飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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第43話

 

ミルディン大橋を抑えた連合軍。 補給線と軍路を確保した後、一息入れる間も無く軍備を整えながら計画を立て、メリセウス要塞までの行路を確定させると後は早かった。 帝国に時間を与える前に戦線を伸ばし、グロンダーズ平原の近くまでやってきた。

 

しかし先行していた偵察隊の話によると帝国軍はグロンダーズ平原に軍を構え、メリセウス要塞へ続くその道を抑えようと迎撃態勢を取る。 正面衝突も免れないがここで引く連合軍では無い。

 

むしろ正面から打ち崩そうとしていた。

 

 

 

「懐かしいね、ディミトリ」

 

「ああ。 だが昔の経験がまさか血を流すために活かされてしまうなんてな。 本当の戦争として」

 

「……なら、今回もこの平原で王国は勝利に収めるだけ。 皆がそれぞれの命を掛けて、戦うだけ」

 

「そうだな。 勝って、終わらせるんだ」

 

 

 

鷲獅子戦の再来。

 

お祭りではなく、本当の血祭りとして…

 

グロンダーズ平原はまもなく赤く染まる。

 

 

 

「…」

 

「ひひん、ブルル」

 

「え? ああ、大丈夫だ。 少し……嫌な予感がしてな」

 

 

 

皆の闘争心は充分。

 

静かなんだけど、騒がしい。

 

しかし、俺のこの騒がしさは闘争心から来るモノでは無かった。何かが、大事な何かが、手元からこぼれ落ちそうで、殺し合いよりも恐ろしい何かが、起きる気がして…

 

 

 

「……」

 

 

 

グロンダーズ平原の中央に続く橋の前に立つディミトリとベレスの二人。

 

挨拶代わりとばかりにディミトリの後方にはファイアーとメティオが降り注ぐが、ディミトリとベレスはそれぞれの武器で斬り伏せ、後方にいた仲間たちはアーマーナイトと修道士が力を合わせて繋ぎ合い、セスリーンの力にて作り上げられたマジックシールドームによってかき消される。

 

やはり警戒していて正解だったな。

 

 

 

「血の雨の同窓会にでもする気か?」

 

「そうはさせん。 ここでエーデルガルトを討ち取り、そしてレアを返してもらう!」

 

 

 

俺の問いかけにセテスは槍を構え、愛竜に乗り込んで槍を真上に掲げる。 後ろで見ていたセイロス兵の士気は高まり、帝国兵に遅れを取らないだろう。 ロドリグも魔導書を表に持ち出し、息子のフェリクスも静かに剣を抜刀。 フラルダリウスの兵とゴーティエ家の私兵達も武器を握って全身に闘争を巡らせる。

 

 

全員の意思が『戦い、勝つ』と伝わった。

 

 

ベレスは天帝の剣を構え、最後にディミトリは槍を真上に掲げ…

 

 

 

「王国を…! フォドラを…! われらで取り戻す!! 全軍ッッ! 突撃せよ!!」

 

「「「「「うおおおおおお!!!!」」」」」

 

 

 

 

「行くぞ!マンディ! お前の姉を倒すぞ!」

 

「ひひぃーん!!」

 

 

 

同じ天馬乗りとして並んでいたイングリットよりも先に俺とマンディは突貫する。 ゴロゴロと天気の悪く、視界も悪い中でバリスタを警戒しつつベレス達の真上を通ると、バリスタが放たれる。

 

 

「ッ!?」

 

「ひん!?」

 

 

 

回避はした……ギリギリだが。

 

 

 

「この暗い中での狙い方が正確過ぎる…! 暗所での狙撃に慣れてやがる…!」

 

 

 

いち早くバリスタの弓兵を抑えなくてはならない。 マンディには危険な目に合わせてしまうがバリスタ如きで味方の損害を広めてしまうのは愚策。 俺はウインド入りの投げナイフを投擲しつつ地上の敵を蹴散らし、中央の砦付近までやってきた。 連合軍も遅れを取らず広く散開して敵との戦闘が始まる。

 

ベレスとディミトリを筆頭に帝国軍は連合軍と衝突して砦の防衛が手薄になる。 この機を逃さない俺はマンディから飛び降りて、アーマーナイトを踏み台にしながらファイアーの魔法を真下に叩きつけ、アーマーナイトの頭を破壊しながらその衝撃で高く飛び、体をひねりながら投げナイフを投擲。 アーマーナイトの周りにいた敵兵に投げナイフが刺さり、続けてリザイアを放つ。

 

 

「ルーンソード」

 

 

「「!?!?」」

 

 

 

魔法糸に繋がれた投げナイフからリザイアを与えてエネルギーを吸い取りながら着地。 さらにセスリーンの効果にて小さな傷口は大きな傷口となり、刺されたナイフの切り目から鮮烈に血飛沫が上がる。 ある程度リザイアにてエネルギーを吸収すると魔法糸を引っ張って投げナイフを引き抜き、リザイアで敵から吸い上げたエネルギーを手元に集めながら前方の敵と見合う。

 

とある武器を取り出しながら踏み込んだ。

 

 

 

「これでプラマイゼロだ!」

 

 

「ひぃ?!!」

 

 

 

禍々しい武器、それは"デビルソード"。

 

高い攻撃力を持つが使用者にもダメージが入ってしまい、使い手を選ぶ武器だ。 コレを握って敵に振るえば次の瞬間生命力が抜き取られる感覚を味わう。 血がズルリと吸われたような感じで正直気持ち悪かった。 だが銀の剣かそれ以上の強さを備えている。 利用しない訳にはいかない。

 

だから敵から奪った生命力を代償にデビルソードを使う手段を考えた。 そしてデビルソードは生命力を吸えば吸うほど禍々しくなり、敵を容易く殺す。 目の前にいた傭兵の大剣を砕き、デビルソードは人間の肉や骨を溶かすように切り裂いた。

 

 

 

「そこを退けぇ!」

 

 

 

デビルソードに裂かれた傭兵を蹴り飛ばし、バリスタが備え付けられた砦に飛び込む。

 

吸収した生命力が尽きる前にデビルソードを納刀して、コンバットナイフを取り出し、バリスタの操縦者まで一直線。 ソイツを打ち倒してこの場をシャミア姐さんに渡し、グロンダーズ平原の主導権をこちらが握る。 その段取りまで考えて踏み込んだ足は早く、体の一部のように動かせるコンバットナイフは敵と目が合った瞬間には斬り込んでいる筈。

 

 

 

「……!!」

 

 

 

錆びた血と鉄の香り漂う戦場で………俺はその手を止めてしまう。

 

 

 

「!?、!!?」

 

 

 

視認するよりも先に、無意識に攻撃が止まる。

 

 

何故なら…

 

そこにいたのは…

 

 

 

 

「なぜ……お前が??」

 

 

「!!」

 

 

 

 

紫色の髪の毛。

 

 

世間に怯えたような眼の色。

 

 

可憐な身体。

 

 

でも、今でもその愛おしさは残っている。

 

 

そして約束を果たすために待ってくれることを許してくれた女性。

 

 

それは…

 

 

 

 

「ベルナデッタ? なのか??」

 

 

「!」

 

 

 

彼女の名前を呼ぶ。

 

すると名を呼ばれた彼女はバリスタから離れ、俺の方まで駆け寄り、飛びついた。

 

まるでここに来てくれる事を知ってたかのように、顔も名前も確認する事なく、放たれるバリスタよりも早く、俺を捕らえた。

 

 

 

「来てくれた…! 本当に来てくれた……!」

 

 

「べ、ベルナデッタ、お前、本当に…? お前なのか?…お前なんだよな?? ベルナデッタ」

 

 

「っっ……はい! ベルは、ベルは…! ベルナデッタですよ! ユーク様と約束した! ベルナデッタで間違いありませんですよ!」

 

 

「!! …ああ、そうか、こんな、イタズラが、フォドラにあるのか……ははっ、悪趣味すぎるだろ、本当に…」

 

 

 

俺は戦場のど真ん中である事にも関わらずベルナデッタを抱きしめる。 数年前よりも背が伸びた彼女だが、その可憐さと身体の細さは変わらず、ほのかに彼女の好物とするベリーの香りが鼻をくすぐる。

 

 

 

だが、次に鼻をくすぐるのは………火薬の香り。

 

 

 

「!!?」

 

 

 

俺は周りを見渡す。 すると砦の壁に沿うように魔法の障壁が張り巡らされた。 体から少し力が抜けるがそれは肉体的な力では無い。 魔力的なエネルギーが抑え込められる感覚だ。

 

 

「魔法が封じられた!? ッ…まさか!!?」

 

 

「!? ユーク様ぁ!! 火が! 火がぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「火を放ちなさい!!」

 

「さて、これで何とかなりますかな…」

 

 

 

 

覇王と、その従者の声が響く。

 

 

砦は爆炎に包まれ、燃え上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼と大事な約束をして三年が経つ。

 

それまでは戦いと無縁な世界で生きてきた。

 

部屋の外は戦争と血の匂いでフォドラを悲しませる。

 

何年経っても終わらない戦争に兵たちは次々と死んでゆく。

 

そして兵の補充のためとうとう私にも役目が訪れる。

 

 

 

_貴族としての責務を果たせ。

 

 

 

フェルディナント君なら喜んで承るだろうこの役目にわたしは弓の腕を買われて戦場に投げ込まれてしまう。

 

戦わなければ死んでしまう…

 

殺し慣れてないこの手で人を射止めて命を奪う。

 

しかし不思議と戦える。

 

いろんなものに怯えすぎて、自分の恐ろしさにも慣れてしまったのかもしれない……と、思いたい。 とてもじゃないけどありえない。 そんな強いわたしが出来上がるわけがない。 引き篭る前だって世界にビクビクと生きてきた臆病者なベルナデッタに出来ることなんて心を壊すだけ。

 

 

 

でも、それでも生き残ってみせる。

 

 

 

明日を引き篭るため…

 

 

 

いや、引き篭れる世界のため…

 

 

 

違う。

 

約束してくれた彼の腕の中で引き篭れるその時が訪れるまで、わたしは戦う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は来る。

 

 

 

 

 

「ユ、ユーク様が、く、来るんですか!?」

 

「ええ、そうだと思われます。 確定ではありませんが兵の話では天馬に乗る男性の姿が見られ、その者はとてつもなく強いと噂があり、一部の軍勢はその者に怯えてます。 実力高き者はフォドラに沢山存在ですが、殿方が天馬に乗られる情報は間違いなく…」

 

「ユークリッド…! ぁぁ、帰ってきてたんだ!」

 

「ええ、あなたにとって嬉しい話でしょう。 しかし、あなたには迎え撃ってもらいます」

 

「!」

 

「ミルディン大橋はまもなく落とされるでしょう。 そしたら王国軍がやってきます。 だからグロンダーズ平原のバリスタで倒しなさい」

 

 

 

それだけを言うとヒューベルトさんは私の前から去る。

 

 

わたしが、ユークリッドを撃つ??

 

 

何を言う…

 

 

そんな事出来ない。

 

 

ありえない。

 

 

世界を敵に回してもわたしはユークリッドと敵対しない。 わたしがユークリッドに刺されたとしても、まだそれで構わない。 わたしはユークリッドを討たない。

 

 

 

「ユークが……もうすぐ来る!」

 

 

 

彼がわたしに会いに約束を果たしてくれる。

 

 

いまはそれが生きる原動力だから…

 

 

 

「き、きやがれです…! わたしはそれまで生き残ってみせる! ユーク様が来るまでぇ!!」

 

 

 

この時、わたしはなぜヒューベルトさんはユークリッドが来ることを教えたのか考えなかった。 なぜ「撃ちなさい」と言うだけで「敵に寝返るな」と忠告する事もしなかったのか。

 

それを深く考えれず、私はユークリッドが迎えに来てくれる喜びと、彼に逢いたい愛しさのために必死になった。 それが今日グロンダーズ平原にて帝国と王国のぶつかり合いの中、確かに彼がここにきてくれた。

 

 

「ユーク様!」

 

「ベルナデッタ、なのか??」

 

 

 

戦場で出会ってしまった困惑。

 

勢いよく砦に入ってきた彼の足と手が止まる。

 

でも一眼見てわたしは彼を理解し、声を聞いて彼はわたしを理解する。

 

弓砲台から離れ、わたしは近づき、そして抱きしめた。

 

彼とわたしを受け止めて再開を喜ぶ。

 

フォドラはイタズラが過ぎると困ったように笑う。

 

 

 

でも、感動の再会は直ぐに終わりを告げる。

 

何処からか合図が聞こえると火薬の香りが鼻をくすぐり、そして発火した。

 

炎が私と彼を焼こうとしていた。

 

 

 

「あ、熱いですぅ! いやぁぁぁあ!!」

 

「っ、ベルナデッタ! こっちだ!」

 

 

 

彼はわたしの手を引いて弓砲台のところまで手を引く。 砦の中に逃げ場所が無いと思われたが、彼が手を引いた場所には炎はそこまで来てないようで、何とか焼かれずに死ぬ。

 

 

 

「回転式の鉄床に助けられたな。 しかし…」

 

「けっほ、けっほ…ぅ、ごっほ……ゆ、ゆーく…」

 

「ベルナデッタ、これを被ってろ」

 

 

彼は上着を脱いでわたしの頭に被せ、少しでも炎が届かないようにを守ろうとする。

 

 

「ゆ、ユーク様、こ、ここは、かなり熱いですけど、でも、この場所なら炎が、治まるまでは…」

 

 

「残念だけど全く安全じゃない。 このままだと一酸化炭素中毒で死ぬぞ。 直ぐにこの場所を抜け出す」

 

 

「でも、魔法も天馬も、この場所だと…」

 

 

「まかせろ」

 

 

「!」

 

 

 

不安になるわたしの肩を抱きしめる。

 

 

 

「今までみたいに、俺が何とかする」

 

 

 

抱きしめながらズレた上着を再度被せ直し、少しでも酸素を確保できるようにわたしを守る。

 

 

「っ」

 

 

焼き尽くそうとする暴力的な熱なんかよりも、暖かい彼の温度にわたしは安心感を覚える。

 

だから彼を信じよう。

 

その腕の大きさと、言葉の大きさを。

 

わたしは「はい」と頷いて、彼に身を預けた。

 

 

 

「ベルナデッタ、 今約束を果たす。 俺がこの手で戦いを乗り切って、それを証明してみせる」

 

 

 

彼は目を閉ざしながら手の甲を額に押し当て、なにかを念じる。 耳をすませば小さく何かと会話をしているように聞こえる。 その間に着々と激しくなる炎。 このバリスタもいずれ熱に焼かれて私たちも耐えれなくなるだろう。

 

けど、わたしは信じて待った。

 

 

 

「!!」

 

 

 

彼は何かを察知したのか、わたしを何かから守るように腰に腕を回し、コンバットナイフを取り出して何かを斬り払う。 わたしの視線の先に矢尻が落ちた。 どうやら飛んできた矢を斬ったようだ。

 

だがドッと何かが貫いた。

 

 

 

「っ、痛い…なぁ…」

 

 

「!!?」

 

 

 

矢が降り注いだ。

 

彼の腕に刺さる。

 

わたしは頬を掠めた。

 

つまり、わたしは同じ帝国の者から攻撃を受けたことになる。

 

 

ああ、やはりそうなんだ。

 

わたしは捨て駒なんだ。

 

 

 

 

「どうやら帝国は、俺の事が怖すぎて仕方ないな。 ベルナデッタを犠牲にしてまで殺したいらしい」

 

 

 

炎に囲われ、熱に焼かれ、逃げ場を奪われ、弓に狙われ、私という枷に囚われ、間違いなく彼にとって絶望的な状況なのに、腕に刺さった矢をまっすぐ引っこ抜いてそれをパキリとへし折りながら状況把握を続ける彼は間違いなく強くて、帝国にとっての恐怖なんだ。

 

 

わたしなんかのために会いにきてくれた人はこんなにも強い。

 

 

 

「よし、何とか足りたな! これで…!」

 

 

 

彼はバリスタに何かをくくりつける。

 

見せてもらった事がある道具だ。

 

それは魔法糸。

 

使用者の魔力を武器に伝わせる貴重な道具で入手するのが大変だと言っていた。

 

それを全部使ってこれからやるべき仕込みを完成させて真上に照準を合わせた。

 

 

 

「ベルナデッタ、俺の手を強く握れ」

 

「は、はい!」

 

 

 

言われた通りに握る。 その手は幾たびの戦いで築き上げた力強い人間の手だけど、お世話係として皆の面倒を見てきた優しい手でもあり、フォドラを奔走して苦労を重ねた厚く硬い手でもあった。 わたしが強く握っても簡単には折れない。 縋るに頼もしい心強さ、そして暖かさ。

 

 

「!」

 

 

彼はバリスタを空に向けて放つ。

 

魔法糸は許す限り、限界まで伸びる。

 

次の瞬間、空に叫んだ彼の手の甲が光った。

 

 

 

 

「セスリィィィーン!!」

 

 

 

 

 

_待ってましたわ!!

 

 

 

 

 

 

魔法結界から飛び出したバリスタに繋がる魔法糸は光を帯びて彼の手元に伝わる。 すると視界が光に包まれ、浮遊感と共に見える世界が変わる。

 

これは…

 

 

 

「ナイス"レスキュー"!!」

 

 

「ま! 焦りましたわよ、本当に」

 

 

 

わたしは燃える砦から、川沿いに茂る草原の上に座り込んでいた。 どうやらユークリッドは魔法結界から飛び出した魔法糸を使う事でフレンさんのレスキューの魔法を拾うやり方で抜け出したらしい。 あといつのまにかバリスタの先に塗られていたユークリッドの血がアンテナだとか。

 

正直驚きが止まらない。

 

 

 

「ま! もしかしてベルナデッタさん?」

 

 

「あ、ええと、ご、ご無沙汰です………け、けど…わたしは…」

 

 

「ま! そんな警戒しなくてよろしくてよ。 あなたは帝国側に居ましたがユークが『敵なら無理やり寝返らせて俺のモノにする』と言ってましたので大丈夫ですわ」

 

 

「!?」

 

 

 

俺の、モノにする??

 

それを言った??

 

 

 

「……へ!? あわわわ! ユユユ、ユーク様ぁ!? そ、そそそそ、そんな事をなぜェェ!?」

 

 

「いや……俺、ベルナデッタと敵対したくないし? 寝返って貰わないと困る」

 

 

「そ、それは…わたしも同じでしたから…」

 

 

「なら問題無いな」

 

 

 

彼は笑いながらそう言って座り込んでいたわたしの手を取って立たせた。 そしてわたしの両肩に手を乗せると彼は真剣な表情になり、まっすぐとした視線で…

 

 

 

「ベルナデッタ!」

 

 

「は、はい!」

 

 

「俺と一緒に来い!!」

 

 

「っ、も、もちろんですぅぅ!」

 

 

 

 

一つの返事。

 

迎えに来てくれた彼にわたしは寝返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連合軍と帝国軍の衝突は砦が焼かれた今も続く。 しかし押しているのは連合軍であった。 連合軍も帝国軍も兵の数はほぼ同じであるが、ベレスやディミトリと言った実力高き者を筆頭にしているため帝国軍は連合軍の攻勢に飲まれ、撤退戦が余儀なくされる。

 

更に帝国は悲報が届く。 燃え上がる砦から脱出したユークリッドはベルナデッタを戦いから遠ざけると天馬のマンディに乗り、帝国を挟み込む形で飛ぶ。 その情報が届く頃にはエーデルガルトの目に着くところまで来ていた。

 

迎撃に入る帝国の天馬騎士たちだがマンディの機動力と正確な投げナイフに揺さぶられる。 パルミラ戦線のように荒くも鋭いその戦い方に天馬騎士達はユークリッドを捕らえれず、これまでの訓練はなんだったのかを天馬騎士たちは問われる。

 

ユークリッドはコンバットナイフを持つとエクスカリバーを作り上げ、それを水平に振るう。 エクスカリバーから衝撃波が起き、天馬騎士達はその攻撃を受け止めるがダメージは極小で戦いに損傷は皆無である。

 

 

だが直ぐに違和感が生まれた。

 

武器が重い。

 

武器が固まった様に振るえない。

 

 

天馬騎士達はこの現象に驚きが隠せない。 それもそのはず、ユークリッドがマンディに施された"獣の紋章"をセスリーンの特性である干渉を活かしてその効果を発揮し、エクスカリバーの衝撃波にて『反撃が出来ない』の状態になったからだ。

 

この謎現象に帝国の天馬騎士は動揺し、連帯が崩れる。 それはイングリットにとって大きく隙をつけるチャンス。 連合軍の天馬騎士たちは一気に帝国の天馬騎士たちを討ち取り始め、ユークリッドはその場を任せる様にエーデルガルトへ迫る。

 

グロンダーズ平原での戦いで撤退を決めたエーデルガルトはヒューベルトに指示を出す。 メリセウス要塞まで退くと告げて本格的に撤退戦を開始。 生き残った兵と共に安全圏までワープする場所まで移動を始めた。 それを逃すまいとディミトリはエーデルガルトを追いかける。 覇王様に近づけさせまいと壁を作る帝国兵をなぎ払い、その衝撃で武器が壊れるがベレスの蛇腹剣が落ちていた手槍を巻き上げ、並走しながらディミトリに渡す。

 

 

そしてディミトリは投擲。

 

ブレーダットの小紋章が乗せられた手槍は…

 

 

エーデルガルトの肩をえぐった。

 

 

 

「がぁぁあ!!?」

 

「エーデルガルト様!?」

 

 

 

炎の紋章の力で身体能力が高まっているが着ているのはアーマーであり、ディミトリやベレスの足から逃げることはできない。 覇王の証であるツノの飾りは手槍の衝撃で半壊する。 ブレーダットの小紋章の恐ろしさを改めて再確認しつつもベレスは蛇腹剣を伸ばしてヒューベルトとエーデルガルトの間に割って入り、更に後方から追いついたユークリッドはベレスが伸ばした蛇腹剣にエクスカリバーで作り上げた蛇腹剣を巻きつける。 ベレスの蛇腹剣の剣先から衝撃波が放たれエーデルガルトとヒューベルトを左右へ離すように吹き飛ばした。

 

 

「!?」

 

 

唐突な衝撃波に受け身が取れないヒューベルト。 何かが飛んでくる。 ヒューベルトは闇バリアを作り上げて投げナイフを防ぐ。 だが更にまた何かが真上を取る。 それはユークリッド本人だった。 マンディから飛び降りてヒューベルトの真上を取りながら勇者の剣を抜刀できる状態で姿勢を低く、視線はヒューベルト。

 

獣の紋章を背負いながらユークリッドは…

 

 

月天(がてん)………ッ!?」

 

 

ユークリッドは攻撃を止め、体を捻って回避するが勇者の剣がはじき飛ばされてしまう。

 

攻撃してきたのは自衛のオート式ダークスパイク。

 

ヒューベルトにその仕掛けが備えられていた。

 

だが、ユークリッドはその対策は出来ていた。

 

 

 

「マジックシールド!」

 

 

「!?」

 

 

 

ヒューベルトのダークスパイクをマジックシールドで上書きながらユークリッドは地面を駆ける。 ヒューベルトは最短で迎撃できるドーラαを放ちなんとか抵抗する。 しかしユークリッドはそれを殴り壊した。 マジックシールドの余力が手のひらに余っていたのでそれを使ってドーラを防いだ。 ヒューベルトは苦し紛れに慣れもしない格闘で対抗するが、姿勢低く回避したユークリッドは足元に力を入れて…

 

 

 

「ベルナデッタの…分!!」

 

 

 

サマーソルトでヒューベルトを蹴り上げ。

 

 

 

「これもベルナデッタの分だぁぁあ!!!」

 

 

 

何故二回も言った??

 

そんな答えはユークリッドにしか分からない。

 

サマーソルトで打ち上げられ、重力に従って落ちてきたヒューベルトの胴体にユークリッドの強烈な右拳が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師……久しぶり…ね」

 

 

「うん、久しぶり」

 

 

 

エーデルガルトは負けた。

 

ヒューベルトと離され、一人で抵抗する他無かったが、ベレスの素早い攻撃にアイムールの本領を発揮する暇もなく武器は弾かれ、手槍を回収していたディミトリに首筋を突きつけられる。

 

チェックメイトと言うべきだろう。

 

 

 

「……髪、下ろしている方が可愛いよ」

 

 

「……ふふ、ありがとう師。 でもわたしがこうして髪を下ろせるようになるのはこの戦いで覇者となった時よ」

 

 

「なら、お前がそうする道中で人々は苦しむのか? エーデルガルト」

 

 

「ディミトリ……あなたは良いわよね。 師が居て」

 

 

「残念だがもう先生じゃないな。 彼女は"ベレス"だ」

 

 

「!!………そうなのね。 それは、ほんの少し悲しいわ…」

 

 

「……エーデルガルト、降伏しろ。 もうこれ以上の意味がない。 終わりだ」

 

 

「………バカ言わないで、まだわたしは…」

 

 

「まだ、も、バカ、も無いよ」

 

 

 

 

バキッ

 

 

 

 

「ふぁ!?」

 

 

「ぁ、ぁ? せ、せん…せ……い??」

 

 

「ベレス!?」

 

 

 

殴った。

 

効率よく気絶させれる部分に目掛けて…

 

ベレスは殴った。

 

そして、エーデルガルトは倒れる。

 

コミカル的に言えば目をグルグル回してだろうか?

 

それよりもディミトリはまさかこのタイミングで、このシリアス的雰囲気の中でまっすぐ殴るとは思わず、引いていた。

 

 

 

「ユークリッドが言ってた。 こう言う時はあまり喋らせてると案外終わらないから一度殴って意識奪えって」

 

 

「いや、いやいやいや!? まてお前!? またユークリッドの影響か!?」

 

 

「傭兵業やってた時もそうだけど、被害を広めないためにも軍の親玉は早めに討つに限るから合理的。 ユークリッドも長を倒したって事実を作らないと無駄に戦いが続くからこの処置が早いって言ってた。 これには同感してる」

 

『いや、それは何かおかしいのじゃ…』

 

 

 

行方を見守っていたソティスもだが、この小娘が首を討ち取るじゃなく、まさか殴って一度沈黙させるやり方にするとは予想も付かなかった。

 

しかしベレスはエーデルガルトの首を取ろうとは思ってない。 いや、正しくは半分程は思ってない。 そもそもベレスは戦争を終わらせるため……に、戦うことを決めたディミトリを支えるために戦っている。 もちろん戦争は終結させたいが、エーデルガルトの行方はベレスではなくディミトリが握るものとしていた。

 

だからエーデルガルトが「師、あなたの手で…」と終わりを求めても「やだ、やらない」と断っていただろう。 もうベレスは先生ではない。 だから例え生徒だった者が相手でも先生をやめた以上、彼女は後始末を付けない。 それは隣にいる王子がやる役目だ。

 

 

でも、戦いを終わらせるために殴った。

 

 

それだけで__

 

 

 

 

「申し上げます!!」

 

 

「「!??」」

 

 

 

一人の兵が伝令として駆けつける。

 

いや、後ろからはロドリグなど側近にいたる者達がベレスとディミトリの元に集う。

 

だがそれは戦いが終わった安心感……とは正反対の顔つき。

 

何かがまだ有るのか?

 

 

 

「同盟諸国から大軍が接近! 我が軍との衝突の恐れあり! 大混戦の前に一度立て直しを!!」

 

 

「何だと!? 同盟国が加入するのか!?」

 

「それは敵? 味方?」

 

 

「分かりません! しかし! 北側に位置する観測兵からの言伝では同盟国から武装した者達が勢いよくグロンダーズ平原に向かっているとの事!」

 

 

「…ロドリグ、これは?」

 

「殿下、こちらからは何も持ちかけはありませんでした。 そうなりますと後方から私達を刺すためにとしか…」

 

「クロード……お前は帝国に加担すると言うのか? 意味がわからない。 お前は帝国と敵対を…」

 

 

 

「ディミトリィィィ!!」

 

 

 

「「!!!?」」

 

 

 

飛竜に乗った一人の男性が、同盟国の黄色い旗を持って飛んでくる。 武装はしていない。 戦う意思も持たれず、しかも両手に持つ旗は王国の旗も備え付けられている。 これは敵対を選ばず有効の証そのものだ。

 

 

 

「クロード!?」

 

 

「ディミトリ! あと先生もか!? ま、なんだ! とりあえず無事であった喜びと、久しい再会の三年分を同窓会にしたいところだが……すまん! 手を貸してくれ!」

 

 

「なんだ!? 一体また何をやったんだ!?」

 

 

「悪いが学生時代のノリで言ってんじゃないさ! ともかく単刀直入に言う! 謎の集団がこちらに迫っている!!」

 

 

「なんだと?」

 

「謎の集団って何? あと私はもう先生じゃない」

 

 

「え? あ、そうか。 いや、じゃなくてだな、謎の集団の、何と言うべきか、見間違いじゃなければいいがとんでもない奴らがこちらに迫っている! 出所は知っているんだが、その正体は_」

 

「クロードくーん! やだ! 先に行かないでよ!」

 

 

 

馬に乗った女性が一人。

 

大型の斧を持ってクロードの元まで歩み寄る。

 

 

 

「ヒルダ! ああ、すまんすまん! でも早めに敵意がないこと知らせないと勘違いされて挟み撃ちにされた終わりだろ? ともかくだ、ここを早めに退くことをオススメする……え? うわ、マジか? え? これ、エ、エーデルガルトか?」

 

 

「うん、殴って気絶させた」

 

 

「………あ、いや、待て、色々と情報が混在してやばくなってきた。 と、とりあえず、帝国は倒し…た? で良いのか? じゃなくてだな! ともかく退くか、戦うかを早く決めた方が良い! 俺たちを狙ってきた奴らは同盟国の…いや! このフォドラ全土の敵となるはずだ!」

 

 

「フォドラの全土の敵……その正体はなんだ?」

 

 

「その正体は!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父様ぁ!」

 

「フレン!? まて!? ここでは兄上と…」

 

「わたし、わたし、見間違いじゃなければ、良いですわ。 いえ、見間違いだったらどれだけ良かった…」

 

「どうした!? どうしたんだフレン!? 何を見たんだ?」

 

「また、また始まりますわ……! また、再来しますわ…! あの時の! あの時の悪夢が!」

 

「悪夢? 悪夢とは? フレン! 言うんだ! なにがあってもわたしが守るから言うんだ! フレンは空でなにを見た!」

 

「っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げ行く者をなぎ払い、追いかける者達。

 

 

10種近い英雄の遺産を持つ者達を率いて。

 

 

悪夢から生まれし1000越しの再来。

 

 

 

そして、その中に一人の男がいた。

 

 

 

それは…

 

 

 

 

 

 

 

 

「セイロス………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

【 解放王ネメシス】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒューベルト、聞いたな?」

 

「…ええ、嫌でも耳に届きましたよ」

 

 

 

トドメを刺そうとしたが、コンバットナイフはエクスカリバーで溶けてしまい使えない。 喉くらいなら切れるだろう隠しナイフを取り出そうとした矢先、エーデルガルトはベレスに殴り飛ばされ、覇王は倒される。 すると悲報が届き、ユークリッドは戦闘が終結した事を理解して武器をしまう。 命が取られなかったヒューベルトも痛みに耐えながら立ち上がり、エーデルガルトの元まで歩み寄る。 エーデルガルトを起こし、残った兵達をまとめてココから撤退指揮を取るのだろう。

 

すると間を見て空から降りてきたマンディはユークリッドの元まで寄り添い、不安そうに迫りくる悪夢の方向を見つめる。

 

 

 

 

「……俺が、箱を開けたようなもんだよな」

 

「ひひん…」

 

 

 

 

 

 

 

一つの光が彗星如く流れて落ち。

 

凶星に向かって弾けた光景を夢の中で見た。

 

三つの色とりどりな星々が並び。

 

そこにもう一つ大きな星が襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

いつだったか…

 

女神ソティスの予知夢を思いだす。

 

しかしソティスの予想は外れていた。

 

正しくは…

 

 

 

 

「一つの(ベレス)が彗星如く流れて落ち、 凶星(ユークリッド)に向かって弾けた。三つの色とりどりな星々(三人の元級長)が並び、そこにもう一つ大きな星(ネメシス)が襲いかかる……って、ことだったのか」

 

 

 

 

 

言葉にして確信する。

 

 

だが遅すぎた。

 

 

悪夢は、まもなく来る。

 

 

 

フォドラの暁風が濁り始めていた。

 

 

 

 

 

つづく

 




もう大混乱。

とりあえず流れとしては、帝国は連合に倒され、そしたら何故か同盟国が来て、でも解放王ネメシスに追われていて、みんな仲良く逃げるか戦うかしましょう、って流れ。



《獣の紋章》

人間だったマンディが天馬になった原因。 闇に蠢く者の実験の果てに獣と化してしまい、なんとか逃げたが道中で色々とあり、今はユークリッドと共にしている。 マンディ自身が獣の紋章を使えないが、チート化したセスリーンの紋章にてその効果を拾い上げ、ユークリッドがそれを武器に乗せて攻撃すると発動する。 ダメージが極小でも『攻撃された』の事実は変わらないので獣の紋章の効果で反撃できません。 セコイね。


ではまた
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