ポテチが恋しく感じたこの頃、あの騒動から1ヶ月が経過している。 感覚的に一週間程度と思われたが、生きる事に懸命故あまりそこまで意識はできなかった。 時の流れはこのフォドラの大地でも早く感じれる。
そんな俺はあの街から外れ、ミルディン大橋を越えて、今は"同盟領"を彷徨いながら旅団を探しているが、見つける事は出来なかった。 そして、同盟領の近隣諸国にある街だから帝国からこんな話が届いた。
それは演劇団が解散した事だ。
そして帝国領内ではまず団長を筆頭に、父と母や仲間達が犯罪者扱いされていた。 これはおそらく俺がベルナデッタの手を引いて旅団から逃げた時、先に進んでいた団長達が荒事を招いたんだろう。 詳しくどうなったかは知らないが、待ち構えていた正規軍と一戦交えたとかそんな感じだろうか?
恐らく俺と同じように旅団に向かって「抵抗すれば殺す」とか「反抗すれば犯罪者だ」とか、ヴァーリ領の兵が脅しをかけたりなど大凡ラノベに良くあるような展開が起きたんだろう。 そんでもって噂で聞く限りだとヴァーリ伯に刃向かった罪は大きいとか何とかそんな話になっていた。
まぁ……こう言った手はよくあることだ。
あちらにとって都合が良い話で進めて、ヴァーリ伯爵によって憎い俺たちを犯罪者に貶めたんだ。 このくらいしなければ気が済まない有力者の平民嫌いは、そのためだけに正規軍を動かした。 なんというか税金の無駄使いを極めているようで聞いてて頭が痛い。
だからなけなしの金で齧っている味のしないパン切れはあまり美味しくなかった。 今後の方針も思いつかない状態でボーっと路地裏付近でパンを齧っていたらストリートチルドレンの子供がこんなパン切れでも食べたそうにしたから渡した。 この子供でも食べれるだけマシなんだろうか急いで齧り付く。 誰にも取られないよう頬張っていた。 喉に詰まるぞ。
「お兄ちゃん、旅人さん?」
「んー? まぁな。 訳あって傭兵も出来ないし、どこに向かうかは決めてないけど…」
一応傭兵ギルド的なのはある。
しかし信頼が金になるから、犯罪者の名が上がっている俺が傭兵業を営むのは難しいだろう。
「お兄ちゃん傭兵さんなの?」
「傭兵では無いよ。 なんか俺って帝国領では悪いことした人間らしくてね、傭兵として名を登録できないんだ。 別に登録しなくても良いけどそれだと信頼されないからね。 当然信頼されないなら金も集まらない。 ならやらないのと同じさ。 だから傭兵は断念した」
「お兄ちゃん犯罪者なの?」
「世間的にはね。 でも、俺は悪いことしてないよ」
「世間的ってなに?」
「んー? それは…そうだな。 強いて言うなら周りの大人が決めたことだよ」
「周りの大人?」
「そう、周りの大人。 都合が良いことを表に出して、都合が悪い事を隠してしまう人達の事だ」
「そうなの? なんか怖い人たちね」
「ああ……そうだな。 たしかに…すごく怖いよなそういう人たちは」
最後に「気をつけろよ」と言って俺は路地裏を出る。 子供からは「パンありがとう」と言葉を貰いながら市場に足を踏み出し、フードを深くかぶって裏道を使って街を出ることにした。
ちなみに路地裏で飯を食べていたのは兵の目を気にしてたからだ。 しかし子供にパンを取られてしまうのは想定外だったが、あまり美味しくなかったので別に良かった。
いや、不味くても食べれだけマシなんだろうか? 俺は変に反省しながらこれからを考える。 今いる"コーデリア領"は治安が悪いし、この場所は不自由で生きていくには厳しい。 犯罪者扱いされているなら尚更こんな場所を出ないと何かあってからでは遅い。 もしかしたら解散した事になってる旅団もどこか遠くの領に出ているかもしれない。
それで出会えたらどれだけ嬉しいか。
「冬が来る前に行くか。 一人で凌げる気がしない」
考えた結果…
目指す先は『ガルグ=マク修道院』になった。
理由は………なんとなくだ。
前から行ってみたかった気持ちもあるが…
フォドラの風は気まぐれな旅路を後押しする。
♢
私にとって、心の底から『そうなりたい』と初めて思えた友達は、私のせいで悲劇を招く。
平民と友達になってはいけない事は知っていたのに、その心地よさを受け止めたくて私は彼との関係に溺れる。
本当は真実を告げて彼を遠ざけなければ私の父が彼を消そうとするのに。
けれど私はそれをせずにいた。
その結果、私情を交えた父が彼の暗殺を企んでいた。 この事を知った時刻はまだ街が静かな早い朝であり、たまたま目を覚まして部屋を出ていた私はその話を扉越しから聞いてしまったのだ。 父は一人の兵に話す。 捕縛が不可能なら彼を殺しても構わない……そう言っていた。
私は知っている…
そのためだけに兵を向ける事を躊躇わない父の素性を知っている。
そして私は知る。
彼と親しい関係を築いてしまったことがバレてしまっている事を。
私は部屋着にも関わらず屋敷を抜けて彼を追いかけた。
そして…
「………ぅ…ぅぅ……ぁ…ぁ…」
「ベルナデッタ、お前には期待してたのに父は悲しいぞ。平民と仲良くする事を禁じられていたはずなのに、その平民風情のあのガキと仲良くするどころか、危機を知らせるために屋敷も抜けて、逃がそうなど……………ッ!! ベルナデッタァァァア!!!!」
戻って来た私は父の従者に捕まり、怒る父に椅子へ縛り付けられ、攻撃を受ける。 さらに彼から受け取った証を壊そうと踏みつけてそれを蹴り抜く。 壁にぶつかり部屋の隅に沈んだ。
そして飽きなく降り注ぐその怒りと痛みから逃れようとするため、私は一時的に心を壊した。 何度も壊して、治れば戻して、繰り返した。 また彼に出会いたいから、私を保とうとした。
けど、最後は耐えれない。
私は修復不可能なところまで壊れていく。
それでもこれ以上酷いことにならないよう私は自分を守るため、父の期待に応えようとした。 けれどなにもかもうまくいかなかった。 帝都の仕事で忙しくも、たまに帰って来る母は私を見て助けようとしたが、私はそれを拒んだ。 母にもあの父の憤りを向けさせたくなかったから、私は心を壊した作り笑顔でひたすら『ベルは大丈夫』だと言った。
それでも母は私の現状を理解していた。
けど、ただ私が耐えればそれで良い。
そうして良き貴族の元に嫁いで父を納得させればそれで全て終わる。
もう、あの時のように、彼のような者が現れぬよう、私は他者との接触を拒むため部屋に篭り、篭って、篭り続けて、篭った部屋の中で父の期待に応えようと失敗を繰り返す。 それでも私は何度か挫けてしまい、自殺すらも考えた。 けれど彼からもらった『証』が私を繋ぐ。 私のようにどこか壊れてしまった矢印はあらゆる方向に狂う……事は無く、ひたすら一方を指す。
まるでまだそこに彼がいるような気がした。
だから私はまだ生きた。
そして…
あれから数年が経過していた。
もう、あの時の私はどんな私だったのかも覚えていない。 いつしか自分の部屋に出て他者と接触する事に酷く怯えてしまう醜い私が生まれていた。 昔の私が、今の私を見たらどう思うだろうか? 彼も今の私を見たらどう思うだろうか? けれど私が彼の事を覚えてるのはその名前だけで、その暖かさと顔は薄れていた。
わたしは…
ベルは…
「ベルナデッタァァア!! いつまで篭っておる!! もうすぐ時間だろう!!」
「はぅぃ!? はははは、は、はい!!? ああ、べベベ、ベルナデッタは部屋から出るですかぁ?!! いい、い、いや、嫌嫌ぁですぅ!!?」
あまりにも篭りすぎた私を部屋から叩きだそうとする父。 狂乱した私は廊下を飛び出して…そのあと階段から転げ落ちる。
骨折などで怪我を負い、ガクガクと痙攣を起こす。
床から立ち上がれない醜さを晒した。
そして…これまでにない程失望する父の顔が見えた。
でも、そんな表情で私を見下ろしたが……安心した。
私は地獄から解放されたんだと知った。
私は…
ベルナデッタは…
この時、自分を壊して救われたんだと思う…
…
「ふん、ふふ、ふーん」
身だしなみを整えてない格好の私は鼻歌を歌い、裁縫などで今日も過ごす。 あれから父の接触は無い。 屋敷の中でもどうやら認識すらされてないようだ。 でも私はそれでよかった。 心置きなく私は安全で安心で信頼できる自分の部屋に引きこもった。 心の底から安心した。
「はぁ……良い引きこもり日和…」
深く堕落した引きこもり生活。
それは安息として約束された。
学校も行かず、私は部屋を出ない。
このままではダメなんだろう。
けれど私にそんなの必要としない。
いや…
必要とするための手足は出せない。
だから何も考えずこのままでいた。
そしてある日の事だ。
母の計らいにより、従者によって大きな袋に包まれた私。
ふくろの中でパニックになる私は母の声を聞いた。 どうかこの子にフォドラの青風を…そう短く願われて私は屋敷から出された。
そして向かった先は『ガルグ=マク修道院』と言われる場所であり、私はそこで学生生活を始めることになった。
そんな場所で不安まみれのわたしにできることなんてあるのだろうか?
引きこもることしか考えれない自分に、新天地で何かを成すこともありえない。
それでも落ち着きの無いフォドラの風は、私の中にあるインデッハの小紋章を淡く光らせる。
なにかを示すように…
つづく
《インデッハの小紋章》
通常攻撃が武器攻撃で連続攻撃の引き籠りは好きですか?の効果を兼ね備えたベルナデッタだけど、ラノベタイトルに出す程戦闘力はそこまで無いです。
ではまた