帝国歴1178年
ガルグ=マク修道院で仕事をしてもうすぐ2年目となり、自分の年は18才となった。 時の流れはあっという間だ。 俺を雇ってくれた大司教レアとは良き関係を築き続けている。 たまに顔を合わせるために時間を作り、そしてこちらの調子などを聞いてくれたりしてくれる。
部下を気にかける上司の鏡。
ちなみに一年前は大司教レアのことは『レア様』と呼ぶようになっていたが、気づいたら『レアさん』と名を呼んでいた。 セテっさんにはあまり良く思われなかったけど、レアさんが気に入ってくれたのでレアさん呼びが続いてる。 どこからか流れて来たシャミア姉さんもレアさん呼びになり、親しい関係を築いている。
あ、もちろんレアさん呼びはプライベートの時だけに絞り、公衆の間ではちゃんと大司教様か、レア様と呼んでいる。
ちなみにセテっさんとはセテスの事だ。 彼はまだ自分がキッホルであることと、フレンは娘でセスリーンであることを隠し通してるつもりらしい。 しかしフレン自身は開いちまった開かずの扉から出て一週間も経たないくらいでセスリーンであることを認めていた。
今でもあの寝起きを悔やんでいるらしい。
次に身長の伸びに悩んでいるツィリルの事も話そう。 彼は幼いながらもガルグ=マク修道院で頑張っている。 パルミラ人なだけあってか力仕事は得意なようで、大人が使う鉄の斧も軽々と持ち、今年はシャミア姉さんの指導により鉄の弓も扱うようになった。 実戦訓練はしていないが、いずれ彼は戦えるようになりたいと言っている。 あと血筋がパルミラ人だからすぐドラゴンを乗りこなせる様になるだろうとセテっさんのアドバイスもあり、将来ツィリルは化けるだろう。 この金の卵が楽しみになってきた。 ちなみにCQCは教えていない。
しかしそんなツィリルは一つだけ事件を起こした。
生き物を飼育している中で精神面が非常に弱い子竜が一頭いた。 ドラゴンの子供だ。 その子竜はストレスによって発狂してしまい、たどたどしい羽ばたきでガルグ=マク修道院の外に逃げ出した事件が起きた。 それをツィリルが独断で追いかけると街を抜けて、外に出た。 通りすがったシャミア姉さんの報告により、俺は追いかけた。
そしてそこで賊達に会う。
「そのドラゴンを渡してもらおうか」
「ダメだ、この子は、レア様の、大事な…」
「なら力ずくで奪い取るまでだ…テメェら!」
「っ!」
ツィリルの周りには数人の賊が囲っていたいたが、追いかけてくる俺には気づかなかったようで、とっさに投げナイフを投擲して赤毛の賊を怯ませる。 俺の存在に驚いたツィリルだったが、俺は怯えて動けない子竜の顔に上着を被せる。 そしてこの場に留まるように一言告げる。
絶対にそのドラゴンを離すなよと…
「さーて? 右腕は使い物にならなくなったな?」
「へっ、俺の右腕ひとつくらい負傷させた程度で勝ち誇るつもりか? 自分から囲われてバカなやつだ」
「なら試してみろよ…」
「ちっ……」
そして襲い掛かる賊達だが、その下っ端達は弱かった。 しかし死角に配置したアーチャーや手槍に偽装させた槍を持たせて警戒させるなど、采配や指揮は美味かった。 賊なのが惜しいくらいど。 でも残念。 下っ端にはそれに答える力は無かった。
ツィリルを守りながら投げナイフでアーチャーを潰し、三人ほど接近戦を仕掛けてきたがそれらも無力化させたあたりでシャミア姉さんの援護もあり、騎士団もやってきた。 そして俺はお頭との一騎打ち。 賊のお頭の槍さばきはどこかで手ほどきを受けたかのように思えて、それは強かった。
しかしCQCを前にしてその強さは届かない。
「くそっ…くそっぉ!! 俺にも…紋章があれば…くそっォォ!」
「無い物ねだりか? それを言うなら俺にも紋章は無いんだけど。 ただ純粋にお前が弱いだけだろうが」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ! お前も弟のように俺を嘲笑うのか!」
「勝手に人を身内に重ねんなよ、不愉快だ」
地面に投げ倒し、無力化させた。
そしてその賊は騎士団によって連れ去られ、ツィリルはこっぴどく怒られたが、子供のドラゴンを追いかけて賊から守ったことにより評価され、その日は終えた。
あとレアさんからすごく心配されたツィリルは泣きながら謝り、そして願う。 もっと強い人になりたいとその眼に強さが宿っていた。
さて、今年はこんな事件が起きたがそれ以来は平和そのものだ。
ちなみにあの事件後を話すのなら、あの賊のお頭は貴族崩れであり、フォドラの北の方にあるゴーティエ家の者だったらしい。 名前はマイクランで約1年前に抜け出したとか。 それから部下を集め、このガルグ=マク修道院にお宝があると噂を聞きつけて王国領からここまでやってきたらしい。 手始めにツィリルが守った子供のドラゴンを奪って売ろうかと考えていたが、失敗に終わった。
しかし戦いはそこら辺の賊よりも巧みだった。
まず普通の槍を手槍に偽装させて遠距離を警戒させた上に、ちゃんとした遠距離攻撃可能な弓師を死角に隠したりと、そこらへんの賊に比べて非常に美味采配だった。 まぁ部下にはそれに答える力も強さも無かったが、マイクランの奴は違った。
賊にするには惜しいな……なんて考えたある日のことだ。
「え? お前、ここの兵になったの…?」
「……気づいたら、こうなってた」
「ははは! そうだとも! この者はなかなか逸材であることがわかった! 故に! ここで働かせることになった!」
「アロイスさん、それはレアさんの意思?」
「うむ」
「じゃあ普通だな」
「なんでそうなるんだよ!! 俺はお前らをなぁ…!!」
「まぁ目的はどうであれ、事実上殺しもしなかったし、俺に倒されたくらいだし、寧ろ廃嫡されてかわいそうだった程度で済む話だったわけだ。 良かったじゃん」
「良いのかよ!?」
「そもそも前例があるし。 なぁ、元侵略者のシャミア姉さん」
「ああ、そうだな」
「な、なんなんだ、こいつら……訳が分からねぇ…」
拷問も、処刑も、覚悟していただろうマイクランだが、ガルグ=マクの兵として働くことでその罪は軽くなる事を聞いた。 マイクランもこの対応に唖然としたが、周りの部下は賊と言うには経験が浅く、手に血を染めきれてない彼らは「殺されないで済むのですか!?」と情けない命乞い。 そしてお頭であるだろうマイクランに対して多数決で勝手に話が進められた、このようなことになったらしい。
もう完全に毒気が抜かれてしまったようだ。
「しかしなぁ、マイクランはかしこいけどセイロス兵にしては弱いからなぁ? ちゃんと強くしてやらないとな」
「なっ!テメェ!!」
「ほれほれ、かかって来いや、元大将」
「こ、こいつ!」
気が荒い性格なのか、挑発に乗りやすく、すぐ相手に掴みかかるがCQCで対応して何度も打ちのめした。 何度か叩きのめしてマイクランが大人しくなった頃、アイロスやシャミア姉さんはこの場を去っていて俺と雑草塗れで倒れてるマイクランだけが残った。
「ぜぇ…ぜぇ……なんで、お前、ガキの癖に…こんなに…強いん…だ……ぜぇ…ぜぇ…やはり、紋章が…」
「だからねぇよそんなの。 前にも言ったろ? ただ純粋に親が強かったからだ」
「…」
「まぁでも、俺は平民風情だったがらさ、世間的価値からすると弱かったよ。 そう言う時は実力主義で通すしかなくてね、だから強くなった。 だから強くなって、バラバラになった旅団をまとめて、離れてしまった親と会って……また、俺は取り戻す」
「………はっ、知ったこちゃねーよ」
「だろうな、他人事だし。 だから俺も廃嫡されたお前の現状なんかどうでも良い。 でも共感はできる。 紋章で決まってしまう世間なんかクソ食らえだ」
「……ここで働いてる人間の言葉とは思えないけどな」
「そうかな? そもそも紋章持ってても、頭が悪くて、弱くて、ダメな奴なら持ってないのと同じだろ? むしろ紋章を持ってない人間が賢くて、強くて、善き人なら、何倍もマシだと思えるけどな」
「……それでも必要なんだよ、あの槍を使うにはな」
「たしかゴーティエ家だと破裂の槍だっけ? 抑止力"としては"素晴らしい代物だね。 でも悲しいかな。 俺からしたらゴーティエ家で生まれた紋章持ちの人間ってただの大きな人形だよな。 望みもしない者の側に添えられて、そして自由を無くす。 ただ抑止力のハリボテのためにそこに居座されてしまう。 そう考えるとあんたの弟さんは哀れに思える」
「……」
「けれど生まれも親も紋章も選べない。 酷い世の中だから……どうしよも無い時は諦めるしか無い。 やはり紋章ってクソやな」
マイクランはそれ以上は語らなかった。
でも、彼も彼で賊に成り落ちながらも考えていたようで、しかしそれはどうしようもなくも思えて、やはり紋章の有無に苛立ちと哀しみを背中に感じさせていた。
「まぁ、ここでしばらく働いて考えなよ。 少なからずここガルグ=マク修道院は紋章なんか意味を成さない。 自身の力量を測るだけの簡単な世界だから」
マイクランをその場に残して去る。
この後、彼がこれからどうたち振る舞うかはわからないわからない。
もしかしたらこの場から逃げ出して再び賊に成り下がるかもしれない。
その場合は討たなければならないが、団長であるアロイスが彼を逸材として引き入れた。 もしマイクランがこのガルグ=マク修道院で兵として働き、紋章に囚われない意思を身につけたのならそれは好ましいことだろう。
___そして2年後……ここで"弟"と出会う。
その弟は兄の存在に大変驚き戸惑いながら近くが、兄は乱暴に弟の頭を掴み、そして地面に投げ倒した。 弟は変わりない兄の振る舞いに苛立ちと哀しみを覚えながらも…ホッとしてしまう。
そして兄は『俺はもうゴーティエ家の人間じゃない。 そしてテメェが嫌いだ。 二度とそのツラを見せるな。 さっさとゴーティエ家で死んで行け。 このクソ野朗が』と残してそれ以来二度と会うことはなかった。
だがその姿に弟は安心を得たように思えて、一言『わかった』と告げてその場を去る。 そして兄の言う通り弟は二度と会うことはなかった。 道端ですれ違っても、関係ない赤の他人として顔すらも合わせず、違う世界で二人生きる。
そして一年後、帝国に侵略を受けたこのガルグ=マク修道院でマイクランは最後まで戦った。 その姿は荒々しくも戦い、最後まで平民を守り、子供を庇って戦死されたとする。
その時の彼は『ここまで随分とバカな事をしたもんだな…』と幼い頃の弟に似た赤毛の子供を抱きしめながら命を散らす。 その表情はどこか穏やかであったことを誰も知られないまま、そこで彼は終わる…
元貴族であった彼は最後に平民を守った。
だが弟は最後の兄の姿も、勇姿も知らない。
別の世界で生きてる二人には関係無い事だから。
でも、恐らく……
これで良かったんだろう。
フォドラの大地に1ページが刻まれた…
つづく
《マイクラン》
ステンバーイ……ステンバーイ……GO!! (パーン!)
ビューティフォー……とは、全く違うけど
ではまた