飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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第47話

 

 

ダグザからフォドラに

 

 

フォドラのガルグ=マクに

 

 

ガルグ=マクから同盟に

 

 

同盟のシャンバラに

 

 

シャンバラから王国に

 

 

王国の王都から帝国に…

 

 

そして…

 

帝国との戦争が終わり、ネメシスは滅び去った。

 

その後、この乱戦から生き残った帝国の将エーデルガルトはその場で帝国の降伏を宣言し、3年半続いた乱世フォドラの時代は終わりを告げる。

 

長い様でとても短い1ヶ月間を奔走してきたユークリッド・ラライヤはこの終戦を聞き届けながらフォドラの暁風を受け止めていた。

 

 

 

フォドラは今、平和へと踏み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手順を再確認する。 紋章食いの部屋よりも緩やかな魔法陣の中にいるマンディから紋章を取り、俺とフレンでリザイアで引き寄せながらリブローで傷口が開きすぎない様に保護。 リシテアは儀式中の魔力が乱れない様に調整しつつ俺が魔力切れで倒れない様に補充。 アケロンは魔力が外に溢れすぎる様ならフィンブルで強引にこの一角に壁を作って欲しい。 最後マンディから"獣の紋章"が浮き出たらセスリーンの紋章で干渉しながら俺がエクスカリバーで切り落とし、フレンがリザイアの対象をすぐに"獣石"に移して魔導を反転させて封じ込める。 エクスカリバーの威力が弱かったら俺は一度イエリッツァに投げるから、ラミーヌの紋章でもう一度を引き出してイエリッツァが強引に切り落として欲しい。 それでうまく言ったら最後はマンディを魔法陣から引っ張り出して終了だ」

 

 

「ユークちゃん、本当にココじゃないとダメなのかい?」

 

 

「アケロン、崩壊したシャンバラにたまたま同じような魔法陣が残っているのをクロードとリシテアが見つけてくれて、リシテアが個人で俺に報告してくれたんだ。 つまりこれはマンディのために使えって事だろ? なら使う。 原理は同じなのだから出来ると見てる」

 

 

「ええ、充分に可能ですよ。 紋章を人の体に無理やりねじ込む手伝いをする魔法陣でしたが、魔法陣の効果を反転させれば紋章を引っ張り出す事も可能でしょう………わたしにとっては忌々しい魔法陣ですが」

 

「リシテア……」

 

「あ、イエリッツァさんが気に病むことでは無いですよ。 あなたが闇に蠢く者に加担してたにせよイエリッツァさんがやった訳ではありません。 だからわたしはイエリッツァさんに負い目を受けて欲しくないです」

 

 

 

イエリッツァは戦いに手を貸しただけだ。

 

実験には何も手を出していない。

 

 

 

「あ、私には負い目を持ちやがれですわ。 4年前の誘拐については忘れてませんのよ?」

 

 

「でも誘拐に関しては自分から連れて行かれたんだったか?」

 

 

「ええ。 当時は死神騎士の得体が知れませんでしたもの。 下手な抵抗を起こせば周りの生徒達や平民達に危機が迫ると思いましたから大人しく連れて行かれて血を抜かれましたわ。 ま、ベレス先生が3日も経たないうちにすぐに見つけてくれましたからそれ以上の大事はなりませんでしたわ」

 

 

「なるほど。 ただ俺はその時の状況は知らないが、腕とか捕まれたそのときは抵抗しても良かったんじゃないのか? 敵の体に触れて体内にエクスカリバー放てばズタズタに出来るだろ。 更にセスリーンの扱う魔法の効果は傷口を開かせ安くて、対象であるイエリッツァは幾度なく戦ってるからそこらの戦士よりも傷を負ってる筈だ。 やれば一撃やぞ?」

 

 

「確かに出来なくも無いですわね。 でもついて行くことを了承したら即座に気絶させられたので無理でしたわ」

 

 

「そりゃ無理だな」

 

 

「ええ、無理ですわね」

 

 

 

 

「………」

 

「士官学校にいた頃から見てましたが、やはりあの二人が揃うとこの上なくおっかないですね。 もしかしたらネメシスよりも厄介では…」

 

「………ぁぁ、だろうな」

 

「(うっ…これは重症ですね。 あとで甘い物で元気にしてあげましょう…)」

 

 

若干引きつった表情で非難するするイエリッツァと、同情するかのようにジト目になるリシテア達を横目にマンデイの首筋を撫でながら「上手く行く、信じて」と落ち着かせる。 マンディも信頼しているのでコクリとうなずくと魔法陣の中に入る。

 

その様子を見ていた俺とフレン、リシテアとイエリッツァとアケロンは雰囲気を変えて、真面目モードに入った。

 

 

 

「始めるぞ!」

 

「「「!」」」

 

 

 

崩壊したシャンバラの一角で、月に照らされながら紋章食いの部屋と同じように怪しく魔法が飛び交う。 翼を羽ばたかずとも宙に浮かぶマンディを見て本格的に魔法が作動していることがわかる。 普通では無い肌触りにマンデイは心配するような表情をしているが「大丈夫だ!」と何度も声を掛けてエクスカリバーを用意する。

 

リザイア紋章が浮き出た。

 

 

 

「フレン!」

 

「ユーク!」

 

 

 

 

二人で編み出し集大成。

 

 

呪いをたち切るように振り下ろす。

 

 

エクスカリバーが獣の紋章を斬り裂いた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人の少女が引き起こした戦争。

 

 

大地を血の色に染めた乱世フォドラの歴史。

 

 

しかしその悪夢も終わりを告げた。

 

 

帝都から救われた大司教レアは憤る。

 

 

王国の王子の声は届かない。

 

 

先生だった者の静止も意味を成さない。

 

 

国民も平民も庶民も民草も裁きを求める。

 

 

到底許されることない侵略に怒りは鎮まらない。

 

 

死を……望まれる。

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

 

覇王になれなかったフレスベルク少女は待つ。

 

 

 

 

自分の贖罪が斬首として裁かれる時を。

 

 

 

 

自分の理想とした未来が訪れる時を。

 

 

 

 

自分の覚悟が無意味じゃなかった時を。

 

 

 

 

自分の覇道が無価値じゃなかった時を。

 

 

 

 

自分の生まれと紋章が不幸じゃ無い時を。

 

 

 

 

「……………っ」

 

 

 

 

願うだけなら…

 

 

そこに覇王も少女も関係無いと信じて。

 

 

終わりの時を待つ。

 

 

 

 

コンコン

 

ガチャ

 

 

 

 

「最後のお食事を持ってきました…」

 

 

「…」

 

 

 

顔が見えないほどのぶかぶかのローブを被る子供が軟禁された部屋に入って来た。 レスキューやワープの魔法を遮断してしまうこのそびえ立つ塔の上まで長い螺旋階段を登ってきたのだろう。 食べ物が入っているだろう布に覆われたバスケットだが少しだけ大きい。 しかし子供の手でこの場所まで持ってここまでくるのは苦労したはず。

 

しかし…

 

 

 

「いらないわ」

 

 

「……」

 

 

「明日を生きないのなら、明日は食べない。 明日には落とされるこの首に、与えられるモノは無い…」

 

 

「……」

 

 

 

せっかく持ってきてくれた最後の食事だが手をつけない。

 

エーデルガルトは子供の頑張りを無に返してしまう。

 

 

 

「…」

 

 

 

……少し言葉を間違えただろうか。

 

しかし自分の事で精一杯なエーデルガルトにそれは酷だった。 自分以外の事を気にしていられるほど、もう強くない。 疲弊した自分を隠す余裕も無くなっていたのだから。

 

 

 

「………では、明日が生きれなくても、ひとつだけ叶うとしたら、何を飲み込んでくれますか?」

 

 

「何を……言って」

 

 

 

子供は悲しむ素振りもせず淡々と尋ねる。

 

 

 

「わたしに出来ることがあるかも知れない。 もしそれが叶わないことだと知っても、言うだけならどのような人にも権利はある。 あなたは…何を願う?」

 

 

「私は……」

 

 

 

 

命が欲しいとは思わない。

 

 

助かりたいとは思わない。

 

 

救われたいとは思わない。

 

 

 

「私…は……」

 

 

 

今は自分だけを考えて、愚かにも叶わないと願いを思い、その一瞬だけを望むなら、そんな自分にも許されるなら…

 

願うのは…

 

 

 

「……い……た、い」

 

 

「?」

 

 

「会い…たい……」

 

 

「それは誰に?」

 

 

 

子供は再度、問いかける。

 

エーデルガルトは目の前にいる人が自分よりも幼い子供であることを忘れて、枯らしながら叫ぶ。

 

 

 

「妹に……会いたい…! 生きてる、妹に会いたいわ……ッ! わたしは……それが、出来たら…」

 

 

「妹……それは大事な妹?」

 

 

「ええ、大事な……大事な家族……! でも、わたしは、明日を飲み込めないなら、せめて、妹にだけは、会いたい…!……会い…たい…わ…」

 

 

 

考えれば、考えるほど。

 

思えば、思うほど。

 

涙と共に止まらない願い。

 

 

 

「そう、なら会わせてあげる」

 

 

「…………ぇ」

 

 

 

自分の事で精一杯で、どうしようもなくなった自分だが、その言葉を聞き流すことはなかった。

 

その子供はエーデルガルトの言葉を聞き届ける柔らかく笑み、頭に被さる大きなローブを拭う。

 

 

 

「!」

 

 

 

そこには自分と瓜二つな女の子がいた。

 

まるで鏡でも見ているようだ。

 

同じ色の髪の毛で、同じような顔立ち。

 

もしかして夢でも見ているのか?

 

 

ああ…

 

そうか…

 

そうに違いない。

 

自分には兄弟姉妹と会う資格が無い。

 

 

 

そうとも…

 

わたしが顔を向けれるのは醜い自分の姿だけ。

 

フォドラをイタズラに苦しめた覇王の末路。

 

今こうしてみすぼらしいぼろ布を纏うだけの独りよがりな少女。

 

 

そう、わたしは願うことすらもゆるされない。

 

ああ…

 

フォドラの暁風はこんなにも残酷だった…

 

 

 

「……え? 無反応? ええ…? 嘘でしょ…」

 

 

「!?」

 

 

 

聞いたことある声だ。

 

自分とは違って元気な女の子の声。

 

エーデルガルトは涙を拭う。

 

歪んだ視界が晴れるとそこにいたのは…

 

 

 

「ま、まさか……いや、そんな!」

 

 

「そのまさかだよ"お姉ちゃん"、わたしだよ」

 

 

「ぁぁ……ぁぁ! そ、そんな…!」

 

 

「会いたかったよ。 人として言葉を交わせるわたしになって、お姉ちゃんと会いたかったよ」

 

 

「!、!!、!!!」

 

 

「本当に、会いたかったよ…」

 

 

「ぁ…ぁぁ……ぁぁぁっ」

 

 

 

エーデルガルトに正体を表したのはエーデルガルトの妹、またはフレスベルクの末っ子の少女だった。 少女はエーデルガルトを抱きしめて再開を喜ぶ。 エーデルガルトはそこに血の繋がった姉妹がいる現実を肌の温もりで理解すると、氷のように偽っていたその表情は熱で溶かされる。 涙も抱きしめる力も収まらず、軟禁された塔の上でエーデルガルトは泣き叫び、膝から崩れ落ちる。 少女はそれを受け止め続けた。

 

 

 

「たくさんの人はお姉ちゃんを非難して、覇王の死を望む世間になっている。 でも、わたしはお姉ちゃんがフレスベルクを想って戦ったことを知ってる。 だからわたしはその家族が戦いで意味を示そうとした事が嬉しい。 本当に……よくがんばったね」

 

 

「うあああ"あ"あん! わたしは! わたしはぁぁぁあ!!」

 

 

 

人は肯定されたい生き物だ。

 

それを血の繋がった愛する家族から認められた時、人は感情の押さえ方を知らない。 覇王だったフレスベルクの少女も人だから押さえ方を知らない。 吐き出される感情が収まるまでしばらく涙を枯らそうとする。

 

そこに戦乱を招いた覇王はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして落ち着く。

 

涙は流し終えた。

 

少しだけ、恥ずかしさが巡るがエーデルガルトの妹は寂しそうな顔をする。

 

 

 

「お姉ちゃん、わたしはお姉ちゃんが死ぬのは嫌だ」

 

 

「……世間は覇王の死を望むわ。 ならソレを受け止めないとならない」

 

 

「何言ってるの? 覇王は死んだでしょう」

 

 

「死んだ?? あなたこそ何を言って…」

 

 

「お姉ちゃんの中にいた覇王は死んだ。 そしてわたしの目の前にいるのは、エーデルガルトって女の子。 その子は思ったより泣き虫で、それでいて負けず嫌いで、でも案外ポンコツで、人の似顔絵を書くのが好きで、恋愛小説を読むのが趣味で、姉妹の中で特に乙女で、平凡で幸せな家庭に憧れる女性で、フレスベルクの姉妹の中で皆から一番可愛い女の子と言われて嬉しそうに照れていたすご〜くかわいいわたしのお姉ちゃんだよ?」

 

 

「ままま、待ちなさい! それは小さい頃の話でしょう!?」

 

 

「お姉ちゃんは今もかわいいよ? わんわん泣いてたお姉ちゃんとても可愛かったよ?」

 

 

「ッ〜!!」

 

 

 

処刑されるよりも、処刑されてる気分。

 

そして姉のその反応に妹はクスクスと笑う。 それ。確信犯だと理解したエーデルガルトは怒ってるわよ!と穏やかではない表情を見せて、妹は「ごめんごめん」と笑いながら謝る。 そして随分と懐かしい気分にエーデルガルトもどこか呆れたように笑う。 妹も笑う。 それから妹は姉の反応に満足したのから一頻り笑い終えるとバスケットに手を突っ込んで何かを取り出す。

 

エーデルガルトも首を傾げなら覗く。

 

 

 

「綺麗な宝石ね。 どこか命が込められているような…」

 

 

「!! …すごいね、まさにその通りだよお姉ちゃん」

 

 

「え…? それはどう言うことかしら?」

 

 

「それは……ここを出るときに見せるよ」

 

 

「え? 出…る?? な、何を言って…」

 

 

「わたしはお姉ちゃんに殺されて欲しくない。 だからお姉ちゃんをこの塔から連れ出す。 血の繋がったただ一人の姉妹。 世間の指差しで殺させてあげない」

 

 

「っ………た、例え、ここを出る事が可能だとしても、わ、わたしは……」

 

 

「【普通の少女】として生きよう」

 

 

「!」

 

 

「わたしもやっと【普通の少女】になれた。 けどお姉ちゃんはまだ少しだけ覇王なのかもしれない。 でもここを出れば普通の少女になれる。 どんなに罪に汚れても、お姉ちゃんは普通の少女になれる。 だから私と行こう。 ここを出よう。 フォドラを出よう。 息苦しい世界を出よう。 残酷から出よう。 お姉ちゃんにはそれが許される。 周りが許さなくてもわたしが許すから!!」

 

 

「!!!」

 

 

 

少女は窓を開ける。

 

飛び降りるには高すぎる。

 

ベットの布を繋いでも地上から程遠い場所だ。

 

それこそ空を飛ばなければ不可能なくらいに。

 

 

 

「さぁ! 行こう!エーデルガルト! わたしと一緒に!」

 

 

「ッ…!」

 

 

 

明日を飲み込めないと思っていた。

 

でも血の繋がった妹が命を飲み込ませてくれた。

 

だから…

 

命があるその手を取ることが許されるなら…

 

手を伸ばそう。

 

 

 

「しっかり背首にしがみ付いてね。 大丈夫、絶対に大丈夫だから」

 

 

「う、うん」

 

 

 

ここを出る方法を聞いては居ない。 しかし彼女の『絶対』はまるで覇王だった自分と同じような眼差し。 フレスベルクとして血の繋がった証でもあり、それは期待を込めてすがりたい程に力強い。

 

 

 

「せーのっ!」

 

 

「ほ、本当に!? お、落ちて!? い、いやぁぁあ!!」

 

 

 

少女は背首にしがみ付くエーデルガルトの腕を固定しながら塔を飛び降りる。 そんなエーデルガルトは落下の恐怖から背くために目をギュッと閉ざし、重力にしたがって勢いよく下へ。

 

 

 

「(いやいやいや!? これは死ぬわよ!?)」

 

 

 

死の恐怖なんて捨てたはずだが、それは戦いに置いての心構えであり、このようなことに恐怖を克服など出来るはずもない。 ごく一般の心を持つフレスベルクの少女を死の恐怖に陥れるには充分だった。

 

 

しかし、不意に重力に従う恐怖が和らぐ。

 

 

エーデルガルトは落ちてるような違和感が無くなったことに不信感を抱き、ゆっくり、ゆっくりと目を開ける。

 

 

 

「!?」

 

 

 

横を見れば白い翼。

 

反対側にも白い翼がバサバサと羽ばたいている。

 

また背首にしがみ付いているにしては、腕まわりが大きく広がり、それは子供の首の大きさでは無い。 ではこれは何か? まるで馬にしがみ付いているようなズッシリとした肉質。 人間ではない肌触りと温度。 そして柔らかく頬を撫でる優しい風。

 

エーデルガルトは空を飛んでいた事に気づく。

 

それはまさしく。

 

 

 

「ひひーーん!!」

 

 

「!!」

 

 

 

天を駆ける馬。

 

 

一頭の天馬がエーデルガルトを乗せていた。

 

 

 

「まさか!? あなたは……"マンディ"?」

 

 

「ひひーん!ひひーん!」

 

 

 

活発な雰囲気が伝わる天馬の応答にエーデルガルトは既視感を得る。

 

だが、それと同時に心の奥にスッと入り込む。

 

自由な空の上でフォドラの大地を見下ろし、自分はこんなにもちっぽけだったと分かった事が、なぜか嬉しかった。

 

 

 

「………フォドラって、なんのかしらね…」

 

 

 

寒い夜空の筈だが、優しい温もりが頬を撫でる天馬の風に、エーデルガルトは自然と涙を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たな」

 

「!」

 

 

 

ただ厳重なだけの牢から誰か一人を連れ出すことはそう苦でもない。

 

俺は俺の仕事……いや、"彼女"のお願いを聞き届けると予定していた待ち合わせ場所で先に待っていた。

 

 

 

「ひひーん!」

 

「ぇ、うそ!!?」

 

「主人!?」

 

 

 

マンディの声とその背に乗っているエーデルガルトの驚き顔、そしてセイロス教団から危険視されて元覇王と同じように数時間前まで牢に繋がれていたヒューベルトはココ、ルミールの外れで再会を果たす。

 

するとエーデルガルトがマンディの背から降りた瞬間マンディは人の形に戻り、手元に宝石のように綺麗な収まっていた。 ヒューベルトとエーデルガルトはその現象に驚き、二人に向かってマンディだった女の子はニコニコと笑う。

 

 

 

「しっかり使えてるようだなその竜石」

 

「うん、とても馴染むよ!」

 

 

「ユーク、リッド?」

 

 

「エーデルガルトも無事に抜け出したようだな。 そんじゃ、追手が気付く前にさっさと逃げたほうがいい。 セテスあたりがすごい勢いで追ってくるだろう」

 

 

「何故……わたしと、ヒューベルトを?? 何故?」

 

 

「マンディ……じゃなくて、お前の妹が『助けたい』って言ってたからな。 もちろん最初は俺も首を傾げたけど『女の子を3年間好きにこき使ったんだからそれ相応に返して』と言われたから…そりゃねぇ? そんなわけで妹さんはエーデルガルトを、俺はヒューベルトを連れ出しながら三人分の旅支度を済ませた訳だ。 ほれ、私服と売り物になる赤い玉だ。 持っていけ」

 

 

「!」

 

 

 

ヒューベルトに雑に投げ渡す。

 

追手はまだ来ていない。

 

しかしバレるのも時間の問題だろう。

 

 

 

「けど、わたしは…あなたの……」

 

 

「ああ、到底許されないな。 その首を斬り落とすに足りないくらいだ。 でも……お前に生きて欲しいと望む人がいる。 なら生きろ、エーデルガルト」

 

 

「!」

 

 

「覇王を名乗っていたエーデルガルトは許せなかったけど、今のお前は妹に縋って生きていこうとするくらいに弱り果てたただのフレスベルクの少女、そこらの娘と変わらない。 貴族でも王でも無くなる平民なら、俺は手を下そうとは思わない。 だからここから先を苦しめ。 残酷に苦しんで行け。 そのかわり道連れは作ってやる。 そしてそのままどこかで雨水で啜りながら朽ち果てろ。 エーデルガルトの物語はここで終わりで、フレスベルクの少女はここから始まる」

 

 

「……それでもまた、覇王を名乗るかも知れないわよ」

 

 

「センスが無いから無理だな。 ええと、なんだっけ? 確か、シュヴァルツァアドラーヴェーア…? …………ぷっ、くくっ……」

 

 

「!?」

 

 

「が、頑張りすぎだろ……まぁ、くくっ………頑張れ…」

 

 

「ッッ〜!! ……っ、いま初めて心の底からあなたが嫌いになれたわ…!」

 

 

「はは、それはこっちのセリフだ歪んだ鏡(エーデルガルト)。 そのガラスを張り替えてから覇王を名乗れ。 身嗜みを整えれない鏡で自分を名乗れるものか。 それまで自分の写し絵となるガラスでも磨いてろ」

 

 

「ならわたしもお姉ちゃんのガラス磨き手伝うよ」

 

「……ここは自分も乗るべきか迷う限りですな。 しかし、複雑ながらも拾われた命です。 主人が許すならこの私もついて行きます」

 

「二人とも……」

 

 

 

エーデルガルトがここに連れてこられるまでヒューベルトに尋ねた。覇王で無くなったエーデルガルトの事を、心に偽り無く支えれるのか?…と、尋ねたら殺意を交えて「その問いはあまりにも愚かでしょう」と言い放ち、そして「エーデルガルト様だからこそです」と答えになっているようで答えになってない言葉を貰ったが、ヒューベルトにとって大事な信条の現れで大きな答えだった。 俺は「そうかい、でもここから先は覇道よりも辛いぞ?」と被せたが「関係無いですな」と言い切った。

 

どうやら彼を道連れに選んで正解だったらしい。

 

 

そしてマンディだったエーデルガルトの妹は姉の死を唯一望まず、助ける事を選んだ。 もちろん世間的に許されない事をして、裁かれて当然である事は理解しているようだが「これだからセイロス教は!」と憤りを見せていた。 彼女はセイロス教をあまり良く思ってないらしい。 エーデルガルトと通ずる何かがあるらしいがそこから先は俺も知らない話。 でもそれは抜きにしてエーデルガルトを「普通の少女してあげたい!」と言って……体で払わせた云々で俺を脅して救出を手伝わせた。

 

エーデルガルトと同じようにフレスベルク家の姉妹は有言実行の塊らしい。 天馬のマンディとして俺の要望に幾度なく答えてきたくらいだから、それ相応なのだろう。 女性って強い。

 

 

 

「さぁ、そろそろ行くんだ。 フォドラの暁風はこっちの方向だ。 これからも残酷に苦しんで生きろ、エーデルガルト」

 

 

「っ……さよなら、ユークリッド・ラライヤ。 そして、妹をありがとう…!!」

 

 

「…ああ」

 

 

 

二人を手招きするエーデルガルトの妹。 ポケットから竜石を取り出し、その宝石に込められた力を使おうとした……が、それ一度止めるとこちらに駆け寄る。

 

 

「?」

 

 

「っ、ユークリッド!」

 

 

 

そして手を広げて、大きく跳び、こちらを抱きしめる。

 

 

 

「ありがとう! ありがとう!! ユークリッド!! わたしを助けてくれてありがとう! わたしの仇を共に取ってくてありがとう! わたしを人間に戻してくれてありがとう! わたしを大事にしてくれてありがとう!! 沢山をくれてありがとう!! ありがとう! わたしはあなたを忘れない、絶対に…忘れないから!!」

 

 

「!!………ああ、こちらこそありがとう。 本当にここまで長く助けられた。 君が優しく風を纏うからフォドラの暁風に俺は苦しまなかった。 俺も忘れない。 君との……5年間を、旅路を、共にした時間を忘れない」

 

 

「っ……寂しくなるね………寂しいな…」

 

 

「でもこれからは君がお姉ちゃんの寂しさを和らげる必要がある。 だから息災でな、フレスベルクの__」

 

 

「ッ、待って!」

 

 

「?」

 

 

「やはり"あの名前"でわたしを送って。 わたしはユークリッド・ラライヤの天馬だったから、そっちの方がいいよ」

 

 

「……あれは、仮名だぞ?」

 

 

「ううん。 違う、仮では無い。 想いが沢山詰まった大事な名前だよ」

 

 

「……そうか」

 

 

「うん! …………ねぇ、今日は何曜日かな?」

 

 

 

彼女は、聞く。

 

あの日の出会いを。

 

 

 

 

 

 

俺は、言う。

 

この日の別れを。

 

 

 

 

「今日は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォドラの暁風が強く吹き荒れる。

 

 

 

しかし冷たい夜風を遮るように翼が空を舞う。

 

 

 

月に向かって羽ばたく天馬は美しく、もうあの背に乗れないことを考えると寂しさを感じる。

 

 

 

でも、その背には次の残酷を払おうとした者達を乗せ、天馬は高らかにフォドラを飛んだ。

 

 

 

俺はその翼を無くし、これからフォドラの大地を踏み締めて歩き続けるのだろう。

 

 

 

その意味に覚悟を決めて空を眺めていると何かが落ちてくる。

 

 

 

 

「これは…」

 

 

 

目の前にひらひらと落ちる天馬の羽を掴み取る。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

今日は特別な曜日…

 

 

別れの日でもあり、出会った日でもある。

 

 

 

 

 

「ありがとうな……」

 

 

 

 

その羽を懐にしまい…

 

フォドラの暁風に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__ねぇ……今日は何曜日??

 

 

 

 

 

__今日は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月曜日(マンディ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回

 

飛んで火に入るインデッハの火葬式

 

最終話

 

 






エーデルガルトとマンディ。
生き残ったフレスベルクの姉妹の旅立った話。
特別な月曜日の話でした。
ヒューベルトは居ても居なくてもだけど生きていたので添えることにしました。



ちなみにエーデルガルトの妹の真名は決めてませんので名前を登場させることはありませんでした。
結局は『マンディ』で収まりましたので無問題です。




それでは、ご都合主義で進みきった最終話にて…

ではまた
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