3話立て続けの更新です。
こちらは最終話の《 前編 》です。
ではどうぞ
さて、あれからの事を話そう。
やはり記憶に新しいのはエーデルガルトとマンディの事だ。 まずエーデルガルトが逃亡した話は瞬く間に広がった。 レアさんから大重罪人として捜索が掛けられる。 そしてその依頼はシャミア姐さんを通して俺の方にも来た。 あちらはその話を受けると思っていたらしいが俺はそれを断り大層驚かれた。 しかしシャミア姐さんは俺のこれからの歩みを理解してたのか「そうか、邪魔したな」と直ぐに引き下がった。 それ以来セイロス教の関係者からの接触は無い。 どうやらシャミア姐さんが気を利かせてくれたらしい。 俺がエーデルガルトの逃亡の件についてひと噛みしてる事をシャミア姐さんが知っているのかは分からないが、これ以上巻き込まないように話を付けてくれたからセイロス教の関係者が俺のところにこないのだろう。 シャミア姐さんには感謝だ。
そして、そのエーデルガルトを見かけた話は全くと言って良いほど無い……と、言うのはフォドラの話であって、俺はエーデルガルトやマンディにヒューベルトが飛んで向かった場所を知っていた。
ルミール村から見送った方角的に何となく察していたが、実はエーデルガルトの存在に関しては"とある人物"から口頭で伝えられていた。
それは…
「フォドラの先、天馬に乗る人、姿ありました。 その愛おしさ、まとう風を羽ばたく、海で見ました! 見たです!」
「君の彼女が未だにカタコトなのわざとなの?」
「あ、あはは…」
アッシュとペトラの二人だった。
この二人、戦争中はブリギットに居たらしく、ブリギットに対しての帝国の協力要請を断り続け、敵勢と見なした帝国軍はブリギットに攻撃を仕掛けていた。 帝国の散発的な攻撃から二人はブリギットを守り、戦争の終わりまで戦っていたらしい。 ペトラはともかくフォドラでアッシュを見かけなかったのはペトラの"騎士"として彼女の側にいたからだ。
そして戦争が落ち着いたのを聞き、アッシュはペトラを連れてディミトリ王子に生存報告と共に今回の件を知らせようとフォドラに向かった道中、天馬に乗ったエーデルガルトらしき人をペトラの視力が捉えたらしい。 だが朝日に眩んでしまい、その人物はハッキリとはしてないとの事。 しかし天馬の進む方向がダグザであることを知って俺はそれが誰なのかを理解した。
まぁ、そんな感じにエーデルガルトはフォドラから姿を完全に消え去った。 アッシュもペトラもこの件は黙秘すると言ってたので、真実を知らないセイロス教団は永遠とフォドラで居ないはずのエーデルガルトを探し続けるだろう。 またエーデルガルトに対して増悪する者達はエーデルガルトの歴史に脚色も加えたりとし、彼女の存在を絶対悪とし、セイロス教の信仰と教えが正しいこと世間に再度広め、疲弊したフォドラを救おうとする。
結果としてエーデルガルドはフォドラに厄災を齎した覇王として歴史に語られ続けられたりと、これが戦争に負けた人間の末路であることを嫌ほど感じた。 勝てば正義とはよく言ったものだが正直鬱陶しい限り。
レアさんどんだけ怒ってんだよ。
さて、元覇王の話はもう充分だとして、その側近に至った者達を少しずつ話そう。
例えば、貴族の中の貴族であるフェルディナントや主君に対して忠誠心の高いラディスラヴァの二人に触れよう。 二人は戦争で命を取られる事は無かったがミルディン大橋で討たれてしまい捕虜となる。 フェルディナントの身柄はローレンツに引き渡され、戦争が終わるとローレンツの推薦にてフェルディナントはミルディン大橋を繋ぎ合う領縁として政変のために手を取り合う。 エーギル領の復興共にフェルディナント自身も前向きにローレンツを手助け、貴族の責務を果たそうと荒れた領地の復興を目指す。
しかしミルディン大橋の防衛のために手を組んでいたラディスラヴァは騎士として生きる意味を失い、更に平民上がりだった事もあって、ミルディン大橋の敗戦が大きく彼女の立場を動かしてしまい、とうとう騎士そのもの地位を無くした彼女は放浪の身になる。 主君を失い、生きる意味も失った彼女は自害してこの世を去ることも考えるなど、凛々しかったあの頃よりも廃れてしまう。 だがフェルディナントが「戦に負けたとしても生きている以上は民を守る意思は変わらない!」と言い、ラディスラヴァを勧誘すると「何故あなたはまだ生きようと思えるのですか!?」と驚いていた。
フェルディナントは戦時中に自分の在り方に迷いがあった半端者だが、やはり貴族で生まれた以上はどのような立場だろうがそこにいる民を守ることを意志に抱く。 彼は荒れた大地を眺めながら「私はどんな罵倒を受けようとも…!世間が冷たく指を誘うとも…! 貴族で生まれた以上は責務を果たす! ラディスラヴァ! 君にも手伝って頂きたい!」とエーデルガルトの手によって荒れたフォドラを修復しようと身を削るつもりでいた。 その振る舞いは汚れても騎士で貴族だったからラディスラヴァの命に火が灯され、竜騎士だった時の眼差しを取り戻したらしい。 そうして二人はまた共に戦い始めた、死ぬまで民のためにと…
そしてその様子に胸を撫で下ろすのは同盟諸国の貴族…いや、今では大貴族と言っても過言ではないローレンツ・ヘルマン・グロスタールだ。
戦時中はシャンバラ攻略の件、ミルディン大橋の件、そして連合軍には通行許可を約束し、アケロンと共に補給線の確保に勤しみ、メリセウス要塞攻略への支援と言ったこれまでにない程協力体制には大変お世話になりました。 そんな彼は一度武器を置くとフォドラの復興のために尽くし、フェルディナントと平和に紅茶を交える時代が訪れた事でお茶だけにホッとしているらしい。 それといつのまにかクロードが同盟諸国から抜けて姿を眩ませていたが、ローレンツはクロードがいずれ去る事を知っていたらしく、ローレンツが自ら同盟諸国の首領として平和の世界へと動き出してた。 そしてそこには闇うごに捕われていたエドマンド家のマリアンヌがいた。 彼女はすっかり回復し、ローレンツの政変の手伝いを行い、婚姻を発表したり、王国のフラルダリウスと並ぶ大貴族になったりと、ローレンツの人生はもの凄い勢いで進んでいる。 恐らくフォドラに最大の影響力をもたらせる人物になるだろう。 真面目にすごすぎる。
あ、そうそう。
"婚姻"と言えばスゴイことが起きた。
ベレスとディミトリについての話に飛ぶのだが二人は結婚することになった。
おめでとう。
ただその前に面倒なことが起きそうになった。 まず世間は終戦後にベレスがガルグ=マク大修道院の大司教の役目を背負うと思われていたが当の本人は「やりたくない」との事だった。 これには「…は?」って感じに帝都から救われて回復したレアさんのあんぐり顔は忘れない。 しかしそれ以上に忘れられなかった事が次に起きる。
「そう……あなたも'失敗"だったのですね」
「「「!!!?」」」
まるでベレスをレアさんが造り上げたようなセリフだった。 これまでに無いほど冷徹な眼差し、そして失望したように吐き出された声は背筋を凍りつかせ、そこに居合わせていたディミトリからは『失敗』の単語に怒りが感じられる。 ただ、俺はレアさんのその話に関しては何となく理解していた。 レアさんはセスリーンと同じ大昔の生き残りで
ネメシスの件でソティスは「あの解放王に殺されたのじゃ…」と記憶を辿り、自分はたしかにフォドラで肉体を得て生きていたことを語る。 そしてソティスの血とか骨とか何かをベレスに放り込んで炎の紋章を完成させながら彼女と言うものを形造った。 時を得てベレスがガルグ=マクにやって来ると先生としての役目を与えて士官学校に縛り付け、時が来たらソティスを降臨させようと計画を立てる……が、当の本人はソティスが居ようが居なかろうがそんなのどうでも良く、一人の女性としてディミトリを近くで支えたい
「じゃあレアさんが引き続き大司教をやると言うことで」
「っ、その口を閉じなさいユークリッド!」
「断る。 てか第一ベレスは自分の未来を自分で決めた。 大司教だろうがセイロスだろうが人の未来を勝手に決めるのは烏滸がましいだろ」
『そうじゃな、まったくじゃ』
「「「!!!」」」
「お、お母様!!?」
呆れたような声でソティスがガルグ=マク大修道院の客間に集められた者たちを精神空間に引き込む。 玉座に腰掛けているソティスを見てレアさんとセテスは大層驚かれた。 それからレアさんが「お母様! お母様!!」と喜んでいたがソティスが「そこに直れい!!」と言われたレアさんはピシッとすくみ上がり、そして説教が始まる。
母君に会いたいがために人の子を弄り回したことは許されない所業だと罵り、怒られたレアさんはものすごい震えていた。 ソティスのは幼なげで可愛らしい声だったが「なんじゃ!? 儂に反論を申すと言うのかぁお主は!?」から「い、いえ! お母様!」とレアさんは怒ったソティスの事がガチで怖かったらしい。 まさにソティスママでした。
さて、さらりとレアさんがかなり外道だった事を知ったけどフォドラの民を守る想いは本物だったし、化けの皮剥がされたと思ったらソティスママが怖くてガクブルな子供でしたとか、なんか色々と追いつかないし、俺としてはこれ以上面倒な事はしたくないので、どうしようとか考えずに俺は話を強引に流す。
色々と問題は残っているがそれを語るのも掘り起こすのも大変面倒なので「過ぎたことは仕方ない」と言うことでソティスは説教から落ち着く。 それからこの先の未来とガルグ=マクとフォドラの事を語る。 ソティス云々はありしもベレスはベレスで人を導く力を持ち、力を無くしたフォドラには彼女の力は必要だと熱弁する。 そこに居合わせていたディミトリも「ベレスが大司教猊下となったら王国と共にフォドラに住う民達が安らぐ未来が近づくだろう」と補足を加える。 それを聞いたベレスは「私がそうしたらディミトリは助かるの?」と言い「もちろんだ、復興のために強く支えられる」と頷くと…
「じゃあなる」
「主体性の無さすぎだろベレス」
「でも……忙しいとディミトリと離れている時間が多くなるから……」
「大丈夫、そこはレアさんが何とかする」
「ユーク……それ本当?」
「もちろんだ。 ですよね、レアさん?」
「ふぇ?…………あ、こ、こほん。 も、もちろんですよ」
「だってよ」
「じゃあ大司教となってディミトリと肩を並べるよ。 本当は少し下がり気味に私はディミトリを支えたかったけど、でもフォドラを救いたい気持ちは同じだから、頑張る」
「良かったですね、レアさん」
「……そ、そうですね、ええ」
「大好きだよ、ディミトリ。 だから一緒に頑張ろうね」
「あ、ああ! もちろんだとも!」
「(段々慣れてきたなこの王子)」
「(甘っえ!! 甘っぺいですわ!!)」
「何故だ…胃が唐突に痛くなってきた…」
セテスに胃薬は平和の象徴だとして、ディミトリにデレッデレなので他の事に関しては案外どうでも良くなって来てる状態のベレスだが、それはただ単にディミトリとの時間がなくなる事が嫌な"寂しがり屋"なだけであって、フォドラの復興を考えてない訳じゃないらしい。 ただディミトリの側で頑張りたかっただけ。 だから大司教の話は乗り気じゃなかったけど、ディミトリとソティスの願いよってベレスは了承する。 レアさんやセテスもしっかりとベレスを助けることを約束し、こうして何かとゆるゆるな感じでフォドラの再興がベレスから始まった。
大丈夫だろうかこのフォドラ…?
さて、ベレスが大司教になる話もだが、1番の目玉は……って、これはもう分かっていた事だろうが、ベレスとディミトリの婚姻が発表された事。 それもう大変おめでたい話であり、これを聞いたロドリグさんは「ランベール!お前の息子は…!!」とめちゃくちゃ喜んでいた。
あと近いうちに結婚式が開かれるらしいく、ベレスから「ユークは絶対に参加して欲しい」と言われたので俺は楽しみに待つことにした。 民達もその婚姻を聞き王国とガルグ=マクに希望が満ち溢れていた。 これが二人の話。
そうそうガルグ=マクの話に集中してたが、その地域で働くセイロス教団に所属する者達の話も軽く話しておこう。
例えばツィリルはこれからもガルグ=マク大修道院で働くことを決めたらしい。 だが世界を見て回りたいと言っていたので、愛竜のアカネイアとそのうち旅を予定している。 世界の刺激を受けて、またそれをガルグ=マク大修道院で活かし、いつしかダスカー人やパルミラ人など人種に境目を作らない大修道院にしたいと言っていた。 この件はアロイスも賛同しており、アロイスもその時間がつくれるようにこれからも騎士として尽力するとの事だ。 平常運転だからこそ頼もしい大人である。
騎士ではないシャミア姐さんに関しては今後どうなるかわからないが、まだしばらくはガルグ=マクに居るらしい。 そのかわりカトリーヌやセテスと言った者は生涯の全てを賭けて大修道院を支えるらしい。 当然レアさんもそのうちの一人で大司教となったベレスを支え続ける。 だが時折レアさんが苦しそうに胸を押さえ、咳も酷くなっていると話を受けた。 帝国の監禁生活で弱ったのだろうか? 大丈夫…とは、言えないだろう。
あと、4年前まで士官学校で働いていたハンネマンとマヌエラに関してだが、二人は戦争から回避するために安全なところで思い思いに身を隠してたらしい。 そしてガルグ=マク大修道院が復興し、士官学校が再開されは目処が立つとベレスが二人を探し、再び教鞭を振るう役割を受けてほしい頼み込む。 それを聞いた二人はまた教師として働こうと考えると同じ日に二人は大修道院の門を潜ったらしい。
数年越しでも相変わらず足並み合うこの二人。
そしてその日から早々に二人は口喧嘩を起こしたりと、二人の事を昔から知る者達は戦争前を思い出し、賑わっていたあの日が戻って来たんだと喜んでいたらしい。 そんな感じに人々にも恵まれ、ガルグ=マクは平和へと進む。
あっ、一つ忘れてた。
戦争が終わっても"セスリーン"はいつも通り。
はい、報告は以上です。
おわり。
「雑じゃねぇかいい加減にしやがれですわ!」
「紅茶of散歩ッッ!! 説明不要ッッ!!」
「少しはやる事増えましたわ!!」
「礼拝で献金箱を歩いて集める係だろ?」
「あとガルグ=マク大修道院のガイドですわ!」
「ほれみろ結局平和の中を歩行するだけやん」
「ま! これは平和を踏みしめてますのよ!」
「それを言うなら『平和を噛み締める』だろ!」
「そうとも言いますわ」
「はぁ…魚を食べると頭は良くなるって歌があるくらいなのに、この人は好物の魚食べても変わらずだし…」
「魚の…紅茶?? ………なるほどですわ」
「一体何がなるほどなんですかねぇ?? あと紅茶と魚で思い出したけど、お世話係時代に開発した刺身の醤油を薄めて『紅茶ですわ!』って飲ませた件忘れてないからな?」
「あ、それ、お口直しにアップルティーを飲んで軽くクッキを齧ったら不思議と新しい甘さでしわたね」
「俺はうなぎパイ思い出して懐かしさと共に吐いたわ、ふざけんな」
しかし良い意味で変化しなかった彼女。
俺は背が伸びて体も大きくなり、顔立ちも幼なげが無くなって、声も大人に近づこうと少し音程が低くなり、それら何もかも時間が経った証。 故に年齢と共に成長した。 しかし彼女は戦争が起きる前も、戦争が起きた後も、戦争が終わった後も、いつまでも変化は無い。
昔のようにガルグ=マク大修道院でゆっくりと紅茶を飲めるようになるとフレンは5年前と変わらない姿で腰掛けて好きな紅茶を好きなように飲み、のんびりと平和を謳歌する。 いつまでも色褪せない彼女を見て俺は羨ましくも思い、でも嬉しくも思うくらいに。
ちなみにセスリーンの紋章は体から消えた。 戦いも終わり、約束を果たし、マンディの紋章の件も終えると、セスリーンの紋章は全ての役目を果たしたように体から消え去った。 消えたことに関してはセスリーンは何もしてないらしい。
「今の私は"フレン"ですわ」
「…」
「あなたは無事に成せた。 だから女神セスリーンの役目が終わっただけの話。 そんな訳なので"フレンである"私は何もしてませんわよ」
「…そうか。 知らないなら、仕方ないな」
「ええ」
フォドラの残酷に負けぬよう、苦楽を共にしてくれた女神は何処かに行ってしまったらしい。 フレンからその事を聞きながら彼女の『お暇を下さい』に応えるよう紅茶を交わす。 今日のアップルティーは空いた隙間を埋めるように味が濃ゆかったのは記憶に新しかった。 まぁそんな感じに、変わったようで変わらない彼女はこれからもガルグ=マクで紅茶を飲みながら平和を謳歌するだろう。
「そういえばあの人はどうなりましたの?」
「あの人?」
「ええ、頭がくるくるパーの人ですわ」
「外見と中身のどちらも言い当ててるのならそれはアケロンの事か? あと普通に悪口なんですがそれは」
「ま! でもわかりやすかったでしょ?」
「でも本当のくるくるパーはお前だけどな」
「は?」
「は?」
アケロンに関して語るなら小領主として復活したと言うべきだろう。 帝都への補給線として立ち回った功績によってローレンツが一部の領地をアケロンに献上する。 その領地はシャンバラがあった南側であり、川沿いのグロスタール領だ。 案外漁業に向いてそうな立地でそう悪くない筈だ。 しかし本命は崩壊したシャンバラの監視を行う役割であり、アケロンの贖罪…いや、彼が最初に掘り起こした問題だからこそ彼が最後までソレを全うすることをローレンツに話して領地をシャンバラの場所まで頂き、合法的に領土の拡大に成功する。 賢いだるぉぉお?
一応ローレンツの監視下にいるようなもので下手な事は出来ないが、それはむしろ後ろ盾となり、長いものに巻かれる事が存続に繋がることを一番と考えるアケロンにとってそこに不満は無く、むしろ本人は「これからは誰かに頼ることにするよん、君みたいにね」と一人では限界である事をシャンバラの件で理解したのかこの現状を苦笑いして受け止めていた。
そして領土の割譲を終えて終戦後の政変に勤しもうとした時、急にアケロンの初仕事が始まる。 それは崩壊したシャンバラの一部の魔法陣を使ったマンディの紋章を剥がす儀式であり、その立ち合いとしてアケロンも参加していたのだ。 正直、面子的な意味でやや場違いな感じの彼だが、儀式中にあの場所に居たのはそういうことであり、安全に事を終えたのかを見届けるためだったから。 また最初の仕事は領主自ら動く事で庶民達に示しとなると考えたアケロンは積極的だった。 その後は手に入れた領主から発展を築き上げ、彼は貴族としての責務を果たそうとする……前に、アケロンは自分も変わること決意して思い切った事を行なった。
それは毎日念入りに手入れしていたクルクルロールの髪を解いて下ろすと半分に切り落とし、さらに髭をも剃り落す。 そして彼は黄色の髪の毛を自分の領地の土に埋めてしまう。 髪を切った事ですっかり別人と化したアケロンにローレンツは驚いていたが…
「ここから【風見鶏】を始めるよ」
「!!……ふっ、ならこの僕は常に風向きを見ておくよ。 フォドラの暁風に左右されず、君の風見鶏が風に向かって雄々しく立ち続けれるかを…」
風見鶏としての覚悟は決めた彼がそこにいた。
そして更にだ。
俺以外にももう一人アケロンの覚悟を見守る者がいた。
それはゴネリル家のホルストである。
彼は終戦のタイミングでパルミラ戦線が落ち着いたので、シャンバラ南側の様子を見るためにそのままフォドラの喉元から下ると髪を切り落とそうとするアケロンの姿を見つけた。
夕焼けに照らされながらアケロンは真冬の水を被るとクルクルの髪の毛が真下に垂れ落ち、ナイフを手に持って髪の毛を斬り落とそうとする状況から、アケロンの眼を見るとホルストは腕を組みながら頷き、行先を見守る。
それから斬り落とした髪の毛を埋めるためにホルストは大型の槍を地面に突き刺して地面を掘り起こすと、ホルストは「俺もその覚悟を共にしよう」と言って人差し指の爪を引きちぎった。 友人がそうしてるのなら俺もやらないわけにはいかないので、俺はホルストの千切った爪を手のひらに刺して血を溢れさせるとアケロンの髪の毛を握りしめて赤く染める。 アケロンは手袋を外し、俺は長袖を捲り、ホルストは小手を外し、三人で手を汚しながら三つを地面を埋めた。
その後、ホルストは武力関係の問題が起きたら手を貸そうとアケロンに言葉を残して去る。
ホルストの背中から感じる頼もしさは士官学校の頃から変わらず、それとは逆でアケロンの背中から感じる風見鶏の飄々しさは士官学校の頃とは打って変わっていた。
「…」
彼らと同じ学生として歩めなかった俺はそれを眺めてるだけで羨ましく感じて………でも、共に同じ屋根の下で食事やお茶会など時間を
さて、同盟諸国の話はこれで終わりかな?
いや、同盟諸国の有力者"だった"者の話をするならば一人ともう一人を忘れてはならないだろう。
それは リシテア と イエリッツァ の二人。
リシテアは終戦後、何もかも整理して全てを片付けてしまい、貴族としての地位は完全に返上するとローレンツにコーデリア領を全て明け渡して彼女は平民になり、静かに過ごす…と、思いきや、父と母に別れを告げてコーデリア領から去った。 リシテアはとある目的のために支度を済ませるとそこにはイエリッツァの姿があり、リシテアを待っていた。
二人は闇に蠢く者の残党を全て消し去るためにフォドラを旅すると言っていた。 そう遠くない未来でまた闇に蠢く者が集結してフォドラに厄災を齎す事になるだろうとイエリッツァは見ていたようで残しておくのは危険だと考えていた。 またイエリッツァは自身の贖罪の一つとしてそのためだけに命を賭けようと一人で立ち向かおうとしていたがリシテアが「私も行きます」と言ってイエリッツァの手を掴む。
赤く黒く、血に塗れたその手で彼女を染める事を嫌がったイエリッツァは表情を歪め、悲しく、苦しく、辛そうに…
でも…
「
「リシテア…」
「もし、あなたのこの手が見えないほど血に汚れ、自分の肌が見えぬほどに黒く染まっている言うのなら、わたしにもそれを半分ください。 わたしも汚れ慣れてますから。 だから、あなたが繋いでくれたこの命は…あなたにお譲りします」
「……自分は死神なんだぞ?」
「それでも構いません。
「…ならば……この腕から離れずこの大鎌の内側にいろ。 その命は私がこの手に収めよう」
「はい、それで構いません。 さぁ、行きましょう」
そして…
二人はフォドラの闇深いところに消えた。
それから二人の話は聞かなくなった。
今もどこかで闇に蠢く者と戦っているのだろうか?
その話すら届かない…
フォドラの暁風は残酷だから知らせない。
でも一つわかるとするならば…
フォドラには 少女 を守る 騎士 が存在する。
それだけの事だろう。
そして俺も、そうする時がきた。
「…」
忌々しい記憶と傷跡。
その領域に足を踏み入れ、屋敷に乗り込む。
コンコンとノックをして、扉を開けた。
「ベルナデッタ、迎えにきた」
「はい、待ってました」
「悪いな、4年近くも待たせて。 キャンセル待ちが多くて俺も困ってた」
「でも全部立ち会ったのですよね? なら、仕方ないと思います。 私はそれでも待つと決めましたから」
「ああ、そうだったな。 じゃあ、案内するよ」
「はい、私だけのVIPの席に…ね?」
「もちろんだ。 けど一生終わる事ない長い長い演劇だぞ? 覚悟は…出来てるね?」
「もちろんです。 そのかわり、飽きなく味付けられたポテチと共にわたしに彩を下さい、ユークリッド」
「もちろんだ、君に約束を果たし続けるよベルナデッタ」
暗い部屋から彼女を連れ出し、彼女の手を引いてヴァーリ領を出る。
皆がそれぞれの舞台で始めたように、俺も舞台に彼女を招いて始めよう。
フォドラの暁風と共に…
俺とベルナデッタは"やっと"始まるのだから。
それから、5年が経った…
《後編につづく》