飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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ではどうぞ


第42話

「……」

 

 

 

せっかくガルグ=マク大修道院にいるので次のミルディン大橋の攻略までに地下の"アビス"までやってきた。 相変わらず外とは無縁な世界であるが、流石に戦争による打撃はそれなりに受けているようで食べ物が無くなり始めているようで、まずい酒だけが沢山残ってるらしい。

 

 

まぁ、それよりもだ。

 

 

後ろからつけられているな。

 

 

 

「……」

 

 

 

俺は人気の少ないところまで歩き、わざとお金を指で弾きながら汚れた買い物でも楽しもうとするならず者を演じながら歩く。 演技に関しては演劇団にいたから完璧だとして、その後はどうするかだ。

 

命を奪うつもりで来ているのならそれ相応に対処しよう。 そう考えながら、酒に酔ったならず者のようにフラフラしながら曲がり角に曲がり、腰から武器を持って待ち構える。

 

息を沈め、気配を消して…

 

 

…………っ、来た…!

 

 

 

 

「待ち構えてるか! 残念だが見切って……なっ!?」

 

 

 

どうやらあちらも察していてようで、威勢よく待ち伏せを潰そうとしていたが残念、壁に刺さした木刀にぶら下げられている上着だけが待ち構えていた。

 

 

そして俺は背後を取る。

 

 

 

「残念だったな、トリックだよ」

 

 

「いつのまに後ろに!? っ、ぐっ、あ、あ、い、痛い痛い!」

 

 

「俺もアビスは歩き慣れてるんでね、壁の隙間とかはそこそこ詳しいつもりなんだよ。 このようにそこの隙間を通れば背後を取れる」

 

 

「あだだだだ! わかった! わかったから解放しろ! この体は商品なんだから! あまり痛めつけんな!」

 

 

「じゃあ普通にコンタクトを取れよ__ユーリス」

 

 

「くぅぅ…腕がいてぇ、ちくしょう。 なんだよ、ちょっとした戯れじゃねーかユークリッド」

 

 

「戯れどころか殺気が感じられたんですが?」

 

 

「もし追いかけたのがお前の空似で、やっかいごとだったら処分する他あるまいだろ? あとこんなご時世だから理解してくれ。 面倒なのは嫌なんだよ」

 

 

「ふーん? じゃあ例えばお前と同じオカマっぽさのある盗賊二人が紋章食いの部屋の近くで倒れてたとか」

 

 

「なっ! まさかアレはお前の仕業だったのか!? …ってあと、あんなブッッサイクな奴らと同じオカマにするな! 俺様のは天性のモノなんだよ。 ほら見ろよ。 空気の悪い地下暮らしなのに俺様の肌はこんなに綺麗に保ってんだぞ? 努力してんだ。 褒めろ」

 

 

「すごい」

 

 

「おう、感情の無いお褒めをありがとう。 そんで? お前は紋章食いの部屋で何やったんだ? しかも狙ったように俺様の留守中のタイミングに来やがって……何を企んでやがる…?」

 

 

「いや、実はコレがな?」

 

 

 

さて、目の前のこいつはユーリス・ルクレールであり、ガルグ=マク大修道院のお世話係時代の2年目辺りに出会った士官学校の生徒で、卒業したアケロンに続いて入学してきたその年の問題児である。

 

 

俗に言う バカ である。

 

 

 

「なんか今すごい失礼な事を考えられた気がするが?」

 

 

「ユーリスはバカ。 はい、コレで考えたじゃないな」

 

 

「考えてるから言ってんだろ! 締め上げるぞテメェ!?」

 

 

 

ちなみにバカに関しては学校の成績が低いとかの方では無い。 むしろユーリスは賢い方だ。 天才と言っても過言で無いほど能力を持っている。 だが、成すことやる事がこう、なんかおかしい。 刺激の求め方が他の生徒よりもぶっ飛んでいて、失敗したときのために証拠隠滅の手段を用意したり、人の前で歌うのが苦手なのを理由に逃げたと思ったら聖女の格好してずっと目を閉じて祈る格好をしてその日を逃れ、先生にどこで何していたと聞かれても「一緒に歌ってましたよ? 今日はインデッハでしたね。 そのあとは〜」と近くで聞いてたから質問逃れも上手かったりと、才能の無駄使いって意味でバカである。

 

 

 

「それにアレはたしか、ポテチを20段重ねにして一口で食べようとしたらなんか顎外れたり、サボったところを見つかった言い訳が『おばあちゃんが川に流されてました』とか次の日は『おじいちゃんが川に流されてました』とかの繰り返し。 お前は会社に遅刻したサラリーマンか? 仕舞いには『フレンが流されてましたとか』なんかあり得そうな事を嘘言って、勘違いしたセテスが物凄い狂騒になったの覚えてないの? アレ、すごかったよね?」

 

 

「やめろ、その話はオレに聞く」

 

 

「あと鷲獅子戦は中央のバリスタに酷い悪臭を振りまいて敵を寄せ付けさせなかったけど、後処理に掃除させられたりとかバカだろ」

 

 

「なんだよ。 モニカが首まで斬られそうになったところを助けただろ。 それなのにあの仕打ちは酷いことだ」

 

 

「悪臭玉を顔に押し付けて狂人を圧したあのやり方は確かに有効だったけど、助けられたモニカはあの臭いに気絶したの覚えてないのか? 斬られたショックじゃなくて、至近距離での悪臭玉の臭いだぞ?」

 

 

「……え? そうだったけ? まぁ良いじゃん、助かったんだし」

 

 

「どう考えてもモニカからしたら狂人よりもそっちがトラウマなんだよなぁ…」

 

 

 

とまぁ、色々とやらかしている。

 

しまいには俺の知らないヤベーことやってしまい、いつのまにか士官学校から消えており、そしたら数週間後にアビスでお頭になってるとか、もうマジで意味わからない…

 

なんかとうもろこし娘(コンスタンツェ)と通ずるところがあるよな。 地下暮らしの適正あるやつは頭良いけど頭悪いようなステータスでもあるのか? 俺、これにどう反応したら良い?

 

 

 

「とりあえずだ、紋章食いの部屋の件は理解した。 だがあまりシマを荒らされても困るんだがなぁ」

 

 

「リシテアが倒れなかったら本当はそのままアビスに顔出す予定だったぞ? それで何か色々あったとか一言告げるつもりだったんだけど、リシテアを心配したイエリッツァの剣幕迫りそうな焦り用がなんか怖かったからサッサと外に出ることにしたんだよ。 そのかわり逆賊のオカマ二人を倒しておいた。 結局のところ問題は無しだろ」

 

 

「それは結果論なんだが……はぁ、もう、いい。 とりあえずわかった。 一つ安心できる事が増えて良かったよ」

 

 

「そうか、面倒をかけたな。 以後は気をつける。 そんじゃあな、ユーリス」

 

 

「ああ、そうしてくれ。 それじゃあまたな。 ………って、待て待て待て待て、まだ逃さんぞユークリッド」

 

 

「えー、何用? お茶会? さっきベレスとシバいたから今日はもうやりたくない」

 

 

「それも魅力だがそうじゃない。 ユークリッド、お前なんか一つ組織潰したんだろ? ………確認だが、それは"こっち"の組織じゃないよな??」

 

 

 

さすが、噂が流れ着きやすいアビスだ。

 

そして先ほどよりも鋭く切れるような殺気が漂う。 ユーリスはバカだけどバカではない。 コイツは天才だ。 いつのまにか退路を塞いだよう立ち位置を取り、なんなら後方の明かりも消している。 盗賊としての能力の高いユーリスなら真っ暗闇でも簡単に人の喉を狙えるはずだろう。

 

返答次第ではこの殺気は首筋を落とす。

 

 

 

 

「俺じゃないな」

 

 

 

「…」

 

 

 

 

今は戦争だから見えない何処かで命が奪われている。 通り魔のように容易く奪われる。 ユーリスの組織にもそう言った事が起きてるのだろう。 この感じだと全滅した訳でも無さそうだが被害にはあってるらしい。 組織の言葉を口に出してからは目が笑ってない。 美しい瞳の色だけど今はそれが良く恐怖心を刺激する。

 

 

敵を、謀り、騙し、殺し、慣れている。

 

 

粛清も、ケジメも、知り尽くした眼だ。

 

 

 

 

「……本当だな?」

 

 

 

「ああ。 俺が滅ぼしたのはお前の組織なんかよりもヤバい組織だからな。 噂に聞かない? 闇に_」

 

 

 

「闇に蠢く者……だろ? 噂には聞きいてる」

 

 

 

「そうか」

 

 

 

「ああ、聞いてる。 だが、もし…」

 

 

 

「??」

 

 

 

「それが本当だとしたら……」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

人気もなく、静かすぎる地下。

 

 

尖った岩に付着した水滴が地面に落ちる。

 

 

静寂は恐怖に変え、不気味さだけが漂う。

 

 

そして、ユーリスの口は開かれた。

 

 

 

 

 

「お前かなりヤベーよな? もしかしてバカ?」

 

 

 

「お前には負けるよバーカ」

 

 

 

 

 

この後、武器を購入してから外に戻って寝た。

 

 

理解し難い時間を過ごしたけど寝て忘れることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー! これはスゲェ! 兵も加わって復旧作業か! 朝から活力あるなぁ!」

 

 

「いや、お前もなかなか活力あると思うぞ。 旅してんだったか?」

 

 

「ああ! 一人旅だ! これがスゲェ鍛えられるぜ! 素手で熊を屠って倒すんだ! 皮を剥いで、逆さにして血を抜いて、そして…そのまま食べる!」

 

 

「いや、焼けよ!?」

 

 

「料理は苦手だ!」

 

 

「火を通すくらいは考えろ___カスパル」

 

 

「胃袋も鍛えられたさ! 結果オーライってな!」

 

 

「あ、そう…」

 

 

 

昨日はバカじゃないバカの相手(ユーリス)

 

 

今日は朝から脳筋なバカの相手(カスパル)

 

 

もう既に半分ほど疲れている。 助けて。

 

 

 

「そういやなんで帝国出たんだ?」

 

 

「んん? ああ、それか。 いやな、何というか、一人旅は憧れていたんだけど、その…居づらいと言うべきかな? オレ、あまり頭良くないから上手く言葉を言えないけど、なんか今の帝国が嫌だったんだ。 明白では無いけど…なんか、違う気がした」

 

 

「…」

 

 

「多分さ、士官学校で暮らしてきた黒鷲の生徒もさ、この戦争に意味を感じられて無いと思う。 もちろん騎士になるとか、兵士になるとか、戦う事に意味があって、それで帝国のために力を振るいたい奴らは意味があって戦争に参加している。 オレは分かる。 オレは色々訳あって家を継げないから腕一つが頼りで、戦いで貢献して、帝国で名を残さないといけない……んだけど、それを今の帝国で示したいとはなんか思えなくてさ。 戦場で戦っても、それで活躍しても、どこか求めている部分が違った。 だから一年前にベルグリーズを出たんだ。 不思議とあの恐ろしい親父にも言えた。 帝国を出るってさ」

 

 

「……そうか」

 

 

「オレさ、士官学校の頃に納得できないミスを犯したんだ。 一人の子供が狙われていたから助けようとした。 でも兵士がオレを止めて、その子供を囮にして、探していた敵を捕まえようとしたんだ。 今になって考えればその意味は分かる。 時にはその判断も必要なんだって。 けど、オレは無理だったよ。 見て見ぬ振り、知らないフリ、もどかしさに鈍感なまま、背筋を漂う疑問を問わず、何より"成したいことを成そう"としない足踏みは辛かった」

 

 

「…!」

 

 

「頭は良くないオレでも分かった。 オレは貴族にはむかねぇ。 継ぎたいと思うソレは貴族に生まれたから流れで多分そうさせていただけで、オレ自身はこの手で誰かを救えるなら選ばないで良いと思えた。 貴族は何かと選んでしまう。 でもさ、貴族を捨てたその手は何かを選ばず、倒した熊を掴み、生で齧るのはあまり美味しくないけどすごく心が踊った。 腹もギュルギュル踊ったけどな! でも足踏みをせずに、有意を選ばずに、自分に素直。 だから過去に過ちがあったけどあの時子供を助けようとしたオレが好きだ。 愚直なら別にそれも良いって考えた。 オレ、あまり頭良くないからな!」

 

 

「カスパルは良く考えてるよ」

 

 

「おお? リンハルトと同じこと言うんだな。 オレが旅出る際もそう言ってくれたんだぜ?」

 

 

「自分に意志を持つのは、その途中に考えがあるからそうなるんだ。 授業と同じだよ。 勉強で答えを見出すために考えるだろ? カスパルの"成したい(そうしたい)"は答えなんだから、答えが出てるなら君は考えてる事になる」

 

 

「そうなのか? でも100点満点じゃないだろ?」

 

 

「100点を取るのが勉強じゃない。 答えを出そうとするために考えるのが勉強だ。 お前はお前なりの答えを出して、その回答ってのが一人旅だろ? 上出来じゃん。 ほら、朝飯奢ってやるからついてこい」

 

 

「マジか!? やった! 恩にきるぜ!」

 

 

「言っとくが熊の生肉は無いぞ」

 

 

「そこ掘り起こすかよ!」

 

 

 

 

俺も一人旅だ。

 

いや、マンディと一緒だけど旅することを考えた。

 

だからカスパルには共感できる。

 

リシテアの時も同じ。

 

成すことを成す。

 

成したいことを成そうとする。

 

そこに貴族も平民も関係なく己で選ぶ事。

 

カスパルは考えて行動した。

 

コイツは大きくなるな。

 

 

 

「あ! そうだ! もう一人連れが居るんだ! 少し待っててくれないか!」

 

 

「連れ…?」

 

 

「ああ! つい先週辺りにルミール村で出会ってな! それでガルグ=マクに寄ると言ったら付いてきたんだ!」

 

 

「一人旅じゃないやん」

 

 

「い、今はな! でもそれまでは男の一人旅だったぞ! っとと、いたいた! おーい! こっちだ!」

 

 

「んー? なんか見たことある…………ふぁ!?」

 

 

 

すると市場からこちらに向かって歩いてくる女性が一人。 その美貌に誰もが振り向くような佇まい。 魅惑に肌を晒し、男から熱い視線を集めさせるような二つの果実を揺らし、復興中の市場には場違いと言えるほどの女性が居た。

 

それは…

 

 

 

「あら! もしかしてユー君! 久しぶりね!」

 

 

「久しいな___ドロテア。 ミッテルフランク歌劇団の本拠地である帝都アンヴァルにいたと思ってたけど、まさか旅していたとは」

 

 

「ふふ、たしかに、私を知る人からはそう思われるけれど、でも今のアンヴァルはなんだか少し居づらさがあったから……出てきちゃった!」

 

 

「相変わらずストイックやな」

 

 

「その表現は女性に対して少し失礼じゃないかしら? でもたしかにその場で足踏みなんかわたしには無理だったわ」

 

 

「カスパルと同じこと言ってんな」

 

 

「あら、そうなの? カスパルお兄ちゃん」

 

「ブフッ!!」

 

 

「いまだにそれで揶揄ってんのか」

 

 

「ガルグ=マクにきて不意に思い出したからよ、ユークお兄ちゃん?」

 

 

「妹よ、そろそろ兄離れしてくれないと兄として心配だ」

 

 

「誰があなたの妹よ」

 

 

「お前から始めたんだろ良い加減にしろ」

 

 

 

その後、カスパルとドロテアを連れて食堂に案内し、朝ごはんを奢ってやる事にした。 それから次々と起きてくる青獅子のメンバーだが、カスパルとドロテアがいる事に大変驚かれ、帝国出身なのもあるから警戒されたが「「気にすんな」」と言われて何とか落ち着いた。

 

その後はややお寝坊さんのベレスがやってきて、寝ぼけながらカスパルとドロテアに「青獅子に入る?」とスカウトしてしまったがドロテアが「あら本当に?」と喜んでいて、カスパルが少し焦っていたのは微笑ましかった。

 

その後、カスパルが「オレはまたガルグ=マクで子供達を助けるぜ!」と言って王国とセイロスの連合軍に入ったらしく、ドロテアも羽休めとしてガルグ=マクにしばらく滞在を決めたようだ。

 

 

あと、これは余談だが数年前にカスパルの責任で逃した組織がなんと次の日に捕まったらしい。 怪しい動きをしていた一味の一人をカスパルが一撃で仕留めて、自害させずにセイロス兵が情報を上手く履かせたらしい。

 

展開が早くてユークお兄ちゃん驚いちゃったよ。

 

 

 

「ふふ、まるで物語ね、カスパルくん」

 

「おう、確かにそんな感じだな! けれどもしかしたらオレはこのために旅に出たのかもしれないなドロテア!」

 

 

 

 

フォドラの暁風は時に残酷だけど…

 

やはりイタズラ好きなのは変わりないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、落ちろ」

 

 

「うぁぁぁぁぁ!!」

「冷てぇぇぇえ!!」

 

 

「落ちたな」

 

 

 

CQCで次々とミルディン大橋から下の大河に投げ飛ばす俺氏。 その上、秋の季節にて流れる河の水は冷たいだろう。 しかも重たい鎧をつけてるため川の底に沈みそうになっているところを見ると中々に惨たらしい光景。 兵たちは急いで武具を外そうとしている。

 

 

 

「こいよフェルディナント。 騎馬なんて捨ててかかって来い」

 

 

「その手には乗らんぞユークリッド・ラライヤ。 わたしは貴殿の強さを理解している。 フォドラで最強と知らしめるその手腕に警戒しない程このフェルディナント・フォン・エーギルは甘く無いさ」

 

 

「フォドラ最強…? 初めて聞いたな。 弱くは無いつもりだけど最強格なのか。 個人的にはホルストの方が強いと思ってるが」

 

 

 

そもそも俺を強く感じるのはセスリーンの紋章があるからだ。 その紋章がなければ合成魔法も、合体魔法も使えず、蛇腹剣やエクスカリバーも使えない。 借り物だらけな俺が最強格は少し違う気がする。

 

 

でも…

 

 

 

「ああ、今はどうでもいいか。 臆するならしていればいい。 行き着くまで俺はこの手を止めない」

 

 

「我が名は! フェルディナント・フォン・エェェーギっ、ぅぅああぁぁ!?なんだ!? 馬が!?」

 

「ひ、ひ、ひん」

 

「足元…? まさかこの光はリザイアか! いつのまに!?」

 

 

「さっき『ああ』って言ったろ? 小声で『リザイ()あ』って演唱に繋げたんだよ。 あとピンポイントにリザイアする技術は結構前からフレンとやってたから騎馬の足元とならばこのくらいは出来る」

 

 

「やはり!お前は! うおぉぉあっ!?」

 

 

 

そしてドンガラガッシャンと馬から崩れ落ち、地面に落馬したフェルディナント。 ソシアルナイトやパラディンと言った馬兵は馬と一心同体でなければならない職業であり、そこから落馬しまうなどあってはならない。 だがフェルディナントは馬と共に転倒し、出鼻を挫く。

 

 

 

「ふん」

 

 

「!」

 

 

 

投げナイフを投擲。 フェルディナントはそれに反応して鉄の小手で跳ね返し、手槍を支えに立ち上がる。 落馬した衝撃で体にダメージが入ってるだろうが、騎馬兵として落馬したメンタルダメージはあまりなさそうだ。 馬から落ちた事実からは逃れられないが、そのことに怯んでいるほどフェルディナントは弱くないだろう。

 

つまり、ここからが本番だ。

 

 

来るなら来い。

 

お前も仲間の後を追わせてやる。

 

冷たい大河に真っ逆さまだ。

 

 

 

「ユークリッド殿、ここは僕に任せてもらえぬか?」

 

 

「ローレンツか。 南の戦線はどうなった?」

 

 

「それなら心配に及ばず間も無く終わるだろう。 それよりもフェルディナント君に関しては僕に任せてもらえると幸いだね」

 

 

「……少しだけだぞ? それでフェルディナントが武器を捨てる様子無かったら俺は動くからな」

 

 

「助かるよ」

 

 

 

俺は二歩ほど後ろに退き、短剣を納刀してマンディに乗る。 入れ替わるようにローレンツがフェルディナントの真正面に立つ。

 

 

 

「フェルディナント君、こうして顔合わせは久しぶりだね」

 

「ローレンツか。 まだ数ヶ月前まで手を組み合い、顔合わせは頻繁に行ってたが、突如君が帝国と対立してからは寂しくなったものだ。 こんな戦いが無ければ再びお茶会でフォドラの香ばしさと共に親睦を深めたい限りだね。 それで、この私をどうするつもりだ?」

 

「文通で何度か交わしている通り、ここを明け渡して帝国への道を開けて欲しい」

 

「それは出来ないな。 私とて任せられた場所、そして貴族としての責務、この槍を手放さず君たちを迎え討つさ。 勝ち目がなくともな」

 

「しかし君は読んだだろう? あの内容を」

 

「……」

 

「どうやら、ちゃんと読んでくれているようだね」

 

「……正直に言えば、手紙に書かれている内容は信じられないモノばかりだ。 しかし、君のようなもの者がそんな嘘をつくとは思えないし、私は君がそうじゃない事を知っている。 だから真実なのだろう」

 

「ミルディン大橋の中央に暴れている魔物は人間なのだろう? アレはその片鱗なのだよ。 それらの元凶はユークリッド殿が消し去ってくれたが、それでもまだその爪痕を残し、その傷口からはまだ黒い血が溢れ、染み渡り、帝国の道徳を、人命を、兵を軽んじている! それは戦争の中でやって良いことではない! 勝つために脆弱へと溺れたエーデルガルトの愚行はここまで極まった! その結果が守るべき平民たちはフォドラの骸に変えられている! 貴族は平民を導き守らなければならない! それを見ているだろうフェルディナント! 君はそれを帝国で良しとするのか!?」

 

「っ…だと、しても……! 私は、エーギル家は……」

 

「君の現状は知っているとも。 エーギル家は今は君だけが輝きとして残っている。 何が起きようとも貴族としての責務を果たす君だから、ラディスラヴァとここで武器を構えているのだろう。 しかし貴族ならば! 己の正しさを平民の導きにしてほしい!」

 

「………」

 

「フェルディナント、僕はそれを願うよ」

 

「…………わた…しは…」

 

 

 

 

「ああもう! さっさと降伏しろ貴族バカ! 戦いが終わらないだろ!」

 

 

 

 

「ぐへぇ!!」

 

「フェルディナントくん!?」

 

 

 

マンディから飛び降りる。 そして悩ましく首を垂れたフェルディナントの頭に向かって飛び蹴りを放つ。 フェルディナントは吹き飛び、最後は大の字に沈黙した。

 

 

 

「はい、敵将討ち取ったり」

 

 

「ユークリッド殿!?」

 

 

「時間切れだローレンツ。 フェルディナントは敵将なんだから討ってしまわないと戦いが終わらないだろ? それ以上はこの貴族バカが目覚めてから説得しろ。 ダメなら殺しちまえ」

 

 

「!!………君って人は…」

 

 

「文句ならこの貴族バカに言ってくれ。 コイツには散々どうするかのチャンスはあったんだ。 帝国の駒として戦うとか、帝国に勝利を齎したいとか、そのような覚悟を決めていたのならまだしも、この時まで迷いを持ち、挙げ句の果ては『貴族の責務だから』と建前に武器を持って現れたんだ。 俺からしたら時間の無駄に付き合わされた気分だな。 だから貴族バカなんだよ…コイツは」

 

 

 

その後、中央からは勝利の雄叫びが聞こえる。

 

 

どうやらこの戦いは大勝に終えたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミルディン大橋を拠点にしたその日の夜、俺は散歩がてら外の空気を吸いながら探索する。 ミルディン大橋をまともに観光しなかったからな。 唯一アケロンの馬車に乗せてここを進んだが、ゆっくりと見ては回らなかった。 バリスタも備えてあったりと戦場にもなる。 まぁ、それにしては帝国兵はそこまで多くなかったし、弱っているな。

 

それとも帝都を使った本土決戦でも考えているんだろうか? いや、その前にメリセウス要塞か。 あれの攻略はとても面倒だな。 俺とかシャミア姐さんで侵入して帝国兵の飲食に薬混ぜて内部から破壊してやろうか…

 

アリだな。

 

あとでロドリグさんと、セテっさんに提案しよう。

 

 

 

「?」

 

 

 

あれはベレスとディミトリか。

 

逢引?

 

 

 

「ディミトリ、大丈夫?」

 

「先生か……俺は平気だ。 心配ない」

 

「……嘘だね。 無理してる。 戦うときのディミトリ、とても苦しそう」

 

「!?………隠しても無駄か。 先生には敵わないな」

 

「うん」

 

「いや…そ、そうか。 先生は『うん』って、はっきり言ってくれるな。 このまま隠しても意味はないみたいだ、白状するよ。 …確かに俺は戦いが苦しい。 "まだ"大丈夫なつもりだが時折自分が分からなくなる。 おれはまだ人か?」

 

「人だよ。 私が好きな人」

 

「っ…先生、あまりそう恥ずかしくもなく…」

 

「私が好きだと気づいてしまった人だから、よく見ていたくて戦いでも気にしてしまうけど、そんなディミトリを見て心配になってしまう。 苦しそうに、辛そうに、悲しそうに武器を振る。 それとも"怖い"のかな?」

 

「!!………ああ、本当に先生には敵わないな」

 

「どうしたの?」

 

「……おれは、本当に自分が分からなくなる。 死者の声を聞いて心が痛く騒がしくなる。 『無念を晴らせ』と『復讐を果たせ』って聞こえる。 それに耳を傾けて溺れるのは間違いだと理解してる……してるけど…」

 

「ううん、それはわたしにも分かるよ。 わたしもお父さん(ジェラルト)を無くして、初めて涙を枯らして、そしたらあなたが『復讐を手伝う』と優しくするから、その甘い心地よさ…また武器を掴んでいられる理由が見つかったから、クロニエを追いかけて討ち殺そうとした。 でも…」

 

「?」

 

「ユークリッドが『くたばれモニカもどき』って高いところからクロニエを踏み潰して着地したりとビックリした」

 

「え? そうだったのか?」

 

「唐突故になんか冷静になってね。 でもユークリッドが復讐相手を半殺しにした後、わたしを手招きして『仇取ろう』ってそれがなんか軽々しくて、わたしも少しだけ困惑しながら頷いて仇を晴らそうとした。 でもねユークリッドも静かに怒りがあった。 それを見て彼も怒っているんだと知ったけど、自分もジェラルトの二の舞にならないように立ち回っていたその姿を見てわたしも落ち着きを取り戻した」

 

「…」

 

「お陰で最悪な事態(ソロンの罠)に陥ることはなく無事にソロンも討伐できたら私は守れる者も守れて、彼も守ってくれた。 お祝いに父さんが好んで飲んでいた紅茶も淹れてくれて、そんなに悲観することはなかった。 私の復讐って思ったよりも静かだったからほんの少しだけど達成感…的なものなのかな? なんか、呆気なさもあったけど士官学校で平和に日常を過ごす生徒達を見て『無事で良かった』と思った」

 

「ああ、おれもジェラルト殿の仇を取ってくれて嬉しかった」

 

「うん。 最後はユークリッドだったけど、でも最初はディミトリだった事をわたしは覚えてるよ。 それが"復讐のため"に誘ってくれてもわたしはディミトリが慰めてくれて嬉しかった。 だから、次はディミトリの復讐をわたしが手伝うよ」

 

「!!!」

 

「わたしは【先生】だった頃は『皆を導いて見せる』っと皆の前に立って、最初に学んでほしいモノを学ばせたけど、今の君達は大人になって自分で責任を取りながら歩むようになった。 それが世間的には違え(たがえ)であり、愚かだとしても、わたしは【仲間】として尊重し、あなたの隣に立つよ」

 

「……そうか、ありがとう」

 

「ううん。 わたしはあなたが好きだから」

 

「…………ありがとう。 だから……もうやめるよ」

 

「え?」

 

「先生…………いや、"ベレス"」

 

「っ! ……ぁ、う、うん? な、なに、かな?」

 

「決めたよ。 もう復讐の中で戦うのを止める」

 

「え? …ど、どうしたの突然??」

 

「おれは、あなたが先生だから甘えてしまいそうだった。 道を間違えても、どれだけ喚いても、傷を見せつけても、先生なら知ってくれて、それで付いてきてくれて、それで止めてくれるかもと思った。 はは…とんでもなく勝手だよな? 間違いと分かっていても止められなかった死者の思いを復讐心に変えて、自分を血に染めて業を抱えれば強く生きていける気がしたらいつまでもそうしてた。 でも先生ならどこかで厳しく止めてくれて、都合よく痛みを聞いてくれたら…なんて考えて甘い幻想を抱いていて、それはどうしようもなくみっともなくて、甘ったれで、バカで、獣で、仕方ない野郎で…」

 

「ディミトリ…」

 

「でも、あなたは皆の先生を辞めてただの女性となり、おれのことを好いてくれる一人の隣女(となりびと)になると言うのなら、おれは愛してくれる君に弱さと情け無さはもう見せれない」

 

 

 

ディミトリはベレスの両肩に手を乗せ、見つめる。 その眼差しは先ほどよりも穏やかで、生きてる人間の眼をしている。 もう、半端な人形の眼は剥がれ落ちたようだ。

 

 

 

「ベレス。 おれはどうしようもなく脆弱だ。 脆くて弱い男だ。 けれどベレスが指輪を渡し、近くで大事にしたいと望むのなら、それだけ願われて何も変わらない男で居られる程バカではない。 応えてやるさ、見せてやるさ。 ベレスを好いたディミトリは大丈夫なんだって」

 

「っ……うんっ」

 

「ベレス、好きだ。 おれの隣女(となりびと)になってくれ。 ベレスを支えたいおれを支えてほしい」

 

「もちろん。 わたしも、あなたが好きですから、いつまでも支えるよ……ディミトリ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、解決して、それで解決したのか?」

 

 

『ディミトリはドス黒い…に、近いモノを抱えておったが、自分の気持ちと向き合い見事に解決したのじゃな』

 

 

「……復讐心は強力な原動力で、絶対悪ではないけど、それ以上の原動力を見つけたんだな。 その気持ちはよく分かるよ」

 

 

『お主にも言えることじゃが、恋をすると人は変わるものじゃな。 かァー! まったく! 見守っていた側としてこれ程に無い程初々しいくて、なんか、こう、ええと…その、ともかく! やばいのじゃ!』

 

 

「語彙力まで天刻しなくて(飛ばなくて)良いから落ち着け」

 

 

『! …う、うむ……わ、わかったのじゃよ」

 

 

「………」

 

 

『………』

 

 

「………」

 

 

『………お似合いじゃな』

 

 

「ああ、そう思うよ……」

 

 

 

 

 

俺が去った後…

 

月に照らされた二つの影が重なったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

つづく




"バカ"ばっかりな話でした。

貴族バカ=フェルディナント
突撃系バカ=カスパル
天才だけどバカ=ユーリス
頭良いけど頭悪いバカ=コンスタンツェ
かなり色々とやばいバカ=ユークリッド


さて原作より心の傷の量がやや浅いディミトリ。 もちろん復讐心はダスカーの事件が始まった時から抱えていたが、先生を辞めて一人の女性として向き合うベレスの純粋さによって、原作よりもかなり早く救われたディミトリだった。 二人とも滅茶苦茶強いし、お似合いで、恐らくフォドラ最強のカップルかもしれないね。


《5年後…ではなく3年後のディミトリ》
原作のまんまなディミトリだが、片目を完全に失って闇落ちする前に助けられたので好青年っぽさは残っているが瞳の奥は復讐に飢えた獣。 しかしセラピー犬のベレスによって酷い方向に進まず、むしろこれまでの募りによって自己解決できるメンタルパワーが備わり、心に打ち勝った。 ベレスの完全勝利。

ちなみにこの作品のベレスもユークリッドによって原作よりも豊かになり、色々と価値観が変わり、自分の素直さを言葉にするマジ可愛いただの女の子。 そのためベレスがディミトリを襲う側になっている。
「ベレス、既成事実って知ってる?」
「知らない。 教えて」
『お主ィ!?!?』

結果は……ご想像にお任せするゾ。


ではまた
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