス)の出来事から制限をかけられたルール。 でも私は半分だけルールを破れる。 生まれたばかりのわたくしにはそれは適応されなかった。 それでも父と母から継いだ血が半分だけそのルールでわたくしを縛る。 変わりに条件を設ける事で微々たるモノですが、施せることがわかりました」

 

「条件……じゃあ、俺はそれを満たせる様なことをしたからセスリーンの力をそれ以上にセスリーンから受けたと言うことだよな? なら…なんだ? その条件ってのは?」

 

「今、この時間が、対価ですわ」

 

「………え?」

 

「わたしは、ユークリッドに言いましたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

__【あなたのお暇を頂きますわ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 

「対価は…あなたの時間。 そしてこの紅茶は杯として交わし合い、聖者と平民は共有を築き上げ、そして"お暇"として頂いた分を授ける。 箱入りだった私に充分な程に、ユークリッドは下さった。 ふふっ、施すには眼に見えないモノですが、あなたの助けになる充分な力としてセスリーン(慈悲)を与えました」

 

 

 

そうか。

 

俺はセスリーンから慈悲を受けていたのか。

 

なら…

 

 

 

「セスリーンにとってのお茶会は、俺を強くするため?」

 

 

「ま! 普通にあなたのお紅茶が好きだからですわ。 でも、あなたを応援したいからですわ」

 

 

「そう、なのか」

 

 

「ええ。 箱入りだったわたくしにユークリッドは3年間も沢山を与えてくれた。 だから同じ様な箱入りの女の子(ベルナデッタ)にもユークリッドの沢山を与えて欲しい。 少し妬いてしまうけど、でもわたしは女神として信仰される。 民はそれを望む。 聖者は応える。 なら私は少しだけでも民が望む其れになってみせる。 だからセスリーンが望むの。 あなたに」

 

 

「……そうか」

 

 

「ええ」

 

 

 

結局は友人としての手助け。

 

それがただの人間にはできない規模と力で俺を後押してくれた。

 

たしかに、これまでの事はセスリーンの力があって解決に至っている。

 

それは間違いなく彼女のお陰。

 

 

 

 

「セスリーン」

 

 

「なにかしら?」

 

 

「ありがとうな」

 

 

「ふふ、どういたしまして」

 

 

 

 

紅茶を一口。

 

 

茶葉香るお洒落なティーカップを置き…

 

 

そして、微笑むセスリーンの目を見て…

 

 

 

 

 

 

「でも戦いが終わったら紋章はポイだからな」

 

 

 

「台無しですわこのやろうふざけやがれですわ」

 

 

 

 

 

 

 

いつも飲んでる紅茶なのに、なんか違う。

 

 

それは恐らく、セスリーンの後味で優しい口当たりになったからだろう。

 

 

 

 

つづく

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